●リプレイ本文
●ライダー危機一髪
「くっ‥‥ 不覚‥‥」
「メェ〜〜!!」
ヤギの意匠を象った戦闘員らしき者たちの蹴りが、銀色のグローブとブーツに蒼みがかった漆黒のライダースーツに身を包んだアマツ・オオトリ(ea1842)に食い込む。子供たちを盾に変身用のバックラーを奪われては成す術がなかった。
「いやぁ、着ぐるみショーまでやってるなんて、すごいなぁ」
午前中のセッションが終了して、外の空気を吸いに来てみれば、これだ!
TRPG・修羅王遊戯のコンベンションに参加している高校生・伊達和正(ea2388)の目は、繰り広げられている戦いに釘付けである。
「ふははは! ウィードよ。オーラ力・分解光線を浴びて死ぬがいい!!」
「うわっ‥‥ ぐっ‥‥ 体が‥‥ バラバラに‥‥」
ヤギ怪人・レオパルドンの放つ光線を受け、アマツが苦悶の表情で叫ぶ‥‥
「龍牙共々なぶり殺しにしてくれるわぁ。そして、テラのウェブトークネットが我らの手に落ちる日も近い!!」
「そうはさせん‥‥ 私を盾と使おうなどと卑劣は許さない!!」
ライダー・アマツはヨロヨロと立ち上がった。
「オーラの力は幾らも残ってはいまい! ウィード、止めを差してやる!!」
レオパルドンの不敵な笑いが木魂して、戦闘員たちの剣がアマツを狙う‥‥
(「和正‥‥ いえ、ルナー星の月光の戦士、ルナーマンよ。今こそ目覚めの刻です!」)
「母さんの声‥‥」
伊達は唐突に、しかし、はっきりと自らの使命に目覚めたのである。
「ルナティック・スパーク」
大きく手を広げると両手のムーンストーンの指輪を胸の前で突き合せた!
「剣を突き立てろ!」
しかし、淡い光と共に戦闘員たちの剣が弾き飛ばされる。
「何ヤツ!」
「月光の戦士、ルナーマン!」
驚くレオパルドンに、ルナーマンは両手を突き出すように斜に構えた。
「えぇい! 纏めて叩きのめしてやる!!」
光線を放とうとしていたレオパルドンからバックラーを奪った炎の魔竜ドラグカイザーが、アマツの手元にそれを落とした。
「龍牙か!」
「ちわーっす! 渋めのオヤジ萌えツンデレ女、来たぜ!!」
「相変わらず‥‥口が悪いな‥‥」
驚く怪人を無視して、顔を見合わせて不敵に笑いあう巴渓(ea0167)とアマツ。
「バカめ。ウィードはオーラ力を破壊され、体はバラバラ寸前! 3人纏めて倒してやる」
「残念、4人だよ」
真紅のグローブとブーツに翠がかった漆黒のライダースーツを纏った巴がバイク『ファイアードラグーン』から降り立つ。
「初めまして、ウィード。わたくしも同じく気功闘士に選ばれし者、闘鬼」
巴の背後から現れたシャクティ・シッダールタ(ea5989)が手を当てるとアマツの体から痛みが引いていく。
「死ねぇえ!!」
レオパルドンの光線が放たれようとしている。
「アマツ、シャクティ、変身だ! 来い! ドラグカイザー!!」
「ナイトウィーング!!」
「仏の声を聞きました。今こそ我が化身、見せるとき! 招来、コルドポーラー!!」
「「「セイヴァーァァァ‥‥ 変身!!」」」
炎が渦巻き、風を斬り、吹雪を纏って3体の影がオーラの光を放つ!
「バ、バカな‥‥ ウィードに変身するオーラは残されていないはず‥‥」
「正義を想う心にオーラは不滅なのです」
巨大金棒・コルドブレイカーを構え、冷気を漂わせる白熊の戦鬼・オーラセイヴァー闘鬼が静かに言い放った。
「そう! この星を、この世界に生きる全ての明日を守るワルプルギスの剣士、簡単に敗れはせぬ!!」
戦闘員を斬り伏せたウィードの仮面が光る。
「猪口才な! やってしまえ!!」
しかし、雑魚の戦闘員はセイヴァーやルナーマンの敵ではない。あっという間にレオパルドン1人になってしまった。
「降魔覆滅‥‥ 御仏の元に帰して差し上げましょうぞ」
「やれるかな? 出でよ。再生怪人軍団!!」
闘鬼の放ったコルドテンペストの吹雪をレオパルドンは腕の一振りで弾き返し、手の平に作り出した闇の球を頭上に放り投げた。
地の底から滲み出るかのごとく、倒したはずのブラッディソードの怪人たちが姿を現す。
「怪人がこんなに!」
「ふはは! 壊滅したブラッディソードを飲み込んでゲルダー団は侵略を開始したのだ。世界はゲルソードの支配下に置かれるのだぁ!!」
驚くルナーマンにレオパルドンはオーラ力・分解光線を放つ。ルナーミラーで弾き返しはしたものの、油断はならない。
闘鬼の白獣咆哮・一騎凍千が再生怪人を凍結させ、コルドブレイカーで粉々に砕く。しかし、如何せん数が違いすぎる。
「このままでは‥‥」
ルナーショットが再生怪人を八つ裂きにするが大勢は動かない。
「まずいぜ、こりゃあ」
「そんな口調には聞こえないぞ、渓」
龍牙とウィードは背中合わせにジャンプするとファイアーキックとドリルキックを再生怪人にお見舞いした。
●前線基地壊滅
「隊長、攻撃指示を‥‥ 隊長〜〜!」
しかし、通信に対する返事はない。
黒ヤギスーツに手をかけて引き抜くように脱ぎ去ると、そこに現れたのは、黒地に赤の流線でボディラインを強調したスーツにアイマスク姿のくのいち!
「何か楽勝ね‥‥」
潜入していたウィードをいち早く発見し、戦闘員の隊長に御注進して戦闘員たちをそこへ集中させたのが彼女、チーム『エクストリーム』の天藤月乃(ea5011)だ。そのおかげで、こちらの仕事は、やり易いったらない。
「子供たちには好きなもので遊ぶ権利があるのよ。
それを強引に特定の遊びや考え方を押し付ける、そんなことだからTRPGがヲタクだけのものになるのよ」
「ぐぞぅ‥‥ こんなふざけたヤヅに‥‥」
自分たちは棚に上げておいて、それはないだろうという感じだが‥‥ ともあれ、戦闘員たちの隊長はボコボコにして満足そうな天藤。
「ヒーロー気取りなら‥‥ もっと華麗に倒したらどうなんだ‥‥」
「必殺技のこと? あたしの存在そのものが必殺技みたいなものだから要らないわ」
「ぜめで華麗な戦略で‥‥」
「パス。面倒くさいもの」
ビィ‥‥ ビィ‥‥ ビィ‥‥
天藤が振り向くと体をプルプル震わせながら、這うように警報スイッチに手を伸ばして倒れている。
警報と共にギガントサイトの警備カメラに映った戦闘員たちの姿が慌しくなる。
「あら、本当に面倒くさいのは御免よ。全く‥‥」
印を組んで分身すると腰のポーチから手の平にすっぽり収まるようなボールを取り出す。
「だ、だにをするぅ‥‥」
「知らない方が幸せかもよ」
天藤は虫の息の隊長を侮蔑するように微笑んだ。そのマスク越しにも冷ややかな視線は十分に感じることができる。
「何かあったのですか!?」
戦闘員たちがドヤドヤ雪崩れ込んだ司令室には、隊長を足蹴に冷笑を浮かべる天藤の姿が‥‥
同じ姿が2つあって動揺した戦闘員たちのトリガーを引く指が躊躇する。
「こちらホーネット。本部へ、任務完了よ。敵が残ってるけど、あたし抜きでも何とかなりそうだから帰還するわ」
唖然とする戦闘員たちを余所に天藤はボールを床に投げつけると窓ガラスを割って身を躍らせた。
「待てぇ!!」
その瞬間、司令室は白い煙に包まれ、激しく咳き込み、涙を流して戦闘員たちがのた打ち回った‥‥
●黒のレオパルドン
やや前後してギガントサイト内‥‥
「ドラゴンの爪は空を切ったぞ」
コスプレMSなのか黒ヤギ怪人がゲームマスターをしている。それを見下ろす銀の髪に青い瞳の女性‥‥
「そこまでよ! 子供は誑(たぶら)かせても、私は騙せません!!」
「ふ‥‥ バレてしまっては仕方ない。修羅王ファンタジーで1億総洗脳を行うという計画を知ってしまったお前は生きては帰さん!! このメルカバンが直々に相手をしてやる」
ヤギ怪人の合図に他の卓でMSをやっていた者たちが洋服を脱ぎ捨てると、黒ヤギの意匠を凝らした戦闘員たちが姿を現した。
「皆、逃げて! ミュゥテイション!!」
大きく切れ込んで脇腹が覗く袖なしのチャイナ風の上着にウォッシュカラーの短パンのジーンズ。チラリとおへそを見せながら体を捻り、クレア・エルスハイマー(ea2884)は炎に包まれながら着地する。
「エルフィンウィザード! 参上!!」
炎を纏った短剣を構えながら、見得を切ったクレアの体には深紅の胸当てと肩アーマー。真っ赤な宝石が輝く手袋とブーツが、その身を覆っている。
「ばぁん♪」
クレアが指を鳴らした瞬間、戦闘員が爆発で何人か吹き飛ぶ。ついでに客も何人か‥‥
燃えながらヒラヒラと舞い落ちるキャラシートの、まるで舞台のような演出にコンベンション参加者たちは固まっていたが、火災報知機の音に我に返ってパニックを起こす。押し倒されて悲鳴を上げる者も‥‥
「一般人を傷つけて‥‥ 人々を恐怖に陥れるあなたたち、悪の手先を私は決して許しません!!」
「ほざけ! 我々ゲルソードによる完全支配。それだけが旧支配者の元で人類が生き延びる最後の手段なのだ!!」
両者1歩も譲らず‥‥
ぐわら、ぐわら‥‥
そのとき、天井が崩れ、ひょっとこのお面をつけたお兄さんが巨大ひょっとこの口から飛び降りてきた。
「誰が呼んだか、ひょっとこ仮面! たった一つの体を捨てず、世のため人のため悪(ワル)の野望を叩いて潰す!
ひょっとこ仮面がやらねば誰がやる!? この仮面を恐れぬのならかかって来いぃや、あぁほぉんだらぁぁぁ!!」
とれすいくす虎真(ea1322)は改造人間である。悪の臭いを嗅ぎつけて、どこにでも現れるお好み焼き製造サイボーグなのだ。
「無垢な子供まで狙うとは、卑劣な‥‥ 姐ちゃん、子供や一般人は任せて! 存分にやってくれ!!」
ひょっとこ仮面と一緒に一般人たちが巨大なひょっとこの口に吸い込まれる。
「やぁああ!」
隙を突いてクレアの刃が戦闘員たちを切り裂く。火球でズタボロになっていた戦闘員たちが、走り抜けたクレアの背後で一斉に倒れる。
「少しはやるという訳か‥‥」
「これで邪魔は入りません。こっちですわ」
クレアと一緒にメルカバンが頭上高く飛んだ。
●黒と白のヤギ
「ドラグスレッダァー!!」
龍牙の剣が再生怪人を真っ二つに焼き斬る!
「気をつけて!」
ルナーナイフが空を斬る。闘鬼の背後から襲い掛かろうとしていた再生怪人の動きが一瞬止まった。
すかさずコルドブレイカーが再生怪人を吹き飛ばすが、妙な方向に捻じ曲がった首をブラブラさせながら立ち上がってくる。
しかも‥‥
「レオパルドンよ、加勢に来たぞ!」
「おうよ兄弟! 一気に殲滅してやる!!」
黒と白のヤギ怪人がギガントサイトを背景に立ちはだかった。
「あなたたちは‥‥怪人の敵、人類の味方なのですわね?」
「そう。私たちはテラを守る戦士!」
肩で息をしながら答える漆黒の騎士の言葉に、クレアの胸にジンと込み上げるものが‥‥
「ブラッディソードとの戦いで宇宙警察テラ分署が壊滅したと思っておったに、未だこれほどの戦力を有していようとはな」
空間を歪ませて姿を現したのは、黄金の髑髏仮面に華麗なローブを纏った尊大な男‥‥
「あの巨大ロボは任せておけ。お前たちはこやつらを始末せよ」
「畏まりました。暗黒宰相閣下」
黒と白の怪人が頷くと暗黒宰相と呼ばれた男は光の球となってギガントサイトへと吸い込まれていく。
「スタンダップ‥‥ ギガントロボ」
魂を震え上がらせる言霊と共にギガントサイトが唸りを上げ、巨大なロボットに変形していく。
「熱風コミケ‥‥」
「マッジ‥‥」
腕を突き出して会場ドアが開くと、そこから生暖かい熱風が吹き出す。
「ああ、難波ハリセンが!」
ひょっとこインパクトのハリセンが、ズンッッと地響きを立てる。
「デヤッ‥‥」
身長55mに巨大化したルナーマンが、よろめいたひょっとこインパクトを支えた。
「だぁっははは!!」
黒と白のコントラスト‥‥ 2大怪人の連携は巧妙である。
「我は導く魔神の息吹!!」
「郵便事故ぉ!」「返信未着ぅ!」
右腕から放たれた炎の魔犬、エルフィンウィザード最大の魔術もカウンターで無効化されてしまう。
「「スペシャルノベル再発送!」」
倒したはずの再生怪人まで復活してくる‥‥ このままでは‥‥
「やけになった人間が何をやるか、とくと見やがれ!! アマツ! 転身(リバイブ)すっぞ!!」
「わかった。それしかあるまい」
転身‥‥ それは魔獣の力を増幅し、全身をチャージアップする怒りの化身!
「えぇい! 新読参スペシャル企画ぅ!!」
「何故だぁ! 何故攻撃が効かん!!」
攻撃を弾きながら龍牙・紅烈火とウィード・黒旋風が互いを見つめ、無言で頷く。
「セイヴァーパワー!!」
レオパルドンとメルカバンを捕まえたダブルセイヴァーは、オーラ力の渦となって再生怪人ごと巻き込んだ。
「止めろぉ! お前たちも死ぬぞ!」
「私たちには闘鬼が、新たな戦士たちが残されている」
ヤギ怪人たちの悲鳴が響く。
「「ダブルセイヴァー!!」」
ズドォォオン‥‥
叫ぶ闘鬼とエルフィンウィザードを置いて、光の渦は遠く海上で爆発したのだった‥‥
●戦い済んで
「轟・ひょっとこパ〜ンチ!」
ひょっとこインパクトの拳はギガントロボの外壁を僅かにへこませただけだ。
「くぅ、たとえ武器を失おうが、このナニワの魂は消せん! 超・必殺、ひょっとこファイヤ〜〜〜!」
ひょっとこインパクトの口から全てを燃やし、溶かしつくす炎がギガントロボを包み込む。
「ルナー! スマッシュッ!!」
ジャンプして体を丸めて回転したルナーマンが体を開いたとき、その手に握られていたのは銀色に輝く光の剣! ギガントロボの脳天直撃!!
「楽勝ね‥‥」
ホーネットは超常変形ギガントロボが爆煙を上げたのを見届けて、町の雑踏の中に消えていった。
その姿を見下ろす僧が1人‥‥
「渓、アマツ様‥‥ オエドーの町は、わたくしが必ず守り通してみせましょうぞ」
遠い空に浮かぶ2人のオーラ戦士の姿にシャクティは誓った‥‥
その頃、水底深く、薄暗い闇の中で‥‥
「ダブルセイヴァーは死んだ。残った者たちでは我らの守護大神・九頭龍の復活を止めることはできますまい」
「暗黒宰相よ。生死を確認したわけではない。油断せぬことだ」
「御意‥‥」
不気味に悪の大幹部と大首領の声が響く‥‥
7人の戦鬼たちと悪の秘密結社・ゲルソードとの新たな戦いの幕が、ここに切って落とされたのである。