魔甲大戦ファインザード

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリー

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

 世界2大強国である『デリノア』と『エルグローゼ』。数年にわたって繰り返される小規模な小競り合いは、デリノア側の新型機動兵器の実践演習を機に、大きく変貌を遂げていた。
 即ち‥‥後に『魔の炎』と呼ばれることになるAW(アーマード・ウェポン)、『フランベルジュ』の完成である。
 フランベルジュは実践演習中に暴走‥‥鉢合わせたエルグローゼ側の偵察部隊は勿論、データを取っていたデリノア側の味方部隊をもたった一機で殲滅した後、エネルギー切れでその機能を停止した。
 回収されたフランベルジュのデータから生み出されたその量産機‥‥『ブレイズ』は、エルグローゼの主力量産機の性能を遥かに上回っており、拮抗していたはずのミリタリーバランスを完膚なきまでに打ち砕く。
 しかしそれは世界情勢を妙な方向性に導き‥‥2大強国と同盟を結ぶことで存続していた小国の国王たちは、こぞって『エルグローゼ』に味方したのである。一見不利な方に味方するという、自殺行為に等しい選択に思えるが‥‥実際は違う。
 デリノアは他国には勿論、自国内ですら圧政を敷く独裁王制。それは高性能量産機、ブレイズを手に入れたことにより加速の一途をたどった。無条件降伏を言い渡される国‥‥暗に傘下に入れと脅かされる国と、例を挙げれば枚挙に厭わない。
 デリノアを除く殆どの国は、エルグローゼに加勢する事により世界中を掌握する独裁国家の誕生を阻止しようと、勇気を振り絞って連合軍を結成したのだ。どうせ世界に大国を1つ残すなら、穏やかな国風と対外交渉を旨とするエルグローゼのほうがマシだと考えたのは、致し方の無いところである。
 だがそれでもなお‥‥連合軍の兵力を以ってしても、デリノアの侵攻を止める事は出来ない。
 1歩も2歩も上を行くブレイズの性能の前に、既存の兵器では抵抗のしようが無かったのだ。
 そんな戦局を打開しようと、ある特殊工作班がデリノアに潜入‥‥フランベルジュの奪取に成功した。追撃隊をまたしても暴走することによって撃破したフランベルジュはエルグローゼ王城に持ち帰られ、そのデータを使用した新型機体がエルグローゼでも開発されることとなるのだ。
 そして、フランベルジュがこの世界に誕生してから、丁度一年後―――

「揃ったな。今回は魔の炎ことフランベルジュってぇAWがロールアウトしてから丁度1年目らしい。その量産機ブレイズにどれだけの人間が苦汁を飲まされたかは今更言うまでもねぇが‥‥いいか、今日はこの戦争を終わらせるための新型AWのお披露目式でもある! いつまでもブレイズの天下じゃねぇ‥‥デリノアの天下じゃねぇってことを重い知らせてやりな!」
 作戦名、『レベリオン』。
 すでに演習まで済ませた8機の新型AWを前に、作戦指揮官の男が檄を飛ばしている。
 内容はいたって単純‥‥この試作新型AWでブレイズの部隊を襲撃、撃破するというものだ。
「いいか、データはすでに開発局にありったけ送りつけてある。例えぶっ壊されても量産型はきっちり完成するだろうが、お前らはただ生き残ることだけを念頭に置き、出来るならでかまわねぇからブレイズを破壊しろ。死んだら何にもなりやしねぇしな‥‥機体も人も、無事に越したことはねぇのさ」
 戦闘区域は遮蔽物の無い平原と、AWがすっぽり隠れてしまう丈の森林が隣接する一帯。平均15メートルという身の丈のAWが立った状態で見えないのだから、その規模は推して知るべし、である。
 幸いここはエルグローゼ領‥‥地の利はこちらにあると言っていい。この際多少の森林火事もやむを得ないと諦めよう。
「さて、お前らには釈迦に説法かも知れねぇが‥‥一応自分の乗る機体のデータは確認しておけ。勿論、味方のも知っておくに越したことはねぇしな。いいか、これが反撃の狼煙となる戦闘だ‥‥これからの戦争の鍵を握るといってもいい。カタログスペックを信用するもよし、自分の腕前を信用するもよし‥‥何でもいいから勝てると信じろ! 健闘を祈る!」
 そう言って、指揮官の男は機体データの束を投げて寄越した。
 いくらどの機体に乗ってもある程度動かせるよう訓練したと言っても、自分と機体との相性は忘れてはならない重大事。自分の命を預ける機体‥‥その選択は慎重にしなければなるまい。
 運命を握る8機とは―――

 ハイズゴード:可動式のウイング・バインダーを装備しており、空戦能力と運動性に優れる。武装は腰部のパルスブレード2本とユニオンライフル。ユニオンライフルは高威力のシングルモードと、威力は低いが2丁に分割できて取り回しのいいツインモードが切り替えられる。残弾は30。

 ラインバイフェ:格闘能力と装甲に優れる。パルスサーベル機能もある複合光学盾、アタックウォールを両腕に装備し、腰部にチェーンソーナイフを2本所持。遠距離兵器は実体弾式の汎用ライフル(残弾20発)のみだが、機体表面全体に耐光学兵器コーティングが施されている。

 ダンガイル:装甲と砲撃能力に優れる。背中に各々残弾30のツインキャノン(実体弾式)を装備し、機動力は無いが高火力を有している。手持ち武装としては、腰部パルスブレードが一本とパルスバズーカが一門。バズーカは自機供給エネルギー式で、最大50発まで発射可能。

 シルキオン:特殊戦闘型。秀でた能力は無いが、無線コントロール式機動砲台シルフを2機装備し、オールレンジ攻撃が可能。ただし、その他の武器は腰部パルスブレード一本と実体弾式ライフル(残弾20)のみ。パイロットの技量と直感が問われる機体となっている。

 ジャイス:防御特化型で、防御性能に秀でる。機体全体に耐光学兵器コーティングが施され、光学・実体兵器を同時に防げる二重盾ハニカムシールドを装備。武器は腰部パルスブレードが一本と専用ハイスピード・ライフル(残弾20)のみ。

 レガリア:中距離格闘型。ヒートワイヤーや有線式チャクラムスラッシャー等、特殊な格闘兵器を装備するため、従来の機体ではし辛いと言われているミドルレンジ戦闘が得意。その代わり近接兵器は右腕パイル・ステークのみ、遠距離兵器は一切持たずというピーキーな機体になってしまっている。

 ガルファイク:機動力重視型で、スピードに優れる。8機の中で最も早く、最も脆いという極端な機体だが、そのスピードは抜群。武器は腕部内蔵型パルスブレードが2本(両手分)と、光学式のパルスガトリングが二門(最大発射数1000)。何気にエネルギー消費が激しい。

 ローガ:爆撃型。秀でた能力は無いが、全身に火薬武器を搭載した、通称飛行するミサイル倉庫。バックユニット、脚部、肩部からのマイクロミサイル、腰部に爆雷、手持ち式多弾頭ミサイルランチャーを装備。重量のわりに素早いが、弾を撃ちつくした後は殆ど何も出来ない。

 劣勢の戦局を打開するために。独裁国家誕生を阻止するために。ただ、生き残るために。
 この8機が、歴史を作っていく―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8793 桐生 純(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0826 ヴァイナ・レヴミール(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●出撃
「指令、どうやら出撃時の編成が決まったようです。しかし‥‥よろしいのですか?」
 エルグローゼの陸送式輸送艦『アダマンタイト』。非武装であるため戦場では的にしかならないが、その積載量・搭載量はデリノアのいかなる艦船をも凌ぐ船である。
 そのブリッジにて、副官と思わしき中年の男は紙を差し出しながら苦い顔をした。
「あん? 何がだ」
「パイロット連中のことです。いくら自分の搭乗機とはいえ、勝手に改造したり色を塗り替えたり‥‥あまつさえ『これ僕の、僕の〜っ!!』とごねて機体を選んだ者までいる始末。もう私は不安で不安で‥‥」
「いいじゃねぇか。てめぇの命を預ける機体だ、好きに弄らせてやれよ。それでもしマイナス面が増えても、全部自分の責任だ。作戦開始前に『データは開発局に送ってある』とわざわざ言ったのは、そういうことも全部含めての意味だしな」
 この艦の艦長と思わしき髭の男は、もたれていた椅子から手を伸ばし、編成表を見やる。
 それによると‥‥。

ヘルヴォール・ルディア(ea0828):ハイズゴード(色を青主体から赤主体に変更)
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175):ダンガイル(通信機能強化のためにブレードアンテナ増加)
陸奥勇人(ea3329):レガリア
イグニス・ヴァリアント(ea4202):シルキオン(蒼と黒主体の色にリペイント)
ヒックス・シアラー(ea5430):ラインバイフェ
久方歳三(ea6381):ジャイス(何故かコックピットに仏像持ち込み)
桐生純(ea8793):ガルファイク(何故かミカゲと呼称)
ヴァイナ・レヴミール(eb0826):ローガ

 といった具合である。
「‥‥この右端のカッコ内まで調べたのか。相変わらずマメだな、おまえさんは」
「恐れ入ります」
「しかしまぁ、半分以上が自機になにかしらのリアクションを起こしてるわけか‥‥面白い連中だ」
「はぁ‥‥あれを面白いと言っていいものかどうか‥‥」
 副官は変わらず呆れたような溜息をつくが、艦長は面白がっているようだ。
 だがそんな空気を切り裂いて、オペレーターが声を上げる!
「艦長、作戦領域へ到達します! それと‥‥あの、例の8機が出撃許可を求めてます」
「なにぃ? まだ発進タイミングじゃないだろーが」
「そ、それが‥‥『陣形はこっちで決めたから、配置のために出撃を早めたい』と‥‥」
「また勝手なことを‥‥!」
「あー、もういいもういい、好きにさせろ。連中ならハッチぶち壊してでも出撃しかねねぇぞ」
「りょ、了解!」
 オペレーターが慌てて返事をし、格納庫ではカタパルトの準備が急がれているようだ。
 そのやり取りを聞いていた副官は懐から胃薬のカプセルを取り出すと、水もなしに一気に飲み込む。
「はっはっは、どうやらあいつらが死ぬよりお前の胃に穴が開くほうが早そうだな!」
「笑い事ではありません! まったく、艦長がそんなことだから‥‥!」
「‥‥ヘルヴォール・ルディア、ハイズゴード、出るよ。‥‥任務‥‥開始」
「‥‥桐生純‥‥ガルファイク‥‥というか、ミカゲ‥‥行く、ヨ」
 第一陣を担う囮組み、機動力の高い二機が先んじて発進する。
 アダマンタイトのカタパルトは船体の両側に一つずつ、計2機しかないため、同時発進は2機までなのだ。
 加速の付けられたガルファイクとハイズゴードは、あっという間に視界内から消えてしまう。
「続いて第二陣。リーゼ・ヴォルケイトス、ダンガイルで出撃する」
「イグニス・ヴァリアント‥‥シルキオン、行くぞ」
「‥‥敵、16機‥‥一機でニ機掃討と言うところか‥‥。あぁ、ヴァイナ・レヴミール、ローガ、出る」
 第二陣‥‥森に隠れての砲撃を主とする面々が次々と出撃していく。
 飛行できるとはいえガルファイクたち程の機動力は無いため、加速してもそこまで早いとは感じない。
 だが、彼らの機体の真骨頂は破壊力にあるのだから、気にする必要は無いのかもしれなかった。
「ようやくこれまでの借りが返せるって訳だ。腕が鳴るぜ。陸奥勇人、レガリア。出るぜ!」
「ヒックス・シアラー、ラインバイフェ、行きます。みんな、リラックスして行こう」
「さて皆の衆、デリノアの連中にブレイズがいつまでも最強でない事を、教育するでござる。久方歳三、ジャイス、行くでござるよ!」
 第三陣を担う3機‥‥砲撃後の格闘戦を想定した面々も出撃し、視界から消えていく。
 これでアダマンタイトは、護衛機も居ない、まさにまな板上の鯉と化したわけだが。
 幸いここはエルグローゼ領‥‥確認されたブレイズ2小隊以外の敵との遭遇はないだろう。
「‥‥勝ってこいとは言わねぇ。死ぬなよ‥‥」
 すでに8機は視界から完全に消えてなくなり、通信回線も開いていない。
 誰にとも無く呟かれた艦長の台詞は、ブリッジの空気を少しだけ緊迫させたのだった―――

●第一陣
「‥‥敵機発見‥‥ブレイズ、だヨ」
「‥‥OK、こっちでも確認したよ。作戦通り行こう」
 テュルフィングという戦闘補助プログラムが組み込まれたハイズゴードは、他の7機に比べてもさらに扱いづらい。
 一番適正の高いと判断されたヘルヴォールも、実践は初めて‥‥果たしてうまくやれるかどうか。
 ブレイズの部隊もハイズゴードとガルファイクに気付き、何者かと近寄ってきた!
「‥‥フィン‥‥私の敵は何処?」
 ハイズゴードの主武装、ユニオンライフル。ヘルヴォールはそれをシングルモードに切り替え、威力の高い一撃をブレイズの集団へと解き放った!
 ドウンッ‥‥‥‥ドガァァァァァンッ!
 一瞬の判断で散会したブレイズ部隊だったが、ライフルの弾道上に居た一機が回避しきれず、直撃して爆散する。
 パルス兵器でもあるまいに、実体弾のライフルがブレイズを真っ二つにして貫通するなどありえない。
 ‥‥今までの常識では、だが。
『き、貴様ら何者だ!? どこの所属の者だ!』
 全周波数で発進される、ブレイズからの通信。ヘルヴォールと桐生はそれを受信してはいるが、きっぱりと無視した。
「‥‥調子いい、ネ。私たちも‥‥頑張ろう、ミカゲ‥‥」
 カタログスペック上では、世界で一番速い機体であるガルファイク。そのスピードはブレイズを大きく上回っており、実体弾式のライフルを集団で連射して来られてもすぐにブッちぎってしまう程。
 運動性能の高いハイズゴードもその一斉射を回避しているが、ガルファイクには追いつけない。
「‥‥切り込みは必要‥‥カナ?」
 右腕内臓のパルスブレードを展開し、中距離から一気に間合いを詰めてブレイズの一機に切りかかる桐生。
 横からの攻撃に体勢を直すことが出来ず、また一機、ブレイズが鉄屑と化した。
「‥‥桐生、あまり突っ込まないほうがいいよ。流れ弾喰らっても癪だから、作戦通り戻ろう」
「‥‥うん‥‥了解」
 ひょいひょいと軽やかにライフルの弾を回避するヘルヴォールと桐生だが、やはり14機からなるブレイズの一斉射撃をいつまでも回避し続けるのは難しいだろう。現にブレイズの部隊はじわじわと陣形を立て直し始め、その射撃は精度を増してきているのだ。
 二人は機体を転進させ、仲間の潜んでいる森方面へと突き進む。
 もちろん、ブレイズが着いてこられる様に、速度をある程度落として―――

●第二陣
「レーダーに反応‥‥ハイズゴードとガルファイクだ。ブレイズもついてきているようだな。」
「‥‥数が二機少ないな‥‥あの二人が撃墜したのか」
「ハイズゴート、ガルファイクへ。ダンガイル、一分後に直接砲撃支援(ダイレクトカノンサポート)開始する、5秒前には射線上から離脱せよ」
 イグニス、ヴァイナ、リーゼの三人はすでに森へ潜伏し、囮組みを待っていた。
 キャノンを背負っているダンガイルでさえ完璧に木々に隠され、砲身の先すら上からでは見つけることが出来ない状況だ。
「ローガ及びシルキオンへ。ダンガイル、一分後ダイレクトカノンサポート開始。ローガ、強襲ルートをダンガイル及びシルキオンへ送信せよ」
「敵が囮に掛かったぞ―──囮に構わずぶちかませ」
「‥‥え?」
 リーゼがヴァイナの言葉を理解する刹那の間に、すでにローガは肩部マイクロミサイルを発射していた。
 無線誘導式のミサイルだ、今更戻せるわけが無い。
「だ、ダンガイルより囮の二機へ! ローガからミサイルが発射された! 緊急回避せよ!」
『‥‥私たちを巻き込むつもりかい‥‥?』
『‥‥困った、ネ』
「‥‥死にたくなければ、そこをどけ‥‥」
 くぐもった通信の声に、ヴァイナはさらに脚部のミサイルを発射する。
「何、お前たちとその機体なら避けられるだろう。こちらからも行くぞ──舞え。シルフ」
 背中に装備された二機の無線コントロール式機動砲台シルフを切り離し、イグニスはミサイルの雨に混乱しているブレイズの部隊へと向かわせた。
 ミサイルが当たって右腕が吹っ飛んでいるブレイズに、背後からシルフが攻撃を仕掛けて撃墜する!
「ふむ‥‥慣れてしまえば中々使い勝手の良い機体だな」
 向うがローガのミサイルで混乱している、こちらが森に隠れていて姿を見せなくて良いという条件下では、シルフのメリットは最大限まで発揮される。元々隠匿性の高い兵器なので、今回のような地形・戦法はお手の物だ。
「仕方ない‥‥こちらもダイレクトカンサポートを開始する」
 半ば諦めたように呟いたリーゼだったが、ツインキャノンによる正確な射撃でブレイズの一機を撃破した。
 ブレイズの部隊も意外とやるらしく、思ったよりも数の減りが少ない。流石に今まで世界中の戦場で常勝を重ねてきた機体なだけはあるということだろう。
「残りは12機でござるか‥‥あとは直接的に戦闘しかないでござろう。このまま森に隠れていても、火事を起こす可能性を増やすだけでござる」
「行くぜみんな。これが俺たちの反撃の狼煙だっ!!」
「エドワウは‥‥いないか。けど、ラインバイフェならやつにだって勝てる。こんなところで雑魚に負けていられない!」
 第三陣の面々も森に隠れていたが、砲撃の効果がいまいち上がらないのを見て、格闘戦での掃討を早めることにしたらしい。
 ブースターを吹かし、森から大空へと飛び出していく三機‥‥その行く先では、ミサイルやシルフの攻撃に四苦八苦しているブレイズの部隊が待っている―――

●性能、力量、心意気
「刹那の見切りが俺の真骨頂だ。間合いを好きに出来ると思うな! ブレイズとは違うんだよ、ブレイズとはな!」
 微かに赤く発光する、細くて超硬度のヒートワイヤー。
 陸奥が操るレガリアが器用にワイヤーを振り、ブレイズの足を切断する。
 近くは無い‥‥かといって遠くでもないという微妙な距離に、パルスブレードと実体弾ライフルを主兵装とするブレイズは上手く間合いが計れないようだ。
 かといって、自棄になったように無理に距離を縮めれば‥‥。
「パイルステーク‥‥ぶち抜けぇぇぇっ!!」
 右腕に装備された巨大なランスのような武器が襲ってくるのだからたまらない。コックピット下方のエンジン部を貫かれ、足を失っていたブレイズは爆発した。
 レガリアと戦うのなら、予め遠距離から狙い撃ちにするような戦い方でなければ勝利は難しいだろう。
「今まで死んできた戦友の痛みを思い知れ。デリノア軍!」
 こちらはラインバイフェを駆り、ブレイズの一機をアタックウォールで両断したヒックス。『蒼き狼』と呼ばれるエドワウという男との因縁を断ち切るために戦っている彼だが、今は目の前の敵に集中しているようだ。
 アタックウォールはパルスサーベルとしても機能する光学盾‥‥別のブレイズ二機が同時にパルスブレードで切りかかってくるが、あっさりと受け止めてそれを弾く!
「退けぇ!」
「ヒックス殿、少々熱くなっているでござるよ」
 実体弾式のライフルも、アタックウォールで威力を減殺してしまえばラインバイフェの装甲を貫くことはできない。
 だがそれも、久方の乗るジャイスのハニカムシールドには適わない。
 5機のブレイズからのライフル弾を、完全にシャットアウトしているのである。光学壁→超硬シールドという二段構えの防壁は、現存する武器での突破はほぼ無理。パルス兵器なら100%効かないといっていいだろう。
「さぁさぁ、遠距離からの攻撃は効かぬでござるよ!」
 盾の影から牽制程度にライフルを放ち、近づいてきたところをカウンター気味にパルスブレードで両断‥‥。
 世界最強の盾を持つ機体と。格闘を得意とする久方の力が見事にマッチしているようである。

 さて‥‥第二陣も空中へとやってきたようで、試作機8機VSブレイズ9機という図式が出来上がっていた。
 数はほぼ同等にまで並び、機体の損傷度も明らかにデリノア軍の方が大きい。
 ローガのミサイルを回避しきれずあちこちに被弾していたり、ガルファイクのパルスガトリングで頭部を削り取られたもの、ハイズゴードのユニオンライフルツインモードで左足を打ち抜かれたものetc。
 もちろんこちらも無傷というわけには行かず、ダンガイルは胸部に煤けたような痕があるし、レガリアもヒートワイヤーが半分くらいの長さのところで切断されたりしている。
 お互い残弾、エネルギーが心もとなくなってきた‥‥そんな頃のことだ。
『どこまでも‥‥どこまで戦争を続ける気なんだ‥‥』
 増設したブレードアンテナの効果もあってか、リーゼにはローガから聞こえてくるヴァイナの声がはっきりと聞こえていた。
 パルスバズーカでヒックスの援護をしていた最中のことだが、リーゼは猛烈な嫌な予感に襲われ、思わず全員に叫ぶ!
「まずい、時間が掛かりすぎた! ダンガイルより各機へ、ヴァイナが例の状態に陥るぞ! 回避に専念しろ!」
 ローガはまだミサイルを撃ちつくしていない。最初のミサイル攻撃の後は、撃墜されたブレイズのライフルやパルスブレードを拝借して戦っていたのだが、突然それをハードポイントにマウントし、全てのミサイル発射口を開いて動きを止める!
「クク‥‥ハハ‥‥消えろ‥‥! 灰燼と化せ! 焦土へと変貌しろ! 生き残るな! 生き物はすべて敵だ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ!!」
 ズドドドドドドドドッ!
 今まで温存していたミサイルの全てを吐き出すかのように、ローガを起点にフルオープンのミサイルがばら撒かれる。
 敵も味方も無い‥‥ただ無作為に発射されたミサイルは、不運なブレイズ5機を巻き込んで炸裂する!
「‥‥ちっ‥‥フィン、避けて見せるよ」
「うおっ!? ったく、あいつのあの癖だけは勘弁して欲しいぜ!」
「何、シルフが一機被弾!? ヴァイナ、何をやっている!」
 味方の被害はレガリアとダンガイル、シルキオンのシルフが被弾‥‥シルフは爆発こそしていないが、背面に戻さなければ墜落してしまうだろう。
「残弾‥‥ゼロ‥‥戦闘続行可能‥‥‥‥ローガ‥‥行くぞ」
 ヴァイナは戦闘の緊張感が高まると、一時的にトランス状態に陥って周りが見えなくなる癖がある。いつも一時のことなのですで落ち着いたようだが、長引けばまたいつ癖が発動するか定かではない。
 破壊力のある機体に彼が乗っていたのが不運というか‥‥幸運というか。
「おい、イグニス、支援してくれ! これでもヨーヨーは得意でな。行け、チャクラム!」
「わかった。一機になったとはいえ、シルフはまだ舞える」
 ワイヤーが短くなったため、チャクラムスラッシャーでまたしても中距離格闘を開始する陸奥。
 どうやらミサイルのダメージも深刻なものではないようで、残り4機のブレイズを追い込んでいる。
 チャクラムスラッシャーはパルスブレードで切り払われても、糸部分でなければ何回でも攻撃できる優れものだ。
 イグニスもシルフに気を取られている敵をパルスブレードで攻撃する等、様々なテクニックで戦闘を有利に運んでいた。
 シルフの醍醐味は無線コントロール式で自由に動かせるというところ。自分が囮になるもよし、シルフを囮にするもよし‥‥その戦術幅はブレイズは勿論、他の7機のついづいも許さない。
 ‥‥と、もう少しでブレイズが全滅しようかという時。
「レーダーに反応? 3時の方向‥‥ベルフライが2機か」
 ベルフライ。デリノア軍の飛行偵察型AWで、戦闘能力は乏しい。
 マシンガンとパルスナイフを装備している程度で、戦線に加わられても問題は無いが‥‥。
「‥‥ミカゲたちの情報‥‥持ち帰られると、厄介。‥‥エネルギー‥‥まだ、あるし‥‥落とス」
 ぐん、と加速し、パルスブレードでベルフライを撃破する桐生。
「私も同意権だ、撃ち落そう」
 リーゼも最後のツインキャノンの残弾を用い、ベルフライを撃墜した。
 これで情報の漏洩はある程度防げるだろうが‥‥やはり数が倍の相手では消耗が激しい。スペック上で勝っていてもブレイズは手強い相手なのだから尚更である。
「後二機‥‥僕たちに任せて!」
「弾が尽きようと、母なる大地が武器になるでござる!」
 アタックウォールが二刀流であることを生かし、ヒックスがラス前を撃破。
 久方の方はハニカムシールドで攻撃を受け止め、ブレイズにつかみかかって上空から地面に叩きつけるという荒業で、最後のブレイズを撃破したのだった。
「皆、お疲れさん。何とか出来たな。だが、これから忙しくなるぜ!(ニッ)」
「‥‥‥‥勝利‥‥? ‥‥いらない‥‥今は眠らせてくれ‥‥」
「よし‥‥全機無事だな。作戦成功だ」
 リーゼの言葉に締めくくられ、一同に安堵の空気が流れる。
 これで証明されたのだ‥‥試作型とはいえ、エルグローゼ製のAWが、ブレイズと同等以上の戦力となることが。
 反撃の狼煙は今まさに上げられ、この大戦も一方的なものではなくなっていくのだろう。
「‥‥? ヘルヴォール、さん‥‥!?」
 何を思ったか、ハイズゴードがユニオンライフルを下方に居るガルファイクに向けている!
「‥‥桐生‥‥動くんじゃないよ」
 桐生の通信にそれだけの返事をし、ヘルヴォールは迷うことなくトリガーを引いた!
 ズンッ‥‥グワァァァァァンッ!
 その弾丸はガルファイクのすぐ横を通り抜け、地面に機体を横たえたままライフルを撃とうとしていたブレイズを撃ち抜く。
 その爆発の光を見やりながら、全員が状況を理解した。
「せ、拙者が地面に投げつけた最後の一機‥‥まだ動けたのでござるか」
「人が悪いですね。まぁ、何事も無かったんですからよしとしましょう」
 久方もヒックスも苦笑いしながら通信を入れてくる。
 ヘルヴォールは穏やかに笑うと、一人呟いた。
「‥‥まだ、改良の必要はあるけど‥‥これからも宜しく頼むよ、フィン」
 戦闘中、暴走しかねない時は何回もあった。たった一回の戦闘でアレでは、ハイズゴードの量産機にはとてもテュルフィングは積めない‥‥まだまだヘルヴォールのお守りが必要だろう。
「‥‥任務‥‥完了」
 何にせよ、今は全員生きているのだ‥‥それだけでいい。
 その安らぎが、ほんの一時であっても‥‥明日に繋がる今日くらい―――

●始まり
「―――以上、報告終わります。8機は現在、戦闘データの保存と修理・補給を行っています」
 リーゼはアダマンタイトのブリッジに上がり、艦長へと戦果を報告していた。
 勿論報告などしなくとも後々分かることなのだが、一応軍隊とはそういう場所だ。
「なるほどな‥‥味方の損害の大半はローガのミサイルか‥‥火力があるのも問題だな」
「いえ‥‥あれはパイロットの問題かと」
「なーに、あぁいう激情は爆撃機体には必要なもんだ。それに、他の7人でローガの性能をヴァイナほど引き出せそうなやつがいるか? 俺は無理だと思うがな」
「‥‥確かに。ですが、これは始まりに過ぎません‥‥量産機も生産ラインに乗ったわけではありませんし、戦局もまだ何も変わっていません。どうせ我々には過酷な任務ばかりが待ち構えているのでしょうからね‥‥これからですよ、忙しいのは」
「おまえらならやれるさ‥‥そのために集まったんだろ?」
 にやりと笑う艦長を前に、リーゼは溜息をついてから再度敬礼をした。
 ブリッジから出て行こうとするリーゼに、艦長は思い出したかのように声をかける。
「隊長役、ご苦労さん。リーダーってのは大概貧乏籤を引くもんだが、おまえがやってくれて助かったぜ」
「ふ‥‥大変だよ、あの連中を纏めるのは。できればあまりやりたい役じゃない‥‥」
 艦長の言葉に、リーゼは静かに笑う。
 軍人としてではなく、人間として応えたその笑顔は‥‥今を生きることを心から喜ぶように、輝いて見えたのだった―――