●リプレイ本文
●メガネ帝国『タワー』一階
とうとう『タワー』に辿り着いた魔法少女と素敵な仲間。そして、その中には!
「なんだ、あれは‥‥」
「何を言っているの、天華様。あれは捕まってしまった素敵な仲間の‥‥!」
壁のあちこちに、大事そうに飾られた眼鏡の中、ふかふかの熊耳に熊尻尾、挙句に白いエプロンがまぶしいメイド服姿の巨大な女の子(?)が、ふらふらとさまよっていた。
それは魔法少女紅天華(ea0926)と素敵な仲間シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)の大切な友人、そしてメガネ帝国に囚われてしまった素敵な仲間のアイリス・ビントゥ(ea7378)だったのである。天華は一目では分からなかったりしたけれど。
「メガネ、メガネはどこですか〜」
「う〜む、あの耳と尻尾はアイリス殿にそっくりだが、眼鏡の趣味の悪さはとても本人とは思えない」
確かにアイリスの掛けている眼鏡は、ぐるぐるとレンズに渦が見えそうに分厚かった。挙句にしている眼鏡を探しているし。
とはいえ、アイリスが二階へ続く階段前に突き立てた、彼女より大きな剣を振り回されないのはいいことだ。多分、その剣も分厚いレンズに阻まれて、見えなくなっているのだろう。
「天華様、何とかしてアイリス様を元に戻して、二階へ上がらなくては!」
魔法少女天華の頭の上で、シュテファーニが苦渋に満ちた声を上げる。素敵な仲間の変わり果てた姿に、彼女が今にも落涙しようというその時。
「あ〜れ〜」
けったいな悲鳴と共に、アイリスが顔面から床に突っ込むようにすっ転んだ。熊耳なので、ちょっと床が揺れたかもしれない。熊は大きいから。
と、そのアイリスの顔から、眼鏡が転げ落ち‥‥
「あ、あれ? あっ、天華さんとシュテファーニさん、ご無事でしたか」
「えっとー」
「無事だ。さあ、アイリス殿もまた一緒に戦ってくれるな?」
メガネ帝国『タワー』一階。天華とシュテファーニは入口から一歩も動かずに、メガネ帝国に囚われていた素敵な仲間アイリスを助け出した! そして!
「やはり、これはエレベーターではないか。これで最上階まで上がろう」
『タワー』一番奥の『禁断の扉』を開けて、最上階までレッツゴー。
さすがだ、魔法少女。
●メガネ帝国『タワー』二階
ここはメガネ帝国が誇る戦闘員達が、帝国四天王の一人『メガネプリンセス』アウレリア・リュジィス(eb0573)と共に控えていた。
「一階で元仲間にしてやられ、力を使い果たすであろう魔法少女など、この眼鏡姿で知的度アップの私に掛かれば一捻り。でも全力で迎え撃ってあげるのが、礼儀というものよね」
フリルとレースに埋もれそうな衣装に身を包んだアウレリアが、戦闘員達に拍手されながら胸を張ったその時。
「メガネプリンセス様、禁断の扉の奥のエレベーターが、稼動しています!」
「うそっ。あのエレベーターは使用厳禁なのに! 大変だわ、このままでは総帥の共に魔法少女がたどり着いてしまう!」
メガネ帝国『タワー』二階。大慌てで階段を昇っていく『メガネプリンセス』アウレリアと戦闘員達の姿があった。
●メガネ帝国『タワー』三階
「よもや、天華がここまで辿り着くこともあるまいが‥‥」
苦渋に満ちた表情で呟くのは、メガネ帝国四天王がトップ『銀縁のレイル』ことレイル・ステディア(ea4757)だった。彼が着けているのは二つ名が示すとおりのシルバーフレームメガネ、そして手にしているのは今時どこから持ってきたのか不明な、黒ぶちイケてない眼鏡だった。
と、彼の耳に爆音が届く。四階から、階段を下りてくるその音は、
「レオラパネラ、『タワー』内ではバイク走行は禁止だ」
同じく四天王の『デスグラス』ことレオラパネラ・ティゲル(ea5321)と愛機『黒いグラス』だった。ただし、『タワー』内はバイク走行禁止、日々の鍛錬と省エネのために階段使用推奨なので、レイルは厳しかった。レオラパネラはテーマソングもあるのだが、省エネ推進でスピーカーが使えないから、本人が歌っている。いつもは部下もハモってくれるが、残念、バイクに駆け足では追いつかない。
それでも、一生懸命階段を駆け下りてきてはいるようだ。拍手と歌声が聞こえるから。
それはともかく。
「それどころじゃないのよ、シルバーフレーム。魔法少女はエレベーターに乗っちゃったんだからっ」
「なんだと、あれは四階までの到達時間、実に十二分という遅さで、使用厳禁のはず!」
「ここの階段も、四階までに三百二十四段と、上る時間はいい勝負だけどね」
メガネ帝国『タワー』三階。緊急事態に『銀縁のレイル』と、彼に引きずられて愛機とヘルメット、否漆黒の兜を残さざるを得なかった『デスグラス』レオラパネラが四階を目指して走る。
その三分後、ふりふりスカートを掴んで、せっせと階段を上がる『メガネプリンセス』の姿があった。
●メガネ帝国『タワー』四階
禁断の扉、超低速エレベーターの前で、メガネ帝国四天王『千里眼』のユラヴィカ・クドゥス(ea1704)は身構えていた。各階に散った四天王達が戻ってくるまで、総帥を守るのは彼しかいないのだ。しかし、なんだかふらふらと飛んでいる。
「目、目が回るのじゃ。このメガネは合わないのぢゃ」
度が合わない眼鏡で世界がぐるぐる回っているユラヴィカの嘆きに、巨大な装置の前に座っている総帥は立ち上がった。壁際を埋め尽くして飾られた眼鏡の中から一つを取り上げて微笑んだ。
「君にはそのタイプのメガネが似合うのだが‥‥気に入らないのなら、こちらはどうかな? おや、こちらのメガネはあの魔法少女によく似合いそうだ」
「それどころではないのじゃ。エレベーターがもうすぐ到着するのぢゃぞ」
ユラヴィカが訴えるも、総帥は構わずにエレベーターの前に立っていた。仕方なしに、ユラヴィカは総帥の肩でバランスを取りながら臨戦態勢だ。
そうして、四天王の他の三人が階段を駆け上がって四階に到着すると共に、エレベーターの扉も開いたのである。
「ようこそ、魔法少女天華。メガネ帝国『タワー』最上階へ」
「お邪魔する。よく見たら使用禁止のエレベーターを使ってすまなかったな」
「「「「「「ちがーうっ!」」」」」」
ここに役者は勢揃いし、最後の決戦の火蓋は切って落とされたのであった。
●最終決戦〜魔法少女と素敵な仲間達vsメガネ帝国〜
最後の戦いは苛烈を極めていた!
「洗脳されるなんで、馬鹿馬鹿っ。妖精女王のことを忘れてしまったのっ」
「なんのことよ。私はメガネ帝国メガネプリンセスよ」
実は妖精国の王女であるアウレリアは、シュテファーニの必死の叫びにも耳を貸さなかった。もはやメガネ帝国の洗脳で、何もかも忘れてしまったのだろうか。
「天華様、ごめんなさい。でも、私はアウレリア様を助けたいのっ」
これまで一度たりとも、天華の傍を離れなかったシュテファーニが飛び上がり、アウレリアの胸へと飛び込んでいく!
「ちょっとー、どこ触っているのよ!」
シュテファーニは、妖精国王女アウレリアを取り戻すことが出来るのか。
一方、眼鏡の呪いから解き放たれたアイリスは、ユラヴィカと向かい合っていた。
「ふむ。その剣で打たれたら、わしなどひとたまりもないのぅ」
洗脳されていた当時も人見知りのあったアイリスに、一番親切だったのはユラヴィカだった。総帥が見繕う眼鏡を、もっと可愛い似合うものにしてくれたのもユラヴィカだし、こっそり溜め込んだおしゃれ眼鏡コレクションも見せてもらった。
「どうせ気付いておろうが、それもこれも、おぬしから魔法の力を奪うための策略じゃ。そんな剣を振り回されては、我らも苦労するゆえ。さあ、どうする、アイリス?」
「あたしの魔法力は、『力』だから‥‥でも、ユラヴィカさんはあの時、本当に親切だったでしょう?」
涙をこぼすアイリスに手を伸ばされ、ユラヴィカは自ら彼女に近付いていった。後ろ手に、素敵な仲間から魔法の力を奪わせるための眼鏡を抱えて‥‥
アイリスは、ユラヴィカをじっと見つめている。
この頃、魔法少女天華は。
「大哥‥‥、なんだ、その似合わぬ姿は」
「お前に言われたくはないな、天華。そんな短いスカートは感心しないぞ」
いかなる運命の導きか、生き別れた兄レイルと悲劇的な再開を果たしていた。魔法少女とメガネ帝国四天王トップとして。
「あんたら、何を言い合ってるのよ。ええい、魔法少女め。一瞬でシルバーフレーム・レイルを骨抜きにするとはさすがだな」
更に二人の再会に割って入る、四天王『デスグラス』レオラパネラが、天華へ攻撃を繰り出した。
「お前も眼鏡をつけるのだ! 自分の中の萌えを感じろ! レイルの妹なら、このすばらしさが分かるはずだっ。さあ、母の言うことを聞け!」
「誰が母だっ。それに、天華にはこちらの眼鏡のほうが似合う」
色付レンズのフレームレスともっさり黒ぶち眼鏡でもめ始めた四天王達を前に、天華は素早く攻撃を返した。
「萌えとは何か、更になぜ眼鏡でならないのかを、合計五十文字以内で述べよ!」
「「無理っ。語りつくせないから!」」
「それは眼鏡をかけた己に萌えるのか? それがなければ愛しい相手への思いも色褪せるものなのか?」
天華のこの攻撃に、レイルが膝をついた。返る言葉は力を失っている。
「このグラス越しに見る瞳の美しさは、何物にも代えがたい。そして、その下に隠されたものを思う楽しさも。だが‥‥だが天華、眼鏡がなくても、お前は兄さんの大事な妹だ」
「ええい、この期に及んで妹萌えしてるんじゃないわよ。天華、さあ、メガネをかけてっ」
「よせっ、妹に何をする」
レイルの言葉を懸命に数えている天華の前で、襲い掛かるレオラパネラと庇うレイルの四天王二人が交錯した。二人の手から弾け飛ぶ眼鏡のレンズ。
「大哥、八十文字は軽く超えているようだが‥‥大哥っ」
どちらもメガネ帝国四天王と呼ばれた身、振り回す眼鏡での戦いはどちらが有利とも知れなかった。
更には。
「アウレリア様ぁっ」
「ユラヴィカさん‥‥!」
フロアに響き渡る素敵な仲間達の悲鳴。それらすべてを覆って響く、メガネ帝国総帥の声。
「どうする? 仲間も兄も、このままでは倒れてしまうが? 君がメガネの魅力を認めて、身に付けてくれるだけで、皆が助かるのだよ? それとも、必殺技でも出してみるかね」
「リクエストとあらば、やって見せよう」
総帥がおやと首を傾げた瞬間、天華の呪文は完成した。彼女の体が淡く黒に光ったと思うと‥‥
「華妖精力招来&放出!」
ばたばたと天華と総帥を除く全員が、床に倒れ付したのである。
「あら、私、どうしていたの?」
「天華、成長したな‥‥でもデスはどうかと」
背後で正気に返ったアウレリアと、余計なことを口走った兄をさておき。
「華妖精魔法、フラワーフェアリーパワー・メイク・アップ アーンド シャワー。さすがは総帥、この呪文でも倒れないとは」
「このツウィクセル、『タワー』に掲げられたすべてのメガネ達のためにも、ここで倒れるわけにはいかないのだよ」
にこりと笑い返したメガネ帝国総帥ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)が、また座っていた椅子から立ち上がった。そこに叩きつけられる、魔法少女の新たな攻撃!
「主は、それほど素顔に自信がないのか? 私はお主の本当の笑顔はきっと素敵だと思うのだが」
その満面の笑みを見て、四天王はあごが外れそうに驚き、素敵な仲間達は叫んだ。
「天華さんが変身です!」
「魔法少女天華ちゃんは、二段階変身のハイパーモードを隠していたのだ! ‥‥三十秒しか持たないけどね」
これを受けた総帥は、けれども余裕の笑みだった。
「素顔もよい。だがよく似合う眼鏡は、素顔以上に知性ある男の魅力を引き立てるのだよ」
「五十文字以内。さすがは総帥というところか」
最後の大技をかわされ、ぎりと唇をかみ締めた天華の前で、ツウィクセルはにこやかに語りだした。彼の立つ背後の壁面には、数え切れない眼鏡が飾られている。
「エレベーターを使った君は見ていないだろうが、この『タワー』には様々なメガネが飾られている。彼らは捨てられたのだ。傷がついた、コンタクトに変える、度が合わなくなった。そう言われて、まだ使えるのにだ」
こんなに新しいものもあると、天華に示された眼鏡は確かに綺麗だった。
「彼らは、もう一度働きたいのだよ。そして我々はそのために戦った。すべての力は、このメガネ達が与えてくれたのだ。今後はこのレンズ磨きマシンでリサイクル率百パーセントのメガネ達が、世界中で活躍することだろう!」
「ついでに我が帝国は、環境保護団体もびっくりのエコ生活をしておるのじゃ」
アイリスの手に握られたユラヴィカが付け足す。
「でもバイクくらいは使わせて欲しいのよね」
レオラパネラの一言は、残念だが今回も認められないようだ。
そうして、ツウィクセルの言葉に聞き入っているように見えた天華だが、ふいに歩き出した。行き先にはイギリス語で『レンズ磨きマシン』、それから難しい文字でなにか書いてある機械がある。
「リサイクルはよいが、メガネを着けたまま寝るとフレームが曲がってしまう。それでは可哀想ではないか」
機械のスイッチを、天華が押す。同時に『タワー』全体が一瞬光り輝いた。
「ああ、『メガネをかけなければならない呪い』発生装置が。なぜそれが発生装置だと分かったのだ」
「だって、華国語で書いてあったから」
こうして、世界は『メガネをかけなければならない呪い』から解放されたのだった。
●飛び出せ! ネクストステージに向かって!
世界をメガネ帝国の陰謀から救った魔法少女は、共に戦った素敵な仲間達、妖精王女、再会した兄と共にメガネ帝国を旅立っていった。
「さあ、衣装替えをしよう! ステッキも新しくしないと」
「もっとふわふわの飾りがついてないとねぇ」
「記憶は取り戻したけど、私、やっぱりメガネが好きみたい」
「お、王女様、女王が見たら、気絶してしまいますぅ」
「今度はドラゴンがいる世界がよいな」
飛び出せ、魔法少女と素敵な仲間達とプラスアルファ!
ついでに。
「メガネだけだから負けたんじゃないのぉ。サングラスもいいでしょ」
「戦闘員達には違う萌えに浮かれていた者もいたからのぅ」
「では、我々メガネ帝国は、今この時より萌え帝国として新たな一歩を踏み出そう!」
立ち上がれ、メガネ帝国改め萌え帝国!
ネクストステージが 君達を待っている!