【AbySS】BirthdayLiveアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 玲梛夜
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 09/29〜10/01

●本文

 ロック中心なライヴハウスAbySS。
 今日の活動場所はライヴハウス。オーナーは絶賛お掃除中。そこへ甥っ子は笑顔でやってきたのだった。
「これ、なんだ」
「チケット」
「シブから貰ったんだ、二階の関係者席。打ち上げもおいでって」
 ライヴハウスオーナー、平木メアはそれを受け取った。
 一番大きく書かれている文字、それは。

『Seacret Live 2006 〜Birthday!〜』

「これってシークレットライヴじゃない! あれでしょ、MC最後にチョコッとだけ、酸欠覚悟のライヴ」
「そうそれ。誕生日の、いつもやってるライヴだよ」
 ちょっと興奮気味のメアにカオルは苦笑する。だがメアははた、と素に戻りカオルを見つめる。
「‥‥カオルちゃん」
「何?」
「誘う彼女がいないなんて不憫な子‥‥!」
「うるさいよ‥‥」
 暫くの沈黙、その後に。
 メアはいつものようにメモ用紙に何か書いて、ボードにぺたっと貼り付けた。

 お知らせ!
 S谷Rちゃんの誕生日シークレットライヴ!
 そのライヴのチケットをゲット。
 暇な人は一緒にいきましょう!
 カオルちゃん権力で打ち上げにも参加できるみたいよ!
 なのでこの日はオール!

 だがしかし、話はここで終わらなかった。
「で、スタッフさんから頼まれて、飛び入りでライヴ盛り上げてくれる人いないかなーって言われてるんだよね」
「それじゃあ、ここにくる誰かに協力してもらう?」
「そうだね‥‥アンコール一回目の前にでてきてちょこっとやってシブもファンも吃驚させようって感じなんだ。時間にして15分だから、できることは本当に少ないんだけど。ギャラは‥‥心づけくらいはあるだろうけどね」
 と、メアはカオルにペンとメモ用紙をはい、と差し出す。
 書け、とのことらしい。
 それを苦笑しながらカオルは受け取った。
 そしてこの件をメモに書き、メアが張ったメモの下に重ねてぺたり。

 募集
 このライヴでアンコール前に飛び入り、時間15分でお祝いをしてくれる人を探してます。
 15分くらいするとお祝い相手がちょっと元気になって舞台に戻ってきます。気持ちが大事なのは基本だけど、お祝いする相手は本番に本領発揮なプロだから、あんまり差があると、場が盛り下がっちゃうかもしれません。
 もちろん音をくれるバックバンドメンバーはいません。
 舞台の照明なんかはそんなに弄れないからスポットくらい。ドラム、キーボードは舞台に有り。ピアノはありません。
 演出は要望があってもできない場合はできないと言われます。足元スモークくらいは大丈夫。
 舞台の状況は楽器のみで背景にスクリーンとかも無しです。
 お祝い、っていうことで主役にはなれないけど、それでもいいなら力を貸してください。
 スタッフさんから多少の心付けはあるみたいです。打ち上げも是非。
 事前にスタッフさんから内容チェックがあります。曲の内容とか相応しくなければ折角ですがごめんなさいと断ることもあるそうです。

「‥‥もっとはじけて書けばいいのにー」
「それは僕の性格上できません」
 こうして、今回ボードにはメモ二枚。
「あそこのスタッフさん、仕事にシビアなんだよね、チェック厳しそう」
「んー、でもそれは、普通にお祝いっていうのから外れなければものすごーく、手は尽くしてくれそうよね。楽器も事前にコレほしい、って言っておけば相当無理ない限りは用意してくれるでしょ」
「そうだね。シブの周りは飴と鞭の使い分けがとっても上手な人が多いんだよ。きっちりやってれば、ちゃんと遊ばしてもくれるし」
「‥‥そう考えるとシブちゃんすごいわね‥‥色々と」
 メアはメモをぺろぺろめくって遊びつつふと何か思い出す。
「そういえば」
「ん?」
「シブちゃんの誕生日といえば恒例の‥‥」
「‥‥控え室の一角にブルーシートはってね」
「9月生まれさんがいたら巻き込んじゃいましょう」
「え!?」
 嬉しそうに、にやりとメアは笑う。カオルはその表情に、ちょっと不吉なものを感じた。
 今回はメモ二枚。どちらを選ぶも自由なのでした。

●今回の参加者

 fa0379 星野 宇海(26歳・♀・竜)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3461 美日郷 司(27歳・♂・蝙蝠)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4131 渦深 晨(17歳・♂・兎)
 fa4133 玖條 奏(17歳・♂・兎)

●リプレイ本文

●集合
 待ち合わせはAbySSの前で。
「楽しみですわね、司の演奏もチェックよ? 無様な演奏は許しませんわ♪」
「女王陛下には逆らえないな‥‥カオルは‥‥ロクナビ以来か‥‥また世話になる。メアちゃんには土産だ‥‥欧州土産のチョコレートだ」
 星野 宇海(fa0379)は美日郷 司(fa3461)に笑みかけひっそりプレッシャーをかける。司はすすーっとちょっと逃げ腰で視線をそらせていく。
「ありがとう! 皆色々大荷物ね」
「プレゼントとか持ってますの。そういえば‥‥今度歌いに来るといいながら観戦になっちゃいましたわ。それにカオルさんには姉弟共々お世話になって」
「歌う機会はまだまだあるからいいのよ、はいカオルちゃんも頭下げる」
「こちらこそ、お世話になってます」
 と、そんな様子をにこにこ見守るのは明石 丹(fa2837)だった。
「ライヴ行くからにはシングル、アルバム聞き込んでノってかないとね」
「マコちゃんばっちりね!」
 メアは丹に親指ぐっとたてて笑いかける。
「二階席から愛を込めて、だから乗り出してる人も多そうだなあ、皆落ちないように気をつけて。メアちゃんもね」
「そうね、気をつけるけど落ちたら落ちた時よね!」
「‥‥メアちゃん」
 丹はその言葉に苦笑しつつ、傍で心配と呟くカオルの肩をぽむ、と叩いた。
「ちゃんと楽しまなくちゃね! あ、初めましてさんいっぱいね、よろしくね」
「今回はお誘いありがとうございます」
 ぺこりと玖條 奏(fa4133)は頭を下げる。そしてその横には渦深 晨(fa4131)。
「初めまして、今日は一杯楽しみましょうね。あ、酸欠覚悟ー‥‥と聞いていたので酸素を買ってましたよ、カナが」
「あの、よくわからないんですが、シンが持って行けというので持ってきてみたんですが‥‥本当に必要なんですか? 酸素‥‥」
「うん、必要だね。スタッフさんにあげるといいよ。幾らあっても嬉しいと思うし。まぁ、観てれば酸素必要になる理由がわかるよ」
「そうですか。普段は見てもらう側なので、この機会にしっかり観客目線を堪能して今後に活かせる要素も見つけられればいいんですが‥‥」
「上手な人の演奏を聞いて一杯勉強して、一杯叫んだりして楽しみたいです」
 奏と晨はライヴ自分達のこれからにも活かそうとしっかり勉強する気も満々。その姿勢はメアにとっても好感だったらしい。
「偉いわ、二人とも偉いわ! 将来大物よこの子達!」
 と、大騒ぎのメアを一先ず置いといて、冬織(fa2993)はカオルに声をかける。
「お初にお目にかかる。『Stagione』Vocalの冬織と申す、よしなに。先日うちの鳥頭リーダーが世話になったようじゃな‥‥世話をかけた」
 しみじみと冬織は言い、カオルは苦笑する。
「楽しい人でしたよ、また仕事であったら宜しくお願いします、ですね」
「メア殿もよしなにな」
「よしなにー」
「カオルさんと渋谷さんがお知り合いなのはびっくりでした。神楽もお兄さん二人とも知ってるけど。うん、世界って広いようで狭いね?」
 月見里 神楽(fa2122)はカオル見上げて言う。
「狭いね。シブとは大学での付き合いなんだよ」
「‥‥とゆ事はカオルちゃんも三十路?」
 と、話を耳にした嶺雅(fa1514)が問う。
「僕はとっくに三十路過ぎ」
「そう、だから彼女て言ってるの! お説教してあげて!」
「まぁ、彼女なんてそのうち出来るから頑張んなよ。あ、そろそろ時間じゃない?」
「そういえば、出発ね」
 ラシア・エルミナール(fa1376)は時間を見て、EUREKA(fa3661)も頷く。
 確かに時間は良い頃で。
「あ、そうだね。じゃあ乗ってください」
「カオルちゃん嬉しそうに流さないの話を!」
 メアの声が響く中、一向はライヴ会場に向かうため、バンに乗り込むのでした。

●到着
 ライヴ会場の裏口にバンで到着。芸能人が表から堂々と入ると目論見がばれる、そして大騒ぎなどのWパンチ以上を考慮しての事で。
「ドキドキしちゃうわね!」
「はいはい、落ち着いて‥‥」
 騒ぐメアをカオルは抑えつつスタッフの姿を探す。
「あ、いた」
 手ふりふり、スタッフも気がついてやってくる。
「今日は有難うございます! いやー、もう有名な方迎えてで楽しくなりそうです。ライヴでてくださる皆さんは控え室あるんでそこに荷物置いていただければ。ライヴ観る方たちは‥‥打ち上げの一室に荷物どうぞ」
 ライヴハウスの中、準備にどたばたのスタッフ達の間を縫って行く。
「!! ちょ、ヤバ、そこ、そこのドア入って!」
「え、えー!?」
 ぎゅうっと部屋に押し込まれる。どうやら蓮が移動中のようで。
「あ、カオル! メアちゃーん! ぎゃー、皆いらっしゃーい!」
 当然の如く気がついて嬉しそうによって来ようとした、のだが。
「準備まだなんだからこっち!」
 首根っこ掴まれて連行されていく。
「うっ! ま、また後でー!」
 引きずられつつ手振って、そして蓮は一室にどたばた騒ぎながら連れて行かれた。
「‥‥すみません、渋谷さんいなくなったんで‥‥」
 部屋に押し込まれた面々は一息。
「で、実は皆さんの控え室はさっきの部屋の一個隣です。物置張り紙で、扉開けると布張ってあるんですけど、普通に控え室です」
「結構広いね」
 扉開けてたりーんとなっている布をちょっと捲ると五人が待機するには十分な広さの部屋が。しっかり椅子にテーブル飲み物お菓子と準備されている。
「それじゃあ皆は頑張ってねー、二階から手、振るから!」
「あとで軽く打ち合わせしに来ますから」
 乱入組は物置とされた控え室で集中高めつつ、出番を待つ事になる。
 そしてライヴ参戦組は荷物を打ち上げ予定の部屋へ起き、ライヴ会場へ。
 すでに一階席には観客が入り、ざわざわとテンション高めなのが伝わってくる。
「楽しみですわね、レベルの高いライヴはみるのも良い勉強になりますし」
「そうそう、思いっきり楽しむのー!」
 二階関係者席で盛り上がりつつ、参戦組もライトが落ちるのを待つのだった。

●祝っとけ!
 灯りが落ちる、と同時に一階のファンたちからは黄色い悲鳴が。
 開演時間を10分遅れて、という事でまだかまだかといつでも反応できるくらいテンションは高かったらしい。
 と、ドラムのスティックの音が響く。
 そしてライトが一斉につき、ギター、ドラム、ベースの音が華やかに。
 これから調子を上げて、と思ったところで音が止まり、照明が落ちる。
 ライヴが始まると思っていた観客はどうしたんだろう、とピタッと声を出すのを止め舞台を静観。少しざわめき、会場からは蓮ー、と呼び声もかかる。
 と、蓮の声が響く。
「とりあえず、祝っとけ」
 その言葉と同時に、舞台上は眩しい光が溢れる。
 ロングコートの裾翻しながら、蓮は声を受けて煽ってくる。
 オープニングの一曲目はノリ重視、勢いつけてそのまま二曲、三曲、駆け上がっていく。
 と、途中でコートを脱ぎ捨てるとノースリーブにアームカバーと動きやすく飾り気なく。
 マイクスタンド蹴り上げて、蓮はそれを抱え込む。
「もっと声でるだろーーーー!!! もっと!!! 着いて来いよ!!!!」
 弾ける音にのせて届く声はしっかりと。

「 我侭なんて言ったもん勝ち そう言うもんだろ! 」

『 駆け引きはー! 』

 ぱっとマイク観客に向けるとしっかり声は返ってくる。
 もちろんしっかり予習済みの面々も一緒に。
「あ、シブちゃんこっち見たー!」
「はいはい、メアちゃん落ち着いてー」
「ふむ、わしは渋谷殿のおちゃらけ姿しか見た事がないゆえ同一人物に思えず不思議な心持じゃよ、流石本番本領発揮なプロじゃ」
 オペラグラスで表情チェックをしていた冬織は呟いて、それを仕舞い、しっかりライヴ観戦に入る。
「ああいう掛け合いもあるのか‥‥」
「カナ! しみじみ感心してないでほらほら」
「あ、うん」

 マイクスタンド持ったまま、舞台の端から端まで走り回って、本人とても楽しそうに活き活きとしている。

「 来るは拒まず去るは許さず そんな『僕』だから! 」

『 愛しいよー! 』

 蓮と観客と、一緒になって楽しむ姿勢は崩れない。
 そして曲の間奏では観客と一緒になってヘッドバンキング。
 縦横斜めとフラフラ限界までやり抜いて。

「 来るは拒まず去るは許さず そんな『お前ら』だから
  愛しいぜー!!!! 」

 歌詞改変はライヴに合わせていつもの事。
 そのまま音は伸びきって、ふつっと静かに切れ、舞台も暗くなる。
 そして暫く反応が泣く、会場は少しざわめく。
 と、暗闇から気持ちよく流れてくるアコースティックギターの音。
 舞台左、椅子に座って気持ち良さそうにギターを弾いている人がスポットに照らされる。

「ちょ、いっずみさぁーん‥‥」

 と、早いという感じで蓮の声がマイク通さず聞こえてくるがお構いなし、残りのメンバーも曲を奏で始める。
 ギターの音にタムの音と、軽いリズムが流れ出す。

「あれは演出かしら、それとも素かしら‥‥」
「素‥‥っぽい」
「楽しそうな皆さんですわね〜」
 サポートのバックバンドメンバーとの掛け合いもどきも交えつつライヴはこの後ちょっとテンション落として四曲続く。
 曲は一区切り、暗い会場には蓮やサポートメンバーの名前を呼ぶ声もちらちら。
 と、ドラムの音が力強く響く。繋ぎの演奏、らしく、ドラム、ギター、ベース、ギターとそれぞれがソロで演奏し、そしてまた音を束ねていく。
「まだまだこれからだよなあああああああああ!!!!!」
 そして蓮が衣装チェンジして登場。また会場煽っていく。
 今度は白Tシャツにジーンズとまたラフに。
「つっぱしってくからなああああああ!!!!!」
 と、同時にぱぁんという音がして、舞台上の天井から銀テープがはらはら降ってくる。
「カオルちゃんとって!」
「無理だから‥‥」
「二階席まではちょっと届かなかったみたいだね」
 丹が笑いながらフォローするが、メアは残念がりつつまだ諦めていないようで、後で拾ってきてねと言う。
「‥‥後でね」
 と、話をこそこそしているうちにもライヴは続いている。
 蓮とメンバーが絡んで黄色い悲鳴が上がったり、ライヴは色々ある。
 舞台上で、こけたりも。
「あらまぁ」
「‥‥この場でこけるなどらしいといえばらしいのかもしれぬなぁ‥‥」
 どうやら汗で滑ったの半分、はしゃぎすぎ半分のようで、苦笑しつつ照れつつ歌詞間違えつつ、元通り。
 再登場から勢い乗って四曲歌いきり、音がふつっと止む。
「いっつもどーり、誕生日のライヴってんだけど、やっぱ、この場所が一番、サイコー、大好きお前ら愛してる。次、最後の一曲。ライヴ、命か、げはっ、咽た。仕切りなおし、命かけてお前らには向き合ってるからな!!」
 そして最後の一曲を、全身全霊で、蓮は歌った。

●乱入組突入!
「もうすぐライヴ終るんでお願いします、渋谷さんぶっ倒れるんで隣どたどたしてもばっちり大丈夫ですから!」
 控え室の扉が開いて、お呼びの声に五人は活き活きとする。
 スタッフに連れられて、舞台の方へ。
 打ち上げ部屋の前を通る時、ラシアの目にブルーシートが映る。
「気になるね‥‥」
「ラシアどしたのー?」
「ん、お楽しみは取っとこうって事だよ」
 と、どたどたする一角。ステージから帰ってきた蓮が倒れて酸素吸引の隣を通って。
 そのどたどたの中でも司はしっかりいつもお約束の愛用ストラトタイプの銀のエレキギター『TATUMI』にキス一つ。
 パッとライトが明るくなり声があがりかける会場に手ふりつつ嶺雅は走っていく。
「コンニチハー! 蓮クンのお友達代表デス! 今日は本人もドキドキのお祝いをしにきましたー!」
 嶺雅の登場に、観客は目論見通り吃驚。
 驚きの声と同時に喜びの声も上がる。
「ボーカルは俺サマ嶺雅とラシア!」
 ラシアの登場に会場から「おおーっ!」と低い男声も響く。結構参加しているらしい。
「ドラムは神楽! エレギ、ツカちゃん! キーボード、ゆーり!」
 ドラム調整中の神楽にスポットがぱっとあたる。
 はた、と気がついて顔上げて手を振ると会場から「かわいー」と声があがる。
 そして司、EUREKAとスポット当たる毎に観客からは声が上がって行く。
「蓮クンに、皆で歌をプレゼントしちゃいましょー! 最初は『Cogwheel』!!」
 嶺雅は腕挙げつつ元気に言う。
 EUREKAのキーボードの音、そして司のエレキギターと神楽のドラム。
 明るかった照明は少し落ち、そしてスモークが焚かれ、もわっと雰囲気をかもし出す。
 ミディアムテンポで、音はやや高め、流れるように。
 最初に歌うのは嶺雅。

「 どこまでも続く世界の下で 
  生まれた君を祝うように 星の雨が流れた 」

「 音もなく腕時計の針が回り始める
  人としての歯車が動き出すから(Life arises) 」

 一定のテンポで、キーボードの高い音が曲のアクセントに。
 歌はラシアが繋ぎ、そして嶺雅が声を合わせる。

「 動き始めた時間は 二度止まる事はない
  果てのないこの道も もう見えない始まりも
  今を生きる現実 」

 そして照明はふっと消える。
 テンポは少し早くなりサビの後はラシア、嶺雅と1フレーズずつ歌い合う。歌い合いながら、照明が少しずつ明るくなって。
 『誕生』と『応援』のイメージが、観客にも伝わる。

「 先の見えない暗闇を 
  幾つもの灯が照らしてる
  まるで支えあうように 
  道を示すかのように 」

「 いつまでも見守ってるから 」

 明るくなった照明の中、嶺雅とラシアは一瞬視線を合わせて声をそろえる。
 そしてその後引き継いで前奏をアレンジしたキーボードメインの後奏が続く。
 最後音はカットアウト。

 だがそれも一瞬で、すぐまたあたらしい音が流れ出す。
 ドラムカウントから、ギター、キーボードと加わって、覚えやすいシンプルなメロディーが軽快なテンポで流れ出す。
「皆もサビ歌ってねー!! 簡単だからっ!!」
「渋谷祝ってやろうね! 『Anniversary』!!」

 ふっと賑やかな前奏は抑え目になって声が通るように響く。

「 世界中の誰にでも 不公平なく訪れる日
  キミが今ここにいる それが確かな証拠
  1年に1度だけの 素晴らしき記念日(Happy Birthday!) 」

 歌はラシアと嶺雅が掛け合って『対話』のように。

「 片手で数え足りるキミ(One Two Three!)
  両手を貸しても足りないキミへも(Twenty‐One Thirty‐One!)
  心からの言葉を贈るから どうか受け止めて 」

 歌にあわせて指を折り、そして指が足りないと『困ったな』と軽く肩をすくめて。
 音は段々と盛り上がり元気よくなっていく。

「 生まれてきて おめでとう
  生まれてきてくれて ありがとう
  今日を迎えて おめでとう
  明日へ向ってくれて ありがとう 」 

 声を重ねて、言葉の繰り返しにマイクを観客へ向ける。
 彼らはちゃんと、舞台上にいる自分達の気持ちをわかって返してくれる。

「 僕と出会ってくれて ありがとう
  笑っていてくれて ありがとう
  一緒に生きているキミと僕 おめでとう 」

 音は元気に、伸びやかに。

「 春夏秋冬一巡しても また再び伝えたいよ
  心からの Happy Birthday and Thanks you! 」

 メロディーそのまま引き継いで、ギターとドラムのシンバルの音が響き、カットアウト。
 その余韻が、残る。


「むしろありがとうは僕の言葉」

 と、曲の終わりと同時にぼそっとマイクを通した声。
 舞台袖から復活した蓮がでてくる。
「あー、もう祝われて寝てらんないしっ! 今日は復活が三分早い、三分!」
「三分って微妙な数字ね、蓮君」
「ウン、そうだね。てかマジで約束果たしてくれて嬉しっ!!」
 EUREKAに向けた言葉を聞いて、観客から「何何ー?」と興味津々の声が。
「この前イギリスで一緒になった時、誕生日にイベントするぜーって言ったら参上するって言ってくれたんだよねー」
「そうそう、それでこうしてお祝いに」
「こう祝われるとは思ってなかったよー。ついでに二階にいっぱい知り合いがいるの知ってる」
 と、二階席見上げた蓮はしっかり、全員の顔をみて手を振る。
「本当ありがとうね、嬉しくて涙でちゃう。嶺雅君もラシア嬢も司君も神楽嬢もEUREKA嬢も。はい、お前らこれからこのメンバー贔屓しろよー宣伝しろよー僕も贔屓しろよー」
「ちゃっかりしてるね、蓮クン」
「任せて! と、はい神楽嬢もドラムから離れてこっちおいで! ほれほれ! 司君も真ん中真ん中!」
 神楽と司、そして三人も真ん中に集めて。
「僕の御誕生日お祝いにわざわざきてくれた皆に拍手ー!!」
 観客からは「お祝いありがとー!」とわが身のような観客からの声。
「そんでもって僕からも一つお願い」
「‥‥無理じゃないならな」
「めちゃくちゃ簡単。お前らもやるんだぞー」
 司の呟きに蓮はにーっと笑う。
「あの御誕生日の定番曲皆で歌ってほしーな、と」
 そう言うと同時にMC中にスタンバイオッケイ状態だったバックバンドメンバーが音を奏でる。
「おにーさん、ちゃっかりしてるね!」
「だって歌ってほしーもんだから!」
 皆一緒になって、蓮の三十路祝い。
 曲が終って、拍手とおめでとうの声が会場に響く。
「はい、リズム隊、ギターは維澄さーん。んでもって紅くーん、ベースは潤! ドラムはトワ! で、僕のお祝いに来てくれた吃驚ゲストの皆ー! はい手つないでーつなーげぇぇー!!」
「つなぐの?」
「ちょ、ラシアの隣俺ダカラっ!」
「はいはい‥‥」
 全員で手を繋いで、腕上に挙げて、振り下ろして大きく礼!
 暫くそのままで、観客からは拍手が帰る。
 そして手、振りつつ舞台端へ。
 控え側に入った途端、蓮は面々を向く。
「ちょ、なんで言ってくんないの! 本当びっくりしたじゃん!!」
「それが狙いだったんだが‥‥」
「いや内緒でチクっといてよ僕に」
「そうすると面白くないわよ」
「確かにそうでございまーすー」
 狭い通路でだべりだべり。
「渋谷さんもう一回お願いしまーす」
「オッケー! んじゃちょっとまた言ってくんね!」
 スタッフに呼ばれて蓮はまた舞台へと上がる。

●ライヴもお仕舞
「呼ばれて引き戻されてじゃじゃーん! あ、携帯電話で記念撮影しようと思ったのに忘れた、スタッフ電話!」
 蓮は持ってきて、と舞台端に頼む。
 するとスタッフがもって出てきたのは黒電話。蓮はそれを受け取って。
「そうそうこれでかしゃーって‥‥写真とれるかぁ! 僕電話つったけど携帯電話って言ったじゃん! なんで普通に黒電話があるの! ズレてるよスタッフ! ネタ読んでるのかよ!」
 微妙に笑いが漏れ、次はちゃんと携帯電話登場。
 蓮はそれを構える。
「僕サイコー? って言うからサイコーって続けて言ってで腕あげてねー。 僕、サイコー!?」
 大きな声で「サイコー!」と言葉が返り、会場が揺れるような錯覚を起こす。 
「はい、おっけー。しっかりブレてるけど気にしない。んで、嫌なんだけど今日はそろそろお別れ」
 今までのおちゃらけムードをその一言で払い去る。
「ライヴが大好き、音楽大好き、お前ら大好き。だからいつまでもこの場所守っていくから、これからもよろしくお願いします! 今日は本当にありがとうっ!!」
 そう言って深く深く頭下げる。
 暫く動かず、観客から「ありがとう」「おめでとう」の言葉を貰って、手を振りながら蓮は退場。
 会場も明るくなり、アナウンスが入り、ライヴは終ったのだった。

●ライヴ後の大騒動
 蓮は目隠し状態で椅子に座らされ、四面机に囲まれていた。
「目隠しとっていいですかー」
「はい、いいわよ!」
 目隠しをとると、そこには。
「ケーキ一個に一本のろうそくってある意味壮観ダネ! あ、俺からはお酒あとであげる! 一緒に飲もうー!」
「壮観すぎてどう反応すればいいのコレ、うん飲む!」
「ゴーストミニケーキ、かわいいでしょ? ちょっと蝋燭たてたらシュールね♪」
 ゴーストの言葉にカオルがぴくっと反応したり。
「あとモンブランと抹茶のレアチーズケーキも」
「やっぱり蝋燭差すからには柔らかい焼き菓子だよね」
「神楽はシュークリームです! チョコペンで顔描いて、ロウソクたてれば‥‥ハロウィン間近、カボチャ風シューの完成!」
「そっか、10月はハロウィンだよね」
「で、実はどれかにアンコ入ってます、誰があたりかな?」
 シューに手を伸ばしかけた蓮の手が止まる。
「‥‥ロシアンかーい」
「あたったら賞品あげるわ、ライヴハウス三日間無料で貸してあげちゃうわチケット。使用期限無!」
 神楽の後ろに立って、メアは言うと、蓮は眼の色変えて睨めっこ。
「あてなきゃ‥‥ちょ、このシュー食べるの後ね、後!」
 そして他にもまだまだ、おはぎに饅頭、アップルパイ、そしておにぎりまである。
 数は全部で30個。
「おにぎりが謎だ‥‥でもあんがとー!」
 全部の火を蓮は消す。そしてそれぞれ食べたい物を手に。
「コーヒーも淹れた‥‥飲むといい」
 と、司の差し出すコーヒーを面々受け取る。
「司君ありがとー! ‥‥よしこのシュー」
 司のコーヒー飲みつつ、シューぱくり。それは見事当りで。
「ちょ、アンコアンコ!!」
「当てちゃいましたおにーさん!」
「あら、すごいわ、気合ね!」
「わーい、てか女の子みんなおそろいコサージュだね」
「奏ちゃんがくれたの、ありがとうと御苦労様の気持ですって」
「なるほど‥‥似合ってる!」
 そしてそれぞれ持ってきた誕生日プレゼント渡し大会も始まる。
「happy birthdayです‥‥! デビューライヴの時はお世話になりました。僕からのプレゼントは‥‥マジックです。沢山サイン書いてくださいね。で、一番初めにください」
 晨からマジック受け取り、蓮はきゅぽっと蓋を外す。
「よし額に!」
「や、それはっ‥‥!」
「あはは、僕からはこれを。ちょっとありきたりかなとは思ったんですがお祝いのミニブーケです。貴方が産まれ、出会えた事に感謝の意を込めて」
 奏は微笑を浮かべて差し出す。と、同時に隣で噴出す声。
「‥‥あははっ‥‥あ、有り得ない!」
「え、あれ、俺何か変な事言いました?!」
「あ、うん? 大丈夫、全然おかしくなかったよ? ただ、カナって蓮さんの事告白するくらい好きだったんだね‥‥知らないかったよ」
「なっ、告白?! 俺はそんなつもりじゃっ」
 晨は爽やかに言い、奏は大慌てで。
「奏君ごめんねっ! 僕には心に決めたっ‥‥!」
 と、悪ふざけ半分で蓮が飛び込んだ先は丹。
 丹は手にはバースデーケーキ風にデコレーションした散らし寿司。
「心に決めた御寿司がっ!」
「これでお腹満たしてね。あ、誕生日プレゼントは植物図鑑。隅から隅まで読むと結構面白いよ」
「おお、すごいっ!」
「あ、そうだ写真撮ろう、はい、三十路ーズ!」
「何その掛け声!」
 寿司を置いて、さっととりだしたカメラでかしゃり。蓮もそれに対応して何枚かぱしゃぱしゃと。
「わしからも、これを」
 と、冬織が差し出したのは必需品酸素スプレー1ダース。
「リボンも可愛かろう?」
「超助かる! ありがと! かわいい!」
「はい、私も」
「お、なんかラッピングかわいいのに重いよ?」
「中にはリボン巻いたパワーリスト、体力と筋力つけて頑張ってね♪」
 宇海は渡し、頬にキスのおまけを。
「た、大切にしますっ!!」
 そして冬織と宇海が並んでいるのをみて司は「二大女王‥‥夢の共演か?」と呟いてみたりもする。
「おにーさん真っ赤だね、神楽からは『バースデイ』、紅茶とブロワリアの花束!」
「花言葉は『貴方は魅力に富んでいる』よ」
 花束と、バスケット鉢を神楽とEUREKAから貰って。
 嬉しさホクホクの蓮だが、本格的なお祝いはこれからだった。
「しっぶやさーん、ブルーシートにー」
「‥‥とうとうきたか」
「そういえば、ブルーシートで何するんだい?」
「いやぁそれは‥‥」
 みるとブルーシート周りにいるスタッフは手にへちょっとした生クリームたっぷりなケーキ手に、満面の笑み。
「‥‥俺も男、よしこい!」
 皆から貰ったものを置いて、蓮はブルーシートに仁王立ち。
「面白い事ありそう、写真とらなきゃ」
 と、丹はカメラしっかり持って準備OK。
「一番、ギター維澄いっきまーす!!」
 で、予想したとおりその手のケーキは蓮の顔面へ。
「ブフ! ちょ、苺痛い! とって! ケーキも全部食べるけどとりあえず苺マジ痛いから!」
「しょうがないなー‥‥二番、ギター紅陽ー。うりゃぁ」
「はいありがとぉ! 三番来い!」
「さんばーん、潤でー‥‥っす!!」
「よんばーん、トワー、くらえ渋谷ああああ!!」
 と、スタッフたちは自分達で作った不恰好簡素ケーキを蓮の顔面にぶちかましていく。
「ふふふ、いい写真とれてる。後で焼き増し焼き増し」
「マコちゃんそれ私にもね!」
「ふむ‥‥あれは参加したいものだな‥‥」
「あ、俺の使いふるしになっちゃうけどやる?」
 と、冬織の呟き耳にしてメンバーの紅陽は潰れたケーキを冬織に差し出す。
「何番目、と名乗りでGO!」
「あいわかった。五番、冬織‥‥渋谷殿、覚悟せい」
「次は俺俺ー! 六番、嶺雅!」
「ブフ、マジ!?」
 そしていつの間にか、冬織の後ろには使ったケーキ受け取って面々スタンバイオッケイ。
「あはは‥‥今年はケーキ食べる前に顔に付きそう‥‥ええい、食う!」
 覚悟決めて、蓮は顔のクリームぬぐいつつ食べつつ。
「なるほど‥‥ブルーシートがないとあとで掃除が大変だね‥‥」
 ブルーシートの謎が解け、ラシアもすっきり。
「てゆーか笑ってるけど来月はお前だからな紅陽!!」
「うん、ライヴないから大丈夫」
「くっそ、ライヴしてやるううう!!!」
 と、叫び声響きつつも、それは楽しげで。
「ああ、もう‥‥愛情が痛いんだよっ! カオル助けて!」
「めんどくさい」
「ひど、メアちゃん!」
「面白いから助けないわ」
「維‥‥維澄は鬼だし、潤は電波だしトワは面白ければいいだし紅陽なんて弄り加速させんのが趣味だしっ! ちょ、メンバー解体していい!? 神楽嬢僕と二人ユニットイェーイとかする!?」
「しますか?」
「良いお答え!」
 神楽がにっこり笑って言うと蓮はありがとうと喜ぶ。
 だがしかし。
「でも蓮ちゃんそうしたらその歳の差できっと皆が噂たてて弄るわよ?」
「あー、する」
「するな」
「‥‥じゃあEUREKA嬢!」
 と、次に白羽の矢が立ったEUREKAを嶺雅はガードするように立つ。
「ゆーりおかあさんはうちのおかあさんだからダメ!」
「そうだね、ダメ。ぬけられちゃうと痛いし」
 ラシアも苦笑しつつダメと言って、EUREKAは苦笑する。
「あらら、ごめんなさいね、蓮君」
「ダメか‥‥司君は!?」
「‥‥宇海の許可をとってくれ」
 司は視線を宇海の方へ。宇海はふふふ、と女帝オーラ出しつつ笑みを湛える。
「渋谷さんがうちに来ます?」
「‥‥そうもいかない‥‥奏君と晨君のとこ‥‥」
「僕らのとこですか?」
「平均年齢あがっちゃうね」
「‥‥何気に断られた気がします。丹君っ!」
「うーん、僕もリバティがあるし。あ、でもちょっとだけとかだったらいいよ」
「わーい!」
「‥‥わしとは組まぬのか?」
「ん、冬織嬢は、きっとにこやかに弄ってくるから今までと変わらないし」
「ほほう‥‥?」
 あ、墓穴掘った、と気がついた時にはすでに遅し。
 さらなる弄り、もといお祝いままだまだ続くのでした。