●リプレイ本文
●アクシデント
『第七ブロックに火災発生! 左舷カタパルトは完全に使用不能です!』
『ヴァリガルマンダ、航行に支障なし! しかし、損害は決して小さくありません!』
『消化班急げ!』
『第二射に備えろ! デリノア城方面からの攻撃だったぞ!』
プツン。
エルグローゼの新造戦艦ヴァリガルマンダの艦長は、溜息をつきつつ艦長室への通信を全面OFFにした。
「被害は聞いての通りだ。さっきの振動はデリノア城に巣食うフランベルジュがぶっ放したもんらしい」
「‥‥はっきり言ってくれ。船の被害だけなら私たちをこんなところに集めたりしないはずだ。もっと致命的な被害があったんだろう? 例えば‥‥」
「例えば‥‥ロードヴェルフィがぶっ壊れた、とかか?」
「‥‥‥‥」
艦長の沈黙が、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)と陸奥勇人(ea3329)の言葉を暗に肯定していた。
8機目のカスタムAW。
破壊力を重視して作られた、殲滅専門の機体。
しかも運悪くパイロットも左舷格納庫で調整を手伝っていたため、重傷。とても出撃できる状態ではないという。
「困ったでござるな‥‥あのミサイル倉庫は作戦の重要な位置付けにあっただけに厳しいでござるよ」
「つか、随分無茶な武器を持ってるじゃないか、フランベルジュは。ここからデリノア王城まで何kmあると思ってるんだ?」
久方歳三(ea6381)の言うように、再生能力を獲得したというフランベルジュ撃破には、絶大な火力を誇るロードヴェルフィが必要不可欠だったのである。
それが天風誠志郎(ea8191)も呆れる超長距離射撃で大破したとなっては、作戦そのものが立ち行かない。
「‥‥機体のこともそうだけど、これでますますアレを放っておけなくなったね。最大射程がどれだけか知らないけど、このままじゃ世界中の都市を狙い撃ちされる」
「ふむ、全く以って。では危険ではありますが、私たち7人だけでも破壊に向かったほうが得策でしょう」
「別に反対はしないがな‥‥他の量産機では喰われるのがオチだろうし。問題は勝てるかどうかだ」
ヘルヴォール・ルディア(ea0828)、セラ・インフィールド(ea7163)、アリオス・エルスリード(ea0439)の三人が言うように、フランベルジュがこんなトンドモ兵器を搭載しているのでは一刻の猶予もない。
続けざまの攻撃がないところを見ると、連射が出来ないのは明らか。
だが一発しか撃てないとは考えにくいので、やはり撃破しなければ世界の危機である。
「せっかく順調に事が運ぶと思っただけに頭が痛ぇところだが‥‥頼むぜ。お前たちだけが頼りだ!」
思いもよらぬ不意打ちで、作戦の中心を失った英雄たち。
一見無謀とも言える挑戦‥‥だがそれは、彼らの勇気によるものなのだ。
どうか、勝利を。
原初の炎を打ち砕き、7人が生きて喜びを分かち合えることを祈って―――
●ディアボリック・フレイム
「チャーリー2。ガルフヴァイド、アリオス・エルスリード‥‥出る!」
「同じく、チャーリー1、フェザリオン出るぞ。パイロットは天風誠志郎だ」
本当はここにデルタ2のロードヴェルフィも加わるはずだったのだが、この際言いっこなしだ。
作戦はすでに開始され、ヴァリガルマンダは応急処置を続けながらデリノア王城へ接近し続け、艦砲射撃を行う。
勿論フランベルジュには当たらないだろうが、王城の人間はもう逃げられる者は逃げただろうから問題あるまい。
「おい誠志郎。一応聞いておくが、その招き猫は何だ? 歳三も仏像をコクピットに持ち込んでるようだしな」
「こいつ(招き猫)があると、負ける気がしないんでね‥‥まぁ縁起かつぎとでも思ってくれ」
そんな会話をしている間に、デリノア王城が見えてくる。
流石にカスタム機はスピードが違うらしく、この短時間の飛行でも城壁のあちこちに大穴が開いているのがよくわかった。
「‥‥おかしい。何故出てこない? もう城の直上だぞ」
「‥‥まさか‥‥!」
フランベルジュは、ねぐらにしているデリノア王城に敵機が近づいたと言うのに姿を現さない。
量産型AW部隊が進軍した時など、2〜3km先でも平気で感知してきたはずだが。
「見える‥‥いけ! セラフ!」
「っ!?」
フェザリオンの背中から3機の機動砲台セラフが飛び立ち、太陽に向かって射撃を始める。
光り輝く球体から、何か赤い影が飛び出してくる!
「な‥‥あ、あれがフランベルジュだと!? もはやAWというより、まるっきり生物じゃないか!」
撃った天風の方が驚くくらい、相対したフランベルジュは異様な風体をしていた。
一応暴走前の形状を資料で見ている二人だが、その風貌はあまりに変化しすぎている。
よだれを垂らし、牙が生え揃った口。
直線型だったはずのウイングは翼竜のような曲線型になり、全長と比例して大型化。
不気味に躍動し続ける腕や足は、まるで皮膚のない人間のよう。
そしてギョロリとした蒼い目玉が、アリオスと天風を獲物を狩る視線で見据えていた。
「‥‥誠志郎‥‥引くぞ」
「‥‥異論なし。こいつはヤバイ!」
転進してフランベルジュを母艦から引き離しつつ、他のメンバーに連絡を取る二人。
どうやら全速力で飛べば、ガルフヴァイドは追いつかれない模様。
『全速力なら』だ。
「ちぃっ! セラフ!」
ガルフヴァイドの全速力にはフェザリオンがついていけない。
追いつかれてしまうと悟った天風は、セラフを含めた4方向からの空間戦闘で迎撃を試みるが‥‥!
「大きさのわりに速い! 抜かれる!?」
凄まじい運動能力で天風の攻撃を掻い潜り、フランベルジュがフェザリオンに肉薄する。
その鋭い爪は、量産型AWの装甲を紙のように切り裂くと言うが‥‥!?
「スピードなら負けん! 反衝撃フィールド、起動! 原初の炎よ‥‥滅びろ!」
アリオスの乗るガルフヴァイドは、自分を球体の力場で包んであらゆる衝撃を遮断する能力を持つ。
一分起動するとその後一分間力場は発生させられないが、今は天風の無事が最優先だ。
「助かる! それに、どうやら助けも来た様だしな」
ガウンッ!
フランベルジュの背中が吹っ飛び、紫色の血(!)を撒き散らす。
弾道を辿った先には‥‥。
「‥‥まったく、最後にあんな化け物が相手とはね。‥‥でも、私達以外にやれる人間がいないなら仕方無いね‥‥ファル、最後の戦い宜しく頼むよ」
「おまえら生きてるな!? さぁて魔王退治と洒落込もうか! 陸奥勇人、レガンクラストで出撃だ!」
アルファ1、ハイズカデンツァのヘルヴォールと、アルファ2、レガンクラストの陸奥。
一応作戦通りというのか、母艦を後退させて駆けつけたらしい。
「見ろよ、ホントに再生してやがる。気持ち悪ぃなぁ」
「‥‥あれじゃデータとの相違点を探すより、同じところを探せって言う方が難しいね」
吹き飛んだ筋肉の部分が即座に増殖を始め、速くもなく遅くもないといった速度で再生していく。
機械部分がまるで見当たらない今のフランベルジュには、過去のデータは通用しない。
『グォォォアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』
激しく咆哮する、元機械。
いや‥‥封印を解いたと言うからには、この姿が元と言うべきなのだろうか。
何にせよ、それは声だけで他者を震え上がらせる!
「上等! 削られ続けりゃ簡単には回復出来まい! ミストルテインの力を見せてやる!」
「‥‥アルファ1、これより目標に対し攻撃を開始する。‥‥アルファ2、そちらは右半身を、こちらは左半身をやる」
「ぃよっしゃあッ!」
搭乗者の思考と神経伝達を機体に連動させ、動作反応ロスをほぼ零にするというシステム、ミストルテイン。
陸奥が発案し、実験・改良を続けたこのシステムは、完成度70%ながら順調に機能している模様。
ジャミングチャフを撒いて動きを察知されにくくし、シェイバー・ソーやパルスワイヤーで中距離から強襲を繰り返す陸奥の攻撃は、確実に効いている。
「‥‥あれだけ喰ってたからね‥‥大きさは元の倍くらいか。‥‥シングルモード、連射!」
一分に一回、3秒先の未来が見える特殊システム、テュルフィングを搭載するハイズカデンツァ。
その正確な射撃は、陸奥の攻撃に気を取られているフランベルジュに避けることを許さない。
もっとも、威力の下がるシングルモードでは劇的な効果は望めないが。
「‥‥! デカいのが来る!」
大きく口を開いたフランベルジュにエネルギーが集中し、巨大な奔流となって吐き出される。
勿論この場の4機は回避したが、計算上その射線に居るのは‥‥!
「まずい、ヴァリガルマンダの方向だ! ガルフヴァイドのフィールドでは光学兵器は防げない!」
「心配しなさんなって。母艦の近くにはあいつが居るだろ?」
にかっと笑う陸奥の言葉を肯定するように、エネルギー波が妙な場所で屈折し、天に昇っていく。
やがてその奔流が収まった時には、新たに3機のカスタムAWが合流していた。
「ふぅ、流石にあの大きさの攻撃を防ぐのは骨が折れるでござるよ」
「我々の機体は防御に優れますからね‥‥直衛にはもってこいというわけです」
「ここまではほぼ作戦通りといっていいだろう。後は殲滅あるのみだ」
ブラボー2、ジュードガイザーに乗る久方。
ブラボー1、ラインドレッドのセラ。
デルタ1、ダンシュライザーを駆るリーゼ。
これで7人と7機が合流し、フランベルジュを取り囲んだというわけだ。
流石のフランベルジュの攻撃も、長距離となればレガンクラストのガーディアンシールドには通用しないらしい。
「よっしゃ、今だ! ここにありったけ叩き込め!!」
思ったより動きの速い暴走フランベルジュに対し、陸奥は今回の作戦指揮官であるにも関わらず突撃をかけ、パイルステークで攻撃した後、一気に離脱した!
「また無茶をするな。まぁいい、火力はこのダンシュライザーで補ってみせる!」
「セラフもまだ飛べるな」
リーゼは手持ちのパルスバズーカを叩き込みながら、全員に協力を頼んで攻撃を集中させる。
ダンシュライザーとロードベルフィ、ハイズカデンツァ、フェザリオン以外は格闘攻撃を行うことが多く、火力が高くない。
とはいえ、手持ちの射撃武器を四方八方から直撃され続ければ、例え再生機能があっても保ちはしない。
「リミッター解除、臨界点突破! ツインブラストキャノン! 発射!」
『ガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』
爆煙でフランベルジュの様子はわからないが、肉片や血が飛び散っていることから効いているのは確かだ。
そこにリーゼが放つ最大火力の武器が直撃したのだから、もう勝負ありだろう。
断末魔のような咆哮が途切れた後には、全てが終わったかのような静寂が―――
「‥‥そんな‥‥まさか‥‥」
『‥‥‥‥クックックック‥‥ハァーッハッハッハッハ!』
―――静寂が、訪れるはずだったのに―――
『ありがとう‥‥と言うべきかな? キミたちが『繭』を砕いてくれたおかげで、ようやく完全復活できたよ』
深く、渋く、ぬめるようないい声。
「へ、ヘルヴォール殿‥‥何が見えたでござるか!?」
「最悪だ‥‥!」
久方とアリオスの台詞が終わると同時に、一陣の風が爆煙を流しさって行った。
空中に浮かぶのは、通常のAWとほぼ同じ大きさの人。
いや‥‥翼があるからには人ではないのだろうが‥‥。
『自己紹介をしよう。私の名はマルコキアス‥‥魔界の住人だ。ひょんなことからキミたち人間に使役される立場となってしまい、困っていたところでね。力の9割を封印され、拘束具を付けられ‥‥いやはや、窮屈だったよ』
「なんだかよくわかんねぇが‥‥こ、このプレッシャーは何だ!?」
「いけません‥‥相手が強力すぎる!」
陸奥もセラも動けない。
身体の奥底から来る恐怖が、物理的に動きを封じてしまう。
『さて‥‥キミたちには御礼をしないといけない。私たち悪魔は一度力を封印されてしまうと、醜い繭の状態になってエネルギーを蓄えなければいけないのだ。虫と違って繭状態でも防衛本能があるため自由に動けるが、繭から成体へと変化するには繭を壊してもらう必要がある。不便だろう?』
マルコキアスは自嘲気味に軽く手を振ると、未だ自分を囲んだままの7人を見回した。
つまり、悪魔にとってはどうでもいいことなのだ。
例え繭のまま世界を滅ぼしても、成体になって世界に溶け込もうが、興味がないのだろう。
「お礼‥‥ね。じ、じゃあ望めば、人間に害をなさずどこかでひっそりと暮らしてくれるのかな?」
「お、おいおいリーゼ‥‥それは都合がよすぎないか?」
リーゼと天風のやり取りを聞いて、マルコキアスが少し考えて返答する。
『‥‥それは無理だろうな。人間が私に攻撃を加えれば私は反撃する。それに何より、私は人間を食料にすることもある。君達は『一生これを食べるな』と他人に言われ、はいそうですかと従えるかね?』
「‥‥もっともだけど、私たちは食事扱いかい?」
『これでも私は温厚で小食な方だ。例え食事になる相手であっても敬意を払っている。ベールゼブブやサルガタナスだったらこんな会話すら成り立たないと思うが』
「誰だそれは。なんにしても、人間が食事にされると聞いては黙っていられんな」
「そうですね。小食なら許容できると言う問題ではありません」
ヘルヴォール、アリオス、セラの3人がいち早く戦闘態勢に入る。
陸奥、リーゼ、久方、天風も慌ててコントローラースティックを握りなおし、機体を制御した。
『ふむ、非常に残念だ。だが意見が食い違ったのであれば仕方あるまい。できれば、もう少し火力があれば繭ごと殺されかねん攻撃を繰り出す相手と一戦交えるのは遠慮したかった』
蝙蝠のような黒い翼を広げ、18メートルクラスの悪魔が身構える。
どうせ人間大にまで小さくなれるのだろうが、AW相手にはそんな能力は関係ない。
『では‥‥小手調べだ』
ゴウンゴウンゴウンッ!
マルコキアスの手の平から火の玉が連続で発射され、セラとアリオスを襲う。
だがセラはストライクウォールを構えて火球を防ぎ―――
「ぐぅっ‥‥お、重い‥‥!? アリオス殿、構わず避けてください!」
「わ、わかった!」
そんなに大きな火球ではないのに、ラインドレッドのブースター出力を凌駕し、押し返してくる‥‥!
『ほう、流石に大したものだ。砕くつもりで放ったのだが』
「全力で行かないと殺される‥‥! 反衝撃フィールド、オーバードライブ。ウィング展開‥‥翔けろ、ガルフヴァイド!」
反撃とばかりにアリオスがスピード全開で体当たりを敢行する。
この速度ならあの火球を避けるのも容易いはずだが‥‥?
『‥‥ふむ』
「なっ!? 馬鹿な、素手で!?」
マルコキアスが突き出した右手は、反衝撃フィールドを纏ったガルフヴァイドを受け止め、動かない。
フィールドに直接触れている手の平はダメージがあるようだが、そこまで。
『スピードはまぁまぁか。だが如何せんパワーが足りない。機体も脆そうだしな』
「ならばこれはどうでござるか!? 全長15メートルのパルスブレードでござる!」
背後から久方のジュードガイザーが大上段で斬りかかる。
身の丈もあろうかと言う光の刃に対し、マルコキアスの取った行動は‥‥。
『それは馬鹿正直に受けたりはできないな。キミの機体は逆にスピードがなさ過ぎる』
ヴン、と妙な音を立てて、マルコキアスは軽く回避する。
支えをなくしたガルフヴァイドも動くことが出来るようになったが、このままでは力の差がありすぎる!
「畜生! 全員、きちんとフォーメーションを組むんだ! 一人一人攻撃しても返り討ちにあうぞ! やつがまだ遊んでるうちにケリをつける!」
「賛成だ。セラフで牽制しているうちに陣形を整えろ!」
陸奥の号令に、天風が牽制役としてオールレンジ攻撃を開始した。
得意分野の能力でさえ適わないのなら、7人全員が力を結集するしかない‥‥それが道理。
だが、それすらも‥‥。
『人間ほど力を合わせることで脅威になる生物はいない。私はキミたち人間に封印されたことがあるわけだからね‥‥侮ることなどせん。『喰った』能力に似たようなものがあったな‥‥こうか』
マルコキアスが生み出した火がセラフと似た形状に変化し、空中で変幻自在の軌跡を描いて攻撃してくる!
「セラフをコピー‥‥!? いや、シルフのコピーか!」
逆にオールレンジ攻撃を繰り出され、陣形が整えられない。
フェザリオンのセラフは3機なのに対し、マルコキアスのコピー砲台は5個‥‥これではどうにも‥‥!
『さて‥‥では名残惜しいが死んでもらおう。私もただ生きたい一心でね』
「‥‥来る。天風、セラフを引っ込めな」
『‥‥何?』
ヘルヴォールが呟いた瞬間、辺りが閃光に満ちた。
いくつもの光の軌跡が、7人もマルコキアスも飲み込もうと襲い掛かってくる!
「これは‥‥ヴァリガルマンダの一斉砲撃でござるか! よ、避けないとこちらが危ないでござるよ!?」
「いや、これでいい‥‥いっそ私たちを巻き込むくらいの集中砲火でないと、やつの防御力を突破する火力にならない」
どうやら通信能力に優れるダンシュライザーでリーゼが援護砲撃を要求したらしい。
7人は勿論、マルコキアスも避けることに専念しないと厳しいらしく、幾分かの焦りが見えていた。
『ここまでするとはな‥‥素晴らしい。正に恐れ入る。だから私は人間が好きだよ。その覚悟は美しい限りだ』
「はっ、そいつはありがとよ! 喰らえ、閃舞光刃裂斬っ!!」
『!?』
このタイミングでジャミング・チャフを撒いたらしく、突然マルコキアスの背後に出現した陸奥のレガンクラストが、パルスワイヤーとシェイバー・ソーで動きを封じ‥‥。
「こいつもおまけだ!」
パイルステークを深々と突き刺した挙句、マルコキアスの身体を極める!
「みんな撃て! 今度こそ欠片も残らないくらい撃ちまくれぇ!」
「し、しかしそんな状態では陸奥殿は脱出できませんよ?」
「構うか! レガンクラストの爆発もダメージに加えてやれ! それで勝てるなら安いもんだ!」
『‥‥そうだな。流石の私もこんな零距離で爆発されてはただではすまない。だがキミは必ず死ぬ』
「馬鹿言えよ‥‥死ぬ覚悟がなくて戦争ができるか!」
『キミはいい。だが、キミのお仲間にはキミを殺す覚悟があるかな?』
「‥‥!」
そう、陸奥が撃てと言ってからまだ誰も撃っていない。
躊躇している。迷っている。仲間を死なせてまでの勝利に疑問を抱いている‥‥。
「ば、馬っ鹿野郎! ここは迷うところじゃないだろうが! これで失敗したら、俺がめちゃめちゃかっこ悪いぞ!」
「カッコいいカッコ悪いで割り切れる問題か‥‥! 一か八かでも、俺は全員生き残る確率がある方法を選ぶ!」
言うが速いか、アリオスはガルフヴァイドを全速力で機動させ、反衝撃フィールドを纏って体当たりをする!
『ぐぬ‥‥!』
「ブースターを全開にしろ! 挟み撃ちだ!」
「やってるっ! ミストルテイン、オーバードライブだぁっ!」
真正面からガルフヴァイド、背中には絡みついたレガンクラストがマルコキアスを挟み、締め上げる。
原理は万力と一緒というわけだ。
「ジャスト一分! ヘルヴォール、誠志郎!」
「‥‥わかってるよ。‥‥全員生還して、それで任務完了なんだ‥‥絶対生きて帰る。‥‥ファルが見せる未来じゃない、私自身が見る未来を掴む為に! ツインモード、フル出力!」
「セラフ、背後から三点攻撃だ! カスタム機は伊達じゃない!」
ガルフヴァイドが退くと、今度は真正面からハイズカデンツァのユニオンライフルが間髪居れず炸裂する!
そして背後からは、あいも変わらずレガンクラストのブースターと、追加でセラフの頭+両足への補助攻撃が!
『ぐ‥‥お‥‥ま、まずい‥‥攻撃の、威力‥‥が、純粋な‥‥圧力と、なって‥‥!』
「セラ、後ろの補助に回って! ツインブラストキャノンの威力はあれじゃ相殺できない!」
「心得ました。ストライクウォール!」
盾でレガンクラストの背中からブースターを吹かすラインドレッド。
同時に背後から狙ってくるコピー砲台のブロックにも回っている!
「攻撃そのものが効かなくても、それが生み出す圧力までは防げない! 水は平気でも、潜っていくことで水圧に耐えられなくなる人間と原理は同じ! いけぇぇぇッ!」
この中で一番の高威力の武器、ツインブラストキャノン。
ユニオンライフルの軌道をなぞるように全く同じ箇所に命中し、その圧力を容赦なく叩きつける!
『か‥‥あ‥‥!』
「ミストルテイン、2度目のオーバードライブ‥‥! 潰れろ! 潰れてくれ! これで勝てなきゃ勝機はねぇ!」
レガンクラストがマルコキアスの両手を封じなければ実行できないこの作戦。
これを耐えられたら、マルコキアスは束縛から逃れ、今度こそ7人を全滅させるだろう。
やはりロードヴェルフィの抜けた穴が大きすぎたか‥‥!?
『ぬ‥‥ぐ‥‥お、ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
「なっ!?」
膨大な魔力を前面に放出し、ツインブラストキャノンを相殺するマルコキアス。
息も荒く、口元には血が伝っているが、それでもまだ‥‥生きている!
『素晴らしい‥‥く、はは、素晴らしい戦いだった。まさか全力を出してここまで押されるとは思って居なかった。まったく、大したものだ人間とは。尊敬に値する』
つい、と上を向く。
そこには、巨大パルスブレード『ザンテツ』を振り下ろさんとする久方のジュードガイザーの姿‥‥!
『‥‥大したものだ‥‥本当に。誇りを持って消滅しよう‥‥』
「読んでいた!? しかし避けないのでござるか!?」
『最後にキミが来ることは予想がついた。だが、それまでに力を使い果たしてしまったのさ‥‥』
ザンッ‥‥!
鉄どころか魂さえも断ち切りそうな巨大な光の刃は、マルコキアスだけを正確に切り裂いていた。
剣で行う斬撃だからこそ、密着しているレガンクラストを巻き込まないと言う芸当も可能なのである。
「マルコキアス!」
『キ‥‥キミたちとは、分かり合える‥‥共存できる種族で生まれたかった‥‥。何が‥‥罪なのだろうな‥‥。生きることか‥‥それとも‥‥‥‥生まれて‥‥しまったこと‥‥なの‥‥か‥‥。さ、さらば‥‥だ‥‥弱く強い、尊敬に値する者たちよ! ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
そう言い残して、マルコキアスは消滅した。
封印され、利用され続けた悪魔。
共存を望みながら、種族の壁がそれを阻んだ悲しき存在‥‥。
「‥‥もしヤツが人間を食料にする種族でなければ。私たち人間全てが悪魔を恐れたり迫害しない種族なら、きっと‥‥いい友達になれたと思うんだけどね‥‥」
「結局、一番の被害者はマルコキアスだったのかもしれない。原初の炎の悲しみを、誰が想像できただろう」
「とにかく、みんな無事でよかったでござる。今はそっちを喜ぼうと思うでござるよ。虎の子のカスタム機がそろってこれでは、生きていられたことの方が正に奇跡」
「ホントにな。あー‥‥死ぬかと思ったぜ。だがこれで終わりだ‥‥ようやくな」
「ふ‥‥そうだな。これで私も前線とはおさらばかもしれん。皆お疲れ様。至らない隊長だったけど、最後までついてきてくれて本当にありがとう(微笑) 」
「帰りましょう、ヴァリガルマンダへ。今私たちが胸を張らねば、マルコキアス殿に怒られてしまいますよ」
「だな。招き猫が招いた平和を、世界中に知らせるためにも‥‥!」
フランベルジュ消滅の報はその日のうちに世界中に知れ渡り、人々は歓喜の声を上げた。
一年半にわたった世界規模の動乱は終わりを告げ‥‥平和だけが現実として残ったのだ。
決戦の内容を知る者は少ない。
だが‥‥だからこそ、マルコキアスのことを知る者は、生涯彼を忘れないだろう。
願わくば‥‥異界で散った心優しき魔王を、いつの世も誰かが知らんことを―――