【Story Singer】閉筺アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
徒野
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/13〜12/19
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●本文
都内某処の事務所で相も変わらず、一人の男性が企画書の草案と睨めっこをしていた。見た目は二十代だが、歴とした35歳。
「あ゛ー‥‥?」
くるくると手持ちのペンを廻しつつ、声とも何とも判断が就かない唸り声を上げて居るのは此の事務所の責任者、信濃千榧。
手に持たれた草案にはぽつぽつと空欄が有る。如何にも、其れが悩みの種の様だ。
「うわ、何か変な生き物が居るのかと思った。‥‥妙な声出さないで下さいよ」
部屋の戸を開けて入って来た青年は千榧の妙な唸り声に眉根を寄せた。
「だって、さ‥‥決まらなくて」
「決まらない‥‥って、嗚呼、『SS』の続編ですか?」
千榧のデスクに寄って来た青年は其の手元を覗き込んで企画書を斜め読みした。
「そうだ、前回のが良い反響で。メール結構来てますよ」
――読みますか? と自身のパソコンに戻ろうとする青年。
「嬉しい内容だけ選り分けといて。読む」
「ぇ、否、責任者なんだから御叱りメール迄読んで下さいよ」
丸で子供の様な返事を寄越す上司に呆れを通り越して寧ろ焦りを感じる。
「勿論。其れは後で‥‥帰ってから読むよ。――案外撃たれ弱いからねー、後引いちゃうからねー」
そんな青年に千榧は苦笑と、後半部分を冗談の様な口調で返して、紙面にペンを走らせる。が、其れも亦直ぐに止まった。
「先刻からそんな、何に手こずってるんです?」
自分のデスクに戻った青年が書類越しに視線を向ける。千榧は下を向いた侭答えた。
「今回の主題(テーマ)。極端な話、此で内容が決まって仕舞うだろう?」
「あー、確かに」
主題に沿って曲が書かれるのだ。悩んで仕舞って無理も無い。
「‥‥ぁ」
暫くしてから唐突に千榧の手が動き出す。
「決まったんですか?」
青年が草書を受け取ろうと席を立って千榧のデスクを覗いた。
「何か‥‥『胡桃割り人形』みたいですね」
そう呟いた青年に千榧は微笑みを見せた。
「じゃ、ワープロ打って来まっす」
「宜しくー」
青年が草書の束を持って自身のデスクへ向かう。
空欄だった場処に埋められた言葉。
――『閉じられた玩具筺』
■ □ ■ □ ■
音楽番組『Story Singer』の出演アーティストを募集します。
ソロ、ユニット、グループ‥‥我こそは、と思う方は是非。
詠う語り部と為って、物語を綴りませんか?
■ □ ■ □ ■
改めて番組内容を説明します。
ex.)六組のアーティストが『或る恋人達の日常』と云うテーマで参加した場合
一組目がOPとして、全体のイメェジを唄い
二組目が仲睦まじい恋人達を唄い
三組目は些細な事で喧嘩した事を唄い
四組目が女性の寂しさを
五組目が男性の後悔を
六組目が仲直りした、仲睦まじい恋人達の唄をEDとして唄い、終わります
‥‥飽く迄例なので、他の視点から、と云うのも有るでしょう
其れ其れ一曲だけを抜き出しても、曲として完成されているのが望ましいです
従って曲調を合わせる必要は有りませんし、使用言語も問いません
番組の進行自体は普通の音楽番組と変わりません。
アーティスト紹介やMCの後演奏と云う形です。
亦、歌詞は其の侭凡て掲載という形になります。誤字脱字に御気を附け下さい
演奏順はプレイングで指定がなければミーティングルームでの挨拶順とします。
一組目はOPを担当して下さい。
■ □ ■ □ ■
信濃千榧 男 35歳 179cm 細身
「‥‥ぁー、童顔なの、其れなりに気にしてるから、云わないで貰えるか?」
●リプレイ本文
一本のスタンドマイクがスポットライトで照らされている。
薄暗い中に響く声。
『――此の世には幾つもの物語が溢れ、亦、今も生まれ消えている‥‥』
スタッフの無言の合図で、一斉に照明が上げられ、ライブハウスの様なスティジが浮かび上がる。
『消さない為には伝えねば。誰かの記憶に残さなければ――さぁ、語り部達よ。詩を‥‥紡ぐが良い』
暗転し、次に照らされたのは司会者の立っているスタジオセットだった。
「皆さん、今晩和。綴られる物語、『Story Singer』第二夜の幕が上がります」
柔らかく微笑む司会者。
「今回のテーマは『閉じられた玩具筺』。‥‥筺の中の玩具達は、一体何を唄うのか」
其処でカメラと照明がライヴセットの方へと切り替わる。映し出される二人。
「其れでは早速一曲目、門屋・嬢(fa1443)と鈴木悠司(fa5189)によるユニット『friendship』で『Toy twinkle』、どうぞ」
口の端を上げて笑みを形作りベースを構えた嬢と、初仕事で一番手と云う状況に緊張しているのか、其れでも興奮気味に目を輝かせている悠司。
合図と共に嬢が軽快にベースを奏で出す。其れを追い掛ける様に悠司の歌声が重なる。
『さあ僕ら動き出す
それはキラキラ舞い落ち上がり
楽しいこの時満喫するのさ
右に左に前に後ろに
飛び上がるココロ、カラダもう止まらない――』
マーチ調の元気な音が弾んでいる。カラフルなライトが愉しげに踊っている。
見ている方迄思わず笑顔が零れる様な、愉しそうな悠司の声にコーラスとして嬢の声が加わる。
『“僕らこの時ずっと待ちわび 今は全て忘れて楽しんで”
覚めない夢と踊り続ける、なんて言っちゃって
さあまだまだここからお楽しみ!
動き出したら止まらない
キラキラ星達あちこちばら撒き
僕らのココロも益々光るよ
ほら飛び出したこの想いはもう止まらない
“僕らこの時ずっと踊るよ この時はさあ一瞬なのさ”
これが夢でも踊り続ける、なんて言っちゃって
この時にさあ、全てと踊ろう
僕らはキラキラ踊って騒ぐ、この夢ずっと覚めやしないさ』
歯切れ良く曲が終わると、嬢と悠司は手を取り合って同時に御辞儀をした。
拍手の中照明が落とされ、スタジオセットに切り替わる。
「元気良く幕開けを飾って呉れた、『friendship』の御二人です」
司会者の紹介と共に嬢と悠司がスティジから戻って来る。
「ども」
「迚も愉しそうな曲でしたが、イメェジとかは?」
「そうだね‥‥玩具筺が閉じる前の、思いっきり騒ぐぞー! って感じかな」
嬢が笑って答える。司会者は頷き乍悠司に視線を送る。
「トップバッターでしたが、如何でした? 緊張しました?」
「始めはしてたんですけど、歌い出したらもう、愉しくって」
そう云って笑顔を浮かべる悠司に司会者も微笑み返す。
「聴いていてわくわくする様な曲を有難う御座いました。‥‥次は、ミズホ(fa4826)と雪架(fa5181)による『Fresh』、タイトルは『in a box』です!」
白いブラウスに黒いふわっとしたスカートを着た、丸で人形の様なミズホと白のスタンドカラーシャツに黒のパンツ、同色の短いサロンを細いベルトでぐるぐると止めた、丸で給仕の様な雪架。
ギターの助っ人として蓮 圭都(fa3861)も構えている。
「臨時新人ユニット『Fresh』です!」
「其れでは『in a box』、聴いて下さい」
客席に笑顔を向けて、演奏体制に入る。
『――「アサガクルヨ」――』
掠れた囁き声。
其の声が消えるのを待たずにギターとドラムが力強く鳴り響いた。
『誰の号令だよって いつもわかんない
囁きが聞こえたら パーティの終わる合図だ
気が付けばみんな知っていた
このままここにいたら 君は呼んでくれるかな
筺を開けたら足突っ込んで おやすみモード
ふたを閉めた真っ暗な筺の中 気配を探して耳を澄ますよ
君の朝が目を覚ます
ボクの夜は筺の中――』
賑やかなロックサウンドに雪架の心地良い声が乗る。
キーボードの跳ねる音とドラムの細やかなビートが追い掛け合う。
始めは演奏に集中していたのか真剣な表情だったミズホにも余裕が出て来たのか笑顔が見えた。視線を雪架に送る。
『気付いたら背中のぜんまいが錆びてちょっと疼いてた
夜の筺が開いても 巻かれないままの螺子 僅かな動力に足りない
触れてくれなくていいよ たまには思い出して ねえ
ブリキのガラクタに 笑ってくれた君のこと
ふたを閉めてボクは夜の筺の中 もう少しだけ覚えてるから
君のユメが目を覚ます
ボクはまだ 夜の筺の中』
最後のインパクトと共に照明が落ちる。
拍手と歓声を背に浴びて、ミズホと雪架の二人がスタジオセットに現れる。
「御疲れ様でした! アップテンポな曲調とは裏腹に少し切ない歌詞でしたが‥‥?」
司会者が二人にベンチに坐る様勧め乍問うと、雪架が微笑み答える。
「コンセプトが『持ち主に恋をしたブリキ人形』なんですが、女の子の興味が其の人形から逸れちゃってるんです。でも、其れでも良いから‥‥って感じですかね」
「成程‥‥おや、ミズホさん、其れは?」
「え、あ、スティック‥‥持って来ちゃいました」
ミズホが照れた様に笑う。
「緊張しちゃって‥‥けど楽しかったです!」
満面の笑みに、司会者は頷くとライヴセットへと視線を送った。
「ええ、次の準備が出来たようですね。三曲目は蓮圭都と柊アキラ(fa3956)の『朧月読』で『Bitter』です」
薄闇の中、柔らかなスポットの中アキラが圭都をエスコートして現れる。
先程と衣装を代え、白と灰色で纏められたサンドリヨンを纏った圭都と、黒パンツに無地薄灰色シャツを身に着けたアキラ。シンプルな出で立ちのアキラの首元にはチョーカーが揺れる。
二人は其れ其れ楽器を構えると、其の雰囲気の侭ゆっくりと奏で始める。
『小さな物語を追って 御伽の国の妖精は舞い
金色に光りながら 永遠を歌ってた
何でも叶えてくれる 魔法の夢はメロディにのり
手の平で回りながら 一時の約束を――』
メインは圭都の歌声。其れを引き立てる様に、添える様にギターとベースが鳴く。
段々とテンポが上がり、
『パレードの足跡 動かない兵隊 色褪せた写真は
ホコリかぶった扉の向こう
素敵な時間 何もかも過ぎてしまったから――』
一拍置いて、スローテンポに戻る。
『温もりなくした部屋 開く手はもうない
本当は終りじゃなくて
Ah メロディは メロディは 今も』
最後は二人の声を合わせて。ゆっくりと、余韻を残して消えて行く。
合わせてスポットも段々弱くなり、暗闇になった処で拍手が起こった。
「しっとりと、心に残る曲でした。‥‥御疲れ様です」
登場時と同じ様にアキラが圭都をエスコートしてやってくる。
「有難う。そうね、玩具で遊んだ‥‥夢の名残を感じて貰えたら、大成功だわ」
圭都がベンチに坐って笑う。アキラも頷いて。
「後、皆で御話を一つ作っていくのって、新鮮な感じ。愉しかった」
そう云って、後に居た嬢達に視線を送る。
「聴いてる此方も、如何為るんだろうって、愉しみなんですよ」
そう云って司会者は笑う。
「では、名残惜しいですが最後の曲です。DESPAIRER(fa2657)、佐武 真人(fa4028)によるユニット『Serene Gloom』、タイトルは『Dreaming』」
ライヴセットにカメラが切り替わり、薄暗かったスティジに幻想的な青のライトが灯る。
グランドピアノが置かれ、モノトーンの衣装に身を包んだ真人が奏者席に附いている。傍らには黒のドレスの胸元に銀のブローチを着けたDESPAIRER。
静かに、真人の指が鍵盤の上を踊り始める。
『夜の闇が辺りを包み 物皆全て眠る中
昼に夢を運ぶ彼らは どんな夢を見るのでしょう
窓の外に浮かぶ満月 その光すら差し込まぬ
小さな小さな筺の中 いくつの夢が眠るのでしょう――』
DESPAIRERの切なく優しい歌声が、ピアノの音と解け合ってスティジを支配する。
曲調が変わり、紡がれる。
『夢を見せる夢 それも夢
夢にまで見た 夢もまた夢
Good night, sleep tight 今はおやすみ
夢の中の夢が覚めて 次の夢が始まるまで
Good night, sleep tight 今はおやすみ
いつか筺の蓋が開いて 目覚める時を夢見ながら』
最後、声と音が綺麗に伸びて消えていく。
辺りが静寂に包まれた頃、真人とDESPAIRERが合わせて優雅に一礼した。
「ピアノとのハーモニーが綺麗なバラードでしたね‥‥思わずうっとりして仕舞う程」
司会者が恍惚と呟くと真人とDESPAIREがスタジオに戻って来る。
ベンチについて司会者と向き合う。
「いやぁ、最後を飾るに相応しい曲有難う御座いました」
「‥‥そう云って貰えると‥‥嬉しい、です‥‥」
控えめに微笑むDESPAIRER。隣で真人が笑う。
「二回目だけど、矢っ張り面白いな。後でゆっくり、全曲通しで聴きたい位」
「ですね、纏めてCDでも作れたら良いんですけどねぇ」
そう云って司会者は笑うと、スタッフからの合図に視線を正面へ戻す。
「嗚呼、其れでは『Story Singer』第二夜、テーマは『閉じられた玩具筺』。名残惜しいですがそろそろ御別れの時間です」
カメラが其れ其れを映し出す。手を振ったり一礼したりと思い思いの反応を返し、全員を廻った処で亦引きの画になり、番組に幕が下りた。
■ □ ■ □ ■
収録後、スタジオからバラバラと散開し始める中、信濃千榧は出演者の前に行き一礼した。
「御疲れ様でした、良い演奏を有難う御座いました」
「いえ、此方こそ‥‥有難う御座いました」
其れ其れが挨拶し合う中、ミズホが手を挙げた。
「あの、中学生が言うことじゃないかもですけど。これから、打ち上げでもいきませんか?」
折角御縁が出来たんですし、と首を傾げるミズホにじゃぁ、と千榧は手を合わせ、にっこり微笑んだ。
「私が御馳走しよう。素敵な物語の御礼に」