人魔大戦ファインザード『新たなる序曲』

■ショートシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:フリー

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月19日

●オープニング

 幻想世界ファインザード。
 魔の炎と呼ばれた試作アーマードウェポン(以下AW)、フランベルジュの完成に端を発し、その後世界中を巻き込む戦乱を展開した世界である。
 数々の戦いの末、フランベルジュの正体‥‥異世界の悪魔、マルコキアスを撃破した英雄たち。
 世界は平穏を取り戻し、戦艦『ヴァリガルマンダ』を母艦とするカスタムAWは封印され、そのパイロットは各々違う道を歩み始めた。
 各国は軍備を縮小し、戦乱で受けた傷を癒すため、復興作業に力を入れる。
 穏やかに流れ行く時間。
 ふと気がつけば、終戦から10ヶ月が経過しようとしていた―――

 その日、空が赤く染まった。
 何の前触れもなく、昼下がりの青空が血のような真紅に染まったのである。
 世界中の人々は恐れ戦き、言い知れぬ不安と共に空を見上げていた。
 そして‥‥。
「よう、俺がヴァリガルマンダの艦長だ。あの空の裂け目から化物どもが湧いて出てきたのは知ってるな? 学者連中から言わせると『悪魔』とかいう生物らしいんだが‥‥まぁンなことはどうでもいい。連中は世界中に出現し、町や村に攻撃を仕掛けている。軍備を縮小していた各国は、対応が遅れ‥‥しかも一匹一匹が結構強いときたもんだ」
 知性の低い低級な悪魔が大半のようだが、それでも全長10メートル近い生物に襲われては一般市民はひとたまりもない。
 AWの平均全長は15メートルだが、相手は魔法とか言う怪しげな術を行使するため、量産型AWでもかなり苦戦すると言う。
「情勢はかなり悪い。今は空の裂け目は閉じ、増援はねぇが、敵の数は多いからな。で、困った各国の王様たちは、先の戦乱の英雄、ヴァリガルマンダとその搭載AWに望みをかけたいんだとさ。封印は解除、世界を股にかける遊撃部隊として活動しろとのお達しだ」
 まずは現在位置であるエルグローゼ王国内のドックから出撃、最寄の悪魔城を攻撃、殲滅するのが任務。
 ちなみに悪魔城とは、文字通りこの世界に現れた悪魔たちが作った城である。
 世界各地に建造されているものの、砦規模から城規模まで、形態は様々。
「ここからだと‥‥南西の悪魔城が一番近いか。規模はフォートレス級‥‥予想戦力は悪魔50〜60匹。量産AWじゃ、一個大隊を率いても厳しい数字だが‥‥なに、おめぇらとカスタムAWなら大丈夫。整備もバッチリだからよ、思う存分やってきな!」
 今、この時から新たな伝説が始まる。
 8人のパイロットと、その愛機たちの伝説が―――

 ハイズカデンツァ:可動式のウイング・バインダーを装備しており、空戦能力と運動性に優れる。武装は腰部のパルスブレード2本とユニオンライフル。ユニオンライフルは高威力のシングルモードと、威力は低いが2丁に分割できて取り回しのいいツインモードが切り替えられる。特殊システム『テュルフィング』の完成型を搭載しており、1分に1回、3秒先の未来を予測することが出来る。

 ラインドレッド:格闘能力と装甲に優れる。パルスサーベル機能もある複合光学盾、ストライクウォールを両腕に装備し、腰部にシェイキングナイフを2本所持。遠距離兵器は実体弾式の汎用ライフルのみだが、機体表面全体に実弾・パルス兵器両方を軽減するヴァリアブルコーティングが施されている。

 ダンシュライザー:装甲と砲撃能力に優れる。背中にブラストツインキャノン(パルス式)を装備し、バックパックに展開型のレールガンを所持。機動力は無いが高火力を有している。手持ち武装としては、腰部パルスブレードが一本とパルスバズーカが一門。バズーカは自機供給エネルギー式。

 フェザリオン:特殊戦闘型。秀でた能力は無いが、背部に無線コントロール式パルス機動砲台『セラフ』を3機装備、オールレンジ攻撃が可能。セラフは搭乗者の危険に対し、自動的に防衛行動をとる機能がある。ただし、その他の武器は腰部パルスブレード一本とパルスライフルのみ。パイロットの技量と直感が問われる機体となっている。

 ジュードガイザー:防御特化型で、格闘性能にも秀でる。機体全体に光絶コーティングが施され、一定以下の威力のパルス兵器を遮断、無効化する。光学・実体兵器を同時に防げる合成盾、ガーディアンシールドを二つ装備。これは常に機体の周辺を漂っており、攻撃に対しオートで防御することも可能。武器は全長15メートルまで伸びる巨大パルスブレード『ザンテツ』と専用デュアルライフルのみ。

 レガンクラスト:中距離格闘型。トレース式パルスワイヤーや有線式シェイバー・ソー等、特殊な格闘兵器を装備するため、対応し辛いと言われているミドルレンジ戦闘が得意。その代わり近接兵器は右腕パイル・ステークのみ、遠距離兵器は一切持たずというピーキーな機体になってしまっている。特殊装備としてジャミング・チャフを持ち、レーダー・肉眼共に視認し辛くなることが可能。

 ガルフヴァイド:機動力重視型で、スピードに優れる。8機の中で最も早く、最も脆いという極端な機体だが、そのスピードは驚異的。武器は腕部内蔵型パルスブレードが2本(手首に搭載)と、光学式のパルスガトリングが二門。追加装備の反衝撃フィールドを発生させれば体当たりで敵を攻撃するすることも可能だが、1分稼動するとその後1分起動できなくなる。

 ロードヴェルフィ:爆撃型。秀でた能力は無いが、全身に火薬武器を搭載した、通称飛行するミサイル倉庫。バックユニットミサイル、脚部、肩部からのスプレッドミサイル、腰部に爆雷。手持ち武器に念動追尾式パルスボンバー、光子ミサイル発射装置を装備。バックユニットの推力で重量のわりに素早く、手首搭載のパルスブレード×2でも戦える。

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0862 リノルディア・カインハーツ(20歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●デビル・フォートレス
 雨降りしきる日。
 ついに封印を解かれ、再び戦場に舞い降りる8機のカスタムAWの前途を祝福するにはあんまりな天気だが、戦争で快晴の日や大安吉日を選んで戦うことなど不可能である。
 雨が降るなら、その状況の下で最大限の戦果を得てみせる‥‥それが彼らに課せられた使命だ。
「この世界の命運は私達にかかっているようですね、なんとしても生き延びましょう。さて、まずは私と久方さんが先行して敵を引きつけるのですね」
「そのとおりでござる! さぁさぁ、どんどんかかってくるでござるよ!」
 ブラボー1、久方歳三(ea6381)のジュードガイザーと、ブラボー2、サーガイン・サウンドブレード(ea3811)のラインドレッドが、悪魔城攻防戦の口火を開いていた。
 防御能力に優れるこの二機は、敵の接近を感知して出撃してきた下級悪魔たち相手に、善戦を繰り広げる。
 悪魔の使う魔法はパルス兵器と認識されるらしく、ラインドレッドのヴァリアブルコーティングで大幅に減衰し、ジュードガイザーは死角からの攻撃でもガーディアンシールドでオート防御が可能。
 派手に数を減らせはしないが、確実に一匹一匹しとめていけるのが強みか。
『これより30秒後砲撃を開始。CはB撤退のため攪乱開始して! B、C、巻き込まれたら死ぬよ!』
「チャーリー1、これより撹乱作戦を開始する。この速さ‥‥やはりこうでなくてはな」
「チャーリー2、同じく撹乱戦闘を開始です。行きなさい、セラフ達!」
 パルスガトリングを乱射し、高速機動で戦場を駆けるのは、アリオス・エルスリード(ea0439)のガルフヴァイド。
 機動砲台セラフを切り離しオールレンジ攻撃を仕掛けるのは、リノルディア・カインハーツ(eb0862)とフェザリオン。
 チャーリーチームと分類されるこの二人は、先の通信でも言われたようにブラボーチームが撤退するための撹乱役である。
 下級悪魔はさほど知性が高くなく、言語も操れないので、フェザリオンの空間攻撃に対処が遅れる。
 さらに、ガルフヴァイドの反衝撃フィールドで爪や牙が無効化される上、そのスピードにも到底追いつけない。
 撹乱などと言わなくとも、ブラボーチームと力を合わせれば十分相手を殲滅できそうな気さえする。
「アルファ1より各機へ! ツインブラストキャノンのチャージ完了、全機射線軸より退避!」
「アルファ2、了解。ロードヴェルフィは状況に応じて援護に回る」
「アルファ3、了解。ハイズカデンツァ、平和な未来を私に見せてください‥‥皆さん、幸運を祈ります」
「アルファ4、りょーかい! 今度は正真正銘の悪魔退治か。もう大概の事じゃ驚かねぇが、ともあれ気は抜けねぇな!」
 隊長機に選ばれたダンシュライザーを駆るリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
 以下、火力の要、ロードヴェルフィのイグニス・ヴァリアント(ea4202)、未来予知が可能なハイズカデンツァのニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)、中距離のエキスパート、レガンクラストの陸奥勇人(ea3329)と続く。
 アルファチームは、ブラボーチームを囮とした上での本命である。
 以前事故で出番をなくしたロードヴェルフィは、イグニスという新しい主人を得、機体色も蒼と黒主体に変更、心機一転という意味でも活躍したいところ。
「消し飛べ‥‥異世界の住人たちよ!」
 二条の光線が空を貫き、下級悪魔5〜6匹を巻き込んで消滅させる。
 雨粒もまとめて蒸発させながら、ダンシュライザーの砲身の冷却装置が作動した。
「ならば俺も続こう。俺達の絶望‥‥全て貴様らに返してやる‥‥!」
 ミサイルの半分くらいは残すよう意識しながらも、凄まじい量の火力を吐き出すロードヴェルフィ。
 尾を引きながら不規則な機動を行うミサイルの雨は、下級悪魔たちに直撃してバラバラにする。
 相手が生物だけに、派手に地や肉片が飛び散るが、それはまぁ言いっこ無しか?
「あとは各個撃破するだけってな。異世界の悪魔‥‥噂ほどじゃないぜ!」
「それは違います‥‥恐らく、このカスタムAWと我々の力が予想以上なのでしょう。たかが三秒と侮るなかれ‥‥攻撃してくる場所・方向・手段などがわかれば、回避は容易!」
 レガンクラストのパルスワイヤーでハムのようにバラバラにされる者、ハイズカデンツァのユニオンライフルでバラバラにされる者等、実力差は明らか。
 量産機といい勝負を繰り広げる程度では、カスタムAWの相手などできはしないのだ。
 一時、下級悪魔が何体か集まって協力し、魔法の一斉射をかけてきたこともあったが、戦場に引き返してきたブラボーチームの活躍により、最小限の被害で済む。
 カスタム機が8機そろっての大暴れ…こうなればもう大勢は決する。
 すなわち‥‥人類史上初、フォートレス級悪魔城の下級悪魔壊滅。
「とは言え、これで済む訳はねぇよな。どこだ‥‥どこに居る?」
「‥‥上です! 太陽を背に‥‥!」
「マルコキアスと同じようなことを‥‥!」
 そして一同が見た物とは―――

●限界バトル
『お前ら、よくもやってくれたな! このままじゃ俺たちの立場がねェ!』
『ギギギ! 落とし前はお前たちの命でつけてもらうぜェ!』
 明らかに格が違うであろう二匹の悪魔。
 身体の大きさも、作りも、言語を操る点も、下級悪魔と一線を画していた。
「どうして、今になってこちら側に‥‥。私達に、戦う理由なんて無いのに‥‥!」
「出やがったか! ニルナ、俺たちでこいつを抑えるぞ。手を貸してくれ!」
「私にできることを、するまでです。未来を紡げ! ハイズカデンツァ!」
 リノルディアの呟きは、すぐに陸奥とニルナの声にかき消されてしまう。
 中級悪魔二匹は何をしてくるか分からない‥‥時間をかけるのは得策ではないだろう。
「私たちのこの世界、簡単には渡さない。イグニス、集中砲火だ!」
「了解! 残弾目一杯‥‥くれてやる!」
 火力トップ2の二機による集中砲火。
 パルス式の武器、実弾のミサイル等、並みの悪魔やAWならチリも残らないほどの威力になるだろう。
 ‥‥が。
「バリア!? いや‥‥防御魔法とでも言うのか!」
『この程度で俺たちがやられるものか!』
『多少痛いが‥‥そこまでだァ!』
 アリオスの驚愕の声にも、中級悪魔はわりと余裕で返してくる。
 そう、やはりネックは中級悪魔なのだ。
 下級相手でも厳しい量産AWに、中級悪魔の相手が勤まるわけがない。
 かといって、ハイエンド機であるカスタムAWを量産することなど出来るはずもなく‥‥だからこそこの8機と8人にすべてを託すことになったのだ。
「うぅっ‥‥やはりマルコキアス殿を倒したときも、半ば運がよかったと言うことなのでござろうか‥‥」
『ギ!? ま、マルコキアス様を貴様らが!?』
『馬鹿な‥‥あのお方は上級悪魔、しかも72人の魔王のお一人だぞ!?』
「なるほど‥‥やはり只者ではなかったのですね、前大戦の根源は。私はサーガイン、あなた方と話がしたいのですが‥‥」
『う、うるさい! 下等生物と話すことなど何もない!』
『逆に、ここでお前らを殺れば俺たちの株も上がる! 上級への昇進だって夢じゃない!』
「あァ‥‥そいつは無理だな」
『ギ!? なんだと!?』
「だってよぉ‥‥そういう台詞を吐くやつは三下って相場が決まってんだ。器じゃねぇのさ」
『貴様ァァァァァ!』
「‥‥陸奥の挑発にあっさり乗るあたり、さらに絶望的だな。各機、接近戦に持ち込め! 至近弾でもいい、とにかく防御魔法の内側から攻撃を試みるんだ!」
「アルファ3、了解。こうなったらやるしかないの‥‥許してください。セラフィック・スパイラル!」
『ギィィィッ!?』
 セラフをコントロールし、三方から至近距離で囲み、足元から上に向かって回転させながらパルスを放出。
 床屋のぐるぐる回るアレを思い浮かべてもらえると分かりやすいか?
『おのれェェェ! エレクトロ・サンダー!』
「これ以上まともな話し合いは望めませんか‥‥仕方ありませんね。お守りします、今の内に攻撃を」
 サーガインがストライクウォールを展開し、ニルナをかばう。
 電撃をも遮断するそのシールドは、世界最高峰の防壁である。
「行きます‥‥ユニオンライフルツインモード、零距離バースト!」
「手伝おう。反衝撃フィールド、オン! 突き刺され!」
 ニルナが撃っているのと反対‥‥中級悪魔の背中から体当たりし、ユニオンライフルの銃身に串刺しにしようとするアリオス。
 確かに、このまま食い込めば体内に弾をぶち込めるが‥‥!?
『ち、調子に乗るなァッ! ブラストウェイブ!』
 ごうんっ、という衝撃音と共に、二機が大きく弾かれる。
 どうやら自身を中心として、衝撃を拡散する魔法か!
「ハイズカデンツァのダメージが大きい!? エルナ、無理をするな! 久方!」
「わかってるでござるよ! 抜けば魂散る光の刃‥‥えぇい寄るな寄るな、寄らば斬るでござる!」
 AWの全長とほぼ同じ長さのパルスブレード、ザンテツ。
 マルコキアスを倒したときのように、やはり‥‥!
『ギャァァァァァァ!?』
 この剣は、対悪魔の切り札足りえるのかもしれない。
「一匹撃破! なら俺も行くぜ‥‥夢幻光刃裂鋼乱舞!」
『下等生物如きがァァァ! メテオストーム!』
 ぶつかり合う力と力。
 この戦場はまさに、地獄のようであったと誰かが言った―――

 ―――結果だけを言えば、英雄たちは勝利した。
 だがカスタムAWのダメージも大きく、次の任務までに早急な修理が必要だろう。
 誰もが感じている性能の限界‥‥もはや、新しい機体の開発を待つしかないのかもしれない。
 だが、もしかしたらそれでさえ‥‥。
 様々な不安を抱えつつ‥‥人と悪魔の戦いは、人類の反抗と言う形で本当の幕を開ける―――