【Story Singer】開宴アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 徒野
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/19〜09/25

●本文

 都内某処の事務所で、一人の男性が企画書の草案と睨めっこをしていた。見た目は二十代後半だろうか。
「所長、所長? ‥‥信濃所長?」
 其のデスクに分厚い茶封筒を持った青年が近附き呼び掛ける。が、全く反応が無いので、青年は眉根を寄せた。
「‥‥しーなーのーちーがーやーさんっ!」
「っうっわ、何!?」
 耳元でフルネィムを呼ばれて、信濃千榧と云う此処の所長は肩をびくりと振るわせて視線を上げた。其処には呆れた表情の青年。
「何度も呼びましたよ。‥‥其れより、企画出来ました? そろそろクライアントに渡さないと不可ないんじゃないですか」
 とんとんと茶封筒で肩を叩き乍、千榧の手元を覗き込む。
「あー‥‥一応?」
 そう云って、草案をデスクに放ると伸びをした。
「何で疑問系‥‥」
 青年は茶封筒を千榧に渡すと、変わりに草案を手に取った。視線が文面を追う。
「自信持てば良いんですよ。此の間の料理番組だって、好評だとかでシリィズ化したじゃないですか」
「まぁ、畑違いな割にはねぇ」
 封筒の中身を確かめ乍、青年の言葉に苦笑で返す。
 ――元々此の事務所は音楽関係のプロデュースを専門としているのだ。幾ら知り合いに泣き附かれたからと云ってバラエティ番組を企画するのは無茶であった、が。
 千榧は封筒をデスクの抽斗に仕舞うと、青年の方に視線を遣った。
「‥‥で、此の企画で出すんですか?」
 丁度草案を読み終えた青年と目が合う。
「うん」
「面白いとは、思いますけど」
「けど?」
 逆説で止められた科白を、千榧は緩やかな笑顔で促す。
「ミュージカル、に為るんじゃないですか? 此」

『――出演アーティストが唄で物語を綴る。其れ其れ一曲一曲は一己の作品として完成されているが、一貫して話を追うと、一つの大きな流れが見える。結果、全曲を通す事で亦、一つの大きな物語を綴っているのだ。‥‥』

「違うね、唯の音楽番組だ。演者は居ない、居るのは詠う語り部だけ。演劇セットは無い、有るのは演奏セットだけだ」
 青年の訝しげな視線を――今迄の態度が嘘の様に――余裕を湛えた笑顔で返す。
 其の笑顔に、自信では無く愉しみを見附けた青年は内心で溜息を吐いた。
「ま、良いですよ。‥‥所長の感覚、信じてますから」
 其の言葉に千榧は笑って、草案の空欄に記念すべき第一回のテーマを走り書いた。

 ――『狂乱の宴は開かれて』

■ □ ■ □ ■
音楽番組『Story Singer』の出演アーティストを募集します。
ソロ、ユニット、グループ‥‥我こそは、と思う方は是非。

詠う語り部と為って、物語を綴りませんか?

■ □ ■ □ ■
二人の会話だけでは詳しい事が解らないと思うので説明します。

ex.)六組のアーティストが『或る恋人達の日常』と云うテーマで参加した場合
 一組目がOPとして、全体のイメェジを唄い、
 二組目が仲睦まじい恋人達を唄い、
 三組目は些細な事で喧嘩した事を唄い、
 四組目が女性の寂しさを、
 五組目が男性の後悔を、
 六組目が仲直りした、仲睦まじい恋人達の唄をEDとして唄い、終わります。
‥‥飽く迄例なので、他の視点から、と云うのも有るでしょう。

其れ其れ一曲だけを抜き出しても、曲として完成されているのが望ましいです。
従って曲調を合わせる必要は有りませんし、使用言語も問いません。

番組の進行自体は普通の音楽番組と変わりません。
アーティスト紹介やMCの後演奏と云う形です。
演奏順はプレイングで指定がなければミーティングルームでの挨拶順とします。
一組目はOPを担当して下さい。

■ □ ■ □ ■
信濃千榧 男 35歳 179cm 細身
「‥‥ぁー、童顔なの、其れなりに気にしてるから、云わないで貰えるか?」

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa1478 諫早 清見(20歳・♂・狼)
 fa1796 セーヴァ・アレクセイ(20歳・♂・小鳥)
 fa2124 夢想十六夜(18歳・♀・一角獣)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4028 佐武 真人(32歳・♂・一角獣)
 fa4332 佑闇キオ(19歳・♂・蝙蝠)
 fa4559 (24歳・♂・豹)

●リプレイ本文

 一本のスタンドマイクがスポットライトで照らされている。
 薄暗い中に響く声。
『――此の世には幾つもの物語が溢れ、亦、今も生まれ消えている‥‥』
 スタッフの無言の合図で、一斉に照明が上げられ、ライブハウスの様なスティジが浮かび上がる。
『消さない為には伝えねば。誰かの記憶に残さなければ――さぁ、語り部達よ。詩を‥‥紡ぐが良い』
 暗転し、次に照らされたのは司会者の立っているスタジオセットだった。
「皆さん、今晩和。綴られる物語、『Story Singer』第一夜始まりました」
 落ち着いた司会者の声。安定したオープニングが展開される。
「今回のテーマは『狂乱の宴は開かれて』。早速ですが、一曲目行ってみましょう」
 其の一言でカメラと照明がライヴセットへと切り替わり、照らされたのは氷咲 華唯(fa0142)。
 黒を基調とした衣装に赤いYシャツでアクセントを置き、ヘッドセットマイク、ギターを構えている。
「一曲目は氷咲華唯で『Party Space』。‥‥其れでは、どうぞ」
 ゆったりと始まるメロディに合わせて華唯は歌い始める。

『これから始まるParty
 期待と熱が渦巻くStage
 光溢れるその世界は
 歓喜で華やかに賑わう

 誰もが憧れ夢を見る
 そこへ行くことを目指して――』

 徐々に盛り上がってきた曲調に合わせてスティジ上を動き回る。
 こっそり半獣化はしているが帽子と手袋で十分誤魔化せた。

『走り出すmusic
 全てを繋ぐsound
 そこに映る風景は
 待ち望んでいた最高のscene

 ライブ(夢)を通して人が見るもの
 それは小さな人生のよう
 誰にだってある経験を
 今このひとときに‥‥』

 最後は中央に戻り、静かに終わる。
 音の余韻まで消えた処で一礼すると歓声が巻き起こった。
 画面の切り替えと共に司会が映される。
「‥‥有難う御座いました。宴の幕開けに相応しい躍動感の有る一曲でしたね。と、御疲れ様でした、氷咲さん」
「えー、矢っ張り一番最初って緊張しますね」
 スティジから戻って来た華唯はそう云って笑う。
「いえいえ、其れを感じさせない素敵な歌声でしたよ。‥‥と、用意が出来たようですね」
 合図を見て、司会が視線を移す。
「では二曲目。セーヴァ・アレクセイ(fa1796)で『Good Luck!』、御聴き下さい」

 スティジの上には黒革のパンツ、Tシャツの上に白い麻のジャケットを羽織ったセーヴァが居た。
 キーボードを前に、気分良さそうに演奏を開始する。

『Good Luck!
 よしてくれ 半端な言葉は
 届かないぜ
 張り詰めた空気が
 全てをはじきとばすからさ

 幕が上がれば
 もう戻れない
 後ろを振り向く
 暇なんか無いさ

 ステージはいつも
 刹那の炎
 全てを燃やし尽くすしかない

 Good Luck!
 届かないぜ 半端な言葉は
 張り詰めた空気
 宴が始まる

 Good Luck!』

 アップテンポな曲を一気に唄い切り、最後は優雅に御辞儀した。
 演奏が終わってスタジオの方へ戻ると司会と二三言葉を交わす。
「物語のある音楽って、結構難しいよね」
 ――まぁ、意識して作ろうとするとって事だけど、と笑うセーヴァに司会も笑い返す。
「亦、制作の裏話でも聞きたいですね。‥‥では三曲目に行きましょう」
 切り替えが終わり、三人の姿が照らし出された。
「次は諫早 清見(fa1478)、佐武 真人(fa4028)、Tyrantess(fa3596)の三名で結成された特別ユニット『Feast』に因る演奏です。曲は『Stageへ』!」

 ヴォーカルの清見を中央にピアノの真人が左手、ギターのタイが右手に構える格好だ。
 ス、とギターを持ち上げる動きを合図にカメラがタイを抜くと、彼女御馴染みであるパフォーマンス“愛用のギターのヘッドに軽くキス”が大きく映し出され、歓声が上がる。
 其れを笑顔で見遣った真人にスポットが当てられて、勢い良くピアノの前奏が始まる。そして音を追い掛ける様にギターが入ると、スポットが切り替わり清見が良く通る声で唄い出す。

『夢の始まりからいつしか
 ただこの時の為に生きてきた気さえするさ
 弾けるLightが このmelodyが 刻むRhythmが
 一つになってやっと オレを表す記号になるんだ――』

 メロディに合わせてライトが明滅し、カラーライトが空間を走り回り賑やかな雰囲気を助長する。
 スポットがタイを照らし出すと、勢いの良いギターソロが始まった。

『Stageへ そこで朽ち果てようとも
 かまわないさ どんな儚くとも それがオレの全て
 この歌を オレの音を オレのありったけの想いを
 見つけてくれる誰かと この時を過ごせるだけで

 次の音は決まってる
 歓声取り込んで もっと遠くまで 声届けて
 呼吸合わせて 一つになれるまで もっと
 世界の果てさえ越えて繋がるまで ずっと』

 勢いの余韻を残して演奏が終了する。
 スティジ上の三人に喝采が送られて、カメラがスタジオへと戻る。
「いやぁ、非常に力強い、盛り上がる一曲でしたね」
 司会の言葉に会場が頷いていると、スティジから三人が戻って来る。司会は労いの言葉と共に、其れ其れにコメントを求める。
「凄い愉しかったし、嬉しかったです。‥‥其の想いが伝わってると良いな」
「全力出し切ったからな、満足だぜ!」
「連動したテーマって事で、自分達の処で転けない様に気合い入れて遣ったよ。‥‥全曲終わって完成するのが愉しみだ」
 其れ其れ違った、魅力的な笑顔を浮かべ応えた。
「有難う御座いました。‥‥そろそろ終盤ですね。四曲目は此の方達」
 照らされた侭のスティジには二人の姿。
「夢想十六夜(fa2124)、佑闇キオ(fa4332)の『blood cross』で『my song my melody』」

 衣装は二人揃えで白と黒を基調とし、赤をアクセントに入れたゴシックスタイル。眼鏡を外した十六夜の首元で紅い棺のチョーカーが揺れる。
 キオのコートが翻って、前曲の余韻を受けた様にテンポ良く前奏が始まる。

『気がつけばここにいて
 この思いを歌にして心を込めて伝えてた
 僕等の思いが君達に届くようにと
 今はただこの歌を歌う 今この時の為に

 駆け上がって一息ついて見渡せば
 其処はもう僕達のテリトリー
 響かせていこう この音 この歌 君達の心へと
 僕達のbeat 君達の熱い思い この果てしない大空へと舞い上がらせよう――』

 ノリ良く十六夜が唄い乍踊り、背中合わせになったキオのギターが応える。
 伴奏に入り、ギターソロが始まると其れに合わせた二人の動きがより魅せるモノに為った。
 そして、自然に曲調が押さえられたモノへと変わっていく。

『奏でられた曲のストーリー 何時か終わってしまうけれど
 僕等の思いは終わりはしないから
 笑顔で歌って 明日へ響かせて
 たった一曲でも 全てが詰まっている歌だから』

 演奏終了と共に二人で深く紳士的な御辞儀をする。合わせて照明が落とされて行き、二人の姿は其の侭闇に消えた。
「見応えの有る演奏でしたね‥‥御疲れ様でした!」
 スタジオに帰ってきた二人に司会はマイクを向ける。
「踊りにも力を入れたんで、耳だけじゃなく眼でも愉しんで貰えたらな、と思う」
「一番曲のイメェジが変化する場処だったので‥‥上手く繋げられてると良いんですが」
 眼鏡を掛け直した十六夜と、少し笑っている様に見えるキオが並んで亦一礼した。

「いよいよ最後の曲に為りました。――取りを飾るのは、笙(fa4559)。曲は『END−ROLE』」

 薄暗いスティジ。だが、中央のみがスポットで照らし出されて、其処にアコースティックギターを構えた笙が居た。
 ノータイでラフに着崩されたダークカラースーツと云う衣装が雰囲気に合っていた。

『眩い光(ライト) 原色に揺らめく熱
 万華鏡の煌きも 今は冷めた闇に沈む
 鼓膜を震わす 享楽の歓声
 身体と心を奮わせた Rhythm & Soul
 確かに感じた悔いなき時

 瞼を閉じれば鮮やかに浮かび
 そして消えて
 「このまま時が止まればいい」
 ありふれた言の葉に願い託しても 今は
 あの時 あの場所(ステージ)には還れない――』

 淡々と抑揚を押さえて紡がれていた音が、次のメロディで明るく膨れ上がる。
 心地良い声が、会場中に響く。

『願った歌はきっと辿りついた
 描いた想いはきっと伝えられた
 けれど満たされた夢は いつまで続くのだろう

 声なき声は 静けさに虚しく響く
 夜空に消えた花火に似た心抱え
 再び光射すだろう この暗闇で
 今は静かに END−ROLE』

 テンポを落としたメロディが、徐々に消えて。丸で、凡てが終わったとでも云う様に照明がぱちんと消えた。
 喝采の中、カメラがスタジオに切り替わる。
「見事に締めて頂きました。‥‥笙さん、有難う御座いました」
「ソロ演奏は初めてだったんだが。まぁ、此も宴の一興と云う事で」
 そう云って笙がくす、と笑うとアングルが引きに為って順に並んだアーティスト全員が映し出される。
「其れでは『Story Singer』第一夜、テーマは『狂乱の宴は開かれて』。名残惜しいですが此の辺で御別れです」
 カメラが其れ其れを映し出す。手を振ったり一礼したりと思い思いの反応を返し、全員を廻った処で亦引きの画になり、番組に幕が下りた。



 そしてスタジオの隅で、一部始終を見守っていた信濃千榧が満足げに独り呟いた。
「御疲れ様でした。‥‥第一夜に相応しい見事な演奏、如何も有難う御座いました」