幸せはそこにアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/07〜08/11

●本文

「最後かぁ」
「最後だなぁ」
「長かったですね」
 とうとう最後を迎えるへたれ星。
 スタッフ陣はしみじみと、これまでを振り返る。
「最後、しっかりやろうな」
「はい」
「じゃあ最終回の内容を‥‥」
 最後のお話、はじまりはじまり。

 ドラマあらすじ
 織姫の父親である天帝は、へたれな彦星に娘を嫁としてだすのが、いやだった。
 というか、嫁出すというのがまず父親としてしたくないわけだ。
 だが、本人の幸せを考えると、とひそかに悩んでいた。
 せめて、せめて彦星がもう少ししっかりとしていたならば。
 そして思いいたったのは、しっかりしていないのならばさせればいい。
 何か試練を与えて少しでもしっかりしたらみとめよう。
 ダメな場合は、武官文官たちのなかから婿を探そうという結論に至った。
 こうして、試練は始まる。
 彦星と織姫が幸せになるには、彦星が男をみせるしかない!

 補足
 危険なことはしない、ハメをはずしすぎない、乱暴な行動はなし。常識からはずれないならば大体許されます。
 なおそれぞれ行動は相互了解でもって成り立ちます。
 またあまりにも場面がばらばらだとそれぞれの出番も薄くなることもあるかと思います。
 七夕メンバーに加え、他にも広く募集中。
 なお、今回天帝役が必須となりますが、誰も役者さんがおられなかった場合NPCが役を補うことになります。
※天帝がだす試練は皆さんで考えていただいてかまいません。

●今回の参加者

 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa4002 西村 哲也(25歳・♂・ハムスター)
 fa4809 レナード・濡野(32歳・♂・蝙蝠)
 fa5353 澪野 あやめ(29歳・♀・ハムスター)

●リプレイ本文

●これまでのお話
 へたれ星、こと彦星(西村 哲也(fa4002))はツンデレな織姫(楊・玲花(fa0642))と恋仲だった。
 彦星はすばらしい蹴り技の姉、月華(桜 美琴(fa3369))や、幼馴染の煌(ラリー・タウンゼント(fa3487))らにせっつかれつつ、愛を深めていた。
 食い倒れの鵲、風の神様、雲の神様、彦星にひそりこがれる少女、織姫をライバル視する少女、白ネコ宅急便の人、桜の木と共にいる温泉博士、他にも多彩なキャラで今まで番組を送ってきた。
 そして、いよいよ今回最終回なのである。

●父と娘
 ここは天帝の住まう場所。
 きらびやかな装飾のされた部屋の中に、二人はいた。
 織姫と天帝(レナード・濡野(fa4809))。
 織姫は父親である天帝の元へとやってきていた。
 天帝からの呼び出しもあったのだが、それ以上に自分の気持ちを伝えたかったのだ。
 自分の、彦星への気持ちを。
「お父様、わたくしももう大人です。人を見る目もちゃんと備わっております。わたくしが彦星を選んだのもきちんと彼の事を見ての事です。お父様は、ご自身でお育てになった娘の男の方を見る目をどうして信じようと為されないのです?」
「そうはいっても‥‥あのような根性無しのへたれが、大切な我が娘の夫となるなど、痛恨の極み」
 ばしっとイスのひじ掛けを叩きながら、天帝は気持ちを口にする。
「だが、一方的にそうと決めつけるのもいかぬと思っておる‥‥」
「お父様」
「そこでだ、彦星にはいくつかの試練を乗り越えてもらうことにした」
「試練、ですか?」
「そうだ、その試練の間、お前に会うことは認めない。お前も、会いに行くことは許さない」
「そんな‥‥」
 織姫は会えないのは嫌だ、と思いつつもそれを了承する。
 彦星はきっとクリアしてくれると信じている。
 そして、この知らせは彦星にも届く。

●おろおろおたおた
「天帝様が『娘に相応しい男でなければ嫁にはやらん!』‥‥だそうだけど、どうする?」
 彦星へと、試練の旨を伝えに来たのは、織姫の友人である都(シヴェル・マクスウェル(fa0898))だった。
 突然の試練を行うの宣告に、彦星はもちろん、へたれるばかりだ。
「どどど、どうしよう、無理」
 ただおたおたおろおろ。
 無理、という言葉のとおり、体からはそんなのクリア無理、のオーラがひしひしとでている。
 そんな彦星に喝をいれるのは、やはり姉の月華の役目だった。
「ここで頑張らないでどうするのよ!!」
「うわっ!」
 いつもの姉の蹴り。
 それには愛情がこもっている。
「姉さま‥‥」
「情けない声出さないの、織姫のこと、好きなんでしょう」
「はい!」
「それなら」
「‥‥そうですね、俺ができるだけのこと、やってみます!」
 俺、織姫のためにも、がんばってみる。
 へたれぼ‥‥彦星はぐっと拳を握り込み、決心した。
「‥‥でもできるだけはやるんだけどやっぱり‥‥」
「えぇい、しっかりしなさい!」
 決心したはずなのに揺らいだ心。
 姉様の喝再び。
 付け焼刃でも、何もしないよりましだ、と日々の牛の世話をしながらも、彦星は勉強を始めることに。
 そして、実はもう一つ、問題は立ち上がっていた。
「そうそう、私は婚約をすることになったんだ」
「あら、それはおめでたい‥‥」
「彦星たちもよく知っている人物とね」
 お祝の言葉を伝えようとした月華の言葉をさえぎるように、都はにやりと笑いながら言った。
「知っている‥‥?」
「そ、またそのうちわかると思うよ。それじゃ」
 意味深な言葉を残して、都は帰っていく。
 けれどもその言葉は、月華の気持ちにわだかまりを落としていた。

●それぞれの準備活動
 試練の内容は、彦星にも伝えられた。
 彦星は礼儀作法、武術、知識の三つ。
 それぞれ彦星は日々の生活の合間を縫って、勉強していた。
 そして、これらの試験を出すものの一人として、天帝は煌の兄である洸(篠田裕貴(fa0441))を呼びだしていた。
 彦星に試練を出せ、と言われて洸は頬笑みを浮かべた。
 そして深く頭をたれながら、言葉を紡ぐ。
「そういった行為は、私の意に反します故辞退させて戴きます」
「命令に逆らうのか?」
 不機嫌そうな言葉にも、物おじせずにはいと答える。
「‥‥天帝様も、姫様のことを愛しておいでならば、何が真に姫様の幸せとなるのか。お考え下されば幸いにございます」
 言いきって、顔をあげて部屋を退出する洸。
 天帝はその言葉に少し考えつつも、新たに試験を務めるものを呼んだ。
 部下の澪(澪野 あやめ(fa5353))である。
「お呼びでしょうか」
「お前に織姫の恋人である彦星の‥‥彦星へと与えている試練の監督をしてほしい。礼儀作法を監督するものは決まったのだが、武術と知識についてはまだ決まっておらぬのだ」
「私でよろしければ、御意のままに」
 天帝に生真面目に使える女官である澪は深く頭を下げてその命令を受ける。
 澪は織姫と彦星のお付き合いについては知っていた。何度か天帝の命をうけて見に行ったことがあるからだ。
 あの二人が幸せになれるか、ここが正念場なのだなと思う。
 だが、それとこの試練の監督は別であり、手を抜くつもりはない。
 多少のハンデは、それぞれの立場や生活を考えて必要かもしれないとも、思いながら。
「これで、全ての試験監督は揃った‥‥」
 天帝はよし、と思う。
 結果によっては、彦星を認めよう。
 ある意味、親ばかである天帝にとってこれは自分を納得させるために行うことでもある。
「彦星が、もっとしっかりしていれば‥‥」
「何かおっしゃいましたか?」
「何でもない」
 天帝の呟きに首をかしげつつも、澪は部屋を出ていく。
 一人残った天帝は、愛娘のことを思うのだった。
 その頃、彦星は幼馴染である煌から手紙を受け取っていた。
 直接会いに行くことは忙しくてできないが、試練を頑張れと、激励の手紙。
「煌‥‥ありがとう、俺、がんばってる!」
 その手紙を懐にいれ、鋤を剣に持ち替えて素ぶりをする彦星。
「えい、えい!」
 いつも煌の剣をみていたのだから、できるはず。
 コベコと月華は少し離れた所から、その様子を見守っていた。
「ぶも‥‥」
「大丈夫よ、きっと‥‥」
 彦星は、剣をひたすら振り続ける。
「なんだか、煌も姉様も大変そうだし‥‥俺が頑張るんだ」
 言葉にはなっていないが、煌の手紙からにじみ出る雰囲気はいつもと違う。そして姉の月華も落ち着かない雰囲気。
 何かあると、今までずっと一緒にいたからこそ、わかるのだ。
 そして、とうとう彦星は天帝に呼び出されるのだった。

●第一の試練
「彦星よ、ここへお前を呼んだのは、話に聞いているはずの試練を課すためだ。見事試練を乗り越えたならば、我が娘の婿として認めよう。だが、もし乗り越えられぬようなら、お前は婿の資格はない」
「は、はいっ」
 胸をできる限りはるものの、やはり緊張して、膝は震える。
「お、俺は覚悟しています。お、男、男彦星、がんばります!」
 そう言った、彦星の頭はきらりと光る。
 これがまず、自分の覚悟なのだというように。
 最初に試験は、都の担当する礼儀作法から。
「試験の前から結果はわかっているようなものだけどな」
 苦笑しながら、都は言うが、まったくそのとおり。
 一生懸命なのは伝わるのだが、やることすべて、失敗ばかりで都の口から聞かなくても結果はわかってしまう。
 そんな様子を、煌と月華はこっそりと見守っていた。
「彦星‥‥」
「頑張っては、いるんだけどもね‥‥」
「そういえば、煌は試練の前に彦星に会いにこなかったけれども、どうしてなの?」
「‥‥忙しかったのと、彦星の成長を信じているから」
「彦星の成長‥‥」
 言われて、自分はどうなのだろうと月華は思う。
 と、思っているうちに彦星の第一の試練は終了する。
「ま、他もあるからがんばりなよ」
「はい‥‥」
「おや、そこにいるのは婚約者殿」
 試験を終えて、都は煌と月華が並んでいるのに気が付き、やってくる。
「当日はよろしく」
「‥‥ああ」
 都は軽く言って、その場から離れる。
 ひそかに月華にプレッシャーをかけながら。
「煌、どういうこと‥‥?」
「彼女と婚約することになったんだ、両親にもう決められてしまって‥‥」
 それだけ言って、煌は立ち去る。
「本当なの‥‥?」
 月華は、真偽を確かめに、煌の兄である洸の所へと向かった。
 そして、彦星は第二の試練へと向かう。

●第二の試練
「第二の試練は、武術です。私は日々鍛練しており、本来なら二刀流なのですが‥‥」
 武術試練を担当する澪は彦星をみる。
 彦星は何事かを呟き、大丈夫だと自分にいっていた。
「大丈夫、煌の剣をずっとみてたし」
「‥‥煌?」
 彦星の呟き、それを聞いた途端に澪の表情が変わる。
 煌とは(一方的に)ライバル視している洸の弟ではないか、と気がつく。
 それならば、手を抜く必要はないだろう。
「洸と煌の剣を毎日見ていたのなら平気でしょう」
 澪は穏やかに微笑み、剣を構えた。
「よろしくお願いします!」
 そして彦星も、剣を構える。
 大きく振り上げて、彦星は澪へと気合の一撃。
 だがそれは簡単に交わされる。
 まだ手合わせは始まったばかり、と澪は思い何度か打ち込みをかける。
 と、足元にあった石を踏んでよろめき、彦星は偶然澪の打ち込みをよける。
「!」
 これが、澪を本気にさせた。
 鋭い打ち込みが一撃。
「え、うわっ!! わあああっ!!」
 澪の気迫に押されて、彦星は戸惑い、びびり、後に下がる。
 そこへしっかりと体の中心をとらえた攻撃。
 受け止めることも、逃げることもできるはずがなくもろにくらってへたりと尻もちをつく。
「お話になりません」
 淡々と澪は言い放ち、彦星を見下ろす。
 彦星は、やっぱりだめだったとしゅんとするばかりだ。
「‥‥が、鍛えればそれなりにはなる‥‥かもしれません」
「!!」
 一度、自分の剣をよけたのは、偶然出会っても事実。
 澪は小さく呟いて、彦星を励ます。
 今は駄目だけども、将来性はゼロではない。
 そして試験も、まだ終わりではない。

●もう一つの恋の行方
「いた、洸‥‥ちょっと、聞きたいことがあるんだけど‥‥」
「月華ちゃん、どうしたんだい?」
 気づいているのかいないのか、泣く一歩手前のような瞳でやってきた月華に、洸は頬笑みを向けた。
 なんとなく、何を聞きに来たのかは予想がつく。
「煌の‥‥」
「婚約のことだね?」
「!! ‥‥ええ‥‥」
 変わらぬ笑顔で言われて、月華は頷く。
「‥‥本当なの?」
「本当だよ、でもね」
 洸は月華の心中を理解して、自分の両親について、話し始める。
「私の父は貴族だった。でも母は、庶民出身の元・侍女なんだよ。父は周囲の反対を聞かずに母と結婚したんだ。そして、今回の縁談‥‥煌自身も納得はしていないよ」
「え‥‥」
「月華ちゃん、頑張ってみてもいいんじゃないかな」
 きっと良い方向にいくよ、と洸は月華を励ます。
 月華は洸の言葉を受けて、小さく頷く。
「考えてみるわ」
 洸は帰っていく月華を見送りやれやれとため息をつく。
「煌の方もフォローしておこうかな」
 洸は城内のどこかで仕事をしているはずの弟を探しに出た。

●第三の試練
「試練の最後は知識を問うものです。不正などしないように」
「はい!」
 返事は元気に、でも内心どきどきしている。
「問題は様々な分野から出ています。がんばってください、それでは、始め」
 その言葉とともに彦星は問題にとりかかる。
 問一、牛の乳の成分は。
 こ、これはわかるっ! と彦星は答えを書く。
 牛に関する問題なら、彦星にとっては問題ない。
 問二、風の神様の趣味は?
 覚えているようで覚えていない。あのぐるぐる眼鏡の人だ、と彦星は記憶を呼び起こす。
 うーんうーんと唸っている姿は真面目だ。
「‥‥そうだ、これだ!」
「私語は慎むように」
「はい!」
 一生懸命取り組む彦星。
 筆の進み具合から、これはクリアできるのかもしれないと澪は思う。
 そして、長くて短い試験時間が終わる。
「‥‥ど、どうでしょうか‥‥」
「いいのか悪いのか、微妙なところですね‥‥」
 答案をみて、澪は言う。
 だがこの結果をみて判断するのは自分ではなく天帝だ。
 しばらく待つように告げて、澪は天帝の元へといく。
 天帝はというと、試練がどうなったのかそわそわとしていた。
 そして受けた結果報告に複雑な気持ちを抱える。
「思った通り、ぱっとしない結果だな‥‥」
 喜び半分落胆半分。
 織姫を嫁に出さなくてすむが、織姫が悲しむ結果でもある。
 だが、言葉を覆すつもりはない。
「彦星を、ここへ」
 彦星を呼び、自分の前へ立たせる。
 試練の結果がどんなものなのか、一番彦星がよくわかっているだろう。
 結果に落ち込みつつも、もしかしたらという希望を、彦星は捨てずに持っていた。
「彦星」
「はい!」
「結果は自分が一番わかっているだろう。お前がわが娘、織姫の婿となることを認められん。これ以後、姫に会うことは一切許さん」
「!! そ、そんな‥‥」
 認められなかった。
 それだけではなく、織姫と会うことまで許されなくなるとは、思っていなかった。
 天帝は、伝えることを伝え、彦星を部屋の外へと追い出す。
 彦星は、その閉じられた扉に縋ることをせず、とぼとぼと家路についた。

●彦星の姿
「お父様はわかっておりませんの」
「そう言うな。すべてに満足しているわけではないだろう」
「‥‥それは不満もありますけれど、やはり、わたくしはあの人の事が好きなのですわ。それは間違えのないただ一つの真実。それが分かっただけでもこうして軟禁されていた甲斐があったというものかしら?」
 織姫の、彦星への想いはここ数日で深まっていた。
 気持ちが、自分の気持ちがよくわかっただけでも、しばらく会わなかったことに意味があるように思えてきたのだ。
「彦星の本当の良さを、お父様は知らないから」
「本当の良さか‥‥」
 どんなものか、と聞こうとしたところ、織姫は答えません、と言う。
 天帝をじっと見て、そして言葉を紡ぐ。
「ご自分で見てくださいませ。いいえ、今から一緒に見に行きましょう」
 車を用意するように織姫は手配させ、そんな急にと言う天帝を連れていく。
 車の中では、二人は無言のまま。
 そして彦星の家、気がつかれないように、二人は彦星を見る。
 ちょうど、牛の世話をしているところだった。
 意気消沈しているのは、見ていればわかる。だが仕事に一切の手抜きはなく、世話をされる牛たちは嬉しそうだ。
 そして手が空けば、勉学にいそしみ、剣を振る。
「‥‥どうすれば良いんだろう。天の川を渡るよりずっと難しい‥‥駄目だ、へたれてちゃ駄目だ。俺が、もっとがんばればいつかは」
 日々、一生懸命に生きる彦星。
 へたれでたよりがないけれども、これが彦星なのだ。
「これが彼の本当の姿ですわ。仕事に貴賤はありません。ああやって仕事に打ち込んでいる彼を認めないという事は天帝として間違われているという事ですわ」
「ううむ‥‥」
 娘に言われて、この彦星の姿を見て。
 自分は少し、見るところを間違っていたのかもしれないと思う天帝。
 娘は、彦星の良いところをちゃんと見ていたのだ。
 彦星は、彦星として日々、しっかりと自分のなすべきことをしている。
 そしてそれは素晴らしいことであることは、一目瞭然だ。
 娘の幸せを、と思っていたが、自分の考えて幸せは織姫にとって幸せではないのかもしれない。
「‥‥織姫、彦星のところへ行きなさい」
「お父様」
「彦星を、認めよう」
「! あ、ありがとうございます! 彦星!!」
 織姫は彦星の名を呼び、嬉しそうに駆け寄っていく。
 彦星は織姫の声をきいて驚くと同時に、久しぶりの彼女の姿に驚き、涙する。
「お、織姫ー! はっ! でも俺達あったいけな、誰かに見つかったら」
「もういいのです、彦星」
 織姫は頬染めて、告げる。天帝が認めてくれたのだと。
 それだけで、何も言わない織姫。
 彦星は何故認められたのかわからないけれども彼女がきっと頑張ってくれたのだと確信する。
 彼女の誠意に、応えなければいけない。
 そっと、彦星は織姫の手を取る。
「彦星?」
「今から、天帝様の所にいこう」
「お父様ならそこに‥‥」
 言われて、彦星は織姫の示す方向に彼女を連れていく。
 そして。
「天帝様の前で、俺は誠心誠意込めて、言います。愛してる織姫。ずっとずっと一緒にいてください」
「彦星‥‥はい‥‥これから末永く共に過ごすのですから、そんな泣き顔はこれっきりになさって下さいませ。ずっと笑顔で居たいのですからね」
「え、あれ? これは嬉し涙だよ!」
 男らしいプロポーズ。
 やるときはやるのではないか、と天帝は見直す。
 そして織姫もいつものツンとした態度ではなく、頬を染めて静かに頷いた。
「ぶもっ!!」
「あ、コベコもお祝してくれるんだね、ありがとう!」
 コベコの登場に、彦星は織姫の手をぱっとはなす。
「‥‥やっぱり彦星は彦星ですわ‥‥あら、お父様?」
 織姫はため息ひとつ。と、父がいないことに気がついてきょろきょろ。
 天帝は、車に戻り、一人で涙していた。
「お、織姫が、かわいい一人娘がとうとう彦星の元に‥‥おおおお、織姫が喜ぶのはいいのだがやはり、やはり!!!」
 親ばか炸裂していた。

●月華と煌
 彦星と織姫が天帝に認められていた頃、月華はよく知る煌の家へと向かっていた。
 一張羅を着て、化粧を施し綺麗にして。
 今日は、煌と都の結納の日だった。
「本心を聞かないと、諦めることも何もできないわ。彦星だってがんばってるんだもの」
 月華は心をきめ、向かっていたのだ。
 一方、心まだ決まらない煌は兄に皮肉を言われていた。
「‥‥俺が独身で居るのが、良くないんだってことかな?」
「そうじゃないと思いますが‥‥」
「煌」
「はい」
「家のことなんて、拘らなくたって良いと思うんだよ。父上と母上も、貴族同士の結婚じゃないし、結局周りを認めさせたんだから。煌も、本当に想っている人がいるなら‥‥その人のために一歩を踏み出してみたら?」
 穏やかながらも力のある言葉で、煌は黙りこむ。
「よく考えてみて」
 そう言い残して、洸は部屋を出ていく。
 と、来客を告げる声。
 誰が来たのだろうと煌はそちらへ向かう。
 そこには、綺麗に身なりを整えた月華が両親に礼儀正しく、挨拶をしているところだった。
「月華、なんでここに‥‥」
 驚く煌に向き直り月華は表情を改める。
「私は煌が好きよ‥‥愛しているわ‥‥煌は?」
 多くの者がいる前で月華は問う。
 ざわつく中で、煌は答えることができない。
 しばらく待っても、返らない言葉に月華は意気消沈、背を向けてその場を辞退する。
「煌」
「都‥‥」
 しっかりみていた、と都は煌に告げる。
「あそこまで想われて、応えられないような甲斐性無しとはご結婚出来ません」
 そして次に紡いだ言葉は、煌にはっとさせる。
「本気か?」
「本気、いいから行って来い!」
 都は煌を蹴りだす。
 煌は、月華を追った。
「月華!!」
 姿を見つけて、煌は呼びとめる。
 振り向いた月華は、驚いていた。
「なんでここに‥‥」
「さっきは‥‥まともな返事が出来なくて、すまない。お前の気持ち、とても嬉しかった」
 煌は一息おいて、月華をまっすぐ見つめながら、言葉を告げる。
「俺も、お前のことを愛している。私と共に歩んでいってほしいと思うのは‥‥お前だけなんだ」
 煌の言葉に、月華はその胸に飛び込む。
「本気‥‥?!」
「ああ」
 驚く煌は、月華を抱きしめる。
 そして額にキスを一つ。
 やっと互いの気持ちをちゃんと伝えあった二人。
「よかったな、これでこっちも」
「都さんどうもありがとう、うちの息子が」
 ひっそり、ギャラリーに見守られていたとは、露知らず。

●そして幸せに
 月日は少し、流れて最良の日。
「綺麗ですわ、月華様」
「織姫こそ」
 織姫と月華は、互いに微笑みあう。
 それぞれ、婚礼衣装に身を包んで。
「織姫、準備できた?」
「月華」
 と、扉の向こうから、最愛の人の声が聞こえる。
「ええ、大丈夫よ」
 今日は、結婚式の日だ。
 彦星と織姫と。
 煌と月華と。
 二組のカップルは、祝の中へと迎え入れられる。
「彦星もこれで少しは落ち着くと‥‥いや、変わらないほうがいいのかな? 織姫は」
「そうですわね、いつまでも彦星が彦星でいれば‥‥な、何を言わすのよ都!」
 はは、と都は笑いながら祝う。
「よかったね、二人とも」
「ありがとう、洸」
「どういたしまして」
 コベコたちも参列し、四人は祝福をうける。
「織姫」
「どうしましたの?」
「あとで一緒に天の川に行こう」
「どうして?」
 彦星は、織姫へと笑みを向ける。
「一緒に渡りたいなと思って」
「いいですわ」
 頷いて、彦星と織姫は身を寄せ合う。
 それぞれの幸せは、すぐそこに。
 本当にすぐそこに、あったのだ。

●素敵な頭で素敵に最後を
「それにしても西村君、綺麗に本当に、剃ったなぁ」
「前の番組がBOUZUだったし、気合入れということで‥‥丁度よかったかもしれませんね」
「マジ剃りに感激だよ! 君の役者魂にありがとうだよ!!」
 哲也をねぎらいつつばしばし背中を叩くスタッフ。
 正直痛い。
「今までみんな、お疲れ様!」
「お疲れ様でしたー!!!」
 この場にはいない人もいるが、今までの話を振り返り花を咲かせる。
 姉様の蹴りはレベルがあがっていった、とか。
 煌はタラシすぎる、いい意味で、とか。
「そうそう、へたれの歌を作ったんだよ、聞いてくれるか、みんなあああ!!!」
「ちょ、落ち着いてください」
 祝だと酒が入ってテンションのあがった大人ほど厄介な生き物はいない。
 歌い始める、制作スタッフ重鎮二人組。
「へたれーたれったれったれ、へたれーへたれへたれへたれ」
「なんだかすごい歌が‥‥」
 でも、気持が高ぶっているのはそれぞれ同じだ。
「お、きたきた! 今までの出演者大集合!」
 と、ひそかに今までの出演者に今日打ち上げの旨伝えていたらしいスタッフ。
 懐かしい顔もやってくる。
「そういえば出演者本人たちのラァブはどうなのかな、うーん? てっちゃんはどうなんだー!!」
「え、俺ですか? 俺はラブラブですよ、この頭でも愛してくれてますよ、ラブ、俺の織姫ええええええ!!!!」
「のろけっ!!」
 酒豪哲也、素でのろける、というか役が抜けず、ついでにほかの役も色々と混ざり始める始末だ。
 小指とか。
「ラリー君はどうなんだい、んー?」
「こ、恋人はいま‥‥」
「ねーさま! ねーさま浮気だよ! 煌が浮気! 浮気してるよねーさまああああ!!!!」
「なんですってー!!」
 美琴も月華のテンションのままやってくる。
「え、いや‥‥恋人ならそっちもいるだろう!? この前のイベントで!」
「ひどいわ! 煌ったら私を捨てて!!」
「そこのトライアングル、たのしそうだねぇ」
 シヴェルも番組の中の都のように、その様子を楽しむ。
「わ、もう‥‥まぁ、楽しかったからね」
 ラリーはもみくちゃにされそうになるとこからぬけて、裕貴のそばに立つ。
 互いに、お疲れ様の言葉を交わして。
 レナードとあやめはふたりでお疲れ様を。夫婦の仲よき雰囲気を漂わせる。
 と、哲也は玲花のもとへといく。
「織姫、長い間ありがとうございました」
「ええ、こちらこそ」
 とにもかくにも、本当に、今までお疲れ様でした!!