●リプレイ本文
●二日目:朝
「ゴシ」
遠くの方から拙者の頭に、やや高い男の声が響いてきた。
「ゴシ」
再び、男は拙者の名を呼ぶ。聞き慣れた男の声に、布団の中で混濁する拙者の意識がハッキリとしてきたところで。
「起きろってんだよ、ゴシ!!」
剥ぎ取られる、拙者の布団。慌てて目をこすって辺りを見渡すと、そこには。声の主である、東京総合ガードシステム柔道部の主将・北川将彦殿が鬼の形相(本人曰く)で立っていた。
「ゴシ。メシ食いに行くから早く着替えろ!」
そう吐き捨て、主将はバタンとドアを閉めて食堂へと向かっていった。ただ、その表情は、何か照れていたようにも‥‥?
「まったく」
食堂へ向かうと、ブツブツと文句を口にしながら主将が朝飯を食べていた。
拙者は、五所川原雷光(ea2868)。主将と同じく柔道部に所属している、しがない会社員である。
「あんな格好で寝てんじゃねぇよ」
拙者はその言葉で、先ほどの主将の行動に納得した。拙者は寝るときノーパン派であり、しかも、成人男性の早朝であるからして、いわゆる股間が生理反応を起こしていたのを主将は恐らく見てしまわれたのだと。
「申し訳なかったでござる」
手を合わせて拙者が素直に謝ると、主将はなんとか機嫌を直してくれたようで。小さく笑ってくれたでござる。
「いいから早く食えよ。お前、滅茶苦茶食うんだからさぁ」
本人は格好つけているつもりでござるが、拙者から見れば単に可愛いだけでござる。というのも、32歳で159cm(自称160cm)63kg。60kg級ではかなりの実力を持っているものの、今でも大学生はおろか高校生に間違えられる風貌であり。拙者のタイプ、直球ど真ん中なのでござる。
とはいえ、『可愛い』などと口にすれば、容赦なく鉄拳が飛ぶでござる。可愛く見えても、脱いだら凄いのでござる。そこのギャップがまた‥‥。
「おい、ゴシ! よだれ垂れてっぞ?」
主将に注意され、拙者は慌ててよだれを拭った。昨日は一緒の部屋だということで、『もしかして、電気を消したら主将の方から拙者の布団に潜り込んできていやいや内腿は弱いでござるあぁそれ以上は‥‥』などと妄想もとい想像してしまい。悶々としていた後遺症でござる(恐らく朝の反応も)。
「みなさん、洗濯物はちゃ〜んと出して下さいね〜」
そんな拙者たちの所へ現れたのは、美芳野ひなた(ea1856)殿。この合宿所の管理人の一人娘であり、現役女子高生なのであるが。休みの日は自らもその手伝いをする、しっかりした娘さんなのでござる。
「いつも、ご苦労様ッス」
主将は箸を置いて美芳野殿に頭を下げると、拙者も小さく会釈する。
「今日の食事も、美味しいでござる」
「ありがとうございます〜」
ニコニコと笑顔を浮かべると、美芳野殿はハッと我に返ったような表情を浮かべた。
「いっけない! 早くお部屋のお掃除しなきゃ〜」
美芳野殿は持っていた洗濯籠を揺らしながら、パタパタと食堂を駆け抜けて行った。拙者は目で美芳野殿を見送ると、入れ替わりに男女が一組。食堂へと入ってきた。
「押忍! お早うございます!!」
男の方が我が柔道部部長・瀬方三四郎(ea6586)と気付くや否や、主将は立ち上がって頭を下げる。
「お早うございます!!」
慌てて拙者も席を立ち、挨拶した。
「お早う。ここ、宜しいですかな?」
短く挨拶すると、部長は向かいの席をトントンと指でつついた。どうぞと主将が頷くと、拙者は部長の後ろに回って椅子を引いた。
「ここの砂浜は、いつきても綺麗だったな。今朝も走ってきたのだが、とても気分がいい。君達はどうだったかね?」
「自分達は、部屋でストレッチをしてたので。な、ゴシ?」
「へッ!?」
主将から振られたものの、何のことか一瞬解らず拙者は素っ頓狂な声を上げてしまった。そんな拙者は脇腹を肘で突かれ、先ほどの振りが主将からのフォローだと理解したでござる。
「は、はい。軽く体を動かしたので、腹ペコでござるよ」
拙者は嘘がバレないよう。焼き魚と大盛りの白飯を口に掻き込んだ。
「ね〜え〜」
暫く、談笑しつつ朝食を食べていると。部長の隣にいた金髪碧眼のクリシュナ・パラハ(ea1850)が甘えるような声を上げ、部長の腕にしなだれかかった。
「ゴハン食べたら、ひなたちゃん誘って遊びに行ってい〜い?」
部長によると、欧州からホームステイしているということなのでござったが。パラハ殿は日本語が達者で、こんな場所にまで連れてくる所を見ると。『部長が若い外国人女を囲っている』という噂は、あながち否定出来ないように思えてきたでござる。
「クリシュナ、午前中は美芳野君と一緒にお手伝いするんだよ。遊ぶのはそれから」
「ちぇ〜」
口を尖らせ、そっぽを向くパラハ殿。そんな彼女を見て、主将が拙者の耳元で囁いたでござる。
『部外者を連れ込むっての、あんま良くねぇんじゃねぇか?』
『聞こえるでござるよ!』
思わず拙者、汗が噴き出した。
「それじゃ! 拙者はお先に失礼するでござる!」
なんともその場に居辛くなり、残りの食事を無理やり口の中に詰め込むと。拙者は食堂をそそくさと逃げ出した。
「おい、待てよゴシ! すいません、自分も失礼します」
「あぁ、それじゃ私達はもう少し食事を‥‥どうした、クリシュナ?」
「ゴーヤー‥‥ジュース‥‥ゥゥエッ!!」
「クリシュナッ!! 美吉野君、こっち! こっちに雑巾を持って来て下さい!!」
ちょっとした惨劇が、食堂で起こっているとも気づかずに。
●二日目:午前中
「良し。では、乱取り始めッ!!」
午前中の練習は、受身や打ち込みを行い。昼も近くなった今、乱取りの稽古が始まったでござる。
「五所川原君。今日は私が相手をしてやろう」
そう言って、道着に着替えていた部長が構えを取った。
「押忍!」
そう応えたものの、拙者は少々困惑していた。恐らく、合宿ということで部長も気合が入っているのだとは思うのでござるが。柔能く剛を制すとはいえ、100kg超級の拙者と80kg前後の部長(しかも、現役を退いてから数十年経っている)ではあまりにも‥‥でござる。しかし、今更断るわけにも行かず、乱取りを始めたことになったのでござったが。
(「ん?」)
拙者は一瞬、眉をひそめた。間違っても部長を怪我でもさせないよう、細心の注意を払いながら稽古をしていたのだが。その視界の中に映っていた主将の動きに、いつもの精彩が無いように思えたのでござる。
そして。
「ふんッ!」
鼻息荒く、部長が動いた。引き手の力と体の回転により大きなパワーが生まれ、主将に意識の向かっていた拙者はその力を上手くさばくことが出来ず。ダァンという音と共に、拙者は畳の上へ投げ出されていた。
「いくら現役だからといって、気を抜いてはいけませんよ?」
部長の手を取って立ち上がった拙者は、小さく礼をして走っていた。
「北川主将!」
その先には、フラフラとしゃがみこんでいた主将の姿があった。
「大丈夫ですか!?」
異常に気付いた部長も駆け寄ってくる。
「いえ、大丈夫ッス。ちょっと、眩暈がしただけで」
「そうですか。少し、休んでいなさい」
部長に言われ、主将はその後軽い打ち込みなどするに留めたのでござったが。まさか、これがあんなことにまで発展しようとは、思いもよらなかったのでござる。
●二日目:昼
「皆さ〜ん、お昼ですよ〜!!」
「集まるでござる〜!」
午前中の稽古が済み。合宿所前の砂浜では、美芳野殿と拙者の音頭でバーベキューが始まったでござる。
「外でバーベキューというのも、たまには良いものですな」
言いつつ、部長が焼きたての肉を口へと放り込む。
「お味はどうですか〜?」
「とても美味しいですよ」
「良かった〜」
部長が満足げに頷くと、美芳野殿は安堵のため息をついた。
「ゴシ。お前も焼いてばっかいないで、食え食え」
両手に串を持った主将が、片方を口に咥えつつ。もう一方を拙者に向かって差し出してきた。どうやら、調子は幾分戻ったようでござった。
「どうもでござる」
拙者は持っていた野菜を網の上に置くと、串の先の肉を噛り付いた。
「あ、熱ッ!」
「がっついて食うからだよ!」
笑いながら、拙者の食べかけの肉を主将が口にする。こっ、これは、もしや。間接キス? そんな拙者の切ない気持ちなどお構いなしに、主将はパクパクと肉を食っていくのでござった。
「早く食わないと、肉なくなるぞ?」
「主将! 肉ばっかりはずるいでござる!」
ふと我に返った拙者も、負けじと肉を頬張る。
暫くして食事が一段落つくと(肉が尽きたとも言う)、拙者は皆を一箇所に集めた。
「折角の合宿でござるし、記念に写真を撮るでござるよ」
懐からデジカメを取り出すと、部長は片付けをしていた他の部員や美芳野殿・パラハ殿にも声を掛けたでござる。
「美芳野君、クリシュナ。記念写真を撮るというから、手を休めてこちらに来なさい」
「私も写っちゃって、いいんですか〜?」
「いいのいいの。ちょっとは華がなくっちゃ」
モジモジしている美吉野殿を引っ張ってくると、パラハ殿共々フレームに納まった。
「それじゃ、撮るでござるよ。‥‥1+1は?」
『2!』
●二日目:午後
「おい、ゴシ」
食後の運動ということで、遠泳に出ようとしたところで。拙者は主将に呼び止められた。
「競パンってのはなぁ。もっとこう、ビシッと穿くモンなんだよ、ビシッと!」
そう言うが早いか、主将は拙者の黒の競パンに指を引っ掛け。腰骨の数センチ下までズリ下ろした。
「これじゃ半ケツでござるよ!」
「いんだよ、半ケツで。その方がカッケーんだから!」
体調が本調子ではないので、午後は浜辺で身体を焼くという主将に押し出され。拙者は海へと飛び込んでいく。
(「もっと良主将の競パン見たかったでござるな」)
泳ぎながら、先ほど見た白い競パンを思い出す。良く穿きこんでいるのか、布地がやや透けていたような‥‥?
「ゴブッ!?」
刺激の強いものを思い出して、拙者は息継ぎのタイミングを逸してしまったでござる。溺れそうになった拙者は、焦ってしまって両手両足をバタつかせた。
「大丈夫か?」
すると。水飛沫を上げていた拙者の体が、男の声と共に急に軽くなった。どうやら、誰かに抱かかえられたらしい。
「かたじけないでござる」
男の肩に捕まっていた拙者は恥ずかしながら、ゆっくりと地面に降りて頭を下げた。
「何、構わん」
余裕の笑みを浮かべた褌姿のその男は、椿蔵人(eb1313)と名乗ると。椿殿は拙者に勝負を持ちかけて来たでござる。
「折角知り合ったのも何かの縁。ここから岸まで、勝負しないか?」
余りに唐突な申し出を応えあぐねていると、椿殿は条件をつけてきた。
「そちらが勝ったら、俺を好きにするといい」
正直断ろうとも思ったのでござるが。勝てばいいことと、何より先ほど助けていただいた恩があるので。拙者はその申し入れを不承不承ながらも引き受けた。
「では、始め!」
椿殿の合図で、我等は泳ぎ始めた‥‥と思ったのでござるが。
(「なんでござるか、アレは!?」)
拙者が泳ぐその前を、飛沫を上げながら椿殿は文字通り飛んでいった。
(「ま、魔術はナシでござるよ〜!」)
悔やんでも、後の祭り。拙者が息も絶え絶えになって浜にたどり着く先では、余裕綽々で腕組みをして拙者を待ち構えていた椿殿の姿があった。
「俺の勝ち、だな」
息を整えようと砂浜に座り込んだ拙者の耳元で、椿殿の低い声が囁かれる。
「夜が楽しみだ」
背筋が(色々な意味で)ゾクッと震え、拙者は顔を上げると。もうそこに、椿殿の姿は無かったのでござった。
●二日目:夜
「はっはっは、いやァ若者はいい」
赤ら顔の部長が、拙者の背中をバンバン叩く。二日目の夜は、お決まりの宴会が始まり。部長の持ち込んだ泡盛が、皆の喉を潤していた。
「ゥゥエッ!!」
「クリシュナちゃん〜。早くトイレに行ってください〜!」
いや、約一名。パラハ殿は胃液で喉を潤していたでござる。どうやら、彼女。今回は飲み物に祟られているでござったな(その前に、未成年の禁酒は法律違反でござるよ!)。
「き、今日はもうこれで‥‥」
既に、時間は2時を回っており。拙者は退席を申し出た。主将はというと、体調が悪いことを口実に。派手に絡みまくっている部長から、とっくに逃げていたのでござる。
「五所川原君。私の酒が飲めないとでも?」
「それでは、最後の一杯でござる」
目は半開き、手元のおぼつかないままの部長から差し出された泡盛を一気に飲み干すと。拙者は半泣きになりつつ、宴会場を後にした。
「なんとか逃げ出せたでござる」
度数の高い泡盛のと脱兎の如く部屋まで走ったせいで、いつもより余計に酔いの回った拙者は。着ていた浴衣を脱いで、ベッドに飛び込み。すぐにでも眠りにつこうとしたのでござったが。
「遅かったな」
布団に潜り込むとその横には、ベッドライトに照らされた椿殿の姿があった。
「ど、どうやって部屋に入ったでござるか!?」
拙者は一気に酔いが醒め、椿殿を問いつめる。
「男には、誰にも秘密があるモンだ」
だが、返ってきたのは妖しい笑み。そして椿殿は布団を剥ぎ取ると、拙者の身体を射抜くような視線で見つめる。
「綺麗に焼けてるな」
言って、椿殿は拙者の股の付け根に付いた競パンの日焼け跡を指でなぞっていく。
「はァッ」
思わず漏れる、拙者の声。普段よりも一オクターブ高い声なのが、自分でも解ったでござる。
「大きい声出すと、隣が起きちまうぜ?」
椿殿がニヤリと笑い、首筋に唇を押し当ててくる。その唇はゆっくりと下りていくと、拙者の胸の突起を包み込んだ。それから、それから‥‥。
●三日目?:朝
「あッ、あ、つ、椿殿ォッ!」
ガバッと、拙者はベッドから上半身を勢いよく起こすと。拙者の目の前に、椿殿の姿はなかった。代わりに、主将の怒号が響く。
「ゴシ。メシ食いに行くから早く着替えろ!」
そう吐き捨て、主将はバタンとドアを閉めて食堂へと向かっていった。ただ、その表情は、何か照れていたようにも‥‥?
「さっきまでのは夢‥‥?」
いそいそと拙者が着替えていると、再びドアが開いて主将が戻ってきた。そして。
「どうやって連れ込んだんか知らないけど。夜中にあんなん見せられちゃ、寝てられねぇよ」
「へ?」
耳元で呟いた主将の言葉に、拙者が動けないでいると。
「あとで、責任取ってもらうからな!」
そっと、拙者の尻を撫で。主将はドアの向こうへと消えていった。