続・戦う! 執事様!!ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
徒野
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/06〜12/10
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●本文
其処に抜け殻が居た。
否、其れは人だった。
「お、おにょれスティーブンス‥‥」
床に突っ伏した侭しくしくと泣いているのは、此でも此の屋敷の主人であるウィリアムで有るが‥‥其の姿での威厳は限り無く零に等しい。
何故彼がそんな姿に為って居るのかと云うと、仕事から三日間逃亡し遊び続けた末スティーブンスにマジ切れされ捕獲、其の後徹夜態勢で溜めた仕事を三日間処理していたから――と、何処か自業自得感が否めない結果である。が。
「ふ‥‥ふふ‥‥然しこんな事でへこたれるウィリアムでは無いわー!」
ウィリアムはゆらりと立ち上がると、沈む夕日に向かって吼えた。
「お、ダンナは元気だなー」
使用人ホールで休憩中の皆に珈琲を渡し乍、屋敷に響いたウィリアムの叫びにフィリップが微笑まし気に呟いた。
「否‥‥アレは元気とかそう云う問題じゃ‥‥」
使用人Bが見えない階上を眺めて返す。
「どうせ亦、碌でも無い事を考えてるんだろう」
珈琲を啜り乍、最強と名高い執事スティーブンスは冷ややかに云い捨てた。
――ウィリアムがとんでもない事をしでかす迄、後少し。
−−−−−
募集キャスト
・ウィリアム:26歳、男性、名家の旦那様。優秀だけど気分屋。日々遊ぶ事に全力を尽くしています。
・スティーブンス:28歳、男性、執事様。多彩な技を駆使して旦那様に執務させようと頑張ります。
・フォード:53歳、男性、使用人頭。何時も穏やかに和やかに皆を見守ります。
・使用人A・B:20代、男。巻き込まれ属性。偶に突っ込んだり。健気に頑張ります。
・テリーサ:20代、女性、メイドさん。案外撃たれ強い。同じく健気に頑張ります。
・フィリップ:29歳、男性、料理人。莫迦に明るく比較的真っ当な人。でも何処かずれてる。
・クラーク:不明、男性、向かいの屋敷の旦那様。何時も笑顔の謎多き人。何か色んな意味で黒い。
−−−−−
ドタバタホームコメディドラマ。
遊びたがりの旦那様に仕事をさせようと頑張る執事様の御話です。
旦那様は何としてでも逃げて遊ぶ事、執事様は何としてでも捕まえて仕事させる事、他使用人は巻き込まれつつ生暖かく見守る事、料理人は癒しつつ、御向かいさんは茶々入れつつを目標に、力一杯愉しんで下さい。
但し獣化は不可です。
旦那様が逃げ切るか、執事様が執務を全うさせるかはプレイング次第です。
●リプレイ本文
「っと‥‥OKですか?」
ひょこひょこっと三人の男女が現れる。本編が始まる前の粗筋紹介的な時間。
「えー、其れでは! 僭越乍私共使用人sが当家の皆様を紹介させて頂きます!」
ティルコゥト姿の男性使用人が二人と、シンプルな給仕服を着たメイドが一人。
「先ずは矢張り此の方。最強と名高い僕等の上司、執事のスティーブンス!」
そんな紹介と共に、背景に一人の男性――同じく黒いティルコゥトを着こなした、伊達 斎(fa1414)扮するスティーブンスが映し出される。
「そして当家の旦那様、遊び好きなのが玉に瑕‥‥なウィリアム!」
カシャと機械的な音がして、背景の写真が入れ替わる。今度は長束 八尋(fa4874)扮するウィリアムだ。
「当家の二大癒し系、使用人頭のフォードにコックのフィリップ!」
二枚の写真が並べられて、妃蕗 轟(fa3159)のフォードと蕪木ラシェイル熊三郎萌(fa4042)のフィリップが見せる笑顔が眩しい。
「おっと、当家の方では無いですが、忘れちゃ不可ない御隣様。キャンディス!」
肩にリスザルを乗せたブロンド輝く御嬢様――麻倉 千尋(fa1406)扮するキャンディスに背景が切り替わる。
「そして申し遅れました、此の様な大役を頂きましたのはウィリアム家使用人ジェイムズと」
「ジャック!」
「メイドのテリーサでした」
ジェイムズ役のRickey(fa3846)とジャック役の葵・サンロード(fa3017)、テリーサ役の御子神沙耶(fa3255)が並んでぺこりんと御辞儀をする。
「其れでは、どうぞ御愉しみ下さいませ!」
斯くして、ドタバタホームコメディの幕が上がる。
■ □ ■ □ ■
抜け殻状態から復活したウィリアムはキラキラと輝く瞳で云い放った。
「僕、思ったんだ‥‥一生懸命仕事した後に遊ぶ方が楽しいって」
其の呟きを聞く者は誰も居ない。
「――とゆ事で三日徹夜で仕事したから遊ぶーー!!」
ガチャガチャっとクローゼットを開けて、にやりと笑う。
「‥‥さて、そろそろ旦那様に仕事に戻って貰わねば」
珈琲を飲み干して立ち上がるスティーブンスに、疑問符を浮かべたフィリップが問い掛ける。
「おや、徹夜して全部終わらせたんじゃ無かったのか?」
「終わったのは昨日迄の分だ。今日の分が残っている」
溜息を吐いて使用人ホールを出て行く途中に振り返る。
「御前達も、そろそろ仕事に戻れよ」
「ぁ、はいっ」
スティーブンスに合わせて立ち上がったジャックが元気良く返事する。
其れを見て頷くと、スティーブンスは使用人ホールを後にした。
「あれ、そういやテリーサは?」
姿の見えない同僚にジェイムズは首を傾げる。
「嗚呼、テリーサなら洗濯物を取り込んで居ましたよ」
厚手のエプロンを畳み乍、勝手口からフォードが入って来る。庭仕事でもしていたのだろう。
「あ、フォードさん、云って下されば庭師を呼びますのに‥‥」
ジェイムズが慌ててエプロンを受け取る。其れに対してフォードは静かに微笑み返す。
「いえ、少し気に為っただけなので、ね」
「ジェイムズー? 先行くぞー?」
「ぁ、一寸待て、って‥‥」
ジャックの言葉に振り返ったジェイムズは動きを止め。其の様子を見て不思議そうにジャックも其の視線の先を辿る。
其処には、見慣れたメイド‥‥の姿をした、
「だ、旦那、様?」
ウィリアムが居た。
奇妙な格好をしたウィリアムは、ホール内を見廻してにこりと微笑んだ。
「あ、皆揃ってるんだ。――丁度良いや」
「え」
「旦那様、そろそろ仕事に‥‥」
スティーブンスは執務室の扉を開けて、黙り込んだ。
先程迄主人が座っていた椅子には相変わらず、御粗末な人形が置いてあり――ひらひらと、紙片が舞う。
『僕は今度こそ流浪の旅に出ます。探さないで下さい。でもでもでも、究極にどーーしてもって云うなら、探してくれても良いんだよ?』
ぐしゃり。
「‥‥」
不図、先程覚えた違和感を思い出す。アレはテリーサと擦れ違った時だったか‥‥。
「チッ」
スティーブンスは盛大な舌打ちをすると来たばかりの廊下を駆け戻った。
「テリーサ! テリーサは何処だ!」
怒鳴ったものの、直ぐに見慣れた給仕服を見附けて詰め寄る、が。
「す、スティーブンス‥‥」
「‥‥ジャック、何をしている」
何故男性使用人がふわふわの給仕服を着ているのか。否、既に見当は附いているのだが。
「スティーブンス」
背後から穏やかに声を掛けられ、スティーブンスは振り返り、そして、目を見開いて固まった。
「テリーサならリネン室に‥‥嗚呼、えぇと。旦那様に『此を着ていろ』と云われたんですが‥‥何時迄着てれば良いですかねぇ」
初老の紳士――そんな言葉が似合うフォード迄、ウィリアムは見逃さなかった。
柔らかいフレアースカートに控えめなフリルの附いた白いエプロン。髪を纏めるカチューシャがずれそうになるのをそっと押さえる。
嗚呼、其れだけ聞けば清楚な雰囲気も感じられ様が。
「いえね、足はすーすーするしお腹が冷えそうで‥‥」
「直ぐに‥‥着替えて下さい」
やっと復活したスティーブンスはフォードの肩に手を置き、小さく其れだけ呟いた。
遡る事、ほんの一寸。
「はいっ、皆此着てねっ」
ウィリアムが男性陣に差し出したのはテリーサと御揃いの給仕服。
「は!? 何故俺が‥‥こほん。何故私がそ其の様な格好を‥‥」
「問答無用! 旦那様の命令だからね!!」
余りの衝撃に、一寸素が出そうに為ったジェイムズの言葉を丸で無視してウィリアムは各人に服を押し附ける。
「名附けて、テリーサが一杯作戦だー! あ、其れ着てくれたら後は好きにして良いから」
其れだけ云ってウィリアムは去って行った。呆然と其の後ろ姿を見送って、渡された服と対峙する。
「‥‥何で‥‥」
「何だー恥ずかしいなー」
「‥‥何で‥‥そんな自然に着られるんですかフィリップさんっ!」
気が附けば既に着替え終わっているフィリップにジャックは突っ込む。
「否、ほら‥‥何事も経験だぞ?」
邪気の無い良い笑顔で云われても‥‥こんな経験したくない、と誰もが思った。
「え、一寸見ない内に‥‥何が有ったのかしら」
本物、のテリーサが屋敷内の異様な光景を見て狼狽える。
「テリーサ!」
「ぇ、はい!」
突然背後からスティーブンスに呼び止められ、慌てて振り返る。
「‥‥本物か‥‥」
「え?」
状況の掴めていないテリーサを余処に、此の侭では逃げられて仕舞う、とスティーブンスは眉根を寄せた。
「お、丁度良かった。テリーサ、卵を1ダース程買って来てくれないか?」
キッチンの前を通りかかったメイド姿にフィリップは話し掛ける。
「ぇ? ‥‥僕?」
突如話し掛けられた人物――ウィリアムが辺りを見廻すが、テリーサは居無い。
「ん、何だ、旦那か‥‥っとおおっ?」
開けていた窓から何か小さいモノが飛び込んで来る。
「アレ? 此の子‥‥」
「可愛いーっ何此何此!」
現れたのはリスザル。何時の間にか、机上の果物を抱え込んでいる。
フィリップが少年の様に目を輝かせている横で、ウィリアムは首を傾げた。
「何処か、で‥‥」
見た、と呟く前に勝手口が静かに開く。
「御免なさい、此方にアイアイが‥‥っきゃ!?」
申し訳無さそうに覗き込むのは隣に住む令嬢、キャンディス。が、二人の格好を見て驚きの声を上げる。
「何事、ですの‥‥?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
そして二人は見つめ合っていた。
と云ってもロマンス的な、甘いモノでは無い。
「えーと、失礼ですが、御名前を‥‥」
「ウィ‥‥ええとウィンディアですの‥‥うふふ、ふー」
――ウィリアム邸の前。
屋敷から出て来た処を捕まえようかと張っていたスティーブンスと、事情を聞いたキャンディス‥‥のメイドに半ば玩具にされ乍女装度をアップさせられてたウィリアムが鉢合わせた。
「ミス・ウィンディア、ですね」
淡々と。紳士的な態度‥‥でウィリアムに接するスティーブンスに、若しかして気附いていないのでは、否真逆、と後で使用人が囁き合う。
「あんなバレバレな変装なのに、何故気付かないんでしょう‥‥。前々から思っておりましたが、スティーブンスさんって天然ボケなのでは‥‥」
そうこう云っている内に、引きつり笑顔の“ウィンディア嬢”を見送るスティーブンス。
「さて、旦那様は何処に‥‥」
其の姿が完全に見えなくなってから忌々しげに呟かれた其の言葉に、あ、矢っ張り本気で気附いてなかったんだ! と使用人達が心中で叫んだ時、屋敷の電話が高らかに鳴った。
慌てて受話器を持ち上げるテリーサ。
『‥‥失礼、キャンディスですわ。スティーブンスに代わって頂けるかしら?』
ふふ、と受話器越しに愉しげな声が漏れた。
「ふいー、真逆真正面から逃げられるとは思わなかったよ」
額の汗を拭く仕草でウィリアムが呟く。
然し予想外の事とは云え、今自分は自由の身である。――少々格好に問題があるかも知れないが。
さーって何処から廻ろうかなーっと、ウィリアムがるんるん気分で街を眺めていると、すらっとした貴婦人が視界の端を掠める。
「‥‥ん?」
気に為って視線を巡らせると婦人もウィリアムに気附いたらしく、此方へ向けて綺麗に微笑む。
其の姿に暫し見惚れていると、婦人はさっと路地を曲がって行って仕舞った。
「ぁ、一寸待っ‥‥!」
思わず其の後を追い、路地を曲がって‥‥ウィリアムは硬直した。
「す、すすす‥‥すてぃー‥‥」
「如何かなさいました? だ、ん、な、さ、ま?」
其処に立っていたのは、貴婦人と同じ笑顔で微笑むスティーブンス。
彼の足下には脱ぎ捨てられたドレスの入ったトランク。
――ぎゃー!
「すてぃーぶんすのばかー‥‥」
泣き乍、椅子に括り附けられ必死に万年筆を動かすウィリアムの後でスティーブンスが綺麗に微笑む。
「何なら気分転換に亦‥‥私めが御附き合い致しましょうか? 旦那様?」
後半部分を、裏声で囁いて。
「ほんと、御隣の旦那様は見ていて飽きませんわ☆」
そんな姿をオペラグラスで覗き乍、キャンディスが愉しそうに呟いたのをウィリアムは知らない。