彼の岩を排除せよ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 徒野
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/11〜07/15

●本文

「お、良い! 良いよ此処!」
 某省のと或る地方の山奥で、と或る映画の撮影現場を探していた、と或る監督は声を上げた。
 山頂に程近い割には木が少なく、視界が開けていて、平坦な地は適度な広さも有る。
「正しく俺の想像通‥‥ん?」
 うっとりとした様子で、自然の作った広場を見廻していた監督は何かに気附く。
「おい、何だ、アレは」
 そう云って彼が指さした先には、黒く、大きな岩が鎮座していた。
「え、岩‥‥だと思いますけど」
「そう云う事訊いてるんじゃ無いよ! あんなモノ、事前調査書には載ってなかったぞ‥‥!!」
「あら、‥‥私たちが以前来た時は有りませんでしたよ?」
 がやがやと同行していたスタッフ全員が喋り出す。
「‥‥、もう良い。くっちゃべってても拉致があかん。前は無かったって事は何処からか転がって来たんだろ」
 そう云って監督は男性スタッフを呼び集めた。
「此だけ居れば何とかなるだろ。‥‥除けるぞ!」
 其の声に、スタッフは岩へ手を掛けた。


「‥‥っ、」
「何だ‥‥、此の、岩‥‥ッ、」
 彼から小一時間、最終的には十人居たスタッフ全員で格闘したが、其の岩はびくともしなかった。
「‥‥此‥‥、下の方‥‥埋まってます、よ?」
「つか、其れ以前‥‥重いし、堅ぇ、よ!」
 動かせないなら砕くか、と
 全員がぐったりと岩へ凭れ掛かって呟く。
「監督ー‥‥諦めましょうよぉ‥‥」
 スタッフの泣きそうな声に、監督は唸った。
 重機が有れば何とかなるかも知れないが、如何せん、山奥では持って来るのに費用が掛かり過ぎる。
 ‥‥其れでも、余程此の場処が気に入ったのか、監督は諦めようとはしなかった。
 此の岩は何故一般的な比重より重いのか、何故数日前は存在しなかったのに下部が地に埋まっているのか。
 幾つかの謎は有ったが、そんな事、監督にとっては如何でも良い事で有った。

「だぁあ! 誰でも良い、力自慢を呼んで来い! 此の岩を排除させろ!!」

●今回の参加者

 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa1200 姫月・リオン(17歳・♀・蝙蝠)
 fa2662 ベルタ・ハート(32歳・♀・猫)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3264 バロック・ガーランド(40歳・♂・竜)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3890 joker(30歳・♂・蝙蝠)
 fa4060 猫宮・牡丹(15歳・♂・猫)

●リプレイ本文

「此が件の岩、ねぇ」
「なんだ、思った程デカくは無いな‥‥」
 監督が吼えた其の後日。スタッフの要請に応えて集まったのは力自慢だけでなく、謎の岩に興味を示した者を含め七名だった。
 現場に到着し、問題の岩を前にして思い思いの感想を述べる。
「でも其の分下に埋まってるのかも知れませんよ」
 何だか少し残念そうな響きが含まれた鬼頭虎次郎(fa1180)の呟きに姫月・リオン(fa1200)が返す。
 確かに、目に見える範囲では1.5m四方の箱にすっぽり収まる程度の大きさしかない。
「うむ、姫月殿の云う通りである。油断は禁物だ」
 如何にも『掘りに来ました!』と云うオーラを出しているモヒカン(fa2944)が寧ろ愉しそうにぺしぺしと岩を叩いている。
「そうね。‥‥でも取り敢えず、其れ其れの考えを話し合ってみましょ。バラバラに行動するのも効率が良いとは云えないし」
 ベルタ・ハート(fa2662)がぽんと手を打って提案した。

「えぇと、じゃぁ‥‥三組に分ける感じで、良いのかな‥‥?」
 各自の作戦を纏めた紙を見乍猫宮・牡丹(fa4060)が首を傾げる。
 当然細部に差違は有るが、基本となる行動が同じ者が居たので協力し合う事にしようと云う事に為った。
「あっしとモヒカン君、姫月さんが『掘る』って事だな」
 虎次郎も紙を覗き込んで確認する。
「私と牡丹さんが『動かす』ね」
「俺とパトリシア(fa3800)さんが『調べる』って感じかな」
 ベルタとjoker(fa3890)も頷き合う。
「凄い端的な分け方だけどね」
「姫月さんには此方も手伝って頂くと云う事でしょうか?」
 パトリシアがリオンに向き直って問うと、リオンが頷いて答えた。
「そうですね、掘る事自体は虎次郎とモヒカンに任せて仕舞っても良いでしょうから」
 リオン自体は調べる事で自身の知的好奇心が満たされれば良いと思って参加したのだ。
「さて。纏まった処で、行動に移そうではないか」
 会話が落ち着いた処で、待ちきれない様子だったモヒカンが遂に、と立ち上がった。



「‥‥‥‥」
 半獣化したベルタが鋭敏視覚で岩の周りの地面や立ち木を調査する。
 辺りを隈無く見渡してみたが特に変わった様子は見られない。
「何か解ったか?」
 同じく周囲を調べていた虎次郎が問い掛ける。
「いいえ。特に可笑しな処は無さそうね。――モヒカンさんは如何?」
 ベルタは肩を竦めて、岩の反対側で完全獣化しているモヒカンへと視線を向ける。
「此方も特に変な処は見られないのである」
 大きく頭を振るモヒカンを見て虎次郎が皆に声を掛けた。
「次、岩自体を調べてみるか」

「せぇ、のっ!」
 ――ガツンッ!!
「‥‥‥‥っ」
 ハンマーで力一杯岩を叩いてみたベルタは、暫し言葉を失った。‥‥硬過ぎて、与えた衝撃がまともに返ってきた為だ。
 そんな様子を見て大丈夫、と問い乍牡丹がヴァイブレードナイフを取り出した。
 其れで叩き削ろうと、思い切り刃を突き立てる。
「‥‥っ、驚いた。凄い‥‥堅いんだね」
 牡丹は刃を当てた部分を撫でて呟く。
 岩には少し傷が附いた位で、大きく欠けると云う事は無かった。
「何か聞こえました?」
 スタッフに頼んでいた此の地域の地理や歴史の資料を読み終えたリオンが、パトリシアに視線を移す。
 資料からは特に有益な情報は見附からず、リオンは小さく溜息を吐いて其れを仕舞った。
「えっと‥‥‥‥あれ?」
 半獣化して岩に耳を附けていたパトリシアは突然身を起こすとぱた、と耳を動かした。
「如何しました?」
「今‥‥何か」
 そう云って亦岩に耳をぴったり附ける。
「‥‥あれ?」
 今度は聞こえなくなったのか、パトリシアは首を傾げて身体を起こす。
 すると、何かを準備していたjokerが辺りに大きく呼び掛けた。
「御免ねー! みんな、一寸、耳塞いでてー!」
「‥‥え?」
 突然の声に皆、動きが止まったが、次の瞬間直ぐに耳を塞がざるを得なくなった。
 ――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!
「きゃぁっ!?」
「ぅわ‥‥!」
 静かだった山に、けたたましいベルの音が響き渡る。
 其の音は自然に収まる迄鳴らされ続けて。
「‥‥‥‥」
「あ、頭が、ぐわんぐわん、するので、ある」
 耳に残るベルの音に皆顔を顰めているが、特に岩の周囲に居たパトリシアやモヒカン、牡丹がぐったりとしている。
「‥‥いやぁ、予想以上の音だったねー」
 仕掛けたjoker自身も、少し影響を受けて何処か疲れた様子で呟く。
「アレだけ大きな音だったから、起きると思うんだけどなぁ‥‥」
 jokerは続けて、水筒を取り出した。中身には珈琲を入れてきている。――此の岩の正体は完全獣化をした亀ではないかと踏んで、御目覚めセットを用意したのだった。

「‥‥あら?」
 一番に、岩の異変に気附いたのは少し離れた処でカレーの用意をしていたベルタだった。
(「今岩が揺れた様な‥‥」)
 が、改めて岩に視線を送っても、特に変化は無い。
「気の所為かしら」
 岩の回りをモヒカンや虎次郎が掘っているので、其の所為で揺れたのかも知れない。
 そう思って、ベルタは意識を鍋に戻した。
 ‥‥‥‥。
「――って、矢っ張り動いてるわっ!!」



「‥‥やぁ、迷惑、掛けたみたい、だな」
 未だ何処か眠そうな、青年がぼんやりと頭を下げた。
 岩、だと思われていた物体は、jokerの予想通り大きな陸亀の獣人であったのだ。
「余程眠かったんですね」
 リオンが苦笑して青年を見ると、青年はこくりと惰性で頷いた。
 パトリシアはカレーを掬う手を止めてしみじみと呟いた。
「けど、砕こうとしないで良かったです‥‥」
 ‥‥大惨事である。
「ま、無事終わった事だ」
「うむ、ベルタ殿のカレーを愉しもうではないか」
 掘り返し作業で良い汗をかいた虎次郎とモヒカンが、嬉しそうにカレーを見遣る。
 配られた皿を受け取りつつ、牡丹が微笑んだ。
「‥‥何だかこういうのって良いね‥‥ピクニックみたいで‥‥」

 メンバーはベルタの作ったカレーと、騒ぎの原因である青年を囲みつつ、依頼の解決を祝って談笑を続けた。