●リプレイ本文
・西暦2021年:インド・アーリア連合の勝利により、第2次核大戦終了。この年を以て阿修羅歴元年とする。
・阿修羅歴45年:汚染された地球に見切りをつけ、大々的な太陽系内の開拓始まる。
・阿修羅歴57年:火星にて1メートル四方の7つの黒い立方体(キューブ)が発見される。この撤去痕からドワーフ星系、ドラゴン星系、エルフ星系、エレメンタル星系、ジャイアント星系、パラ星系、シフール遊星へ到達する空間の歪み(歪曲点)が発見される。
・阿修羅歴58年:世界初の超常能力者の発見の報がもたらされる。
・阿修羅歴62年〜阿修羅歴274年:人類七つの外惑星への大躍進の時代。ファーストコンタクトが始まり、人類と平行進化した異星人の交流が始まる。
・阿修羅歴321年:エレメンタル星系の古代遺跡から、古代の精霊達が己が身を以て封じた異界、魔界と天界の存在に関する文書を発見。
7つのキューブが封じていた歪曲点は、魔界と天界に通じていたものではないか、という学説が発表される(異界の九陽説)。
・阿修羅歴323年:魔界との接触を恐れたエルフ星系がこれ以上の歪曲点の使用を禁止するべきと提言。同年、エレメンタル星系、ドラゴン星系も提言に同調。他の4つの文明圏ならびに地球との緊張が深まる。
・阿修羅歴327年:エルフ星系、エレメンタル星系、ドラゴン星系、火星の歪曲点を占拠に武力行使、エンシェント・トライアングル紛争の開始。
・阿修羅歴328年〜588年:エンシェント・トライアングル紛争激化。呼応するかのように超常能力者の発生率増大、全星系合わせて3桁の大台に。
・阿修羅歴589年:全湾曲点破壊のため、エレメンタル星系の全超常能力者を犠牲とし、星系に満ちていた全精霊力を集中、火星は破壊される。しかし、肝心の湾曲点は破壊できず。エレメンタル星系物理的にも崩壊へ。
同年、エルフ星系とドラゴン星系、降伏。エンシェント・トライアングル紛争集結。
・阿修羅歴597年:超常能力者発声増大傾向消滅が確認。
・阿修羅歴621年:キューブの解析本格化。AIである事が判明する。
・阿修羅歴634年:解析されたキューブの精霊力増大能力によるエレメンタル星系の精霊力復活構想立ち上げられる。ツイン・ヘヴン計画と命名。
・阿修羅歴711年:ツイン・ヘヴン計画発動。7つのキューブ、初めて全てが連動される。精霊力増大を促す作用の存在が超常能力者の運用によっても確認。
・阿修羅歴719年:キューブの暴走により、火星付近の空間に新たにふたつの歪曲点が発生。天使と悪魔が地上に降臨、大規模な戦闘を開始する。異界の九陽説、立証される。この戦いにドラゴン星系以外の文化圏は静観を発表し、孤立した地球はファースト・ハルマゲドンに陥る。ドラゴン、天使、悪魔、そして人類の交錯した戦いにより、地球にいた人類の72%は最初の一週間で死亡。
・阿修羅歴722年:エレメンタル星系にあるキューブを用いて対魔王戦への決戦兵器、ドラゴン星系の技術供与を受けて、モータルス・ロードのプロトタイプ“破軍”がロールアウト。
同年、地球にいた内で“比較的”人類に友好的に思えた天使に助力を請う。天使側も協調し、更なる技術供与により、モータルス・ロードは試験騎から、実用騎へとステップアップ。
・阿修羅歴723年:静観を決め込んでいたエルフ星系、ドワーフ星系、ジャイアント星系、パラ星系、シフール遊星も地球の奪還に助力。残る6騎のモータルス・ロードも参戦。悪魔との決戦に。しかし、人類の89%も死滅に。悪魔側の七大魔王とモータルス・ロードと刺し違える、悪魔達の大多数、魔界へと退去。一部は外惑星に逃れてゲリラ活動に移る。
・阿修羅歴727年〜832年:天使とドラゴン星系が歪曲点の管理を巡って、元火星宙域で大規模な戦闘な戦闘を繰り広げる、セカンド・ハルマゲドン勃発。
人類を含めて、各文化圏は交流が断絶。悪魔のゲリラも加わり、戦況は常に混乱したものであった。
・阿修羅歴833年:リストアされたモータルス・ロード、御前七天使と刺し違えて、天使達を天界に放逐。
しかし、ドラゴン星系よりの、モータルス・ロード2騎を以て、魔界と天界への歪曲点封鎖案はインド・アーリア連合により却下された。
・阿修羅歴899年:ラスト・ハルマゲドン。ドラゴン星系総力でモータルス・ロード破壊の大闘争に出る。七大竜王が出陣するも、モータルス・ロードにより完全撃破され、地球人は少数ながらも、戦争の全権代理人たるモータルス・ロードの戦闘力のみにて九陽の事実上の覇権を握る事になる。
・阿修羅歴900年〜998年:人類は最復興に、その間にも他の星系では事実上最大級のサイズ千米級戦艦の百機単位の配備に余念がない。
(シフール星系のみその様な動きはなかった、そもそも闘争など考えていなかったのかもしれない)
・阿修羅歴999年:現代。ドラゴン、エレメタル、天使、悪魔、の遺失技術を用いて、モータルロードは、更なる進化を遂げ、インモータルスロードともいうべき、新騎体へと改装。その実験中に暴走。一級災害として、モータルス・ロード各騎にサーチ&デストロイの指示が出された。
現存超常能力者数、82名。
五百米級巡洋空母『カナルコード』は外惑星の夜の中を突き進んでいた。
噴出するガスによりはためくインド・アーリア連合を示す半旗は『破軍』により、すでに葬られたモータルス・ロードの騎手へのせめてもの餞であった。
モータルス・ロードの整備用デッキから、碧色の瞳でその半旗を眺めるバスカ・テリオス(ea2369)は育ちの良さそうな顔立ちに焦りをつのらせ、歯がみしながら呟く。
「私は、戦う以外に何もできぬ男です。けれど、決して無力では無いはずです──みんなの犠牲は無駄にしません」
そんな彼のパートナー、シフール星人のミラルス・ナイトクロス(ea6751)は可愛らしいメイド姿のまま、羽根をはためかせながらバスカの周りをふわふわと浮かんでいる。
「大丈夫です。バスカ様はきっと生きてかえれるですから。だって、わたくしがおそばにつかえているのですぅ」
「ミラルスさんは賢いな──きっと、シンカさんもディマーナさんも、これ以上の暴走を望んでいない筈ですしね」
「破軍、背負えば必勝、向かえば大敗と言われる星の名だったか」
ふたりの世界に、物静かに割って入る夜十字信人(ea3094)。
名前に似合わぬ赤毛と白い肌の持ち主。しかし、透き通る様な黒い瞳はその名前の如く深く澄んでいた。
信人の出自は元某国陸軍の歩兵大隊所属の軍曹だと知り合いは皆知っている。
しかし、そんな彼が現在のモータルス・ロードの騎手という役職に就いた経歴は、任命した政府上層部と本人のみしか知らない事であった‥‥。
「夜十字特務軍曹、武曲のキューブは回収できたのですか?」
バスカは冷静に尋ねる。
「ああ、けるとのおかげでな」
その会話の合間に白兵戦打撃用の大型剣を装備した貪狼がハンガーインしてきた。
貪狼という騎体の外見としては、漆黒に赤のラインが入った装甲がまず第一印象として目につくだろう。続いて鋭利さという言葉を具現化した様なデザインの頭部には真紅の鬣。
まさしく、暴力的、激情的なイメージ持つ騎体であった。
そのコ・パイロットであるパラ星人の少女、凍瞳院けると(eb0838)が貪狼のコクピットから顔をのぞかせる。
パラ星人は全般に若く見えるが、彼女は正真正銘の少女であった。
しかし、年に似合わぬ白髪と儚げな白い肌。それでいてつぶらな瞳が、見た者に強い印象を残す。
バスカの問いに彼女は堅苦しく答える。
「キューブは生命力を発しているので、自分の超常能力でも発見できます。しかし、直径240メートルの範囲では宇宙空間で発見するのは困難であります。それよりも、自分は武曲のふたりを救出できなかったのが心残りであります、サー」
長期間のミッションで体調を崩したのか、ふだんより蒼白な顔色を心配した信人が、けるとに促す。
「顔色が悪いな、けると? 軍医の所に行け。命令だぞ? 嫌だっていうのは──判っているけれどな」
「特務軍曹殿の命令でも、それだけはまっぴら御免であります、サー。それより、ディマーナ特務少尉とシンカ特務少尉の身の方が気になるであります」
虚勢を張るけるとに、バスカも心配そうに尋ねる。
「広域範囲索敵の超常能力と言えども、やはり使用しすぎは禁物です。戦友として尋ねます、本当に大丈夫ですか?」
「とりあえず、けると様もベッドで眠ると良いのです」
ミラルスはそのまま、ふわふわと碧の髪と、羽根をはためかせて、けるとの元に飛びゆく。
「バスカ殿、本当に自分は大丈夫であります──信人ぉ!」
脱力した体を無重力空間に投げだし、けるとは、自室に戻ろうとする信人に追って縋る。
「子守歌でも歌って欲しいのか?」
冷たい信人の態度の中にも、確かな埋み火を感じる、けると。
「信人の莫迦──。自分が行きたいのは食堂であります」
「食って元気になるなら、付きあわせてもらおう。見ているだけだがな‥‥」
「では、遠慮無く食べさせていただきますであります」
「ああ、何て──うらやましいおふたり。もとい、バスカ様が、私のご主人様でございましたら、私は‥‥ああ、いけません‥‥!」
「どうしたミラルス? けるとから、何か病気でももらったか?」
(どうしたら、バスカ様に私のこの熱い思いを判っていただけるのでしょうか? でも‥‥でも、一生、判ってもらえなくても構わない‥‥それは愛という名の忠誠心──)
ミラルスは顔を蒼白にして退出した、けるととは対称的に顔を赤らめる。
ハンガーデッキから出ようとするミラルスを微笑ましく見守ると、バスカは顔を赤らめる自分のコ・パイロットとは裏腹に表情を引き締めて、自分とミラルスの愛騎“文曲”の次の出撃の為のオーダー表を片手に、メンテナンス班へとてきぱきと指示を出していく。
「いつも通りの装備で構いません。対打撃武器用としてランスと、ビームガン、そう──取り回しのいいハンドガンタイプのものをお願いします。マシーンストッピングパワーよりも相手を牽制する為に使うだけです。ランスの重みでずれた機体のモーメントバランスをこれ以上、崩れさせる訳には行きませんから。
逆に駆動系周りはミラルスさんの超常能力の補助があるので、かなりピーキーに設定しても構いません。
──いえ、マニュアル通りのセッティングにしても、破軍相手では1マイクロ秒の遅れが命取りになりかねませんから──この表通りのセッティングでお願いします」
最古のモータルス・ロード、しかもそれを改装したというまさしく怪物。そんなマニュアルに無い相手との戦いだ。自分とパートナーの生命を守る信念が試される時でもあった。
(──ミラルスさんを護るため、心のオアシスを生き延びさせるためにも、最善を尽くさないと。そして、やると決めた以上、力尽きるまで、突き進むだけです‥‥)
自分との勝負でもある文曲に対するセッティングへの細かい注文は中々終わりそうに無かった。
もちろん、自分の船室に戻ったミラルスの妄想も。
(はあ、ご主人様、もうたまりませんわー。え、まだですか‥‥)
その頃、けるとは、満腹になって、自室のベッドの中で安らかに眠っていた。
「やれやれ、やっと落ち着いたか──」
信人はけるとの自室のドア越しに聞こえてくる健やかな寝息を聞いてようやく安心した。
それから2日後、内惑星方面に探索に出ていた偵察艦の一隻から連絡が途絶え、続けて直線上に存在する様々な施設からの連絡が途絶えるという事態へと事件は発展した。
その報を破軍の仕業と判断した『カナルコード』は内惑星方面に転進し、最大巡航速度で、その破壊者の頭を抑えようとする。
当然、地球本部からの指示も撃破を至上のものとして、ヒステリックに破軍への攻撃を命令してくる。
そう、破軍の進行方向の延長には元火星軌道上の歪曲点が存在したのだ。
「撃破命令か‥‥。そう急くな。滅びの切っ先を向けられている者が、まだ投げてはおらんのだ。‥‥少なくとも、後ろにいる小さいのはまだ諦めては居ない」
緊急発進に備えての貪狼のコクピット内で、信人は、けるとに言い聞かせるかのように力強く語る。
「そうでありま‥‥す。と‥‥信人の言うとおりです。あ、駄目、貪狼、自分の心を侵さないで‥‥」
けるとは赤面しながら、誰に何を言っているのか、判らない言葉を発する。
「けると‥‥AIキューブとのリンクを切るな、再接続に時間がかかる。それに‥‥僕と繋がっていて欲しい──」
育ちの良さ気な顔に朱を昇らせ信人は、けるとに話しかけた。
同時刻に文曲のコクピット内部ではバスカとミラルスが一層、激しく互いを求め合っていた。
「あー、文曲にお帰りなさいませ、ご主人様。ミラルスをあなただけのメイドにして下さい」
ミラルスの声に、バスカは応える。
「判っています。何時までもあなただけのご主人様でいてあげますよ」
「何時までも‥‥なんて嬉しい。ミラルス感激です。本当に何時まででもご主人様にご奉仕して差し上げます。この体で出来る限りの事は何でも」
「シフール星人はちっちゃいですからね──でも、そんなミラルスさんと一緒に居られるなんて‥‥僕は九陽一の幸せ者です」
そこへ緊急発進のビーコンが鳴り響く。
「モータルス・ロード各騎へ、発進デッキに進んでください──破軍を補足しました」
一同に緊張が走る。
メンテナンスがハンガーデッキから退出し、モータルス・ロード──貪狼、文曲──は騎体を待機状態から、出撃状態へと切り替える。
「各関節反応320パーセント上昇も夢ではございません!! いざ、フレイムエリベイション!!」
叫んだミラルスの超常能力により、文曲の全身が淡い赤い光に包まれ、16倍の効果で発揮されるフレイムエレベイションが周囲の対象。即ち貪狼と『カナルコード』にも付与される。
「打撃武器に魔力を集中、バーニングソードを発動します!! れっつ・いぐにしょん!!」
続けて同じくミラリスの超常能力により、文曲と貪狼がランスと大剣を触れあわせた一点に淡く赤い光が集中する。激しい炎が、互いの武器を炎の精霊力に包み込ませた証。
「広範囲索敵開始であります‥‥デティクトライフフォース!」
けるとも、黒く淡い光に包まれて超常能力を発動させ、生命力を感知に走る、しかし──。
「あわわ、何でありますか? このパラメータはさっぱり判らないであります。助けて信人」
「どうしたのだ、けると?」
「えーと、モニターに何か文字が‥‥‥わ‥‥わ‥‥わに、えーと、なんて読むのでありましょうか‥‥‥」
「落ち着いて、モニターをパラ星人語モードに切り替えろ」
信人の指示に従い、けるとがモニターをパラ星人語モードに切り替えると、単に発進OKという無味乾燥な一文が表示されるのみであった。
「あー、けるとは駄目であります‥‥」
「大丈夫、けるとちゃん、ファイト!」
ミラリスがサブモニターから応援する。
「応援忝ないであります。では、発進シークエンス進行であります!」
「行こう、けると」
磁気を利用して初速を得るリニアカタパルトから、モータルス・ロードは射出される。その騎体に磁力の反発を得るため、磁性体をコーティングされるモータルス・ロード。
準備が整うとリニアカタパルトから常人に耐えられないデタラメな加速をつけて『カナルコード』前方に射出される貪狼と文曲の2騎。
リニアカタパルトを出た瞬間に磁性体は拡散して、虚空に散っていく。
「夜十字殿!! あっちに熱源反応であります! 嗚呼、こっちにも!?」
信人は冷静に応える。
「前方のは破軍だ。すぐ近くにいるのは、文曲と『カナルコード』だ。バスカ、ミラリス! 左翼から畳み掛けてくれ、こちらは右翼から攻めていく‥‥破軍、そちらの被害状況はどうだ、シンカ特務少尉、ディマーナ特務少尉、現状を伝えよ」
か細い電波を貪狼が拾う。
「大丈夫か! ディマーナ特務少尉、シンカ特務少尉」
「駄目です。バスカさん、ミラリスさん──AIキューブが暴走しています。私たちはあなた方、自由に愛し合える相手への嫉妬の炎に灼き焦がされそうです。近寄らないで──これ以上、仲間を殺したくないの──ああ、自由に戦えるあなた方が妬ましい」
ハモって聞こえるエルフ星人、双子の姉妹の声。
「自分にとっては掛け替えの無い戦友であります。助けたいであります!!」
けるとが意気をあげるが、それを無謀と感じ、危険と見た信人が、咄嗟に唇で、けるとの唇を塞ぐ。
「!」
「どうだ、落ち着いたか」
「甘い♪ いや、甘いであります」
彼は食べる事が大好きな、けるとの癖を利用して、落ち着かせようとチョコレートを唇に押し込んだのだ。
無論、手でやった方が楽なのであるが、それを敢えて迂遠な方法でやったのは、AIキューブの影響にあったからに他ならない。
ともあれ、炎に包まれたまま、大剣を翳して突撃する貪狼。
「すとっぷです! むやみに接近戦しないで、ご主人様と連携です。れんけー!?」
ミラリスが貪狼の突撃に『待った』をかけるが、ふたりの動きには淀みがない。
バスカはコントロールシリンダーを握りながらも、ミラリスに呼びかける。
「一点集中とはいきませんか‥‥ですが、いかなる装甲をも貫いてみせます‥‥! 行きますよ? 可愛いメイドさん」
「はうぁっ! ご主人様も熱血しています!? 私も腹をくくるしかありませんね!」
デジタル補正されてズームされた視界内には、破軍の優美な女神と見紛うシルエットが見えてくる。超常能力による推進機関が、まさしくオーロラのヴェールの様に後方にたなびいていた。
そのヴェールが超常能力の発動に伴い桃色の淡い光を帯びる。
ミラリスの目にはそれがぶれて二重に映っているように見えた。
「危険です。退避‥‥」
次の瞬間、二重に闘気の巨塊が膨れあがった。バスカのビームピストルの間合いの遥か外での事である。
オーラアルファである。しかも超広範囲、高破壊力の。
それは通常のモータルス・ロードとは一線を画した能力であった。しかも、それを超常能力者ふたりが同時に放つ。
まさしく、信人の言った通り──『破軍、背負えば必勝、向かえば大敗と言われる星』であった。
「ダメージ甚大。だが‥‥まだ光明は消えん。ディマーナ、シンカ、痛いが‥‥我慢しておれ」
今の一撃により、貪狼は大破している。それでも、尚かつ前進を止めない。
けるとは叫ぶ!
「破軍の装甲強度を低下させるであります! エネルギーバイパス接続‥‥AIキューブとの同調開始‥‥ビカムワース!!」
大剣を翳しながらも漆黒の宇宙に被さるように淡い黒い光が貪狼を包み、次の瞬間、破軍のヴェールが揺れに揺れた。
しかし、破軍の腕が、振りかざされた貪狼の剣を振るう腕を止める。
「何!」
騎体の基本スペックと、与えたダメージの上下がその攻防の明暗を分けたのだ。
動きが止まった貪狼へ、破軍の抜き手が迫った瞬間、文曲がビームガンの弾幕を張り巡らせる。
次の瞬間、再びけるとのビカムワースが展開される。そして、おそるべき事に気がついた。
破軍のAIキューブから生命体の反応はないのだ。
この様な、生命体の反応を感じない生命体の事例は、魔界から来た悪魔達にしか見られない。
しかも、悪魔達は、銀か魔力を帯びた武器でしか倒せないのだ。
思い返してみれば、撃破された3騎は対悪魔用の兵装はしていなかった。
けるとは恐怖する。
「モータルス・ロードに悪魔の特性を付与したというの?」
それでもミラリスのバーニングソードが付与されている分、戦いは優位に進められる筈である。
結論づけた次の瞬間、二重のオーラアルファが展開された。
2騎を巻き込みながら膨れあがる闘気。
その破壊の嵐をものともせず、突き進む貪狼と文曲。
炎に包まれたランスと大剣が突き刺さる。
「シンカ! ディマーナ!」
ふたりの名前を叫びながら、コクピット付近にスマッシュを加えてバーストアタックを叩き込む貪狼! 破壊されたコクピットから真空にふたりが吸い出されるが、ランスを突き立てたままであった。文曲の手は優しくシンカとディマーナを包み込む。
「お姉ちゃん達、お帰りであります──」
けるとが眠るように呟く。今までのオーラアルファの衝撃で肋骨が肺に突き刺さっていた。ヘルメット内部に吐血した血が浮き上がる。
「やりましたよ──ミラリスさん」
「だから、れんけー、れんけーって言ったのにご主人様ー」
ミラリスがバスカにコクピット内部で抱きしめられる。
信人がコクピットの中で呟いた。
「向かい風か‥‥でも、けるとがいれば平気だな。けると──けると?」
「ごほっ。自分はいつでも絶好調であります」
「けると、喋るな‥‥」
45分後きっかり『カナルコード』に回収されるまで、AIと接続された、恋人達の蜜時は続いた。
「何ですって? インモータルス・ロード計画は続行される?」
荒廃の爪痕が激しい地球に戻った一同を迎えていたのは、拍手でも喝采でもなく、モータルス・ロード部隊総指揮官からの、配置転換の指示であった。
それは両騎をインモータルス・ロードへの改装する間、閑職に回されるという時限付きのものであった。
正式な計画書は破壊された騎体から回収されたAIキューブ改修後、それを中心にインモータルス・ロードを再構築。大破した貪狼と文曲をインモータルス・ロードに改修。
残った1騎を改修しないで、モータルス・ロードのまま、元火星軌道の湾曲点の防衛に回すというものであった。
無論、最後の機体も、他の機体の改装の後、インモータルス・ロードに改装される。
そもそもインモータルス・ロードそのものが、AIキューブとの従来制限されていた精神リンクそのもののリミッターを外す事で、超常能力者が本来持っていた能力を強引に引き出すものであった。
しかし、AIキューブに封じられている“何物か”からの騎手への影響力が大きくなる事という危険性は捨てきれない。
「しかし、その暴走も何とか防げる事が判った事で、インモータルス・ロード計画も無事進行できると判った訳だ」
総指揮官は鼻高々と語る。
信人はその顔面に痛烈なパンチを一発食らわせる。
「そんな事の為に仲間を6人も犠牲にしたのか? それにシンカとディマーナも!」
机の上に階級章を叩きつける信人。
「僕がインド・アーリア連合軍に入ったのはあくまで、モータルス・ロード部隊であって、インモータルス・ロード等という怪物に関わる気はない」
「けるともバイバイですぅ」
階級章を放り捨てる、けると。
「ミラリスはご主人様と、シンカとディマーナの為だけに軍に残ります。勘違いはしないでください、総指揮官殿♪」
「良かったな、総指揮官殿、騎手がふたりも残ったぞ」
振るえる拳を握りしめバスカは総指揮官に向き直る。
「さあ、これでもインモータルス・ロード等という世迷い言が通じると思うならばやってみるが良い。お手並み拝見だな」
・阿修羅歴1012年:インモータルスロード配備完了。しかし、その騎手の中に夜十字特務曹長、凍瞳院特務少尉。テリオス特務少佐、ナイトクロス特務大尉の名前はなかった。
・阿修羅歴1015年:インモータルス・ロードの暴走により地球消滅。
・阿修羅歴1016年:ふたつのAIキューブにより、魔界と天界への歪曲点封鎖される。
・阿修羅歴1090年:超常能力者、ひと桁になる。
・阿修羅歴1322年:最後の超常能力者死亡。インド・アーリア連合解消。キューブ散逸。阿修羅歴終了。七陽歴元年。