妖古譚―鬼アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 8.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/26〜08/30

●本文

 東の国に住む妖たち。
 人ならざる彼らには、ひとつの決まりがある。
 白く、長い刀が現れたら、それを持つこと。
 その刀は、いつの間にか持ち主を選び現れるといわれている。
 その刀は、欲する者もいれば、そうでないものもいる。
 力が強いものの前に必ず現れるわけではない。
 持ち主と認める基準は誰もわからない。

 一人の鬼の元に渡った刀。
 赤い飾り紐の結えられた白く長い刀。

「刀ぁ、よくきたよなぁ」

 鞘から一気に刀身をひきぬく。
 鈍く光る銀色。

「いいって言うまで、離れるんじゃねぇぞ」

 くっとのど奥で、笑いが響く。

「お前が俺の所にきた祝だ。あいつと、決着をつけるかぁ」

 刀身を、鞘に収めることなく、鬼はどこかへと、向かう。

●妖古譚―鬼
 妖古譚では毎回メインとなるものは刀の持ち主です。
 今回の刀の持ち主は、二本角の青鬼です。
 強さを求める青鬼は刀にそれ相応の執着をもっています。
 刀の持ち主以外の配役は決まっておりません、自由設定可能です。
 また、主役以外が鬼でなければいけないということはありませんので、他妖の設定もOKです。人間もOKですがある程度、かかわり方に制約がでてくると思います。
 メインのストーリーは刀を得てライバル妖と決着をつけに行こうとする青鬼と、その周りの主人公への思い、行動など。
 この決着については、つけてもつけなくても自由です。
 ストーリーのくみ上げ方によってはライバル妖が出てくる必要はないかもしれません。
 なお、今回のストーリー中では刀は主人公青鬼のものであり、刀が次の持ち主のもとに渉るということはありません。
 性別も特に指定はありません。完獣化、半獣化自由です。
 時代背景イメージは、前回の狐より百年後あたりを想定してください。
 なお、前回の狐に出演した方が同じ人物ででることも、違う人物で出ることもOKです。

●今回の参加者

 fa0117 日下部・彩(17歳・♀・狐)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4874 長束 八尋(18歳・♂・竜)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5331 倉瀬 凛(14歳・♂・猫)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)
 fa5874 アルヴァ・エコーズ(23歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●鬼と刀
「また舜さんのところに行くの‥‥?」
 勢い勇んで歩く2本角の青鬼、夾(長束 八尋(fa4874))が目の前を通り過ぎていく。
 白狐の彼方(タブラ・ラサ(fa3802))はその姿を目で追う。
 夾は自分のことしか見えておらずそれに返事をすることはなかった。
 けれども彼方はただ微笑んで見送った。
 夾は一本角の白鬼、舜(アルヴァ・エコーズ(fa5874))の元へと向かっていた。
 今頭の中には『舜と勝負、勝つ!』という考えしかなくて、意識は外に向かない。
 目の前で鍛錬をつむ烈(倉瀬 凛(fa5331))という猫又の少年にも目もくれない。
 ライバルと思っている舜。
 彼の姿を見つけて、足早に向かい話しかける。
「よぉしゅ‥‥」
 名前を完全に呼ぶ前に、舜に背を向けられた。
 もちろん、むかっとする。
「おい! また無視かよ! 舜、俺とて‥‥」
「断る」
 続く言葉が何かわかっている舜はため息を交えてその姿を消す。
「ま、また逃げられた!」
 その場に膝をついてがくっとうなだれる夾。
 と、がさりと、どさりと草の上に何かが落ちる音。
 夾は顔をあげると、そこいは白い長い刀があった。
「あ‥‥これって‥‥」
 先ほどまでそこになかったその刀。手に取れば重みはしっかりとある。
「よく来たなぁ‥‥勝手にどっか行くんじゃねぇぞ」
 刀が、あの白い刀だと理解して夾は笑う。
 そしてそうだ、と思いついたように大切な宝物の紺青の下緒を結んだ。
「俺の所に来た証だ‥‥中々似合うじゃねーか」
 掲げて、よしと満足して笑う。
 再び舜を探しに行こうと立ち上がり、夾はすたすた歩き始める。
 舜探しの途中、幼馴染の澪(日下部・彩(fa0117))に夾は出会う。
「夾さん! また舜さんの所にいってたのね! もう危ないことは止めなさいって何回もいってるでしょう!」
「解ってねーな、男同士の問題だよ」
 お小言はいやだ、と言わんばかりに受け流して、そそくさと澪の前から退散。
 自分を心配してくれているのは嬉しい。
 そこへ、ひょこりと現われた知り合いの黒鬼、炭(羽生丹(fa5196))が夾を応援する。
 それに励まされ、夾は意気揚揚、また舜を探してゆく。
 澪はというと、ふと、夾が手にしていた刀を思い出していた。
 白い長い刀。
「あれ‥‥」
 不思議な力は、少し感じていた。
 もしかして、という想いが生まれるが、自分ではわからない。
「聞いてみようかなぁ、物知りさんだし‥‥」
 澪は知り合いになった瞳夜(藤緒(fa5669))のもとへと向かった。

●感情はいったりきたり
「瞳夜さーん? どこですかー?」
 瞳夜がいそうな場所で名前を呼んでみる。
 だが澪の前に現れる気配はない。
「別の場所かしら」
「澪」
「ひゃああああ!!」
 だがふっと現われて不意打ち。
 澪の耳へと瞳夜は息を吹きかける。
 何するんですか、と訴えるような視線に笑顔をかえす瞳夜。
「で、何か用でもあってか?」
「それが‥‥」
 澪の様子から、何か相談があることは見抜いていた。
 だがその内容はきかないとわからない。
 澪から、夾のこと、そして舜のことを聞いて、ふむと少し考える。
「‥‥とりあえず行くか」
 どこへ、と澪は問う。
 瞳夜はにこりと笑い、その白鬼のもとへだ、と言った。
 その頃、先ほど素通りされた烈はというと。
「夾のやつ! また俺を無視して‥‥あ、いるし!」
 夾をまたみつけて突っかかっていこうとした。
 だがその手に、白い長い刀があるのを見て、瞳を見開いた。
「あれって‥‥何で夾なんだよ‥‥? 他にも強い奴はいっぱいいるのに、何であいつなんだ? ただ強いだけじゃ駄目なのか? 俺は夾と何処が違うって言うんだよ!」
 何故、という思いが生まれる。
 そして、辿りついた答えは。
「もっと励んで、夾に勝って、俺が刀の新しい持ち主になってやる!」
 叫んで、烈は再び夾の元へと走ってゆく。
「待てよ、夾。勝手に先に行く事は俺が許さない! 俺と勝負しろ!」
 またか、と現われた烈に笑いを向け、そして不思議に思う。
 何故こんなに自分につっかかってくるのか。
 自分が舜に突っかかっていくのを棚に上げて思う。
「おい、聞いているのか!? 俺と勝負だ!」
「お前と遊ぶ時間はないんだよ」
 すたすたと再び通り過ぎていく夾を、待てと言いながら烈はついて行く。
 一方、瞳夜と澪は舜の元に一足早く訪れていた。
「やれやれ‥‥会う度勝負しろ、とはな」
 溜息ひとつ落す舜。
 その背に声がかけられる。
「お前が舜か。夾なる子鬼が刀を得たらしく、そなたの元へ参るようなので――暫し待たせて貰うぞ」
「は? あ、ああ‥‥」
 自分に用があるのではないのか、と舜は思う。
 ひそりと胸にもっている憧れの気持ち、そしてもう一つ。
「あの刀の持ち主に‥‥夾が‥‥?」
 本当にそうなのか、と澪の方をみる。夾の幼馴染だったと、覚えている。
 視線はさまよい、その問いに答えるように瞼を伏せる。
 どうやら、本当らしい。
 気持ちは、複雑だ。
 瞳夜はくつろぎ、澪は不安そうにする。
 舜はというと、傍にいる瞳夜が気になって仕方がない。
 憧れめいた感情が疼く。
「もうすぐ来るよ」
 と、声が降ってくる。見上げれば木の上に、音もなく、すでに居たような彼方。
 舜は、いつもなら逃げるところ動かない。
 気になるのか、と彼方は問う。
「気になるのは刀であって夾ではない」
 そっけない答えに、彼方は調子を変えずに問う。
「本当に、刀だけなの‥‥?」
 ああ、と舜は答える。
 けれども、心の中にはわだかまりのようなものがあった。
 そして、声がだんだんと近づいてくる。

●鬼と鬼
「決着つけようじゃねーか‥‥これでどうだ、漸く俺と手合わせする気になったか?」
 刀を、見せつけるようにだす。
 だが、目の前に立ったのは舜ではなかった。
 その間に割るようにして立ちふさがる瞳夜。
「そなたが新たな刀の主か」
「な、なんだよ‥‥」
 上から下まで、じーっと眺められ、そして、白い刀に瞳は止まる。
「飾り紐は我が愛い一族の者がつけた御印‥‥汚すでないぞ」
「でも‥‥刀は俺を選んだだろ」
 その威圧感に、負けたくないと夾は口を開く。
 瞳夜はふと笑い、背を向ける。
「その刀、ふいに消えるゆえ‥‥その前に相手して貰うが良い。刀無きそなたに用はないようだしな」
「なっ‥‥!」
「瞳夜さん! 止めてくれるんじゃないんですかー!?」
 澪は瞳夜の行動に慌てて詰め寄るが、さらりといつものように受け流されていく。
 この夾と瞳夜のやり取りをみていた舜は、気がつく。
 別に夾を嫌いなわけではない。いつも突っかかっているくる子供らしさを相手にしているのを受け入れたくないと思っていたのだと気がつく。
 夾から逃げるのは自分からも逃げているようでなんだか、納得がいかない。
「舜! 今日こそは、今から勝負だ! 見ている奴もいるしな!」
 びしっと突きつけられる意思はまっすぐだ。
 まっすぐでどこか心地よい。
「断る」
「またかよ!」
「‥‥だが、今度、手合わせ‥‥してやる」
 少し、難しい顔で言われた言葉を理解するのに一瞬の間が開く。
 けれども、その言葉は本当だと、わかる。
「はっ! 面白いじゃねーか‥‥がっかりさせてくれるなよ? 俺が倒すまで、他の奴に負けたら許さねーから!」
 驚いて、そして素直に嬉しいと喜ぶのは恥ずかしい。
 意地を張るように強く強く、舜は出る。
「まるくおさまったではないか」
「本当に‥‥って、違います、まだ対決は続くんだからもうどうして男ってどうして危ない事をしたがるんでしょう?」
 澪はため息をつき、まだまだ心配が続くのねという。
 その傍でじーっと静かにみていた彼方が呟く。
「大人って、どうしてなかなか素直になれないんだろうね」
「彼方君はストレートですよね」
 本当にそのとおり、と澪は思う。
「な、何だよ皆して‥‥俺も仲間に入れろぉっ!!」
 と、今までの雰囲気に割り込めずにいた烈が舜と夾の間に割るようにして入る。
 ぽろっとでた本音にしまった、とも思いながら。
「お前はいいんだよ」
「仲間にいれろよ!」
 喚く烈と夾と。
 舜は眉間にしわを寄せる。
 追いこされないようにさらに、高みを目指して鍛えなくてはいけない。
 こうして自分の心を気がつかせてくれる機会をくれた刀には感謝するべきなのかもしれない。
 夾も持つ刀。
 赤い飾り紐と濃紺の下緒の、白い刀。
 それはただ静かに、夾のそばにあった。

●時は流れて
 刀は気まぐれなのか、来る時も突然なら去る時も突然で。
 そしてまた、誰かの元へ行く。
 次に、その刀の行き着いた先は、一人の鴉天狗のもと。