【ソウルコア】貫くべき、己が道
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■ショートシナリオ担当：蘇芳防斗 対応レベル：フリー 参加人数：10人 サポート参加人数：-人 リプレイ公開日：2007年04月16日 |
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●オープニング
●魂を揺さぶるもの日本、世界に存在する国の中で未だに安全が守られている事で有名だがその実、裏では様々な事件が起きている。
政府官僚の汚職事件からひったくりまで、それらのすべては日々ニュースとして人々にもたらされているもそれだけが全てではないと言う事は日本に住まう人々の殆どは知らない。
「う、うあぁあっ！」
しかし今、自身の家にて広がる夜の暗がりの中にて『それ』を目の当たりにしている学生がいた。
「下手を打ったか」
「‥‥お前がやったのか」
「他に誰がいると。しかし退屈凌ぎに嬲ってみたがやはり、詰まらないな」
時代錯誤も甚だしい、魔術師の様なローブにマントを羽織った茶髪の青年の姿を見止め驚いたのは一瞬で、次に鼻を突く異臭に学生の彼が気付けば暗がりの中で良くは分からなかったがやがて、液体で濡れそぼる居間に広げられているカーペットの上に転がる幾つかの異物も見付け‥‥それが何かを察すると、怒気を孕ませて尋ねる彼に侵入者は詰まらなそうに答えを返し嘆息を漏らすも
「だが見られた以上、お前も家族の元に送ってやる」
やがて意を決し、己が背後にいる『影』に指示を下すべく腕を掲げ‥‥だがその動作は途中で中断され、侵入者は懐よりまだ血に濡れたナイフを抜き放ち飛来した拳を受け止める。
「ちっ」
「久しいな、アザトス」
「わざわざ現場にまで足を運ぶとは、あんたもまめだな」
「何、綺麗な夜空だったのでたまたま散歩をしていただけだ。そう言うお前も相変わらずだな」
そして舌打ちを響かせると闇の中から響いた、またしても聞き慣れぬ声に学生の彼が戸惑う中、二人は拳と刃を交えやがて同時に後方へ飛び退ると決然とした声を響かせ、闖入者が侵入者へ告げるが
「退けよ‥‥」
「‥‥そうか。戦うと言うならば、これを使うといい」
その後に学生の彼が闖入者を押しのけ、荒んだ瞳を湛え侵入者へ告げれば‥‥その彼を見つめ、春であるにも拘らず厚手の皮のコートを身に纏う彼は僅かに惑い、だが懐より一つの金属体を取り出して彼へ託せば厳かに一度だけ告げた。
「掴め、そして己が意を決めただ叫べ。さすればそれはお前の意思に必ず応えてくれる筈だ、お前が正しくも強き意思を持つならば。そして、その名は‥‥」
そして直後、咆哮が轟けば辺りに衝撃が奔るのだった。
●堕ちし双翼
東京近郊、市街地のど真ん中にある大きな屋敷のその中にて、『墜ちし双翼』の面々は話を交わしていた。
「済まない」
「過ぎた事です、今気にした所でそれはしょうがないでしょう」
その最先に口を開き皆へ詫びたのは先日、独断での行動の末に撃退されたアザトスで‥‥しかし、かしまづく皆の前に立つ女性は彼を慰めると
「故に『天上の輪』がその力を整える前に早く計画を動かします、ル・リエー」
「富士山の活性化は最近、顕著になっている事は様々な報道の通りである事は間違いありません。今回の目的はその富士山を更に揺り動かし、爆発させる事に狙いです。これにより首都機能を奪い、その間隙に政府を打倒します」
「自らの事しか顧みない性根の腐り果てた人類を滅ぼし、地球を護る為の足掛かりに先ずは日本から、ね」
暫しの間を置いて再び口を開けば、ル・リエーと呼ばれた女性に話を振るとその彼女は次に目論んでいる計画を語り出す中、リーダー格の女性は改めて自らが立てた組織の目的を告げると
「所で実際に富士山を噴火させるにはどうするんだ？」
「沙智子様のソウルコアを用います、物理的には間違いなく富士山を鳴動させるに十分な破壊力がありますし、私のソウルコアもあればこの点に付いては問題ないでしょう」
アザトスとは別な男性が一つ、思い浮かんだ疑問を紡ぐと間を置かず彼女が答えを響かせれば沙智子と呼ばれた女性は最後に一言だけ告げ、その場より踵を返した。
「それでは決行は一週間後に。『天上の輪』に察知されている筈ですが、此度の目的は必ずや果たしましょう」
●天上の輪
同刻、やはり東京‥‥此方は目立たぬ虚空の彼方に存在する機動施設。その名、『天上の輪』にてレイ・ヴォルラスはモニターに映る部下の報告を聞き入っていた。
「以上の事から近い内に『墜ちし双翼』が富士山を襲撃する可能性が極めて高いです」
「分かった、なら戦士達を早急に可能なだけ集めろ。不審な人物は決して通すな」
「はい」
その部下から『墜ちし双翼』に付いての詳細な報告を受けてレイは頷くと早く彼へ次なる指示を下しモニターを切ると一人、考えに耽る。
「奴らの目的と意図、分かった以上はこちらも本腰で望まねばなるまい。とは言え相手もまた私達と同じくソウルコアの屈指の使い手、ならば此方も使い手を増やす必要があるな」
そして呟き、腹を括れば己の背後に佇んでいた部下へ先の彼とは違う命令を下す。
「センスのあるルーキーを至急、集めてくれ。どの程度の時間があるか分からないが、限られた時間の中で俺が一端の戦士に育て上げ、戦力として加える」
「分かりました」
すれば端的な命令を了承して彼も踵を返せば、その中枢に取り残されるのは今度こそ彼だけ。
「意思強くもその力に魅入られ取り込まれ、人の道を踏み外した者達と対峙するのは辛い。だがいずれ地球に降り注ぐ未曾有の危機を免れる為にも、ソウルコアをばら撒き『救世主』たる者を見付けねばならない」
そして呟き、その表情こそ顰めるも目深に被っていた帽子をやがて跳ね上げ立ち上がれば、瞳に決意の強い光を宿し歩き出すのだった。
「だからこそ貫かねばなるまい、この信念は。その果てにこそ偽りがないのだから今は疑うよりも己が意思を掲げ、ただ駆け抜けよう。その為にも今度こそ‥‥！」
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ミッション：富士山の噴火を食い止め、日本壊滅を目論む『墜ちし双翼』の意図を打ち砕け！
展開場所：富士山の裾野にて『墜ちし双翼』を迎撃する部隊の一つとして展開、部隊内での各自の行動は独断でない限り自由とするが敵の動きが読めない以上、部隊内で使い手がバランスよく集まっていない限りは部隊を分割しての行動は控えるべき
□ソウルコアに関して
参加PCそれぞれに一つのソウルコアを与えますので、以下をプレイングに記載して下さい。
・名前：大事です
・解放時の形状：自由に決めて構いませんが、人が扱える物に限ります
自律で行動が出来るものや巨大過ぎるもの、複雑な機構で専門の知識がないと扱えない物等に関してはNGです（但し、敵はその限りではありません）
OK例：剣、銃、コート、盾等（古くとも新しくとも時代に問わず存在する（した）物であれば、問題ありません）
NG例：戦車、戦艦、サイズは問わずロボットや使い捨ての火器等
・特殊能力：習得している一般、戦闘スキル等から一つだけを選択し関連付けた上でお好きに記載して下さい
但し内容によってはこちらで補正する事がありますので、極端な設定にならない様に気を付けて下さい
・その他：ソウルコアの扱いに際しては特殊能力にて選択されたスキルに依存し、ペットに関してはそれを関連付けません
□スキル等に関して
一般スキルやCOに関してはそのまま使えますが、魔法に関してはソウルコアの能力として各種精霊魔法を選択しない限り、使えません
但しソウルコアの特殊能力として選択した場合は習得している全ての魔法がAFO本来の能力にて使えるとします
●今回の参加者
ea0029 沖田 光（27歳・♂・志士・人間・ジャパン）ea0340 ルーティ・フィルファニア（20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国）
ea0606 ハンナ・プラトー（30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国）
ea4675 ミカエル・クライム（28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国）
ea7263 シェリル・シンクレア（21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国）
ea8088 ガイエル・サンドゥーラ（31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国）
eb1421 リアナ・レジーネス（28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国）
eb2745 リースフィア・エルスリード（24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国）
eb8467 東雲 八雲（32歳・♂・志士・人間・ジャパン）
ec0180 デモリス・クローゼ（33歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国）
●リプレイ本文
●追撃、富士樹海 〜剣の舞い手とetc〜『墜ちし双翼』が宣戦布告を『天上の輪』へ叩き付けては提示した当日、予告通りに彼らはその大半の力を傾けて富士山への侵攻を開始するとルーキーの一行は訓練を付けてくれたレイ・ヴォルラスと共に迎撃に当たるがその途中、敵本陣と思われる部隊が『天上の輪』の一番に厚い防衛網を突破し富士山頂へ向かったとの情報を得れば、彼らは『墜ちし双翼』を追撃すべく富士の裾野に広がる樹海へと飛び込んで今、一行は全てを狂わせると言う富士の樹海を疾駆する。
「もう少しで樹海は抜けます、後は‥‥」
その先頭、早くも展開した極風の羽衣が名を冠するソウルコア『ハイパボレア・セレスチュアルローブ』の力にて浮遊し辺りを索敵しながら慎重且つ迅速に一行へ進むべき道を示すリアナ・レジーネス（eb1421）は惑わず突き進んでいたが、彼女の言葉がその途中で止まるとそれを機に疾駆していた皆の歩は止まる。
「レイ・ヴォルラス。我らが仇敵、これ以上先には進ません」
それは眼前に立ちはだかる『墜ちし双翼』の中核を成す五人の内、男女二人が一行の行く手を阻んでいたからであり、ツインテールに纏められた銀髪を靡かせ刀を既に抜き放つ女性がそれを一行へ突き付けては厳かに告げるも
「リアに大二郎か、此処で足止めを食っている場合ではないのだがな」
「‥‥皆さんだけでも先に進んで下さい」
「此処はあたし達が引き受けるから」
「分かった、だが生き残れよ」
当の彼はと言えば別段気にした風も見せず呟くとリースフィア・エルスリード（eb2745）とミカエル・クライム（ea4675）の決断を聞けば皆、躊躇いを欠片も見せず散開する中で東雲八雲（eb8467）が出来得る限りの優しさを込め場に残った三人へ一言だけ告げその場より離脱すれば、彼らの追撃を諦めた『墜ちし双翼』の二人は対峙する三人へ漸く向き直るが
「もし良ければその刃、引いて下さいませんか。それとこれより行う事の全ても。もし、この勧告をお聞き届け頂けない場合は、その‥‥多少不作法になりますが後悔して頂く、と言う事になります」
「私はそちらの方が好みだ。それに理由なき停戦は在り得ない、やらねばならぬ事があるからこそ」
「俺達の居場所を作らなければならないから、引けんな」
「どうやら話しても無駄な様ですね‥‥それなら」
彼らへリアナは説得を試みるも、それは早くリアと大二郎に揃い拒絶されればうな垂れる彼女だったがそれを聞いてリースフィアは意を決するとソウルコアの名を連ねた。
「我が魂の輝きを此処に。蒼き魔剣、グラム！」
「体現せよ、あたしの魂。紅蓮の装束、フレア・トラッパー！」
それはミカエルと共に放たれると、次に己が意思を掌握すればソウルコアを握り締めるとそれらを全て叩き込んで未知なる金属の塊が形を変貌させると、三人はそれぞれ抱く意思の形であるそれを携え、再臨する。
その一人がミカエルは紅蓮のドレスを身に纏い靡かせると、『墜ちし双翼』の二人へ指を突き付けて高らかに告げる。
「あたしの蝶絶的な情熱に勝てるかしら？」
「その程度、温い！ 見ろよ、俺のソウルコア‥‥エタニティ・グロリアス！」
だが無論、その程度で怯む筈はなく黙したままのリアを傍目に大二郎は三人に合わせ、激しいポージングの末に己がソウルコアの名を紡げば辺りを閃光が包むもやがて、彼が現れればその姿を見て三人は一斉に固まると当の本人は彼女らの反応に叫ぶ。
「このウェデングドレスの何処が可笑しいんだー！」
『全部』
「‥‥だからこいつと組むのは嫌なんだ」
「むきゃあー！」
「ま、人様の趣味だからとやかく言うつもりはないけど、貴方はあたしが燃やし尽くしてア・ゲ・ル♪」
「それはこっちの台詞だー！」
純白のドレスに身を包んでいたのだから三人が即座に突っ込むのは当然で、あまつさえ身内にすら呆れられれば彼は地団太を踏むがその彼を見て因縁めいたものを感じたのか、ミカエルがゆっくりと紅蓮のドレスに金髪を靡かせ大二郎へ歩み寄れば次に響いた彼の雄叫びと同時、二人は激突する。
「貴方のその刀、銘は？」
「告げる必要はない。告げた時こそ最後故に」
その傍らではリースフィアとリアナの二人を前にしながらも動じず、そよぐ風の中で静かに佇むリアが手にする刀を掲げればそれを見つめる蒼光の騎士が問うも、対する敵はただ憮然とした面持ちを湛えるのみ。
やがて沈黙が場に広がれば、後方にてミカエルと大二郎が激突から爆風を轟かせるも辺りは静かに風が漂う中、彼女らの手近にて立ち尽くすだけの樹の一本がその身を震わせると木の葉を一枚落とし‥‥それが地に落ちると同時、三人は一斉に動き出した。
「雷神よ‥‥今こそその力振るいて眼前の敵、薙ぎ払え！」
「行きますっ！」
「啼けよ、血烏丸」
「‥‥え？」
リアナは後方へ早く下がり、羽衣の力にて電気の帯を掌に集め収束し僅かな間も無く放てば、リースフィアも蒼き剣を振り翳し電光の束を追う様にして駆け出すも先の言葉の割、早くも刀の銘を紡いだリアがそれを掲げれば己が腹部を貫くと、その光景に騎士は目を剥いた。
「油断のならない相手だと理解したからこそ、不意打ちだったが使わせて貰った」
「辺りに莫大なエネルギーを放ち、衝撃波で全てを薙ぎ倒すその特性‥‥異常なまでに強力過ぎますが、そのトリガーが己の体を傷付ける事だなんて無茶苦茶にも程があります」
「死を恐れていては前には進めない、死線の下で切り結ばなければ見えない事もある。ただ、それだけだ」
「そんな命の使い方、本当に正しいのですか？」
「やらねばならぬ事があるからこそ、強くならなければならない‥‥己が身を傷付けても、失っても」
（「同じだ、でも」）
瞬時にリースフィアが展開したグラムの防壁によって二人は難こそ免れたが、それでも無傷では済まず‥‥己が命を削るソウルコアを振るうリアへ風の羽衣を纏う考古学者の卵は呆れるが、彼女は平然とした面持ちで言葉を返すとその彼女を見つめてリースフィアは己の過去を思い出し、自身の命を救ってくれた戦士の事を、その志を思い出すとリアの中に彼を見るが
「でもどうして、歩んでいる道が間違っている事に気付かないんですか！」
「間違っている、だと」
「貴方は世界の一端、その汚い所しかきっと見ていない。それだけしか見ずにどうしてそんなにも短絡的な判断を」
「さて、な。だが今となっては取り戻すに難き事」
それは僅かな間で振り払うと、リースフィアは絶叫して彼女を否定すれば問うリアに対し、リアナも次の激突に備え力を蓄えながら彼女に優しく諭し掛けるが銀髪の剣士はただ肩を竦めるだけ。
「それなら、必ず貴方を此処で止めて見せます！」
「奇遇だな。それは此方とて同じ。だからこそ此処でどちらが正しいか雌雄を決そう！」
その光景を前、悲しげに睫を伏せながらしかし今度こそリアナは決意すると、刀を振り翳した血烏丸の使い手が裂帛と同時に疾く、幾筋も雷撃の束が放てばリースフィアは再びリアと激突し、刃を交わす中で囁く。
「正しい事なんて、きっとない。でも‥‥今を生きている人の先に伸びる道を壊す資格は私達にも、貴方達にもない！」
「詭弁は沢山だ、死ね」
そして最後にはそれを絶叫に変え、間違えようのない事実を突き付けるが堅実にて確実なる剣閃を振るう彼女の動きを読んでリアは僅かに出来た彼女の隙に、己が身へ再び刃を突き立てようとするがそれよりも早く、リースフィアは蒼き刃から閃光を放つ。
「目眩ましかっ」
「今日は死ぬにはいい日です」
「貴様っ！」
「これ位、いいでしょう？ でも、一人じゃないよ」
それは殺傷力のない光だったが、それでも今度は自身に生まれた隙にリアは舌打ちするも直後、自身を羽衣にて背後から縛り上げる極風の使い手へ叫ぶが、彼女はリアの耳元で相変わらずに優しく囁くと唐突に抗う事を止めた彼女に微笑めば、蒼剣を掲げ迫るリースフィアを視界に収めながらリアの頭を一度撫でると同時。
「神をも滅す刃‥‥受けなさいっ、屠龍の剣！」
蒼輝の騎士は一片の惑いすら見せず涙散らし、掲げた剣を振り抜いた。
●
一方その頃、背後より激しい衝撃が轟く中。
「最高、３３３３℃。このドレスを構成するチップを放出してそれを基点に業火を生み出すソウルコア、素敵でしょう？」
「中々やるな、だが俺のドレスも負けちゃいない！」
（「全くと言っていい程、ダメージを受けていない。その特性って」）
『落ちし双翼』が大二郎と激突したミカエルは幾多のチップを放っては辺りを紅蓮に染めていたが、火に煙る視界の中で彼の姿を見止めればその言葉は無視して煤すら付いていない彼のソウルコアの特性を探っていたが
「そんなに知りたいか、ならば教えよう！ 実はこのソウルコア、己が意思を自動で汲んでその時の気分で可変出来る万能な‥‥」
「燃えなさいっ！」
労せずその情報を彼より得るも話の途中で彼女は先よりも多くフレア・トラッパーからチップを放出すればそれを纏め爆裂させ、今度こそ最大出力にて辺りを蝶高温の業火で包む。
「叩ける時に全力で叩く。完全にその特性は分からなかったけど、これで消し炭になったは‥‥ずっ？！」
「残念だったな」
「か、は‥‥っ！」
その、眩しき赤一色の世界に今度こそ蠢く者がいない事を確認してミカエルは踵を返し、未だ戦っているだろう仲間の下へ駆け付けようとするが‥‥腹部へ唐突な激痛が走ればそれと同時、響いた声に彼女は目を剥いて振り返るとそこには十二単に身を包んだ大二郎が確かにおり、自身の油断にミカエルは舌打ちをしようとするもそれよりも先にそのダメージから口より血を吐く。
「さっきの話はまだ途中だ、最後まで聞くんだったな」
「まさか‥‥」
「察しは着いたか？ 超合金を繊維状にして造られているこいつは攻防一体。時には我が身を守る盾に、そして時には眼前の敵を切り裂く刃ともなる」
「ふん、流石‥‥ね。でも『墜ちし双翼』、何があってそこまで歪んだかは聞かないけど力に溺れるなんて所詮は器が小さかったって事よ。そんな奴らに、皆を傷付ける事は絶対にさせないわ！」
すればその光景を前に、満足げな笑みを浮かべて大二郎は彼女を見下しながら真に種明かしをすると、素直に感心するミカエルは目の前にて踊る十二単の各所より湧き出しては踊る刃を見つめながらしかし叫ぶと、腹部に走る痛みには構わず飛び上がれば彼に迫るその間にも十二単の刃によってもたらされる痛みに厭わず、大二郎に掴みかかれば羽交い絞めにすると
「っ！ な、何をするつもりだぁっ！」
「重そうね、それ。動きが鈍いわ‥‥でも、接近戦は得意なんでしょう？ 生憎あたしは苦手だから手加減、出来ないわよ」
「んなっ‥‥止めろぉっ！」
「後は、お願いね‥‥皆」
その自殺行為にも等しき行為と、火事場の馬鹿力を振るう彼女に嫌な予感を覚えた彼は叫ぶが瞬時に大二郎のソウルコアが弱点を見抜いたミカエルはそれだけ耳元で囁くと、嫌な予感を確信に変えて大二郎は叫び、抗うが抱き止めた彼が己の腕から抜け出すより早くミカエルはフレア・トラッパーを構成する全てのチップを周囲にばら撒き、二人を更に縛り上げれば彼女の囁きを合図にその全てを一斉に爆発させた。
●追走、富士山中腹 〜氷と炎〜
後方より爆音と衝撃が幾度も轟く中、一行はしかし駆ける速度を緩めず山頂を目指し岩肌が露出する山道を疾駆していたが、眼前に再び『墜ちし双翼』の面子だろう二人が現れればその歩は止めざるを得なくなる。
「リアと大二郎は抜かれたか‥‥しょうがない奴だ」
「アザゼルにル・リエーもいたか。だが、急いでいるので此処も失礼する」
「そのつもりだと思っていました、ですが此方とて容易く‥‥」
しかし現れた彼らを気にする事無く、レイは嘆息を漏らしたアザゼルにそれだけ告げると身を翻すが、その行く手を阻もうとル・リエーと呼ばれた女性が動こうとするも彼女の腕を掴み制したのは事もあろうか先に嘆息を漏らした青年で、それに際し長い金髪を靡かせて女性は振り返るとその暇を縫って彼らの先へ飛翔したのは四人。
「では遠慮なく、失礼させて貰う」
「絶望への片道切符だと言うに」
「でも、そうと決まった訳ではないでしょう？」
「沙智子様の力を知らないからそんな事が言える‥‥がまぁいい、始めよう。まだるっこしい事は嫌いだ。来い、グレイプニル。そしてフェンリル」
そして最後、飛翔しながらレイはやはり簡潔に『墜ちし双翼』の二人へ別れを告げると彼の背を見送りながらアザゼルはその行為を嘲笑するが彼らと対峙すべく場に残った四人の内、一人である沖田光（ea0029）が穏やかな笑みを湛え言うと彼はその言葉に対し、大仰に肩を竦めしかし次にはその顔から嘲笑を消せば、一介の戦士としてソウルコアを『二つ』展開する。
「二つも、同時にですか」
「出し惜しみはしない。障害となる者を早急に排除するべく、お前達に最大の敬意を払って最大の戦力で臨もう。故にこれが私の持ち得る全ての力だ」
「だが自立稼動するソウルコアなんて聞いた事が‥‥」
「ないだろう。だがそれは目の前にある、これが現実だ。そしてお前達が敗れ去るのも確かな現実」
その光景を前、驚かずにはいられない四人を代表してルーティ・フィルファニア（ea0340）が瞳に厳しい光宿し言えばアザゼルの敬意にはしかし、八雲も動揺を走らせては彼とは別に蠢く狼型のソウルコアを捉え呟くとそれを聞いて尚、断言するのは正しく氷の鎧を纏うアザゼル。
「引いてはくれないですよね〜？」
「勿論です、私は此処にいるのですから‥‥」
「でも、お互いに向き合って話せばきっと」
「無駄話は以上だ、最早会話は不要‥‥お前達はただ、死ぬだけの存在なのだから」
未だアザゼルのみがソウルコアを展開しているだけにも拘らず状況が不利である事を察し‥‥たからではなく、瞳に穏やかな光を宿しているル・リエーを見たからこそとある神社に勤めている巫女のシェリル・シンクレア（ea7263）は慈愛を持って彼女に対話を求めるも、それは程無くして拒絶されればアザゼルは遂にフェンリルを動かす。
「そう簡単にやられはしない。来いっ、ブラックメタル！」
「己が魂の証を此処に‥‥イン・マイ・ジャスティス！」
「それなら必ず、全てを凪いで見せますっ！ シルヴィア」
「おいでませ、全ての楔を解いた自由なる兎‥‥ニュートン・ラビット！」
だが一行もされるがままではなく、それに対応して即座に各々のソウルコアを解放すれば飛び掛って来たフェンリルをルーティが己の周りに展開した淡蒼色の縛鎖にていなし、進むべき方向を変えればその間、三人は一斉にその使い手がアザゼルへ弾丸に疾風に炎を全て集中させ、破壊の雨を降らせるも‥‥濛々と土煙が上がるその中、彼は平然と立ち尽くしており、その光景に八雲は己が目を疑い叫ぶ。
「なっ‥‥全て、弾かれただと！」
「グレイプニル、北欧神話でフェンリルを捕らえたと言うその縛鎖の名を冠した鎧‥‥強度は折り紙付きだが重くて動けないのが難。しかしフェンリルがいればそれもどうと言う事はない」
「それなら」
何が起きたか一行は分からず、だがアザゼルが確かに告げるその中で光は判断早く水晶で構築された煌く長大な斬馬刀を掲げると即座に地を蹴り、未だソウルコアを見せていないル・リエーへ紅蓮の焔を纏いて迫るが直後、光は掌に鈍い衝撃を感じると己の目の前にて自身が纏う炎よりも更に猛々しい赤で塗り固められた焔を見て驚愕するも
「レーヴァテイン、炎の魔剣‥‥その剣より放たれる業火は全てを凪ぎ溶かす。それは世界すら、然り」
それを振るうル・リエーは表情を変えぬまま、光を弾き飛ばせばやがて一行を見下して一言だけ告げる。
「勝ち目はありませんよ、私達が持ち得る物を全て振るうのですから」
「そうかも、知れませんね。しかし、このまま引き下がる訳にも行きません」
「一体、何の為に。世界を救う為と言ったら即刻、灰燼に帰しますが」
手繰る紅蓮を翼に模して纏う彼女へしかし光はすぐに立ち上がれば言葉を返すと、目を丸くするル・リエーが次に響かせた問いにはルーティが先にフェンリルを弾き飛ばした鎖を己の周囲に巻き戻しながら答える。
「うーん。友達が毎日食事出来る世界は大切だからと、そんな気持ちでいいんでしょうか？ たった、それだけの理由ですけどそれなら頑張れる気がしますね。うん」
「たった、それだけの為に」
「たっただからこそ大事なんじゃないですか〜？ 小さいものだからこそ、それは掛け買いのないものであって守らなければいけないんです〜！」
最初こそ惑いながら、しかし大学へ共に通っている友人達の事を思い浮かべながら最後には自己完結して頷くと、その回答に唖然としてル・リエーは呻くが戦場を縦横無尽に疾駆するフェンリルに三対六枚の羽を振るい、何とかあしらいながらシェリルは尚も彼女へ呼び掛けると
「それなら‥‥どうして『あの時』、私を‥‥私達を救ってくれなかったのですか？」
「集中しろっ！ 今は過去を振り返る時じゃあないっ！」
「‥‥ごめんなさい」
静かな絶叫を解き放ったル・リエーが紅蓮の矛を僅かずつ収めて行く様にアザゼルが彼女を叱咤するが、その動揺を見逃さずに八雲は威力が弱まっているからこそ正確にル・リエーが剣を持つ手を弾丸にて打ち抜けば体勢を崩したその彼女の心臓目掛けシェリルが雷撃の槍を放ち、その命を刈り取った。
「もっと話す事が出来れば、きっと分かり合えたと思います。でも今は‥‥ごめんなさい」
「貴様ら‥‥」
「歪んだ意思の力がどんなに強大だろうと、真っ直ぐな心の結晶を打ち砕けはしない。これこそが人の、世界の、未来を信じる力だ！」
「そんな戯言を‥‥フェンリル！」
「確かに、戯言かも知れません。ですが、だからこそ渡しはしない、未来はそれを信じる人々のものだから！」
「っ‥‥！」
そして崩れ落ちる彼女の姿を確かに見つめながら詫びるも、その光景を前にしてアザゼルは憎悪を滾らせシェリルをねめつけるが、感傷の暇すら利用して叫ぶ光は自身に歯噛みしながら‥‥それでも一時の感傷に流されず、確かに守るべき皆の未来の為に再び地を蹴ると氷片撒き散らすフェンリルと衝突して切り伏せれば一気にアザゼルへ迫るもグレイプニルの防衛機構か、唐突に吹雪を周囲へ展開した彼へそれでも光は全身全霊を込め、焔を全身に宿しては吹雪に厭わず焔の翼で得た推進力にて突貫すれば、自身のソウルコアが砕け散る中で完全無欠の鎧に走った一筋の亀裂を見止め、彼は顔を綻ばせ‥‥だが唐突に荒れ狂った吹雪に晒される。
「全力全開、一点集中、最大出力‥‥くらえーっ！」
「もっと話す事が出来ればきっと、もっとお互いの事を分かり合えた筈なのに‥‥」
「く‥‥っそぉー！」
しかしやがてアザゼルを覆っていた吹雪の全てが止めば、その絶対的な隙に八雲とルーティは揃い、自身の全精力を注ぎそれぞれのソウルコアが最大出力をぶつけると‥‥遂に彼を挫く事に成功する、アザゼルの無念の音叉が轟く中で。
「この世界は変えてみせます、この力がなくても。だから今は静かに‥‥眠って下さい」
そして再び沈黙が辺りを包めば、それを鎮めるべくシェリルは初めてその装いに相応しい振る舞いで敵ながらも散った彼らへ言霊を織るが、その視界の片隅に蠢くものを捉え驚く。
「い、いえ‥‥そう言う、訳には行きません。世界が、私達を切り捨てたのだから。ならば、私達から世界を切り捨てようと思ったのに。だから、私が今、出来る事は‥‥この命を賭し、全てを塵芥に」
「まずい、みん‥‥」
その存在、ル・リエーは虫の息ながらその身を起こすと猛々しき焔纏いしレーヴァテインを掲げれば、徐々に膨らんでいくそれが何を引き起こすか察した八雲が叫ぶもそれは最後まで紡がれる事は無かった。
何故なら直後、彼女を中心に白き業火が辺りを広く包んだのだから。
●決着、富士山山頂 〜大仏かよ！〜
同じ刻、山頂へ向かっていた四人は遠目ながらもその中腹にて先よりも大きく地を揺るがす振動を感じていた。
「‥‥富士山が僅かだが鳴動を始めた」
「まさか」
「これ以上、強烈な打撃が加わるとまずい。急ぐぞ」
その振動に今まで揺るがなかったレイが初めて帽子の唾を上げ、山頂を見上げるとその様子にデモリス・クローゼ（ec0180）も背筋に汗を流し、彼が焦る理由を察すれば頷きレイは駆け出すが程無くして彼がその歩みを止めれば、一行の眼前に『墜ちし双翼』最後の一人が佇んでいた。
「漸く、着たわね」
「沙智子、何故待っていた」
「貴方達もいずれ、倒さなければならないからそれならば早い内にと思ってね」
そして開かれた口から一行を待ち侘びていた事を告げると理由を聞くレイに沙智子と呼ばれた彼女は微笑みそれだけ言うと、最早問答無用と言った様相にて己がソウルコアを握るが
「共に戦う物を呼べよ、ソウルコア！ 高らかに我、連ねるその名は‥‥デッドタイムレンズ！」
それよりも早くソウルコアを展開したのはデモリスだったがしかし、名を連ねた割に目立った変化は見られず、暫し場に居合わせる皆は彼女を伺う事と
「地味だね、その眼鏡」
「余計なお世話だわっ」
「もしかしてその眼鏡からビームが出るのか？」
「出ないわよっ！！」
漸くハンナ・プラトー（ea0606）がその変化に気付けばデモリス自身、気にしているからこそ身内だろうと憤慨するが尚もレイがその後に続けば彼女はいよいよ持っていきり立つ。
「‥‥あんたら見てるとむしゃくしゃしてくるわ。そんな漫才を見に来た訳でも聞きに来た訳でもなく、私は全てを抹消する為に此処にいるっ！ だから‥‥」
も逆にその光景を前にした沙智子は別な意味でデモリス同様に怒ると彼女は突っ込みを待つ事なく、掌に握り締めたそのソウルコアの名を富士山頂にて木霊させた。
「来なさいっ、私のソウルコア‥‥メガトン・ダイブツ！」
「ネーミングセンスが甚だしく欠落してるな」
『うっさい！！！』
すれば直後、おかしなまでに膨れ上がった金属体が沙智子を飲み込み、やがて形を成せば現れた巨大な大仏を前にその内部よりそのソウルコアの名を告げる彼女だったが‥‥程無くして黒きスーツを確かに着こなしているガイエル・サンドゥーラ（ea8088）に突っ込まれれば、しかし負けじと返しながら沙智子はその巨大な大仏の腕を大地へ埋め込む。
『造形美溢れたこの大仏‥‥パワーでは他の追随を許さないこの力を前にしても、その減らず口が叩ける？』
『パワーはさて置き、その造形美にはいささか疑問が』
『だから揃って言うなぁーっ！』
すぐに陥没する大地より拳を引き抜き、凶悪な威力を前に唖然とする一行へ沙智子は高らかに告げるが‥‥再び皆から突っ込みを貰う憂き目に遭えば、確かにその表情が何処となく歪んでいる大仏はやはり烈火の如く怒ると今度こそ巨大な拳を大地にいる一行目掛け叩き付ける！
「イージス・フェイト」
『な‥‥そんなちっぽけな鏡一枚で？！』
「この宿命の盾は絶対防壁、如何な攻撃だろうと全て受け止めてみせる」
だがその時、凛と響いた声と同時にガイエルがソウルコアを解放すれば、一行を襲わんとした拳を鏡一枚‥‥正確には鏡から発せられる光により構築された障壁で阻むと、驚く沙智子にガイエルは厳かに断言するが
『許せない‥‥許せない許せない許せないーっ！ そんなのは絶対に許せないんだからっ！』
「くぅ‥‥っ」
『『絶対』なんてものは‥‥『絶対』なんてものはないんだから、私はそれを許さなーいっ！』
「一体何があったかは知らないがそれでも、負ける訳には行かないっ！」
突如、何を起因にしてか大仏の乗り手が猛烈に怒ると眼前に展開される障壁に構う事無く拳を打ち据えれば、その連打を前に障壁越しとは言え緩和し切れない衝撃に呻くガイエルは次に響いた沙智子の絶叫を聞き、その経緯こそ気に留めず益々己の意思を高めるべく言霊を吐き出せば尚、障壁を硬く展開して彼女の猛攻を阻むと
「その通りだ。そしてお前の価値観を押し付けられても困るからこそ、旧友として今のお前の凶行は止めねばなるまい‥‥故に全力で応えよう。ソウルコア、シルバーs」
「あ、それはまずいよ」
「そうか。ならば絶対火力、ハウリングガンナー！」
レイも同意するといよいよ皮のコートを靡かせて、己がソウルコアを握りその名を告げ‥‥ようとするも何故かハンナから窘められれば彼は握ったそれを止むを得ず手放し、別のソウルコアを握り具現化する。
『‥‥で？』
「足止めや視界を奪う程度の役には立つ」
『それしきの火力、怯むまでもない！』
それは果たして銃器で、だが拳銃はおろかライフルやバズーカにあまつさえミサイルランチャー等、尋常ならざる数の銃器をそのコートより覗かせれば彼は一斉にトリガーを引き数多の弾丸を解き放つも圧倒的なサイズを誇る大仏の前には無力で、沙智子はいよいよ持って一行を潰さんとその大仏を手繰り始める。
四人を滅殺せんと腕部を、脚部を振るい、時には倒れ込んでまで。
『‥‥何で全部防がれるのよ！』
「自身の未来を五秒先まで、垣間見る事が出来る‥‥動きが鈍くて助かったわ」
『その地味な眼鏡かぁーっ！』
「だから地味って言うなー！」
しかしそれは悉く一行に避けられ、ガイエルの障壁に阻まれれば決して単調ではない攻撃が避けられている事態に彼女が切れるも、その理由を満面の笑みを湛えたデモリスより告げられればいよいよ持って憤慨する沙智子に負けじ、切れる眼鏡の使い手だったが
「来いっ、クリムゾン・オース！」
『はっ、そんなギターで一体何をするつもり？』
「お楽しみに！」
『残念‥‥その前に皆、私がペシャンコにするんだからーっ！』
その暇、漸くハンナがソウルコアを解放すると彼女の腕に現れた真紅のギターを見つめ、嘲笑う沙智子はしかし今更にその能力を公言しない彼女を尚嘲れば両手を組んではガイエルが未だ展開する障壁ごと、一行を叩き潰さんと振り下ろす！
「いかん、そろそろ臨界が近い。だが打つ手も‥‥」
「よっし、分かった！」
その強烈な衝撃を前、確かに防いでこそいるガイエルだったがその足元より伝わってくる振動が先程のそれよりも着実に強くなっている事を察すれば、嫌な予感はいよいよ確信へと変わるがその時に響いたハンナの声を聞けば一行は漸く、決着が着けられるだろう事に安堵してその表情を緩ませる。
『何がよ？』
「その大仏が持つ固有振動‥‥このソウルコア、クリムゾン・オースは対象の固有振動を割り出す事が出来て、この弦を弾いては曲を奏でる事で対象の分子レベルに干渉、振動させるんだっ！」
『だから？』
「私は、その大仏を破壊する！」
するとその表情が癪に障った切れっぱなしの沙智子は叫びながら休む事無く豪腕を振るうもガイエルが展開する障壁越しに自身のソウルコアが能力を明示するハンナは意外に頭の回転が鈍い沙智子へこれより起こる事を高らかに宣言する。
「‥‥あれ？」
「どうした」
「うん、失敗したみたい」
『は‥‥はははっ！ それじゃあこの勝負‥‥見えたわね、その結界もどうやら永久には持たない様だし、今度こそ打ち砕いて見せるわ！』
「いいえ、それは無理よ。見えてるから、確定している未来が私の目に。そして‥‥私が見る未来に貴女はいないわ、だからさよなら？」
しかしハンナが提示した未来は起きず、両腕を交差させ身を縮こまらせる大仏の前で激しい曲を奏でるだけの彼女はすぐに間抜けな声を上げると問うレイへ簡潔にその答えを返せば、気が抜けた沙智子は高笑いを上げると地を蹴っては蒼き空へ大仏を飛翔させる。
落下時に掛かる重力を大仏の腕部に上乗せし、先の宣言通りにガイエルの結界を打ち砕く為に‥‥だが己を叩き潰さんと高みの空より降って来た大仏にデモリスは怯える事無く言い放つと彼女に言葉を紡がせる時間与えず、沙智子が最後に聞く筈の言葉を己の口から放てば直後。
『なっ、何？！』
「しょうがないから、この辺りの地盤に破壊の旋律を打ち込んだよ。この位置での崩落が何を意味するかは、分かるよね？」
『お、おのれぇっ！』
地に降り立った大仏はやはりガイエルの障壁を砕く事出来ず、それ所か降り立った場所が突如として崩落するとその下に覗くマグマを見つめ叫べば一緒になって落下するハンナの口からその理由を聞くなり絶叫するも、その質量故に彼女より先にマグマの赤へ落ち、やがて燃え尽きればハンナは複雑な笑みを湛えその後を追うが
「残念でした、っと‥‥え？」
その彼女目掛け、大地よりロープを放ったデモリスは即座に眼鏡のソウルコアに秘された心の力を解き放つと僅かな未来だけ、己の好きに改変すれば到底無理だと思われたハンナの救出を果たすと安堵から笑顔を湛え、しかしその僅か先に待っていた未来までは改変出する余力なく、程無くして四人が立つ地盤も崩れれば‥‥。
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一日もの長きに渡り、富士山を中心とした『天上の輪』と『墜ちし双翼』の戦いはやがてその幕を引く‥‥双方共に頭を失う、痛み分けと言う形で。
また生死不明の者や死亡した者も決して少なくなく‥‥だがやはりこの話も世間一般にはその真相が知られないまま、人々はあるがままの日常を貪る。
果たして『天上の輪』が正しかったのか、『墜ちし双翼』が正しかったのかは未だ分からないままだったがそれでも『平和』は守られた。
〜Fin〜
