●リプレイ本文
●料理番組と探偵
『‥‥先ほど画面中に『エリプリル』と表示されましたが、正確には『エイプリル』でした。訂正し謝罪いたします。さて、次のコーナーは‥‥』
薄汚れた‥‥もとい、それらしい雰囲気を湛えている事務所に朝の光が差し込む中、テレビが朝のニュース番組を流し続けています。
『しふしふ〜☆ 『しふしふなコックさん』桂花の、180秒クッキング〜♪』
『しふしふ〜〜☆ 今日のげすとは『ふぇざぁあんじぇるす』のミーちゃんなのら〜♪』
テレビ場面に映るのは燕桂花(ea3501)とミーファ・リリム(ea1860)です。
『今日の料理はなんなのら〜? ミーちゃん、ケイちゃんのお料理は大好きなのら~☆』
『ありがとう☆ 今日作るのはね、‥‥よ☆ 作り方はばっちり教えるからミーちゃんも自分で作れるように覚えていってね☆』
『は〜い、なのら〜☆』
元気のいい受け答えがテレビから聞こえてくるところに、
「ふぅ。‥‥ん、シフールの料理番組ですか?」
シャワーを浴びて出てきたキース・レッド(ea3475)は、筋骨逞しい上半身を晒したまま、まだ濡れている髪の毛をタオルで拭いています。ブランドシャッターから漏れてくる朝の光に艶姿が映えます。
『さっと茹でたらすぐに引き上げるのよ』
テレビの中では食材の入った網をぶら下げて桂花がホバリングしている。料理は人間の分量で作っているので、幾分大仰な様子になってしまうのですが、
「シフールサイズで作っても、誰にも食べて貰えないしね☆」
というのが、彼女の信念なのです。
そんな桂花のテレビ番組を見ながら身支度を整えていたキースは、すっかりキザでニヒルな私立探偵スタイル、ビシっと決まっています。
「さて、今日も一日、頑張りましょう」
サングラスをかけたキースは事務所のドアを開けて出て行きました。
キースのデスクの上には『中間報告:現代社会におけるシフールの行動に対する社会的反応』という書類が積まれていました。
●シフールアイドルの休日
夜の番組までは予定のない『フェザーアンジェルス』は、久しぶりのオフを満喫するべく、街へと繰り出していました。
「ミーファお姉さまとニューラお姉さまは最初から一緒でなくてです〜」
残念そうに言うのはジーパンに無地の野球帽をかぶったお忍び芸能人ルックのベェリー・ルルー(ea3610)です。
朝の四時から美味しいものを求めて繰り出してきたメンバーは、築地の魚河岸に水揚げされた新鮮な旬の魚介に舌鼓をうったところでした。
が、時間が時間なので一緒に来られない人もいたのです。
「ミーちゃんはケイちゃんのお手伝いだし、ニューラちゃんは別にお仕事があるって言ってたからね。でも、昼間には合流できるよ〜♪」
なぜか巫女服を着たリュミエール・ヴィラ(ea3115)が答えます。
「これからどうしよか?」
メンバーに意見を求めた自称・目立たないリーダーのイフェリア・アイランズ(ea2890)は普段着のままです。自分の正体なんてばれない、と高をくくっているのですが、いかんせん一緒にいるメンバーが目立ち過ぎます。
「ショッピングなんていいよね」
同じく普段着のアオイ・ミコ(ea1462)が応じます。
「お買い物なら銀座辺りまで飛んでいきましょうかぁ?」
アイリス・フリーワークス(ea0908)が提案します。築地から銀座までシフールなら直線距離1km程なのですぐに到着です。
「ほな、そうしよか」
と、その時のことでした。
「あ〜、シフールだぁ!」
けたたましい声の主は地元の男子小学生の一団でした。
「覗け覗け〜!」
相手が今を時めくシフールアイドルと知ってか知らずか、ふよふよと浮いている彼女達を下から覗き上げようとします。
狙われているのは主にスカートのイフェリアや巫女服で袴のリュミエール達です。
「こら〜、じゃりどもなにするんや〜!」
イフェリアは抗議しますが、ある人物曰く「スカートの女の子が空を飛べるなら下から覗きあげるのが男の浪漫」なのだそうです。大人には分別がありますが、子どもは浪漫に正直なのでした。
「リュミはスパッツはいてるから見せないよ〜」
防衛はバッチシのリュミエールですが、一方で巫女服は着崩して胸を強調する着こなしをしているのは、「見せる」ことと「見られる」ことに意識の違いがあるからなのでしょう。
「ほらほらほら、これあげるから、お姉さんたちを困らせないでね〜☆」
妙ににこやかに笑うアオイが糖衣に包んだ漢方を男の子達に配って気を引けると、その間に皆はその場を飛び去りました。
「ほら、ベェリーちゃん!」
「はい、ヴィラお姉様!」
リュミエールがベェリーの手を引いたのは二人から以前から特に仲良しだったからです。
しばらくして、甘い糖衣の下から出てきた謎の漢方薬に男の子達が悶絶したのは、女の子を苛めた天誅なのでした。
●シフールにだって人権はあるのです
その頃、ニューラ・ナハトファルター(ea0459)は、選挙の投票を促がす政府広報のお仕事中でありませした。
成長のスピードからシフールの参政権は四十歳から、お酒もタバコも四十歳からです。四十歳のニューラも選挙権を持っています。フェザーアンジェルス最年長のニューラは
「ひっそりこっそり社会派アイドル〜♪」
なのでした。
広報のお仕事で共演するのはおっきなジャイアント俳優です。
「おっきな僕も」
「ちっちゃな私も」
「その一票が社会の礎です」
という広報が出来上がりました。
「おつかれさまー。じゃあ、これから夜までオフだからな。みんなと合流すんのか?」
撮影の終わったニューラを労うのはマネージャーの雷鱗麒(ea6115)です。ばっちしスーツを着込み、伊達メガネで知性派を装っていますが、傍目にはどうにも体育会系なのは内緒です。
「はい、お昼はみんなで美味しいモノ食べに行くのです♪」
ニューラが答えます。
「集合場所は決まってないけど、朝は築地のほうへ行くと言っていたのです」
「じゃあ、ポケベルに連絡いれるな。場所がわかんねえと困るだろ」
鱗麒は背中に担いでいた携帯電話を取り出しました。世界最小で9cmほどの大きさですが、シフールにとっては人間に換算すると30cmほどの大きさになります。
と、その時、携帯が鳴り出しました。
「はい、もしもし・・‥おぅ、イフェリアか? なにぃ、アイリスが迷子になった!? なんで目を離すかな?」
『いや、ほんますまん。地元のお子さま達に絡まれてしもたんや』
『お子さん達は私の漢方薬でお引取り願ったけどねっ』
イフェリアの話す横からアオイが割り込みました。きっとあちら側では公衆電話の前に群れているシフールアイドル達がいるのでしょう。
「アオイさん、また怪しい薬を使って! きょーいくてきしどーなのですよ!」
こちら側でも横から聞いていたニューラが会話に割り込みました。
「会話に割り込むなっての。とにかく、わかった。アイリスは俺が探すから、みんなは日が暮れるまでにはスタジオに来てくれよな。ミーファのポケベルにも連絡入れるから、集合場所決めてくれ」
ポケベルは携帯電話に比べ、より小型化に成功し、伝言サービスとの組み合わせでシフール用の携帯連絡手段として普及に成功しました。それでも人間観算でティッシュ箱くらいのサイズがありますし、携帯電話よりは不便なのですけれど。
『ほな、頼むわ。うちらは銀座におるさかい、リュミを目印に来るよう伝えてや』
「リュミは目印じゃないだろ!」
イフェリアの言葉に、鱗麒が即座に切り返しました。
●それぞれの休日
目印になりました。
銀座でふよふよ飛んでいる巫女服のリュミエールを目印にミーファとニューラも合流してきました。
「しふしふ〜☆」
「しふしふ〜♪」
あらためてシフールな挨拶を交わします。
「ヴィラお姉さま、いっぱい買い物しましょうね〜♪」
芸能人が集まって銀座に繰り出せば、さぞかしセレブなお買い物に興じるのかと思いきや‥‥?
「杏仁豆腐は別腹なのです。あとプリンも別腹ー♪ シュークリームもー♪ あと(以下略)」
「ウェイトレスさ〜〜ん、これと、これと、これ、人間サイズでお願いするのら〜〜〜」
「喰える限り腹に詰め込んでまうで〜」
「おじさん、おいしいの頂戴♪」
「このケーキ、キラキラしてて綺麗ですね〜」
食べることに夢中なのでありました。
「‥‥あの、こちらもSサイズでなくてよろしいのでしょうか?」
その食べっぷりに、見ているほうが心配になってくるのか、ボーイさんはおずおずと聞きます。Sサイズはsmallサイズの略ではなく、Shefoolサイズの略だったりすのですけれど。
「食べすぎても大丈夫! 私の薬があれば無問題だよ!」
「それはちっがーう!」
アオイのお薬アピールにツッコミを入れるニューラ。
「Shefoolサイズは食器が小さいのはわかるんらけろ、なんれ量まで少ないのらかね〜〜」
ミーファはそんな疑問を浮かべますが、ボーイさんは返答に困ってしまうのでした。
その頃、しふしふなコックさん桂花は、
「ミーちゃん、美味しそうに食べてくれて、あたいも嬉しくなっちゃうな〜☆」
朝の料理番組の収録を思い返して、嬉しそうに頬を綻ばせていました。
「そうだ☆ 夜に収録があるって言ってたから、あたいの料理を差し入れしてあげよっと☆」
思い立った桂花はさっそくお料理に取り掛かります。
華麗に宙を舞い、包丁を振るい、鍋を振るい、夕方になる頃には部屋中に美味しそうな匂いが立ちこめていました。
車輪のついた岡持ちをコロコロと引いてマンションを出発したのでありました。
その頃、マネージャーの鱗麒は築地を基点にして、迷子のアイリスを探していました。
「目的地の銀座だってのは、アイリスの提案だって言ってたな。なら、銀座方面にいる可能性は低い!」
鱗麒がそう断言するほどにアイリスの迷子癖は強力なのであります。
「むっ!? アイリスが興味を持ちそうな店発見!!」
ひゅんと飛んでいく鱗麒でしたが‥‥
「あがっ!? ‥‥くうぅ‥‥今時、赤外線式じゃない自動ドアかよ?」
鱗麒は鼻をぶつけて悶絶します。
「この‥‥‥‥ほわっちゃぁぁぁっ!!」
気合一閃。空中からの急降下で勢いをつけて体重を感知させて、やっとドアは開くのでした。
「アイリス〜‥‥っ! どこだ〜!」
で、当のアイリスはと言えば、海の上にいたのでした。
「ふわぁ‥‥風が気持ちいいです〜」
レインボーブリッジの上で潮風を身に受けながら、日向ぼっこに興じておりました。
「でも、銀座に行くはずだったのにおかしいですね〜」
自分の驚異的な方向音痴に首を捻るアイリス。
「とりあえず、おやつ食べてから、また銀座を探しましょう〜」
小さな鞄からおやつを取り出した時のことです。
「わわ、カモメさんです!?」
ヒュン、とカモメがアイリスを掠めるように飛んで行きました。カモメは意外に凶暴な生き物なのです。きっとアイリスのおやつを狙ってのことなのでしょう。
「ひゃああぁぁ!?」
アイリスは必死になって逃げ出すのでした。
迫力たっぷりのアメリカンバイクを走らせてきたキースがやってきたのはお台場でした。観察、あるいは取材対象のシフールを探していました。
「ん? なにかみんなが何かに注目していますね」
たまたま足を止めたレジャースポットで、妙に注目されている場所があることに気づきました。
「いっぱいいっぱい飛んだら、疲れちゃいました〜」
そこにいたのは、やっとこさカモメを振り切ってきたアイリスなのでした。16インチ砲の先端で日向ぼっこをしているシフール、というアンバランスな微笑ましさが人目を引いているのでありました。
「そこの小さなレディ。それは展示物だから、上に乗っていてはいけないよ」
キースはアイリスに声をかけました。
「あっ、ごめんなさいです〜。‥‥お兄さんは?」
パタパタと下りてきたアイリスはキースの視線の高さにホバリングします。
「僕はキース、さすらいの私立探偵さ」
サングラスを外しながらそう言うと、
「シフールを取材しているんだ。よかったら、協力して欲しいな、小さなレディ」
と微笑むのでした。
「はい、もしもし! ‥‥なんだ、イフェリアか。‥‥いや、すまね。‥‥うん、局へ向かう電車に乗ったんだな? そっちは問題ないな? イフェリアとニューラでよく引率してくれよ。‥‥アイリスはどこ行っちまったんだか‥‥」
携帯電話でぼやいている鱗麒は、色々な打ち合わせの為に先にテレビ局に来なくてはなりませんでした。アイリスの捜索は事務所の他の人達が引き継いでくれました。
「馬鹿野郎! いつまでも新人気分でいるんじゃねーぞ!」
と、鱗麒自身は事務所の社長に怒られてしまったのですけれど。
いつアイリスが来るのか気が気でない鱗麒はテレビ局の前をウロウロと飛んでいるのでした。
その時、爆音が響き渡りました。
「なんだ、うるさい‥‥ってアイリスーっ!?」
鱗麒は驚きました。爆音の元であるアメリカンバイクのハンドルにアイリスがしがみついていたからです。
「送ってもらってありがとうございました〜」
「いやいや、取材に協力してくれたささやかなお礼さ、アイリス君」
フワリとバイクから飛び上がったアイリスは空中でペコリとお辞儀をしました。
「‥‥あっ、今日のお話で、ちっちゃいと大変です〜って言いましたけど‥‥」
バイクに乗って去ろうとするキースをアイリスが呼び止めました。
「ん? なんですか?」
「でも、シフールに生まれてよかったですよ〜」
満面の笑みを浮かべるアイリス。
「君のその笑顔を見てれば、言われなくてもそれはわかりますよ」
そして、キースのバイクは走り去っていくのでした。
●On Stage♪
「みんな〜〜〜しふしふ〜〜〜☆」
『しふしふ〜〜〜☆』
ベェリーの元気な挨拶に、大勢のファンの潮のような返事が返ってきます。
「今日は僕達の歌を聞きにこんなに集まってくれてありがとうです〜〜〜☆ 一生懸命歌いますから楽しんでくださいです〜〜〜☆」
メンバーが前奏を開始する。
「今日の一曲目は〜☆ 「小さく元気な恋人たち」です〜〜☆」
ちっちゃな体は半人分♪ おっきな元気は四人分♪
元気印よ♪ しふしふしふ〜〜る♪
ちっちゃな体じゃ♪ おさめきれない♪
恋する気持ち♪ 溢れ出ちゃう♪
内緒の恋は得意じゃないの♪
そうよ 恋はいつでも一直線(ストレート)♪
背中の羽根で飛んでいくのよ♪
ちっちゃな体は半人分♪ おっきな元気は四人分♪
元気印よ♪ しふしふしふ〜〜る♪
おバカなカ・ノ・ジョ♪ なんて呼ばないで〜♪