Combat Air Masters

■ショートシナリオ


担当:恋思川幹

対応レベル:フリー

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月14日

●オープニング

――天空は誇り高き人間達の領域
神も悪魔も『人の翼』の高さに届かず、『人の翼』の速さに追いつけないのだ――


「『僭称者』の奴らが現れた時、俺達ははるかな高みから奴らを見下ろしてやっていたのさ」
 熟練パイロットにして飛行隊長である畠中2佐はそう言ってにやりと笑った。
 今から3年前の太平洋上。航空自衛隊のレーダーが探知した異常に対して、領空侵犯措置の為に飛び立ったF‐1支援戦闘機が当該空域に到達した。
 既に性能が陳腐化した旧式のF‐1はアフターバーナーを炊いて上昇して高度を確保、降下によって速度を稼ぐという。
『こちらホーク、目標を確認できない。‥‥あっ、いや、はるか下方に謎の発光体を確認。低いな、ここからよく見下ろせる』
 だから、その時、わずか高度数百mの中空から地上に『降臨』した『神』はF−1を駆る畠中2佐に『見下ろされていた』のである。その出現からして、その『神』は既に仰ぎ見られる存在ではなかったのだ。
 故に『僭称者』と呼ばれる。


「今、『僭称者』は『選別』と称して人類虐殺の蛮行を世界各地で行い始めた! 『僭称者』が本当に神ならば、今の世界の収束も受け入れよう。神の下した裁定であるからだ。だが、神ならぬ身である我々に、その真実を知る術は存在しない! ならば、我々は人類の意地と誇りをかけて『僭称者』に全力の抵抗を試みるべきなのだ! 滅亡か、生存か? その答えが出る時、『僭称者』の正体は明らかになっているであろう! 己の心に抱いた物の為に戦おう! 信じる神の為、忠を尽くす国家の為、愛する家族の為に!」
 人類連合軍の首魁となった日本国首相が世界に向けて発信した演説である。
『こちらロシア空軍第25飛行隊! 人類連合軍の趣旨に賛同する! 着陸許可を!』
『こちらアメリカ合衆国海軍、空母『ミニィホーク』。艦載機を満載してきたぞ! 仲間に加えてくれ』
 反抗作戦の拠点となる北海道に、誇り高き人類の戦士達が集う。


「先に『悪魔』が現れて戦ってくれたのはありがたかった。おかげで人類は敵を研究し、攻略する為の時間を得、こうして漁夫の利を拾おうとしている」
 『僭称者』に次いで出現したのが『悪魔』達であった。
「『僭称者』も『悪魔』も、人類の通常兵器の通用しない人型兵器を使用していた。通常兵器無効というアドバンテージを持って、両者はそれぞれに人類を翻弄した。が、その人型兵器、『僭称者』の使う『マシーン天使』の内実はといえば、まことにお粗末極まりないものであった。最大速度は100km/h、最大到達高度は僅かに3000ft、携行火器の発射速度は毎分2発で、射程は数十mに過ぎない」
 諜報部員が過去の戦闘を観察し尽くした上での報告をしている。
「この驚くべき性能をゼロ戦に引き合いにして説明しようか? ゼロ戦の最大速度は300km/h、最大到達高度は10000ftに達する。なんとも驚くべき性能ではないか。彼らはWW2当時のゼロ戦よりも遅く低い。マシーン天使などブリキ缶だということだ」
 説明を聞いていたパイロット達から笑い声があがった。
「皮肉な話だ。天空の支配者は『神』でも『天使』でもない、我々人間であったのだから」


「こいつが俺達のジョーカーよ。今まで俺達の武器が通用しなかった『僭称者』の連中に一発ガツンとくれてやれ!」
 整備班長がぽんぽんと叩いてみせたのは、新型のAGM(空対地ミサイル)であった。
「こいつは対神魔打撃力を有する弾頭を装備した最新鋭のAGMだ。こいつを使えば、奴らの兵器も破壊することが出来る。残念だが時間が足らんで、最優先で生産されたAGMの配備しか間に合わなかったがな」
 整備班員達の手により、攻撃機、多目的戦闘機のパイロンに対神魔AGMが装備されていく。『僭称者』の最大のアドバンテージである『通常兵器無効』はここに消え去った。
「精一杯の優しさを込めて機体を整備するんだぞ! それが俺達の戦いだ!」


「すげえ、まるで軍用機の博覧会だ。世界中の軍用機が集まってるぜ」
 ハンガーアウトした戦闘機した滑走路をタキシングしていく。東西を問わず、戦闘機が一同に会し、既に退役したはずの機体もちらほらと混じり、果ては実験機や試作機の類まで見ることが出来た。
「使える機体、飛べるパイロットを絞り尽くすように集めてきた最大規模の作戦だ、当然だろう?」
ドゴゴオオオオオォォォォ‥‥‥‥!!!
 基地隊員のお喋りをかき消すように、爆音を轟かせて滑走路から離陸していくYF−23。


『作戦を確認する。目標は東京湾上空の『僭称者』の空中神殿。対神魔AGMを搭載した攻撃部隊を攻撃位置までエスコートだ!』
 作戦概要は至極シンプルである。対神魔AGM搭載機による航空攻撃により、『僭称者』の空中神殿(フロートシュライン)を撃破する。敵主力であるマシーン天使の到達高度のはるか上空を飛び越えての攻撃である。邪魔物はいない‥‥はずであった。
『レーダーに反応! 敵のインターセプターだ!』
『馬鹿野郎、マシーン天使がここまで飛んでこれるか!』
『天使じゃない! ‥‥こいつら、俺達と同じ戦闘機‥‥人間だ!!』
『神の御心に逆らう背信者達よ! 滅びよ!』
『くそうっ! ホーク、エンゲージ(交戦開始)! 攻撃部隊を守り抜けっ!』
 『僭称者』を神と信じ、戦う者達もいる。人類連合に信念があるように、『神』に味方する者達にも想いはある。
 護衛の戦闘機部隊が攻撃部隊を守る為、散開して空戦に入った。
『敵と味方が入り混じってる!?』
『IFF(敵味方識別装置)を確認しろ! 敵の形で判別するんじゃない! 敵も味方も世界中の空軍オールスターだ!』
『この敵は‥‥人間の勝利の証だ! 『僭称者』は人間の護衛に頼った。人の守護を必要とする唯一神など!』


『目標接近! フロートシュラインの7つのジェネレーターを破壊せよ! 高い尖塔の形をしている!』
『おい、あの地上から砲火。マシーン天使の豆鉄砲じゃないぞ!? フロートシュライン上部に多数の人間の対空火器群を確認!』
『聞いていないぞ! いつの間にそんなものを増設したんだ!?』
『通常の対地攻撃力を持つ機は敵対空火器を黙らせろ! 攻撃部隊はジェネレーター破壊に専念しろ!』
『敵の航空戦力もまだいるんだ! 上にも下にも油断するな!』
 『僭称者』は人間達の護衛をその御座所近くにまで上げていた。


『フロートシュラインの‥‥御座所の蓋が開いているぞ!』
『『僭称者』による直接攻撃を掛ける気だ! 『悪魔』達の艦隊を吹き飛ばした、例の光線攻撃がくるぞ!』
『全長20kmのほぼ直線のトンネルの奥、そこから発射される『僭称者』の直接攻撃‥‥それは!』
『どこへ行くつもりだ!? 退避しろ!』
『あの奥に『僭称者』がいるんでしょう! まだ、対神魔AGMを残してます! 突入して直接攻撃をっ!』
『馬鹿野郎! 死ぬ気かっ!?』
『バックブラストを逃がす為に後方にもトンネルが続いています! 死ぬ気はありません!』
 数機の攻撃部隊の機がトンネルに向けて飛んでいく。
『攻撃が始まったら避けられない!』


『アフターバーナー全開で飛びぬけるぞ!』

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6426 黒畑 緑朗(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3173 橘 木香(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4113 塚原 明人(25歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4257 龍堂 光太(28歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●出撃前日
「あの金髪、色白の美人は何者だ?」
 英国空軍のアンドリュー・カールセン(ea5936)が思わず目を留めたほどの美人。陽光に輝く金髪、透けるように白い肌、妖精のような幻想的な顔立ちに、大人の女の色香を纏っている。
「ロシア空軍のAWACS、A−50Uの迎撃管制官の少佐殿です。我々、ガウス中隊の支援につくことになっています」
 答えたのは空自の三笠明信(ea1628)である。ガウスとは19世紀のドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウス。「メビウスの帯」で有名なオーギュスト・メビウスの師である。人類連合軍の中で結成されたエース部隊はガウス中隊と命名された。
 部隊章はガウス分布を意匠化した曲線である。
「それで、あの美人の周りをまとわりついてるのは?」
 アンドリューの視線の先、迎撃管制官の周りを走り回っているのは龍堂光太(eb4257)である。
「この作戦に志願してきたルーキーだ。まだオシメの取れていないヒヨッコだが、いいセンスをしている」
 会話に割り込んできたのは空自の天風誠志郎(ea8191)。
「ヒヨッコって、わたくしも光太も同い年ですよ?」
「右に同じく‥‥か?」
 光太をヒヨッコと呼ばれ、同じ世代の明信やアンドリューとしては面白くない。
「腐るな、坊や達。それぞれに光る才能があったから、ガウスに推挙したんだ。自信を持って事に当たればいい」
 誠志郎は二人の肩に腕を回して励ましてやる。


 ところ変わってハンガーの中。
「F−2‥‥のリクライニングシート‥‥すぅー‥‥」
 F−2支援戦闘機のコクピットシートは対G効果を高める為、後方へ30度傾いている。
 その傾きで気持ちよさそうに昼寝をしているのは橘木香(eb3173)である。だが、断じてそれはリクライニングシートではない。
 木香の寝ているF−2の隣には、変わり種の戦闘機が並んでいた。
「せっかく確保した機体だ。使わない手はない」
 X−35B。F−35Bの試作段階の機体である。コクピットで操縦系統やアビオニクスなどを熱心に研究しているのは黒畑緑朗(ea6426)である。
「機種転換訓練もなしに無茶です!」
 コクピットにかけてあるタラップから緑朗に意見するのは整備員である。
 人類連合に共鳴するアメリカ人パイロットにより機体だけが持ち込まれた。
「機体の整備が出来ていれば飛ばせる。極めれば空は常に私のものだ」
 緑朗が自信たっぷりに言ってみせる。
「そりゃ、機体の整備は万全を期しますがね。‥‥操縦のことは知りませんよ?」
「操縦は任せろ。頼むぞ、君達の整備を信頼しているからこそ飛ぶつもりになったんだ」
「はっ! 黒畑1尉殿! 整備隊、X−35Bの整備に入りますっ!」
 整備員がタラップの上で敬礼した。


●Engaging交戦開始
「ガウス03! バニー! 進路がズレている。貴機の位置をチェックし適正なコースへ戻せ」
 ガウス02『ムサシ』の緑朗は通信機を通して、ガウス03『バニー』の塚原明人(eb4113)に呼びかけた。
「あっ、ゴメンゴメン。えっと、左が西で右が東で? あれ?」
 個人的に方向オンチなこともあろうが、まだ年若い明人が基礎的な飛行技術に未熟であることもあるだろう。
「もういい。まったく航法もろくにできないうちから戦場か。バニー、迎えに行くから俺の後ろを追いかけることだけを考えろ。フロートシュラインまで引っ張っていってやる」
 緑朗はX−35Bをロールさせると、明人のF−15Jを迎えに行く。
 それでも明人がガウス中隊にいるのは卓越した操縦センスがあればこそである。

「こちら空中管制機パピエーダ・グローム。地上の整備隊よりメッセージが届いた。『酒乱お嬢さん』へ。無事に帰ってきたらワインとキスのお礼がしたい。貴女の武運長久を祈る。‥‥くっくっく、誰だ、これは?」
 空中管制機パピエーダ・グローム。ロシア空軍のA−50U、例の美人の少佐が乗っている機である。
 少佐はメッセージにある『酒乱お嬢さん』がどんな顔をしているのかと想像して笑った。
「グラムよりパピエーダ・グローム。少佐、今みたいな笑顔も素敵だ」
 その笑い声を聞き取ったガウス04『グラム』の光太。搭乗機はF−22J。
「グラム、貴官は通信機の声だけで私の顔が見えるのか? 空中管制機パピエーダ・グロームは、これよりガウス中隊の支援にはい‥‥」
「少佐のことなら、声だけで表情だってわかるよ!」
「‥‥しく頼む。パピエーダ・グロームは我々の言葉で‥‥」
「『勝利の雷鳴』だよね! 調べたよ」
「‥‥こちらパピエーダ・グローム。ガウス04、私語は慎め」
 憮然した様子で少佐は光太を嗜める。
「つれないなぁ、少佐は。そういうところもかわいいんだけどね」
「かわ‥‥? く、繰り返す。私語を慎めと言っている」
 光太の言葉に、少佐は少しだけどもりながら指示を繰り返した。
「ガウスリーダーよりガウス04。それ以上、ストロベリートークしていると、お前のTACネームをシフールに変更するぞ」
 ガウスリーダー『ウィンド』誠志郎が光太に脅しをかける。搭乗機はF−15J。
「しふーる? なんですか、それ」
「Shefool。彼女馬鹿、恋人に夢中で周りが見えていないってことだ。語呂がよいのでな、シフールになった」
 ガウス07『ルージュ』のサラ・ヴォルケイトス(eb0993)の問いに、誠志郎が意味を説明する。サラの搭乗機はラファールCである。
「まてっ! その呼び名は私にとっても甚だしく迷惑だ!」
 少佐が抗議の声をあげる。
「シフールか。それって僕と少佐が公認カップ‥‥」
「じ、事実を捏造するなっ! グラム、私は貴官の彼女などでは‥‥」
「少佐、照れないでよ‥‥」
 しばらく続く、少佐と光太のやり取り。中隊一同は少佐に対する印象を一部改めざるを得ないことに苦笑いした。
「グロームは雷鳴、雷鳴はThunder。eをつけると、Thundere、ツンデレって読めないかな?」
 明人がそんなことまで言い出す始末であった。
「さて、お喋りの時間は終わりだ。ガウスリーダーより、ガウス中隊全機へ。作戦を確認する。本作戦は航空攻撃によるフロートシュライン撃滅を目的とする。敵のブリキ缶は我々の高度まで届かない。自称・神様の化けの皮を剥がしにいってやろう」
 誠志郎が指揮下にある隊員達に呼びかけた。
 敵の心配はほとんどない。そのはずであった。
「こちらパピエーダ・グローム。先行する部隊が敵のインターセプターと交戦に入った。ガウス隊、交戦準備!」
「迎撃機? マシーン天使がこの高度までこれるはずが‥‥!」
 驚きの声をあげたのはガウス06『ヴェール』ソフィア・ファーリーフ(ea3972)である。搭乗機はラファールC。
「どうやら、万が一の事態になってしまったようだね。パピエーダ・グローム、その敵は人間なんだね?」
 ガウス10『ブルー』のケイン・クロード(eb0062)はどうやら事態を察したようである。搭乗機はトーネードADV.F3。
「その通りだ、ガウス10。僭称者に味方する連中がフロートシュライン周辺を固めているようだ」
「狂信者ほど性質の悪いものはないですね」
 ガウス05『コジロウ』の明信。搭乗機はF−22J。
「学校で習わなかったのかしらね、神は死んだ、って。といって、ニヒリズムで戦争をするような悪趣味は持ち合わせていませんけどね」
 ニーチェの言葉の引用で、ソフィアは“敵”を非難する。
 前方の大空には、幾筋もの飛行機雲、ミサイルの排気煙が弧を引いて絡み合っている。互いに敵の背後をとりつとられつ、己の機体を限界まで振り回している。
「ガウスリーダーより、各機へ! 全兵装使用許可! 遠慮は無しだ、ガウス隊の名に相応しい活躍を見せつけろ!」
『Wilco!!』
 誠志郎の声に各機が一斉に返事を返した。
「こちらパピエーダ・グローム。IFFのデータを送る!」
「よおし、各隊散開!」
 ガウス中隊が戦闘空域に飛び込んでいった。


●Fierce Flight激闘
 二機のラファールCが旋回し、翼の端から白い雲を引いている。
『おい、あの二機のラファール。あれは『ドーバー海峡の背信者』ではないのか?』
『ロンドンから進出した『偉大なる神』の空中神殿を墜とした連中か!? あのアバズレどもめっ!』
 僭称者に与する者達がソフィアとサラの機体を狙い始める。
「おい! 『ドーバー海峡の勇者』達が狙われているぞ!」
 様子に気付いた人類連合軍のパイロットが味方機に連絡する。『ドーバー海峡の背信者』『ドーバー海峡の勇者』、同じ存在が呼ぶ側の立場によってその名を変える。
「了解した! そちらはガウス隊が引き受ける。貴機は自分の役割を全うしろ。ムサシ、バニー! 3番小隊の援護だ!」
「バニー、りょ〜かい!」
「ムサシ、了解だ。バニー、もう戦場だ。迷子になるなよ?」
 F−15J二機とX−35Bが旋回していく。
「いっくよー! こんなのまだ、難度NORMALのステージ1だからね!」
 明人がA/Bを焚いてラファールに群がる敵に襲い掛かる。
「バニー! FOX1! 誘導開始!」
 セミ・アクティブレーダー誘導ミサイルを発射する明人。命中まで機体から誘導を続ける必要があるが、長大な射程は先制の一打を与えるのに適している。
「ふふふ、必殺バニーロール!!」
 明人はアニメのヒーローよろしく必殺技の名前を叫ぶと、F−15Jにバレルロールに近い機動をさせる。機体を激しく機動させながらも、ミサイルへの誘導がギリギリ可能な角度を維持している。
「敵機撃墜! バニーの名を継いだんだ、これくらいのこと!」
 目についた敵を追いかけ始める明人のF−15J。
「なんて機動をするんだ。やつは飛行センスだけ飛んでいるのか‥‥! リフトファン起動」
 緑朗が明人の機動に見とれて一瞬の隙を作ってしまう。ミサイルアラートがコクピットに響く。だが、緑朗は慌てることもなく、X−35Bの最大の特徴であるVTOL用のリフトファンを起動する。通常の戦闘機にはありえない上方へズレる機動を描いたX−35Bの下方をミサイルが飛びぬけていく。だが、そこで運動エネルギーをロスしてしまい、敵を狙いにいけない。
「まだ、慣れないか」
 X−35Bにほとんど初めて乗ったに等しい緑朗はやや機体に振り回され気味であった。T−2CCVなどの実験機に乗りなれ、新機種も速やかに乗りこなすセンスはあったが、日本に導入される見込みの少ないJSFの試作機を短時間で十分に乗りこなすのは難しい。
「ムサシ! 慣れない機体で無茶はするなよ?」
「わかっている。だが、もう少しでこの機を掴んでみせる」
 誠志郎の言葉に答える緑朗の言葉は単なる強がりではなかった。
「ゴメン! ムサシのことうまく援護できてない!」
 次第に遠ざかりながら戦闘を続けている明人が通信で謝っている。目の前の敵を倒す為に目を見張るような機動を見せているが、自機や僚機の現在位置を把握することは出来ていないようだ。
「気にするな、バニー。私がお前の露払いをする。貴官が二番機では肝心の時に明後日の方向にいそうだ」
「敵の気をうまくこちらに引き付けているな。3番隊はうまく切り抜けたようだ。引き続き制空任務を続行する」
 緑朗はX−35Bを、誠志郎はF−15Jを旋回させ、さらなる敵の中へと突っ込んでいく。
『ちくしょう、『ドーバー海峡の背信者』『緑のサムライ』『沈黙の睨み目』、『バニー』までいるぞ!』
『バカなっ! 『バニー』は死んだはずだ! ちくしょう、奴らのあの部隊章は‥‥鐘?』
『鐘付きの機体? おい、あのトーネードにも鐘がついてる!! 冗談じゃねえ、そんなレベルの敵を相手にできるか!』
 僭称者側のパイロット達に動揺が生じている。ガウス分布を意匠化した部隊章をその形状から『鐘付き』と呼び、それが細波のように僭称者軍の中に伝播していった。
 ケインのトーネードADVが接近するのを見て、僭称者軍が避けていく。
『怯むな! 逃げ出す者は裏切り者として地獄に落ちるだろう! 我らは神の兵である。今一時の死は死ではなく、必ずや神の王国に生まれ変わるのだ!』
『鐘付きは我らに任せよ!』
 逃げていく僭称者軍を叱咤しながら、猛烈な勢いでガウス中隊に迫る機影があった。
「注意! ガウス隊に向けて高速接近する機影‥‥10!」
 少佐の声が通信機から響いた。


●R.foetidaPersianaペルシアンイエロー
「僕らを狙ってくる敵? レイ、ゴースト、先に暴れさせてもらうよ! ‥‥ガウス10、エンゲージ!!」
 ガウス09『レイ』のアンドリュー、ガウス08『ゴースト』の木香に呼びかけると、先に接近する敵飛行隊に挑んでいく。Su−37、F−22の混成編隊であることが見て取れた。
「近寄らせないさ‥‥ガウス10、FOX3!!」
 A・スカイフラッシュを発射したケインは撃ち放し能力を任せて、短射程ミサイルに兵装を切り替えて次のターゲットを狙う。だが、
「避けられたっ!? くっ!」
 狙っていたSu−37がミサイルを回避し、用意していた短射程ミサイルを発射するも、これもF−22に避けられる。
「動きが鋭い! 他の敵とは格が違うっ!」
 ケインは翼を可変させると小回りに旋回する。
「ブルーの護衛を抜けてくるか。ゴースト、注意しろ。ただの敵ではない!」
「‥‥うみゃ? ‥‥ふぁあ‥‥」
 アンドリューが注意を呼びかけるが、気の抜けた声の返事が返ってくる。
「後ろを取られるぞ!!」
 自身も迫りくるSu−37の追撃を機動で振り切りながら、アンドリューは木香に注意を促す。
「‥‥! 私の後ろをとろうだなんて、100億光年早いのですよー!!」
 覚醒した木香はF−2にスプリットSを掛けさせる。ちなみに「光年」というのは距離の単位であって、時間の単位ではない。
 支援戦闘機(攻撃機)ながら原型機F−16にも劣らぬ空戦性能を有するF−2のスプリットS。だが、その高機動にもF−22は食らいついてくる。
「ついてくるですか!?」
 思う存分に機体を振り回す木香に、しかしF−22はしっかりと後を追ってくる。辛うじてミサイルロックオンだけは避けている。
「待ってて! 今助ける! 飛燕の如く舞え、トーネード!!」
 トーネードの翼を最大後退位置につけ、猛烈な勢いでF−22を追撃するケイン。
「ブルー、FOX2! 剥がれろ!」
 発射されたミサイルを回避する為、F−22は木香を追いきれずに退避行動に移った。
「コジロウ! FOX3!」
 畳み掛けるようにミサイルを放ったのは明信のF−22Jである。ケイン達のピンチを知って駆けつけた。
「無事ですか? こんな腕のいい敵がいたとは」
 明信は3機がかりで辛うじて撃墜した敵の強さを思った。
「うわっ! 嫌なものを見ちゃったよ!」
「どうした、ガウス07」
 サラがあげた悲鳴のようなものに誠志郎が問う。
「言っても‥‥いいのかな?」
「戦闘中だ。不明瞭な会話は慎め! なにを見た?」
「あっ、はい! 敵の尾翼を肉眼で確認! 敵のエンブレムはペルシアンイエロー! 黄薔薇中隊です!!」
 視力に優れたサラの見てしまったのは強敵のエンブレム。
「僭称者シンパが献上したっていうエース揃いの親衛飛行隊ですか!」
 その報告を聞いて明信が驚きの声をあげる。
「うろたえるな、こちらも選りすぐりのエース部隊ガウス中隊だ。各機、連携して敵にあたれ。孤立したら集中攻撃されるぞ」
 誠志郎が味方を叱咤する。
『鐘付きの部隊か。貴様達には感謝しているぞ。偉大なる神にお仕えしながら、実態はただのお飾り。選ばれし者達、マシーン天使を駆る聖剣闘士に嫉妬するばかりの日々だった我らが‥‥』
『こうして、神をお守りする栄えある任務についている! その任務に相応しき強敵よ!』
『さあ、互いの持てる飛行技術の全てを出しつくそうではないかっ!!』
 黄薔薇の花言葉は「嫉妬」。だが、もはや嫉妬する必要はない。彼らの待ち焦がれた舞台は今ここに用意されているのである。
 『鐘付き』という最高の宿敵を迎えて。
「ガウス中隊! エンゲージ!!」


●Shefool of Solo Lung片肺のシフール
 翼を最大後退させたトーネードがバレルロールを行っている。高速での高機動にケインの視界は激しく回り、身体にかかるGはともすれば意識を持っていこうとする。
「この機動についてくるっ! さすがは黄薔薇中隊! だけど、食らいつくならもっと、もっと来い!」
 バレルロールは追尾してくる敵をオーバーシュートさせる為の飛行テクニックの一つであるが、その敵も自分と同じ軌道を描けば、相対的な位置関係は変化しない。ケインのトーネードを正確に追尾してくる黄薔薇中隊のSu−37の腕前には素直に簡単せざるをえない。
「‥‥今だっ! A/Bカット! スラストリバースっ!」
 元々はSTOL性能を確保する為に装備された逆噴射装置をケインは使ってみせた。同時に急激に翼を展開して急速な減速をかける。
「くっ‥‥おおおぉぉぉっ!! もらった、ガウス10、FOX2!!」
 ケインの身体にベルトが食い込み、機体が悲鳴をあげる。
 オーバーシュートしていった黄薔薇のSu−37に向けてミサイルが吸い込まれていった。
「敵機撃墜っ! やった、黄薔薇の機体を落としたっ!」
 ケインがコクピットで快哉をあげた。
「よくやった、ガウス10。今の戦闘で黄薔薇中隊の全機撃墜を確認した。ご苦労」
 緑朗がケインを労う。
「これで敵の中心戦力に穴を開けました! もう一押しですよ」
 明信が黄薔薇中隊の全滅に伴う戦況の変化を指摘する。
「けれど、今の戦闘でだいぶ燃料を消耗しました。‥‥こんなになるまで‥‥機体を酷使させられたんですね」
「ああ、恐ろしい敵だった」
 ソフィアが残燃料をチェックして黄薔薇中隊との戦闘を振り返る。それに同意したのは緑朗である。

 燃料消費の激しいガウス隊に空中給油機が回された。
「手間取るなよ、味方の先鋒は既にフロートシュライン攻撃を開始しているんだ」
 誠志郎が指摘したように味方は既に攻撃を開始していた。
「少佐、少佐! 僕も黄薔薇の機体を撃墜したよ」
 空中給油機の傍を飛んでいたA−50Uに向かって光太が飛んでいく。
「ガウス04、貴官はまた私をからかいに来たのか?」
 AWACSの中にいる少佐にはF−22Jが視認できるわけではないのだが、光太はその周りをぐるぐると飛び回ってみせる。
「そんなんじゃないよ。ただ、この戦いが終わるのが待ちきれないくらい、少佐のことが気になってるんだ」
「それをからかっていると‥‥」
「もうさ、少佐の為の花束も買ってあるんだ。この戦いが終わったらデートの時にプレゼントするからさ、楽しみにしててよ」
「ガウス04、私語は慎めと‥‥待てっ! ミサイル接近! 各機ブレイク! ブレイク!!」
 少佐がミサイルの接近を探知してガウス隊への警戒を促す。
「どこからだ!?」
 ガウス隊の機体が回避行動に移る。だが、
「違う、このミサイルの狙いは‥‥操縦席! 全力で回避をっ!!」
 狙われていたのはA−50U。必死の退避行動に移るが、鈍重なAWACSにミサイルを回避しきる機動性はない。
「少佐っ!!」
 光太がA−50Uとミサイルの間を横切る。ミサイルのシーカーはF−22Jを目標と取り違えて、F−22Jを追尾し始めた。
「くっ、ついて来いっ! こっちだ!」
 爆発。
「コウタっ!!」
 F−22Jが煙を吹いた。少佐が悲痛な声をあげる。
「コウタっ! 無事か!? 返事をしろっ! コウタっ!」
「‥‥こちらガウス04。少佐、ダメだよ。僕のことが心配ってのはわかるけど、敵がいるんだろう? みんなの手助けをしなきゃ」
「べ、別にコウタだから、心配したわけでは‥‥」
 煙を吹く機体を制御しながら、光太は動揺する少佐を嗜める。
「大丈夫、身体は無事だし、まだ何とか飛べる」
「パピローダ・グローム! 敵機の情報を頼む! ガウス隊各機、給油は終わっているな? 3番隊、4番隊はフロートシュライン攻撃へ! ガウス02、03は3、4番隊の援護。ガウス02が攻撃隊の指揮をとれっ! ガウス05は俺についてこい。ガウス04は退避、必要ならベイルアウトだ」
 誠志郎の適確な指示が飛ぶ。
『ウィルコー』
「いい返事だ。後ろは俺が護る。お前達は前を見て進め!」
 ガウス中隊の各機が各々の目的に向かって散開していく。ただし、光太を除いて。
「こちらパピエーダ・グローム。敵機の反応が捉えられない。敵はステルス!」
「ガウス05、索敵だ! ステルスといっても消えてなくなるわけじゃない!」
 誠志郎は明信に指示を出す。だが、その前に見えない敵のほうから声をかけてくる。
『久しぶりだな、『沈黙の睨み目』』
「その声は!?」
「敵の発信源探知! 方位は‥‥!」
 少佐に示された方位に急旋回する誠志郎と明信。
「あの機体はなんだ? 胴体半分を色違いにした‥‥見たことのない機体?」
「該当データなし。いや、これはNATF? ペーパープランに終わったF−22の海軍仕様が何故!」
「色違いの片面塗装‥‥『片肺のシフール』!! お前が僭称者に与していただと? 何故だ!」
 誠志郎のF−15Jと『片肺』のNATFがすれ違う。まだ、戦いのゴングは鳴っていないのを二人とも心得ている。
『偉大なる神による最後の審判。全ての死者が甦る。彼女は敬虔なクリスチャンだった。きっと神の国へいくはずだ。その邪魔は何人にもさせはしない!』
「『片肺のシフール』‥‥ウィンドの二番機だった男‥‥。一方のエンジンに被弾しながら、片肺で基地に帰還した不屈のパイロット」
 誠志郎と『片肺』は互いに旋回しながら言葉を交し合う。明信はそのさらに外側を旋回して様子を見ている。
「やはり、貴様はShefool(彼女馬鹿)だ。だがな、その曇った眼で何が見える? 本当に彼女の姿が、想いが見えているのか?」
『眼は貴様のほうがよかったな、睨み目。だが、俺は神を信じる!』
 NATFの翼が前方へ可変し、運動性に優れた前進翼の形態になる。鋭い旋回性能で誠志郎のF−15Jの背後を狙ってくる。
「可変前進翼、そんなものがっ!? ウィンド! 援護します!」
 誠志郎を追うNATFの背後を狙って明信が旋回半径を縮める。
「手を出すなっ! コジロウ!」
「拒否します! ここは戦場で、騎士のトーナメント会場じゃありません! 連携を取れなければ、あの機体には勝てません! 隊長として、わたくしを無事に連れ返って下さい!」
 クールに見えても熱血漢の誠志郎が暴走しかけていたのを、明信が冷静な指摘を返した。
「‥‥わかった、頼むっ! 代わりにパピエーダ・グロームは攻撃隊の支援に回すぞ」
 3機の引く飛行機雲は機体とパイロットの限界に挑むかの如き、複雑なラインを天空に描いた。


●Combat Air Masters戦空の支配者
「インレンジ確認。対神魔型AGMはっしゃぁー、うりゃー」
 木香が最大射程から対神魔AGMを発射する。友軍とのデータリンクで事前にターゲットを補足をしているAGMは正確にフロートシュラインのジェネレーターを目指して飛行していく。発射本数は連続して4本。乱戦になれば対地攻撃の苦手な木香が誘導弾とはいえ命中は難しい。使えるうちに使ってしまう腹積もりだ。
「AGM命中数1! 目標ゴルフを破壊。他は対空火器に迎撃された。敵の対空防御は濃密」
 パピエーダ・グロームが支援可能範囲に入った。
「了解。ガウス02よりガウス隊各機。敵の対空火器、および迎撃機を駆逐せよ!」
「三番隊、突入します! 援護をお願いします! ヴェール、エンゲージ!」
「姉さん、ちゃんと帰ってみせるからね‥‥ルージュ、エンゲージ!」
 二機のラファールCがフロートシュラインの「地表」に向けて降下していく。
「あてるよっ!」
 ラファールC自体の速度を運動エネルギーとする為、猛烈な加速をかけるサラ。目標はSAM、対空機銃が密集しているポイント。1000ポンドの爆弾がさながらスマート爆弾のように正確にポイントの中心に落下した。
 ラファールCは機首を引き上げて、再び舞い上がる。
『くそっ! なんてやつだ! SAMで撃ち落とせっ! レーダー照射開始っ!』
「ヴェール、マグナム!」
 対レーダー誘導ミサイルが発射される。サラを狙うレーダーの発信源に向けて、ソフィアの放った一撃が突き刺さる。
「各機、12時方向の敵弾幕が薄い、攻撃隊、そこから突入せよ!」
 緑朗の指示が飛ぶ。自身もそちらへ機首を向ける。
「ガウス09、了解。これより対空兵器群を制圧する」
 アンドリューが低空から侵入する。可変翼を最大に広げて低速度飛行の安定性を図っている。
『敵が来るぞ! 対空弾幕が薄い! 何をやってる!?』
『そこのマシーン天使、邪魔だぁっ! どけぇ!』
『構うな、どうせ効かねーんだ、敵ごと撃てっ! 射撃開始!!』
 僭称者軍の弾幕が薄かった理由はこのマシーン天使である。
『くそっ! 我々神に選ばれし聖剣闘士の長たる私がなぜ、普通の人間に罵られなければならんのだ!』
 味方の弾丸を機体に無数に受け止めながら、聖剣闘士アスラニアは苦々しげに言う。僭称者配下の武官筆頭である彼のマシーン天使は僭称者の武力の象徴であった。それが今は何の役にも立てず、ただ味方の邪魔をしているだけだ。
「目標接近! ‥‥ん、マシーン天使がうろついているのか」
『人間どもがぁっ!!』
 フロートシュラインの地表スレスレを飛行してきたアンドリューがアスラニアのマシーン天使を見つける。
「もう、あんた達の時代じゃない。燃料気化爆弾の投下可能高度まで上昇!! 目標上空に到達」
 マシーン天使の目の前で急上昇するトーネードGR.4。切り離された気化爆弾が辺り一面に燃料をばら撒く。よく空気と交じり合ったところで点火、あたり一面に気化した燃料に次々に炎が燃え移り、それは爆発となって周囲のものをなぎ払った。
『くそ、何が起こったんだ!?』
 マシーン天使は爆発による傷こそなかったものの、爆発の余波により周囲の状況を見失う。そこへ緑朗のX−35Bが飛来する。
「マシーン天使か‥‥誘導がきかなくともロケット弾だと思えば‥‥当たれっ!」
 緑朗はシーカーを作動させないままで対神魔AGMを発射する。直進するだけのミサイルがマシーン天使を捉え、爆散した。
「パピエーダ・グロームより、ガウス隊各機へ。北面のジェネレーター、目標チャーリーが残っている。攻撃に向かえる機はいるか?」
「こちらガウス06。情報が錯綜してるよ。僭称者の直接攻撃がくるって周りが騒いでるし、あのトンネルの奥に僭称者がいるって話もあって‥‥」
「ガウス08、僭称者への直接攻撃を試みさせて! これはきっとチャンスだわ」
「目標チャーリーはトンネルから遠い。両方は間に合わない」
 サラ、ソフィア、木香が僭称者への直接攻撃を志願する。
「しかし、ジェネレーターを完全に破壊しなければ‥‥」
 フロートシュラインのジェネレーターは内部の防衛機構のエネルギー源であるという推測があるのだ。
「その任務、任せろっ!」
「コウタ!? 退避しなかったのか?」
「対神魔AGMは貴重品なんだ。無駄にできないだろ? 機体を騙し騙しここまで来た」
 光太が煙を吹くF−22Jを操ってジェネレーターへ向かっていた。
「無茶だ、ベイルアウトしろ! もうコウタは十分に戦った!」
「‥‥もう遅いんだ‥‥ほんとはさ、さっきの攻撃で‥‥怪我しちまって‥‥血がとまんない‥‥」
『グラム!!』
 仲間達がいっせいに光太のTACネームを呼んだ。
「来ないでくれ! みんな、自分の任務を全うしてくれよ」
「諦めるな、コウタ! がんばるんだ、コウタ! 私は‥‥私はコウタが何度つれなくしても‥‥諦めようとしない熱意に‥‥だから、コウタ‥‥」
「泣いて‥‥いるのか? へへ、嬉しくて、悔しいな。‥‥僕の為に泣いてくれること、僕の為に泣かせてしまったこと‥‥大好きだ、ターシャ‥‥」
「コウタアアァァァッ!!」
 対神魔AGMを抱えたまま、光太のF−22Jがジェネレーターに飛び込んでいった。
「全ジェネレーターの破壊を確認‥‥。これでフロートシュラインの主要な機能の大半は失われた」 

「‥‥各機、トンネルに突入。僭称者に対する直接攻撃を敢行せよ」
 緑朗が命令を下す。
「これで決着をつけます!」
「こんな悲しい想いをさせる神様なんて‥‥悪いけど、いらないんだからぁ!!」
「うりゃーっ」
 ソフィア、サラ、木香がトンネルに飛び込んでいく。先頭は木香。
「アフターバーナー全開っ!! ルージュ、ヴェール、しっかり着いてくるのですよー!」 
 それは巨大なトンネルであったが、当然ながら航空機が飛びぬけるには針の穴も同然の狭さである。
「スピードが速すぎる!」
「壁が近いから体感速度が違うだけなのです! なにか見えたー、AGM、はっしゃーっ!」
「ルージュ、ライフル! エセ神、これで終わりだぁっ!」
「ヴェール、ライフル! このまま御座所を飛びぬけて反対側にでるわっ!」
 御座所と呼ばれた神の玉座。そこにチッポケな人影が見えたのは一瞬にも満たない僅かな時間。
 F−2とラファールCが飛びぬけた直後、そこは悪魔も神さえも焼き尽くす爆炎に包まれた。

「フロートシュラインが‥‥沈む」
 誠志郎はゆっくりと東京湾へと落下していくフロートシュラインにしばし見とれた。

「ガウス隊! 勇敢なる戦空の支配者、龍堂光太に‥‥敬礼!」