【絶対たる歌い手】支えた者達

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリー

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月19日

●オープニング

●ラグナレク
 人類が宇宙より飛来した未知の『敵』に襲撃を受けて十数年‥‥未だ戦いは終わる事無くただ疲弊して行くだけの人類だったが、希望はこの島より生まれた。
 その島に住む幾人かの科学者達が生み出した『巨人』‥‥今までの兵器になかった『敵』を打ち砕く破壊力を有するそれが一時、人類に希望を与え生き永らえさせる。
 その島は誰もが名も知らない小さな島であったが最悪の結果を回避すべく、この結果を齎した事から皮肉を込めて『終末の日』を意味する『ラグナレク』と言う名が与えられるのであった。

 そして今‥‥『ラグナレク』では『巨人』でも支え切れなくなりつつある現状の戦端を支え、押し返す為に新たな機体の製造に取り掛かっており、その完成が間近に迫っていた‥‥そんなある日からこの話は始まる。

●迫る『敵』
「進捗はどうだ?」
「後少しです‥‥がこいつのコア、一体何を使っているんですか」
 その、希望が生まれ落ちた工房にて‥‥此処を統括する男性の問いに部下の一人が簡潔に答えると、自身が担当するコア仰ぎ見ては今まで目の当たりにした事のない高次元の出力から上司へ疑問をぶつけるも
「済まないが、教える事は出来ない」
「機密ですか」
「あぁ、私も知る事が出来ない位に厳重なものだ」
 彼から返って来た答えはただそれだけで、事情を察しこそするも‥‥彼の権限を持ってしても知る事が叶わないその機密レベルの高さに彼は益々持って首を傾げた、その時。
「っ、なんだ!」
「本島の索敵可能範囲内に浮遊する『敵』の存在が確認されました! 故にアラートが」
 突如鳴る、耳慣れない警報音が甲高く鳴れば上司が踵を返しては叫び問うと‥‥管制室とリンクしているコントロールパネルを弄る女性職員が答えに工房内は騒然とする。
「あと僅かだと言うのに、いよいよ持って此処の存在が気付かれたか?」
「いえ‥‥すぐに方向を変え、範囲の外へと移動した様です」
 だがその中でも、努めて冷静に上司が彼女の元へ駆け寄れば状況の確認をすると同時、警報は鳴り止めば次いで顔を顰めつつも彼は、未だざわめく場へ怒鳴る様に部下達へ指示を下すのだった。
「しかし初めての事態だな‥‥上層部はどうするか。念の為、『巨人』と『方舟』の整備を急げ!」

●作戦
 『ラグナレク』内に初めて警報が響き渡ってから一週間後‥‥島の総合管制室において、『巨人』及び新型機に搭乗適正がある者と『巨人』に搭乗経験がある者を中心に招いて、会議が行なわれた。
「新型機の建造途中である今、この島の位置が『敵』に察知されてしまった。これは最近、頻繁に鳴っているアラートで皆、気付いている事だろう」
 会議を進行する『ラグナレク』内最高責任者である男性が口を開き、まず再確認すべくこの島が置かれている状況を言えば、頷く面々の様子から次の話へ移る。
「索敵範囲内に入る近頃の頻度と徐々に近付いて来る『敵』の思考から考え、いずれ遠くない日にこの島への襲撃が懸念されている。だが先にも言った通り現在、新型機が本島において完成間近であり‥‥今現在、有する『巨人』が多くないこの島を『敵』に捕捉される訳には行かない」
「新型だって、知っているか?」
「確か‥‥エデンがどうとか、って話だった様な?」
 そして語られる、島で進められる計画を紡げばその一端にある『新型』の単語を聞いて囁く、招かれた者達だったが
「‥‥故に今回、一つの作戦を立案した。この会議ではそれの詳細と希望者を募る為に開かれた」
 それを耳にして責任者は彼らを睨み据えた後に咳払いをすれば再び、本会議を開いた理由を解説するなり作戦の詳細を再び降りた沈黙の中で紡ぎ出す。
「この作戦に志願する皆には小さな島を模した超巨大巡航艦『方舟』に乗り込み一ヶ月の間、『ラグナレク』周辺を巡回する様にセットした『方舟』で『敵』の目を惹き付け、新型の雛形である『巨人』を用い迎撃して欲しい」
「一ヶ月も‥‥その間の補給や整備はどうするんですか?」
「君達以外にも『方舟』に必要な人員は乗せるので、整備等の心配はない。補給に関してもある手段を用いて行なう‥‥が様々な自体を考慮して、現状では伏せさせて貰う」
 そして語られた作戦は非常に厳しい内容のもので、場に集った面々はそれぞれ思うままに複雑な表情を浮かべるもその中の一人から投げ掛けられた問いへ責任者は冷静に返せば、続く質問がない事から話を再開する。
「尚、『巨人』は保有している数から五機までしか『方舟』に搭載する事が出来ない。故にローテーションを組んでの搭乗となるが、不慮の事態は十分にあり得るので様々な事態を想定して事に望んで欲しい。一ヶ月あれば、今の戦況を覆せる新たなモデルが完成しデータを本島へ送る事が出来る。だから何としてもその間だけ‥‥死守してくれ」
 そして作戦の全容を話し終えてか、小さな嘆息だけ次に付けば頭を下げて彼はこの場に集う皆へ懇願するのだった。
「参加の強制はしない‥‥だが間違いなく、人類の存亡が掛かっている。その事も踏まえて希望者は後で私の所まで来てくれ、それでは以上‥‥解散だ」

――――――――――――――――――――
 ミッション:新型機が出来るまでの一ヶ月、人が住む島を模した超巨大巡航艦『方舟』に搭乗して『ラグナレク』に近付こうとする敵の目を惹き付け、撃退しろ!
 傾向等:擬似的な市街での戦闘、シリアス

□搭乗期間の決定
 搭乗期間を『一週間』〜『半年』の間でプレイングに記入して下さい。
 搭乗期間が長ければそれだけ、機体を上手く扱えますが‥‥。

□装備に関して
 自身が搭乗する際に選択する武器を初期配布である下記から選んで下さい、以降の補給の際は初期装備等に準じて適宜、こちらで配布します。
 武器は壊れる事もあり、無限ではないので取り扱いは十分に注意する事と選択武器は搭載すればするだけ、『巨人』の足枷となる事に気を付けて下さい。

固定兵装
 ヒートハンド(超近距離:灼熱化させた掌で敵を切り裂く)
 ファランクス(近距離:小口径の弾丸の嵐を周囲にばら撒く)
選択兵装
 マインダガー(近距離:敵を切りつけ刃をその体内へ折り込み炸裂させる短剣、十五回まで繰り返し使える。重量:小)×5
 トランジストブレード(近距離:振動子を内蔵した諸刃の長剣。重量:中)×3
 マシンガン(近〜中距離:一般的な火器。重量:中)×5
 ボルテックランス(中距離:取り回しに難のある長大な槍。重量:大)×2
 バスターランチャー(中〜遠距離:高威力に長い射程を誇るも次弾の発射まで時間を要する粒子砲。重量:大)×1
 フライトユニット(飛行する為に必要なユニット、機動性向上。重量:大)×2

□PCが所持するスキル等に付いて
 魔法以外はそのまま対応、魔法に関しては一つだけを選択して機体に組み込んで使う事が出来るものとします(『巨人』に乗る事で搭乗者の潜在能力が一部解放される、と言う扱いになります)。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7804 ヴァイン・ケイオード(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0943 ミリフィヲ・ヰリァーヱス(28歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4640 星崎 研(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●方舟
 カチリ、と音が鳴った訳ではないが『方舟』の中央区画の真中に居座るデジタルの表示板にあるカウンターはいよいよ、時を刻み始めた。
 これが、作戦の合図。
 程無くして『方舟』は微かに震え、改めて一行へ出航の時を告げると同時、その中央にウィンドウが開け放たれれば『ラグナロク』の最高責任者が現れ、その口を開く。
『『絶対たる歌い手』の完成もあと僅か‥‥完成した暁には作戦終了時、間違いなく君達を迎えに行くと誓おう。それでは‥‥健闘を、一ヵ月後に再会出来る事を祈って』
 だがそれは一方的で且つ、酷く素っ気無い挨拶だけで終わり最高責任者が映っていたウィンドウは即座に消えた。
 現状ではあり得ないと言う話だが‥‥『敵』の逆探知を仕掛けて来た場合を想定しての処置故、しょうがない。
「一ヶ月‥‥七百四十四時間、ですか」
 そして刻まれる数字を見据え、星崎研(eb4640)が口にして改めて長期間の任務である事を認識すると
「人類の存亡、この一戦に有り‥‥か‥‥」
「そこまで思い込まなくても大丈夫なのだぁ〜、なる様になるのですよっ」
「‥‥そこまで楽観的に考えるのもあれだが『敵』の研究は今も尚、進んでいる。少なからず俺の知識も役に立てて見せるから、一人で余り背負い込むなよ?」
 無表情で、先に挨拶だけした責任者同様にこれから臨む戦いの大きさの割に夜十字信人(ea3094)は何処か素っ気無く呟くが玄間北斗(eb2905)の、緊張感を全く感じさせない明るい声音が次に響くと笑顔を湛える彼に呆れながらもヴァイン・ケイオード(ea7804)が学者気分の抜けない、真面目ぶった口調で信人へ呼び掛ければ‥‥何も言わず苦笑だけ浮かべる軍曹に肩を竦める。
「まー二人とも、今からそんなに難しい顔をしないのだぁ」
「なーんか、楽しそうだよねぇ」
「そうだね、一緒に戦うんだから僕達の事も忘れないで欲しいんだけど」
『ね』
 そして再び響く、北斗の明るい声に二人は今度も苦笑を浮かべるとそんな男性陣を見つめていた、軍人だった父親の後を継ぐクリス・ラインハルト(ea2004)と、彼女の同期であるミリフィヲ・ヰリァーヱス(eb0943)が互いに顔を見合わせ、声をも重ねれば蚊帳の外だとは感じつつも顔を綻ばせる。
 その様子から一行には少なくとも気負いや迷い等は感じられず、むしろ島の為に‥‥未来(あした)へと繋がる希望の為に晴れ晴れとしていた。
「マーヤーさん、どうしたの?」
「いや‥‥君達同様、思っていた程に皆が緊張していない様で安心しているだけだ」
 だがその中でも一人、黙したまま佇むマーヤー・プラトー(ea5254)の存在に気付けばクリス、青い髪を靡かせて笑顔で呼び掛けると一行の中で一番の年長者である彼は落ち着き払って彼女へ答えを返せば中央区画から唯一外が見える窓へ視線を移し、眩しく照らす太陽の日に目を細めた‥‥が
「早速の歓迎、か‥‥皆、それぞれに準備を!」
 視界の片隅に神々しく輝く、太陽とは違った一つの光点を捉えるとアラートが鳴るより早く、マーヤーが叫べば『ラグナロク』最高責任者の挨拶にあった一文を思い出すと皆を見つめて微笑むのだった。
「我らは『絶対たる歌い手』が為に、その名の如く歌となろう。希望で紡がれる未来への歌に‥‥」

●初陣
「ミリフィヲ機‥‥Abfahrt!」
 『大いなる声』の出現によりアラートが『方舟』内に鳴り響く中、最下層にある格納庫内に佇む『巨人』に乗ったミリフィヲが最先、叫べば猛烈な勢いで『巨人』を乗せたリフトが打ち出されると華奢な体に圧し掛かるGに僅か呻くも‥‥やがて視界に広がるのは蒼。
「っ‥‥外ってこんなに、眩しかったっけ」
 唐突な光量の変化に戸惑うも、全周囲に広がるモニターへ急ぎ視線を走らせれば‥‥やがて見付ける『大いなる声』の一体。
 まだ距離は遠く、続けて辺りを索敵するも今はまだこの一体のみの様子。
「様子見、って所かな? それなら‥‥」
『気取られる前に‥‥早く殲滅する』
『折角の研究機会なんだが今はそれ所でないか、っと』
 そして再び一体だけの『大いなる声』をミリフィヲは見据えると、『方舟』の甲板に『巨人』はが降り立ち華奢な腕部の割に不釣合いなまでに長大な突撃槍を掲げれば、その隣に長剣を携える信人の『巨人』が、二人の上空を守る様によろめきながらもフライトユニットを装備したヴァインの『巨人』が現れると
「行くぞ‥‥」
 信人の凛とした声が響けば同時、三機の『巨人』は『大いなる声』を包囲する形で一斉に動き出す。
「当って痛い、だけで済むと思うなよ!」
「不用意だな‥‥既にそこは俺の間合いだ‥‥!」
 訓練は今まで、出来得る限り積んで来た‥‥少なからず今、その成果は出ており白銀に輝く『敵』の頭をヴァインがマシンガンにファランクスの弾幕ばら撒き甲板の近くにまで高度を落とし込むと、軍曹の振るう振動剣から衝撃波が疾く放たれれば翼を模した『声』の一部を切り飛ばすと
「足は止めた、一発デカイのぶち込んで来いッ!!」
「つ! ら! ぬ! けぇぇぇっ!!」
 マシンガンで更なる追い打ちを掛けて、残る片翼を潰した元学者が精一杯に声を大にして叫ぶと同時、『声』の落下点へ全速で駆け付けたミリフィヲが腹部と思われる箇所に剥き出しとなっていた核目掛け槍を深くまで突き入れれば‥‥槍の顎を開き、二股に分かたれたそれから雷撃を放てば瞬時に『声』の核を消し飛ばし、歪む空間へと追いやった。

「やったのだー!」
「殆ど訓練だけだったヴァインさんでも、あそこまで出来るなら‥‥」
「あぁ、私達でもあれ位は可能だ、と言う事になるね」
「だがまだ、始まったばかりだ。気は抜かない様に」
 その光景を中央管制室のモニター越しに見て、初めに北斗が初陣の結果を素直に喜べば『巨人』を駆る事に不安を覚えていたクリスが胸を撫で下ろすと一行の中、マーヤーが彼女へ微笑み掛けるも
「あ、艦長‥‥」
「そう堅苦しく呼ばなくてもいい」
「艦長」
「全く‥‥何だ?」
「今回の戦闘、『敵』の目論みは‥‥」
「十中八九、先遣だろう。そして恐らく、暫くはこの調子が続くだろうな」
 しかし即座に刺された釘に表情を正してからクリスが振り返り、声の主を畏まって呼べば彼は頭を掻いて訂正を求めたがそれを気にせずに呼ぶ、マーヤーへ今度は肩を竦め彼の問いへ思ったままの答えを返す艦長。
「周辺空域の索敵だけ怠らなければ、今だけは非番の者を増やすといい。まだ若い者もいるからな‥‥尤も、それが何時まで続くか知れたものではないが」
「でも!」
「焦るな、まだ始まったばかりと言った筈だ。それとも何か、君の父は『敵』を全て倒すまで戦い続けろと言ったか?」
「‥‥いいえ」
 そして次に四人を見れば、一つの提案を推すも‥‥先の戦いを見てか、今度は焦りを表情に宿しクリスは反論するが、盟友だった父の友人に諭されれば頭を垂れると彼女の肩を叩いて艦長は続けるのだった。
「君達が希望なんだ。今も、そしてそれはこれからも‥‥それだけは覚えておいてくれ」

 これが一行にとって、『方舟』にとっての初陣。
 しかしまだ始まったばかりの事で、今回の結果が今後に繋がるとは決して言えないながらも、『方舟』に搭乗していた一同は素直に初陣の勝利を喜ぶのだった‥‥先の見えぬ不安を掻き消す様に。

 作戦終了まで残り、七百四十三時間と五分。


「そ、そこっ!」
 次々に放たれる、空間を捻じ切る重力震を建物の影でやり過ごすと直後に『声』の眼前へよろめきながら躍り出るクリスが駆る『巨人』は腰溜めに構えたマシンガンの銃爪を戸惑いながらも引きつつ、その核を見定めればのたうち迫る『声』へ震える声を抑えきれないまま、それでも一足で駆け寄り灼熱化した拳を打ち据える。
「はぁ、はぁ‥‥つ、次‥‥っ?!」
 次いで周囲を巻き込み爆散する『敵』から離れ、未だ慣れない戦場の緊張感と『巨人』同化し切れない事から覚える違和感に、クリスは肩で息をしながら索敵を再開するが‥‥何時の間にか別の『声』に背後を取られている事に気付くと、慌てて振り返るも
「う、あ‥‥ああぁあぁぁぁっ!!!」
「そこを、退きなさいっ!」
「ルォオオオォォッ!」
 疾く奔らせた触手の束を右の肩口に受け、その勢いのまま建物へ叩きつけられれば受けたダメージから『巨人』と同じ部位に走る激痛にクリスは叫ぶが、直上より雷の如く舞い降りたマーヤーの『巨人』がトランジストブレードで彼女を貫く触手を切り裂き、解放する。
「玄間君!」
「こっちは大丈夫なのだぁ〜、それよりもクリスさんのフォローを」
 『巨人』の搭乗期間が一ヶ月と言う短期間にも拘らず、先に二体の『声』に囲まれていた北斗を確認していたマーヤーは彼へ声を掛けると、何時もの口調ながら力強い返事を受ければ
「受け入れるんだ、『巨人』を。でなければ死ぬのは‥‥君だぞ」
「っ!?」
 クリスが乗る『巨人』の抉られていない肩へ手を置き、現実をあるがままに囁くと『死』と言う単語に彼女が反応した直後、二機がいた場を襲う『声』の触手だったが‥‥それより早く『巨人』達は飛び退るとクリスは叫んだ。
「まだ‥‥まだ、こんな所で‥‥こんな所で僕はぁっ!」
 その叫びは歌に、彼女の意思は力へと具現化されて見えない振動が『巨人』より放たれると途端、揺らいだ後に動きを止めた眼前の『声』へクリスは今度こそ躊躇わず、剥き出しになっているその核へ狙いを定めて銃爪を引き引導を渡す。
「『巨人』が人の未知なる力を覚醒させ、希望を紡ぐ歌を謳うのは‥‥人になりたいから、なのだろうか」
 そして爆散する『声』が一片もの欠片を残さず燃え上がる様をつぶさに見つめマーヤーは彼女の意思を反映させ、力を解放した『巨人』の元へ飛翔しながら先の光景を思い出せば‥‥その存在意義が一端を推測して呟くのだった。
 しかしそれはまだ、誰にも分かる事はない。

 作戦終了まで残り、六百八十二時間と三十二分。

●安息
「はいっ、腕によりを掛けましたー!」
「これはまた‥‥」
「美味しそうなのだぁ〜!」
 数日後、まだ『ラグナレク』から一週間も経っていないとある日。
 全員が一時的に任を解かれた時間を利用して『方舟』の片隅にある小さな食堂ではなく、中央区画の巨大な机の前に集って一行はミリフィヲが拵えた料理の山を前にそれぞれ、感嘆の声を上げていた。
「‥‥しかし、大丈夫なんですか?」
「材料の事を言っているのなら、心配ないよ。食材とか必要な雑貨は多めに積んでいるって話だったし、これからを考えると‥‥」
 がその量の多さから、落ち着いた声音で問うた研の疑問は尤もだったが今日の料理長は食堂の主から聞いた話をすれば最後、僅かに声を落とすも
「それじゃあ、食べましょうか。今後の為にも並んでいる料理をしっかり味わっておきたいですしね」
「あ、後で艦長とか整備員の人達とかにもミリフィヲが作った料理、持っていこっと」
「‥‥ふむ、そうだな」
「そう言えば、信人さんは?」
「探してくる、皆は先に食事をしていて構わないからな。戻って来たらちゃんと、俺も信人も食べさせて貰うからさ」
 彼に続く言葉を遮られると、それ以上は何も言わずにミリフィヲが皿を取って皆へ自身が作った料理を振舞う中でクリスが呟いた言葉へマーヤーが思い出したかの様に彼女を見つめ言えば、次いで場に弾ける笑い声だったが盛った皿を皆へ回す中、余った一枚から改めて場を見回したミリフィヲが軍曹のいない事に気付いて誰へともなく問えば、ヴァインが立ち上がると手を掲げて踵を返した後に中央区画の隅、一本の通路に繋がる暗がりへその姿を消した。

「‥‥がふっ!」
 そのヴァインが中央区画を去るより少し前、僅かな照明だけが通路を薄暗く照らす中で信人は血を吐いていた。
「参ったな‥‥もう少し、持つと思っていたんだが予想以上に『巨人』って奴は‥‥」
 ついこの間、一度だけ『巨人』へ乗っただけにも拘らず適正の高さ故にか今もまだあの時の痛みが蝕む体を抱え、通路にへたり込むが
「まだ、始まったばかり‥‥だぜ」
 次に己を叱咤して、再び立ち上がれば皆が待っているだろう中央区画へとおぼつかない足取りで歩を進めた、その時だった‥‥進もうとした闇の向こうから信人を気遣ったヴァインの声が飛んで来たのは。
「信人、大丈夫か?」
「血反吐を吐くのも軍人の仕事なんだ‥‥黙っていろ」
 だが一瞬、霞んだ視界に彼が浮かべる表情までは見る事出来ず‥‥軍属に付く自身のプライドから、ヴァインの気遣いを突っ撥ねると通路に乾いた足音が早く響く中で信人はいきなり吹き飛ばされた。
「こんな事を言える程、年月重ねてないが‥‥俺より若い奴が死に急ぐんじゃねぇよ!」
 そして次に遅れて場に木霊する鈍い音、唐突に襲われた衝撃に眩暈を覚え信人は頭を抱えると口内に広がる鉄の味に次いで顔を顰め、ヴァインに殴られた事を悟ると
「それとも何か、軍人さんは死に急ぐのが仕事なのかよ」
「違う‥‥守りたいだけだ、俺の命を賭しても皆を‥‥な」
「‥‥なら一人で肩肘を張るな、皆いるんだから」
「‥‥‥あぁ」
 続き響く、元学者の問いに信人は首を振ってぶっきらぼうにそれだけを返すと先とは違った、優しい声音で軍曹へ話し掛ければ闇の中で彼は僅かに目を見開き、次いで暫く続いた沈黙の中で漸く頷けば、ヴァインの肩を借りて中央区画へと向かうのだった。
「この事は皆に、言わなくていいからな」
「‥‥死なないとだけ約束をするなら、守ろう」
「あぁ」
 それだけ、約束を交わして。

 作戦終了まで残り、六百二十四時間と三十八分。


「クリス、後ろ!」
「‥‥んっ!」
 正面に捉えていた『声』がいなくなると次いで響く、ミリフィヲの警告にすぐ自身が駆る『巨人』の身を翻し、新たな『声』を視界の中に捉えれば過たずに核を狙い、即座に銃爪を引き絞れば確かにそれを穿ったと確認した後に後方へ飛び去る様、『巨人』へ意思を送るクリス。
「お終い?」
「‥‥の様だね、損害はまぁこの規模の『声』相手ならギリギリ許容出来るか」
 次いで全周囲モニターの片隅にある索敵レーダーを見やり、他の二人へ尋ねるクリスにマーヤーが返せば、いかにも手抜きな結果報告の画面を見つつシミュレーターのシートから彼女は立ち上がる。
「しかし意外に良く出来ているものだね。このシミュレーターは」
「ほんと‥‥でも幾ら擬似的とは言え、痛みまで再現しなくても」
 それから遅れ、ミリフィヲも彼に『巨人』を精巧に模したシミュレーターから出ると感心する彼へ呆れながらも同意して頷く代わりに銀髪を靡かせ、纏わり付く汗を払う。
 食事から暫くして一行は、管制室にて状況の確認だけ念の為に済ませるとそれぞれ思うまま、有意義に時間を使っていた。
 因みに三人が臨んでいた戦いはシミュレーターが擬似的に生み出したデータの中での模擬戦闘で、結果は僅かな期間しか『巨人』に触れていないクリスがいた割に中々の結果だった様子。
「‥‥これからも、こんな感じで上手く行くといいよね」
「そうだな」
 だがクリスはその結果に喜ばず、未だにはっきりと見えない不安から浮かない表情でボソリと呟くとマーヤーは、彼女の想いを理解して笑顔を湛え頷くも
「分かっているよ、何もかもこのまま全部が上手く行って一ヶ月を終える事がないなんて‥‥けれど」
「怖いのは、皆一緒。ボクもそうだから‥‥ね」
 その彼の優しさに耐え兼ねて次には首を振って叫ぶクリスだったが、温もり分ける様に震える彼女の右の手に触れてミリフィヲが囁けば
「だから信じよう。自分を、皆を。そうすればきっと『明日』は何時までも来るから」
「‥‥そう、だねっ!」
「なら、もう一戦やってみようか?」
「え?」
 同じ年の割、大人びた口調で続き紡ぐ言の葉と彼女の顔に浮かぶ微笑を見て漸くクリスが落ち着くと、マーヤーが提案には目を丸くするが‥‥明日を迎える為に三人は再び、シミュレーターへ乗り込むのだった。

 まだ始まったばかりだからこそ、それぞれに抱える思いは複雑に波を広げるが‥‥辛くとも皆はそれを抱え、共に背負う事で明日への希望を抱いた。

 作戦終了まで残り、五百九十七時間と四十四分。

●散華
 だが遂にその日は来る、誰かがいなくなると言う日が。
 その日は『方舟』が『ラグナロク』を出航してから半月も経たない内にやって来た。

 十日目を迎えてすぐ、『方舟』に乗る全人員を召集しての会議が開かれる。
 その内容は、最近の敵の動向に付いて。
「‥‥いよいよ敵も本腰を入れて来た様だ、此処最近の傾向から考えずとも明らかに数が増してきている」
 管制室にある巨大なモニターを前にして一行へ、最近の統計をグラフ化したデータを見せて艦長は呟けば次いで、嘆息を漏らすが
「だけどそれだけ『方舟』に戦力を注いで来ていると言う事は、まだ本当の『ラグナレク』には至っていないと考える事も出来るんだなー」
「そうだな。だがそうなると、これからが‥‥正念場だ」
 その逆の回答に至った北斗が相変わらず明るい声音で言えば、皆の引き締まっていた表情を僅かながらにも緩ませるが‥‥やはり相変わらず厳しい口調で信人が彼に続き言うと場の空気は途端、引き締まる。
「ローテーションはどうするのだ〜?」
「今まで通り‥‥三機を維持、戦況に応じて『巨人』の投入をしましょう。まだ折り返し地点にも来ていないしね」
「君達に任せる、私達も戦闘時にはやる事が増えそうだからな。とりあえずは以上だ、警戒の強化は必須となる‥‥が各自休める時にはしっかりと休む様に」
 だがそれでも自身を変えず、曲げずに和やかな声を響かせて北斗が問うとマーヤーが返す回答に艦長も頷いて解散を告げた。
 そしてこの直後、今までで最大規模の戦闘が行われる事となる。

『こちら玄間、これから獲物を指定された位置へ誘導するからよろしくなのだっ』
「高度、十分。射線もOK! いっけぇぇぇぇぇぇっ!!!」
『それにしても今日は『敵』の数が‥‥』
 マインダガーを両手にぶら下げ、まだ形が残る建造物の上を軽やかに走り僚機へ告げる北斗が敵を定められた位置まで招き入れると上空、長大な砲を抱えて叫んだヴァインの『巨人』が収束させたエネルギーを解き放ち、『声』を纏め薙ぎ払うと『方舟』の甲板に膨れ上がる火炎と燻る黒煙が舞う中、打ち漏らした敵を北斗より更なる速さを持って立て続けに屠っていく研だったが今までとは比べ物にならない、己の両親を殺した『声』の多さに苛立ちを隠せずにいた時、無線で管制室から艦長の声が各機へ割り込む。
『マーヤーの判断で応援を出す事にした、各機無理はするな!』
 すると指示が終わるより早く、初めて『方舟』の四つ目のハッチが開けば長剣携える『巨人』が姿を見せ、すぐに地を蹴って眼前の翼持つ『声』を切り伏せると先から戦闘を続けていた三機に合流すれば
『信人だ、支援する』
 即座に名を告げる搭乗者の声を聞いて三人は戦力が増した事から少なからず安堵するもその時、今までの『声』より一回り以上も大きな反応をたった一つではあったが四機は捉える。
『新しいタイプ、か』
「タイミングが良過ぎる‥‥まさか、そこまで考える事が出来るとでも」
 抜き身の刃をぶら下げて新たな敵の出現に信人は呆れるが、それでも悠然と佇む信人の呟きの中で『声』を研究していた頃を思い出し、考え耽るヴァインがその答えを出すより早く、黒煙を打ち払っては両手を翳し現れたのは白銀の光纏った巨大な『声』。
『‥‥これは危険かも知れないのだっ!』
『それでも、やる他にないでしょう!』
 初めて見た、人の形模す『声』に底知れぬ脅威を感じて警告の声を上げる北斗だったが研はそれにも構わず、『巨人』を疾駆させる‥‥も静かに空間が揺れれば次いで、周囲へ広く衝撃波を撒き散らす『声』に四機は四機とも、声を上げる暇すら与えられずに派手に吹き飛ばされた。
 そして『巨人』が被ったダメージの大きさから、皆は愕然とするが
『こんな下らん戦場で死ぬのは‥‥軍人だけで十分だ‥‥!』
「待てっ、信人!」
 その中、誰よりも早く信人が『巨人』を立ち上がらせるとヴァインの静止より早く地を蹴り、瞬時に『声』の懐へ飛び込むが‥‥それが翳した片腕が鋭利な槍へ形を変えれば伸びると次には信人の『巨人』が腹部を貫き、彼はコックピットの中で盛大に血を吐き散らす。
『があっ! それじゃ‥‥甘い、な‥‥』
 だが、それでもまだ動く『巨人』を揺すって信人は槍を掴むとそれを押しやり胴の半分を敢えて千切って逃れ、自由を得た後に次なる攻撃より早く腕部に内蔵されたファランクスを打ちまくると体内に埋もれているコアを微かに露出させれば、狙い過たずに長剣を振り抜き放った一閃は巨大な『声』をも両断した。
『地獄で会おうぜ‥‥ベイベェ‥‥』
 だが直後、砕け散る『声』が虚空の渦を生み出して飲み込まれれば‥‥信人の『巨人』もその余波に巻き込まれ姿を消し、やがて先程までの喧騒が嘘の様に静まり返る『方舟』の甲板にヴァインの、今はもう届かない木霊だけが響き渡るのだった。
「ばっか‥‥野郎がぁっーーー!」

 作戦終了まで残り、五百三十二時間と十一分。
 残された巨人は、四機。


「もし良かったら、どうですか?」
「‥‥そうだな、頂く事にするよ。ありがとう」
 ある日の夜、未だに焦げ臭い臭いが立ち込める甲板にて戦いの時とは裏腹な、静かな月夜を見上げる男が三人‥‥酒を交わそうと研の誘いを受けてマーヤーが彼から簡素なアルミ缶の酎ハイを笑顔で受け取れば
「北斗さんもどうですか?」
「のほほ〜〜んと日向ぼっこをしていた方が気持ち良いのだぁ‥‥今は夜だけどね〜」
「そうですか、それは残念です」
 次いでマーヤーと同じく誘いに乗ってくれた北斗へも同じものを差し出すが、満天の星空を見上げるだけで満足らしく、丁寧に辞退するとそれでも彼は笑顔を湛えた‥‥それが最後に見た、研の笑顔だった事に二人はこの時まだ知らない。

「な、何なのだこいつ!」
 その翌日だった、また新たな形状の『声』が姿を現したのは。
「‥‥つぅ」
 それを眼前に北斗は突然の変調に呻き、霞む視界の中で力が入らない右の腕を見ると‥‥その存在自体、朧となっている事に気付けば今までの戦闘による疲弊も相俟って遂にその表情から笑みが消えると次いで不意に、『巨人』はその場へ膝を付く。
「モニターは‥‥まだ、生きている。でも‥‥」
 状況確認を行なう北斗だったが‥‥視界だけが生きている中、『巨人』の主動力炉が停止した事に気付くと同時、その眼前に幾体もの『声』が舞い降りる‥‥が次に彼は衝撃に見舞われ遅れて自身の乗る『巨人』が吹き飛ばされた事に気付くと、モニターのレーダーが不意に現れた『巨人』の光点を『声』の群れの中に表し、次いでその搭乗者の名を告げれば
『自分の目の前でもう‥‥誰も殺させはしませんっ!』
「け、研さん! 駄目‥‥なのだぁっ!」
『‥‥生きて帰ったら、もっと美味しいお酒をご馳走しますよ。北斗さんには少し、早いかも知れませんがいいおさ‥‥』
 研の叫びだけ、次に響き渡り北斗は彼を必死に呼び止めるも‥‥優しい声音で守り切った彼へ向けて紡いだ最後の言葉は途中で途切れると、『方舟』を激しく揺さぶる爆発音と共に癪に障るノイズだけが無線から虚しく響き渡る。
「うああぁぁぁぁあぁぁっ!!」
 そして甲板に火種が燻り、黒煙だけが風に靡く中で遺された北斗は一人取り残されながらもコックピットの中、涙でくしゃくしゃになっている顔を上げれば無理矢理に笑顔を湛えれば、研へ誓うのだった。
「絶対に‥‥絶対に、生き残るのだ‥‥」

 作戦終了まで残り、三百九十二時間と五十九分。
 残された巨人は、三機。


「‥‥此処まで来ておいて、未だに『声』は私達の事を‥‥いや」
 一週間に一度、解放される錠付きの扉の向こうにある補給物資には今日‥‥食料や弾薬と共に一機の『巨人』が佇んでいた。
「もしかしたら‥‥恐れているだけなのかも、知れないな。だが今は」
 その光景を激痛が走る己が肩を抱えて見据えるマーヤーは、待ち望んでいた新たな『巨人』に囁きかけると『声』の襲撃に揺れる『方舟』の回廊を蹴って駆け寄った。

『ボクはこんな所で死ぬのはイヤ‥‥作ってみたい料理は沢山有るし、まだ恋だってしてないんだから何が何でも生きて、帰りたいっ!』
「ミリフィヲ、言ったじゃない! 信じる事が出来れば何時までも明日は来るって!」
 無線を通じ、響くミリフィヲの絶叫に銃爪を引いて叫びを持って彼女を宥めるクリスだったが
『でも、これじゃあ‥‥ね』
「っ!!!」
 先の調子とは裏腹に、静かな口調で呟いたミリフィヲの様子を訝る彼女が次いでモニターに映った『巨人』を見て、息を飲む。
 ミリフィヲが駆る『巨人』の半身が根こそぎ削り取られ、コックピットのある部位が完全に融解していたからおり‥‥凝視し難いその現実にクリスは身を打ち震わせるが、動いている事が既に奇跡であるその『巨人』と彼女から、自身の気持ちとは裏腹に目が離せなくなっていた。
『だからボクは行くよ、ボク達が『此処に居た』って事を継いでくれる人達が居なくなるなんて許せないから‥‥皆を守る為に』
 だがミリフィヲは彼女の様子に気付く事無くボルテックランスを翳し、その顎を開け放って雷撃放てば迫る『声』から彼女を守る様に立ち回ると次いで、中空に群れる『声』目掛け飛翔した。
『看取ってくれる素敵な彼氏がいれば最高なんだけど‥‥クリスで我慢するよ、それじゃあ‥‥『また』ね』
 そして無線を介し、最後にそれだけ彼女へ告げればその群れの只中で‥‥自らの意思で『巨人』を爆散させ、大気を揺さぶった。
 しかし、それでも数体の『声』は平然とした様子で空に佇み続ければミリフィヲが消えた空を見つめたまま、クリスは彼女の為に泣くよりも先‥‥自身が出来る事を、歌を紡ぐのだった。
「この詩は未来を紡ぐ詩。この旋律は、今を‥‥生きる曲! 響け、天上にまでっ!」

 作戦終了まで残り、百四十六時間と一分。

●居場所
 カチリ、と音が鳴った訳ではないが『方舟』の中央区画が真中に居座るデジタルの表示板が片隅にあるカウンターは漸く、その役目を終えた。
 全てにゼロが並ぶカウンター‥‥そしてその表示板には『方舟』甲板の痛々しい光景を映し出していた、もう誰も見る事がないにも拘らず。

 だが、まだ生きている者はいた‥‥尤も、『巨人』のコックピットから降りる程の体力は既に残されておらず静かに息を立て、来るだろう『迎え』を待っていた。
『‥‥『敵』の研究が進んで、後々の奴らが楽になるなら俺はそれだけで十分だ。今じゃ守る物なんて自分の命だけだし、俺の支えになっているのもそれ位だよ‥‥それなら俺は』
「ヴァイン、まさか‥‥」
『‥‥だけど死んだ奴らの手前、此処で倒れる訳には行かないだろう? 生き抜いて、見せるさ‥‥』
「あぁ、そうだな‥‥皆、確かに繋いだよ。この希望、今は小さくとも‥‥いつか必ず大きな実を結ばん事を」
 その、見たくれこそボロボロだが未だに稼動している三機の『巨人』の内、一機。
 コックピットの中で霞む視界と薄らいでいく感覚に身を任せつつもヴァインと言葉を交わし、次いで手に握るレコーダーのスイッチを切って最悪の事態を想定して今までの記録を残し終えたマーヤーは今、此処にいる事を確かに感じたまま‥‥全ての感覚を放棄して意識を闇の中へ落とした。

『『方舟』を目視にて確認、生体反応‥‥微かにありますっ!』
「よし、稼動している『歌い手』を全て投入して回収しろ! 『方舟』を防衛圏内まで回収後、速やかに『ラグナレク』全防衛システムの起動だ、急げ!」
「これで一息、だな」
「あぁ、だがこれからが本当の始まりだ」

 〜そして、物語は継ぎ紡がれる‥‥『絶対たる歌い手』へと〜