続く物語『クリカエシ 〜Endress hate〜』
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:フリー
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年09月13日
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●オープニング
「作戦の基本方針は、言ってしまえば漁夫の利を得る事にある。保有戦力で劣る我々だが、その分相手からの警戒も低い。両軍が疲弊した頃合を見計らって前進、相手の被害を拡大させ、戦力を削るのが今回の作戦の目的だ」
AERGR穏健派、それが君達の所属している組織の一派だ。この一派と、先程出てきた『両軍』の事は、追って説明するが、ともかくも今の自分達の勢力は他の二軍に比べて明らかに劣っている。故の今回の作戦である、ここで躓けばそのまま舞台より退場する事になるだろう。
他の二軍はそれぞれ、やや旧式ではあるがSAの数を揃えた部隊と、数は少ないが最新のSAを揃えた部隊を主軸としている。どちらの軍に向かうかは今の内に希望を出しておいてもらいたい。
−−−
それは、誰の叫びであったのだろうか。
「誰か‥! 誰か答えろ! 俺達はこんなものの為に戦ったのか!」
時はA.E0115年。0107年の年明けと共に始まった、今では07年戦争と呼ばれている地球と宇宙の戦争は、その名の通りに07年が終わると共に終わった。最終的な勝利は地球側にもたらされたが、その後も地上に残った宇宙軍の残党の対処は長く続いた。
そして、7年間の月日が流れ、宇宙軍の残党も殆どが撃退され(本当の所は、0111年に大掛かりな反抗作戦を展開した後、木星圏へと撤退していったらしいが)、地球も宇宙のコロニー群も、戦争による疲労を回復させていた‥。
「全く、最近の連合政府はどこかおかしいぜ‥」
「そうか? この前コロニーが一つ潰されたっての、テロリストの仕業だろ? 仕方ないんじゃないか?」
「そうだぜ。勘弁して欲しいよな、影響受けるのは俺達一般市民だってのに」
とあるコロニーの街角、小洒落た喫茶店でダベる若者達。
07年戦争で勝利を収めた地球側‥連合政府は、戦争の再発防止を名目に、戦争前よりも更に宇宙のコロニー群への締め付けを強めていた。連合政府の中でも鷹派と呼ばれるグループの主導によるそれは、反発を招くのが容易に分かる程に強引なもので、反地球連合の組織AERGRを生み出す要因となっていた。
そして、AE0115年9月初頭、地球圏への旧宇宙軍の木星圏よりの帰還をもって、戦争の火と憎しみの渦が再び地球圏を覆いつくす事になる。
地球軍と、旧宇宙軍+AERGR強硬派、その二つの勢力のぶつかり合いは瞬く間に地球と宇宙の主要拠点での戦闘を激化させていく。最新のSAである可変式SA、それも続々と投入されていく。人は、何度あの凄惨な悲劇を経験すれば、その業を払う事が出来るのだろうか。
この状況に、AERGR穏健派も事態を収拾すべく行動を開始。こうして、3つ巴の戦いが幕を開ける事になる‥。
●リプレイ本文
●嘗て、敵同士
「青い空、白い雲、潮風の匂い、野山に満ちる草いきれ‥そんな、何でもない地球が好き。‥宇宙の人達は何でそれを非難するのかな? 地球の引力に魂を引かれたとかなんとか、僕にはわかんないよ」
「知らないから、分からんのだろう。青い空、白い雲‥それらだけではない、何よりもまず空気等、おおよそ生きる為に必要な物を地球に握られているが故に、宇宙に住む者達を地球に住む者達がどう扱ってきたのかを」
メロディ・ブルー(ea8936)と黒畑 緑朗(ea6426)、今はこうして共に目の前に広がっている宇宙を見ながら言葉を交わしているが、地球と宇宙‥彼等が過ごしてきた世界は、あまりにも違い過ぎていた。
「でも、宇宙軍や今のAERGR強硬派のやり方は‥」
「だから俺達は今ここに居るんだろ?」
尚も食い下がろうとするメロディを、レジエル・グラープソン(ea2731)の言葉が遮った。
緑朗は元宇宙軍、レジエルは元地球軍、今は二人ともAERGRに所属している。勿論、それはメロディもそうなのだが、嘗て敵同士だった者が今はこうして共に在る。
「戦争してえって奴は、止まらねぇからな。少なくとも、ピンピンしてる間は止めようって考えは欠片も思わねえ」
更に、バーク・ダンロック(ea7871)が会話に加わってきた。
人が戦う理由は様々‥。目の前にある戦いが避けられないものならば、少しでも早く戦いが終わるように‥。戦いを終わらせる為に戦う、一見矛盾したような考えの下にAERGR穏健派は動こうとしていた。
●宇宙に散り咲く華は
「あのややこしい変形機構! 偉い人は戦争がなんだかわかってないのよ」
「全くだ、戦争なんてものは美味い物食ってる奴が勝つに決まっているものだ」
ヘルガ・アデナウアー(eb0631)の前にずずいっと差し出される、尾花 満(ea5322)製作の本日のAランチ。
「可変型SA‥本当なら平和な時代の広域治安にこそ、真価を発揮するのに・・・大規模戦争で使われるなんて、あの子達がかわいそうだわ」
元々、可変型SAはどう足掻いても数に劣る旧宇宙軍が開発したもの。相変わらず、後方支援関係を疎かにした方針は変わっていないらしい。AERGR強硬派と協力関係を結んだ事は、その辺りも少し関係しているのかもしれない。
「しかし、軍縮が可能だとして今の地球軍がそれをするとは思えないがな」
数年前の、旧宇宙軍の一斉蜂起による一大作戦‥その後の地球圏から木星圏への離脱。地球連合内で、おおよそタカ派と呼ばれる者達は、これを境にして一気に勢力を伸ばした。‥ように見えるが、実際は元々より計画されていた事。数年前の旧宇宙軍の一大作戦は、たまたまそれを後押ししたに過ぎない。
ハッチが開かれ、鋼の巨人が加速する。やがて、脚の拘束を解かれたそれは、漆黒の宇宙へと飛び立っていく。足元に広がるのは、ただひたすらに灰色をした荒野。月面基地の前面に展開した旧宇宙軍は可変式SAの特性を活かし、攻勢防御に出た。
「来やがったな、宇宙軍の一つ目小僧ども! 各機、散開しろ!」
頭部がモノアイなのは、旧宇宙軍のSAの特徴。従来のSAを大きく越えて高速で接近する相手を、地球軍が迎え撃つ。
「ちっ、動きが速ぇ‥」
宇宙空間での戦闘は、やはり可変SAの分があるようだ。一機、また一機と地球軍のSAが宇宙に華を咲かせていく。
●誰かの命と一緒に散り咲く物
「両軍そろそろ息切れしてきたようだな、仕掛けるぞ機関再動!」
レジエルの指示により、AERGRの新造艦、ゼーガイストが前進を開始する。開戦当初こそ旧宇宙軍は優勢だったが、やはり物量の差は戦力として大きすぎる差である。次第に戦場は月面付近へと移って来ていた。
「任務、開始」
緑朗のSAを先頭にして、戦士達は戦場の真っ只中に飛び込んでいった。
「がはは、周りは全部敵だらけってか。これなら狙いを付ける必要もねぇな。いくぜっ! オーラアルファーーー!」
鉄塊のような重装甲SAから、無数のミサイルが放たれる。相手が地球軍か旧宇宙軍かは、どころか敵味方も関係無いような攻撃に、何機ものSAが巻き込まれる。
「突っ込んできたと思ったら、何なんだよアイツは!」
「おらおら、そんな攻撃じゃ、ギガントの装甲にゃ傷一つ付けらん‥。な、なんだありゃ!?」
暴れまわり始めたバークのSAのモニターに映る影、それは‥
「そいやぁー! 撃滅!!」
無数のミサイルをいとも簡単に掻い潜り、バークのSAへと肉薄した死神。
同機体の戦闘。となれば、勝敗を決めるのは互いの力量のみ。
「どいて! 僕達の目標は君達じゃないんだから!」
メロディ達の狙いは輸送艦。AERGR穏健派の今回の作戦目的は、両軍を疲弊させる事。両軍の戦力が減っていけば、自分達の介入のやりやすくなるし、両軍の司令部に停戦という考えも持ち上がる。
「そ、双刀の緑のSA!? まさか‥!」
「遅い‥!」
緑朗のSAが変形からの強烈な斬撃を放つと、防御が間に合わない相手は片腕ごと胴体部に損傷を受ける。
「おっと。殺気てな、脳に直接響いてくんだ」
後方から迫る相手の攻撃を受け止め、お返しとばかりに満のSAはスパイクナックルで殴り飛ばす。
「しかし、やはり数の差はどうにもならんな‥!」
彼等の部隊は確かに相手の輸送艦を何隻も沈める事に成功していたが、やはり自軍戦力の数の不足を覆す事は出来ない。
「早めに後退しないと‥」
「この一戦で全てが決まるわけでは無いからな。ここらで後退するとするか」
「頃合のようだな、撤退してくる友軍を支援する。控えさせていたSAを出撃させろ、私も出る」
同じ頃、艦の指揮を行っていたレジエルも撤退の頃合を感じ取っていた。戦力の面で他の二軍に劣るAERGR穏健派は、下手に留まる事は許されない。
「ドーラム、待たせたな」
レジエルのSAコックピットの中には、二枚のタグが括りつけられていた。
「あの可変機での再出撃は無理だわ。出撃は通常SAで! 分かった!?」
別のハンガーの前では、ヘルガが一旦後退して来ていたパイロットを怒鳴りつけていた。
今回の月面基地での戦闘に前に、何度かの小競り合いがあった。その時に可変SAの欠陥とでも言うべき点が発見されていたのだ。その複雑な機体構造ゆえのトラブルの多さ、テスト時と実戦との整備環境の差がそれを浮き彫らせたのだ。
(「不完全な機体で送り出して、それでみんなが帰ってこないなんて‥‥嫌よ‥」)
文句を言いながらも、パイロットはヘルガの指示に従って通常SAで出撃していったのだった。
●鋼の悪魔
「む? あれは‥地球軍の新兵器か?」
「え‥?」
緑朗の言葉に応じて、撤退を開始していたAERGR穏健派の部隊がある存在に気づく。
「た、大尉! なんなんですかアレは!」
通常のSAの2、3倍はある巨体、全長40m程度だろうか。
「識別信号は地球軍のものを出している。各機、散開して警戒しろ! ああいうタイプ相手に固まっているのは危険だ!」
「了解!」
だが、その散開したAERGRの部隊に対して、謎の巨大兵器は無数の光条を降り注がせる。
「うおっ!? あっぶねぇ!」
「くっ! 味方が‥!」
異常なまでの正確な射撃、それも複数の相手に対して同時にだ。満、緑朗、メロディ以外のSAは回避しきれず、一部は腕や脚を失い、一部は爆散する。
「ああも、乱射されては!」
「近づけんか!」
緑朗と満のSAも後退を余儀なくされる。いや、後退するのは元々からの予定だが、こんな相手を引き連れて後退したのでは、自分達の母艦が危うい。近接戦闘用にチューンされた二人のSAは、相手の正確過ぎる射撃に接近を阻まれていた。
「損傷しているSAは無理をするな、一旦帰艦するんだ!」
力押しに進んでくる相手に対して、レジエルの大口径バズーカが火を吹く。
「艦長!?」
彼等の他の艦は、既に多くのSAを収容し終えて一斉後退のタイミングを計っていた。最も戦力が揃っている彼等の艦が、今は殿を務める形になっている。この事は、力があるが故の辛いところだろうか。
「各機、攻撃を敵大型SAに集中させろ! 撃破の後、すぐに撤退だ、いいな!」
「撃破撃破って、そう都合良くは行かないけどねー」
敵大型SAの影から二機、新たにSAがレジエル達の部隊へと襲いかかる。
「ダメだぜあれは、綺麗だろ?」
幾筋もの光条を背に迫り来るSA、この二機のSAも大型SAと同様に今までに見た事の無いタイプだ。
「こんなに新型が‥!?」
「旧宇宙軍も、地球連合も、こんなに早くに新型を投入してくるとは‥」
この戦場の中で、宇宙軍の可変式SAの改良型も緑朗達はいくらか遭遇していた。
「とにかく、新手は俺と緑朗が相手をしよう。艦長はメロディや他の者と一緒に大型SAの方を」
旧宇宙軍やAERGR強硬派、それに地球連合も、随分前から真っ向から相手と事を構える気でいたようだ。でなければ、数年前の旧宇宙軍の残党蜂起事件を考えたとしても、こうもポンポンと新型のSAの開発が進むわけがない。
「こんな‥」
「メロディ中尉、気を抜くな!」
目の前の光景に愕然とするメロディを叱咤し、他のSAと共に敵大型SAに向きあうレジエル。
「おらおらおらぁー!」
「ぬぅ‥!」
相手の攻撃を、交差した剣で受け止める緑朗のSA。
この後、AERGR穏健派の部隊はなんとかこの窮地を脱し、予定より多少被害は多くなってしまったものの、いち早く戦場より撤退する事に成功したのだった。
●タイタニックス、台頭
「我々は確かに月面基地攻略作戦に失敗した。だが! 旧宇宙軍の木星圏よりの帰還、彼等は未だにこの地球を支配する事を諦めておらず、AERGRという組織はそれに加担するというのだ。力によって事を成そうという彼等に、この地球を治める事が出来るだろうか! 否! 断じて否である! だからこそ、我々タイタニックスが立つのだ!」
‥月面攻略作戦は、地球軍の敗北に終わった。しかし、どうやらその部隊構成はタカ派の息のかかった部隊は殆ど配備されておらず、この月面攻略作戦の間に地球連合のタカ派はその勢力を更に増大させ、地球連合全体の軍備増強の口実を作り上げた。
「そ、そんな‥」
タイタニックスの代表者の演説は、まるで全てを想定していたかのように、月面基地での戦闘から幾日も経たずに地球圏に流れた。AERGR穏健派の部隊の中で、人一倍愕然としていたのはメロディだ。
「まんまとハメられたと言うべきか‥」
緑朗は苦虫を潰したような顔している。
「いや、確かにこれはやられたと言うしかないが、強引な手段な事は間違いない」
「‥え?」
地球連合内部には、まだまだタイタニックスに反目する勢力があるという事。それが、今後の‥この戦争の行く末を決める鍵になるのかもしれない。
「とりあえず今からが仕事の本番だな。艦長、隊員達に飯のリクエストを受け付けるとでも言っておいてくれ」
だが、今は戦い終えた戦士達に休息を。
途切れぬ憎しみがこの地球を覆うとしても、いつかそれが払われる日が来る事を信じて‥。