偽/真・退魔戦記〜京三郎の面
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート
担当:立川司郎
対応レベル:フリー
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年04月14日
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●オープニング
“京三郎? ああ、殺された人でしょ、歌舞伎役者の。え、違う?”
“能楽師の東条京三郎ね。たしか5年くらい前に、西欧公演中に殺されたってワイドショーで騒いでたわね。結局犯人、捕まって無いんだっけ。お婆ちゃんがファンだったわ”
“ネットの怪談サイトで聞いたんだけどさ、京三郎の持ってた遺品‥‥呪われてるってさ。やっぱり、殺した犯人とか自分の持ち物勝手に持って行かれた事、怒ってるのかな”
“遺品? 呪われてるって噂だし、ネットオークションでスゴイ値段がついてるよ。まあ、元々京三郎って映画に出てたりして、人気があったしね。今でもコアなファンが居るんじゃないの?”
懐中電灯だけが照らすほの暗いモニター画面を、女性はじっと見つめていた。声も出さず、先ほどから何かを打っている。長い髪を後ろで一つに結んでおり、すっきりとしたシルエットのスーツを身につけている。
その女性の側で懐中電灯を持ってのぞき込んでいるのも、また同じ年頃の女性だった。彼女は、もう少しカジュアルな格好をしており、パンツスタイルにジャケットを羽織っている。彼女は静かに顔を上げ、見上げた。
古びた校舎の上に、あおい月が出ている。月は静かに見下ろしている。
「‥‥あやね、出来た?」
「うん。‥‥えっと‥‥退魔官の地元スレと、一般術師板のスレと、それからオカルト板に落としておいた」
「それ‥‥野次馬が沢山来ないの?」
パンツスタイルの女性があやね、と呼ばれた女性に聞く。
「大丈夫じゃないの、退魔官スレは別件で祭状態だから、流れてると思う。術師の方はネタスレだし、オカルト板のスレの場合、遊びに来たりする人は居ないと思うよ霧子」
「そうね。‥‥本当に妖魔が出たらたまらないもの。でも、誰も来ないのも困るわ」
懐中電灯を持っていた女性、霧子が頷く。あやね、霧子、そして‥‥七海。
七海、今‥‥まだここに居るの? 今は使われていない旧校舎に、まだ一人で居るの?
霧子が、旧校舎のドアに手をかける。しかしドアは、鍵が掛けられているわけでもないのに、ガタガタと音をたてるばかりで開かなかった。
「いつまでここに居るつもりなの、七海‥‥」
霧子は小さな声で呟いた。
無記名:××.××.××−
明日の夜、××の近くにある高校の旧校舎で待っています。
助けてくれる人、来てください。
旧校舎に、死んだ友達の幽霊が出るんです。でも妖魔じゃないと思います。
彼女、もう6年も旧校舎を閉鎖して閉じこもっています。
助けてください。
ある高校に通っていた七海という少女が死んだ次の日から、校舎の全ての扉と窓は開かなくなっていた。彼女の心が閉ざされた時から、校舎も開かなくなっていた。何か特別な力が関係しているのかもしれない、と学校側はS.M.A.P.に調査を申し出たが、魔の刻により妖魔の活動が活発化している現在、彼らにささいな事件の調査をしている余裕は無かった。
それから6年、いまだ校舎は閉ざされたまま‥‥その隣の敷地には、何事もなかったかのように新しい学舎が建っていた。
あやねの腕の中には、青くきらめく着物が掛けられている。とても丁寧に扱われてきたのであろう、着物は傷一つ見あたらない。
「‥‥七海、持ってきたよ。七海が大好きだった京三郎の着物。‥‥七海、出ておいで。一緒に話そうよ。一緒に踊ってみようよ‥‥七海」
七海が大好きだった、京三郎の遺品。霧子とあやねが給料を出し合って、オークションで落札した、あの京三郎の遺品だ。彼女達の所得では、この水衣を手に入れるだけで精一杯だった。
何も望まない。ただ、七海が出てきてくれたら‥‥そして七海が、ちゃんと成仏出来たら。妖魔に利用されたり、理性を失って人を傷つけたりしてしまわないうちに、お願いだから成仏して。
誰か、彼女の天の岩戸を開けてあげて‥‥。
●リプレイ本文
ゆらり、と影のような曖昧な形のモノが窓の向こうで揺れる。
時折、影は奥に消え、そしてまた違う所に現れる。目的もなく、たださまよい続けていた。それは、確かにヒトではないもの。
軽く風にたなびく袖を口元にやり、すうっと少女は目を細めた。まるで夕焼けの長い影のように、白い衣装に黒髪が流れる。
「ヒトの噂など、根も葉もないものだと思っておれば‥‥」
ソレが、ゆっくりとこちらに顔を向ける。気づいたのか? いや‥‥。気づくはずはない。まだ、彼女が自分の姿を捕らえるには‥‥長い年月が必要であるはずだから。
「ほんに強い結界じゃ。されど‥‥まだ稚児じゃな」
だからこそ、手に入れる価値がある。彼女は楽しそうに笑った。が、すぐにそれをかき消す。彼女が立った、校舎を見下ろす建物の真下‥‥。学校の敷地内へと向かう4つの姿があった。
ふいと手を口元から下ろし、彼女はすうっと闇にかき消えた。
長髪にスーツ姿の女性があやね。そして、いつものようにパンツスタイルの女性が霧子。イルニアス・エルトファーム(ea1625)は、言葉少なにそう紹介した。
彼女に会うのは、何年ぶりだろうか。イルニアスの記憶にあるのは、日本の公的退魔組織であるS.M.A.P.に興味を抱いたイルニアスが留学した、この学校でのクラスメイト‥‥霧子とあやね。そして、七海。
七海の事は、あまり記憶に残っていない。留学して1年目の事であったから、彼は日本人の同級生の顔を覚えるだけで精一杯だった。
「退魔官になったんだ‥‥その為に来たんだものね」
なつかしそうに霧子が話す。あやねは、無言でイルニアスを見つめていた。視線が、背後に立っている3人に向けられた。イルニアスの話によれば、彼らは退魔官の仲間であるらしい。
涼しげな顔立ちで、白い袴と紺色の小袖を着た青年が紫上久遠(ea2841)。紫上は先ほどからずっと、本に目を通している。一方、その横でラジカセを持って立っている女性は、天藤月乃(ea5011)。月乃は、もう一人のプラチナヘアの青年メディクス・ディエクエス(ea4820)と1つしか年は違わない。しかし月乃は落ち着いた様子で、対してメディクスは気楽な表情で霧子達に手を差し出した。
「これは綺麗なお姉さま方、俺は無口な上司に困らされている新人退魔官のメディクスと言います。どうぞよろしく」
霧子は、眉を寄せてメディクスを見る。それから、意見を求めるようにイルニアスと視線をかわした。いつもの事なので、イルニアスは気にする様子がない。
「イルニアス、ここの霊を成仏させたいと言ったのはあなたでしょう? だったら、さっさとあなたに仕切ってもらおうかしら」
月乃のクールな一言に、イルニアスは振り返った。月乃は重そうにラジカセを下に置くと、肩に手をやった。
「妖魔が来たら、本部に連絡しなきゃならなくなるわよ」
面倒そうに月乃が言う。でも、誰も妖気感知が使えないんじゃ妖魔が来ても分からないだろうけど、と月乃が付け加えた。
この校舎が閉じられて、6年。イルニアスの記憶では、新校舎が建てられたのは七海によって校舎が閉じられた後、5年前からだった。その間、元々旧校舎で授業を受けていたイルニアス達は、プレハブの借校舎に住まいを移す事となった。
メディクスは校舎を見上げ、扉に手を掛けて力を込める。やはり、そのドアは開く事が無い。本を読んでいた紫上が、視線を上げた。
「その結界は通常のものとは違う。普通、封印結界はこういった媒体に閉じこめるものだ。封じられた霊体は外を感知出来なくなる」
と、紫上がS.M.A.P.の印の入った封印媒体の金属板を見せた。この結界は外と中を遮断するが、外の事を中のものが把握出来、中の七海の霊を外に居る者も確認出来ているようだった。通常術師が使う結界とは、明らかに違う。
「七海は、こちら側の出来事を把握している。だったら、こちらから働きかけて外に出す事も可能じゃないか」
静かな口調でイルニアスが言うと、霧子がイルニアスの腕を掴んだ。
「お願いね。最後の頼みの綱なの‥‥」
「こんな綺麗なお姉さんの頼みとあらば、放っておけないねぇ‥‥」
「メディクス、お前うるさすぎ」
びしゃりと紫上に言われた。
気配がする。校舎を挟んだ向こうに人の気配があるのは、分かっていた。音もなく静かに校舎に迫った深紅の影に、小さな青白い光がまとわりつく。
ちら、と深紅の影は視線を落とした。
「退魔師か」
「退魔師が四、人間が二。‥‥それから‥‥」
小声で何かを呟く。それを聞き、少しだけ表情を変える。
ほんの些細な興味だった。そう、ほんの“少し前”の記憶に繋がる情報が、たまたま耳に入った‥‥。人間の住処をさまよううちに、小さな青白い光がそれをかぎつけてきた。
「‥‥アレクシアス様、興味対象を絞りなさいませ。アレは使えますが、もう一つは相当手こずります。あれは‥‥」
「分かっている」
アレクシアス・フェザント(ea1565)は、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)の声を遮って制止し、校舎に視線を向けた。ゆっくりと‥‥影が通過する。興味が無いのか、こちらを見向きもしない。
コレが‥‥もしあの記憶に繋がるならば‥‥。
アレクシアスは、小さくディアッカの名前を呼んだ。それが合図。ディアッカは、その影‥‥七海の前に、ある幻を作り上げた。それは、アレクシアスの記憶を忠実に再現した、ある姿であった。
七海の視線がこちらに向けられる。
やがて、その表情が凍り付いた。
まるで、それが眼前で行われているかのような、取り乱しようだった。あの人、目の前の赤い髪をした‥‥人では無いモノ‥‥そして‥‥。
甲高い悲鳴が木霊した。
少女の悲鳴。アレクシアスの視線は、それとは別の所に向けられていた。身動き一つせずに立ちすくむ、一つの黒髪の少年がそこにある。
ディアッカは視線を校舎の角に向ける。
「だから、連中の退散を待とうとお願いしたはずですが‥‥」
りん、とディアッカの服に付けられた鈴が鳴る。音とともに、ディアッカはその姿を消した。アレクシアスは視線を返し、駆けつけた退魔官に向ける。
イルニアスが詠唱を唱える‥‥と、同時にアレクシアスはふいと姿を眩ませた。イルニアスの後ろに続いていたメディクスが足を止め、アレクシアスの姿を探す。
その視線に止まったのは、やはり‥‥黒髪の少年だった。イルニアスが黙ってメディクスを見ると、メディクスは眉を寄せて厳しい表情を取った。
彼がこんな顔をするのは、イルニアスも初めて見る。
「‥‥ユーディ、なんでここに居る」
ユーディクス・ディエクエス(ea4822)は、まだ恐怖から覚めないのか足を止めたままである。
「これは遊びじゃない。‥‥邪魔をするな」
メディクスは強い口調でユーディに言うと、背中を向けた。メディクス、そしてちらりとユーディの様子を見て、イルニアスも続く。向こうには霧子とあやねを残してきている、月乃と紫上だけにはしておけない。
一人取り残されると、ユーディはようやく足を進めた。校舎の窓に目を向ける。そこに映る、自分の影‥‥。
何故かは分からないが、まだすぐ近くに‥‥あの子が、七海が居る気がした。
「‥‥兄さんは、S.M.A.P.の退魔官なんだ」
ぽつりと語り始めたユーディの前に、影が現れる。
「心霊治療師といって、皆の傷を治したり病気を治したりするんだ。退魔官の仕事には欠かせない術師なんだって‥‥」
でも、自分には何も力もない。こうして、兄やその同僚の退魔官に守られたり、見守っているしか出来ない。
「欲しいものがどうしても手に入らない事って‥‥あるよね。どうしようも無いよね、こういう事は。七海さんもそうだったんだね」
七海は、そうっとこちらに手を差し出した。ガラスに手を傾ける。ユーディは、同じように窓に手をやった。彼女の気持ちは、自分には痛いほど分かる。
「そうじゃな、人の世にあって孤独を感じるは、望んだ事では無いであろうにのう‥‥」
ユーディの視線に、ガラスに映った女が映る。巫女装束を着た、若い少女だ。しかし、その体は少しだけ地から浮いていた。
‥‥人、では無い。
身動き出来ないユーディに、女はすう、と寄った。背後に気配を感じる。
「妾も同じじゃ。‥‥秋緒、と人の名前で呼んでくれたのは、もう長い時の彼方じゃ。ヒトでは無くなるやもしれぬこの身と孤独感‥‥」
自分と‥‥“隣り合う関係のモノ”‥‥? ユーディが静かに視線を後ろを向ける。神木秋緒(ea9150)はすう、と笑った。
「妾が、そなた等の孤独と悲しみを全て包んでやろう」
どん、と衝撃のような力が校舎にかかる。七海の力が、校舎に悲鳴を上げさせていた。弾かれたように、ユーディが駆け出す。
今は、頼る事しか頭になかった。あの妖魔から、自分の心を守る為に。
戻ってきたメディクスが辛辣な表情である事をさりげなく聞こうとした紫上の足を、月乃が踏みつけた。メディクスは何もそれについて話さなかったが、“学生が向こうに居る。メディクスの弟だ”と言った。
それだけでは無い。それより問題なのは、妖魔と思われるものが現れた事だ。
「時間が無いわね」
月乃は紫上を見返した。
「七海って子が舞を見たかったなら、それを見せてあげるのが一番いい方法。‥‥舞台設置とかは任せたから。‥‥舞も紫上がするのよね」
月乃は舞くらいはやろうと思っていたが、紫上は衣装も着ていて、やる気十分だ。せっかくだから、その意志は酌んでやりたいと思う。
「じゃ、あたしは見学」
「おい、“車僧”にしようって話し合っただろ。これって僧侶と天狗が必要なんだけど」
どん、と何かがぶつかり、月乃は紫上に抱き留められた。紫上の視線は、月乃の背後に向けられている。
「‥‥ユーディ‥‥」
メディクスの声、月乃が振り向くとメディクスはいつの間にか彼女の前に飛び出し、ぶつかったユーディを庇っていた。
ユーディを追ってきたものを確認する間もなく、爆風が吹き付けた。地面にたたき付けられた月乃と紫上の目の前に、ふわりと秋緒は舞い降りる。その視線は、校舎に向けられていた。
「そなたの心を知るは‥‥妾だけじゃぞ。孤独を癒すのは、群れおうておる退魔官などでは無いはずじゃ」
「貴様‥‥」
爆砕符を作り出し、秋緒に攻撃を仕掛けるイルニアス。メディクスはユーディを庇いながら、後ろに押し退けた。
紫上、そして月乃も霧子とあやねを庇いつつ戦闘態勢を取っている。特に月乃には、周囲の異変も感じ取られていた。紫上は、さらに違う気配を‥‥。
「また来たぜ、妖魔が‥‥」
「それどころじゃないみたいだけど」
月乃がそう言っているのは、周囲にざわめく雑霊達だった。どこかからか、笛の音色が聞こえる。それに釣られているかのように、霊達が集まってきている。
紫上の視線の先に居るものを見つけ、月乃はため息をついた。
一つは深紅の影。そしてもう一つは、小さな青白い‥‥妖精のような光。音色は、その小さな影の口元から発していた。
秋緒は不愉快そうにアレクシアスを睨み付けている。
「‥‥邪魔をするなら、今ここで‥‥魔将と呼ばれるモノと伝承を継ぐモノの勝負、付ける事となるが」
アレクシアスは秋緒に興味を示さず、強力な熱風を退魔官に浴びせた。秋緒とアレクシアス、二度に渡る妖魔の力で、イルニアスとて立つのが精一杯である。
「京三郎とか言ったか。西欧遠征中、突然死亡。原因は転落死‥‥」
突然のアレクシアスの言葉に、イルニアスの表情が変わる。
「待て!」
「何なんだ、何か知っているのか」
紫上がイルニアスを睨む。アレクシアスは、言葉を続けた。
「5年前、パリ市内のホテルで、四肢を獣に切り裂かれたかのような遺体で発見される‥‥国際退魔組織は妖魔による事件と判断したようだが‥‥ヨーロッパにおける人民の妖魔に対する危機感は薄く、その情報は公にはならなかった」
「‥‥貴様、何故それを」
「さて‥‥な」
アレクシアスは上空に舞い上がり、空で静止した。その間にも、ざわざわと霊魂が集結しはじめている。
「紫上、あたしがこの場を収めるから、あなたはさっさと始めなさいよ」
月乃は、そう紫上に言うと手を引いた。
手が、まるで弓をつがえるかのような動きをしたかと思うと、そこに周囲の雑霊達が吸い込まれていった。月乃に生み出された矢が、光となってディアッカを貫く。
ディアッカは苦痛の声を漏らすと、飛びまわって霧散化しアレクシアスの体に飛び込んだ。アレクシアスは静かに目を閉じ、ため息をつく。
月乃は、容赦なく矢を降らせる。
‥‥幽霊の精気は旨いのですか? アレクシアス、あんな小娘をどうするおつもり?
囁くディアッカの声を聞きアレクシアスは炎を巻き上げ、月乃達の動きを一掃した。
「強くなりたいのではないのか? だったら、ここから出て、好きなだけ京三郎の遺品を漁っていればいい。お前の力を組み伏せる人間など居るまい」
顔を上げる七海。
しかし、ユーディが激しく声をあげた。
「違う、妖魔になったって、欲しいものは手に入りはしない!」
ゆらり、と紫上の動きが始まった。
車僧‥‥それは僧侶と天狗の掛け合い問答の出し物である。五番目物といい、五番立ての最後に演じられる演目だ。
僧侶を魔道に引き込もうとする天狗に対し、僧侶は法力で牛の引かない牛車を動かして山を登っていき、ついに天狗に「あら尊や恐ろしや」と言わせて退散させる。
紫上はこの演目は初めてで、なおかつ衣装も何もあり合わせだ。それでも、見たがっていた舞を少しでも感じさせてやれる。
「よく見ておけ。‥‥1度でいいから舞台を見てみたかったんだろう? 俺がその願いを叶えてやるから」
紫上は七海に言った。
天狗と僧侶の掛け合いを楽しむ、笑いを誘う演目。そのはずだったが、七海は少し悲しそうに笑った。
この演目を、舞台で見られたらどんなに良かっただろうか。それがかなわないまま、六年もとどまり続けた事‥‥。
今度はきっと‥‥もう少し勇気を‥‥。すう、と光と消える七海が、最後に呟いた。
術で傷つけられ欠損した腕が、じわりと再生していく。秋緒はつまらなそうに、上空を睨み付ける。アレクシアスは、無言で秋緒を見つめていた。
「妾の邪魔をするなら、容赦はせぬ。‥‥聞いておこうか」
「お前の目的に興味は無い。‥‥俺は京三郎のものを探しているだけだ」
アレクシアスは秋緒に言い残すと、ディアッカとともに闇夜に消えた。ふ、と秋緒が笑みを浮かべる。
「所詮は人に過ぎぬか…したが、あの者。ふふ、面白いものを見つけたわ」
ゆっくりと、秋緒の体は闇に消えた。
(担当:立川司郎)