絶対たる歌い手

■ショートシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリー

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

 何処かの世界の何処か、無駄に広い屋内の部屋にいるのは君達。
 ‥‥いや、部屋と言えば語弊がある程にそこは広く、更にはそのスペースを余す事無く活かす為だろう巨大な武器や盾が所狭しと並んでいた。
 此処は工蔽、人にとって残された数少ない希望の砦が一つ。
 がこれだけ広いで工蔽であるにも拘らず人は少ない‥‥それもその筈で、此処からそう遠くない開けた平原で生と死だけが渦巻く戦場と化している為で最悪の事態を回避すべく技術者達は既に此処より離れ、戦える者は戦場へと借り出された結果である。
 そして此処に残るのは突如として現れ、人類の半数近くを瞬く間に抹殺した『大いなる声』と戦うべくして人類にとって残された最後の希望である機動兵器『絶対たる歌い手』を操る為の訓練を受けた『英雄』と呼ばれる者達の中、一番に経験が浅い事から工蔽の留守番を託された者達だけ‥‥そんな役目を担う英雄候補達が本来呼び出される筈がない、工蔽の中枢部に呼び出された理由はたったの一つ。
 誰もがその事態が何を指しているのかに気付き、ただでさえ静かな部屋の中で更なる沈黙を降り積もらせれば、暫くして響く一つの足音。
「済まないな、急に呼び出した割にこちらの方が遅れてしまって」
 やがて反響する乾いた足音が止めば、それと入れ替わりに響いた声音からまだ君らとそう変わらない年だろう青年が皆の前に立ち止まっては敬礼を交わす。
 だが紡がれた柔らかな声音とは裏腹に彼の表情は非常に険しいもので、その表情から君らは心の中で蠢いていた不安が確信に変わるのを感じ、彼もまたそれを察して小さく息を吐いては僅かに口元を緩めると、君らを呼び出した用件を告げる。
「君達が今、考えている通り‥‥戦場に出て貰いたい。『絶対たる歌い手』となるその『素体』は今、出来得る限りの強化を施して準備させている」
 そして右手に持つ、小型の投影機の電源スイッチを入れれば君達の目の前に広がる、何もない空間が揺らいで作戦図が展開されると
「君らが乗る事で『素体』は乗り手が持ち得る技術に能力を即座に反映させ、体現させれば未来を紡ぎ織り成す歌を奏でる巨人『絶対たる歌い手』と化す。その力は絶対にして無敵、今回の作戦も無事に乗り切れると思っていたのだが‥‥」
 念の為だろう、簡単に『絶対なる歌い手』についての説明をした後、目の前に垂れ下がる作戦図が一箇所を赤い光点で示せば青年はそこで一度、表情を正に今、空に漂い流れる重い雲が如く曇らせ、言葉を区切ると
「此処だ、此処に新型の『大いなる声』が現れてから戦況は覆った。今までに何機ともなく『絶対たる歌い手』をぶつけて来たが、余りにも巨大なそれをどうにも挫く事が出来ず、それ所かこの戦いに投入した此方の貴重な『絶対たる歌い手』が内、半数以上が‥‥以上の様に、状況は芳しくない所かむしろ押されている。君達が初陣だと言う事は無論承知しているし、君達と僅かな『絶対たる歌い手』を投入した所で戦況を再び返す事が出来るか‥‥それすらも怪しいが、それでも此処が陥ちる事は人類の死を加速させる事になる以上」
 今、人類が置かれている状況を述べ‥‥やがて言葉に詰まり、青年はその途中で押し黙り沈黙が辺りを包むもそれは長く続かず、何かが床を打つ音と同時に再び彼はその口を開く。
「最早『絶対たる歌い手』となる『素体』自体の数も、乗り手の数も此処にあるだけ。分かってくれ、『素体』を動かせる者は今此処にはもう‥‥君らしかいないのだと言う事を」
 それはきつく握り締めた掌から零れる青年の血が滴り床へ落ちる音、そして血を吐く様な勢いで青年がそれだけ言うと‥‥君らの内、一人が窓の外に広がる荒廃する町並を見て一言だけ呟いた。
「‥‥どうなるんだろうな」
 『何が』とは敢えて言わず遠く、遠くで今もまだ繰り広げられているだろう戦場を見やる様に視線を向ければ静まる場の中、青年は一言だけ詫びた。
「いつ終わるか、いや‥‥もう終わるかも知れない戦いに巻き込んでしまって済まない‥‥だが」
「分かっています、未来を‥‥大事なものを守る為に、何もただ死にに逝く訳じゃないんですから、大丈夫です」
 それに一人の英雄が溜息とは全く違う、意思強き言葉を吐けば皆はやがて顔を上げると剣を取って未だ『素体』のままで眠る『絶対たる歌い手』の袂へと歩き出すのだった。

 ‥‥この一戦が間違いなく人類の行く先を、未来を決める。

――――――――――――――――――――
 作戦:人類最後の砦である数少ない『工蔽』へ群れては襲い来る『大いなる声』を駆逐しては戦場を駆け、敵陣中枢で同胞を数多殺して来た新種の『大いなる声』を打ち砕け!

 装備について:『絶対たる歌い手』が白兵戦において使う一般的な武器及び防具に関しては無償で支給、火器については在庫総数が少ない為に相談の上で使用の事。
(PLさんへ:配布武器について指示総数より多かった場合、その武器全数使用不能となりますのでお気を付け下さい)

□レールカノン:二機分
 超電導の力で弾丸を打ち出す、肩に担ぐ二門の砲。連射は利かないが射程は長く、精度も比較的安定している。
□マシンガン:三機分
 小口径の弾丸を火薬によって吐き出す火器、連射性能に優れるが一発のダメージは然程大きくない。
□ミサイルポッド:五機分
 誘導式のミサイルを最大で六発、同時に斉射する事が可能で精度に威力共に優れるが十発打ち切ると使用不能の使い捨て型。
□クラスターマイン:五式
 手投げ式のクラスターマイン、一式に付き十発が与えられます。
 爆発と同時に散弾を広範囲にばら撒いて複数の敵へダメージを与える事が出来るが、誘爆の危険性もあるので取り扱いには注意の事。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1170 陸 潤信(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1944 ふぉれすとろーど ななん(29歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea3264 コルセスカ・ジェニアスレイ(21歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7095 ミカ・フレア(23歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●序曲 〜掲げる拳と未来と〜
「‥‥これで一通りの操作法は以上になる、後は感覚で覚えてくれ」
 工蔽の最深部にて、最後となる『絶対たる歌い手』の操作に付いてのブリーフィングを受ける一行、簡単に青年が手解きをすれば皆はそれぞれ『素体』へ強き意思を込め、『歌い手』へと変貌させる。
『へー、凄いね。視界から感覚までそのまま大きくなった感じだー』
 リュートを操縦幹として組み込み、手繰ってはその感覚を違和感なく感じ取るハンナ・プラトー(ea0606)の感想に皆も素直に同意し、『歌い手』の頭部を前方へ傾がせる。
 人を受け入れた卵の形を模す『素体』は、巨大な演算機構である『メイデンシステム』を用いて『英雄』の意志と力を読み取って自身を『絶対たる歌い手』へと変貌させる、既に搭乗している者を飲み込んだ形で。
 その特異なシステム故に『歌い手』を自身として認識する感覚が『英雄』には必須で、流石に此処まで来て『歌い手』を自身として認識出来ない者はいなかった。
「大丈夫そうだな」
『システムに異常はありません、直ぐにでも行けます』
 その様子に青年は安堵し、マイクを通し呼び掛ければコルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)が乗る、強固な装甲を幾重にも身に包んだ『純白の守り姫』が外部へ核の声を発する。
『しかしあたしらが呼ばれて、そしてこうやって戦場に出て‥‥世界の未来を託されるなんてね。まぁ、経験の差なんてあたしらの力で埋めてあげるけど‥‥ねっ』
『あっはっは。その通りですね、でもそれにはまずスマイルですよ、スマイル♪』
 だが彼女の返事から場の雰囲気を察してか、ローサ・アルヴィート(ea5766)が軽い口調で皆へ呼び掛けるとそれに賛同してトリア・サテッレウス(ea1716)も笑い、僅かな緊張感を保たせながら場の雰囲気を柔らかくする。
「さて‥‥準備に、覚悟はいいかな、皆。時は既に一刻を争う、先も言った通りだが君達ならきっと道を開けると信じている。だから‥‥」
『‥‥勝ちます、勝って必ず護ってみせます!』
 巨大な一行を見上げ青年は僅かに微笑を浮かべながら、それでも最後の希望である皆へ声を掛けるもその途中、陸潤信(ea1170)の断言に阻まれると一瞬の間を置いて今度は顔を上げた。
「君達の帰りを‥‥待っている!」
『‥‥さぁて、これが最後の抵抗って言うんなら‥‥せめて派手にブチかましてやろうぜ!』
 青年の叫びが工蔽内に響けば、彼の想いに呼応してミカ・フレア(ea7095)が叫ぶと同時‥‥開け放たれた扉より十機は徐々に近付いて来ている戦端へと、『歌い手』を駆れば青年はそれから、皆が視界より消えるまでずうっと、敬礼を崩す事無く見送るのだった。

 そして此処から人類最後の抵抗が始まる、人類が滅ぶまで永劫に続くだろうと言われていた戦いの、その終幕の一端が‥‥。

●第一楽曲 〜飛翔〜
「皆、散々打ち合わせたが手筈通りの動きを頼む。それとさくらは俺の無線からは絶対に耳を離さないようにな」
「‥‥よよ宜しくお願いしますっ!」
 まだ戦端へは届いていないものの、落ち着いた声音で他の九機へ呼び掛けたのは『青蓮』の蒼き文字を左肩に担ぐ漆黒の騎士『残獲者』を駆る雪切刀也(ea6228)と、その呼び掛けに激しい人見知り故、未だに狼狽しながら皆へもう何度目かの挨拶を交わす水葉さくら(ea5480)。
「此処の要はさくらさんだから、もう少し落ち着いていこう」
 肩に担ぐ重そうな火器と不釣合いな、華奢な外観の随所に舞う桃色のリボンが特徴的な『ペパベール』だったが、それを駆るさくらへ風烈(ea1587)が宥め落ち着かせようとしたが無論、その程度で落ち着く彼女ではなく
「でででででもっ、私の指示がもし間違ったりしたら‥‥」
「戦う前から目を背けないで、失敗を恐れるよりも。それに大丈夫ヨ、皆がいるネ」
 余計に狼狽し、自身に掛かる重圧に押し潰されそうになると『ペパベール』がその核の代わり、四肢を忙しなく動かすも優しい声音を響かせふぉれすとろーどななん(ea1944)が宥め透かせば一呼吸の間を置いて、その動きがゆっくりと止まる。
「‥‥‥分かりました。せ、精一杯頑張ります」
『うん‥‥よし、っと。それじゃ、ちょーっと個人行動? してくるね』
 その話が落ち着くと同時、戦場独特の臭気が周囲に強く立ち込めてくればそれをいち早く感じたローサが自身の『歌い手』が持つ、唯一にして絶対の自信を誇る機能を展開させ、声だけを残して人知れず掻き消える。
「大丈夫かな、ローサさん一人で。確かにあの機能なら単独の方がいいと思うけど‥‥」
「信じろ、彼女の事を‥‥それが出来なければこの戦い、勝てないぞ」
「うん、分かっているヨ‥‥じゃあ、行こう!」
 刀也の言う事は理解出来る、ローサの事も勿論信じている‥‥だからこそ僅かに残る惑いを叫んで吹き飛ばせば、ななんは自身が『歌い手』の『Weiβ Falke』へ意思を吹き込むと、背負う白き翼を振るわせては誰よりも早く戦場へとその身を投じた。

「此処より先は一歩も通しません、決して!」
 やがて戦場の始端へ辿り着けば一行、コルセスカの叫びと同時に十機は二手に分かれる。
 この戦いに置ける核となる、新種の『大いなる声』へ急ぎ向かう者とその背後を守る者とに。
「と、烈様、新種へはこのルートで‥‥問題ないでしょうか?」
「あぁ、今確認した。こいつだと事前の察知が難しいから引き続きサポートを頼む」
「‥‥は、はいっ!」
 その先行する『歌い手』を駆る者達へ先程の混乱は何処へやら、すっかり落ち着いた声音でさくらが烈へデータを送ると、その返事に一瞬の戸惑いの後、笑って返せば更にメイデンシステムを加速させ、周囲の様々な情報を読み取り取り込む。
「くそっ! 飛びもしなければ言う事も聞かないぜ、こいつ‥‥とんだじゃじゃ馬だな!」
 彼女が自身の役目を果たす中でミカ、同調が芳しくない為に力なき翼を背負うだけの『Blitz Schwalbe』を酷評しながらコルセスカと彼女を守る壁となるも、その動きは二機に比べれば酷く緩慢に見える。
 そうなれば『声』が狙うのは無論、『Blitz Schwalbe』。
 ある『声』がその身を伸ばし、あらゆる角度からミカを打ち据えればまたある『声』は己が身を千切り、弾丸が如くその装甲を穿つ。
「く‥‥がぁっ!」
 数はまだそう多くないのだが、『声』攻撃の前で『Blitz Schwalbe』の内部ではエラーを示すウィンドウが悉く現れては消える。
「ミカさんっ!」
 その様子に慌て、コルセスカが『歌』の一つである『聖母の慰撫』を奏で、彼女を癒すも明らかに敵が多い現状ではそればかりに手を割く事が出来ず、やがて三機は防戦を強いられる。
「し、処理を‥‥もう少し、これさえ、終われば」
 何処からかそんな彼女らを援護すべくローサが放つ火線の中、早速狂い始めるプランに慌て補正を掛け始めるさくらだったがそれでもこれ以上崩す訳には行かず、必死な形相を浮かべ周囲の情報を急ぎ掻き集める。
 そして打ち据えられては重力にその身を任せ舞うしかない『Blitz Schwalbe』はその眼前に一体の『声』を察し、メイデンシステムを介し乗り手へ警告を知らせる。
「‥‥‥」
 それを冷静に見つめるミカはやがて、『Blitz Schwalbe』を打ち据えようと縦横無尽にその身をさながら幾多の鞭を模す、一体の『声』の攻撃を確認すれば
『俺はお前を信じる‥‥頼むぜ、相棒』
 目を見開き、後僅かでメイデンシステムが弾き出した致命的な箇所への攻撃を受けるだろう直前でもミカは静かに『もう一人の自分』へ声を掛けた。
 それは諦めではなく願いで、絶望ではなく希望から‥‥もう一人の自身へ想いを告げればその時、メイデンシステムはようやくにして、唯一彼女だけの力を具現化させる。
「と‥‥んで、る?」
 そして成就されたそれは『Blitz Schwalbe』へ空を駆る力を与えると自らを飛翔させ、ミカがその身に浮遊感に感じる中、突如として変わる視界に彼女は驚くも輝く四翼を振るい迫る攻撃を回避すれば
「これならば‥‥いけるっ!」
 一瞬だけ呆然とし、だがすぐに笑うと今までの憂さを晴らすべく『Blitz Schwalbe』の四翼を畳み、その身に風を巻き付け激しく回転させると宙を疾駆する。
「‥‥‥え、えっと‥‥ミカ様、東北の方角へ‥‥一番に薄い此処の敵を薙ぎ払って貰えますか」
「座標を送る」
 その光景に見惚れながら、だが慌ててさくらがプランを再立案し大まかな位置を支持すれば、前を行く烈の『ヴィントリッタァ』が持つ空間把握能力から割り出された正確な座標位置を彼女へ伝え、それより一呼吸するだけの時間で指定された位置へ辿り着くなり『歌』を奏で上げる!
「喰らいなっ、『炎の輪舞』を!」
 その直後、『声』に攻撃する暇を与えず四翼を開けばその名に違わない程の激しい光を放ち‥‥周囲の大気を励起し、それを数多なる炎の礫に再構築すれば唸るメイデンシステムが狙いを定める周囲の声へそれを全て叩き込む。
「そうだ、俺達は負けられねぇ。だからもっと‥‥輝けぇっ!」
 その意思は如実にメイデンシステムへ伝達され、更なる光を『Blitz Schwalbe』の翼へ与えてはミカを一条の光へ変えた‥‥さながらそれは希望の如く。

「‥‥そうねぇ、愛着持ちたいから自分の歌い手に名前でも付けちゃおっかな〜♪」
 視界に迸る光を捉えつつ、激しく荒れ狂い流転する戦場の中でただ一人静かに佇んではさくらから流れて来る情報から戦況を的確に読むローサ、『声』を撹乱すべく駆けては漆黒の機銃と肩に担ぐ長大な砲塔から弾丸を放てば周囲の『歌い手』に悉く名前がある事を思い出し、自身の『歌い手』の名前を場違いな事は承知の上で考えてみる。
「野薔薇‥‥『ローサル・シルベストル』かなぁ。長いから愛称はロサルベス、なんてね」
 それが彼女の性格、と言う事もあったろうが『歌い手』が持つ自身の力故に生まれる余裕が成せる技な訳で‥‥周囲の地形に擬態化しながら閃いた名前を満足そうに頷いて笑うも、マシンガンのトリガーは引いたままに周囲の『声』へ混乱をもたらす。
 十機の中で尤も生存能力が高いだろう、地形との擬態化能力は恐るべきものであったが平地ではその効果が発揮されないに等しい為、常に動き回っては火線を紡ぎ続ける。
「は、早く新種を‥‥倒して来て下さいっ!」
「そーそー。さくらちゃんの言う通り、ここはあたしらに任せて新種倒して来てね♪ 明るい報告よろしくっ」
 そんな状況においても『ロサルベス』を駆るローサはさくらの言葉に頷き先を駆ける『歌い手』達へ呼び掛ければ、駆ける彼らの背後を守る様に四機が共に立ちはだかりその道を塞ぐと
「分かりました‥‥必ず、倒して来ます! だから皆さんも‥‥」
「あぁ、ここは俺らに任せとけっ! なぁに、こんな奴らは俺の敵じゃねぇ‥‥それじゃ再開だっ!」
 潤信の約束にミカが頷き、拳を握ればそれを端に先を進む六機が先程より速度を上げ目標へと向かい、残された英雄達は未だ数が減らない『声』へ悠然と、だが未来への希望を持って戦闘へ臨む英雄達に応え、更に早く演算を行なうメイデンシステムとの強い同調を感じながら、『声』を薙ぎ払う為の『歌』を紡ぎ上げた。
「立ちはだかるモノは遠慮なく♪」
 そして火を噴く『ロサルベス』のレールカノンを号砲代わりに四機はそれぞれ散った。

●第二楽曲 〜盾〜
「痛いの、好きなんです。やだなぁ、そんな目で見ないで下さいよ‥‥興奮、しちゃうじゃないですか♪」
 戦場の只中をさくらが送ってくる情報から算出されるルートをなぞり進む六機の中、先頭を駆っては『声』の攻撃を一手に引き受け、皆の盾となってはその身を削りながら迫る声を蹴散らす『Freundlich Schild』を駆るトリアは‥‥マゾヒストっぷりを全開に、心底愉しそうな声音を外部へ思い切り響かせれば
「‥‥簡単に抜けると思わないでネ!」
 それはとりあえず聞かなかった事にしてななん、彼の後方より散弾の爆雷をばら撒くと同時に風と息を合わせ
『く、ら、えーっ!』
 拳に宿した闘気を収束させ‥‥それを『Freundlich Schild』の背へと叩きつける。
 ‥‥だがそれは盾となる『Freundlich Schild』が両の肩に穿たれている穴へ飲み込まれると、一瞬の間の後に纏め上げられ増幅される‥‥これがトリアの駆る機体の特異能力。
「戦の歌を、奏でましょう♪」
 浮かべる笑顔に明るい声音で言い放てば、纏め上げた『歌』を解放して前方に数多いる『声』を飲み込むと、一瞬でその核を砕いて道を切り開く。
「‥‥だけど、何かおかしくないか」
「あぁ‥‥確かに」
『さくら、『声』の数を適当な時間軸でどの程度減っているか、その推移を教えてくれ』
 それでもまだ六機目掛け群がり襲い来る敵の余りの多さへ疑問を覚えた潤信と刀也、さくらに一つ問い合わせると
『えぇと、す、少しだけ待って下さい!』
 慌しくメイデンシステムの処理をしているのだろう、珍しくさくらが叫び言えばそれから程無くして『ペパベール』は冷酷な答えを導き、彼女へ提示した。
『‥‥大よそ五分の割合で‥‥』
 信じられない答えに言葉の途中で唾を飲み込み、彼女は皆へその結果を転送すれば後方で戦っているローサが無線を通し呆れた声音で一言だけ呟いた。
『何これ、減る所か増えてるじゃない』
 それは事実で、その推移を表すグラフは僅かずつではあったが確かに右肩上がりである。
「新種と考えるしかないな、この原因は。でなければ彼が『声』の増殖に付いて教えてくれない理由は無い」
「それなら急いで‥‥」
 それでも息を一つ吐いて、何時もの冷静さを保ったまま二体の『声』を切り伏せながら判断すれば、展開する全身の刃を収納し『ヘッジホッグ』の速度を上げる潤信。
「待てっ!」
 だが次の瞬間、僅かに揺れては歪む空間の動きを察知し警告を発する『ヴィントリッタァ』だったが時既に‥‥
『コルセスカ様!』
『全てを守りし『月の城』よっ!』
 遅くはなく、多くの情報を処理しているだろうにも拘らずさくらが烈より少しだけ早く気付いて叫べばコルセスカはそれに応じ、『純白の守り姫』が『歌』を奏でられるギリギリの距離で六機を優しく抱く様に『月の城』を展開、地下より突如現れた『声』の攻撃を悉く防いだ‥‥が、しかし安堵する事は許されない。
「いつの間に‥‥」
 既に周囲は多くの『大いなる声』、サイズこそまちまちだが彼我の戦力差は十倍近くの敵に包囲され、進退共に窮する状況へ転ずる。
「ここで引いたら、私達の負け。だけど、引かなければ‥‥前へ進めば、私達の勝ちだー」
 『白き守り姫』が展開する防御結界もいつまで保つか知れない、皆の心に僅か擡げるの絶望の二文字だったがその時、『Schall Koing』を駆るハンナがそれを振り払い叫ぶと同時、『歌い手』の背面へ収納されていた四本の、骨格だけの翼と連想させる機構を自身の前と左右に展開すれば
「これが私の歌っ‥‥鳴り響けぇー!」
 彼女は『Schall Koing』を手繰るリュートが一弦を弾けば『歌』は完全に紡がれ、その背後を除く周辺へ力場の盾を一瞬で形成する。
「こいつは‥‥力場か? それにしてもこのサイズは‥‥」
「皆、行くよー。後ろだけ、よろしくね」
 その大きさはまだコルセスカが構築した防御結界に収まるものだったが、最大の展開範囲をその目で理解した烈は余りの巨大さに言葉を失うも、続く彼女の言葉に身構えれば次の瞬間
『解除します』
 無線を介しコルセスカの静かな声が響いた直後、結界が失せ『大いなる声』が群がって来るより早くハンナがその盾を最大のサイズで展開し、『声』を力場の盾で押し止めれば『Schall Koing』の推力を最大に押し寄せる『声』を薙ぎ払って駆け出した‥‥未来への道を切り開く様に。
『もうすぐ、です‥‥新種まで』
 その光景をモニター越しに見つめ、再び進み出す六機に安堵するさくらだったがその本陣が近い事を把握し、緊張だけ抑え切れず皆へ呼び掛けると暫くして先を進む彼らの目に、神々しいすら覚えた白銀の光を放つ新種の『大いなる声』が映るのだった。

●第三楽曲 〜砕ける命に、紡がれる歌〜
「ちょ‥‥」
「我が歌い手は鉄壁の護り手!! 何人たりとも貫き通す事‥‥っがぁ!」
「‥‥此処まで、力の差が」
 『Schall Koing』が強く構築している力場の盾ですら砕き、木の葉の様に舞っては叫ぶ三機の姿をその目に焼き付けられ、刀也は戦慄を覚え呻く。
「これが‥‥?」
 そう、これが新種‥‥他の『声』とは違う白銀の体色、不定形ながらも他の『声』とは違う圧倒的なまでの巨大さながら接敵を果たした六機の内、その半分を一条の閃光だけ残して僅か一瞬で吹き飛ばす。
「命懸けで足止めしてくれてるのがいるんだ‥‥お前は倒す、俺も命懸けでな!」
 各機の状態をさくらが伝達してくれば、それを刀也は視線の片隅に捉えつつ現実として受け止めながら‥‥だがそれでも不敵に笑うと『斬獲者』のメイデンシステムへ攻撃の意思を示し、その身を疾く駆れば
「く‥‥耳障りな、『声』め‥‥僕の『歌』でお前達を掻き消す‥‥っ!」
 先程とは打って変わり、トリアの誇りだった姉を『声』に殺された憎悪をその声に滾らせると、先程の攻撃によって立て続けに現れるエラーのウィンドウをメイデンシステムの根幹からオフにして『Freundlich Schild』を再び立ち上がらせた。

「負けられないんだよ‥‥! 皆の明日の為にもなぁぁぁぁ!!」
「これで、最後‥‥!」
 ミカが叫び、もう何度放った事か炎の弾丸を四翼より振り撒けばさくらの『ペパベール』が保持する索敵用のレーダーに写る最後の『声』目掛けグレイヴを放り、縫い止めれば体の形状を変え逃げながらも攻撃の体勢に移るそれへ瞬く間に詰め寄り、そのグレイヴを引き抜き即座に強烈な斬撃『花錬』から肩に担ぐレールカノンからゼロ距離で超圧縮された雷撃の束『雷花』を迸らせ、蒸発させる。
「案外、何とかなるものね‥‥」
「‥‥全くだ」
 その光景に周囲に取り巻いていた『声』を全滅させて事を理解すれば、擬態化を解除して安堵して呟くローサに光の羽を一時散らしミカも頷いたが
「皆様‥‥急ぎましょう、まだ新種が‥‥」
 崩れそうな膝を辛うじて踏ん張り、コルセスカが紡ぐ『聖母の慰撫』に四機が『歌い手』を癒す中、さくらは新種と戦う六機の絶望的な状況を皆へ伝えれば急ぎ駆けた。

「く‥‥もう、動かないか。ヘッジホッグ‥‥」
 先程より立て続けに、新種が振るう目に捉える事の出来ない不可視の打撃が前に『ヘッジホッグ』も崩れ落ちれば、これで半数の『歌い手』が戦闘の継続が厳しい状態となる。
「もう少し‥‥だからあと少しだけ‥‥あの歌‥‥』
 ‥‥呟き、リュートを手繰って僅かずつ膝を起こし力場の盾を再形成しようとハンナの『Schall Koing』を十数本の触手が全方位から打ち据え、沈黙させればこれで‥‥四機。
 残るは全身を覆う厚い装甲にも拘らず、それをボロボロにしながら未だ立つトリアの『Freundlich Schild』と、半ば勘に従った回避ながら右腕を失うだけで済んでいる、六機の中で最も素早い刀也が駆る漆黒の『斬獲者』。
「‥‥このままじゃ、皆‥‥皆が‥‥‥」
 挫ける心を露に‥‥だがそれは最後まで言わず、漏らしたななんの呟きはこの状況なら当然に過ぎる事ではあったがそれでも潤信は『ヘッジホッグ』を統括するメイデンシステムとの同調が既に僅かだけだと理解し、覚悟を決めると
「なら‥‥皆の為、この魂をっ!!」
 皆へ進むべき道を指し示す為‥‥自身が持つ、最後の『歌』を紡ぎ上げた!
 それは燃え尽きる寸前の激しく燃え盛る炎が如く、最早動く気配さえなかった『ヘッジホッグ』へ最後の息吹を吹き込むと、彼の意思に応えメイデンシステムも蘇り、強く同調すれば再開される激しく演算‥‥そして全身より放たれる闘気によって大地は砕かれ瓦礫が浮かぶ中で『ヘッジホッグ』が立ち上がる!
『流石‥‥負担が大きい、けれどこれで決着を着けますっ!』
 これが彼の最後の『歌』、システムの理を覆す程に強制的な再生能力‥‥だがこれを起動するともう二度と立ち上がる事は出来ない、本当に最後の手段であったがそれでも彼は青年と仲間達へ交わした約束を守る為、彼は『ヘッジホッグ』を虚空へと舞わせた。
 遥か、遥か『声』でも到達出来ないだろう遥かな高みへ‥‥そして潤信はやがて雲に覆われていた筈の太陽をその目に捉え、余りの眩しさに目を細めたがそれも一瞬。
『大地と共に生き、豊穣の大地を守る者‥‥陸潤信、この名を死んでも覚えておけぇっ!』
 輝く太陽を背負い、潤信が叫び終わるよりも早く『ヘッジホッグ』の持つ全身の刃を解放すれば一条の流星と化し、その身ごと白銀に煌く『大いなる声』へ突き刺さり大地までをも穿ち崩した。
「潤信っ!」
「あの事、よろしくお願いし‥‥」
 烈の叫びに、潤信は最後にそれだけ言うもそれは最後まで紡がれる事なく、ノイズと化すが大地に飲み込まれる彼の『歌い手』を誰も追う事なく、視界が片隅に映る核を見付ければ命を賭して作った潤信の好機へ更に大きな孔を穿とうと
『未来を‥‥大事なものを守る為に、創られたんだろ。立て、立つんだヴィントリッタァ!』
 烈が動かなくなった『歌い手』にとっておきの『歌』を奏で、強い意思によって動かなくなった『風の騎士』を再び揺り動かすとその身を鋭く、疾く再生させ、その直後には吹き荒れる嵐の化身と再誕させれば、新種へとその身を躍らせる。
「嵐となったお前の力、見せてやれ‥‥シュトゥルムリッタァ」
 だがその叫びに揺るぐ事無く新種はその不定形な身を崩しながら、甲高い叫びを上げれば彼の空間把握能力が感知するより早く、新たな『声』を生み出す。
「駆けろ‥‥風よりも速くっ!」
 しかしそれでも構わず、突き進む『シュトゥルリッタァ』だったがさすがの彼でも二十近い『声』を前にそれは無謀でしかなかった。
「まだ‥‥まだだよ。もう少しだけ動いてネ、あたしの体‥‥っ!」
 しかしその前に割り込んで来たのは辛うじてメイデンシステムとの同調を取り戻した『Weiβ Falke』を繰るななん、『シュトゥルムリッタァ』を残るクラスターマインの爆風だけで強引に上空に巻き上げれば彼の変わり、『声』達の攻撃を一手に受けると
「ヤだな、なんだかありきたりだョ‥‥皆を、守ってね、あたしの‥‥分身。あたしはもう、動けないか‥‥ら‥‥‥」
 両手に握る散弾の爆雷を持って鷹の子機を彼の元へ飛翔させれば直後、全ての『声』を巻き込んで爆散する『Weiβ Falke』。
「っ‥‥炎を纏いし竜巻となりて全てを‥‥切り裂けっ、フォイアロート・トロンベ!」
 ‥‥散るななんが白き『歌い手』の姿を振り切って烈が叫べば、白き鷹が翼より羽の刃を放ち援護する中、赤熱化させた『シュトゥルムリッタァ』が四肢を振るい、核を守ろうとする新種の体を打ち据え蒸発させる。
「とっておきだ‥‥代価はお前の命で、貰い受ける!!」
 その時を待っていたとばかり、メイデンシステムが自壊する寸前まで稼動させ『斬獲者』は残る全ての力を『歌』へ変えると、激しい炎をツヴァイハンダーから撒き散らし
「たかが『声』に‥‥我らが『歌』が負けるものかぁっ!」
 それと同時、重い鎧の枷を解き放った『Freundlich Schild』がトリアの叫びを受けると、武器は輝く白刃を煌かせ、凄まじい勢いで疾駆を開始。
「これが‥‥俺の、全てだ! 貫けええええぇぇぇっ!!!」
 彼の叫びへ刀也も応え、己が剣を地と水平に掲げ『残獲者』の身を軋ませるまでに速度を上げ、やがて音速を纏えば全力を超える全力の吶喊攻撃でトリアと共に新種の核を遂に捉え
「姉さん‥‥僕は、貴女の様な英雄になれたでしょうか‥‥?」
 トリアは視界を埋め尽くす光の中、姉の笑顔を見た気がし自らも微笑んだがやがて白き闇に飲み込まれた。

●終曲 〜日はまた昇る〜
「終わり‥‥ましたね」
 修理を施せばまた動くだろう、今は膝を地に屈して『純白の守り姫』を見上げ、コルセスカは自身の胸に渦巻く様々な感情をどう表せばいいか分からず、端的にそれだけを静かに呟く。
 ‥‥戦いは終わった、犠牲こそあったが新種を倒す事に成功した英雄達。
 後もう少しでも戦いが長引けば、間違いなく負けていただろうその戦いを終えた皆は工蔽の前に集えば、今は静かに佇んでいた。
「私は英雄の中では落ちこぼれでしたけど‥‥その想いは皆様と変わりません。この『歌い手』と共に託された希望‥‥それを守る為、失わない為、そして叶える為‥‥」
 そんな折、誰に言うでもなく囁いたのはさくら。
 そう、まだ『大いなる声』との決着は着いていない‥‥確かに犠牲はあったがその者達の意思を継いで、これからもまだ戦わなければならない事を暗に言ったその時だった。
 未だ皆の頭上を舞っては主を探す白き鷹が啼いたのは。
「何故まだ動いているんだ、メイデンシステムが死ねばその機能は全て‥‥」
『あ』
 言って気付いたのは烈、その逆は即ち‥‥
「生きているかも知れない、って事だね! ななんだけじゃなくて、もしかすれば皆!」
「動く『歌い手』って‥‥あたしのだけ?」
 使い物にならないだろうと思われていたリュートを必死に修復し、だが直り弦を弾けば紡がれる音から余計明るくハンナが言うと、続くローサの問いへは皆が頷く中で苦笑を浮かべながらも『ロサルベス』に急ぎ乗り、それを確認して旋回を止めた白き鷹は彼女を導かんと飛翔する。
 それは暗雲より遂に現れた太陽へと向かって‥‥願わくば、それが未来である様にと誰もが強く、強く願うのだった。

 〜Fin〜