七音:始まりの一音アジア・オセアニア

種類 シリーズ
担当 玲梛夜
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/10〜08/14

●本文

 それは一軒のライヴハウスから始まる話。
 そのライヴハウス『SevenSeas』のオーナーの子の名は、ライヴハウスの名前と同じ、七海。
 七海は現在中学生だ。
 家の一階はライヴハウス、ということで音には小さな頃から親しんでいる。
 そしていつかは自分も、このライヴハウスで‥‥
 これはそんな淡い想いを抱く少年と、このライヴハウスにやってくるものたちの紡ぐ、物語なのである。

●新作TVアニメ『七海の音』声優募集
 新作TVアニメの声優を募集致します。
 職業が声優であろうと、俳優であろうと、ミュージシャンであろうと、拘りはありません。

●番組内容
 プロを目指すものも、趣味でとどまるものも、色々な音楽のありようを描いていくロックアニメ。
 『七海の音』というのはライヴハウスの名前とかけてあり、七海自身が中心になって何かする、というよりも七海に影響を与えていく者たちが中心である。
 途中で歌も流れることもあり、愛憎劇もあり、夢に向かってもあり。
 さまざまなものを含んだアニメだ。
 一話目は、七海少年がスランプに陥った青年とライヴハウスで出会う、というくだりから始まる。結末は、青年は立ち直り前を向いていく、という流れ。
 七海少年は歌手でもあり声優でもある、杉山瑠伽が演じる。

●今回の参加者

 fa0073 藤野リラ(21歳・♀・猫)
 fa0079 藤野羽月(21歳・♂・狼)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa3092 阿野次 のもじ(15歳・♀・猫)
 fa3398 水威 礼久(21歳・♂・狼)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)

●リプレイ本文

●夕暮れ時、悩める青年
 音楽は、無くてはならない。音楽を愛している。
 相楽葉月、19歳。長身、面構え良しのぱっとみロックの兄ちゃんは悩んでいた。
 所謂、スランプ。
 ライヴハウスの近くには行くものの、中には入れない。
 今日もそうで、川を見つめて溜息一つ。
 このままではいけない、と思いつつも足は、動かない。
 と、そんな彼の姿を視界の中に映したのは七海。ライヴハウスオーナーの子である七海は、彼に見覚えがあったのだ。
 どうしたのかと立ち止まる七海に同級生の更木沙紀は走り寄り、同じ方向をみた。
「あれって」
 橋の上、身を乗り出すように川を見つめるといったら。
 沙紀は七海が何かを言う前に、ダッシュ、というか突撃。
「早まるのはお止めなさい」
「‥‥い、いきなりタックルとは‥‥!」
 沙紀の勢いに押し倒され、押さえ込まれ状況が理解できない。
「身投げはいけません」
「身投げ? 誰が?」
 貴方が、という言葉に葉月は違うと首を振る。
 葉月は事情を説明した。
「足が止まって中まで入れないんだ‥‥スランプでね」
「という事は、テケテケ様に願掛け、ですか‥‥自分の大切なモノをデストロイしてまでスランプ脱出だなんて‥‥なんだがムーンウォークで全力疾走の前向きさ。後ろメタサがメタメタですわ」
「‥‥テケテケ様?」
 何だそれは、と思う葉月に、七海が最近自分達の間で流れている都市伝説、と教える。と、ちょっと違う方向をみて呟いていた沙紀は七海の方へと向く。
 両手そろえてポーズ、それは可憐に素敵に。
「これは一肌脱がないといけませんね」
 沙紀は葉月の腕を掴み歩き出す。
 彼女の向かう先は、七海の家、ライヴハウス。

●踏み込む先に
 今まで何度も引き返したライヴハウスの扉の前。
「さぁ、行くのです。あとはよろしくね」
「うん、ばいばーい」
 のんびりした声に手を振る傍ら、沙紀は葉月の背を押す。
 不意打ち、躊躇っていた一歩を、葉月は越した。
「こっちこっち」
「ああ」
 久方ぶりのライヴハウスの空気。
 七海に手招きされ、端っこの席へ。
「あ、身長伸びた?」
 と、七海に声をかけたのは、ラシア・エルミナール。現在は所属グループから少し距離をとりソロ活動中の彼女は、デビュー前後にここのの舞台の上で何度か歌っている。
 今日は以前代理ヴォーカルをしたバンドに呼ばれ、この場にいたのだ。
「覚えててくれたんだ!」
「ま、記憶力は悪くないし、覚えてるよ」
 くしゃっと七海の頭を撫で、ラシアは笑う。
「そうだ、よかったら葉月さんのスランプ相談してあげてよ」
 七海に促された先、葉月とラシアの視線が合う。
「‥‥ま、助言くらいならね。壁は自分で越えないと意味がないし、他人の説教するような柄じゃないからさ」
 そう言い、ラシアは葉月の元へ。
「スランプなんだって? 事情はよく知らないけど、細かい事考えすぎなんじゃない?」
「細かい事‥‥」
「そう、『音を楽しむ』のが音楽だし、それに声を乗せるのが歌だとあたしは思ってる。楽しんだ方が得だと思うよ。ま、言葉で言ってもピンと来ないだろうから、実際色んな連中のライヴ見た方がいいかもね」
 賑やかな舞台からラシアにお呼びの声。
 しょうがない、と向かう途中、ふと葉月の方を振り向いて。
「とことん悩んで、自分で越える。それが出来ないなら、向いてないんじゃない?」
「向いてない‥‥」
 ラシアから葉月への言葉は鋭く、そして正しい。
 葉月が考え始める中、ラシアの声が、歌が響いてくる。

「 『アタシらしく』が合言葉 誰も何も恐れないで
  怖いこと勿論あるけれど 逃げてたらずっと強くなれないよ

  見えない心の剣で 壁の向こう切り開け!
  It shows it getting it over aloud.

  見えない翼羽ばたかせ 限界を吹き飛ばせ!
  たとえ辛い事が立ちはだかったとしても
  It shows it getting it over aloud. 」

 葉月は、ラシアの歌を聞きながら、瞼を閉じる。
 そこに浮かぶのは自分自身の在り方。

●たまには離れて
「あんただな、七海から話は聞いてるぜ」
 ライヴハウスに連れ込まれて以来、葉月はまだ躊躇いながらも足を運べるようになっていた。どうしても入れない時には、どこからか沙紀が現れては後押しをしてくれている。
 今日も、そうだった。そして七海から話を聞いていると声をかけてきた青年は、葉月の腕を掴む。
「スランプなんだろ、一度すっぱり音楽から離れて本当にやりたくなったらやればいい、ストリートバスケやバイクのツーリング、色々と楽しめるものはあるぜ。まぁ、野郎と一緒は嫌だが、付き合ってもらうぜ」
 そう言って彼、水城礼久は葉月をライヴハウスから引っ張り出した。
 そして一日中、音楽から離れた事を葉月に提供する。
 けれどもそれらは、葉月にとって何か物足りない。
 それに礼久は、気がついていた。
「さーて、今日最後の場所はここだ」
「ここって‥‥」
「出発点に戻ってきたって事だな」
 扉を開く。そこは音が溢れる場所。
「音楽には嘘はつけねーんだ、助けを求めてるならそれは叫びになる」
「叫び‥‥」
「お前が聞かせたいのは叫びなのか?」
 そんな事はない、と葉月は首を振る。
「まだ悶々としてるなら、楽器は触るなよ。楽器に失礼だ」
「ああ、そうだな」
 と、礼久の携帯がなる。
 ちょっとすまない、と相手と話を少し。
「すまねぇ、野暮用。しっかり悩めよ!」
 葉月が今日の礼を言う前に、身を翻し、礼久はライヴハウスを出て行く。
 そんな様子を七海が見ており、帰ってきた葉月の元へ来る。
「きっと女の人の呼び出しだね。いっぱい声かけてるからいっぱい知り合いがいるんだよ、うん。見習わなくちゃ」
「‥‥見習わなくても‥‥」
 葉月は苦笑を浮かべた。

●辛辣な言葉
「久しぶり、七海ちゃん」
「元気にしてた?」
 開店前のライヴハウスの扉が開いて、入ってきたのは紅月辰樹。そしてその後ろから紅月風雅。
 双子である彼らの姿は同じ。けれども兄の辰樹が『静』ならば弟の風雅は『動』だった。
「久しぶり! ってもうちゃん付の年じゃないって!」
「ごめん。この間ちょっと遠くまで行ってきたんだ。はい、これ‥‥おみやげ」
「楽しかったね、兄さん」
 辰樹は七海に袋を渡す。そして風雅はどんなとこに行ったの等と問う七海に一つずつ答えを返して。
「へー、いいなぁ! あ、お仕事は最近どう?」
「え‥‥仕事?」
 ワクワクといった感じに、辰樹と風雅は顔を見合わせた。
「うーん‥‥まぁまぁ‥‥かな? ね、風雅」
「そうだね、兄さん」
 辰樹の言葉に風雅は微笑を返す。
 その時ライヴハウスの扉は開き、自然と視線はそこへ。
「あ、葉月さん!」
 二人の誰だろうか、という視線に気がついて、七海は葉月を紹介する。もちろんスランプ中である事も。
 辰樹は葉月を下から上へ、じーっと見る。
 その視線は、友好的ではない。
「スランプ? 好きな事を好きな時に出来て‥‥それでちょっと出来なくなったからって言って悩んで‥‥本当、羨ましい悩みだね」
 苦笑しつつ辰樹は葉月の横を通り過ぎる。
 それを、葉月は、止めた。
「何?」
「言いたい事は良く、解った」
「で、言いたい事がある?」
「俺の言葉は控えさせて貰えるか? まだ、答えられない」
 その言葉に辰樹は何も返さず、ライヴハウスを出て行く。
 風雅もその後を追うのだが、葉月の前で止まってフォロー。
「兄さん! すみません‥‥兄さんも悪気があるわけじゃないんですが、ただ、本当に好きなら迷ってないで挑んでいけばいいんじゃないでしょうか? 立ち止まってウジウジしてるよりはよっぽど有意義だと思いますよ」
 苦笑しつつも穏やかに、風雅も言葉を残す。
「それじゃあ、失礼します」
 ぺこりと一礼、風雅も走り出て行く。
 その姿を葉月と七海は見送る。
「言われると、キツイ言葉だな」
「でも葉月さんなら大丈夫だよ」
 七海にも励まされ、そうかな、と葉月は言う。
 その頃ライヴハウスを出た二人は並んで歩いていた。
「俺だってロック歌いたいよ」
「そうだね、マネージャーもいつかわかってくれるよ」
「そうかなぁ‥‥」
 呟きは、雑踏に紛れた。

●気晴らしに、歌を
 七海、そして華と凛は雑談中。
 楽しい中、ふと華はまだやっていない仕事を思い出す。
「あ、大航海、りんりん、ちょっと水まいてくるわね」
「はーい」
「華、『りん』は1回で良いってば!」
 華はバケツをもち店の裏手へ。そこには丁度七海の父である店長も。
 住み込み中の華にとっては家族同然。
「水撒きます、下がってください」
 そしてえーい、とその水を撒いた。
「うわっ」
「え!?」
 ざばーっと撒かれた水は道ではなく、人に。
「!! ごめんなさい、すみません!」
「いや‥‥」
 華は店長から冷たい視線。ちゃんとお詫びをしなさいと言っているようで。
「中にどうぞ!」
 このまま放っておいては駄目、と彼をライヴハウスに引っ張り込む華の背に罰として掃除、と声がかかる。それに反する事もできず、気の抜けた返事をした。
「大航海、タオル!」
 ちょっと慌てる華と、びしょ濡れの人。
 七海は状況を悟ってタオルを取りに走る。
「派手にやっちゃったみたいね」
「そうなの、もう吃驚」
「吃驚したのは俺だ‥‥」
 葉月は深く溜息一つ。その表情はちょっと暗い。
「私は凛。お兄さんの名前は?」
「相楽葉月だ」
「そう、何だか元気ないわね、どうしたのかしら。シケた顔じゃ折角のハンサムさんが台無しよ」
 詰め寄る凛の勢いに、葉月は躊躇い、現在、自分がスランプである事を話す。
「ふむ‥‥スランプか。私なんかそれ以前というか、バンド解散しちゃったし全部一人で1からスタート。作詞は他メンバー任せだったし‥‥ステージが、遠く感じちゃう」
 凛は一つずつ噛み締めるように言った。
「でも負けるもんですか! 頑張らなきゃ駄目よね」
 ぐっと拳握り心を固める凛。だがそれは、華には空元気のように見えていた。
 そして、ふと思い立つ。
「お掃除しましょう」
 突然掃除、と言い出した意図はわからない。不思議そうな表情をする二人に、華はちょっとむっとする。
「店長に掃除課せられて、ばってんあたしだけの所為やなか! 葉月君もぼーっとしとったのが悪い、手伝って! 後りんりんもね!」
「何で?」
「何でって‥‥友達やなかとね!?」
 華の勢いに負け、二人は掃除道具を持つ。
 そして床を磨いたり、テーブルをふいたり忙しく。
 自分も掃除しつつ、華は満足げに監督をする。そしてただ掃除するだけではつまらない、とある事を思いつく。
「ま、掃除しつつ兎に角華の新曲、聞いて下さい」
「あら、華が歌うの? どんな曲?」
「とんこつマンの歌」
 その曲名に、凛も葉月も一瞬、どんな曲だと眉をひそめた。
 けれどもそんな事はお構い無、華は歌いだす。

「 その瞳は うっとりまろやか
  その微笑みは こってりそしてあっさり
  おのれ 紅生姜を残すとは(美は一日にしてならず!)
  くらえ 替え玉アターック(コラーゲン、取ってるかい?)
  ああ麗し 僕らのとんこつマン 」

 決して上手いとは言えない歌声。けれども情熱と勢いはしっかり。
 それはわかる、のだけれども。
「ぶはっ!」
 凛はその歌に負け、こけた。起き上がり、華を見つめる。
「‥‥は、華‥‥その歌‥‥」
「とんこつマンの歌よ」
「‥‥とっても個性的だ‥‥ぶふっ」
 やがて葉月も堪えられず、悪いと思いつつも笑い始める。
「! 真剣な歌を何故笑うの!?」
 だって、と言う声は笑いに押されて声にはならない。
 華はちょっと頬を膨らませて、そして報復、と水をばしゃんとかける。
「あ、やったわね、こっちもやっちゃうから!」
「え、掃除は?」
「りんりんには負けない!」
 そして始まる水かけ合戦。最初は止めようとしていた葉月もいつの間にか掛け合う仲となる。
「水かけっこ! 僕もする!!」
「大航海狙い撃ち!」
「わぁっ!」
 と、楽しく水の掛け合いをしばしの間。
 もちろんこの後で、叱られる事は頭の隅でわかっていたのだけれども。

●もう一度
 ここ数日間を、振り返ってみる。
 誰もがしっかりと自分をもって、いたのを感じた。
「結局‥‥俺は俺で、今からできる事をやんなきゃいけない、か」
 自分の音は自分の中に。
 それに気がついて、葉月は前を向いてまた進み始める。
「立ち直られたようですね」
「ああ」
「七海から大丈夫そうだって聞いて本当かなって見に来ましたの」
 瞳を一度瞬いて、沙紀は笑う。
「貴方にテケテケ様はこない。だって一番願いに必要な大切なものは」
 彼女は自分の胸を指差し、一呼吸。
「ハートですもの。しっかり、歌ってください」
 舞台にあがる葉月を、沙紀も七海も見守る。
「なんだ‥‥元気になってる‥‥もう少しキツイ事言おうと思ってたのに‥‥」
「兄さん、思いっきり心配してたくせに‥‥そんな顔で言っても説得力ないよ? でも、迷いがなくなったみたいでよかったね」
 こっそりライヴハウスにやってきた辰樹と風雅。
 風雅は、笑顔の兄に苦笑。否定するのを軽く受け流して。
 今夜は、また多くの人がきていた。
 その隅っこで、華と凛は並んで笑いあう。
「大丈夫みたいね‥‥気分転換に掃除を持ちかけてくれてありがとう。空元気、見抜かれてたなぁ」
「二人の間に隠し事は無しよ」
 また迷う事はあるかもしれないけれども、もう大丈夫。


●CAST
相楽葉月:藤野羽月(fa0079)

華:藤野リラ(fa0073)
凛:千音鈴(fa3887)

辰樹:渦深 晨(fa4131)
風雅:玖條 奏(fa4133)

沙紀:阿野次 のもじ(fa3092)
七海:杉山瑠伽

礼久:水威 礼久(fa3398)

ラシア・エルミナール(fa1376)