【スーパーロボット】うしゃぎを護り抜け!

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:フリー

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

●大宇宙艦隊 VS 宇宙自然農薬獣
 2074年。
 人類は宇宙自然農薬獣との熾烈な戦い続けていた。
 『自然農薬』。
 植物が様々な災害に耐える為に、自ら生成する農薬である。
 トウモロコシを例に出す。トウモロコシは虫害を受けると、自らをカビに感染させて、そのカビから高い毒性を持つ物質を生成し、虫害を防ぐのである。
 宇宙自然農薬獣とは、それと同様に『ある植物』が自らを守る為に生成した農薬なのである。その主要な攻撃対象は“地球人類”である。
 人類は自らの科学の粋を凝らし、この脅威に立ち向かっていた。
 そして、人類はその植物の偵察を行う為、旗艦エグゼリュオン以下、100隻以上から編成される偵察艦隊を銀河の中心へ送りこんだのである。

 敵の第一波を切り抜けた偵察艦隊。敵の第二波は近くに迫っていた。
「光速偵察艇部隊より入電! 突入準備完了しました!」
「敵、第二波接近! 数は‥‥確認可能領域だけで‥‥数千万!!」
 ブリッジオペレーター達がそれぞれの報告する。
「全艦砲戦用意! 敵正面に火力を集中し、偵察艇の突破口を切り開け! 砲撃開始30秒で偵察艇は突入せよ! 撃ち方はじめ!」
「撃ち方はじめ! てぇっ!」
「全弾命中を確認! ‥‥‥駄目です! 敵の数が多すぎて突破口を開くことができません!」
「いかん! 偵察艇、発進中止!」
「なんと言うことだ! 我が艦隊は戦艦、巡洋艦だけでも100隻を数えるのだぞ! その一点集中攻撃でわずかな突破口すら切り開けないとは!」
 想像以上の敵戦力に呆然とする艦長。
「敵怪光線、接近!」
 エグゼリュオンの巨大な艦隊が激しく揺れる。
「味方艦艇の20パーセントが脱落します!」
「敵、さらに接近! 格闘戦の構えです!」
「艦載機発進! 艦隊の直援にまわせっ! 各艦は前方敵集団への砲撃、雷撃を密にせよ!」
「敵の数が多すぎます! 接近を阻みきれません!」
「巡洋艦ステラスティン、轟沈! 戦艦ザクロレード大破! 空母レッドフォッグ‥‥駄目です! 損害が大きすぎて報告しきれません!」
 人類の最精鋭を集めた艦隊が、圧倒的な敵の前に無惨な姿を晒していく。
「くぅ‥‥ここまでか!」
「艦長! まだ終わっちゃいません!」
「なんだって!?」
「バーストマシンを発進させます! こいつらは、宇宙自然農薬獣と互角以上に戦う為に設計されたものです!」
 モニターに映し出される二人のバーストマシンパイロット。
「それはまだ、未完成の兵器だ!」
「バーストフラッシュ砲など飾りに過ぎません! 偉い人はにはそれもわからんのですか? 今動かさずに、いつ動かすのですか!?」
 バーストマシンパイロットが熱心に訴える。
「頼む‥‥‥」
 艦長は小さく呟いた。
「バーストマシン、発進準備! 格納庫隔壁開放!」
「エンジン点火! チェーンモーター順調に加速中! 出力、設計時概算の60パーセント、70、80‥‥順調に上昇中!」
 一度、出撃が決まれば、各所の人間はバーストマシンの発進準備に全力を傾けるばかりである。
「バーストマシン零号、最終安全装置解除! 発進よろし!」
「バーストマシン壱号、カタパルト接続よし! エンジン出力、クルーズからミリタリー! 発進どうぞ!!」
『いきま〜す!!』
 二機のバーストマシンが発進する。
「ロオオォォォリング! グラビティイイィィィッ!!」
 バーストマシン零号の繰り出した攻撃は、無重力の宇宙に二つの重力の輪を生み出す。その輪に巻き込まれた宇宙自然農薬獣は輪の中で落下運動に巻き込まれる。ぐるぐる、ぐるぐると同じ場所をローリングしながら落下し続ける。
「叩きつけられろ!」
 零号はその二つの重力の輪を繋ぎ合わせる。落下の終着点に向かって、二つの輪の内部を落ち続けるモノ達が差し向かいで激突するように。
「バーストマシン零号! 確認範囲内で敵数十万体を撃破!!」
「俺も負けてらんねえなっ! シュラァァイクッ! イイイィィッ‥‥エェックス!!!」
 携帯武器であるブレードの切れ味を最大限に引き出すシュライクEXが炸裂すると、進路上に存在した宇宙自然農薬獣が細切れになっていた。
「バーストマシン壱号、敵数十万体撃破っ!!」
「神か、悪魔か‥‥? バーストマシン‥‥」
 その圧倒的な破壊力に艦長は呆然とするのであった。
「はっ! 光速偵察艇、突入せよ!! バーストマシンが道を切り開いてくれる!」
「光速偵察艇発進! 敵本体、“宇宙マンドラゴラ”に関するデータ収集を遂行せよ!」


●秘密兵器完成! いざ、最後の一大決戦!!
『艦長、我々の光速偵察艇の回収はもはや不可能です。転送したデータを地球に‥‥なんとしても持ち帰って下さい。我々の生きた証を! 人類の未来へ繋がる希望を地球へ!』
『すまぬ‥‥諸君らの死‥‥決して無駄にはしないぞ』
 エグゼリュオン艦長は涙を飲み、全艦隊にワープ準備の命令を下す。
「‥‥とく‥‥ていとく‥‥提督!」
 副長の声で艦長は目を覚ました。いや、副長は参謀に、艦長は今や提督である。
「‥‥ん? すまん、夢を見ていたようだ‥‥」
 2084年。
 偵察艦隊による威力偵察によって収集されたデータにより、宇宙マンドラゴラ駆除の計画はついに最終局面を迎えていた。宇宙マンドラゴラ発見から60年余り。宇宙マンドラゴラの産声によって銀河系を破壊される推定日時のわずかに1ヶ月前である。
「いよいよだな。新造超大型戦艦エルサディウムの艤装も終了、ウルトラ・エグゼリュオン級も主要構成艦として次々に就役。バーストマシンは16番までが建造され、その量産型であるスマッシュマシンは大量生産に成功している」
「そして、なにより。この月の‥‥」
「うむ」
 二人はエレベーターに乗る。
「この斜めに傾いたエレベータとも、とうとうお別れだな」
 感慨深く言っている間にブリッジに到着する。
「全艦放送に繋げ。‥‥いいか? ん、あ〜。諸君! ながらく待たせた! ついに最後の一大決戦だ。これより、『うしゃぎ』を発進させる!」

 同時刻、地球。
「ママ〜、お月様からウサギさんがでてきたよ〜」
 幼子が月を見上げて言った。
「そうね、お月様にはウサギさ‥‥な、な、なによ、あれは!?」
 幼子へ向けられた母親の笑顔は驚愕に歪んだ。

 月面、豊かの海。
 月面にヒビが入り、砕け押しのけられていく。そこから出てきたものは‥‥、
 巨大なうしゃぎの耳である。

 月面、雨の海。
 月面が割れ、うしゃぎの丸い尻尾がぴょこんと飛び出す。

 宇宙自然農薬獣の目を逃れる為、月面のうさぎに偽装して建造された『うしゃぎ』、ことバーストマシン弐号ブラックホールストマックがついに宇宙空間に飛び出した。
 宇宙マンドラゴラを食べ尽くす為に生み出された人工種、対宇宙マンドラゴラの最終秘密兵器であった。

「うしゃぎ全機能、正常に稼動中」
「よぉし! これより銀河中心、宇宙マンドラゴラの駆除に向かう! 亜空間掘削航法用意! 掘削開始!!」
 月から飛び立ったうしゃぎが、もそもそと宇宙空間に穴を掘り始める。
 エルサディウム以下、うしゃぎ護衛艦隊も艦首からドリルをせり出し、掘削を開始する。亜空間へと通じる穴を掘っているのである。

「地球の興廃、この一戦にあり! 各員の奮闘奮起に期待する!」
 うしゃぎにZ旗が掲げられた。

●今回の参加者

 ea0119 ユキネ・アムスティル(23歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5794 レディス・フォレストロード(25歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1263 比良坂 初音(28歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●戦場へ
 ウルトラ・エグゼリュオン級のネームシップ、すなわちウルトラ・エグゼリュオンはシリウス第3惑星付近での戦闘において宇宙自然農薬獣の猛攻を受けて轟沈した。
 これとほぼ同時期に就航したウルトラ・エグゼリュオン級4137番艦は、「轟沈」という不吉を「轟鎮」と読み替えた命名を行われる。
 アクテ・シュラウヴェル(ea4137)はこの轟鎮をベースにバーストマシン拾四号を設計した。近接支援戦艦にしてバーストマシン「轟鎮」の誕生である。アクテは自ら轟鎮に艦長として乗り込み、うしゃぎ護衛艦隊の先鋒を務めることになる。
「まだ、轟鎮は完成形ではありません。私の技術者魂にかけて最後のギリギリまで轟鎮を、より高みへ!」
 亜空間を掘削して進む最中も轟鎮の調整に全力を傾けていた。
 アクテの轟鎮に限らず、うしゃぎ護衛艦隊に試作兵器が多数参戦している。これは人類の総力を傾けた戦いである為、少しでも使えるものはすべて注ぎ込まんとする意思の為であった。
 レディス・フォレストロード(ea5794)のスマッシュマシン・不定形ナノマシン試験評価型もその一つである。バランスのよい性能を発揮したバーストマシン四号をベースに再設計した実用量産機であるスマッシュマシン。その安定性から新型バーストマシン用の新機能のテストベッドに用いられることが多い。
「出力が下がりますが仕方ありません。フィールド発生機能へのエネルギー供給10%カットして下さい。形状変化はもう少しOSで補正できませんか?」
 本来、犬猫同様の愛玩動物に過ぎないシフールの中にも、突然変異的に非常に優秀な人材が生まれる。レディスもそのような一人であり、人権を与えられ、兵器研究者として部下を用いる立場でさえあった。

 さて、ギリギリまで出来ることをやり尽くそうという技術者達に比べ、純粋な戦闘要員は最終決戦に向けてのコンディション作りに務めていた。もっとも、その方法は人それぞれである。
「しかし、本当に月にはうさぎがいたのですね」
 エルサディウムのブリッジでのほほんとしているのは大宗院鳴(ea1569)である。月見団子を盛った器がいくつか転がっているのは、すべての彼女が食べてしまったものだ。
「ユキネ艦長、報告書が纏まったわ」
「うに、ご苦労様なの」
 オペレーターの比良坂初音(eb1263)は、エルサディウム艦長のユキネ・アムスティル(ea0119)に報告書を手渡すと、
「じゃ、作戦開始までエマに任せるから、私は休憩させてもらうわ」
 そう言って、休憩モードに入ってしまう。
「お姉様、それは酷いです!」
 初音の言葉に同僚のオペレーターが抗議の声をあげる。
「うふふ、帰ったら可愛がってあげるから。ね、お願いよ」
 それで同僚は頬を紅く染めて黙ってしまう。
「それで鳴さんは何を食べているのかしら?」
「お月見団子ですよ。お月様のうさぎと言えば、やっぱりお月見です」
 鳴に目をつけた初音が声をかける。
「へえ、美味しそうね、一つちょうだい」
「あの‥‥私の指は美味しいのでしょうか?」
 鳴が摘んでいた団子を指ごと口に含む初音。きょとんとしてしまう鳴。
「あ〜〜、ゴホン!」
 ユキネ艦長以下、ブリッジクルーが全員女性という環境に、間が持たないのは提督と参謀である。
「みんな、お馬鹿さんなの」
 戦場を目前にした軍艦の艦橋とは思えない様子に、ユキネはぼそりと呟くのであった。


●先遣部隊
「全砲門、魚雷発射菅開いて下さい! 亜空間離脱と同時に全門発射です。照準はいりません、宇宙空間に盛大な花火を咲かせましょう」
 宇宙自然農薬獣がひしめく、マンドラゴラ至近の宙域、何もない虚空がひび割れて轟鎮が飛び出してくる。
「撃ち方はじめ!」
 単艦で飛び出した轟鎮から無数の閃光と魚雷が撃ち出される。敵のど真ん中である。照準をつけずともすべてが敵が命中する。
「目の前に巨大な壁が‥‥ぶつかる!」
 バーストマシン拾参号「ホウオウ」のパイロット・鷹見仁(ea0204)は目の前に見えるマンドラゴラの巨体を見て、そう叫んだ。
「落ち着いて下さい。真空の宇宙では遠近感が認識できず、距離を見誤りやすいんです。兵学校で習ったでしょう?」
 バーストマシン「獅皇吼烈」のパイロット、マミ・キスリング(ea7468)が無線で仁にアドバイスする。
「とはいえ、それだけの距離があって前方視界のすべてがマンドラゴラで埋め尽くされているのですから、とんでもない話ですね〜」
 無人機であるバーストマシン拾壱号「ラーゼンジーク」の開発主任にして、戦闘オペレーターのユイス・アーヴァイン(ea3179)が圧倒的に巨大なマンドラゴラに呆れたような声を出す。
「‥‥俺は戦うことは出来ても、軍人じゃないからな。だが、ぶつからないなら、やらせてもらおう! いくぞ、とりしゃん!」
 仁は古流剣術の免許皆伝者としての実力を買われて、ホウオウのパイロットに選ばれた民間人である。とりしゃんの愛称を持つ愛機を発進させる。
「うしゃぎがワープアウトしてくるまで3分。十分なワープアウトスペースを確保します! 磨魅・キスリング、獅皇吼烈、行きます!!」
「データリンク開始、機体出力調整、推進システム及び、索敵システム異常無し、バランサー良好、兵装プロテクト解除、進路敵だらけ‥‥ですが、ラーゼ、あなたにとって障害になるものではありません‥‥ラーゼンジーク、コンバットオープン!」
 轟鎮から発進した3機のバーストマシンが敵の群れの中に吶喊する。
「バーストブレエエエドッ!!!
 とりしゃんの推進エネルギーでもある宇宙自然農薬獣中和波を発振する。広がった光の翼に触れた敵は存在を抹消されていく。
「その程度の攻撃じゃ‥‥オーラシールド!!」
 掌に生じさせた力場で敵の光学兵器をすべて的確に受け止めるマミ。
「ラーゼ、ヘブンリィライトニング、スラッシュ!」
 轟鎮に乗っているユイスが指令コマンドを入力する。広大な宇宙空間では遠隔操作にはラグが発生するが、ラーゼはAIによる自律行動が可能であり、送られたコマンドに則り最適の行動を自己判断する。スラッシュされた超必殺技の使用もタイムラグを考慮して最適化されたタイミングで使用される。
『ヘブンリィライトニング、命令許可確認!』
 宇宙空間に巨大な紫電が走り、多くの敵を電光の彼方に消し飛ばした。


●第二陣
「うしゃぎ護衛艦隊の第二陣、ワープアウトします。バーストマシンは宙域確保に努めて下さい」
 轟鎮のアクテが指示を出す。程なくしてバーストマシン達が確保した宙域に、宇宙を突き破るドリルが無数に出現する。出てきたのは千数百にも及ぶ大艦隊である。艦砲がレーザーを吐き出し、空間魚雷が錯綜する。そして、艦船の数十倍の数のスマッシュマシンが出撃していく。
「九竜鋼斗、捌番機・孤狼出るぞ!」
 九竜鋼斗(ea2127)が第二陣の艦艇の一隻から発進する。鎧武者を彷彿させる機体である。
「レディス、出ます!」
 レディスのスマッシュマシンが鋼斗の機体に随伴する。ノーマルのスマッシュマシンに背部ユニットとしてナノマシン生成装置が装備された機体である。機体すべてを不定形ナノマシンとするプランもあったが、それは既にバーストマシンの領域である。
「細かいのが出てきていますね。ホーリーフィールド展開! 九竜少尉はフィールドに突き破った戦艦級をお願いします!」
 力場を発生させて敵の動きを封じ込めるレディス。だが、ベースがスマッシュマシンである為、十分な出力が得られない。
「フィールドで制限された分敵の動きも見切りやすい‥‥瞬刃抜刀‥‥斬!!」(
 狐狼がレディスのフィールドを突破した戦艦のように大きな敵とすれ違う。
 肉眼はもちろん、高性能カメラを使っても、孤狼はただ戦艦級とすれ違っただけのように見えたことだろう。だが、すれ違った直後に敵は真っ二つになっている。驚異的な抜刀速度であった。
 狐狼とすれ違った敵の悉くが動揺の運命を辿るのである。


●うしゃぎ、お食事準備
 先陣、第二陣の部隊が懸命に戦い確保した宙域で、不意に宇宙空間が盛り上がり、削り取られる。そこからもそもそと出てきたのは可愛らしいうしゃぎである。
 さらにその周辺に一万を数える艦艇が出現する。
「ユーチャ‥‥エルサディウム、定刻通りにワープアウトなの」
 言い間違えそうになったのはユキネが自分の搭乗艦に名付けたかった儀宝珠水仙の属名である。
「よぉし! 全艦、うしゃぎを護りつつマンドラゴラへ向う! ユキネ艦長、エルサディウムの操艦は任せた」
 艦隊全体の指揮を行う提督と、エルサディウム個艦の操艦を行うユキネ艦長。
「うに、了解なの。エルサディウム、砲撃雷撃を繰り返しつつ、うしゃぎ前方300に移動なの」
 ユキネの命令により進路を変えるエルサディウム。
「艦長、観測データは出たわ。敵は観測範囲内だけで400億以上。観測範囲外の推定データは30兆以上。もう笑っちゃうしかないわね、うふふふ」
 報告した初音に不思議と悲壮感はなかった。
「やるしかないんだから、今さらどうでもいいことなのよ。ね、鳴ちゃん」
 初音はバーストマシンのコクピットにいる鳴に向って声をかける。
「よくわかりませんが、可愛いうしゃぎさんを守れば宜しいのですね。建御雷之男神、発進しますね」
「生きて帰ったら仲良くしましょ」
「はい、一緒にお月見したお友達ですからね」
 そうして、おっとりと出撃したのは最新型バーストマシンの拾六号「建御雷之男神」である。
「前方に敵集団ですね。ライトニングサンダアアァァボオオォォルトオオォォ!!」
 一筋の閃光が宇宙を貫き、敵を薙ぎ払う。
「あっ! もううしゃぎにあんなに接近している敵が!」
 鳴は光速戦闘モードに切り替えるとうしゃぎに接近する一団を追いかける。
「うしゃぎ0方向より、接近する敵集団だわ!」
「一番近いバーストマシンは?」
 敵を発見した初音とユキネのやり取り。
「俺にやらせてもらおう」
 通信に割り込んだのはアルジャスラード・フォーディガール(ea9248)であった。
「SIN12のハッチ? 正規データにないハッチが存在、開かれてるわ!」
 初音が声をあげる。だが、全長50kmのエルサディウムである。すべてを把握している人間などいはしない。それ故に作られた秘密区画も存在するのである。
「バーストマシン『Darkness Soul』、発進。機関出力マックス、ダークネスクルーズ!」
 SIN12ハッチから出てきたのは、未登録のバーストマシンである。
「むきゅ、番号のないバーストマシンなんて‥‥」
 驚愕を隠せないユキネ。
「登録を抹消されたからのぉ」
 提督は何かを知っているようであったが、それを問うている時間はなかった。
「うおおっ! ヒュドラブレイク!!」
 神憑ったパンチとキックも猛連打によって敵集団を片端が粉砕していく。


●死闘
 沈みゆく戦艦、蹴散らされるスマッシュマシン、砕け散る人類軍。
 地球側は1万を越えるという常識を超えた大戦力でありながら、それでも尚、気の遠くなるほど宇宙自然農薬獣の数は多かった。
 その絶望に必死に立ち向かう人々がいる。
「斬艦刀、縦一文字斬りぃぃっ!」
 大型戦艦級の敵を真っ二つにしたところで、獅皇吼烈のコクピットの警告サインが黄色から赤に変わった。
「くっ、エネルギーを使いすぎましたか!? エルサディウム、補給許可を願います」
「獅皇吼烈の戦線離脱により全体戦力が3%減少したわ。速やかな補給作業お願いよ」
 オペレーターである初音が交錯する情報を次々に捌いていく。
「ラーゼ! ファイヤーボム、スラッシュ!」
 ユイスのコマンド入力によって、ラーゼの掌の中に小さな恒星が誕生する。太陽と同等のエネルギーを凝縮したエネルギー球が敵の密集陣形に叩き込まれる。すべてを焼き払う爆炎が宇宙を彩る。
「このミミクリーのモード、バーストマシンにすれば安定するのでしょうか?」
 不定形ナノマシンの集合体でスマッシュマシンを包み込み、黒豹の姿に生成し、爪と牙で戦うレディス。
「‥‥ん、‥‥やはり眼鏡よりコンタクトがいいんで‥‥きゃああっ!!」
 戦闘中にずり落ちた眼鏡を気にかけた一瞬の隙に敵がレディスのスマッシュマシンに敵が群がった。
「くっ! 待ってろ、レディス!」
 鋼斗の狐狼がレディスの元へ馳せ参じる。
「駄目です! 今、攻撃したらレディスさんまで巻き込まれて‥‥」
 鳴が心配するが、狐狼はレディスの脇をすり抜けた。群がっていた敵が瞬時にバラバラになり体液を飛び散らせる。
「レディスさん!」
「‥‥だ‥‥じょうぶ‥‥大丈夫です。九竜少尉、あの状態で正確に敵だけを切り刻むなんて‥‥」
 レディス機は敵の体液を振り払うと、無事な姿を見せるのであった。
「私も負けていられませんね。リミッター解除!」
 鳴の建御雷之男神、その機体を更生する定型ナノマシンの一つ一つが放電を開始する。その名の相応しい雷の神の如き様相を見せる。定型ナノマシンはレディスの研究成果の一つであった。

「敵の超大型生物だわ! うそ、エルサディウムの倍近くあるわ‥‥」
「うに‥‥」
「なんということだ! あの巨体であのスピードだというのか?」
 初音の報告にユキネと提督は言葉を失う。
「阻止する!」
 アルジャスラードが機体を超巨大生物に向けるが、大型戦艦級の敵に進路を塞がれてしまう。
「邪魔をするな、エンドオブダークネス!!」
 渾身の力が込められた猛ラッシュが大型戦艦級の敵をたちまちのうちにミンチに変えてしまった。
「レディス、いくぞ!」
「はい、ナノマシン使って下さい! 管制はこちらで!」
 レディスが不定形ナノマシンを大剣の姿に変えて、鋼斗の狐狼に受け渡す。
「‥‥奥義っ、一閃!」
 鋼斗の最速の剣が閃く。
「バカなっ! 相対速度が速すぎて外しただと?」
 鋼斗の剣は宙を切ったのである
「駄目なの、砲撃も当たらないの!」
「止められないわ! このままではうしゃぎが‥‥」
 誰もがうしゃぎの危機に愕然とした時、超大型生物の前に立ち塞がるものがあった。
「とりしゃん‥‥お前の命、俺が預かった!」
 仁のホウオウが敵の進路上で静止する。
「自殺するつもりですか!?」
 マミが悲鳴をあげる。
 超大型生物のその最も先端の衝角のような部分がホウオウに迫る。
 その攻撃を仁は絶妙の操縦スキルと格闘センスでもっともダメージの少ない部位で受け止めた。串刺しになるホウオウ。相対速度はゼロである。
「捕まえたぁっっ!!」
 その長さ、1光秒にも及ぶというバーストブレードが宇宙を切り裂いた。


 戦いは続く。
 生き残るのはマンドラゴラか、人類か?