エイプリル し フール
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:フリー
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2006年04月19日
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●オープニング
地球ではないどこか。
かと言ってジ・アースの未来という訳でもありません。
ただ21世紀の地球にそっくりな世界に『日本』という国があり、ジ・アースと似たような異種族達が住んでいるのです。
エルフ、ドワーフ、ジャイアント、パラ、ハーフエルフ‥‥もちろん、人間も暮らしています。
しかしながら、地球という世界と比べて、もっとも異質な存在であるのはシフールでしょう。
『極端に小さな体に、空を飛べる能力』
この種族的な特徴は、現代『日本』に瓜二つな生活空間において、どのような意味も持ちうるのでしょうか?
例えば、学校生活では?
『しふしふの七月維新』
「おはようございます」
「おはようございます」
「しふしふ〜」
「おはようございます」
朝の爽やかな光と空気の中、木霊するのは優しく優雅で丁寧な挨拶。ん? 今、何か混じらなかったかですって? 気にしてはいけません。
学び舎へと続く桜並木は、若い息吹と笑い声に満ちています。
ここは良家の子女が通う名門私立学校。この辺りは、明治時代にお雇い外国人、とりわけドイツ人が休暇を過ごした地であったそうで、それが縁でドイツのギムナジウムを模して創立されたのがこの学校でした。
法律上は小等部から大学までの一貫教育という形式になっていますが、ギムナジウムになぞらえて10歳から18歳までの生徒が一つの校舎に通い、共に学ぶユニークで格式高い学校です。
そんな一風変った学校で、事件は起こったのでした。
「しふしふ〜、喜代子さん」
「おはようございます、紗希さん」
笑顔で挨拶を交し合うのは、人間の喜代子さんと、シフールの須藤紗希さん。
「ねね、喜代子さん。昨日のMプラ見た? フェザーアンジェルスが新曲だしてたの〜☆」
「うふふ、紗希さんはフェザーアンジェルスの大ファンですものね」
「ちっちゃな体は半人分♪ おっきな元気は四人分♪」
話題は昨日の音楽番組ミュージックプラットホームの話題です。紗希さんは興に乗って、ふわふわと飛びながら歌い始めてしまいました。
「元気印よ♪ しふしふしふ〜‥‥はきゃ!?」
「きゃっ!?」
ぺっちーん!
歌うのに夢中で紗希さんは誰かにぶつかってしまいました。
「ほええ、ご、ごめんなさーい」
「あなた、お気をつけなさい。それでなくても、ふよふよ飛んでいるシフールは危ないのですから、周りには気を配るのが当然ですわ」
丁寧ですが、少々キツい口調で話すのは人間で生徒会長の築地あゆさんでした。切れ長の目が凛々しくも見え、あるいはキツくも見える才媛です。
「ご、ごめんね〜。次から気をつけ‥‥はきゅあ!?」
紗希さんはホバリングしたまま、頭をペコペコと下げていたものですから、またしても別の人にぶつかってしまいました。
「‥‥あなた、お名前は?」
腕を組んでイラついた様子のあゆさんは、紗希さんに名前を尋ねます。あゆさんは生徒会長なので知っている人は多いですが、あゆさんの方はさすがに全校生徒全てを把握するのは無理なので。
「‥‥す、須藤‥‥紗希です‥‥」
続けてやらかしてしまった失敗のせいか、しゅんとした様子で紗希さんは答えました。
「では、紗希さん。生徒会長の権限において、校則‥‥えっと‥‥」
あゆさんは生徒手帳をパラパラを繰ります。さすがに校則をすべて暗記しているマニアという訳でもありません。
「第8章第2条『シフールの校内飛行規程』の第3項に基づき、あなたに一週間の飛行禁止を命じます。この命令はわたくし、築地あゆが正式に教職員の方に届出を行った後、その認可を持って執行されます。よろしいですね?」
「え〜〜!? そんなーーー! 横暴だよーっ!」
「お静かになさい! そもそも、あなたが落ち着きのある行動をとれていれば、わたくし達にぶつかる様なことにはならなかったのではありませんこと? この校則も無駄に生徒を縛り付ける為にあるわけではありません。校内における安全管理はもちろん、校外においてもあなた方シフールが事故に遭わない様に自覚を持って飛行する、その為の学習の一環ですわ」
あゆさんは文句を言う紗希さんをピシャリと押さえつけ、持論を展開しました。
「で、でも〜、みんなが飛んでるのに‥‥一人だけ歩くなんて‥‥」
その情けなさを思い浮かべて、紗希さんはちょっぴり悲しくなってしまいました。
「‥‥よろしいですわ。では、こうしましょう。6月の生徒総会においてシフール生徒の全面飛行禁止を動議にかけます。それが通れば、一人きりではありませんでしょう?」
「ええ!? なんでそうなるのっ!?」
いきなり、全シフールの飛行禁止という話になって紗希さんは驚愕します。もしかして、自分はとんでもない地雷を踏んでしまったのかもしれません。
「動議にかけた議案は、一ヶ月後の臨時総会において採決が行われます。動議に反対するのであれば、生徒総会からの一ヶ月間に反対動議をあげ、その為に運動していただいて構いません」
紗希さんの驚愕を気にもかけず、あゆさんは淡々と事務手続きについて説明していきます。
「な、なんだか大変なことになっちゃったよ〜」
紗希さんはどんよりとしてしまう気持ちになってしまいました。
そして、6月の生徒総会。シフール生徒の全面飛行禁止の動議が掛けられました。
「ねえ、それは少しやりすぎではないかしら?」
「でも、飛んでるシフールって実際危ないし‥‥」
「シフールストライクって事故もあるよね」
「ヒヤリハットって多いよね。飛行禁止、賛成‥‥かなぁ?」
シフール以外の生徒達の反応は戸惑い気味ながらも、断固として飛行禁止に反対するという空気ではありません。
今まさに、学園生活におけるシフールの最大のピンチが訪れているのでした。
「1ヶ月後の臨時総会までに、みんなの気持ちを『飛行禁止』反対にもってかないとっ!」
かくて、シフール達の奮闘が始まるのでした。
●リプレイ本文
「ベルベル先輩ーーっ!!」
在校生の須藤紗希がOGのベル・ベル(ea0946)と知り合いだったのは、8学年の生徒が一つの校舎に通うという学園の特徴によるところが大きいの〜。
本場ドイツのギムナジウムは10歳から19歳までの生徒が通ってるけど、日本の学制に合わせて若干の調整がされたのが、この和製ギムナジウムとも呼ぶべき学園なの。
ベルさんがそのまま、同じ学校の大学部に進学したこともあわせて、歳は離れていても交流関係の生まれ易い校風なの。
「どうしたの〜、紗希ちゃん?」
隣接する敷地とはいえ、わざわざ大学のキャンパスまでやってきた紗希をベルは優しく抱きとめてあげたの。
「実は私のせいで‥‥かくかくしかじか‥‥なんです〜。ふぇ〜ん」
紗希はかいつまんで状況を説明しながら、泣きついたの。
「はやや〜? シフールが空飛んじゃ駄目って言う校則案ですか〜?」
ベルは後輩の背中を優しくさすってあげながら、驚くべき校則案が提案されたことを知りましたなの。
「それは横暴ですよ〜! 許せないですよ〜!」
ベルはそう言って、ぐっと握り拳を作りましたなの。
「私がうっかりしてたのは悪いですけど、他のしふしふ達に迷惑がかかっちゃうと思うと、すごく悲しいんですよー」
「わかったですよーっ! 私も協力させてもらうのですよ〜!」
ベルは身体を少し離すと、今度はその手を握り締め、真正面から紗希さんを見つめてたの。
「一緒に頑張るですよ〜☆」
の瞳は決意に燃えていたね〜、うん。
「何を頑張るのかな〜?」
さん達は不意に声を掛けられたなの。
「あっ! け、け、け、桂花さん!」
そう、そこにいたのは燕桂花(ea3501)。ベルが憧る「しふしふのコックさん」なの。
「しふしふ〜、ベルちゃん☆ そっちのギムナジウムの制服の子は、初めましふしふ〜♪」
桂花はにこやかに挨拶をしたの。ちなみに桂花さんは大学部の栄養学部の教授さんと仲がよくて、よく大学のほうにくるそうなの。それでベルともお友達なんだね〜。
「し、しふしふ〜! 桂花さん」
「初めましふしふ〜☆ うわぁ、本物の「しふしふなコックさん」ですか〜?」
憧れの人を前にちょっと緊張してしまうベル。だって、憧れの人の前ではちょっとでもいい自分を見せたいものだもんね〜。でもね、本当は自然体のベルが一番素敵なんだけどね〜。紗希も有名しふしふの登場にワクワクしてたの。
「お料理する心があれば、しふしふは誰でも「しふしふなコックさん」なの〜☆」
しふしふなコックさんの真髄を語ってくれる桂花。
「それで何のお話だったの〜?」
紗希はまた、カクカクシカジカと話し始めたなの。
テレビをつけると、桂花が写っていたの。
『しふしふ〜☆ 『しふしふなコックさん』桂花の、180秒クッキング〜♪』
しふしふに似合う軽快な音楽が楽しげな番組なの。
『今日のお料理は『小龍包』なのしふ〜☆ みんな、メモの用意はいいかな? あっ、番組ホームページからレシピのダウンロードもできるよ〜♪』
強力粉をかき混ぜたり、イースト菌を入れたり、野菜を微塵切りにしたり、その手つきはとっても鮮やかなの。でも、しふしふなのに人間の量に合わせてお料理しているから、ボールもまな板も包丁も人間サイズ。大きいからパタパタと飛び回ってお料理するのが桂花のスタイルなんだね〜。
『あたいはちっちゃいから、この大きさのお料理作るには空飛ばないと難しいんだよ〜』
先に作っておいた生地を使って、具を詰める作業をしながら話を切り出したの。
『あたいの友達の学校でシフールが飛んじゃいけないって校則を作ろうって話があるらしいって聞いたんだけど、本当かな〜? で、この包み込んだのを蒸し器にいれて10分少々蒸してね〜☆』
蒸し器を吊り下げて飛び上がった桂花さんはコンロの上まで飛んでいくの。
『こうやって、しふしふが飛ぶ自由を校則が奪う権利はないと思うんだよね〜。はい☆ 蒸しあがったら熱々のうちに食べてね〜♪ 酢醤油や餃子のタレなどでどうぞ〜☆』
で、出来上がった小龍包はとっても美味しそうだったの。
『お料理って難しそうに見えるかもだけど、慣れると簡単だから、みんなもがんばってね〜。それじゃあ、また明日、この時間に♪ しふしふ〜☆』
小龍包、作ってみようかな〜?
「サス、さげまーすっ!」
「‥‥」
「サス、さげまーすっ!! 返事はぁ!!」
「はあいっ!」
学校の体育館のステージで演劇部が稽古をしているの。
そこにやってきたのは合唱部のみんな。演劇部の稽古が終わる時間で、交代で体育館のステージを使う予定になっていたの。その合唱部員の一人がラフィー・ミティック(ea4439)だったの。
「あれぇ? 演劇部、まだ練習中なの?」
ラフィーは演劇部の人達がまだステージでゴチャゴチャとした作業をやっているのを見て、首を傾げてたの。
「ごめんなさーいっ! 照明の調整を今日中に済ませたいんだけど、手間取っちゃって‥‥出来たぁ? はいっ、サスあげまーす! 返事ーーっ!!」
後で調べたところによると、サスっていうのはサスペンションライトをぶら下げるバーのことらしいの。舞台袖の昇降装置で上げ下げできるんだけど、調整の度には上げたり下げたりは大変みたい〜。重たいライトをたくさんぶら提げてるから、うっかり頭の上になんてなったら、もう大変。だから、安全確認とかも徹底しなくちゃいけないし、結構手間がかかってたみたい〜。
「あの〜、ボク、手伝ってもいいかな〜?」
「えっ? シフールのラフィーさんが? この昇降装置、カウンターウェイトがあっても、けっこう重いよ?」
「ううん、そうじゃないよ。ボクはしふしふだよ? ライトを上げた状態で直接調整ができると思うんだ♪」
演劇部員さんの前でパタパタと飛んでみせるラフィーなの。
「あっ! ‥‥でもぉ、合唱部のラフィーさんに手伝わせちゃ悪いような‥‥」
「気にしないで♪ ボク達合唱部も演劇部さんの照明には行事の度にお世話になってるしね」
そのまま、ラフィーがパタパタと上へ飛んでいこうとしたのを、演劇部員さんが止めたの。
「あっ! 手袋と、このハンカチ、マスク代わりに使って。上、かなり埃っぽいから。合唱部さんは喉、大事にしないとね」
「ありがとう☆」
演劇部員の心遣いに満面の笑顔で返すラフィーなの。
「お礼を言うのはこっちのほうだわ」
「じゃ、お互いにありがとうだね」
それで照明の調整はあっさりと終わったの。
「やっぱり、シフールが飛べるのってこういう時、便利よね」
「臨時総会の投票、どうする?」
「決まってるわよ」
体育館から撤収する演劇部員さん達の会話は、しふしふの明るい未来の様子を見ているみたいだったなの。
「LAーー♪ LALAーーー♪ LALAーーーー♪」
その後、体育館から響いてきたラフィーさんの歌声は、とても澄み切った7月の青空のようだったの。
「会長! シフール生徒達がOGや芸能人まで使って、挽回の運動をしています。なぜ、何の対抗措置も取らないのですか?」
生徒会室もこっそり覗いてみたなの。
「必要ないからですわ」
あゆ会長は事も無げに答えたの。
「そんなっ! 生徒会長自ら動議にあげた校則案が否決されたら、会長の威厳に関わります!!」
副会長がすごい剣幕であゆにまくし立ててたなの。そんな副会長さんを見て、あゆはそっと耳元で何かを囁いてたの。
一体、何を言ってたんだろうね〜?
そして、いよいよ、臨時総会、シフール生徒の全面飛行禁止に関する投票がやってきたなの。
「投票に先立ち、築地生徒会長にご意見申し上げたいのですが、発言をお許しいただけますかしら?」
すっと手をあげて、飛び立ったのはシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)だったの。
「認めますわ。お名前と学年をお願いいたします」
あゆはあっさりと発言を認めましたの。
「5年生(他の学校では中学3年生)のシルヴィア・ベルルスコーニです。発言の機会を頂き感謝いたしますわ」
シルヴィアはパタパタとマイクスタンドがあるほうに飛んでいきました。
「私たちシフールは、最大でも僅か60cmくらいです。つまり、だいたい人間の足の付け根より少し低いくらいです。幼稚園年少組の子供だって、もう少し背があります」
そう話している今も、シフール用の通称・お立ち台という箱の上に立って話しているのがシルヴィアの姿なの。とても、説得があるの。
「つまり、どれだけ成長しても幼稚園児以下の身長しかなく、それなのに他の生徒と一緒に歩いたら、一体どうなるのでしょうか? 恐らく、行き交う人の足に蹴られ踏まれるでしょうし、あるいは、重傷を負ったり死ぬことさえありえ、そうなれば、ヒヤリハットどころではありません。その場合、この校則を制定させた生徒会は責任を取れるのでしょうか?」
演説を行うシルヴィアはとっても凛々しくてかっこよかったの。
「もちろん、今の私の発言は少々大袈裟に過ぎました。様々な種族がいるこの世界で、互いが互いに思いやりを持つ姿勢はもっとも尊きものであり、私達シフールが歩いているのであれば、他の種族の皆様は私達に気を使って下さると信じています。同時にそれは私達シフールが飛ぶ時にも深く考えなくてはならない問題なのです」
シルヴィアの力強い言葉は体育館にいるみんなの気持ちをぐいぐいと引き寄せていくのがわかったなの。
「どうか、今一度、私達シフールにチャンスを下さい。周りの人達に対する気遣いと思いやりがシフールにないなんて思わない下さい。少々、おっちょこちょいな部分は努力で補っていきます。そうですね? 須藤紗希さんっ!!」
シルヴィアが突然、紗希さんを名指ししました。
「は、はいっ! がんばるですよ〜っ!!」
びっくりした紗希は文字通り飛び上がってから直立不動のポーズで返事をしました。
「本人もああ申しています。どうか、この私達の声に耳を傾けて下さい。以上です。ご清聴を感謝します」
ワアアアアァァっ!
シルヴィアが一礼すると歓声が上がったの。私もあげていたなの。
「大変、有意義なご意見ありがとうございました。では、投票‥‥の必要はなしと見てよろしいですかしら?」
シルヴィアの演説に盛り上がっている体育館の様子を見れば、あゆのその判断はばっちしだと思うの。
「ね? 生徒会長さん。もしかして、ボク達自身に気付かせる為にこの一連の騒ぎを起こしたの? ねえ、会長さんってば!」
「べ、別にあなた方の為だけにやったことではありませんわ。よりより学園を作る為ですわ」
ラフィーの質問に、あゆはそっぽを向いて照れちゃってたみたいなの。
以上、「シフールの校内全面飛行禁止」騒動を、私、ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が陰からこっそり見守っていた記録なの。
読んでくれて、ありがとうなの。