戦う! 執事様!!ヨーロッパ

種類 ショート
担当 徒野
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 1.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/27〜08/02

●本文

「旦那様! 何処に行かれました!?」
 黒いティルコゥトをきっちりと着こなした男性が屋敷内を駆け回る。
「‥‥未だ未だ仕事が残ってるんだぞ」
 何処かドス黒いオーラをまといつつ小さく舌打ちをする。
 其のオーラに怯えつつ使用人ABが其の後ろを静かに通り抜けた。
「A、御前、旦那様見掛けたか?」
「いや、俺は見てないけど‥‥」

 地下書庫の片隅に体育坐りの怪しい人影が一つ。
 ‥‥此でも彼は此の家の当主ウィリアムである。
「ふっふっふ、此処なら見付から‥‥」
「こんな処にいらっしゃったんですか、旦那様?」
 ぐゎし、と音のしそうな程、後頭部を鷲掴みにされる。
「す、スティーブンス‥‥」
「さ、仕事に戻りますよ」
 本当に主従の関係なんだろうかと疑わしい程、スティーブンスは其の侭ウィリアムを引きずっていく。
「い、厭だい! 一昨日も昨日も今日も明日も書類を押し附けられて! 今日こそ僕は遊んでやる!」
 ウィリアムはそう喚くと、何故持っているのか懐から煙玉を取り出し床へ投げ付けた。
「クソッ、煙幕か‥‥小癪な」
 一瞬の隙をついて逃げ出したウィリアムにスティーブンスは呟いた。
「何としてでも仕事させてやる‥‥」


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募集キャスト

・ウィリアム:26歳、男性、名家の旦那様。優秀だけど気分屋。日々遊ぶ事に全力を尽くしています。
・スティーブンス:28歳、男性、執事様。多彩な技を駆使して旦那様に執務させようと頑張ります。
・フォード:53歳、男性、使用人頭。何時も穏やかに和やかに皆を見守ります。
・使用人A・B/メイド:20代、男女。巻き込まれ属性。偶に突っ込んだり。健気に頑張ります。

他撮影スタッフetc
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ドタバタホームコメディドラマ。
遊びたがりの旦那様に仕事をさせようと頑張る執事様の御話です。
旦那様は何としてでも逃げて遊ぶ事、執事様は何としてでも捕まえて仕事させる事、他使用人は巻き込まれつつ生暖かく見守る事を目標に、力一杯愉しんで下さい。
但し獣化は不可です。

旦那様が逃げ切るか、執事様が執務を全うさせるかはプレイング次第です。

●今回の参加者

 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa1374 八咫 玖朗(16歳・♂・鴉)
 fa2712 茜屋朱鷺人(29歳・♂・小鳥)
 fa3017 葵・サンロード(20歳・♂・猫)
 fa3194 ジョンジョル(26歳・♂・狐)
 fa3376 桐原 芽衣(17歳・♀・蝙蝠)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa4002 西村 哲也(25歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

「ラリーさん、先のリハーサルの時に少しぎこちない処が有ったので、もう一度型を見ましょうか?」
 星野・巽(fa1359)がラリー・タウンゼント(fa3487)に声を掛ける。
 其れに反応して、水分補給し乍本日撮影分のカットを確認していたラリーが顔を上げた。
「嗚呼、宜しく頼むよ」
 ラリーはペットボトルを置いて立ち上がると、巽に附いて少し広い場処へと移動する。
 傍らに組まれたセットは名家の御屋敷をイメェジして造られた豪邸のエントランス。
 其方でも数名のスタッフが最終確認を行っていた。
「小道具のチェック終わりましたー!」
 八咫 玖朗(fa1374)が小道具の入った箱を抱えて美術監督の元へ走る。彼も今回は役者なのだが手伝いを買って出ていた。
 玖朗が通り過ぎた其の横でメイク担当と話し合っているのは西村 哲也(fa4002)。彼は実年齢より倍程年上の役を演じるので細部の表現に迄余念が無い。
「そうですね‥‥首筋とか、もう少し皺を作ってみましょう」
「ウーン‥‥」
 ジョンジョル(fa3194)は台本を眺めて唸っていた。普段の口調と台本に示された口調が異なっているので苦戦している様だが。
「‥‥大丈夫ですか?」
 クラシックなメイド服に身を包んだ桐原 芽衣(fa3376)が心配そうに覗き込む。
「む、大丈夫でござるよ。ミーの演技力でなんとかするでござる」
 ジョンジョルが胸を張って答えると、芽衣も安心した様に微笑み返す。
 茜屋朱鷺人(fa2712)は一番初めのカットから出番が有るので少し緊張していたが、気を利かせた葵・サンロード(fa3017)との雑談で幾らか和らいだ。
「其れではシーン1から撮影を開始します。出演者の方は位置に着いて下さい!」

 斯くして、ドタバタホームコメディの幕が上がる。



 男の名はスティーブンス。倫敦某処の御屋敷に勤務する有能な執事である。
 が。
「チッ‥‥亦逃げたか‥‥」
 カクカクと動く人形と態とらしい声を発しているレコーダを華麗に蹴り壊して呟いた。
 朝食の後拘束して書斎に詰め込んだ筈なのに、と些か物騒な事を考え乍辺りを見廻すと、机の上に置き手紙を発見した。
『僕は流浪の旅に出ます。探さないで下さい。
 でもでもでも、どーしてもって云うなら探して呉れても良いんだけど‥‥。
 僕は屋敷の何処かに居ます。
 ぁ、けどトラップ一杯だから気を附けてねっ!』
 ばーいウィリアム、で締められた手紙をくしゃりと握り潰すとスティーブンスは書斎を後にした。
「巫山戯やがって」
 何だか彼の周りからドス黒いオーラが漏れているのは気の所為ではない。
 と。
 此の様に、当主であるウィリアムは如何にも仕事嫌いなので、毎日の様に此の攻防を繰り広げている。

 そして、屋敷の玄関に現れる黒い影。
 バンッと力一杯扉が開かれて。
 現れたのはウィリアムの悪友、日本人留学生の鶴屋。
「ウィーリアム! メールを見たか!? さぁ出掛け‥‥」
「御引取りを」
 凡てを云い終わる前に真っ黒オーラと満面笑顔のスティーブンスが、
「っぅぐほ!」
 見事な回し蹴りを喰らわした。
「‥‥おい、今‥‥」
「キレーに入り過ぎてたよな」
 大丈夫なのか鶴屋氏‥‥!? と心で叫ぶ、目撃しちゃったAとB。
 来客の処理もスティーブンスの仕事である。

 而して、閉じられた扉の向こう側に倒れた鶴屋を覗き込むのは。
「駄目ですよ? スティーブンスに正面から挑んだりしたら」
 ウィリアムの弟エドワード。
 にっこりと、素敵な笑顔でぎゅむりと鶴屋を踏みつけて玄関に向かう。
 彼もそこはかとなくスティーブンスと同じ匂いがする。

「あ、AB、メイド。一寸良いか?」
 スティーブンスが使用人を呼び止める。
 AとBは先程スティーブンスが蹴り壊した人形諸々の残骸を、メイドは洗濯物を抱えていた。
「ぇ、はい、何でしょう? スティーブンス」
「旦那様が亦性懲りもなく罠を仕掛けているらしいので気を附ける様に」
「‥‥‥‥」
 如何気を附ければ良いのか。
 彼等の心が一つになった処で、勝つ術は屹度無い。
「亦巻き込まれるのか‥‥」
「都会って凄いところなんですね‥‥私、負けないように頑張ります!」
 未だ新人であるメイドの意気込みに二人は微笑ましい気持ちに為るが、此が数ヶ月後枯れて仕舞うのかと思うと切なくなった。
「フォードも気を附けて下さいね」
「ええ、解りました」
 最早日常である。

 場処は一転して地下のワイン貯蔵庫。
「あ! 兄上! 御機嫌ようー」
 にこにこと手を振るエドワードにウィリアムが驚いた様に振り返った。
「え、エドワード! 如何して此処が」
「厭だなぁ、兄上の行動なんてお見通しですよ」
 がしっとウィリアムの手を掴んで微笑むエドワード。
「あ、そうだ。今日はジャパンの催し物が‥‥」
「そう! 俺が誘った素敵な催し物だ!」
 エドワードの言葉を遮って、鶴屋が現れる。
「鶴屋迄何故此処に!」
「‥‥生きてたんですね‥‥」
 多少ぼろっとしてはいるが命に別状は無さそうだ。
「で、丁度良い。兄上達に、はい。此、抜け道です」
 キラキラと輝く笑顔で地図を差し出すエドワード。
「おおっ!?」
「此でスティーブンスに気附かれずに遊びに!?」
 エドワードは色めき出す二人の背を押して。
「ええ、存分に楽しんできて下さいね」
「有難う、弟よー!」
「此の恩は忘れないぞ!」
 ダダッと駆け出す二人を見送り。
「あ‥‥途中に罠とか有りますから御気を附けてー」
 聞こえないだろうなぁ、と云う距離になってから呟いた彼の背には何か黒いモノが見えた。
「さて、フォードと御茶でもして来よう」

「きゃぁぁぁあ!?」
 遠くで悲鳴が聞こえる。
「メイドが罠に掛かったか‥‥」
 スティーブンスが遠くを見ながら呟いた。
「彼の仔は未だ来て新しいですからねぇ‥‥」
 フォードも慈悲深い眼で呟いた。
 ‥‥助けには行かないのか。
「あれ、もう御茶してたんですか」
 現れたエドワードが、ティブルの上に広げられたティセットを見回す。
「如何せ、貴方か何が入れ知恵をするのだと思って待っていたんです」
「あ、ばれてます?」
 えへ、と笑って席に着くエドワードに代わってスティーブンスが席を立った。
「では、旦那様を捕獲しに行ってきます」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
「頑張ってねー」
 フォードとエドワードに見送られ、スティーブンスは立ち去った。
「‥‥‥‥」
「エドワード様、愉しむのは宜しいのですが、程々に」
「はーい」
 其の後、まったりしたティタイムを過ごしたとか何とか。

「‥‥大丈夫か、B」
 スティーブンスはウィリアム作、のスライム入り落とし穴に嵌って出られなくなっているBを見下ろす。
「生きては、居ます‥‥」
「なら良い、Aは?」
 視線を巡らせるとゴムボールに埋もれているAが居た。
「‥‥‥‥ぁい」
「起きろ、A」
 一応、罠にはまって仕舞った使用人ズを確認しつつ、確固たる足取りで向かう。
「メイドは‥‥水を被ったんだな」
「‥‥‥‥はい‥‥」
 呆然としていたメイドに声を掛けて蘇生させると、歩を進める。
「‥‥其れから旦那様」
 カツ、と足を止めて上を見上げる。
「愉しいですか?」
「‥‥愉しくない‥‥」
 見上げた先にはワイヤーネットに包まれ、吊られているウィリアムと鶴屋。
 ‥‥一寸やそっとじゃ切れないワイヤーな辺りが厭らしい。
 スティーブンスは、口の端を上げて嗤った。
「では、今日の仕事に参りましょうか?」



 ――勝者、スティーブンス。


●キャスト
 スティーブンス:ラリー・タウンゼント
 ウィリアム:ジョンジョル
 フォード:西村哲也
 エドワード:星野・巽
 使用人A:葵・サンロード
 使用人B:八咫玖朗
 メイド:桐原芽衣
 鶴屋:茜屋朱鷺人