ちまっとサバイバル!

■ショートシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:フリー

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月14日

●オープニング

●手のひらサイズの小人さん♪
 あなたは、この世界に『ちま』と呼ばれる小人が住んでいることをご存知ですか?
 ちまたちは、手のひらサイズという小さな身体です。でも毎日はちきれんばかりに元気いっぱい☆
「いやーん、おへそから破けちゃうよぅっ!」
 時々本当にはちきれそうになっちゃうのも、ちまならではです。
 そんなちまたちも、この世界で生きているからには学校に通わなくちゃいけません。

 電車に揺られてふた駅越えて 商店街を駆け抜けて。
 住宅街の学校へ 公園ジャングル突き抜けて。

 でも、たったそれだけの道程もちまにとっては大冒険なのです!!
「ラッシュアワーの電車、こわぁい!」
「パン屋さんの匂い、いい匂い〜」
「くもの巣、今日は負けないぞっ!」
『あ、ちまだ、ふんづけちゃえー』
「「「きゃー!!」」」
 小さな人間さんのちまたちにとって、大きなの人間さんと暮らすこの世界は危険がいっぱいなのです。

 だけど、今日も元気に学校に通います。
 大きな人間さんの屋根裏のおうち。
 大きな人間さんの床下の隠れ家。
 公園のおじいちゃん樹のうろの家。
 ちまたちはどこにでも住んでいます。
 そしてほら、今日も駅前の時計台で待ち合わせ☆

 ──はたして今日は、キンコンカンまでに着けるかな?

●今回の参加者

 ea0073 無天 焔威(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9412 リーラル・ラーン(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb3076 毛 翡翠(18歳・♀・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●駅前公園で待ち合わせ☆
「おはよー!」
「おはようなのだ!」
 時計台の下のベンチの、そのもっと下のほうから、元気いっぱいのご挨拶♪
 先に待ってたのは学級委員長のフェリーナ・フェタ(ea5066)ちゃん。後から来たのがふさふさお髭の毛翡翠(eb3076)ちゃんです。
「ふぇりーなさん、まおさん、今日も早いでやすね」
 おはようございやす、と以心伝助(ea4744)ちゃんもぺこりとご挨拶です。
「みんなおはようなの〜」
 ちまにゃんこと王娘(ea8989)ちゃんも元気良くご挨拶☆ 
「今日も万難を排し、ともに頑張って登校しようではないか!」
 優等生のシャリーア・フォルテライズ(eb4248)ちゃんも3分前にきちんと登場です。
 近所のばがんくんが朝寝坊してしまったのでシャリーアちゃんの登場はいつもより遅かったみたいです。
「リーラルちゃんは今日も遅刻なのかなー?」
「飛くんもまだなのー」
 ふぇりーなちゃんとちまにゃんが心配そうに首を伸ばします。ベンチから顔が出ちゃうと大きい人間さんに蹴っ飛ばされちゃうかもしれません!
「しふしふ〜! すまない今日はビル風が強くてな」
 パタパタと時計台の方から飛んできたのは飛天龍(eb0010)ちゃんです。ちまに似たてますがちまではありません。通常のちまより一回り小さくてパタパタと空の飛べるしふしふ族です。
「しふしふでやすー」
 飛くん風にご挨拶をした伝ちゃん、じーっと時計台を見上げます。その時計は10時をちょっと過ぎてしまいました。
 ──キラーン!
 ──どったーん!
「いたた‥‥あう〜、今日も遅刻しちゃいました‥‥おはようございます〜」
 盛大に転んだリーラル・ラーン(ea9412)ちゃん、真っ赤になったおでこをすりすりとさすりながらご挨拶です。
「あの、そろそろ‥‥退いていただけやせんか‥‥」
 転んだリーラルちゃんに押しつぶされていた伝ちゃんが呻きました。時計台によじ登ろうとベンチの下から出ようとしたのがバレちゃったみたいな、素敵なタイミングです。
「あ、ごめんなさいっ」
 慌てて退いたリーラルちゃん、そのままひっくり返ってしまいました。
「「「きゃー!」」」
 ──ビ、ビー!
 クラクションを鳴らす黒塗りリムジンの窓からちまっと顔を出しているのは神ちまと崇められている無天焔威(ea0073)ちゃんです。
 転んでいたリーラルちゃんも皆も元気良くご挨拶です。
「あ、神ちまだ! おはようございまーす!」
「おはよーございまーす!」
「うむ、皆今日も元気でよろしい! 遅刻せずに学校へゆくのだぞ!」
「「「はーい」」」
 車で登校しちゃうのは神ちまだからです。普通のちまの皆は自分たちで行かないといけないのです。
「これも、ちまの成長を促すため‥‥涙を呑んでがまんがまん〜♪」
 笑顔で手を振りながら、神ちまを乗せたリムジンはブゥ〜っと走っていきました。
 ご挨拶も済んで、皆揃って出発です♪


●電車に揺られて二駅超えて♪
 ちまにはちょっと大きなランドセルを背負ったフェリーナちゃんが改札でぴょんこぴょんこと飛び跳ねます。
「駅員さーん!」
『おはよう、今日も元気だね』
 抱き上げた駅員さんは皆の分の定期をチェック☆ もちろん定期は大きい人間さんのものより小さめで、駅員さんの手作りです。
『はい、どうぞ』
「ごくろうさまなのだ」
 定期を確認した駅員さんはにっこりと改札を通してくれました。ちまは小さいので無賃乗車をしても怒られないのですけれど、優等生のシャリーアちゃんも委員長のふぇりーなちゃんも、そんなことは我慢できないのです。
「やっぱり専用の通り道もあると嬉しいなぁ‥‥」
 改札を抜けながら、毛ちゃんがぽつりと呟きました。ちまの数はとても少ないので専用改札なんてありません。
 ホームに出たら皆で逸れないように気をつけて、大きな人の足にも気をつけて、てちてちぽてぽてと歩いていきます。
「ここにはちまがいるのー! お願いだから踏まないでー!」
『‥‥』
 ふぇりーなちゃんの振り上げた黄色い旗には『ちま通行中』の文字が大きく黒々と!! 気付いてくれたサラリーマンのおじちゃんはそっと道を譲ってくれました。でも列は譲ってくれません。順番を守るのは大きい人間さんもちまも一緒のルールです。
「‥‥‥お茶があるのだ‥‥」
 ホームで毛ちゃんを捕らえてしまったのは自動販売機。
 ──じゅるり
 溢れるよだれを拭いました。もう電車が来てしまいます。駅員さんの声がホームに響いて、電車の巻き起こす風に煽られて、毛ちゃんはぐいっと涙を拭いました。さらば、自動販売機!!
 ──ぷしゅう
 無情にもドアが開きました。降りる人を待ったらいよいよ乗り込みます。1ちま分の隙間をこえて「えいやっ」と飛び乗るのです!
「この瞬間は毎日スリリングっすね」
 どきどきしている伝ちゃんの横を、ちまにゃんとリーラルちゃんが大きい人の波に押し流されていきました。
「あわわ〜人が激流なの〜‥‥」
「はわ〜‥‥」
「皆、追いかけるっすよ! とおっ!」
「たあー!」
 いつもはリーラルちゃんが落っこちてシャリーアちゃんが「ちまっとぉ! いっぱーつ!」と助け上げるのですけれど、今日は流されてしまったので安全だったみたい?
 さて、ラッシュに押しつぶされないように皆頭を使っています。先頭と最後尾の車両にちま専用座席があるのですが、そこに行くには待ち合わせを9時半にしなくちゃいけません。
 よいしょ、うんしょっと手すりをよじ登り網棚へ避難する伝ちゃんとちまにゃん。大きい人間さんの荷物を退かして自分たちの居場所を確保☆
 さっきのサラリーマンのおじちゃんが肩に乗せてくれたふぇりーなちゃんは遅刻しないように毎日早起き。おかげでうとうと眠そうです。
 シャリーアちゃんは降りやすいように、リーラルちゃんと毛ちゃんと隅っこに避難です。身を寄せ合ってGに耐えるのです!
 そしてしふしふ族の飛くんはつり革の輪っかの上に座り、革部分にしっかりしがみ付いています。輪っかに普通に座っていたら握り潰されてしまうからです。‥‥それも修行なんですけれどね?
 窓の外では神ちまが六枚の羽でぴゅーっと一っ飛び☆ きっとリムジンがラッシュに捉まってしまったのでしょう。
 最初から飛んでいけなんて無粋な突っ込みはしてはいけません。神ちまは偉いのです!
 今日も神々しい神ちまに手を振っていると、車内アナウンスが響きました。
「あっ、降りなくちゃいけないのだ」
 シャリーアちゃんは人ごみを掻き分けて扉に近付いてきた大きい人間さんの足にしがみ付きました。一番安全に降りるのはこの方法なのです。もちろん毛ちゃんもリーラルちゃんもよいしょっとしがみ付きます。
「ふぅ、今日も安全に降りられ‥‥‥あれ?」
 大変、伝ちゃんとちまにゃんが網棚に残されています!
「こんな時こそ、必殺のちょとつけ〜ん!」
 毛ちゃんが果敢にも電車に突っ込みました!
 ──ぼよよ〜ん。
「きゃ〜!」
 跳ね返されてしまいました、残念っ!
「二人は俺に任せろ!」
 飛くんが車内に戻ります!
「はわ、先に行ってなの〜!」
「きっと間に合うっす! 学校で会いやしょう!」
 ──ぷしゅうう
 3人を乗せ、電車は無情にも発車してしまいました。
「‥‥‥皆の死を無駄にしないためにも、我々は涙を拭いて行かねばならぬのだ‥‥!」
「シャリーアちゃん‥‥」
 ぐいっと涙を拭いて、生き延びた4人はホームを後にしました。


●商店街を駆け抜けて♪
「おはようございまーす♪」
『おはよう、今日も元気だね』
 すれ違う皆へ元気にご挨拶するふぇりーなちゃんは、今日も商店街の人気者♪
 そんな商店街で、ちまたちは今日も足を止めてしまいます。だって、商店街は良い匂いがいっぱいなんですもの。
 お茶屋さんの焙じ茶の匂い。
 パン屋さんの焼きたてパンの匂い。
 お弁当屋さんの炊きたてご飯の匂い。
 今日の日替わり弁当は、ハンバーグ弁当です。
「うう‥‥給食のおばちゃん‥‥力を貸してほしいのだ!」
 シャリーアちゃんの大好物のハンバーグ。でも、今日の給食もハンバーグです。残したら毎日給食を作ってくれるおばちゃんが悲しい顔をしてしまいます。こんなところで誘惑に負けてはいられません!
「ふぇりーな殿、正気に戻るのだ! パン屋さんに見惚れていると昨日と同じに遅刻してしまうのだ!」
「はわ〜、遅刻刻しちゃうのは駄目なのー」
 シャリーアちゃんは皆勤賞なのですが、ふぇりーなちゃんは昨日とうとうパン屋さんに負けてしまった所なのです。二連敗は良くありません。
「お茶の匂い〜‥‥」
 お茶を焙じている匂いがふうわりと鼻を擽って毛ちゃんはぶんぶんと頭を振りました。ここで誘惑に負けてはいけません!
「むむ、誘惑には負けぬ! ちょとつけん〜!」
「あ、まおちゃん、そっちは危ないのー!」
 ふぇりーなちゃんの静止は間に合いませんでした。毛ちゃんはお茶屋のおばあちゃんの足に‥‥ぼよよ〜ん、とぶつかってしまいました。
『毛ちゃんかい、おはよう。放課後になったら今日もお茶の味見をしておくれ』
「うむ、任せておくのだ!」
 お楽しみは後に取っておくのです。そしてそんな毛ちゃんに目もくれず青いお空を見上げていたリーラルちゃんは様子を見に飛んできた神ちまに手を振って、またコロンッと引っくり返ってしまったのでした。
「きゃー、りーらるちゃんっ!」
「しっかりするのだ!」
 ふぇりーなちゃんとシャリーアちゃんが二人掛かりでリーラルちゃんを助け上げて、誘惑一杯の魔の商店街をてちてちてちっと駆け抜けたのでした。


●公園ジャングル突き抜けて♪
「ふぅ、やっと公園なのです〜」
 リーラルちゃんがきょろきょろと辺りを見回します。そして目を真ん丸くして驚いて‥‥どったーん☆ と引っくり返ってしまいました。
「遅かったでやすね」
「修行が足りんぞ」
 いつの間に追い抜かれてしまったのでしょう。我慢していたのに待ちくたびれてしまった伝ちゃんはするするとのぼり棒から降りてきました。さすが忍者です。飛くんもこんなちょっとした時間にも修行を欠かさず、ジャングルジムの間をひゅんひゅんとすり抜けています。
 ──ゴンッ
「しゅ、修行が足りぬのだ‥‥」
 ふらふらふら〜っと墜落したのは、なんと公園の主、どら猫ゴンザの目の前でした!
 ──ぶみゃあああっ!
 目の前のしふしふ族もゴンザにとってはただの玩具にすぎません。必死で逃げる飛くんですが、相手が悪いようです。
「きゃー、ふぇいくーん!!」
「逃ーげーてー!!」
 皆必死に応援しますが、そんな応援も届きません。飛くんは必死なのです!
 その時、ぴか〜っと空が光りました。そして現れたのは神ちまほーちゃんです!!
「ちまゴッド様!」
「飛くんを助けてあげてー!!」
 ──キュピーン!!
 何かが光りました。そしてほーちゃんは急下降!!
「ちまにあだなす者め‥‥どろにまみれてしぬがいいっ」
 意外に黒い腹の内を垣間見せながら、ゴンザの眉間にダブルアタック!!
 ──ぶみゃー!!
 びっくりしたゴンザは飛び上がって逃げてしまいました。神ちまほーちゃんはやっぱりちまの守り神です♪
「さあ、遅刻しないように行くのだ〜♪ 遅刻したら容赦なくお仕置きするからね〜☆」
「きゃー!」
 ちまたちは必死に公園から駆け出しました。


●キンコンカンまでに着けたかな☆
 住宅街を歩いていると学校が見えてきました。今日は幼稚園児もいなくて、踏まれることも握りつぶされることもなく済みそうで一安心ですが‥‥幼稚園児はいなくても立ちはだかるのは最難関、ちまたちが『ちまころ坂』と呼ぶ急な坂です。
「あうあう〜今日も相変わらずちま殺しの坂なの〜」
 ちまにゃん、ほわほわあわあわと大忙し。
「なかなか良い鍛錬になるな」
 空の飛べる飛くんにはちまころ坂も関係ないのですが‥‥鍛錬のためにも一緒に走っています。
 三分の二くらい上がったとき、とうとう最初の脱落者が!
「はわ〜」
 リーラルちゃん、今日も転倒! そしてころころとちまころ坂を転がっていきます!
 でも予想していたシャリーアちゃんががっちりキャッチ☆

 ──したはずだったのに。

「ま、巻き込まれるのだ〜」
 緊急事態です!!
「任せるのだ! ちょとつけー‥‥」
「きゃ〜」
 猪突拳で押し上げようとした毛ちゃんの腕から抱えられていたふぇりーなちゃんがずり落ち、ごんごんごんと地面に頭がぶつかります。
 けれど、猪突拳の毛ちゃんもちまころの勢いは止められません!!
「にゃんにゃん、受け取れっ!」
 咄嗟に飛くんがマジカルステッキをちまにゃんに投げました! たしっと受け取ったちまにゃんは早速マジカル☆にゃんにゃんに変身です!!
「まじにゃんちま参上! 皆をお助けするのですっ!」
 くるくる回ってきゅるるんと決めポーズっ☆
 ‥‥でもポーズをとった瞬間に巻き込まれてしまいました。残念!
「むぎゅ!」
 しかもしふしふ族の飛くんも巻き込まれてしまいました! 気付けば一番下まで逆戻り★
「が、頑張るの〜‥‥」
 傷だらけになりながら、皆は再びちまころ坂を上り始めました。
「一番乗りっすー!」
 ちまころ坂の天辺にたどり着いた伝ちゃんが元気に宣言♪ ところが、宝物の長ーいマフラーが足に引っ掛かり、再び坂をころころと逆回転。よいしょ、よいしょっと再び上っていた皆を巻き込んで、また一番下からやり直しです──残念!
「ほら〜しっかり〜〜遅刻するぞ〜〜♪」
 上空からのほーちゃんの応援に、皆はそれでもめげずに立ち上がりました。
「し、シャリーアちゃんは先に行って‥‥皆勤賞‥‥」
 ボロボロになったふぇりーなちゃんが、シャリーアちゃんを送り出します。涙を拭いて、シャリーアちゃんはちまころ坂を登り始めました。
「皆の思いは無駄にしないのだ‥‥!」

 ──キーンコーンカーンコーン‥‥

「シャリーア以外は遅刻だな。‥‥それでは授業を始めますっ」
 ちまゴッド様は容赦なく授業を開始しました。

 その日、他の皆が校門に辿り着いたのは給食のキンコンカンが鳴り響く1分前でした。
 ボロボロになったちまたちをにこにこと労ってくれたのは、いつもの通り給食のおばちゃんでした。
『今日もお疲れだったね、ハンバーグを食べたらきちんと保健室に行くんだよ。はい、これは頑張った皆にサービスの飴ちゃん♪ 内緒だからね?』
「「「わーい、ありがとー♪」」」
 ここだけの話ですが。ちまたちは登下校に時間がかかるので、授業は午前中だけなのです。
 ‥‥皆は、給食を食べたら保健室に寄って傷の手当をして、飴を嘗めながらおうちに帰るのです。

 ちまの日常は、常にサバイバルなのです。