鬼ごっこ―平行線アジア・オセアニア
種類 |
シリーズ
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担当 |
玲梛夜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
12/30〜01/03
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●本文
事実その1。
二人は、ライバル同士的。
事実その2。
告白は、無残に散る。
事実その3。
なんか、冗談とか嫌がらせだと思われているけれども、本気。
鬼はどっち? つかまってるのはどっち?
つかまえようとしてるのは、どっち?
「耀(ヨウ)君」
「んー?」
ぱらりと、専門書をめくりながら耀は曖昧な返事をした。
いつも変わらない日常の半分以上が過ぎたその日。
耀と壱(イチ)は、学園の図書室で。
「キミが、好きです」
――え?
壱の告白に、耀は一度目を閉じて考える。
「‥‥頭大丈夫?」
「や、いたって普通」
「なら、大丈夫じゃないよ。はいはい、そういうのは面白くないから」
軽く流されて、この話は終わり。
この学園‥‥優秀な人材を育成することに心血注ぐ学園のとある年代の現在の主席と次席は、いつもライバルで、どちらもどちらを気にしないはずだったのに。
いつのまにか主席は次席にご執心。
いつのまにか。
学園に名は無くただ『学園』と呼ばれる。
この学園には稀有な能力を持つものたちが集められ、その力を育成され多方面へと放たれていく。全寮制、年齢ごとに生活区域は分けられ、生活の保障はされている。
稀有な能力は、破壊から創造までレベルの違いこそはあれ、多岐にわたる。ただ唯一つ『死者蘇生』といった、自然の法則を覆すようなものは確認されていない。
『学園』から卒業するには自分の能力を生かすことのできる場所からのスカウト、もしくは売り込みをして認められるのどちらか。
また、その売り込みの機会を与えるということで『実習』というものが有り、学園外で活動を許される。
●『鬼ごっこ』概要
第一話は耀と壱。
第二話は耀を想う二人、朔(サク)と尚(ナオ)。
第三話は壱を亡くした耀と朔と尚。
一話では壱の一方的押しであり二話では耀が少し好きかも、と思い始める。三話では気持ちが向くのだが壱がそれを言葉で聞くことは無いという流れを予定。
登場人物については他にも臨機応変に作成可能。
●一話について
シーンは主に3つ。
一つ目は、『壱と耀、二人のやりとり』
二つ目は、『壱と壱に近い面々』
三つ目は、『耀と耀に近い面々』
なお、一話から朔と尚が出演するのであれば二人のみのシーンを四つ目として入れる。
この二人は、耀と壱には今回、直接的には関わらない。
●役について
主要役の基本設定。『稀有な能力』については特に指定がなければ自由に設定していいが、話の中で触れる必要なければ設定しなくていい。
なお、衣装は役者の希望をできるだけかなえるが、世界観から外れる服装(例えば丁髷に裃、縦ロールにドレス、十二単など)は却下される。
なお、監督の趣味により(‥‥)『壱』と『耀』のみ外見年齢20歳以上が望ましい。
口調、人称についてはおのおの弄ってもらっていい。
壱‥‥ドSだがドMっぽい。髪も瞳も黒なので『黒』と呼ばれる事が多い。高すぎる知性を持ち、それは『稀有な能力』に関係している。耀が好きで好きでたまらない。ちょっとどころか果てしなく変態くさい。好きといいながらも優しさのかけらもないかもしれない。二人称すべて君付。
耀‥‥自他ともに認める優秀な子。ただいつも壱には勝てない。壱が嫌いではないが好きではなく、苦手で告白後は迫ってくると静々と逃げる。『稀有な能力』については触れられる事を嫌う。
朔‥‥もともと壱に興味を持ち、そこから耀へと気が向いて行く。ちょっと乱暴な物言いで行動力抜群だが頭が悪いわけではない。ないけれども阿呆。尚とは腐れ縁でライバルだが傍から見れば仲良し。
尚‥‥耀に一目惚れ。壱の事はすごいとは思うが嫌い。インドア派。朔とは腐れ縁でライバルだとは思っていない。というかもう関わるな的な感じでありスルーすることの方が多い。
●その他
世界については近未来ファンタジー。今よりも文化は進み、退廃も進んでいるイメージ。ただ『学園』の中は快適生活を送れる。話はこの中で進んで行くので他の事に触れる必要は無い。またその必要がある流れになった場合は、その都度提示。
能力については特に触れる必要無しの流れになれば、触れなくて構わない。
壱は最終的に死に役となるが、そのタイミングは出演者の希望によっても変わってくる。
●リプレイ本文
●キャスト
壱:西村 哲也(fa4002)
耀:笙(fa4559)
朔:桃音(fa4619)
尚:忍(fa4769)
鈴:ミッシェル(fa4658)
蘭:ユキカ(fa5202)
●平行線
二人は平行線。
交わる事は、ない。
ずっとずっと、永遠に。
それは、壱と耀。
●壱と耀
静かな第一図書館。長い廊下といくつもに分かれた部屋。
今、とある部屋に人影は少ない。
その中に響く、足音。わざとらしく響く足音で顔を上げたものたちは、彼に気がついて、何故ここにいるのか気になりつつも、何かに巻き込まれるのはごめんだと退出し始める。
暗色の服の上に白衣纏い、目指す場所はひとつ。
彼、壱の目指す場所には、一人。
ラフな格好の彼は、この学園で知らないものはほとんどいない耀。
壱の向かう先にいる耀も、読んでいた本を仕舞いさっさと退散しようと席を立つが、それは少し遅く阻まれる。
がしっと腕を掴まれ、後ろから楽しげに響く声。
「どこ行くんですか、耀君。せっかく出会えたのに」
「お前のいないところに、いくつもりだが」
「つれないね‥‥そう言わないで、座って? まだ本途中だよね、僕を気にせず読んで」
力任せに座らせて壱はご機嫌だ。
壱が横にいて落ち着いて読めるはずない、と耀は溜息を大量生産。
隣でにこにこ人畜無害な笑み浮かべる壱を、耀は半眼で睨む。
「何故俺につきまとう」
「好きだから、それ以外にないよ」
主席と次席。壱と耀。
不干渉という暗黙の了解を破ったのは、壱だった。
事の起こりは数日前。突然、耀が好きだと言い出した壱。
冗談だろうと流すにも限界があるほどに毎日毎日、壱は好きだ好きだと言ってくる。
無駄な騒動を避けたい優等生である耀は、無闇に反撃もできず只逃げるか、捕まれば我慢するだけ。
「‥‥‥‥離せ」
「離したら、耀君逃げる」
行動パターンもいつも見抜いて。
「本、返してくるだけだ」
手にしていた本を示す耀。それなら、と壱は手を離す。
そして耀の後ろを当たり前のように、ついていく。
「耀君、好きですよ」
「‥‥」
「好きですよ、耀君」
柔らかな楽しそうな声。きっと表情は人懐こくあるはずだ。
耀は背中から何度も受ける言葉を流して、本を片付ける。
「耀君」
と、今までよりも低く響く声。
異変を感じて振り向くよりも速く。
「っ!!」
「耀君のほうが俺より背があるけど、力は‥‥ないんだね」
ぎりっと音がしそうなほどに強く。不意打ちで壁に叩きつけられるようにして追い詰められる耀。
はらはらする耀とは違い、壱はご機嫌で肩口に擦り寄る。
額を肩において、目を閉じて。自分の匂いつけるように小さく笑いながら擦り寄る壱。
「耀君、好きです」
いつものように言って、壱はもういいや、という風に耀を離す。
「びっくりした?」
「‥‥今の事は忘れる。驚きもなにもない」
「そんな耀君が、好きだよ」
また好きだと言って。
ふいっと耀に背中を向けて歩き出す壱。ぺろりと唇舐めて、その笑みは今までとは違い凶悪な捕食者の笑み。
そして耀は、自分の乱れた心を持ち直そうと必死だった。
言葉と心はウラハラに。
●壱と鈴
「壱様」
第一図書館から出た壱を見つけ、嬉しそうに後ろをついてゆくのは鈴。歩くたびに名を示すように首の鈴が鳴る。
「ああ‥‥鈴君はいい子だね」
「いえ、壱様のお役に立てればそれで」
鈴の言葉に何も反応せず壱は歩き、鈴はそれについていく。
壱が通るところは、人が避けて道ができてゆく。
「スカウト多いようですよ。壱様を得た分野が世界を統べるのは目に見えていますから。当然ですね」
壱は自分のことを言われているのに反応せず、ただ鈴は一方的に話しかける。
反応がなくても、ただ壱の事を離すだけで楽しい嬉しい。
「ああ、そうだ‥‥鈴君、耀君が時々隠れる場所があるんだけど、探しておいて。俺があとつけると絶対行かないから」
「はい。壱様のためでしたら何でも」
寮の自室についても、鈴は壱から離れない。
壱は白衣脱ぎ捨て、荷物を放ってベッドに寝転ぶ。
脱ぎ捨てられた白衣を鈴は拾い、皺にならないようにハンガーに掛け、そして散らかった部屋を片付けていく。
壱の世話を甲斐甲斐しく焼くのは、いつもの事。
「何かお召し上がりになりますか」
ふと気がつき、鈴は背中を向けて寝転がっている壱に声を掛ける。
言葉に返答がないという事はいらないという事。
鈴はそれを気にせず、また部屋の片付け。
壱は、眠るでもなくただそこに。
と、壱は勢いよく跳ね起きる。そして、鈴を手招き。
「鈴君おいで」
「はい」
ベッドに腰掛けたままの壱。その足元に鈴は嬉しそうな笑み浮かべつつ座る。
鈴の頭をふわ、と一撫で、したかと思えば後ろ髪掴んで無理矢理顔を上向かせる。
チリンと首の鈴の音。
「あ‥‥」
「鈴君は一人遊びが上手だね」
すっと首筋を手で辿って、脈を確かめていくように動かす。
鈴はただされるまま、うっとりと喜悦の滲んだ表情で壱を見上げる。
「何?」
「壱様が」
「うん、続けて」
「壱様が壱様でいらっしゃることが奇跡です。俺にはそれが全て」
ふ、と壱は笑い、手を離す。
「いい、答えだね」
その表情は自分に確かな自信と誇りがあるからこそ。
「さ、鈴君、僕のために働いてきて。きっと耀君‥‥今頃隠れてるから。大体の場所‥‥鈴君のことだからわかってそうだけど」
「はい、僕は壱様の手足ですから」
鈴は立ち上がり、壱のために動き出す。
壱が壱だからこそ盲信する鈴は、耀に嫉妬などはない。
「俺がやりたいことをやるんですよ」
だから、逃がさないとでもいうように。
壱は呟きながら笑う。
●耀と蘭
「‥‥」
壱から逃げるため、隠れるために、というよりもともとよく来ていた場所のひとつ。この場所は壱にみつかりたくないから、最近は避けていた。
そこには先客がいた。けれども気にすることなく、耀は進んでいき、ある程度の距離持ちつつ、座る。
ここは、今は誰も使わない、というより存在を忘れているような建物の中庭。草木は荒れ放題だが問題はない。
「久しぶり?」
「‥‥かもしれない」
膝の上の本から少し顔を上げて彼女は耀に言う。すっきりとボーイッシュ。パンツスタイルで着飾らない彼女は、耀の幼馴染である蘭。
「ちょっと‥‥お疲れ様みたいよ」
「‥‥壱の所為でな」
いつもなら、何も話さず少し目を合わせて思い思いのことをする耀と蘭なのだが、今日はいつもと違う様子の耀に蘭が声を掛けた。
「壱って‥‥あの壱の事?」
「そう『あの』壱」
溜息交じりの声。蘭はいつもと変わらない様子で耀の言葉を受け取る。
噂として、蘭の耳にも壱が耀のことを好きだ好きだと追い掛け回しているのは入っている。
「どういうつもりか理解出来ん。なんでいきなり‥‥互いに不干渉は、暗黙のルールみたいなものだったのに‥‥俺は何かしただろうか‥‥」
「それは‥‥壱にしかわからないわよ」
「‥‥そうだな」
「そうなの」
言いたい事、溜まっていた事を少し吐き出した耀は、蘭といるのは楽だと思う。
気を使わなくていい、使われる事もない。
そしてまた静かな時間が流れる。
流れる、はずだったのだが。
「こんなところに隠れてたなんた‥‥しかも僕が回りにいないときばっかり来るんだね。鈴に調べさせて良かった」
「!! すまん、蘭。俺は逃げる」
「ええ‥‥気をつけてね」
荷物をすばやくまとめて、耀は壱のいない方へと走る。
「僕から逃げようなんて、甘いよ」
始まる、追いかけっこ。
蘭は一度顔をあげて、耀を追いかける壱の背を見る。
そしてまた、視線は本に。
「‥‥大変ね、耀」
●朔と尚
時間は少し、遡る。
場所は第二図書館。
人が集まるのは、第一図書館。人がいないのは、第二図書館。正しくは、二人しか訪れないのは、なのだが。
そしてその一人はピンクのワンピースのすそひらひらさせつつ、不機嫌であった。
「遅い、遅いわ」
ドアを勢いよくあけて、自分より先にいるはずだと思っていた人物を驚かそうと思っていたのに、いなかった。
それでさらに不機嫌。
ドア睨みつけながら、いつもの指定席へ。
と、ドアが開く音に、彼女、朔は入ってきた人物に怒涛のように喋りだす。
「やっと来たわね、尚! 遅いじゃないのよ」
朔の姿をみて、またかと冷ややかな視線を返す尚。長い黒髪は弄らずそのままに流し、灰色のワイシャツに緑のネクタイ。少しさがった淵無しの眼鏡を元の位置に戻しながら、つかつかやってくる朔を気にも留めない。
自分の読みたい本のある本棚の前に立ち、本を探しながら受け流す。
「走って疲れた! なんで居ないの! もう! 尚のほうがいつも先でしょう!」
「そうですか」
「せっかく来てやったのにいないんだもの、あー、退屈だったわ!」
いつもの様に一方的に話すのは朔。今まで一人だった分を吐き出すように。
そして一方的に愚痴を言ってすっきりした朔は話題を変えてくる。
「あ、そういえばね、第一図書室の前で面白い物見ちゃったわ」
「そうですか」
「壱と耀って知ってるでしょ? 耀が図書室に入った後、壱も入っていったのよ」
本を探していた尚の手が一瞬、それと分からないほど短く刹那的に止まる。
尚は、さらに図書館の奥へ進む。もちろん朔もそれについていく。
ふつふつと、尚の心の中は怒りがこみ上げている。
思い出してしまった。
先ほど、第一図書館に自分もいたのだ。
ずっと前に第一図書館で本を探していて、耀に一目惚れ。今日もいるかな、と期待を持っていけば、みたものはあれだ。
耀だけならよかったのに。
壱と耀。
耀に迫る、壱。
別に一緒にいるだけならばこんなに怒りも込み上げない、というより怒るなどということはないのだけれども。
自分ができない事を堂々とする壱に嫉妬しているのかもしれない。
尚はその場から目をそらし、背を向け第二図書館にやってきたのだった。
その時にぐっと握り締めて白んでいた手は、今はいつもと同じ手だ。
「あの2人良いわよね、どちらかといえば私は耀がー‥‥って尚! あんた聞いてんの!?」
「さあ‥‥おちびさんの言う事だから右から左ですね」
ふと、朔の言葉に現実に引き戻される。
尚は朔の言葉を流して、また本棚に向かう。
そんな様子を朔は見ながら、気がついてないと思ってるのかしら、と思う。
朔は、人の感情‥‥特に愛憎に関しては非常に鋭い。
先ほど尚の手が瞬間止まったのも、気がついていた。
でも、どうして壱と耀とのことで尚が怒るのかまでは、分からず不思議だ。
だけれどもそれを直接聞こうとまでは思わない。
「‥‥尚、その本はそこの分類じゃないですわ。誰かが間違えてしまったのね」
「‥‥ああ、これか‥‥珍しいな、そんなことに気がつくなんて」
「尚がオバカなんですわ!」
「そうですか」
尚は否定するのもバカらしい、と思う。
いつものように、第一図書館では時間が、流れていく。
●二重交差
交わらない平行線に、確実に意思を持って交わるもの。
どちらも交差して、重なって。
それは、プラスなのか、マイナスなのか。
今はまだ、わからない。