妖古譚―狐アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 8.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/04〜08/08

●本文

 東の国に住む妖たち。
 人ならざる彼らには、ひとつの決まりがある。
 白く、長い刀が現れたら、それを持つこと。
 その刀は、いつの間にか持ち主を選び現れるといわれている。
 その刀は、欲する者もいれば、そうでないものもいる。
 力が強いものの前に必ず現れるわけではない。
 持ち主と認める基準は誰もわからない。

「ねぇ、これいらない。捨てていいかな」
「何度捨てて、手に戻ってきたか思い出して。捨てるとか言わない」
「捨てちゃいけないという決まりはないよ」
「‥‥持ってて」

 現在の持ち主は、この刀が邪魔だと捨てようとする、
 だが捨てるたびに、それは手元に戻ってくる。
 彼の仲間たちは、そんな様子を何度もみていた。

「どうして私のもとにきたの、お前」

 彼は耳を震わせながら、刀に問う。

●妖古譚―狐
 妖古譚では毎回メインとなるものは刀の持ち主です。
 今回の刀の持ち主は、狐の妖です。
 刀に対して無頓着な狐の妖、それ以外の設定は自由です。狐妖のはぐれ者、ボス、人気者、その他、なんでもありです。
 刀の持ち主以外の配役は決まっておりません、自由設定可能です。
 刀を狙う妖、幼馴染妖、お目付けなどなど。
 また、狐の妖でなければいけないということはありませんので、他妖の設定もOKです。
 メインのストーリーは刀に無頓着な主人公狐と、その周りの主人公への思い、行動など。なお、今回のストーリー中では刀は主人公狐のものであり、刀が次の持ち主のもとに渉るということはありません。
 性別も特に指定はありません。完獣化、半獣化自由です。
 時代背景イメージとしては、平安時代あたりを想定してください。

●今回の参加者

 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa4210 小明(11歳・♀・パンダ)
 fa4235 真喜志 武緒(29歳・♂・狸)
 fa4263 千架(18歳・♂・猫)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)
 fa5874 アルヴァ・エコーズ(23歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●狐と刀
 その刀は、いつのまにか狐の妖、佐(Iris(fa4578))の元にあった。
「邪魔」
 佐は傍にあった刀を足で器用に自身から遠ざける。
 食事中は傍にあっても、邪魔。
 その食事には佐の友人である猫の妖、蜜(千架(fa4263))も一緒だった。
 佐はふと蜜をみて、なんだというような視線に言葉を送る。
「蜜はそれだけ食べても大きくならないね」
 その言葉に、蜜は『うりゃっ!』と佐のおかずを奪ってぱくり。
 あ、という顔をした時には蜜はふふんと耳ぴこりとさせる。
「お前はもう育ってるからいいじゃん」
「まぁ、そうなんだけど‥‥」
 亡くなった佐の親の友人であった謳里(真喜志 武緒(fa4235))の作った食事を食べる二人。
 謳里はそんな様子を見て、薄く微笑む。
「ごちそうさま」
「お、そしていつのまにか佐にぴったりくっついてるな」
「あ‥‥」
 言われれば、いつの間にか足で遠ざけた刀はぴたりとくっついている。
 またか、と佐は思う。
「刀が此所に在る事に何か意味があるのでしょう。捨ててはいけません」
 捨てようかな、と思っていた心の中を、謳里は読んだのか、さきにぴしゃりとやめなさいと一言たしなめる。
「もう、そんな子供じゃないんだから放っておいて」
 いつまでも自分を子供のように見る謳里に、佐は一言返す。
 その様子に、小さい頃の佐を思い浮かべて謳里はしょぼりとする。
「昔は小さくて今よりは可愛かったのに、いつの間にこんなに子に‥‥育て方が悪かったのでしょうか?」
 嘆き始め、そしてしばらくしてから。
「あぁ‥‥奴そっくりなんですねぇ‥‥」
 気がついて溜息。佐は父にそっくりだといわれているのだとわかっているが、何も言わない。
「まー、いい加減刀が刀がって言う奴もいるし、俺が佐のために力をかしてやるよ。刀が戻ってこなければいいんだよな」
「こら、蜜、何をする気ですか」
「どうしようかな‥‥どこでどーやろうかなぁ」
「‥‥聞いていませんね」
「さ〜て、どうやったら戻ってこなくなるのか‥‥どういう風に戻ってるのかも気になるぜ」
 方法などをうきうきと考え始める蜜に謳里の言葉は届かない。
 佐は佐で好きにしたらいい、と何もいわない。
 と、そこへ。
「ねーねー、その刀いらないんなら私にちょうだいっ♪」
 ひょこりとどこからかやってきた颯(あずさ&お兄さん(fa2132))。
「またですか」
 どこから入り込んだのか、と謳里は首根っこをひょいっと掴む。
「ずるいずるいー! 刀もらうなんてー!」
「実験で借りるだけだから」
「でもずるいー!!」
 声は響きつつ、謳里によって家の外へぺっと放り出される。
 いつものことに、佐も蜜も、別段反応しない。
「よし、実験いくぞー!」
「うん」
 佐と蜜は家を出ていく。いってらっしゃいと謳里はそれを見守った。
 その頃、佐の一族の長、瞳夜(藤緒(fa5669))もとには来客があった。
「面白い刀が存ると聞いてな。己の目で確かめたくなった。しばし滞在させて貰えないだろうか」
 おとなりの大陸からやってきた白馬の妖、レイ(アルヴァ・エコーズ(fa5874))は国の酒瓶をどん、と瞳夜へと差し出す。
「そなたも物好きだな。好きなだけ見ていくが良い――土産も貰ったしな♪」
 瞳夜はレイの手に滞在許可の御印を。
「せっかくだ、我が案内してやろう」
「そうか、それはありがたい」
 佐がどこにいるか、というのは永き時を生きた狐である瞳夜には手に取るようにわかる。
 瞳夜はレイを伴って、佐の元へと向かった。

●実験開始
「その一、適当に捨てて見張ってみる」
「捨てればいいの?」
「ああ」
 言われてぽい、と獣道に捨てる。
 そのまま隠れて観察を始める蜜と、どうでもいいと思いうとうとし始める佐。
「おい、佐もちゃんも見とけよ」
「見てる」
「見てないし‥‥あれ? 瞬きした間に消えた!?」
 佐の方を向いて、話して、そして目を刀に向けた瞬間はあった。
 だが瞬きの間に無くなった刀。
 ぱっと佐の方をみれば、刀は傍らに。
「いつの間に‥‥」
「あれ、あー、いつの間に」
「すごい! だから私にちょーだい!」
「お前もいつの間に」
 先ほど謳里にぺっとされた颯もいつの間にかやってきて刀をじーっと見る。
「よし、次の実験いってみるか‥‥どうすっかな」
「なんだか面白そうなことをしているな」
 と、気配なく足音なく、レイを伴った瞳夜がやってくる。
 レイは佐に近づいて、そして一言。
「刀を見せてもらえないだろうか」
「ああ、あそこ」
 すこしめんどくさそうに答えて、視線でまたちょっと遠ざけた刀を示す。
 レイは刀を見つめてふむ、と何やら満足。
「そやつは刀を見に海を渡ってきてな」
「海を渡って? 遠い所からわざわざ、変なやつだな」
 佐は瞳夜にレイがどこからきたのかをきいて、笑う。
「長さ以外は普通なのだな」
 いろいろと思うことはあっても、それを口には出さないレイ。
 そして一方の瞳夜は何を彼らがしていたかを知って、案まで出し始める。
「ならばこういうのはどうだろう。樹に縛り封印術を施してはどうだ」
 手伝うぞ、と心なしか楽しむようなことを言って、それだと二つ目の実験はそれになる。
 近くの木にぎゅっと縛り付けてその上に瞳夜の術を。
「これでよし‥‥」
 刀をちらちらみつつ、そこで話し始める者もいれば、満足して気の上で昼寝し始めるものも。
 と、縛られた刀に近づく影。
 朱鳳(小明(fa4210))という名の、守り刀の付喪神。
 刀があるということを感じて、本来の自分である刀から懐剣を手にした凛々しい少女の姿となってきたのだ。
 ふっと、刀にふれる。
 大切にされている自分と、今こうして放っておかれている刀。
 自分はどうしてやることもできないけれども、そっと刀を撫でる。
「そなたの心、いつか主に届くよう、陰ながら我も祈ろう」
 そうして、元いつ場所に帰ろうとした時に、颯とふっと眼が合う。微笑んですっと消える影。
「! 今、今誰かいた!」
「む、なんだと? 誰もいないでは‥‥刀もないな」
「刀ならここにあるね」
 刀がない、の言葉に縛った木をみれば、そこには何もない。
 そして、傍らにある刀を、佐が示す。
「おぉ」
 刀が手元に戻ってくるのを見たレイは声を出して関心する。
「えーと、何か‥‥無理? ‥‥いや、絶対戻らなくなることもあるはず! 俺に貸してくれ!」
 無理かな、と思いつつもやっぱりまだ何かあるはず、と蜜はテンションをあげる。
「いいけど」
「では我も力を貸して、この紐を」
 佐はかまわないよ、とそれを渡して、まだやるのかと瞳夜は 自分の力をこめた紐をどっからともなく取り出して蜜へ渡す。
 これだけやっている、刀が戻ってくるのは絶対なのだと、佐に気遣汗ようともして。
「よし、頑張るぞ!」
 そして実験は、まだ続く。

●刀
 蜜に刀を預け、たくさん妖が集まって煩くなったことが嫌になった佐は、静かに寝ようとその場所から離れる。
 そして人の住む方向へといつの間にか足が向いていた。
 里から出るわけではないのだけれども、そちらの方が静かではある。
 このあたりでいいかな、と腰をおろして一息。
 そこへ、がさがさと茂みをかきわける音。
 佐がそちらに視線を向けると、人がいた。
 黒崎某(羽生丹(fa5196))という名の人間。
「妖! お前、刀持ちか!」
「‥‥なのかな」
「いざいざ尋常に槍を寄越せ!!」
「!」
 一歩踏み出した瞬間に、こける某。
 だが振り下ろされた槍は、こけた勢いもあいまって佐の上へと振り下ろされる。
「!」
 ぼーっとしていたのと突然のことで佐は自分の身を守ることができない。
 けれども、その槍の先は高い音に防がれて、振り下ろされることはなかった。
 硬い音は、あの刀が防いだ音。
「あ‥‥」
「佐ー!!!」
 遠くから蜜の声が聞こえる。
 きっと刀が消えたことで何かあったのかときたのだろう。
「人間!」
 と、佐を傷つけたのかと敵意を出す蜜だったが。
「勝手にこけてのびちゃったよ」
 佐がほら、と示した先には確かにのびた人間。
「では、その人間は私が里まで送っていこう」
 と、レイが現れて、首根っこ掴んで引きずっていく。
「他人の物をすぐ欲しがる。人の子の悪い癖だ。世話になった。あと刀を見せてくれた事、感謝する」
 レイはそう言って、引きずって去っていく。
 そして、自分を守った刀を佐は拾い上げる。
「もう巻き込まれてるのか‥‥」
 いくらどこにおいても、捨てても帰ってくる、だから諦めも半分。
「お前、いていい、そばに」
 佐は、刀が自分のものだと認める。
 そうすることで、周囲も少し落ち着きそうだし、と思いながら。
 佐が認めた、そのことは、里を一気に駆け巡る。

●保持者
「ねぇ、これ祝う事?」
 家に帰ると謳里が赤飯を炊いてまっていた。
 おめでたいことだと笑顔で迎えて。
「ま、何か分かんねぇけど、意味とか縁とかあって佐のトコ来たんだろーし‥‥ほれれひーじゃん!」
 親指ぐっとたてる蜜は、口の中に赤飯つめこんでしゃべる。
 そしてこの場には他の面々も。
「どんな些細な事でも、親は子の成長が何より楽しみなんですよ‥‥」
 謳里はそんなことを思いながら、言いたいことは他にもあるのだけれどもぐっとこらえる。
「細かい事は気にするな‥‥老けるぞ、謳里。他国の美味い酒もあるぞ」
 酒はレイが持ってきたものだ、うまいと瞳夜は飲みながらご機嫌だ。
「‥‥この里の狐は皆こうなのでしょうか」
 大ざっぱな感じの狐にため息の謳里。
「おかわりー♪」
「いつの間に、颯も‥‥」
 と、言いつつも赤飯を渡す。
「あ、そうだ‥‥」
 と、茶碗をおいて、佐は刀と向き合う。
 襟足に結んでいた二連の赤い紐。
 鈴のついたそれは親の形見だ。
 それを一つはずして、佐は飾り紐を刀へと結ぶ。
「これで、よし」
 自分と一緒にこれからいることを受け入れて。
「これから、よろしく」
 佐は刀だけに呟いて、傍らに置いた。

●時は流れて
 刀は気まぐれなのか、来る時も突然なら去る時も突然で。
 そしてまた、誰かの元へ行く。
 次に、その刀の行き着いた先は、2本角の青鬼。