望まば望めアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/31〜04/04

●本文

「望め、そうすれば叶えてやる」
 そう言って、部屋の窓から侵入してきた人は、自分を悪魔だと言った。
 私は思わず、力なく笑った。
 言っていることは、本当かもしれない。
 だってこの部屋は。
 この病室は。
 三階にあるんだから。

●望まば望め キャスト募集
必須配役
主人公:余命後幾ばく。天涯孤独、一人でいることは、嫌い。
悪魔:死後命を貰い受けることを約束とし、願いを叶える。契約を持ちかけた主人公と死神、天使以外には不可視。

以下可能配役
主人公の友人
死神:触れた人間の命を奪う存在。ただ契約中のものには触れても命は奪えない。悪魔、天使以外には不可視。
天使:天使、悪魔、死神となりえる魂を探し、死後スカウトをするもの。悪魔、死神以外には不可視。


※悪魔、死神、天使は仕事が違うだけで種族は同じです。望めば他の部署(悪魔から天使など)に移ることができます。
 あふれる命の量を一定に保つための仕事だと思ってください。
 それぞれには一定期間でこれだけ、というノルマがあり、そのノルマを達成すると能力が消えます。その一定期間が終わると、新たなノルマがかされ能力が復活します。
 ここでいう能力とは、悪魔は願いを叶える力。死神は触れれば命を奪う力。天使は魂を探し、見つける能力です。

 それぞれ性別については特に縛りはありません。
 なお口調などもパイロット版なので変更は可能です。

●ストーリー
 ある日主人公の前に突然現れたものは、自分は悪魔だという。
 願いを一つかなえる代わりにその魂をくれと言われ主人公はどうしようか、と考える。
 そして、決めた願いは「死ぬまで一緒にいて」という内容。
 その願いを、悪魔はかなえる。
 しばらくの間、一人は二人に。

●今回の参加者

 fa2029 ウィン・フレシェット(11歳・♂・一角獣)
 fa2726 悠奈(18歳・♀・竜)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa4391 夜野月也(25歳・♂・犬)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa4658 ミッシェル(25歳・♂・蝙蝠)
 fa4807 葛城・郁海(20歳・♂・狐)
 fa4978 八嶋かりん(22歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●見守る者たち
 ウィン(ウィン・フレシェット(fa2029))は、自分だけに見える、悪魔に向かって笑う。
「約束だね」
 病室には一人だけれども二人。
 死ぬまでいると、約束をしたから。
 ウィンと、とある悪魔を見守る影が、いくつかある。
「スカウトしようときたのに、もう契約済みか‥‥」
 遠くから、ふと瞳を細めつつみる天使。ヴァン(ミッシェル(fa4658))。
 ウィンとあの悪魔の境遇は、過去の自分と重なる。
 苦い苦い、気持ちがじわじわとヴァンに寄り添う。
「‥‥あの子も遠くない未来、死んでしまうのに」
 その言葉の続きは飲み込まれる。
 静かに見つめ、ため息をつく。
「何だ、そのため息‥‥」
「エニシ」
 声かけられて、その方向をみると知った顔がある。
 エニシ(Iris(fa4578))は何を見ていたのか、とヴァンの送っていた視線の先を追う。
「ああ‥‥契約済みか。気になるか、ヴァン」
「何でここにいるんですか」
「何でって、仕事」
 ひらり、と手を返してみせる。死神であるエニシは触れることで、命を奪う。
「他にも、知った顔があるみたいだな」
 ふとあたり見回してエニシは呟く。
 ヴァンも、確かにと頷き返す。
 と、そこへ響く声。
「おいてくなんて、ひどいデス!」
「‥‥あー、ルゥのこと忘れてたな」
 エニシめがけてやってくるルゥ(悠奈(fa2726))だった。
 就任早々、ちょっと躓き気味の、死神のルゥ。
 二人がみつめるものに、やはり興味を持つ。
「先輩たちは何みてるんデスか? 悪魔? ハッ! いい機会です、観察なのデス!」
 にぎやかに、集まれば、そこにまた、やってくるものもいる。
 天使であるハービィ(夜野月也(fa4391))は見知った顔を見つけ何してるんだとやってくる。
「‥‥何してるんだ、彼女」
「観察らしい、悪魔の」
「‥‥ねぇ‥‥君、僕と仕事変わった方が良いんじゃない?」
「え、私デスか!? 一生懸命してます!」
「な〜んてね。冗談冗談。僕が自分の仕事を人にやらせる様な奴に見える?」
 ルゥの反応に、ハービィは笑顔を返す。そして、エニシとヴァンに向き直る。
「君らも、仕事しなよ。ま、キチンと仕事するんなら別に文句ないけどね。それじゃ僕はまだノルマが残ってるから」
 ハービィはそういい残して、姿を消す。
「仕事しろだってさ、メンドクサイ」
 エニシはハービィの言葉をうけて、しょうがないといったように呟いた。

●人の子と神父
「今日は気分が良さそうですね。何か良いことでもありましたか?」
 ある晴れた日の午後、花と菓子をもって見舞いにやってきたアレックス・フォスター(エミリオ・カルマ(fa3066))は、いつもと何か雰囲気の違うウィンに笑顔をむけながら問う。
 手には花瓶があり、自らの持ってきた花を生けて、ウィンに見える場所へと置いた。
「うん、上手い子守歌の歌い手が見つかったんだ、助祭さまにも聞こえるかな? やっぱり‥‥聞こえないよね」
「上手い子守唄の歌い手? それは‥‥よかったですね。どのような方なのです」
「悪魔だよ」
 ウィンの答えにアレックスは一瞬間を作る。けれども何事もなかったように浮かべたのは笑顔だ。
「そう、ですか」
 戸惑いつつも、否定はしない。
「死んだら、ぼくの魂を持って行くんだって」
「死は終わりを意味するものではありません。人は肉体を失っても形を変え、存在し続けることが、できるのですから」
「そうなの?」
「ええ。あなたは私の心に、生きます、だから大丈夫なのです。覚えていてくれる人がいればいつまでも」
 アレックスは勇気付けるように言う。幼くても自分の運命をわかっているウィンに。
 そして、今この場にはアレックスとウィン、そして悪魔ともう一人天使、イリィ(八嶋かりん(fa4978))がいた。なんだか面白そう、と見に来たのだが、悪魔以外に見えるはずない。
「なんだか妙な事になってるねー」
 そう呟いて、去っていく。
 それからも、仕事をこなしつつあいている時間に偶然に、彼らをよく見ることとなる。

●学ぶこと
 ふと、悪魔とウィンが二人だけになったときを見計らい、エニシはルゥをつれてその病室へと入る。
「よ、ちょっとルゥに勉強させてやってほしいんだ」
 エニシは言って、自分が見えないウィンに触れる。
「理解したか、ルゥ。契約中の魂はとれない‥‥睨むな、勉強中だ」
「なるほど‥‥えい」
 エニシのマネをして、ルゥも触れる。けれども何もおきない。
 何度もするな、と悪魔はエニシを睨む。
 悪魔の表情が変わり、ウィンはどうしたの、と不思議そうな顔。
「なに、悪魔さんだけじゃなくて、他にも誰かいるの?」
 悪魔はその問いには、答えない。
「俺は一度しかしてないんだが‥‥ま、分かっていても死神に触れさせるのは嫌か‥‥だろうな。もう行く」
 ルゥ、と名前を呼び、もうここでの用は済んだとエニシは言う。
 その、去り間際に。
 思い出したように。
「見舞いの男も、医者も、看護師もいる。それでもこの子にとってはお前が唯一だ」
「‥‥悪魔さん、なんだか悲しそうなお顔デス‥‥」
 ルゥも、呟く。
 その言葉がどう届くかは、本人次第。
 部屋を出て、エニシはもう一つ、呟く。
「悔いのないように。引き摺る奴もいるからな」
「何かいいマシタ?」
「んー、何も」
 エニシは答えない。
 病室から離れて、回りをみると、やはりというか、またヴァンが悪魔とウィンをみているのを見つける。
「面倒なヤツだな。あの病室ばかりガン見して」
「エニシ! べ、別に、関係ないだろ! スカウトで来てるんだ!」
「あー、そう」
 ヴァンはエニシの言葉にムキになるように強く怒鳴るように返す。
 そのあとで、やってしまったという表情を浮かべて弱く『ごめん』と謝った。
 ヴァンの過去を知っているエニシとしては、なんとなく何を感じ、思っているかがわかる。
 エニシは真っ直ぐ、ヴァンの瞳捕らえて言う。
「‥‥あまり抱え込むなよ、めんどくさい」
「え‥‥」
「逃げてない、知ってる」
 自分が抱えていた罪悪感をわかっているというようにエニシは言う。
 今まで一言も逃げたのではないかと思っていたことは、言ったことはい。
「俺は‥‥優しくなれなかった。仕事の為だったし‥‥思い出しても、ただ苦しいだけだ」
「それでいいんじゃないのか? 自分のまま向き合えば良い、忘れずにいる事は悪い事じゃない‥‥」
「それでも‥‥」
「哀しむな、とは言わない。願いの時間を挟む悪魔は、一瞬で終える死神とは違う。俺には、悪魔の気持ちはわからない。でも俺達が迎えなければ命は崩れてしまうから、躊躇わず大切に奪い続ける。必要だから、そうすることが。違うか?」
 エニシの言葉は、ヴァンに落ちていくように染む。
 染んだ言葉は、ヴァンのわだかまりを一つ、解く。
「悪いことじゃ、ないのかな」
「ない。本当に面倒くさいな」
 二人の会話を聞いてルゥは首をかしげる。
 深く事情は知らないけれども、なんとなくわかること。
「え〜とメンドクサイ? は覚えたほうがいいのカナ?」
「‥‥エニシ、彼女をちょっと正してあげたほうが」
「面倒だ」
 エニシは本当に面倒くさそうに、答えた。

●終わり
 命は細く、なっていく。
「お願い、子守歌を歌って───怖くないように」
 ウィンが伸ばした手は空をきって落ちる。
 それは悪魔のいない方向に伸ばされていた。
 もう世界が見えていない。
 静かに響く歌の中で、ウィンの魂は悪魔へと渡る。
 そして、数日後。
 ウィンの墓の前で祈りを捧げるのはアレックス。
「この子はもう寂しさで泣くことはないでしょう。信じた人と共に居ることができるのですから」
 誰に、どもなく語るように。
 祈りは深く、ウィンに贈られる。
「でも‥‥あなたは、私の中で生きていますよ」
 アレックスの呟きは、きっとウィンの元へ、届いている。