退魔戦記〜悲しみの人魔〜
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■ショートシナリオ
担当:久条巧
対応レベル:フリー
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年04月14日
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●オープニング
──事件の冒頭
時は現代。
西暦2005年。
3月30日
深夜3:00
札幌、ススキノ、とある小さな路地
──コツコツコツコツ
静かな深夜。
一人の女性が通りを歩いている。
「・・・・血ガ欲シイ・・・・新鮮ナ血ガ・・・・」
暗闇に光る二つの瞳。
──カツカツカツカツ
「?」
ふと、背後の気配に気が付くと、その女性はゆっくりと後ろを振り返る。
「誰もいないわよねぇ・・・・」
足を止めて頭を傾げる女性。
だが、既に『それ』は彼女の背後に回っていた。
──ガシッ
背後から口を押さえて抱きつき、身体の自由を奪う。
「ウーンンーーッンーッ」
「大丈夫・・・・快楽ト共ニ・・・・痛ミハ無イ・・・・」
──ドシュッ
ズラリと並んだ牙が、女性の首筋に突き刺さる。
チクリとした感覚が首筋に走る。
一瞬だが、女性は表情を歪め、必死に抵抗を続ける。
だが、やがてその瞳は恍惚となっていく。
全身から力が抜け、そして体内の奥底から別の感覚が駆け抜ける。
「ん・・・・んん・・・・あっ・・・・あ・・・・んんっ・・・・」
身悶え、歓喜の声が押さえられている口から零れた。
そして女性は、今までにない快楽の中で、その生涯に幕を閉じた。
●忍冬芸能プロダクション〜実はMIA札幌支部〜
札幌市中心部。
とある雑居ビルに居を構えているその事務所は、表向きは各種イベント等に人材を派遣する『芸能プロダクション』である。
連日大勢の人がやってきては、様々なイベントに必要な機材の貸し出し、イベンターの出演依頼等を行なっている。
だがその実体は、人の世の闇に暗躍する者たちと戦うある組織。
『対妖魔組織・MIA札幌支部』である。
登録している芸能人のほぼ半数以上はMIAに所属している『術師』と呼ばれる魔術のエリート達。
口コミや企業、はてはインターネットなどでその噂を聞きつけた人たちが『妖魔』に関する被害をここに持ち込んでいる。
妖魔の存在。
この情報社会においては、その殆どが都市伝説として処理されている。
ごく一部、それらを事実として処理しているフリーランサー達も存在するが、巧みな情報操作により、今だ一般市民には『妖魔』の存在は公に知られてはいない。
人は、まだ、妖魔の存在を受け入れる準備が出来ていない・・・・。
「はぁ・・・・了解。全ての調査は終ったのですね。では、今回のケース、『Aクラス処理』として扱いますので・・・・」
のほほんとした表情で電話応対をしているのは、ここの所長であり、且、MIA札幌支部の支部長も兼任している『忍冬昴(にんどう・すばる)』。
彼女の父は、MIAのなにかでも4天王と呼ばれる程の実力を持っているらしいが、その娘である彼女はちゃーんぽらーん。
「さてと。それではメンバー招集。適当なところを6名見計らってね」
そう事務員に告げると、所長は静かにネットサーフィンを楽しんだ。
──という事で
ちいさな事務室。
その一角に、君達メンバーは招集された。
「今回の任務を伝えます。妖魔界より渡ってきた一体の人魔『角卞鬼(かくへんき)』の封印・浄化が今回の任務です」
静かにファイルをメンバーに配ると、そのまま昴は話を続けた。
「角卞鬼の能力は『怪力』と『変化』、言霊の3っつ。そして問題も3っつ」
ホワイトボードにマーカーで次々と書き込みをしていく昴。
「まずは一つ目。そいつが『妖魔界から脱走してきた』という事、そして二つ目、『一人の女性と恋に堕ち』、戸籍を偽って結婚してるという事。そしてこの以後が問題ね」
カツカツカツカツ
ホワイトボードには、一人の名前が記される。
そしてその名前を見たメンバーは、背筋が寒くなってきた。
「角卞鬼は『十二魔将第3位・シヴァ・マハ=カーラ』の元側近であるということ。今回もシヴァ・マハ=カーラが背後で動いている可能性があります」
そう告げてから、最後に昴はふと言葉を落ち着かせて話を続けた。。
「ターゲットの女性は、中の島にある小さなマンションに住んでいます。職業はホステス、夜6時から早朝4時までは仕事に出ているはず。その時間、角卞鬼は彼女の自宅でじっとしている事を確認。諜報部からの報告では、彼女が日に日に弱っているということも確認済み。事は一刻を争います・・・・」
バン、とテーブルを叩きつけて、昴はニィッと笑う。
「装備はA−5ロッカーの全てを使用可能。本部からシヴァが関連しているならという事で、特別に『対魔銃・朧神』の使用許可も出ました。警察にはこちらから連絡を取り付け、協力要請も行ないます・・・・あとはメンバーで作戦を組んで下さい。作戦開始時にはこちらに連絡を。それに伴い、警察官による現場周辺警護、及び報道管制を行ないます・・・・」
それでミーティングは完了。
A−5ロッカーの鍵を受け取った君達は、そのまま備品の確認を行うと別室にて作戦会議を行うこととなった。
●リプレイ本文
●と言うことで〜〜ちょっとまて、その話は聞いていない〜
──MIA札幌支部・会議室
今回のミッションはかなりハードである。
その事を踏まえて、一行は兎に角作戦の準備と綿密な打ち合わせを行なっていた・・・・。
「つまり、今回の作戦は大体このような流れで構成されていくんだよね?」
そうホワイトボードに書込まれている文字を挿しながら、支部唯一の召喚師である無天焔威(ea0073)がそう叫ぶ。
1.ホステスを誘拐、それを餌に人魔を人気の無い場所に誘き寄せる
2.そして浄化
なんて簡単に書いているんだろ。
「だから、そんなに簡単に書くと、細かいところまで打ち合わせができないじゃん・・・・」
そう口を尖らせているのは、退魔師・緋邑嵐天丸(ea0861)。
「僕の方では、既に攫った女性を保護する為の部屋は確保しておきました。同じマンションの別の階で空いている部屋がありましたので。こちらから手を回しておきましたから・・・・」
用意周到とはこの事か。
そう告げながら、気功師・加藤武政(ea0914)はほーちゃん(無天)と嵐天丸の仲裁を行ない始める。
「私は、予め女性の働いている御店に潜入して、彼女の気を引くようにするといいのですね?」
ニコリと微笑みつつ、呪符師のルフィスリーザ・カティア(ea2843)はそう告げていた。
「俺はまあ、兎に角やつを叩き斬っていけばいいんだろ? 面倒くさい事は任せる!!」
愛刀『輝炎』の手入れを行ないつつ、念法師・念氷川玲(ea2988)がそう呟いた。
「移動用のワゴンは昴支部長から借りておきました。運転は私が行ないますし、戦闘時には『時空結界』を発生させますので、一般市民の方たちには一切危害を与えることはないかと思います」
空門師のエキスパート・黒畑緑太郎(eb1822)がメガネのずれを直しつつそう告げた時、会議室の扉がコンコンと叩かれる。
「どうぞー。鍵は開いていますわ」
──ガチャッ
ルフィスリーザの言葉で、静かに扉が開く。
そして事務員の『北風美和』嬢が頭を下げて入って来ると、一行の前に一枚の書類を差し出した。
「追加情報です。今回の件については、『オネスティ』も行動を開始しているという情報を確認しました・・・・」
オネスティ。
アドルフの遺産を受け継ぎ、妖魔との盟約を行ない、この世界の『闇』で蠢く死の商人。
妖魔を人為的に生み出す技術すら持つと噂され、様々な『対妖魔兵器』を作り出し、この世界に送り出している。
中でも、『フュージョナー』と呼ばれている『人と魔の融合体』の研究については、かなりの域まで高まったとも噂されている。
「あっちゃあ・・・・俺、この依頼バスしていい?」
そうほーちゃんが呟く。
「駄目ですわよ。一旦受けた依頼をキャンセルするには、莫大な違約金を払わないといけないのを忘れているのですか?」
ルフィスリーザにそう諭されて、ほーちゃんはショボーン。
「北風さん。オネスティの何処のセクションが動いているのかは確認できていますか?」
緑太郎が丁寧な口調でそう問い掛ける。
「えーっと。セクションG・・・・機甲魔術兵団(パンツァーウィザード)ですね?」
淡々とそう呟く北風。
「ち、ちっょとまった、パンツァーウィザードっていったら、ほら、機械化したフュージョナーに魔術の発動ギミックぶち込んでっていうあれじゃねーのか?」
素っ頓狂な声を上げる嵐天丸。
「はい。その機械化兵団。技術的には一般に公開されていない、オネスティーの最新技術の結晶。動いているそうですよ。それでは・・・・」
「それではって・・・・北風さん、もっとごっつい武器を貸してください!!」
そう頼み込む武政。
「A−6ロッカーの使用許可。といっても、アレを使えるのはルフィスリーザさんだけですか・・・・」
キョトンとした表情で頭を傾げるルフィスリーザ。
「まあ・・・・これを使うのは最終手段ということで・・・・」
──ゴトッ
テーブルの上に置かれたのは、一艇の巨大な銃。
「対妖魔用マシンガン『不知火』!! 対妖魔王・十二魔将クラスにしか使用許可は出ない筈では?」
それほどまでに、オネスティは強力なのであろう。
使用については、『四天王クラス』の許可が必要であり、支部長クラスでは許可を出すことは出来ない代物である。
「まあ、それがあるんならなんとかなりますかねぇ・・・・」
緑太郎はそう告げると、静かにホワイトボードの前に移動し、ほーちゃんの書いた文字をサッと消す。
「ああああ・・・・俺の書いた作戦が・・・・」
──シュシュシュッ
そのほーちゃんの声に一応耳は傾けているが、緑太郎は素早く作戦を書込んでいった。
「まず、ルフィスリーザさん以外のメンバーは私が車で現地に移送する・・・・。そこで警察関係者と合流し、今回の作戦を説明してください」
ゆっくりと全員に聞こえるよう、緑太郎は説明を開始。
「ルフィスリーザさんは女性と接触、そのまま同伴で帰ってください。その途中で私が迎えに行きます。事情を説明しても彼女は納得しないでしょうから、呪符で彼女を静かにしてください」
「判りましたわ」
淡々と説明を続ける緑太郎。
「女性はその後で、一旦加藤さんが確保してくれた場所に避難、MIAメンバーにガードを頼んで置きましょう。問題はそこからですが・・・・」
ホワイトボードの手を止めて、メンバーを見渡す緑太郎。
「あとは、玲さん、彼をおびき出してください。場所はマンション横、豊平川の河川敷で決行です。そこまでいけば、あとは時空結界を私が展開します。一般市民には絶対侵入できない異空間結界。そこで何が起きても、魔術によって構成された空間はこの現世界には全く影響はでませんので・・・・」
机上では完璧。
あとは、妖魔がどう動くか
そしてオネスティの動向・・・・。
何はともあれ、作戦は開始された。
●潜入してみました〜うさぎさんうさぎさん〜
──バニーガールバー『キャンキャン』
「おお、新人かい? なかなか可愛いねぇ・・・・」
ボディラインが強調されるようなバニースーツ、ウサギ耳とウサギ尻尾を装備して、ルフィスリーザは横に座った親父にヘラッと愛想笑い。
だが、その耳は自前。
リーザは兎の獣人であるし、これぐらいは御愛敬という所であろう。
「この子は今日が初めてですの。宜しくお願いしますね」
「リーザでーす。宜しくお願いしますねー」
ターゲットの女性『立花京香』がリーザを紹介する。
(うう・・・・水商売って・・・・風俗だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)
心の中の絶叫はまあ置いておきなさい。
そのまま暫くはお客の接待をしていたリーザ。
だが、この時期にしては珍しくヒマだった為、接客していない女の子達は『控え室』で御休憩。
「疲れた?」
「ええ。でも、風俗ギリギリなんですね・・・・」
「まあ、お触り程度はあるわよ。でも、そこから先は別料金なのよ・・・・」
そんな微笑ましい? 会話を暫く続ける二人。
と、リーザはそろそろかなと、本題を切り出した。
「京香さんって、彼氏はいるのですか?」
「ええ。同棲しているのよ。私にぞっこんでね。いつも私が帰るまで、起きて待っていてくれるのよ・・・・」
楽しそうにそう呟く京香。
(本当に幸せなんだ・・・・いいなぁ・・・・でも、どうしよう・・・・)
楽しそうにそう話を続ける京香を見て、リーザは心が病んだ。
獣人であるリーザは、妖魔に対して『同情の念』など存在しない。
彼女達『獣人族の長』である『竜王・ドラグーン』は、獣人達を捨てて妖魔に組した。
その背徳とも言える行為、そして王を誑かした妖魔を獣人達は許すことはできない。
だが、一人の女性として、リーザは目の前の幸せを壊すという事実に胸を痛めている。
「あら。首の絆創膏・・・・京香さんも隅に置けませんねぇ・・・・」
リーザは京香の首の付け根に張ってある絆創膏に気がつくと、そう冷やかす。
「こ、これは虫に刺されたのよ・・・・」
ちょっと暗い表情でそう告げる京香。
(精気を吸われているんだ・・・・)
──そして
「時間でーす。お疲れ様でしたー」
チーフマネージャーがシフト終了を二人に告げる。
「では、私達は帰りましょうか? お腹減っていない? 美味しいラーメン屋さんがあるのよ」
ネオンが輝き、大勢の人でごった返しているススキノ。
東京の『眠らない街』とはまたべつの趣が、ここにはある。
「あ、実はそこにお迎えの人が来ているのですよ・・・・よろしかったら、京香さんも送りますよ! 彼氏さん、待っているんでしょう?」
ちょうど、すぐ近くで待機していた緑太郎が、クラクションをファンと鳴らす。
「わぁ、助かりますわ。タクシーチケットは貰っているけれど、あんまり使うと店に申し訳ないから・・・・お願いしていい?」
そのまま京香を先に乗せると、緑太郎は静かに車を走らせた。
「京香さん・・・・」
静かに横に座っている京香に声を掛けるリーザ。
「?」
「ごめんなさい・・・・」
──ペタッ
そのまま振り向き様に彼女の額に『呪縛符』を張付けるリーザ。
──ビシィッ
その瞬間、京香は其の場で全身が呪縛されてしまった・・・・。
「急ぐぞ。現場近くに怪しい人物が二人確認されている・・・・」
そのまま緑太郎は車を走らせた。
●強襲〜それがオネスティ〜
──マンション
ピンポーン
全ては打ち合わせ通り。
現場にて待機していた一行は、作戦開始時間になるとにわかに動き始める。
最悪の事態を想定して、現場には私服の警察官が10名待機し、いつでも動けるように構えている。
マンションの呼び鈴を鳴らし、中からの反応をじっと待っている玲。
『どなたですか?』
インターホン越しに聞こえる優しい声。
「お前の恋人は預かった。返して欲しければ黙って大人しくこちらの指示通り動け。その他の行動は一切認めない、その場合女の無事も保障しかねる・・・・まずは出てこい」
──ガチャッ
少しして扉が開く。
中からは端正な顔の青年が姿を現わした。
「いい面しているな。その顔でどれだけの女を誑かして喰った? 妖魔さんよ・・・・」
そう告げると、玲はそのまま無言で男の後ろを歩くと、行き先を次々と指示していった。
──河川敷
やがて角卞鬼と玲の二人は河川敷に到着。
そこに、京香をMIAスタッフに預けたリーザと緑太郎も合流。
「さて、時間ですね・・・・空間よ、かの地域を包む結界を作り、異空間を形成せよっ」
緑太郎は素早く印を組み韻を紡ぐ。
彼を中心とした大規模空間の時空が別空間にシフトする。
「京香は無事なんだろうな!!」
凄い剣幕でそう叫ぶ角卞鬼。
「・・・・妖魔の癖に、餌である人間の心配とは面白い奴だな、お前・・・・」
ほーちゃんがそう呟きつつ、戦闘態勢を整える。
「京香を返してくれ!!」
角卞鬼の『力のこもった言葉』が、ほーちゃんを襲う。
──キィィィン
その言霊の効果により、一瞬意識が遠退くほーちゃんだが。
「甘いじゃん!! 諳摩尼達哩吽撥詑っ!!」
素早く両手で印を紡ぐと、ほーちゃんに掛けられた言霊を解除する嵐天丸。
宝楼閣呪をここまで効果的に使える事など、まず無いかもしれない。
「・・・・悪ィけど、アンタの能力は俺が祓わせて貰うぜ。やっちまえ、玲!」」
その嵐天丸の言葉の直後、玲はグッと拳を突き出す!!
「輝炎っ!!」
その叫びと同時に、玲の手の中に一振りの剣が生み出される。
愛刀・輝炎を体内に『武具合同』することで、玲の持つ輝炎は瞬時に退魔法具としての力を身につける。
「運が悪かったな・・・・妖魔として存在する自身を恨め・・・・」
そのまま静かに角卞鬼との間合をとる玲。
だが!!
「玲、危ないッ!!」
──Brooooooom!!
突然の銃声、それもマシンガン。
何処からともなく、玲に向かってマシンガンが斉射された!!
「石動っ!!」
──キキキキキンキンキンキンキンキンキンキンキッ
素早くほーちゃんが手にしていた『精霊球』から石動を呼び出すと、召喚師の上位術である『精霊進化』により、石動を『力場の楯』として解放、玲の正面にその力場を発生させた!!
「ふぅ・・・・間一髪・・・・」
額を流れる嫌な汗を拭いつつ、そう呟くほーちゃん。
「一体何者だっ!」
緑太郎が銃声のした方向を確認。
と、なにもない空間がグニャッと揺らぎ、二人の人物が姿を現わした。
それは、人であり人為らざる存在。
一人は巨漢、2m位所はあろうがっしりとした肉体。その右腕には、手首より先は存在せず、そこからむき出しの銃身と、肘よりちょっと下の部分には弾倉がはめ込まれている。
その銃口からは、紫煙が立ち上っていた。
その横には、4本の腕を持つ奇妙な人間。
「ふむ。思ったよりも反応がいい・・・・」
「角卞鬼は我々オネスティで回収させて頂く。MIAの御一行は下がって頂きたい!!」
巨漢の漢に続き、四つ手がそう告げる。
そして同時に、角卞鬼は全く別の方角へと走り出した!!
「角卞鬼は止める、そっちは任せたっ!!」
そう叫ぶと同時に、ほーちゃんは角卞鬼に向かって走り出す!!
そしてその後ろ姿めがけて、巨漢と四つ手は戦闘体勢を取るが、素早く玲と武政、緑太郎そしてリーザが立ちはだかる!!
「こっちも仕事なんだ。済まないな・・・・」
一歩踏込むと、巨漢に向かって必殺の一撃を叩き込む玲。
──ガギィィィィン
だが、その一撃を左腕で受止めると、右腕の銃口を玲に向ける巨漢。
「ならば、直接排除する!!」
──ドゴォォォォッ
至近距離での斉射。
だが、それは上空目掛けて放たれた!!
「全く危ないですね。治安国家である日本でそのような武器を使うとどうなるか、知らない訳ではないでしょう?」
それは武政である。
全身の気を高め、それを自らの脚に集中する。
気功師である武政の技『神気走』。
気走法のさらなる上位、選ばれたものにしか使えない神速の脚。
それにより瞬時の巨漢の懐に飛込むと、手にした断罪剣により右腕を叩き上げたのである。
「何ッ!! 視覚に捕らえられない動きだと!!」
戸惑いを隠せない巨漢。
そしてその一瞬の隙を、玲は見逃さない!!
「ハァァァァァァァァァァァァァァァッ」
全身にある念をさらに高め、玲はそれを体内で爆発させた!!
「念・威・衝っ!!」
その叫びは力となり、手にした輝炎がさらに輝きを増す!!
──キィィィン
一撃で巨漢の右腕を叩き斬る玲。
「馬鹿なっ、スティールアーマーを紙のように切り裂くだとっ!」
その言葉の直後、巨漢の首には武政の手にした断罪剣が突き刺さった。
「セクションG・・・・肉体強化系フュージョナーに機械化手術を施すチーム。そこの出身である以上、手加減はしません・・・・」
──ズバァッ
そのまま首が落ち、巨漢は絶命した・・・・。
──一方、別の戦闘エリア
「ケーッケッケッケッ・・・・女、貴様はこいつとでも遊んでいろっ」
四つ手が懐から呪符を取り出す。そして一体の妖魔を召喚すると、それをリーザに向かってけしかける。
「食らえ断空斬っ」
──シュンッ
その直後、四つ手は素早く二つの印を組むと、緑太郎に向かって見えない刃を叩きこんだ。
皮膚が切り裂かれ、血がにじみだす緑太郎。
「こんな妖魔っ!!」
素早く懐から対魔銃『朧神』を取り出すと、いきなりそれを妖魔に叩き込むリーザ。
──ドゴォッ
だが、その攻撃は効果がない。
直撃した部位はゴムのように伸び、そのまま銃弾の威力を殺して弾き飛ばした!!
「嘘っ!! 朧神が聞かない敵なんてっ!!」
驚きのあまりそう叫ぶリーザ。
「そいつは『無偏魔』。如何なるショックも吸収して弾き飛ばす。そんな銃なんて効果ないっ!!」
四つ手はそう叫ぶと、再び印を組む。
──・・・・ィン
だが、その手は肩口からボロッと堕ちる。
「誰に向かって空門の技を使っている? 断空斬はこう使うんだ・・・・『空、断・・・・我が手に宿れ、神代の剣っ!!」
再び真空の刃が発生する。
それは四つ手の体表を空間ごと切断した!!
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
絶叫を上げて其の場に倒れる四つ手。
「おたくの技は真空による刃。断空斬ではないんだよっ!!」
そのまま四つ手の額に手を当てる緑太郎。
「精神よ、彼の者の意識を捉え、我が声に従わせよ・・・・『そこでじっと眠っていろ!!』」
精操天昇。
対象の行動を強制する魔術。
空門師の持つ術でも、かなりの上位の技である・・・・。
「キャァァァァァァァァァッ」
突然リーザの悲鳴。
無偏魔が両腕を延ばし、リーザを掴む。
胴体をぐるぐると締め付け、その強さで『朧神』が手から落ちる。
「グワッグワッ・・・・オンナ、タベル・・・・」
そう呟きつつ口を開く無偏魔。
と、そのタイミングで、リーザは袖から一枚の札を引出す。
「このタイミングを待っていたのよっ!!」
札に記されている文字は『御納』。
呪符師のさらなる上位、選ばれたものにのみ伝えられる口伝の技。
張付けた対象を呪符の中に格納する札。
そしてその呪符が解放されると、リーザの手には、一艇の巨大なマシンガンが握られていた。
──ガシャッ
それを口の中に突っ込むと、リーザは静かに呟く。
「口径5.56mm×45・・・・最大初速1000m/sec・・・・装弾数30発の術法浄化弾よ・・・・さようなら妖魔さん」
──ガチャッ・・・・
トリガーが絞られる。
その瞬間、無偏魔は一瞬で浄化した・・・・。
──そして
「貴方はもう人を殺してしまった・・・・共存の道は断たれ、このまま調和を乱すなら・・・・ごめんね」
ほーちゃんは手にした我心晶をギッュと握り締めると、左手に納めている精霊球より一体の精霊を召喚した。
「水晶よ、その内に精霊の意志を封じ、自在に操る力となれ・・・・い出よ大地の精霊、都牟刈(つむかり)っ!!」
一瞬の輝きの後、ほーちゃんの手には一振りの『七支刀・都牟刈』が握られていた。
「何故・・・・私は京香と共に暮らしていたいだけなのに・・・・」
そのまま右の拳をギュッと握る角卞鬼。
「その大切な人の精気すら食らって生きる。それがあんたの愛なのかっ!!」
素早く踏込むと、剣を一閃!!
──ドシュッ
一撃で角卞鬼は左半身が吹き飛ばされる。
「これで お終いだっ!! 普賢三昧耶大金剛輪・外獅子内獅子・外縛内縛・智拳日輪・隠形つ!!」
次々と印を組、梵字を叩き込む嵐天丸。
そして最後の一文字が叩き込まれた時、角卞鬼は浄化された・・・・。
「あとは、彼女の記憶だけ・・・・か」
「封印術師が待機していますから、終了報告をしに向かいますか」
嵐天丸の言葉に、武政がそう答えた。
●まだ終らない〜哀しき人魔〜
──ワンルームマンション
「と言うことです・・・・」
一通りの説明を行うリーザ。
彼女にはまず真実を知って欲しい。記憶はその後で消えるのだけど、なにも知らないまま消えていくのは哀しい。
その思いで、リーザは京香に事の顛末を説明する。
悲しみに泣き崩れる京香。
だが、封印術師は京香に一枚の札を張付けると、そのまま彼女を眠らせた。
「あとはこちらで、ご苦労さまでした・・・・」
その言葉に従い、一行は車で事務所へと戻っていった・・・・。
──移動中
「後味悪すぎ・・・・」
ほーちゃんがそう呟く。
「予測範囲外の連中まで出てくると、ちょっとなぁ・・・・」
玲もそう横に座っている嵐天丸に話し掛けるが。
「緑太郎ストップストップ!! 前に誰か立っているってば!!」
慌てて急ブレーキをする緑太郎。
「全く、こんな夜中にどこの不良のよっぱら・・・・い・・・・っと・・・・」
全員が正面の存在を凝視する。
それはどこから見てもハードロッカー。
背中に背負った巨大な剣を引き抜くと、それをゆっくりと構えた。
その刹那、額に第3の瞳が現われる!!
「しばしばばばば、シヴァ・マハ=カーラっ!!」
一斉に車から飛び降りる一同。
──キィィィンッ
そして一閃、車が一撃で真っ二つに切り裂かれた!!
「人間、お前たちはとんでもない事をした。恋する女性の気持ちを踏みにじり、恋人である妖魔を浄化した・・・・」
「妖魔は浄化されて当然だっ!! あんたも浄化して欲しいのか?」
玲はそう告げて、再び体内より剣を召喚するが。
「まあ、その償いは受けてもらう。が、それを行うのは私ではない・・・・」
スッ、と、一同の後方を指差すシヴァ。
そこには、一人の女性が駆けてくる姿が見える。
顔には悲しみを形取った仮面。
その肉体は異様なほどに膨れあがり、筋肉が剥き出しになっている。
「京香さん・・・・シヴァ、貴様彼女に何をした!!」
武政が断罪剣を引抜きそう叫ぶ!!
「彼女が悲しみに囚われていたので・・・・ちょっとだけ、後押しをね・・・・彼女の付けている仮面は『獣魔の仮面』。人を妖魔化する仮面・・・・もう、彼女は人間ではない。大切な恋人を失った、『復讐鬼』という名の人魔なのだよ・・・・さあ、戦いたまえ!! そしてさらに罪を増やせ!! 妖魔と化した存在は、もう人には戻れない!!」
そう告げると、シヴァは姿を消した。
「駄目・・・・。戦えないよ・・・・人間だったのでしょ?」
リーザが涙を浮かべてそう叫ぶ。
「それでも、戦うしかないじゃん・・・・俺達はMIAなんだから・・・・人を護るのが使命だから・・・・」
静かにそう告げると、嵐天丸は素早く印を綴る。
「少し時間がかかるから、足留め頼むじゃん」
ゆっくりと己を高める嵐天丸。
その間にも、リーザを除く一行は京香だった人魔に向かって攻撃を開始する。
だが、その全てが弾かれ、魔術は抵抗され、どうにか動きを鈍らせるのが精一杯であった。
「天と地と人と魔と・・・・光と闇と、月と陽。対極なる二つの力持ちて、神界より沸き上がれ煉獄の焔っ!! 獄炎聖破!!」
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
その詠唱終了と同時に、京香が漆黒の炎を身に纏う。
如何なる存在をも焼き尽くす退魔師最大の魔術『獄炎聖破』である。
全身が燃え落ち、仮面が焼けはずれたとき、京香は炎の中で泣いていた。
「あの人の元に・・・・帰れるの・・・・ね・・・・」
──ファサッ!!
炎が止まる。
そこには、京香だったものの灰が残されていた。
人を護る為の存在。
彼女を護るために戦った。
妖魔は打ち払った。
だが、それで本当に正しかったのか・・・・。
一行は、やるせない気持ちのまま、其の場を後にした。
「辛い戦い・・・・もうこんな悲劇がおきませんように・・・・」
〜物語は始まったばかり・・・・