鬼ごっこ―世界アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
玲梛夜
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/27〜03/31
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●本文
「これとこれと、あとこれかな、これも」
書類をぱらーっと流すように捲って、見終わった中から何人かを壱は選ぶ。
机上に広げられた数枚の書類。
「お前が目を留めたんだ、一癖ニ癖ありそうだ」
「そう?」
はは、と笑い声が、響く。
「楽しみだな『実習』が。何しよう」
「何でもいいんじゃないかな」
ああ、楽しみだね。
学園に名は無くただ『学園』と呼ばれる。
この学園には稀有な能力を持つものたちが集められ、その力を育成され多方面へと放たれていく。全寮制、年齢ごとに生活区域は分けられ、生活の保障はされている。
稀有な能力は、破壊から創造までレベルの違いこそはあれ、多岐にわたる。ただ唯一つ『死者蘇生』といった、自然の法則を覆すようなものは確認されていない。
『学園』から卒業するには自分の能力を生かすことのできる場所からのスカウト、もしくは売り込みをして認められるのどちらか。
また、その売り込みの機会を与えるということで『実習』というものが有り、学園外で活動を許される。
●『鬼ごっこ―世界』概要
世界にでた壱によって選ばれた数名は『実習』を受けることになる。
今回の『実習』は自分たちを含め百人いる中から、誰が手紙を出したものか探し出すこと。
手紙の内容は一文『今日の空は青い』レベルのもの。何を書いているか知っているのは出した本人と受け取った実習生のみ。出した本人は、自分が出したとは言わないが、ヒントは言うこともある(遠まわしに文章に含まれる言葉に関係があること『天気がいいね』といった感じで言うなど。)
相手を見つけるまでの過程は持たされた盗聴器で『実習』を課した側には丸聞こえ。そこで引き抜かれるかどうかは、頑張り次第。
制限時間は一時間という設定。
登場人物については他にも臨機応変に作成可能。
●『鬼ごっこ―世界』について
今回、特にシーン数は指定しない。
ただし、尺に収められる程度ということを考えて欲しい。
●役について
主要役の基本設定。『稀有な能力』については特に指定がなければ自由に設定していいが、話の中で触れる必要なければ設定しなくていい。
ただし、心を読む、考えを読む、無意識に伝わる系の能力ではこの『実習』内容に意味がないので不可。そういう能力を持っている人は選ばれていません。
なお、衣装は役者の希望をできるだけかなえるが、世界観から外れる服装(例えば丁髷に裃、縦ロールにドレス、十二単など)は却下される。
今回特に年齢設定はない。
●その他
世界については近未来ファンタジー。今よりも文化は進み、退廃も進んでいるイメージ。ただ『学園』の中は快適生活を送れる。
今回は『学園』の外、世界での話。とある企業からの『実習』の話となる。直接外の世界に触れることはなく、閉鎖空間に招待、となる。
この企業は壱たちがいる企業となるが『実習』を受ける面々はそのことをもちろん知らない。
能力については特に触れる必要無しの流れになれば、触れなくて構わない。
●リプレイ本文
●出演
朔:桃音(fa4619)
尚:忍(fa4769)
麟:ラリー・タウンゼント(fa3487)
空:両月昴夜(fa5428)
明:桜 美琴(fa3369)
文:アイリス・エリオット(fa5508)
楼:ケイ・蛇原(fa0179)
壱:西村 哲也(fa4002)
●実習の始まり
その日の朝、楼はいつものようにジャージ姿で学園内の掃除をしていた。
今日は、入り口近くで。
そこには、車が二台待機していた。
それを見て、今日はそういえば実習があったなと思い起こす。
その車の前に立つのは一人の女。
「早くから実習のお迎えですか〜」
「そうですね、お迎えです」
「今日の実習の人たちは‥‥五人ですね〜どの方も個性溢れてますよ〜」
楼は掃除しつつ、今日の対象生徒達について話す。
「うちのところは、結果も過程も重んじて‥‥一番の問題は‥‥面白いかどうかだろうけど‥‥」
「面白いかどうかですか? 一番面白いというのはとり方次第ですから甲乙つけれませんね〜」
「だろうね」
そうして彼女と楼が話をしているうちに、今日実習へと出る生徒たちがやってくる。
「おや、あれは明さんですね〜とても耳がいいんですよ、視力を補っているかのように」
と、言っているうちに明は何もないところで躓きかける。
「おはようございます、今日は頑張ります!」
「はい」
礼、とした途端に渡されたのは一枚の封筒。
明はそれを受け取る。
「差出人を探してね、車に乗って」
と、車にぎゅっと押し込まれる。
「おや、次は空さんですね。いつも何事にも一生懸命してらっしゃるのは美点でしょう」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
「ああ、乗って」
そして空も、わけわからない内に車へ。もちろん封筒も渡される。
「おチビさんと一緒だなんて‥‥」
「なによ、尚のくせに」
そうしている間に、尚と朔も集合指定の場所へとやってくる。
「朔さんと尚さんですね。お二人は仲がいいのか悪いのか」
「‥‥二人は乗れないわね、でっかいの、乗って。はいこれ持って」
「でか‥‥」
尚は勢いのまま、封筒押し付けられ、車に詰め込まれて、扉は勢いよく閉まる。。
「今日はよろしく」
「ええ、楽しみですわ」
くす、と尚は笑い、封筒受け取ってもう一台の車へ。
「さてあと一人‥‥」
「最後のお一人もいらっしゃいましたね、麟さん」
黙ったまま麟は一礼をする。
「最後の一人、これを持って車に」
「いってらっしゃい、頑張ってくださいね〜」
楼はにこやかに、出発する車を見送る。
●実習前半戦
「楽しめるメンバーを選んだからね、後はそれぞれ次第」
楽しみ、とモニターの詰まった部屋で壱は笑う。
「全員きたね、よし‥‥始めてくれるかな?」
ふっと小型マイクに声を吹き込む。
その声は、表立って取り仕切る文の元へ届く。
誰もいないのをいいことに少しくたびれたスーツ姿で、椅子の上に胡坐をかく文。
はい、と短く返して、アナウンスを入れる。
「さて、お仕事お仕事。頼むよ『みんな』」
周りの機械たちに声をかけ、文は全員に向けてのアナウンスを入れる。
「説明は事前に終わっていますので、それでは、只今より実習を開始します。制限時間は一時間。差出人候補百名のデータは、設置されているパソコンから閲覧出来ます」
実習の始まり。
それぞれの受け取った手紙、その差出人を探すという簡単なようで難しいゲーム。
朔の手紙には『雨の日は特に嫌い』。
尚の手紙には『昨日は満月』。
麟の手紙には『闇の中にも一条の光』。
空の手紙には『真昼に輝くのは太陽』。
明の手紙には『枝垂れ桜は綺麗』。
思い思いに、行動を開始する。
「あ、麟」
「! 明」
知らない人ばかりで知り合いを見つけ、嬉しそうに麟は明のところへと走りよる。
「一緒に受けるのは知っていたけど、別々にきたから会えて嬉しいです」
「そう」
流すように答えつつ、資料は斜め読み。
その中から気になった数人に目をつけて行動開始する。
尚はもらった情報をすばやく整理し、めぼしをつけ始める。
一人だととても、仕事は速いが、そう長時間一人でいられるわけがない。
「見つけたわー、一緒に探しましょうよ、尚。ほら見せなさい手紙! へぇ『昨日は満月』ねぇ‥‥満月とか雨が嫌いとか、お天気マニアなのかしら?」
「手紙を返せ、そしてどこかへいけ」
「いやよ!」
がしっとつかまり、逃げられるわけが、ない。
そしてもう一人、空は地道に聞き込みをしていた。
一人ずつ馬鹿正直に。
「お手紙だしたのは貴方ですか? え、違う? あああ、すみませんっ」
そんなそれぞれの様子をモニターで眺める壱。
「個性だねー。あ、ちょっと5番アップにしてくれるかな?」
文に支持をだす、すぐさま指定した画面はアップに。
そこには周りを見ながら耳を済ませる明。
音を拾って、めぼしいものを探している。
拾う音は『枝垂れ桜』を連想するもの。
その言葉を発したものに近づいて話を聞こうと思っていた。
「‥‥もう、なかなかいないわね」
「おちついてやれば見つかります」
その隣では麟がデータを見て、黒か白か、と相手を探す。
そんな二人の前を通りかかる尚と朔。
「あ、遅咲きコンビ!」
「遅っ‥‥ひ、否定ができないわ‥‥」
「まさか一緒に実習を受けるなんて思わなかったわ。あなた達にもようやくスポットライトが当たったのね」
「スポットライトって‥‥」
朔をおいてすたすた歩いていく尚。
朔はまだ言いたいことがあるが、それをあきらめ尚を追う。
「まぁお互い頑張りましょうね! あ、そこのアンタ、晴れと雨どっちが嫌い!?」
「彼女は、晴れや雨関連の手紙のようね」
「きっとそうだと僕も思います」
尚は会場をぐるっと回るように歩く。
すでにめぼしをつけた人物にだけ話かけてみるが、あたりと思えるものはいない。
「天気いいなら外で実習したいわよもうっ!」
地道に頑張る空の横を通りながら、朔はわがままを振りかざす。
「ああ、そう」
あまりにもスルーすると余計煩くなることを学習して、朔の言葉を尚は時々受け流し会話を成立させる。
邪険に扱うことはごくごく少なくなっていた。
「俺の邪魔ばかりしていると落ちますよ」
「そんなこと、私に限ってあるわけないわ」
自信は、たっぷり。
そんな姿を見ていると、頼りにならない自分の直感が、うずいてくる。
「‥‥ばかばかしい」
「何か言った?」
「何も」
ふと、尚は自分の考えを想い改める。
これはあまりにもばかばかしい、ばかばかしいが、ありえないとも言えない。
手紙に入っていた言葉『昨日』は『きのう』なのか『さくじつ』なのか。
意味もなく引っかかる。
「一つの可能性、か‥‥」
それぞれ思うように行動して、残り時間は減っていく。
●実習後半戦
「そろそろ15分前ね‥‥こほん」
一つ咳払い、文はマイクへ向かう。
「残り15分です」
「ふぎゃ! 時間あとちょっと! あとちょっと!! お、おトイレ!」
と、アナウンスの声にあわてたのは空。
時間少ないにもかかわらずトイレに走る。だがそこは長蛇の列。
「う‥‥時間無駄にはできません。あ、あのお手紙くれたのあなたですかっ!?」
隣にいる、まだ質問していない人に片っ端から聞いていく、空。
その様子をモニターでみていた壱は、笑う。
「何あの子、おもしろいんだけどあの一生懸命さ。でも、しっかり聞いた人は覚えてるんだ、へー」
興味深く見ていると、別画面でも動き。壱は支持して、そこをアップ、そして音量も上げる。
「駄目ね、わからないかも‥‥怪しい行動してる人なんて‥‥いないわ」
「僕は‥‥わかったような気がする」
残り15分の声がかかってから、麟は思考をしっかりまとめる。
今まで座り込んでいたものの、立ち上がってその相手の下へと走る。
明も、その後を追う。
「朔さん」
「あら、スポットライト」
「スポットライトじゃありません。今日は、なんだかご機嫌ですね? いつもよりもよくしゃべっているような気がします」
「私はいつもこうよ」
ばちばちっと火花散りそうな雰囲気。麟と朔は話を続ける。
「‥‥珍しく直感が当たったのか‥‥」
と、そんなやり取りを見て、尚は力なく笑う。
「差出人が朔なのは、可能性の一つとして考えたが‥‥百人に差出人はいないのは確定だな」
「うきゃあー! うりゅ、無理です〜、ふぃー、ぎゃー」
「‥‥彼女、マイペースだな」
「そうね」
朔と麟の会話を横切るように、あわてて通っていく空。
周りの様子は見えていないようで、一生懸命だ。
わたわたしながら。
こうして、結果的に朔が手紙の差出人、だということは一時間以内にわかる事となる。
「一時間、終了です。生徒の皆さんは別室にご案内しますので少しまっていてください」
文のアナウンスが響き、終了が告げられた。
●世界
「決めた?」
「うん、決めた。本当に一人で選んでもいい?」
「お前の下で働くことになるだろうから‥‥それでいい」
「じゃあ‥‥スカウトしにいってこよう」
機材だらけの部屋をでて、壱は向かう。
今、実習を受け終わった面々は、二組に分かれていた。
朔、尚、空と、明と麟。
「あれ、あの子‥‥」
と、壱はトイレに行く空を見かけ、笑う。
「待ってよう」
空は悶々としつつ手を洗っていた。
「‥‥精一杯頑張ったので、いいのです。良いのです。明日からまた学園でゆっくり過ごすんです、バラ色の学園ライフなのです」
そしてまだ何事かいいつつ、トイレ出ると。
「手洗った?」
「はい、洗い‥‥ふぎゃああああ!! ぐふっ」
「大声出さないでね」
大きく口あけて叫ぶ空の口を手でふさぐ壱。表情は笑顔だ。
死んだはずの、壱。
空にとってひっそり憧れの壱。
それは今も変わらない。
「ああああ、うう!!??」
「あはは、面白いね。はい、戻るよ」
状況のよくわかっていない空をひっぱり、壱は部屋へと入る。
扉の開く音に、中にいた朔と尚の視線はそちらへ向く。
「!!」
「壱‥‥!?」
「久しぶり。あはは、幽霊じゃないよ足ついてる」
いつもきていた白い白衣。変わらない格好、足をぶらぶらさせて、壱は言う。
「なんで‥‥」
「生きてたのね」
「色々とあってね。ま、俺の姿をみたからには、三人、逃がさないからね」
「俺は合格だというなら辞退‥‥」
「なんて許さないよ」
圧力かけるような、笑み。思わず立ち上がった尚は、座る。
「まず、空君は‥‥時間内にほぼ、全員に聞き込んだよね。あんなにトイレ行ってたのに」
「そ、それは時間もったいないからトイレでも聞き込み‥‥」
「知ってるよ。悪い手じゃない、今も昔も地道が美徳とされる所以かな。積極的な行動は微笑ましい」
「私はどうして? ばれちゃったのに」
今度は朔が、首ひねりながら問う番だ。
「差出人は、ばれたら負けとは言ってない。手段を見るためだし、俺としてはばれると思ってた。君の課題はいかにうまくヒントだせるか、だね。そういうのも、世界では必要。真っ直ぐすぎるくらいが反対にわからなくていいね」
「俺は‥‥」
「君はね」
あまり気持ちのいい過去を一方的にもたない尚は、じとっとした視線を向ける。
「前より面白くなったよね、それに苦手なことを克服しようとする向上心。これは今回の実習からはちょっと外れるけど。まぁ、ちゃんといないっていう結論に達したし、役に立ちそうだし」
ふっと、ひやりとした表情を壱は浮かべる。
「ただ、見た聞いただけで探した気になってるのは、これから俺と一緒にやっていく上では困る。考えて動いて、やってもらわないとね。そのかわり、俺と一緒に楽しいことをしよう」
拒否の選択肢は、ない。
三人は頷くしかなくて、世界へと出て行く。
そして、麟と明は学園へと戻る。
「落ちたわね。最初で最後のチャンス! って思ってたのよ」
「まだこれからもありますよ」
「そうかしら」
「あります。帰ったら元の生活、それが当たり前だから」
「今日のはちょっとしたイベント?」
「はい」
麟は、頷く。
二人は、学園に送られて帰ってくる。
入り口には朝見送ってくれた楼がいた。
「お二人、お帰りなさい。ということは三人も持っていかれたんですね」
「そうなります。僕らはまた、こっちです」
「急がずゆっくり、学園にいたらいいですよ」
「ゆっくりね‥‥」
「僕ら遅咲きだから」
「‥‥そうね」
まだ、麟と明のいる場所は学園。
朔と尚、空は世界にでて何をするの?
壱と一緒に。