春の金沢1泊2日の旅

■ショートシナリオ


担当:紡木

対応レベル:フリー

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2007年04月16日

●オープニング

 春ですね。
 桜の花が、綺麗な時節となりました。毎日ぽかぽか、気持ち良い日が続いております。
 こんな季節は、何処かへ出掛けたくなりませんか? ‥‥そんな訳で、観光シーズンです。

 今回皆さんが旅するのは、400年の城下町、金沢。
 さあ、ガイドブックを開いてください。観光協会のHPでも良いですよ。中心街・香林坊、市民の台所・近江町市場、日本三名園のひとつ・兼六園、各種美術館に資料館。そして‥‥夜の街・片町。他にも、名所がずらり並んでいるでしょう?
 お土産もほら、種々の和菓子に、九谷焼、加賀友禅なんかもお勧めです。本格的なものは、ちょっとお値段張りますが。

 集合時間は、朝10時。場所は、金沢駅東口・おもてなしドーム、時計前。そこから先は、綿密な計画を立て、片っ端から回るも良し、気の向くままに、フラフラと彷徨うも良し。2日間を自由に使って、春の金沢を満喫してください!

 ガイドは、わたくし里乃月子が務めさせていただきます。
 あ、「里乃」より「月子」と呼んで下さると嬉しいです。それでは、2日間の短い間ですが、仲良くしてくださいね。

●今回の参加者

 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8878 レイン・フィルファニア(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 今日の金沢は、日差し柔らかな旅行日和。
「ユリゼ・ファルアート(ea3502)よ。関東の農業大学の留学生。よろしくね」
「うたうたいのリア・エンデ(eb7706)っていいますです〜皆様よろしくなのですよ〜♪ 日本には公演で来たのですが、金沢には一度来てみたかったので、仕事の後の1人旅なのです」
「日本の桜を一度この目で見かったの。親にも内緒でこっそり飛行機に乗っちゃったわ。レティシア・シャンテヒルト(ea6215)よ。よろしくお願いします。どうせあとでたっぷり怒られるし、今はしっかり楽しむわ」
「南イングランドのアフリディ・イントレピッド(ec1997)。エフとでも呼んで欲しい。金沢とは非常に歴史の長い古都なのだろう? 素敵だな。町並みや工芸、食が楽しみだねぇ」
「レイン・フィルファニア(ea8878)。ガイドさんは‥‥月子? いい名前ね。私なんて『雨』よ? 日本に来て始めて知ったわ。むしろ晴れ女を自称したいくらいなのに! ‥って脱線したわね。ゴメンゴメン。まぁ、ともかく2日間よろしく、ってことで♪」
「ご紹介ありがとうございました。2日間、宜しくお願いしますね。レインさん、金沢は『弁当忘れても傘忘れるな』な土地ですから、お名前ある意味相応しいですよ〜。でも、今日はよく晴れてますし、本当に晴女でいらっしゃるかも。お着物も素敵ですね。‥‥さて、予定だとあと1人‥‥あ、あの方かしら?」
 東口から早足でやってくる、シャツにジーパンの女性。
「すまない。目覚ましが電池切れを‥‥ノース・ウィル(ea2269)だ。よろしく」
「よろしくお願いします。日本語苦手な方は、通訳しますからご心配なく。それでは、早速行き先のご希望など伺っても?」
 月子の質問に、アフリディがコースを提案。
「日程的に無理かもしれないが‥‥」
「そうですね‥‥温泉2ヶ所は厳しいので、どちらかでも宜しいですか? 今日は若干余裕がありそうなので、友禅にも行きましょう。よく調べてありますね」
「楽しみで、つい色々調べてしまったのだね」
「ありがとうございます〜。ガイドとしても、嬉しいです。それでは、北陸の都金沢1泊2日の旅、出発させて頂きます!」

 まずは、バスで兼六園へ。百万石通りへ入ると、その中央分離帯には。
「これが、日本の桜‥‥」
 レティシアが呟いた。木々の両脇には、春色のぼんぼりがずらりと並ぶ。
「今は、8分咲きですね。脇を流れているのは、辰巳用水。通りを抜けると、すぐ兼六園です」
 兼六園下のバス停で降り、坂を上る。道沿いには土産物屋が軒を連ねており、この時期は、特に花見団子の販売に熱心だ。
 加えて、焼きそば、クレープ、お面に綿あめ。賑やかに屋台が張られている。
「盛況ね。こんなこともあろうかと」
 レティシアが、人数分の札を取り出した。
「迷子札よ。私、日本で使える携帯を持ってないの」
「‥‥‥えーと‥‥いや、私は読めるけどさ。ま、有難く頂くよ」
 レインが、苦笑する。夜なべして作ったらしいそれには、宿とそれぞれの名が書いてある‥‥うっかりドイツ語で。
「今は、無料開放をしているらしいな」
「さすがエフさん。その通りです」
 兼六園は、台地の先端を覆うような形で広がっている。隣は金沢城。園と城の間を道路が通っている形だ。
「あれが、利家とまつのお城ね‥‥」
 某ドラマは日本の友達の協力でチェック済みのレティシアであった。目を細めて、その歴史に思いを馳せる。
「正面に見える門が、石川門です。石垣とこの門は、江戸時代から残っているものですね」
 金沢城も、桜が盛り。櫓の漆喰壁に、薄紅がよく栄える。
「わわわ、桜もお庭の綺麗なのですよ〜すごいです〜♪」
 園に入ると、まずは桜のお出迎え。ノースが、ポカン、と口を空けて見入っている。めいっぱい広がった枝は、アーチのようで。
「ノースさん?」
 ユリゼが声を掛けると、慌ててガイドブックで口元を隠した。
「いや、つい見とれてしまった。‥‥ふむ、写真で見るのと実際に見るのはやはり違うな。こういうのを日本の諺で、新聞は必見にしかず、というのだっけな?」
「そういえば、そんな言葉があったような‥‥」
 微妙にズレた知識は誰に突っ込まれること無く、定着してしまったのであった。
「あちらが内橋亭です。手前に見える灯篭、足が二股になっているでしょう? 徽軫(ことじ)灯籠っていいます」
 琴柱に似ていることから、この名が付いたとされる。
「この方向から、灯篭と内橋亭、霞ヶ池を眺めた風景が、一番有名ですね」
「そういえば、あたしが見たのも、この写真だったな」
 見事な庭園としてアフリディの母国にまで聞こえているという兼六園。実物を目の当たりにして、感無量のようだ。
「記念撮影も、ここが定番です。そういえば皆さんカメラお持ちでないですね?」
「デジカメなど、旅烏には無粋。桜の美しさと歴史ある町並みは、この目に焼き付けて帰ります」
 レティシアが、クールに笑ってみせた。
「日本の庭って好きよ。イングリッシュガーデンより落ち着くわ」
 ユリゼが、そっと老松の幹を撫でる。園の中をゆっくりと一巡して、春の庭を楽しんだ。

 兼六園を回り終え、リアとレインは別行動。携帯番号を交換してから、卯辰山行きのバスへ乗り、公園を目指す。歩くと結構時間が掛かるのだ。
「はう、子供料金じゃないのですよ〜」
 運転手の勘違いに頬を膨らませていたリアだが、
「わわ、こちらも桜が綺麗なのです〜」
 坂の途中、いたる所に開く花々に、すっかり目を奪われている。
「すごい景色だね」
「街も海も見えるのですよ〜、なんだか歌いたくなっちゃうのです〜♪」
「歌っちゃえー」
「それでは〜‥‥」
 400年の古都に、澄んだ歌声が降り注ぐ。長きに渡ってあり続けた、その姿に敬意を込めて。
 景色を堪能した後は、また山を下り、長町武家屋敷を鞍月用水に沿ってゆっくりと歩き、そのまま尾張町を通って、浅野川沿を散策。こちらも花盛りだ。

 他の面子は、簡単に金沢城の敷地を回って、再びバスで駅方面。武蔵ヶ辻で降りて、近江町市場へ。
「らっしゃらっしゃーい。あ、お姉ちゃん達、蟹どうや?」
「なな、これ、佃煮食べてってぇ。美味しいよ〜」
 こちらはとにかく活気が凄い。近江町市場は、人呼んで市民の台所。魚屋を中心に、八百屋、花屋、肉屋、乾物屋、服屋に薬屋まである。狭い通路が縦横に走っており、気をつけていても迷ってしまいそうだ。
「旨そうだが、蟹はやはり高いのだな」
「ふっふっふ‥‥そのままの値段で買うなんてナンセンスですよエフさん」
 こちらから値切らなくても、じっと見つめているだけで、値下げしてくれるのである。
「な、美味しいやろ?」
 反対の店では、ユリゼが試食中。ねじり鉢巻の小母さんが、豪快に佃煮の盛られた桶の向こうで胸を張っている。
「ど? 1つお土産に買って行かん?」
 にこ。必殺『日本語ワカリマセン』スマイル。
 市場の店は、どれも小さめ。昼時になると、行列が出来ている店も珍しくない。並ぶ時間も勿体ないということで、昼食は鮨を買うことに。ノースが菓子屋をじぃっと見つめた後、そっと財布を仕舞った。貧乏旅行者の悲哀が滲む背中であった。
「北陸では、ピチピチ、とか新鮮、の事を『きときと』って言うんですよー」
 玉川公園で遅めの昼食。午後は武家屋敷の長土塀を抜けて加賀友禅の工房へ行き、その後尾張町の通りを往復して、それぞれの店の一品美術を見学するのだ。

「友禅は、本当に美しかったな‥‥」
 ほう、とアフリディが感嘆の溜息。
「もう少々財布に優しかったら良かったのだがな」
 こちらは財布の中身に溜息のノース。
「私は買っちゃった。着物は無理だから、スカーフだけど」
 怒っているだろう親兄弟の懐柔をお土産で謀るべく、値打ち物に見える伝統工芸品を探していたレティシアである。精緻な模様を施した友禅のスカーフは、その条件に相応しい。

 一品美術を一通り見回った後、町を散策していたレイン達と合流し、歩いて銭湯へ。ほのかに硫黄の匂いの脱衣場。街中にありながら、その湯には温泉が使われている。作法について、月子が簡単な説明をして、入浴となった。
「湯上りはやっぱりフルーツ・オレよね」
 ユリゼが、ちゃりーん、と番台の小母ちゃんに小銭を払う。因みに瓶以外は認めません。パックなど邪道。
「こんな感じかしら?」
 バスローブ姿のレティシアが、姿見を見ながら手の角度を調節している。何やらこだわりがあるらしい。その隣でノースも1本。手は、勿論腰である。

 宿で夕食を済ませたら、ライトアップバス『犀星号』に乗って夜の散策。橋場町で一旦降りて、主計町茶屋街へ。浅野川の静かな水面に、仄かな明かりと格子窓、桜の映る様が美しい。茶屋として現在も営業しており、夕刻となると、時折三味線の音が聞こえてきたりもするようだ。
 再びバスに乗って、次は兼六園で下車。昼間とは、印象が全く異なる。闇の中に白く照らされる花々は、どこか妖しく、艶かしい。
「夜の雰囲気も素敵です〜」
 リアが、歩きながら歌を口ずさむ。その声に、すれ違う人々が振り返った。
 その後、元将校倶楽部の白い壁や、旧制第四高等学校、旧県庁のライトアップされた赤レンガ等をバスの中から眺めながら、町を1周したのだった。

「逢いたかったわ〜菊の姫君♪」
 宿に戻ると、レインが酒瓶を抱きしめた。市場散策組に頼んでおいた物だ。加賀は元百万石の米処。名だたる酒も数多い。天狗が舞ったり手取川が流れたり、正宗がオメデタかったりするのである。
「かぶら寿司も、買っておいたぞ」
 こちらは、蕪に鰤を挟んで麹で漬け込んだもの。日本酒との相性は抜群だ。
「ありがとノース。さ、皆飲も飲も。レティシアちゃんは、ジュースで勘弁だけどさ」
 ぽむ、と頭を撫でられて、じと‥‥と皆を見つめるレティシア。
「うう‥‥『ぶどうじゅーす』を請求したいのですが」
 手渡されたのは、100%ブドウジュース。
「えっと、お米じゅーすでも良いのだけど」
 手渡された湯飲みは‥‥甘酒。
「ま、元は、同じ物ですから。これでご容赦ください」
 月子が苦笑する。
「月が出てないのは残念だけど、星見酒ってのもたまには悪くないね」
 ぷはー、と感極まった息を吐くレインであった。

 翌日。午前中に、金箔の工房へ行き、金箔作成を見た後で、実際に箔押しを体験。2000円未満と、意外に安価で体験が出来る。その後は、ひがし茶屋街でティーブレイク。時代が撒き戻ったような、格子窓の並ぶ街である。
「ここは、一見さんお断りの店が殆どだって?」
「殆ど‥‥という程でもありませんが。でも、芸妓さんを呼んでの遊び、となると、一般の方は難しいですねぇ‥‥私もやったことありませんし。伝手もお金もありません」
 月子の溜息に、アフリディが苦笑する。
「そういうのもエキゾチックで良いさね」

 バスは町を抜け、ゆるゆると坂を上っていく。次第に道の舗装が荒くなり、建物が減っていった。
「しばらくはこんな感じです」
「日本の田園風景というやつだな」
 ノースが窓を開けた。まだ水も張られていない裸の田んぼが、山と山との隙間を埋めるようにして広がっている。耕地の始まっていないそれには、タネツケバナが一面に白い花を咲かせていた。
「タンポポにヒメオドリコソウ、ヨモギも芽を出してるね。あら、ツクシの笠が、あんなに開いてる。すっかり春だねえ」
「レインさん、目が良いんですね」
 畑で、お爺さんお婆さんが農作業。のどかだ。菜の花の黄色が鮮やかである。
「いいお天気ね。レンタルサイクルとかで来ても良かったかも」
 ユリゼが、春風に目を細めた。
「いや〜‥‥結構時間掛かるんですよね。知人が『そっか、そういや湯涌も市内だったよね‥‥忘れてたよ。あははハハ』とか、訳解らないことを言いつつ、サイクリングに行って来まして〜。往路は引いたり乗ったりで1時間半くらいとか」
 そうして山道を進んだ先、バスの終点に、湯涌温泉はあった。
 まずは、金沢湯涌夢二館へ。1階のシアターでは、画家であり文筆家であった竹久夢二の生涯や作品、金沢との関りや、恋愛についてのビデオ。隣室と2階では、パネルや作品が展示されている。
「幻想的で素敵だ‥‥」
 憂いを含む瞳の女性達。滑らかな線で描かれる着物、鮮やかな色彩。アフリディが、食い入る様に見つめてる。
「でも、結構ロクデナシだったのね」
 スパッと斬り捨てるレティシア。
「ま、美人画で名を馳せた人だからね」
 女性との噂も、絶えなかったのである。レティシアの少女らしい潔癖さに、レインが苦笑した。

―湯涌なる山ふところの小春日に眼閉じ死なむときみのいふなり―
 夢二が、夭折した恋人、彦乃に寄せた歌。忍ぶ恋であったという。

 一通り回った後で、お土産を物色。絵葉書や千代紙が並ぶ。
「あ‥‥これ、可愛いな」
 ユリゼが目を付けたのは、ガラスケースの中の、小さな鈴と手毬の根付。
「私と友達と姉さんと‥‥3つで2100円か。これくらいなら」
 今まで、結構節約してきたし。小さな、旅の記念品である。

「効能は、疲労回復・神経痛・筋肉痛‥‥。美人の湯ではなくて残念だ」
「いやいや、美人の基本は健康ですよ、ノースさん」
 夢二館の後、茅葺農家群を見学して、小さな神社とお寺に参拝して、仕上げは当然温泉である。
 浴場には湯船が2つ。ガラスで仕切られた奥側は岩風呂で、壁2面が網になっている。
「風が、通り抜けるようになってるのね‥‥気持ち良い。でも、皆のぼせない様に、ね」
 熱い湯と、少し冷たい風。上半身が冷まされるから、少し長めに浸かっていられる。湯気が、水面を滑ってゆくのが、中々風流である。
「大丈夫だ。少し温まったら休むようにしている」
 すぐに出ては勿体ないからな、とノース。
「そうね〜のぼせるギリギリまで粘らないとね。あー、お酒持ち込めたらもっと素敵だったのに♪」
 そう言ったレインの傍で、さっきまで小さく歌っていたリアが、
「はう〜少し湯あたりしたのです〜。お、お先に失礼しますです〜」
 と顔を真っ赤にしている。レティシアは、少し離れた場所で、足を伸ばし、目を瞑っている。「子供には子供の気苦労があるのよ」といったところか。
「この後は、またバスで駅に向かいます。皆さん結構節約されてたようですし、ご予算が余った方はそこでお土産も買えますよ。それが済んだら、解散となります」
「なんだか、あっという間だったのだね‥‥」
 アフリディの言葉が、皆の気持ちを代弁していた。
「また、機会があったら、いつでもいらしてくださいね」
 脱衣場から、リアの歌が聞こえて来る。
 春の夢のような2日間の余韻が、歌声と共に空へと登っていった。