真の平和とは? それぞれの真意
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■ショートシナリオ
担当:相楽蒼華
対応レベル:フリー
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年04月15日
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●オープニング
「どうして君がそんなものに乗っているんだッ! 争いは嫌だって、あんなに言ってたのに!」
「そっちだって‥‥!どうして軍の肩を持つような事!」
二機のロボットの武器であるサーベルが交わる。
轟音を響かせ、二機はまた離れる。どうやら互いは顔見知りのパイロットのようだ。
今この宇宙では、幾度となく戦争が続けられていた。
地球に縛られるもの。
宇宙に身を委ねるもの。それぞれの真意・思惑が宇宙を「人型ロボットを使っての戦争」という形で駆け巡っている。その中にもやはり、地球、宇宙。どちらにもつかない「中立」を保つ者も戦場にいた。平和を願う者達が。
しかしそんな戦争の所為で、一部の少年・少女達が戦場へと駆り出されていた。
「もうやめよう、クレイ! こんな事したって、何にも変わらない事ぐらい君だって分かってるはずだろ!?」
「確かに何も変わらない! でも、少しでも変える事は出来るかもしれない!まだこれからだ、ゼル!」
クレイの機体からビームが放たれ、ゼルの機体のブースターを直撃する。
「しまった、ブースターが‥‥! くそっ‥‥なんで分からないんだよ、クレイ‥‥!」
「流石星を異名に持つアルラウネ‥‥一撃では落ちないか‥‥。ゼル、投降しろ! 今ならきっとまだ間に合うッ!」
「そんな事‥‥そんな事したら、君はまた戦争を始めちゃうだろ!?」
‥‥ゼルとクレイは幼馴染だった。小さい頃から何時も一緒で、戦争を嫌う仲間でもあった。
しかし、その住んでいた場所も軍の襲撃に合い、二人は離れ離れとなってしまっていたのだ。
再会がこのような形になるとは、二人も思っていなかっただろう。
人員派遣施設では、その戦争に行きたいと志願する者が集まっていた。そこで2年間訓練を受け、ようやくロボットにも乗れるのだ。
「さて、集まったね? 今年の卒業者は君達だけだ。前線を志願する者達の中でも選ばれた成績を持つと思っても構わないだろう」
長官らしき人物が話を続ける。
「そして今現状は宇宙で地球軍を除く二大勢力の一部が激突しあっている。君達にはそれぞれどちらにつくか選べる権利が与えられるのだ。一方は宇宙を支配する「ゾディアック・ブレイク」。もう一つは地球軍とも宇宙軍とも違う、平和を願い武力を持ち、一人の女性と共に声を高らかにしている中立派である。今の戦力からいって地球軍はもう使い物にならないだろうと思われる」
つまり、三つ巴がようやく終盤を迎え、今サシの勝負にさしかかっているというところだ。
「この施設も無論、中立である! 諸君等がどちらに所属しようが一切口出しもしない。どちらがオススメだというススメもしない! 諸君等の意思で選んで欲しい。尚、どちらに入るか申請した後はそれぞれに双軍の主力ロボットを渡すという事だ。‥‥初めての戦争が終盤の激戦となるだろうが、頑張ってほしい。そして、各自で様々な真意を感じとって欲しい! 以上である!」
長官はそう言い終えると部屋を後にする。そこには一人の女性が彼を待っていた。
「本当に、あの人達を戦場に出してしまうのですか?」
「心配ですか、セレン様は?」
「私達が持つ剣を、彼等みたいな少年、少女に持たせてしまう私達が不甲斐ない。そう思います」
「ワシ達では剣をとるには遅すぎる‥‥時代の流れ、ですな‥‥」
「戦いの中で問いかけてみましょう。彼等の「闘う意味」を。「真の平和」を‥‥」
かくして、戦争の行方は‥‥?
●リプレイ本文
地球から人類が飛び出して、宇宙へと進出した時代。
宇宙を支配する「ゾディアック・ブレイク」と、地球軍との長き戦乱は両者の平和を願う中立勢力の台頭を生み、やがて三つ巴の戦いへと変化していた。戦いはやがて地球軍の敗退と、残った二つの勢力の激突へと移っていく。
そして今、最後の決戦の名のもとに、宇宙(そら)の上で無数の命が消費されていた。
●誰がために
「中立とか平和の為とか、人殺しの武器を構えて言われても説得力が無いんだよ!」
ルナ・ティルー(eb1205)の機体のショートビームサーベルが、向ってきた敵機のコックピットを串刺しにした。
「はぁ‥はぁ」
休む間もなく、レーダーが高速接近する新たな敵機を捉える。
「あー、キリがない。ボクの邪魔をしないでよっ」
中立軍機のパイロットは呆然とする。突然、ルナの機影が消えてしまった。
「消えた。一体何処に?」
「ミカエル、彼らを倒せばゼルの側に行けそうだ。手伝ってくれ」
白い光の異名を持つ『ブランリュミエール』を駆るルシフェル・クライム(ea0673)は、妹のミカエル・クライム(ea4675)に呼びかける。
「兄上、任せてください!」
ミカエルは常にこの兄の為に行動した。手伝ってくれとは愚問である。ルシフェルの操る『フラムロウ』は炎の王の異名を持つ火力重視型。前面の敵部隊を焼き払おうと全弾発射の態勢を取る。ミサイルの嵐が宇宙軍のロボットに降り注いだ。
「さすがだな。私の出番が無い」
「そんな‥‥でも兄上のお役に立てて嬉しいですわ」
妙に顔の赤いミカエル、ルシフェルが何か言おうとしたが――その時、機体のアラームがけたたましく鳴った。
「外した? バスターランチャーの照準が完全でないのか、それとも相手を賞賛すべきか‥‥」
シン・バルナック(ea1450)の機体『アース・シャイン』はゼルとクレイの戦いに乱入しようとした二機のロボットを長距離から狙い撃ちした。
「構わない。そもそもが間違いだらけの戦いだ。私の選択が平和へ続くか否かは分からないが、この戦い、止めさせてもらう」
複座型の重ロボットであるアース・シャインは背中の四枚の白い羽を展開した。まずは加勢に来た紅白二機のロボットを倒そうと、青と白の二色の機体は獲物に狙いを定める。
「戦いが終わったら地球で二人で暮らそう。君は私が守るから」
出撃前、シンはメロディに指輪を渡した。
「‥‥」
「これが最後の戦いだから、思いつきで言ってるんじゃない。自分にとって大切なものが何か気づいたから、この戦いが間違いだという事も今なら分かる。必ず戦いを止めて、生き残って君を守るから」
「私は戦いを止めに来たのだ。戦いを止めたいのなら、黙って見ていろ!」
ルシフェルは顔をあげた。天頂方向から大地の輝きが彼と妹を目掛けて急接近してくる。
「元はといえば、地球人が宇宙に人を追い出さなければ争うことは無かった!」
アース・シャインの白い翼から無数のM式電探装置ミサイルが発射される。
「そんな昔のこと! あたし達に何の関係があるのよ!」
兄のブランリュミエールを守ろうとミカエルは迎撃のミサイルを撃つ。
「いまここに居る原因が関係無いなら、最後は自分の意思で戦うということだ!」
「訳の分からん屁理屈を!」
速度を緩めず突進したアース・シャインはルシフェルの機体を弾いて、コーティングサーベルを抜いた。
白銀のランスの閃光がアース・シャインに迫った。
フラムロウの弾幕を囮に使ったクライム兄妹のコンビネーション攻撃だ。
「うぉぉぉぉっ!!」
「むっ」
シンは夢中でランスの軌道から愛機を引き剥がすが、左腕と片翼をもぎ取られる。
「何故こうも簡単に接近を許す?」
アース・シャインは複座式だ。基本操縦はシンが、火器管制はメロディが担当する。
「‥‥」
「‥‥メロディ?」
パートナーの名を呼ぶ。返事が無い。
「兄上! 無事ですか!」
「ああ、大丈夫だ。あのパイロット、まだ反撃する力は残っていた筈だが、いや‥‥」
ルシフェルはモニターを見た。今の戦闘でゼルの姿を見失っていた。
両陣営は既に戦力予備隊も殆ど投入している。後の無い決戦に、いまこの瞬間も夥しい命が失われていた。
「どこで油を売っているんです? そろそろ応援に来てくれても、いいんじゃないですか?」
モニターに卵が映し出された。
●存在意義
宇宙軍を選んだフェシス・ラズィエリ(ea0702)は、非人間型の奇怪なロボットと交戦していた。
「なんだ、この変なロボットは?」
フェシスの乗る高機動型ロボット『アーシファ(嵐)』の前に立ち塞がったのは、巨大な卵型のシルエットに日本の巨大な鎌を装備していた。
「私のこのエッグを理解できないとは‥‥宇宙戦で人型の方が無理がありますよ」
卵型ロボット『エッグ』を操るのは中立軍の風月陽炎(ea6717)。高出力のFCSジャマーを搭載したエッグには長距離射撃は意味がなく、宇宙軍機を格闘戦で翻弄していた。
「戦場で語り合う趣味は無いんだが‥‥口喧嘩で納得するなら、こんな所に出てこないだろう?」
フェシスは持ち前の機動力で先程からエッグの急所を探した。エッグは形がシンプルな分、狙える所も決まってくるが‥‥。
「否定はしませんが、世の中にはそれで納得しない馬鹿もいるんですよ。殺し合わなくても、平和を信じられる馬鹿がね。そんな彼らに、私は賭けたくなったんですよ、この命を」
「だから、言い合いは沢山だって言ってるだろ。早く帰ってママにでも聞いて貰ったらどうだ?」
問題はエッグの攻撃圏内で、確実にダメージを与えられるかという事だ。
「どうしました? ‥‥私の相手をするには、少々パワー不足だったようですね」
「それはどうかな?」
スピードで勝るアーシファはエッグに急接近してショートライフルを打ち込んだ。一撃離脱を繰り返すのがアーシファの戦法だが、今回は相手のレンジに自ら飛び込む事でもある。
「甘いですよ」
離れ際、まるで背後に目が付いているような動きで大鎌がフェシスに振り下ろされる。エッグにもダメージは与えたが、代償は大きい。今の攻撃でアーシファの身長が4分の3になった。
「どうします。その機体で、まだ続けますか?」
「ふん、どうせ足は飾りなんだろう? 軽くしてくれたお礼をするよ」
「今の状況が平和と呼べないのは分かる。だが平和は待ってるだけじゃ来ない。少しでも早く平和にするために武器を取った。地球や宇宙がどうとか言うつもりは無いが、俺は宇宙側に縁があった。それだけだ」
「さっきまで、戦場で語る男を軽蔑していませんでしたかね?」
「もう弾が無い。殴り合いでもするか? この際だから言うが、俺からすればお前達は平和を掲げて戦争を長引かせてるようにも思える。他に手段なかったのか、って思うんだよな」
「困った質問ですね。無かったと言えば私達の存在意義がありません。あったと言えば、自分達の愚かさを認めることになる」
「まあ、いいさ。どうせもうすぐ終わる。偽りでも、平和は平和だ」
宇宙軍フェシス機「アーシファ」大破。中立軍陽炎機「エッグ」大破。
●犠牲
場所を変えて、断続的に続けられたゼルとクレイの戦闘も終りが見えてきた。
「ゼル、あとは私達に任せろ。必ずクレイを君に」
ようやく合流したクライム兄妹。しかし、クレイに向けた兄のブランリュミエールのランスがどこからともなく放たれたビーム攻撃に吹き飛んだ。
「なにっ」
「レーダーに反応は無かったわ!?」
中立軍の目から逃れて移動していたルナ・ティルーの漆黒の機体によるビーム狙撃だ。
「レーダーに映らない機体なんて、そんなの‥‥ズルイよ!」
ゼルを守ろうと二機は動くが、別の場所から放たれた第二射がフラムロウに命中し、機体が大きく爆ぜた。
「ミカエル!」
「‥あ、兄上。‥‥私は大丈夫です‥‥」
ミサイルを山のように積んだフラムロウは防御に優れているとは言えない。誘爆しなかったのが不思議なほどだ。
「え? その声は、ルシフェルとミカエルなの?」
攻撃したルナにも驚きがあった。たとえ戦場でも、同じ施設の仲間達とは戦いたくない気持ちが彼女には消えずに残っていた。戦場で相対しては親でも殺すと、そこまで割り切れるものではない。
「なんでボクとキミたちが‥‥おかしいよ、おかしいんだよ、戦争は!」
ルナはステルスを解いて特攻した。
「ボク達の戦いを見て、戦いが醜いものだって知らせなければならないんだよ! つらくて、苦しいものだって皆にわかってもらうんだよぉーっ!」
「ルナ? まだミサイルが‥‥兄上っ?」
機体をルナ機に向けようとしたミカエルを、ブランリュミエールが遮る。
「ミカエルをやらせる訳にはいかないっ」
ランスを失った機体で、ルシフェルは妹の盾になる。兄の危機に妹は残ったミサイルを全て発射した。クレイに向けて。
「あなたさえいけば、とりあえず答えは出るわ。‥‥死んで」
天使は微笑む。
「クレイ、逃げてっ」
ルナは機体に急制動をかけて機首をミサイルに向ける。
「おのれぇっ」
「クレイっ!」
ゼルのアルラウネが、フラムロウに照準を合わせていたクレイ機を突き飛ばす。
「ボクがここでキミにやられても、キミが戦争をとめてくれるなら‥‥ボクはっ!」
ルナ機がミサイルに当たって吹き飛んだ。爆発はゼル機、クレイ機をも飲み込む。
戦いは辛うじて中立軍の勝利で終わった。
これで戦力の大半を失った宇宙軍と地球軍の代表は講和の席につく事になる。
しかし、戦いに勝利してこの結果を勝ち取った中立軍も戦力の優位を保つほどではなく、薄氷の平和であることは誰の目にも明らかだった。
果たして無数の命を飲み込んだ戦乱が、この結果に満足する事があるだろうか。
或いは一時の休息でしか無いのかもしれない。
それでも問い続けられる。
彼等の「闘う意味」を。「真の平和」を。
(代筆:松原祥一)