美味しい(?)手料理召し上がれ☆
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリー
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年04月16日
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●オープニング
そこは海の真ん中にある小さな島。
豊かな森と肥沃な大地に恵まれたその島は、四季折々の食材が何時でも手に入る、まさに料理界の夢の島と呼ぶべき場所だった。
数多くの料理人達がその島にあこがれ、島へ向けて旅立っていった。
だが、未だ誰一人として、その島から帰ってくることがなかった‥‥。
ある日。冒険者達に1通の手紙が送られてきた。
木の板に、刃物で刻まれた文字。
長い間、雨風にさらされてしまったらしく、文字をはっきりと読むことが出来なかったが、ひとことこう記されているのが分かった。
「島に閉じこめられている。助けて欲しい」
板の最後に記されたサインに、冒険者の1人が声をあげる。
「この人は‥‥料理界の魔術師、マホマホ・ニャホジローだよ!」
そんなばかげた名前がこの世に存在することに驚異を示したい。
彼の姿が見当たらなくなったのは、半年程前の話。
どこか遠くの国に旅だっていったという噂は立っていたが、まさか夢の島へ冒険に行っていたとは誰が考えるのだろうか。
伝説によると、その島には美しい女王が住んでおり、彼女の手料理を毎日食べさせて貰えるのだという。
豊かな緑に囲まれて、美人の手料理を毎日食べられる。
男のロマンとも言える世界とも言うべきはずなのに、何故‥‥彼は助けを求めたのだろうか。
伝説には続きがあった。
確かに女王の趣味は料理で、彼女は丹精込めた手料理を毎日のように、部下や島への訪問者へ振る舞っていた。
だが。
その料理の味は想像を絶するものであり、嘔吐・腹痛・頭痛は無論のこと、下手をすると死に至る恐怖の料理なのだ。
島に関する全ての権限を女王が握っているため、島から出ることは勿論のこと、島で自由に生活するのにも彼女の許可が必要とされている。
恐らく、この料理人は女王のあまりにも不味い料理に反論し、女王の機嫌を損ねさせてしまったのだろう。
料理人故の性という物だろうか‥‥
彼を救出するためには、まず女王に気に入られなくてはならない。
気に入られる‥‥つまり、彼女の出す料理を美味しそうに完食する、ということだ。
どのような恐怖料理が待っているか、それを想像しただけでも恐ろしい。
「‥‥胃腸薬とエチケット袋と‥‥あと何が必要かな」
「解毒剤は持っていった方がいいと思うぞ」
果たして冒険者達は料理人を無事助け出すことが出来るのだろうか?
諸君らの検討を祈る。
●リプレイ本文
●お出迎えの襲撃
「島が見えるですぞー!」
暮空銅鑼衛門(ea1467)の張り上げる野太い声を聞きつけ、秘密結社グランドクロス一同は甲板に上がってきた。
荒れ狂う波間に、ぽつんと見える小さな島。
島全体が緑の森に覆われており、その中央に白い建物が山のごとくそびえ立っている。
「あの真ん中にあるのが、敵の本拠地でござるな」
いつになく眉根をきりりとしめて、服部肝臓(eb1388)は低い声で呟く。
「皆の者、油断召されるぬよう、重々気をつけるでござるよ‥‥本作戦は敵の懐に飛び込む作戦、相当危険極まりない内容故、覚悟が必要でござる」
何か勘違いを起こしているような気もするが、おおよその内容は大体合っているため、誰も否定はしなかった。
何かあった時は、その時だ。
島全体の姿が見えたと同時に、突然、波が穏やかになった。
湖の上にいるかのように、静まり返った青い海。
水面を覗くと、色鮮やかなサンゴ礁と優雅に泳ぐ魚達の姿が目に映る。
心地よい風に運ばれてくるのは、果実の香りだろうか。どことなく甘酸っぱく、心を軽やかにさせていく。
「皆、みるのだ!」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が来た道を指差す。
まるで一枚の布が貼ってあるかのように、荒れ狂う海との境界が出来ていた。見えない壁に打ち付け、白く砕ける波。空を覆う雲も、剣で切り裂かれたかのように、半分の姿をさらけ出していた。
「これは見事な結界でござるな。いや、敵ながらアッパレ、アッパレ」
なかなか無責任なことを言う銅鑼衛門に、そんなことを言ってる場合ではない、と肝臓が警告をいれる。
「これで拙者達は籠の中の鳥、逃げる事は容易ではないということでござるぞ。荒波からこちらに来るのは容易でござるが、穏やかな海から荒波の中へ飛び込むのは至極困難を極めるでござるよ」
「その時になれば何とかなるじゃねーの? あんまりカリカリすると、後がきついぜ?」
にやりと笑みを浮かべながらファースト・パーマン(eb1514)が言う。
その時だ。
彼らの頭上に、銀色に輝く椀の形をした巨大な物体が突如として現れた。
「何なのだあれは!」
「降ってくるでござるぞ!」
あわてて船を旋回させようとするも、その間もなく、船はすっぽりとその椀に閉じこめられてしまった。
●女王の元へ
「‥‥ここは‥‥」
ゆっくりと身体を起こし、奇天烈斎頃助(ea7216)は辺りを見回した。
白い壁に囲まれた広い部屋に彼らは寝かされていた。ご丁寧に、全員に毛布掛けのサービスもされている。
傍らでまだ寝ているファーストを揺り起こそうとするが、彼は寝言で「ウッキー」と応えたきり、安らかな眠りから戻ってきそうな気配はない。
「展開から考えて‥‥ここは女王の居城のどこか、だろうな‥‥」
オルステッド・ブライオン(ea2449)が言う。
程なくして、一番手前にあった扉が開き、全身真っ黒なドレス姿の女性が姿を現した。
透けるほど白い素肌に、赤い口紅をきりりと引く姿は、魂のない人形を彷彿とさせる。
彼女は深く頭を垂れ、右手で廊下を指し示す。
「案内人でござろうか‥‥」
「よし、余が先に行く。皆ついてくるのだ!」
スタスタと歩き始めるヤングヴラド。
寝ている仲間達をあわててたたき起こし、一同はその後を追っていった。
●絶品料理と狂化猿
「ようこそ、我が居城へ」
案内された部屋に鎮座する女性を見た瞬間、その場にいた男性全員が深いため息をついた。
「‥‥妹よ‥‥世間の噂というのは、尾ひれがふんだんにつくものなのだな‥‥」
遠い視線で涙ぐみながら呟くオルステッド。
彼がそう思うのも無理はない。
彼らの前にいる女性(おそらくこの島の女王なのだろう)は、確かに肌も白く、整った顔をしている。
が。
豊満な胸と同じくらいの恰幅のある腹、もしかすると自分達の太ももより2周りは大きいのではないかと思われる腕、3重程もあるあごに隠れて見えなくなった首。
どう見ても肉の塊か、豚にしか見えない。
どうやらここ数日、料理を食べてくれる人が居なかったため、自分で処理をしていたら、このような体型になってしまったのだという。
1、2年のレベルではない気がするのだが、本人曰く「私は成長期だから‥‥」なのだそうだ。
縦より横の広がりは成長ではないというのも無論、禁句だ。
「折角いらっしゃった皆様に、特別なお料理を用意しておりますの。たっぷりと召し上がっていってください」
壁の一面が引き戸のように開かれ、白いテーブルの上に、色鮮やかに並ぶ料理達の姿が現れた。
独特の甘い匂いと、炭の匂いと、よく分からない酸っぱい香りが交じり合い、一同の鼻にダイブしてくる。
気を失いながらも、彼らはとりあえず席についた。
「ファースト、食事の時ぐらい仮面を外してはどうかね」
ヘルムを深く被ったままの彼に、頃助が問いかける。
せめてフェイス部分を外さなければ、口に運ぶことすら難しいのではないだろうか?
そんな疑問は気にする程度ではない、とファーストはとりあえずスプーンを手に取り‥‥高らかに声をあげた。
「ウッキーー!」
「いかんっ、ファーストがキレおったでござる!」
「余としたことが、何たる失態‥‥っ、こっちの木のスプーンを手渡すのを忘れてたのだ!」
お猿さん頭脳へとなり果てたファーストは、いきなりテーブルの上に飛び乗り、乗せてあった炒め煮料理をヘルムのすき間に流し込む。
「‥‥! ウィッキッキー!!」
数秒間の硬直後、彼は台ごと料理を蹴飛ばす。
お口に合わなかったようだ。
「‥‥まぁ! 何という無礼なお人ですこと! わらわの料理が食べられぬと申すのですか!」
「ウィッキー! ウッキウッキー!」
「女王殿よ落ち着いて欲しいのだ。余のペットがしでかした責任は余が勤めるのが役目。折角の馳走を台無しにした詫びとして、余達が料理を振る舞う故、許してやってもらえぬか?」
「‥‥あなた方が、ですか?」
「こう見えても、余の部下は皆、その道に名高い優秀な者達ばかり。女王殿もお気にめすこと間違いないのだ」
(「頃助殿‥‥おぬし、いつの間に料理の秘術など身に付けられたでござるか?」)
(「‥‥ふふ‥‥料理関連の書物なら、山のように読んでいる也。だが、また一度も試したことはない也よ」)
(「‥‥それでは銅鑼衛門殿でござるか?」)
(「拙者は試食担当でござる」)
「これ、そこの者達。何をこそこそ話しておる」
こそこそと話し合う一同をいぶかしげに女王は見る。
頭脳派のオルステッドが素早く機転を利かし、女王に疑われぬよう、料理の内容を相談しているのだと告げた。
「‥‥この世界の味を知りつくしている方に、どんな料理が良いか相談してたんだ」
「あ、ああ‥‥折角なので、ドラゴン料理はどうだろうと話していたところ也」
「ほう、それはわらわも食したことがありません。是非とも賞味してみたいものです」
「それならば早速材料の調達をしなくては‥‥」
早速とばかりに席を立つ一同に、女王は1つの鍵をそれぞれに手渡した。
「それは、この城のあらゆる場所を自由に行き来出来る鍵です。が、ひとつだけお願いがあります。くれぐれも地下室へは近づかないようにしてください。お約束願えますでしょうか」
「ああ、約束致すでござるよ。ミー達を信用するでござる」
あからさまなまでにまぶしい笑顔を向ける銅鑼衛門。
「はい、楽しみにしておりますね」
そう言って、肉塊の女王はにんまりと微笑んだ。
●調理人は指揮官殿
「で。集めた物の調理は‥‥やはり余がせねばならぬのか」
「あの猿には任せらぬ也」
まだトリップ状態なのか、飛び跳ねているファーストを頃助は指差した。
「素材はすべて一流のものそろえた也。後は任せた也よ」
「肝臓殿はどうした? 先程から見当たらんぞ」
「‥‥肝臓さんは、銅鑼衛門さんと一緒に本作戦の要を遂行しにいかれたよ‥‥。料理が出来る頃には戻るといってた‥‥」
「ふむ。ならば、仕方ない。余がその腕前を披露してやろうではないか」
すちゃりと包丁を手に取り。
ヤングヴラドは思いきり力を込めて、調理台の上に横たわるドラゴンの首を叩き斬った。
●最後の隠し味(隠れてない)
煮物料理もそろそろ仕上げの段階にさしかかった頃だ。
肝臓と銅鑼衛門が1人の男性を連れて戻ってきた。
「そいつ誰だ?」
「‥‥忘れたでござるか。ギルドが要求してござった『要救助人』でござる」
ああ、そういえばそんなのもいたなぁ‥‥とぽむり、と手を叩くヤングヴラド。
今の今まですっかり忘れていたようだ。
「それにしても、凄い匂いでござるなぁ‥‥一体、何の料理でござるか?」
「『竜のカブト煮オニオン風味仕立てポタージュ』だ。東邦文献録の第3章に載っている有名な料理だ」
「なっ、なんとっ! そのような物をよく存じておるでござるな!」
オーバーに驚く肝臓に、頃助は当然の知識だと言わんばかりの表情を見せた。
「しかし、味が少し薄いでござる。これでは喜ばれぬでござるな」
と、肝臓は懐に忍ばせていた竹筒を取り出し、中身を全てスープに注ぎ込んだ。
「なっ、何をする!」
「拙者の里に代々伝わる、美容と健康の特効薬を入れたでござる。これで女王もぴちぴちのお肌と健康が100年は保障されたでござるよ」
肝臓は満足げな表情を浮かべながら言った。
今更作り直す余裕もなく、とりあえずダマにならないようかき混ぜ、仕上げに塩とコショウをちょこっと入れる。
ともあれ、出来た料理を皿に盛りつけ、一行は食堂まで丁寧に運んでいった。
●究極の味の感想
「まあ、何て美味しそうな料理でしょう」
立ち上る湯気を深く吸い込み、女王は嬉しそうにスプーンを口に運んだ。
しばしの沈黙。
全く動かない彼女に、一同の不安がよぎり始めた。
不意に、地面から地響きが聞こえてきた。
「なっ、なんなのだ!?」
カタカタと食器が鳴り、ドンという大きな音と共に、床が大きく上下に揺れ始める。
「み、皆! 何かに捕まるのだ!」
捕まれと言われても、周りには何も無い。とりあえず、彼らは床にうつぶせになり、頭を抱えてうずくまった。
「う‥‥うーまーいーぞーーー!」
女王の野太い叫び声が部屋中に響き渡る。それと同時に、揺れはどんどんと大きくなり、壁や床に亀裂が走り始めた。
「く、崩れる也!」
頃助が叫んだと同時だった。
床がボコッと大きな音を立てたと共に崩れ落ち、彼らはあっという間に、波に飲み込まれてしまった。
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気がつくと、一同は船の甲板に寝転がっていた。
穏やかな波と潮風が優しく彼らの肌を撫でていく。
状況が飲み込みきれていない彼らは、ぼんやりと海を眺めた。
「‥‥しまったのだ!」
不意に、ヤングヴラドの叫び声が上がる。
「ど、どうしたでござるか?」
「‥‥あいつへの土産、忘れてきたのだ‥‥」
遠くの方でかすかに鳥の声が聞こえる。
港はすぐそこまで近づいてきていた。