【AbySS】RainyRainyアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 玲梛夜
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/22〜06/28

●本文

「雨ね」
「梅雨だし」
「カオルちゃん冷たい‥‥」
「そんなことないです」
 まだ開店前、そこは薄暗いバーカウンター。最小限の明りが灯っている。
 ばさばさと仕事の書類を広げているのは平木カオル。その隣で暇だ、とバーにつっぷりているのはその叔母でありこのライヴハウスのオーナー、そしてマスターのでもある平木メア。
「‥‥そうだ、ライヴをしよう」
「してるじゃないですか、普通に」
「違うわよ、テーマ決めてやるの!」
 ぱっと身を起こして、メアは良い事を思いついたと、にやりと笑みを作る。
 かりかりと、仕事の手を休め半眼で、カオルはそんな彼女を見る。
「何するの?」
「雨ライヴ。あ、店内に雨降らすとかじゃないわよ」
「わかってる。というかそれやれないことないけど無理だよ。まぁ、やりたいんならいいんじゃない、おば‥‥メアちゃん」
「うん、するわ‥‥カオルちゃん、何か紙」
「紙? えーっと、はい」
 がさがさっと書類の束から白紙の紙を探し出して、カオルは差し出す。
 するともう一声。
「マジック」
「‥‥はいはい」
 差し出された手にマジックを置く。きゅぽんっと良い音をさせてその蓋をメアは外し、さらさらと文字を綴る。
「‥‥思い立ったらすぐ行動だね‥‥しかももう題ついてるし」
「ええ、もちろん」
 そのライヴの告知の紙は、ライヴハウスのお知らせコルクボードにぺたりと張られることに、なる。

 お知らせ。
 6月27日18時頃
『Rainy Rainy』
 梅雨の時期
 気分はじとじと陰鬱? それとも洗い流されてさっぱり?
 雨をテーマに奏でてね

●今回の参加者

 fa0336 旺天(21歳・♂・鴉)
 fa0453 陸 和磨(21歳・♂・狼)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3867 アリエラ(22歳・♀・犬)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa3997 香凪 志乃(24歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●天気も相応しく
 しとしと雨が降るその日、平木メアはとても上機嫌だった。
 今日はライヴの日。
 季節に相応しくテーマは『Rainy Rainy』
「メアちゃん! お久しぶりです〜♪ この間はお世話になりました! あの‥‥開店の時に忘れちゃったので‥‥」
 照れ笑いと共にアリエラ(fa3867)はカラフルな紫陽花の花束をメアへ差し出す。
「私も雨の花束present! 『ちー』って呼んでね、メアちゃん♪」
 千音鈴(fa3887)が丁度良いタイミング、と差し出したのは棒キャンディのブーケ。甘いものに目がない女性はいないわけなく。
「甘いもの大好き、よろしくね、ちーちゃん。どっちの花束も嬉しいわ!」
「なら俺っチのこれも大好きなハズ! 初めましてのご挨拶として地元沖縄名産サーダーアンダギー!」
「さらに甘いもの! どうしよう、太る! でも嬉しい!」
 貰ったもの全て胸に抱え込み、メアは旺天(fa0336)へ有難うと笑む。
「皆で良いライヴにしましょー!」
 えいえいおー、とはしゃぐメアをその甥、平木カオルはカウンターに座り苦笑しつつ見守り、そして傍にいた富士川・千春(fa0847)へと声をかける。
「騒がしいお店なんだ、でも楽しんでいってね。僕もライヴが楽しみです」
「はい、宜しくお願いします」
 千春は礼儀正しく、そして笑顔で答えた。
 カオルは頷き、ちょっと戸惑い気味のDESPAIRER(fa2657)へと視線を送る。目が合って、大丈夫だというように優しく笑み。
「君も、ね。メアちゃんちょっとおかしいけど良い人だから」
「あ、カオルちゃんおかしいとかひどい‥‥! DESPAIRERちゃん‥‥呼びにくいわね、ディーちゃん真に受けないでね!」
「えっ‥‥あ、はい」
 しっかり聞こえてるのよ、とメアは言い、その勢いにDESPAIRERもちょっと押され気味。
 そんな様子を香凪 志乃(fa3997)は感動しながら見ていた。
「メアさん、カオルさんのお二人とお会いできるだけでも嬉しいのに、さらにライヴハウスの雰囲気も味わえて‥‥あ、お二人とも『ちゃん』の方が良いんでしょうか?」
「それはメアちゃんだけで」
「そうですか、では改めて遅くなりましたがオープンおめでとうございます」
 志乃は感動の余韻をまだ感じつつ柔和な笑顔を浮かべて言った。
「有難う、志乃ちゃんはいい子ねー」
「いえ、そんな‥‥」
 と、和やかな雰囲気の中、螺旋階段から足音二つ。
「遅くなってしまったな、俺達が最後のようだ」
 すまない、とぺこりと頭を下げつつ現れたのは陸 琢磨(fa0760)とその弟である陸 和磨(fa0453)の二人。
「陸琢磨だ、宜しく」
「弟の和磨です」
 メアは二人を笑顔で向かえ、そしてくるりとそれぞれの顔を見る。
「これで全員揃ったわね。うふふ、天気も相応しく」
 そして楽しみ、とメアはプレッシャーを全員にかけるのだった。

●DESPAIRER Rainy Blue June
 舞台に最初に立つのはDESPAIRER。
 密かに想いを寄せていた人が他の女性と結婚してしまう悲しみを、降り続く雨に例えた曲を。
 やや暗めの、雨模様効果の入ったスポットライトが舞台上のDESPAIRERをぼんやりと照らす。
 すぅっと息を吸い込んで、DESPAIRERはその声を響かせ始めた。

「 どこまでも続く 灰色の空
  雨は静かに降り続く
  この梅雨空は 私の心
  涙の雨が降り続く 」

 静かに、鬱々と。静寂の広がるホールに雨と同じように染み込んでいく。
 伴奏無しだからこそ出せる寂寥感。
 本家本元の梅雨に負けないくらい、暗く陰鬱な曲。

「 もうすぐあなたは この空の下
  太陽のような 笑顔を浮かべて
  あの娘と式を 挙げるのでしょうね

  もしも私が 彼女より早く
  あなたに想いを 伝えていたなら
  何かが変わって いたのでしょうか 」

 その調子は強くなっていき、強く嘆くようにDESPAIRERの歌声は変化していく。

「 せっかくもらった招待状 返事も出せなくてごめんね
  涙の跡を見たらあなたは きっと気づいてしまうから

  あなたの幸せ 祝えぬ私を
  どうか許して下さい
  せめてこの雨 上がるまでは
  どうか泣かせて下さい 」

 想いを込めて、その声は響く。

「 せめて涙が 止まるまでは
  この雨 どうか 止まないで‥‥ 」

 ラストは消えるようにフェードアウト。スポットライトの光もだんだんと、弱くなっていった。

 舞台を降りるとその袖にはメアが。
「ディーちゃんお疲れ様。とっても雰囲気、良かったわー」
 抱きついていくような勢いでメアに言われ嬉しいような恥ずかしいような。
 DESPAIRERは少し照れつつ有難うの言葉を紡いだ。

●アーウェルンクス RAIN BEAT
「今回は久々の本業‥‥ダンスヴォーカルだな、全力でやらせて貰おうか。和磨、テンと千音鈴も宜しくな」
「タクマの癖は知ってるッスから歌いやすいように演奏するさー」
「ちゃんとHelpするわ」
「兄さんの期待にそえるように頑張ります‥‥後で詰られそうですけど‥‥」
 演奏前、琢磨の言葉に和磨は苦笑しつつそ返す。
 そして舞台の上へ。

 落ち着いた雰囲気で、曲は始まる。
 和磨のベース、旺天のドラム、そして千音鈴のエレキギターの音。
 琢磨は俯き、動き少なに歌う。

「 乾いた心で俯き歩む街は

  虚しいだけの下らない景色

  音でさえ雑音に感じた


  らしくないと嘲笑う中で

  雨の匂いがした

  降りしきる雨‥‥

  地を打つ音‥‥

  鼓動が激しく加速(HEAT UP)する 」

 曲は歌詞通りにヒートアップ、琢磨は腕を振り払い、そして激しいイメージのダンスを織り交ぜ始める。

「 鼓動(BEAT)を刻む雨(RAIN)

  大地を打ち 激しく脈打つ様に

  強く響く雨の鼓動は 俺の心を潤していく

  魂揺さぶる RAIN BEAT! 」

 序盤の落ち着いた雰囲気はかき消されロックな印象がそこには残った。
 舞台を降りると袖ではメアがお疲れ様とにこにこの笑みで迎えてくれた。

●HARU×HARE candy day
 二つ並んだマイクスタンドが舞台に。
 そこへ水色とピンクの傘で姿を隠し二人は登場。
 クルリと傘を回してその姿を、現す。
「こんばんは! 『HARU×HARE』です♪」
「AbySS初参加の千春と再び見参のアリエラで!」
 千春、アリエラと観客に向けての言葉。次の言葉は二人、息を合わせて。
「『candy day』!」
 曲名コールと共にレインコートを脱いで客席へ、傘を足元へ置いて演奏開始。
 千春は雨の日の拘りでクロップドジーンズ、傘と同じ水色の柄チュニックに白いボレロ姿でエレキギターを握る。
 アリエラは髪をサイドポニーテールに纏め、白統一のクロップドパンツ、キャミにサンダル、そしてアコースティックギターを。

 始まりはアコースティックギターメインで優しく柔らかな音から。
 そこへ千春の声。

「 天気予報は当てにならない 目の前の世界は水色に染まる
  足元に広がる ビロードの波紋
  溢れる想いに 気付かないふりしていたよ 」

 雰囲気も徐々にテンポアップ。アコースティックギターはお休み、千春のエレキギターの音が前面に出、快活に爽やかになった所にアリエラの声が重なる。

「 行き交う人が咲かせていく 色とりどりの大きな紫陽花
  降ったりやんだり いつもの駅前
  小さなつぼみが 待ちぼうけしているのよ 」

 アリエラのアコースティックギターも加わって最高潮に、曲も歌声も元気良く。
 けれどもその賑やかな音には暖かみが感じられる。
 先に響き始めたのは千春の声。

「 降り続く雲間から 光が零れはじめたら
  鮮やかな花を 2本畳んで抱えて歩こう
  Happy rain candy−day
  いつか二人に降り注いでね 」

 英語歌詞からユニゾンとハモリのコンボ。
 そして今度はアリエラの声が。

「 空の始まりから 七色の橋が覗いたら
  『今日は良い事ありそうだよね!』
  Happy rain candy−day
  だけど気付かないふりしてね 」

 ユニゾンで可愛らしさ、ハモリで優しさを。
 二人で元気に可愛く雨を表現。
 舞台を降りると可愛かったわとメアが笑顔で。
 千春とアリエラはお互いに笑いあって演奏終了を労いあった。

●Spectrum Weather Chart
「旺天さん、千音鈴さん。組んで下さって有難うございます」
「全身全霊、魂込めて演るッスよー!」
「初ステージで緊張‥‥は無いわね。流石私」
「頼もしいです。俺は今回が初仕事なので少し緊張してますが、観客から見ればプロですから精一杯盛り上げるつもりです」
 黒のノースリーブタートルネックにジーンズ姿の志乃、ラフに前を肌蹴た黒スーツ姿の旺天、そして紅一点である千音鈴は髪をポニーテールにし青の半袖ハイネックミニワンピを。
 それぞれ右手首、胸元、髪にそろいの紫陽花アイテムをちょこんと。

 照明は雨を意識し、木漏れ日効果を縦回転させ雨垂れに。
 雨音のように不規則に刻まれるリズム。
 そこへ志乃の声が乗せられる。

「 窓の外を見れば そこはrainy day
  眠りを誘う雨の音階に 欠伸を一つ

  寝転がる君を見れば 完全にstudy mode
  僕は散歩できない犬のように ふてくされて 」

 軽快に小気味良く響くドラムの音は志乃のヴォーカルを引き立てる。
 千音鈴の声も時々重なってはアクセントに。
 と、照明に青味が加わって雰囲気は転換。

「 こんな天気になるなんて どうしちゃったんだ
  きっと直ぐ晴れるだなんて 君は笑うけど

  降る雨に背を向けて 欠伸を一つ
  今ので何度目と彼女が笑い 2人でsmile 」

 茶化し笑い尋ねるように千音鈴の声だけ『今ので何度目』と。
 千音鈴と志乃は掛け合いを楽しみながら声を重ねる。
 と、ドラムがアクセントにクラッシュを、そこから一気に盛り上げ華やかに。
 照明数も落ちぽつぽつと雨が止んでいくような雰囲気でだんだん明るく。

「 君にかかれば 雨も形無し
  きっともう直ぐ fine weather

  彼女の笑顔は崩れない Weather Chart
  ほら顔を上げて(The rain stopped & The sun began to SHINE)
  彼女が言えば 振り向く僕の視界いっぱい 」

 千音鈴は自分のソロである英語歌詞の部分で志乃が用意していた白の日傘を受け取りぱっと開く。
 そこからは金銀の紙吹雪がはらはらきらきら。開いた日傘は志乃にリターンパス。
 照明は虹効果がほんのりと。
 一瞬の溜め、そしてヴォーカルもドラムも、弾けるようにラストを最高潮へ持っていく。

「 なんて素敵な Spectrum! 」

 観客を煽るように強く強く。
 音は段々穏やかになり、ハイハットシンバルの音でフェードアウト。
 十分な余韻を残しつつ三人舞台を降りるとそこではメアが親指立てて良い仕事と笑顔。
「お疲れ様、可愛らしかったわ! もー私満足!」
「メアちゃん、まだライヴはまだ続くわよ」
 お楽しみに、と千音鈴は笑顔を浮かべ、その通りと二人も頷いた。

●あめあめふれふれ
「ラストは皆も知ってるこの曲で!」
 明るい千春の声と共にその聞き覚えのある曲は始まる。
 童謡の『雨ふり』をロックにアレンジして。

「 雨 雨 ふれ ふれ かあさんが
  じゃの目でおむかえ うれしいな
  ピッチピッチ チャプチャプ
  ランランラン」

 旺天はドラムを。
 千春はギター、アリエラはアコースティックギター、千音鈴はキーボードを持って。

「 かけましょ かばんを かあさんの
  あとから行こ行こ 鐘がなる
  ピッチピッチ チャプチャプ
  ランランラン 」

 DESPAIRERも志乃もヴォーカルで参加しながら観客の間を歩いて飴を配る。
 その飴は包み紙が虹色仕様。
 次第に観客も一緒に歌い始める。

「 あら あら あの子は ずぶぬれだ
  柳の根かたで 泣いている
  ピッチピッチ チャプチャプ
  ランランラン 」

 途中からアリエラと千音鈴も飴を配りに観客の中へ。
 千春は舞台に残ってしっかりと演奏、歌声を支える。
「私もー!」
「メアちゃん‥‥いってらっしゃい」
 楽しそうな雰囲気にうずうずしてかメアも乱入。
 飴をもらい一緒に配り、歌う。

「 かあさん ぼくのを 貸しましょか
  君 君 このかさ さしたまえ
  ピッチピッチ チャプチャプ
  ランランラン

  ぼくなら いいんだ かあさんの
  大きなじゃの目に 入ってく
  ピッチピッチ チャプチャプ
  ランランラン 」

 声は一つになって。
 明るく楽しい雰囲気で、ライヴは成功した。

●翌日のイロイロ
「あらあら、お片づけのお手伝いにきてくれたの?」
「ライヴをステージで楽しませて貰ったんですから最後まできちんと」
 翌日ライヴの片付け中にひょこりと現れたのは志乃。
 ちょっと吃驚しつつも嬉しそうにメアは笑う。
 そしてもう一人。
「お片付けのお手伝いに来ました!」
 元気良く螺旋階段を駆け下りてくるのはアリエラ。照れつつ言葉をさらに紡ぐ。
「昨日はぐったりしちゃったので」
「うふふ、嬉しいわ」
 さかさかと箒で軽く掃除すると昨日使った紙吹雪や、配った飴の包み紙も出てくる。
 ライヴの余韻も名残惜しいけれども、御片付け。
「メアさん‥‥メアちゃんも昨日、楽しんで下さいましたか?」
 と、ふと思い出したように志乃が問うとにっこりと笑みが帰ってくる。
「もちろん! また今度、目一杯楽しませてくれるようなライヴをしてもらいたいわ。さ、早く御片付けして、遊んじゃいましょう!」
 メアの言葉に止めていた手をまた二人は動かし始める。
 きっちり御片付けも終了し、本当に雨がテーマのライヴ『Rainy Rainy』は終了した。