●リプレイ本文
――ずっと、さびしかったんだ‥‥
●うわあんっ、どうしよう?
「ガアガア‥‥なんだか周りはモコモコさんが一杯‥‥大切なお姉ちゃんは何処? ボク、一人は寂しいよぉ‥‥ガアガアガアっ!!」
真夏の夜。
突然、不思議な小人によってぬいぐるみにされてしまった少年少女達。
その中の一人、クリス・ラインハルト(ea2004)が外見だけでなく口調までなにやらおかしなぬぐるみになってしまって泣き出している。
所々不恰好なその姿は、どうやらアヒルのぬいぐるみのようなのだが、かなり斬新なデザインで一見してアヒルだとはすぐにはわからなかった。
「もぉ、おとなだも〜ん、だからちょっとやそっとのことなら泣かないんだもん‥‥だけど‥‥こんなのこまっちゃうよーぅ!」
うわあんっと、やっぱりぬいぐるみに変わってしまったミュウ・クィール(eb3050)が大泣きしだす。
いつも連れて歩いているペットの柴犬もなぜかぬいぐるみに変わってしまい、金色の子犬のぬいぐるみになってしまったミュウをフェルトな舌でぺろりと舐めてなぐさめる。
そしてクリスとミュウの流した大粒の涙はビー玉になって、満月に照らされながらキラキラと夜道を転がっていゆく。
「‥‥おいらって狸っぽいのか? なのだ‥‥」
大泣きする二人の背中をぽんぽんと叩いてなぐさめながら、狸に変わってしまった自分の姿に首を傾げるのは玄間 北斗(eb2905)。
玄間ののほほ〜んとした雰囲気を小人が感じ取ったのか、ただの狸ではなくお餅のようにむにっと垂れている狸のぬいぐるみだから、地面にぺったりと伸びているかのように見える。
「コットン☆ ドラゴンのアリエラです〜。皆さん宜しくなのです♪」
「小人さんに合わせて『るんたったーるんたったったったーったったー♪』歌っていたら、私もカナリアのぬいぐるみにされてしまいましたです」
パタパタパタ♪
コットン素材のふわふわの白い羽を羽ばたかせて、ドラゴンのぬいぐるみになってしまったというのに少しも困っていないアリエラ・ブライト(eb2581)と、青いカナリアのぬいぐるみに変わってしまったフィニィ・フォルテン(ea9114)がミュウとクリスの泣き声を聞きつけて舞い降りてくる。
「みなさんもぬいぐるみになっちゃったのですか〜?」
ぽてぽてぽてぽてっ☆
3頭身なお人形に変えられて、さらにまるごとヤギさんの着ぐるみを着た琴宮 茜(ea2722)が、やっぱり泣き声を聞きつけて駆けて来る。
「ボク、どうしたらいいの? ガアガアっ!」
「小人さんを捕まえれば、きっとみんな元に戻れるのです」
「小人?」
フィニィにいわれ、きょとんと首を傾げるクリス。
どうやら、クリスはクリスであったときの記憶を無くしてしまっているらしい。
身も心もアヒルのガアくんになってしまったようだったが、記憶まで無くしてしまうとは。
「あっ、あそこっ!」
ミュウが、ぱっと顔を上げて路地裏を指差す。
そこには、先ほどみんなをぬいぐるみに変えて逃げ去った小人が、ミュウとクリスの流した涙のビー玉を一つ手にとって、心配そうに様子をうかがっている。
そしてみんなに気付かれて、慌ててまた逃げていった。
「とりあえずおいかけるのだっ!」
走るというより転がると言った方が正しい玄間がぽてぽてと小人を追いかけだし、みんなも慌てて後を追い出した。
――自由に動き回れても、おいらはずっと一人ぼっち‥‥
●おいかけっこは全力で!
「ヒーホー☆ おいらを捕まえれるものなら捕まえてごらん☆」
ぽてぽてころころぱたぱたっ☆
特徴的な足音や羽音を響かせて、自分を追いかけてくるぬいぐるみなみんなを嬉しそうに振りかえる小人。
「おまちなさいなのです〜!」
ふわんふわんと魔法で飛びながらまるごとやぎさんな琴宮が小人に叫ぶ。
けけっといたずらっ子のようによりいっそう楽しそうに笑う小人。
「ガアガア‥‥ふわふわのモコモコさん達のお話聞いたよ。皆、優しいんだね☆ えっと‥‥小人さんがイタズラしたの? じゃあじゃあ、小人さんにお願いすればまた大切なおねーちゃんに会えるんだ☆ ‥‥ガアガア♪」
てててててっと小人に嬉しそうに駆けよって、ぼろぼろになってしまっている羽根でえいっとくるむように小人を捕まえ追うとするクリス。
ぴょんっ♪
あっさりと羽根を飛びあがって擦り抜けて逃げる小人。
「があっ?!」
「うきゃっ?!」
ぼてんっ!
勢い余って思いっきり前のめりにすっ転ぶクリス。
そしてさらに勢い余ってクリスに引っかかってすっ転ぶミュウと愛犬。
2匹(?)の子犬のぬいぐるみに押しつぶされたクリスはプシューと潰れてぺらぺらのぺちゃんこに!
「クリスさんだいじょうぶですか〜?」
パタパタと空中から舞い降りて、ふわっとクリスの羽根を引っ張って起こしてあげるアリエラ。
「大変っ、いま空気を入れます〜!」
フィニィが慌てて舞い降りて、クリスに空気を吹き込む。
ぷく〜っと空気がはいって元に戻るクリス。
「しっかりするのだ〜」
ころんころんと垂れながら転がる玄間も、ぽてんとクリスの背中に寄りかかるように止まって励ます。
そして。
(「おや?」)
小人が、立ち止まって心配そうにこっちを見ていることに気付く玄間。
この隙にさっさと逃げればきっと朝まであっさりと逃げ切れるのに。
クリスがちゃんと立ちあがったのを見て、ほっとしたように再び笑って逃げて行く小人。
「まだ逃げちゃうの〜? あたしもう走れないよ〜ぅ!」
ミュウと愛犬がその場にへたりこむ。
子犬のぬいぐるみに変わったからといって、速く走れるようになるわけではないらしい。
「でも、ぬいぐるみというのも良いですね。空を飛ぶのも楽しいです。るんたったーるんたったったったーったったー♪」
くるりと空中で一回転して歌うフィニィ。
すぐに追いかけてこないぬいぐるみなみんなを物陰からこっそり様子をうかがう小人。
でも地面にぺったりとたれている玄間や、空をパタパタと飛ぶフィニィからその姿は見え見えだった。
(「やっぱり、なにかおかしいのだ」)
玄間はたれながら思案する。
みんなを困らせようとして、小人はみんなをぬいぐるみにしたはずなのに。
どうして遠くまで逃げてしまわないんだろう?
「私にいい考えがあります。みなさま協力してくださいますか‥‥?」
十分に小人を意識して、フィニィがヒソヒソと小声でみんなに提案する。
自然、輪になって耳を寄せ合うみんな。
小人が、路地裏から必死に耳をそばだてても聞こえない。
――だから、今日は‥‥
●お祭り騒ぎ?
「空を飛ぶのは幸せよ〜♪ るんたったーるんたったったっ♪」
楽しげにフィニィが歌いだし、
「ぬいぐるみは楽しいですわ〜♪ るんたった〜♪」
琴宮も一緒に歌い出す。
「ほぉ〜ら、空中三回転ですよ〜♪」
アリエラが白いふわもこな翼を器用に羽ばたかせてくるくると空中を踊り、
「みんな素敵素敵★ アタシもぬいぐるみでしあわせだな〜♪」
愛犬と一緒に手に手を取り合ってスキップする。
「ぬいぐるみは和むのだ〜♪」
玄間がちらっと小人を見つつ、ころんころんとみんなの周囲を転がってみたりする。
「モコモコ仲間と一緒にダンスを踊るよ♪ るんたった〜ダンス! お歌っガアガアっ♪ リズムっガアガア♪ 華麗なっステップ! 飛べるモコモコさんはお空でくるくるりん☆ みんなで踊るよ月夜のダンスっ、ガアガアガアっ♪」
月明かりの下、真っ白いお尻フリフリふってクリスが踊りだし、みんなもそれに合わせて心底楽しそうに踊り出す。
その様子を悔しそうに路地から見つめていた小人はついに我慢できなくなって、ぴょーんと路地裏から飛び出してきて、
「おいおいっ、おまえらさっさとおいらを捕まえないとずっとぬいぐるみのままなんだぞっ、ほんとなんだぞっ!」
じたじたと苛立たしげに足踏みしてみんなに叫ぶ小人。
「いまなのだっ、メルヘンに不可能はないのだっ! 必殺、微塵隠れ!」
ぼんっ!
垂れたたぬきの玄間が頭に葉っぱをのせると一瞬のうちに周囲に煙が立ちこめて玄間の姿を消し去り、次の瞬間小人の上に現れた!
「うぎゃあっ!!」
どべちゃっ!
ものの見事にたれたぬきな玄間に押しつぶされる小人。
「コットン☆ ブレスなのです〜♪」
ぽふっとお口からふわふわコットンを吐き出して、小人に止めを刺すアリエラ。
「うわっ、うわわわわっ?!」
慌てる小人を琴宮がきゅっとロープで縛り上げて。
「さあっ、ボクの大事なおねーちゃんを返してね、ガアガアッ♪」
左右バラバラにくっついている羽根をパタパタさせて、小人に詰め寄るクリス。
パチンッ☆
小人は、縛られたまま悔しそうに指を鳴らした。
ぼぼぼぼぼんっ!
一気にぬいぐるみからもとの姿に戻るみんな。
「あ、あれ? 僕なにやってたんだろう?」
自分の両手を見つめて首を傾げるクリス。
どうやらクリスの記憶は戻ったのだが、ぬいぐるみでいた時の記憶は無くなってしまったらしい。
「実は‥‥縫いぐるみ達と一緒に遊ぶのは小さな頃の夢だったのだ。夢を叶えてくれてありがとうなのだ」
玄間が小人に照れながら手を差し出す。
「なんだよっ、それっ!」
ふんっとそっぽを向く小人。
かなりおろおろとしている。
「アタシも結構楽しかったのー★ でも今度は捕まえたり縛ったりしなくても、ぬいぐるみから元に戻りたい時は戻してくれると嬉しいなぁ★」
「え? 今度?」
にこにこと微笑むミュウに思わず聞き返す小人。
「うん★」
と力いっぱい頷くミュウ。
「こんな事しなくても一緒に遊んだのだ。この次は普通に声を掛けて欲しいのだ。一緒に遊ぼうなのだ」
いいながら、小人を縛っていた縄を解いてやる玄間。
「なんだよ、おまえら、おいらを怒っていないのか?」
縄を解かれて、逃げ腰になる小人。
「だれも怒ってなんていませんよ。たまにはぬいぐるみになるのもいいものです」
まるごとヤギさんの着ぐるみを着たままの琴宮が微笑む。
「おいらと、遊んでくれるのか‥‥?」
みんなを見上げて、見まわす小人。
大きく頷くみんな。
先ほど、フィニィが皆に提案した時、みんなとある事に気付いたのだ。
『小人は、もしかしたら寂しかったんではないか?』と。
さっさと逃げようと思えば逃げれるのに、一向に逃げ出さない点。
みんなが泣いたり、転んだりすると、無事なのがわかるまで決して逃げないその様子は、どう考えたって意地悪だけでみんなをぬいぐるみにしたとは思えなかったのだ。
「だけどもう、時間切れなんだ‥‥」
うっすらと明るくなり出した街を寂しく見つめて呟く小人。
小人の身体が徐々に動かなくなっていく。
「来年、また遊ぶのだ。約束するのだ!」
朝日を浴びて、動かなくなる小人のぬいぐるみを抱きしめて約束する玄間。
――楽しかったよ、ありがとう‥‥
みんなの胸に、小人の囁きがそっと響いた。