妖古譚―鴉アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 8.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/10〜09/14

●本文

 東の国に住む妖たち。
 人ならざる彼らには、ひとつの決まりがある。
 白く、長い刀が現れたら、それを持つこと。
 その刀は、いつの間にか持ち主を選び現れるといわれている。
 その刀は、欲する者もいれば、そうでないものもいる。
 力が強いものの前に必ず現れるわけではない。
 持ち主と認める基準は誰もわからない。

 一人の鴉天狗の元に渡った刀。
 赤い飾り紐と紺青の下緒が結えられた白く長い刀。

「あれ‥‥」

 必要としていないけれども必要としていた刀。
 手にとって、頬笑みがこぼれる。

「きっと、兄さまにもう一度会うために、僕の所に来たんだね」

 鴉天狗は刀に囁くように言う。
 そして、兄の元へ。

●妖古譚―鴉
 妖古譚では毎回メインとなるものは刀の持ち主です。
 今回の刀の持ち主は、鴉天狗です。
 鴉天狗は刀にまったく興味はないわけではないけれども深い執着はもっていません。過去に刀をもったという兄大好きです。(血の繋がりでも近所の兄的存在といった感じでもOK)
 刀の持ち主以外の配役は決まっておりません、自由設定可能です。
 また、鴉天狗でなければいけないということはありませんので、他妖の設定もOKです。
 メインのストーリーは刀を得て兄の元に向かう鴉天狗と、その周りの主人公への思い、行動など。
 ストーリーのくみ上げ方によっては鴉天狗の兄が出てくる必要はないかもしれません。
 なお、今回のストーリー中では刀は主人公鴉天狗のものであり、刀が次の持ち主のもとに渉るということはありません。
 性別も特に指定はありません。完獣化、半獣化自由です。
 時代背景イメージは、前回の鬼より百年後あたりを想定してください。
 なお、前々回の狐、前回の鬼に出演した方が同じ人物ででることも、違う人物で出ることもOKです。

●今回の参加者

 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3319 カナン 澪野(12歳・♂・ハムスター)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4002 西村 哲也(25歳・♂・ハムスター)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5775 メル(16歳・♂・竜)
 fa5874 アルヴァ・エコーズ(23歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●鴉天狗と刀
「この刀は‥‥」
 話に聞いたことある白く長い刀。
 鴉天狗の翼(カナン 澪野(fa3319))は自らのもとにきた刀に触れた。
 朝起きたらいつのまにか、そこにあった。
 どうしよう、と考えていると鬼子の魁(メル(fa5775))がいつものように元気にやってくる。
「翼ー! 今日は何して遊ぶー?」
 その呼び声に翼は魁のまつ玄関へと向かった。
「ん? 何だ、その刀?」
「兄さまの探し物だと、思うの‥‥」
 届けに行かなくては。
 その想いを翼は持ち始める。
 それを感じてか、魁はにかっと笑った。
「その刀を届けに行くんだな。翼一人に行かせるのは危ないし、俺も協力するよ」
 翼が『兄さま』と呼ぶものは里から少し離れた崖下に一時的に住んでいた。
 そこへは危険だからと翼は母の白蓮(EUREKA(fa3661))に言われていたが、兄さまに会いたいという気持ちが母の言葉に勝ってしまう。
 二人は、行こう、と元気よく家をでた。
 そして、白蓮はいつの間にか子がいなくなったことに慌てる。
「何処へ行ったの、翼‥‥」
 必死になって探すのだけれどもどこにもその姿はない。
 その頃、二人は気をつけながら向かっていた。
 その様子を目にした虎妖怪の飄(ブリッツ・アスカ(fa2321))は翼の持つ刀へと視線を止める。
 彼らの向う先にいるものは一人しかいない。
 面白そうな事がおこりそうだと、飄はその後を追った。
 そして、それは起こる。
「何か起きてる、私には解る!」
 ずざっと翼と魁の目の前に現れたのは霧(アルヴァ・エコーズ(fa5874))。
 常に引きこもっている彼が外へと出てくるのは、珍しいことだった。
 じっと翼と刀を見た後に、何やら書きとめ始める。
「それ、あの刀!? ヤダどうしよ!!」
 記録中の霧は止まらない。それを終えてすっきりした顔で霧は二人を見た。
「そう言えば彼も昔に刀持ってたわね。記録に残ってるわ! アンタ懐いてたわね‥‥って現在進行形だっけ?」
 笑いながら言われてやっぱりこれは兄さまのものなのだと翼は思う。
「魁、早く行こう!」
「あら、じゃあね〜、いってらっしゃい!」
 手をふって霧は二人を見送った。

●兄さまという人
 黒鬼の炭(羽生丹(fa5196))はたまたま訪れたこの里で、少年があの白い刀を持っているのをみた。今度は、あの子かと思いながら。
「うわ、この辺りは危ないなー。翼も飛べるとは言え、着地した時に足を滑らしたりでもしたら大変だ。気を付けろよ」
「うん」
 そしてその少年、翼は大好きな兄さまの元へと、危ない道を通りつつもたどり着いた。 だが、今彼らが入った家の主人は、いない。
「あれ、いない‥‥」
 しゅん、とする翼。
「残念だったなぁ。翼の兄様に、俺も会ってみたかったのに。きっとまた会えるから、あんまり気落ちするなよな」
「うん‥‥待っていたいけど‥‥母さまが心配するから」
 ふと母のことを思い出し、翼は髪結い紐で花を刀へと結える。
「帰ろうか」
 そして二人は、その場から離れる。
 家をでて、急いで帰ろうとする二人。
「んあ、あいつ何しに‥‥」
 その二人の姿を、禍々しく、蛇が絡むような呪言を左半身にもつ三つ目の妖怪、匡(西村 哲也(fa4002))は見つけた。
 翼をみて過去のやりとりを、思い出す。
 匡は、翼に、少し前につっかかったことがあるのだ。
 大好きな兄さまに会いにくるなと言われた翼。それを知った匡は、翼に意地悪をした。
『お前が何かしたんじゃないの?』と不安を煽り、過去に養い親たる佐(Iris(fa4578))が持っていた、白い刀を引き合いにだしたのだ。『会いたければ刀持ってくるくらいの事しなきゃ、一人で』と。
 何故ここにいるのだろう、という想いが募る。
 そう思っていると、翼たちと入れ違いに戻ってきた佐の姿が視界に入る。
 その佐は、家の中にはいると異変を感じた。
 そして、刀に気づく。
 花と結い紐にも、もちろん。
「あいつか‥‥来るなと言ったのに」
 人間から翼が襲われているところを助けた。嫌いなわけではない。
 だが、自分はいつかこの場所を去る者、その時の悲しみが大きくならないよう遠ざけたのだ。
 佐は、刀の横に座る。
 そして色褪せないままの紅紐をそっと撫でた。
「久しいな」
 その言葉に、返事も何もない。
 いずれ、持主のところに戻るだろうことは、自分の経験でよく知っている。
 立ち上がり、奥へと進みながら、刀へと言葉を向けた。
「翼が‥‥持ち主か、お前ならあの子の助けになれる。守ってやれ」
 その言葉に、リィン、と音が響く。
 耳をぴくり、とさせて佐が振り向いた時には、もうその刀はなかった。
 けれどもあれはわかった、という返事なのだと何故だかわかる。
 刀と、今の主人である翼。
 きっとうまくいくだろうと佐は思っていた。

●戻りくる刀
「翼、心配したのよ‥‥母さんに黙って出かけては駄目でしょう?」
 戻れば案の定心配していた母。
 翼は少ししゅんとなりながら謝る。
「あなたが無事だったからいいの」
 白蓮はきゅっと翼を抱きしめる。
 魁とはまた明日、と別れて家の中へ。
 するとそこにはあの白い刀が、あった。
「え‥‥どうしてこの刀が家に!?」
「どうしたの母さ‥‥何であるの?! これじゃまた会えない‥‥」
 先に驚く母の後ろからひょこっと覗く。
 白い刀は、すぐそこに。
 白蓮は翼の口ぶりから、刀が息子の元へと来たのだと、気がつく。
 その夜、こっそりと白蓮は刀を隠すのだが、朝起きればまた翼のもとに、帰ってきていた。
 翼は、その刀をもって、また、兄さまと慕う佐の元へと、向かおうとした。
 だが、それを阻むように匡がやってくる。
 匡はその手にある刀をみて、すべてをぴんと通じ合わせた。
 そしてニヤリ、と口の端をあげて笑う。
 昔した話を、本気にしたに違いない。だから昨日、魁といたんだろう。
「どうせ、一人じゃ行けなかったんだろう」
「そ、そんなことないよ!」
「あーあー、もうダメだなー」
 匡は楽しげに言いながら、その場から離れる。
 甘ったれな翼ならもうこう言われて何もできないだろう。
「何も出来ないくせに甘やかされて‥‥フン」
 匡の言葉には、嫉妬も、含まれていた。
 匡の背中をみつめ、ぎゅっと刀を握ったままの翼。
 そこへ昨日と同じように魁がやってくる。
「あれ、何でまた刀を持っているんだ? うーん、ここにあるってことはもう一度届けに行くんだろ?」
「うん、でも‥‥一人でいく」
 その言葉の強さに、魁は何か思う事があるんだろう、と感じ取った。
 だから、そっかー、と笑う。
「翼がそう決めたんなら仕方ないな。一度行ってるから前よりは楽かもしれないけど、気を付けてな」
 魁に見送られ、昨日と同じ道をたどっていく翼。
 一度通った道は、すんなりと通ってゆける。
 だが問題は崖だ。
 そこへ立って、翼は自分に言い聞かせる。
「落ち着いて飛べば大丈夫‥‥」
 ふわっと、翼を広げて落ち着いて。
 無事に着陸。その安堵を抱えたまま、佐の元へと、向かった。

●別れと成長
「匡、おかえり」
「ただいま」
「匡、分かっているとは思うが、翼にちょっかいを出すんじゃないぞ」
 佐に、釘を刺される。
 自分がしたことを見透かされるかのように。
 佐はあの翼が、刀をもってくるという行動にでるとは思えなかった。
 とするとなにかきっかけがあり、最近様子が少しおかしい匡が何かしたのだろうと察しはついていた。
 匡はと言えば、言われてしゅんと落ち込む。
 その時、扉のあく音が聞こえた。
「やっと会えた‥‥!」
「翼‥‥」
 この刀をと差し出す翼の頭を、ぽんと佐は撫でる。
「お前の価値を決めるのは俺じゃない。刀は自ら主を選ぶ‥‥お前の往く道もまたお前が自ら拓くもの」
 佐の言うことを、翼はなんとなく理解する。
 大事なことを、言われているのだと。
「いつか兄さまの隣に‥‥自分で立てるように‥‥頑張る」
 翼の言葉に、佐は笑顔を向ける。
「また会おう、母を大事にな」
 なんとなく予感していた別れの言葉。
 翼は、小さく、だけどもしっかりと頷いた。
「遅れるなよ匡」
 しゅんとしていた匡に苦笑しながら言葉を送る佐。
 佐は匡の気持ちも、わかっている。
「お前は一人じゃなく、俺がずっと一緒だ」
 その言葉にぱっと匡は嬉しそうに顔をあげて、ついていく。
 だが、途中で立ち止まって、翼の方を振り向いた。
「強くなれよ!」
 べっと舌をだして、遠まわしに応援をする匡。
 翼は、二人の姿が見えなくなるまで、見送った。

●翼
「なんだ、もういっちまったのか」
 佐たちが去った家に、遠くから様子をみていた飄はやってくる。
 そして、翼を思い出す。
「いい顔になったなぁ」
 その頃翼は、刀には自分の髪紐を付け、そして自分の髪には、佐の残した紅い紐を結んでいた。
「この刀は僕の所に来たんだからちゃんと持つよ」
「‥‥翼、男の顔になったなぁ」
「翼‥‥」
 帰ってきた翼は、少し成長していた。
 魁と白蓮はその様子に驚きつつも、素直に受け止めた。
「私も翼に負けず、しっかりしないとね」
「母さまは僕が守るからね」
「まぁ」
 その言葉に、少し淋しさをも、白蓮は感じていた。
 翼は、これから成長していく。
 いつか、佐たちと再び、出会うことを信じて。

●時は流れて
 刀は気まぐれなのか、来る時も突然なら去る時も突然で。
 刀は、次の主の元へ向かう。
 正確には、次の、ではないのだが。
 刀は巡り巡って、やっとのことで還ってくる。
 深く眠る白き大きな古きものも元へ。