●リプレイ本文
●展開
ビュリクス惑星連合軍は、ジルコフによる連合内への侵攻の一報を受けながらも、予定位置で艦隊の展開をはじめ、惑星ダウレリック挟撃作戦を敢行しようとしていた。
ここで、各艦隊と提督の紹介をしたい。
後方支援方面軍指揮官ユイス・アーヴァイン(ea3179)大佐率いるユイス艦隊。旗艦シャーテンシュナイダーは、影の仕立て屋の意味を持つ電子戦術艦である。また、シャーテンシュナイダーには、その容姿と性格からビュリクス惑星連合軍内で高い人気を持つティファ・フィリス(eb0265)がオペレーターとして同乗している。
エリス・ローエル(ea3468)率いるエリス艦隊は、重装甲艦を擁する鉄壁の艦隊である。また、旗艦ヴァルハラの火力は凄まじく、特に近接時のレーザーによる掃射攻撃は数ある宇宙戦艦の中でも、最高の破壊力を持っているとされる。
独立した権限を持つ遊撃軍である神城艦隊は、神城降魔(ea0945)が指揮を執っている。ジャミング用の艦を持ち、敵通信を混乱させてからの攻撃を得意としている。旗艦名はヴェルフェウスと呼ばれているが、実際はヴェルフェウスという小艦隊の中の一隻が旗艦である。
ゲレイ艦隊を率いるゲレイ・メージ(ea6177)中佐は、先に紹介したユイス大佐と同じ惑星の出であり、二人の気の合った連携は、ジルコフ国にも脅威とされている。ゲレイ艦隊最大の特徴は、ミサイル搭載艦を多く擁する点にあり、敵拠点への攻撃を得意とする。
各艦隊は200隻の戦艦を擁し、以上4提督800隻に、更に他の提督達が率いる800隻をくわえた1600隻がビュリクス惑星連合軍の全容である。
ビュリクス惑星連合軍の展開を確認したジルコフ軍は、第一陣を宇宙要塞の射程圏外である防衛ラインに並べ、ビュリクス惑星連合軍各艦隊も敵防衛ラインに到達、戦闘はすぐにはじまった。
●防衛ライン戦
小競り合いから戦線は徐々に拡大していく。その最中、ユイス大佐はオペレーターのティファからの言葉を待っていた。
ビュリクス惑星連合内では、彼は、この戦いの総指揮官という扱いになっている。
「ユイス大佐‥‥駄目です‥‥。レーダーに友軍の姿は確認出来ましたが‥‥動く様子がありません」
ティファは、気弱になりながらも、一生懸命声を絞り出した。ダウレリック挟撃作戦は、アストン惑星連合軍との共同作戦である。友軍である彼等が動いてくれなければ困るのだ。
「ビュリクス本土が攻撃を受けるのは、あちらも上層部も予想してなかったですしね‥‥。やはり、こちらが隙を作ってあげなければなりません。‥‥電子戦術艦、用意出来てますか?」
「‥‥はい‥‥。あの、たぶん、皆さん平気だと思います‥‥。大丈夫です」
冷静に友軍のユイスののんびりとした表情は、次の言葉を出す瞬間に、引き締まり、凛とした命令がシャーテンシュナイダーを通じて、各艦隊に報された。
「データベースアクセス。全艦データリンク開始。パッシブソナー、アクティブレーダー策敵範囲、出力共に最大。ESM、ECM、ECCM全起動!」
モニターに、膨大な数の情報が流れる。
「全艦データリンク確認‥‥敵艦、こちらのデータにない特殊暗号を使っています。解析中‥‥敵艦に障害を起こすには、まだ時間はかかります‥‥敵艦隊の秘密通信をキャッチ‥‥。あの、どうやら‥‥100隻ほどの潜行艦を隕石群に隠れさせている様です‥‥」
「こちらの方がこの点では上手のようですね‥‥神城艦隊に隕石群に対する長距離砲撃を要請してください」
神城艦隊はその一報を受け、小競り合いの場から一時後退、隕石群に対して艦首を向け、砲撃をはじめた。
「ヴェルフェウス、パンツァー?から?、撃てぇーッ!」
モニター越しに敵艦の爆発が見てとれる。しかし、隕石群に隠れているため、命中精度はさほど高くない。
(「隕石群に隠れていては、直撃は難しいか‥‥ならば」)
「シュナイダー?〜?、前進せよ‥‥敵の退路を断て。無駄に交戦はせず、降伏を呼びかけろ」
神城艦隊は、高速艦で出てきた敵潜行艦を叩き、見事拿捕した。
「油断はするなよ。今の内に、敵艦の情報をユイス大佐に送れ」
通常の艦隊戦は、エリス艦隊と他の4艦隊の計1000艦が、ジルコフ軍の1400隻程度の艦隊と行っている。
「正義はわたくしたちに有りですよ。さあ、皆さん、行きましょう」
開戦前に、皆を元気付けたエリスであったが、一進一退の攻防になっていた。たまに漏れてくる破壊音と気味の悪い悲鳴が、彼女の耳に入る。
しかし、彼女の作戦は一進一退の攻防の隙を突く。
「掛かりましたね‥‥では、本当の作戦を始めましょう」
敵が突出したところに、下方に潜ませていた潜行艦80隻からミサイルを発射し、ついに分断に成功する。
勝機と見たエリスは、旗艦ヴァルハラを自軍に取り残されたジルコフ軍に急速接近させる。
「全艦ヴァルハラから離れてください。エンジン一時停止‥‥全方位レーザー用意‥‥一斉掃射ッ!」
ジルコフ軍が閃光に目をつぶった瞬間に、全ては終わっていた。
無数のレーザーがヴァルハラから発せられ、敵艦を切り裂さいた。その直後にヴァルハラを衝撃が襲った。もちろん、多くの敵艦を葬った衝撃だ。
「シールドはもちましたか? ‥‥よし、いけますね」
衝撃を耐えながら、状況を確認したエリスは、浮き足だった敵艦隊に打撃をくわえるべく、自らの艦隊に再度の前進を命じた。
また、ゲレイ中佐はシャーテンシュナイダーのオペレーターであるティファから
「あの‥‥もうすぐ敵艦隊の暗号が解析出来ます‥‥でも、相手もお間抜けさんじゃないですし、敵の動きを止められるとしても一瞬でしょうから‥‥急いでくれるとうれしいなぁ‥‥」
との伝令を受けていた。
「了解した。‥‥新兵器が使える」
ゲレイ中佐は、フッと笑い、更に笑い続けた。彼は、一種の兵器オタクである。
ミサイルに特化したゲレイ艦隊は、拠点破壊に優れる新しいタイプの宇宙戦艦の集まりである。また、ミサイルの威力も、それに特化した事により、通常の艦隊と比べものにならないほどの威力を持っている。
「我々は宇宙要塞に特攻する。総員、覚悟をしておけ‥‥大仕事になるぞ‥‥急速前進ッ!」
ゲレイ艦隊は、エンジンの熱量を増し、宇宙要塞を目指した。
危険な任務を引き受けるゲレイ中佐の覚悟は、皆承知しているようで、彼に敬礼をする将校の姿がモニターの各所に映っていた。
●宇宙要塞戦
ユイス艦隊が擁する電子戦術艦隊による暗号解析終了の報が入ったのは、それからすぐの事だった。
「各提督へ伝えます‥‥暗号の解析が終わりました。これから、ゲレイ艦隊が敵宇宙要塞に攻撃をするので‥‥あの、手伝ってあげてください‥‥シャーテンシュナイダーが敵艦隊の動きを止めますね」
ティファの気弱な応援を微笑みながら、ユイス大佐は敵軍のお粗末さを
「ガムシャラに撃っているだけで、戦いは出来ませんよ」
と言ってクスリと笑った。
すでにシャーテンシュナイダーは敵艦隊の動きを止める作業に入っている。
「敵艦隊の行動停止を確認したら、ゲレイ艦隊の突破口を作ります‥‥敵防衛ラインで展開する艦隊に道を開けるように言ってください。‥‥重砲師団各艦、長距離砲撃用意‥‥」
ジルコフ軍も、エリス艦隊の左右への展開をおかしく思っていた。
しかし、動きがとれない。
「‥‥エンジンの稼働率が下がっています!」
「敵電子戦術艦からアクセス多数! 動きがとれません!」
敵艦隊のオペレーターの叫びが、次々とティファの耳に伝わってきた。
「敵戦艦の行動停止を確認‥‥あ、あのぉ、皆さん、一斉攻撃ですよぉ‥‥」
なんだか焦ってるのか、恥ずかしいのかわからないティファの後ろからユイスが大声をあげる。
「撃てぇーっ!」
ユイス艦隊の砲撃がはじまり、一時的に混乱を来たした敵防衛ライン中央に、各艦の火力を集中させた。前線に立って消耗したエリス艦隊であったが、重装甲艦を用意していただけあって、まだ動ける。果敢に攻撃を続け、穴を大きくしていった。
「主砲用意‥‥発射ーッ! 次弾装填してください‥‥まだまだいきますよ」
旗艦ヴァルハラの武器は近接レーザーだけではない。2門の主砲を使って、次々と敵艦を撃沈していく。
その横を、ゲレイ艦隊の旗艦が擦り抜けていった。
モニターでお互いの顔を見ながら、両者は敬礼をする。あとは、ゲレイ艦隊が無事ミサイルを着弾させられるかだ。
「ビュリクス惑星連合のために死して報いよ」
また、予備戦力として宇宙要塞に待機していたジルコフ軍500隻を抑えるため、神城艦隊がイクスと呼ばれる電波撹乱艦20隻でジャミングをかけながら、高速艦隊シュナイダー80隻を宇宙要塞から出てくる敵援軍に突撃させた。
「パンツァー全隊、ヴェルフェウス、撃ちまくれっ! 敵をゲレイ艦隊に近付けるな」
急速に近付かせた後、後方からパンツァー各隊とヴェルフェウス隊の長距離攻撃をする。
素早く近付かせた事から、宇宙要塞からの攻撃はほとんど受けなかったが、多勢に無勢すぐに反撃を受け、高速艦が撃沈されていく。だが、時間稼ぎにはなった。
(「よし、出来るだけの事はやった‥‥あとは、ゲレイ中佐に任せる」)
ゲレイ艦隊も急速前進しているとはいえ、宇宙要塞の射程に入った途端、砲撃を受ける。1隻、2隻、と撃沈されるが‥‥突然、姿をかき消した。
「ワープだと‥‥逃げたのか?」
宇宙要塞のオペレーターが急いで位置を確認する。
「‥‥敵の位置を特定‥‥ち、近いッ! 砲撃を集中させろッ!」
出現と同時に集中砲火を受けるゲレイ艦隊であったが、怯む様子はない。
「全ミサイル発射、全て撃ち尽くせッ!」
ゲレイ艦隊は一斉にミサイルを発射した。
砲撃とミサイルが重なり、大規模な爆発が各所で起こる。視界がなくなったところ、ゲレイ艦隊の旗艦が直撃を受けた。艦が大きく揺れ、皆床に倒れ込む。
「くっ、やってくれたな‥‥ジルコフの諸君」
ゲレイ中佐は、国に殉じて死のうなどとは考えず、乗り組み員の退艦を命じた。
「総員退避したまえ。私は死ぬつもりも、諸君を無駄死にさせるつもりもないぞ」
ゲレイは乗組員に退艦を命じた後、旗艦の軌道を敵宇宙要塞に向け、炎上する旗艦を後にした。
絶え間ない爆発が、宇宙要塞の一部に生じていた。
ゲレイの旗艦が吸い込まれるように落ちていくと‥‥大爆発が起きた。
ティファの耳につんざく様な音が聞こえ、びくっと肩を震わした。
「宇宙要塞に多数のミサイルの着弾を確認・・・・。要塞内での破壊音も確認しました・・・・おそらく、機能の半分程度はしばらく動けないと思います。ゲレイ艦隊の壊滅を確認、エリス艦隊と神城艦隊共に損害多数、その他の艦隊も‥‥損害は少なくありません。‥‥あっ‥‥アストン惑星連合が動き出しました! どうやら、宇宙要塞へのミサイル攻撃の成功に動かされたみたい」
「決着を付けましょう。重装甲艦を前に出して、なんとか戦線を維持してみます。神城提督も手伝っていただけますか?」
「了解した。‥‥パンツァー各隊、牽制しろ。エリス艦隊に近付かせるな」
エリス艦隊と神城艦隊が敵を抑えてる間に合流を果たし、アストン惑星連合軍の攻撃を待った。
「よし、全艦隊、前に出ましょう。‥‥ここを維持出来れば、こちらの勝ちです」
ユイスはそう言うと、いきなりティファが立ちあがった。
「皆さん‥‥この調子で頑張ってくださいね、もうすぐ援軍が来てくれますから。‥‥こんなことでしか応援できないのですけれど‥‥」
と言って、歌い出すティファ。各艦のモニターに、彼女の映像が入る。なぜか露出が多かったり、ミニスカだったりしている。
歌っている間の彼女は顔を赤くしているものの、おどおどとしていなくて、ノリノリに見えた。
ずっと信じてた あなたが迎えに来てくれると
淡い月明かりに 震えるように祈りながら
寂しさに負けそうな夜は 大好きな歌を聞いて
決して離さないでいて 遠い宇宙の果てまで
私 挫けずに 待ち続けた あなただけを
この歌は、旗艦を退避し、救命ポッドに乗っていたゲレイにも聞こえていた。
映像を見てみると、ティファが投げキッスをしている。それを見て彼はフッと笑った。
「やれやれ‥‥天使に微笑まれたんじゃ、死ねるわけもないよな」
ゲレイは高熱で一部を赤くした宇宙要塞と映像を交互に見ながら、そう思った。
同じような状況にある者達も、きっと同じような事を思っただろう。
アストン惑星連合軍が戦線にくわわった事により、挟撃を受けた宇宙要塞は弾幕を張りきれず、要塞内に両惑星連合兵の侵入を許す事となった。そして、ビュリクス惑星連合軍ユイス大佐のシャーテンシュナイダーからの降伏勧告に応じ、この戦いは集結を見たのである。
●その後
新暦400年になったこの日、ダウレリック挟撃作戦を成功させたビュリクス惑星連合とアストン惑星連合は正式に同盟を結び、その名前を宇宙同盟と名付けた。その後に、惑星テアノンに侵攻していたジルコフ軍を見事撃破。
続けざまの敗戦に、ジルコフ国は宇宙同盟に不可侵協定を打診。宇宙同盟もそれを受け、宇宙に穏やかな時間が戻った。
その協定の場に、ビュリクス惑星連合軍の提督達の姿があった。
ユリス、神城、エリス。そして、ゲレイである。
また、ティファはあの一件の後、オペレーターからアイドルに転身し、今や宇宙一の人気者となっていた。
宇宙の趨勢が、これからどうなるかはわからない。
最後に、彼等は協定の場でこう語り合った。
「宇宙に、幸あらん事を」
グラスの触れ合う音が、宇宙に散った者達のための鎮魂歌の様に、何時までも響いていた。