塔に住まう魔法使いアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
玲梛夜
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
7.9万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
04/12〜04/16
|
●本文
そう、私に何者もひれ伏す。
家族とあの魔法使いを除いて。
それは私がこの国の姫だから!
この国の皇女。
兄弟もたくさんいるの。
でも私が一番美人‥‥!
って、そうじゃなくて。
私には、人目盗んで毎日することがあるの。
それは、塔に住む魔法使いに会いに行くこと。
魔法習って、私は‥‥特にしたいことはないんだけど、使えるに越したことはないと思うのよ。
ということで、今日も高い塔を駆け上がる。
ぜぇはぁぜぇはぁ。
無駄に長い階段。
魔法使いがこの塔の最上にいるのは幽閉されているから。
魔法使いは、罪人。
死人をよみがえらせる魔法を使ったから、そしてそれは失敗したらしい。
その失敗の代償は死なない体。
魔法使いは、死なない人。
魔法使いは、魔法使い。
本当は会っちゃいけないらしいんだけど。
そんなの無視。
「魔法使いー! 今日もきてあげたわよ!」
「はいはい、お姫様おはよう」
「そのうっとおしい髪、切らせて」
「えぇー駄目です」
にへっと気の抜けた笑みの魔法使い。
手かせ足かせ、動けるのはこのせっまい部屋だけ。
魔法使いの癖に魔法使えないらしいけどうそっぽい。
それでもこの笑顔。
よくわからないわ。
魔法使い、あなた出たくないのって聞いたら、どうでもいいって答える。
魔法使い、よくわからない人。
「ひいいぃぃぃめ、さ、まあああああ!!!」
「げ、今日は早いわね‥‥」
「あははぁ、そりゃあ護衛君も、君がいなくなれば探すからねぇ」
「ちょっと魔法使い! 私を隠すとかそういう魔法使いなさいよ!」
「めんどいからねぇー」
そして、私はにっくき護衛に連れ戻される。
まぁいいわ、明日も来てやるから!
●出演者募集
必須配役
姫 十代後半。とっても元気にゴーイングマイウェイ。
魔法使い 年齢不詳。昼の魔法使いはおっとり天然、夜の魔法使いは‥‥の二重人格。現在手かせ足かせにより塔の最上に幽閉、魔法行使力を封じられている。
そのほか、姫のお付の人、姫の父など可能。
魔法使いに弟子は無し。他の魔法使いも可能。
●ストーリー
姫と魔法使いの交流を描く。
ストーリーはお任せだが尺を考えて組み立てていくこと。
●リプレイ本文
●それはどこかの国でのお話
昔々、ここではないどこかの国に、リンダ(咲夜(fa2997))というとても元気なお姫様がいました。
日々、グレイス・シモン(百鬼 レイ(fa4361))に助けられ、護衛のヴェルノ(氷咲 華唯(fa0142))、教育係のライザ(椎名 硝子(fa4563))の監視の目を盗んで部屋から逃走しては、毎日通う場所へと向かう。
そこは、塔。
魔法使いの住む塔だ。
「逃げられたか、懲りずに付き合ってやってくれ」
姫を追いかけるヴェルノたちに姫の兄であるルイス(Iris(fa4578))は笑う。
「まったく! すぐ追いますので!」
「またあそこか‥‥」
ライザとヴェルノは姫を追いかけていく。
「まったく、あの姫のおてんばっぷりはわが妹ながら‥‥」
ルイスは追いかける二人を見送り、そして塔のある方をみた。
「姫は、わかっているのかわかってないのか‥‥わかってなさそうだな」
そして、その頃姫、リンダはというと。
「魔法教えなさいよ!」
「えー?」
ずずいっと幽閉されている塔の魔法使い、シュナ(アイリス・エリオット(fa5508))に迫っていた。
けれどもそれをシュナは笑顔でかわす。
へにゃっと笑って。
「魔法は簡単に教えられないものだよ」
少年のように、ただただ笑う。
そういわれてもリンダは食い下がる。
そうして毎日毎日通っているうちに、シュナに気まぐれがおこったのかもしれない。
毎日飽きずに来るリンダ。魔法を習いたいのは本気なんだと思って、そして一つの宿題を出す。
「一つだけ教えてあげるから『本気で習いたい魔法』考えといで」
唇の前に、指を一本たて、シュナは言う。
腕を上げればじゃらりと鎖の音。
と、部屋の扉が勢いよく開く。
「姫、帰りますよ」
「あ」
「あはは、お迎えだね」
「姫様がいなくなることでどれだけ迷惑がかかっているのかわかっているんですか?」
やってきたヴェルノは魔法使いには視線を向けずた、リンダを引きずるようにつれて返る。
ヴェルノは魔法使いを良く思っていない。
だからリンダが塔へ行くのは嬉しくない。
「何故姫様はあのような魔法使いの元に行かれるんですか‥‥」
「なんとなく?」
「少しは部屋でおとなしくしていてください‥‥」
そんな言葉はリンダの耳を通り抜けていく。
そして入れ替わり、シュナの元にはグレイスがやってくる。
「姫様ひきずられて‥‥おいたわしいことです」
「あ、毎日御飯ありがとうございます」
「どういたしまして」
シュナは笑い、グレイスから食事を受け取る。
ちょっとしたこのやりとりでグレイスはシュナが悪い人間ではないことを感じ取っていた。
「それではまたあとで食器を取りに参ります。食べ残しは許しません」
「きちんと全部食べるよ」
シュナがそういうと、グレイスはよろしいというように頷き、階段を下っていく。
シュナは塔から外を眺める。
空の色はずっと変わらない。
●昼の来訪者
ライザやヴェルノにつかまっているのか、姫は朝きてからシュナの元にはこない。
のんびりしていると、ふわりと風が頬をなぜる。
と、塔の窓が開く。
ふっと入ってきた風と共に、そこには一人の魔法使い。
名はラナ(桃音(fa4619))、シュナの旧知の魔法使い。
「お姫様に魔法を教えてもいいなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
「風は風だよ」
シュナはさらっとラナの問いを流す。
いつも外界の情報を持ってやってくるラナは、今日はリンダとシュナのやりとりを知ってそちらに気がむいていた。
「シュナはいつも不思議ね。あの魔法使ったことも‥‥全部。私にはリスクが高すぎてできないわ」
「昔昔のお話だね」
「そうね‥‥じゃあ今のお話をしましょう。ずいぶんお姫様は心配されてるみたいよね、ここの監視も少し増えた気がするわ、だから今日は窓からの登場なの」
「増えたんだ。皆、あの姫のことが大切だからね。私が変なことしないか心配なのかなぁ」
シュナはへにゃりと笑って、まるで関係ないかのように言う。
ラナは、心配する必要なんかないのに、と思いながらそうかもしれないわねと相槌を打つ。
この、何事にも無気力そうなシュナが、何かをするとは思えない。
もしするというのなら、魔法を教えることくらい。でもそれも、姫の答え如何でまだわからない。
「なんだか他人事みたい。何か諦めてるみたいよ」
「? どのへん他人事?」
「どのへん‥‥全体的に、かしら」
反対に問い返されて、ラナは少し考える。
ふわふわしているようでしていないシュナ。
あの、人を生き返らせる魔法を行うほどに心が強いのか、いつものへにゃりとした笑顔からではそうはあまり思えない。
それでもして、今ここに幽閉されている。
興味は、尽きない。
「シュナ、ここにいるのって辛い?」
「‥‥毎日おいしい御飯もでてくるから快適かもしれないね、あはは」
お世話してくれる人には感謝しているとシュナは言う。
「毎日、姫もやってくるし、人と触れ合うことがないわけじゃないし‥‥ラナや、他にも遊びに来てくれる人はいるし‥‥結構幸せかもしれないよ」
いつもははぐらかすシュナが答える。
その答えは、きっと本心だとラナは受け取る。
真っ直ぐなイメージで伝わってくるからだ。
「あ、もうすぐお昼かな? ラナも食べていく? お願いしたらきっと持ってきてくれるよ」
「そこまでずうずうしくは私はなれないわ‥‥人が来る前にお暇するわ。一応、バレてそうだけど塔に忍び込んでる身だもの」
そう言って、ラナは窓から身を乗り出す。
「また、遊びに来るわね」
「うん、また、ね」
シュナは鎖の音を鳴らしながら手を振る。
ラナが身を翻しつつ窓の外に出て行くのを見ながら。
●夜の来訪者
夜がやってくると、シュナはその表情を変える。
昼のほんわかへにゃりな雰囲気は消え、表情は静かに冷静に、瞳は鋭くなる。
何をしようかなと思っていると、扉がノックされる音。
そこには旧知の魔法使い、ネア(忍(fa4769))がいた。
「あの姫、懲りずによく来るよな‥‥護衛と教育係にくどくどされてた、もう夜も遅いのに」
遠慮なくシュナの部屋へと入ってくるネア。
相変わらずの場所だと笑う。
「今日はお客さんが多いね‥‥いらっしゃい。昼間ラナがきたよ」
「ラナからきいてきた。幽閉されていてもお菓子を食べるくらいは自由があってもいいよな」
「うん、それは大丈夫だよ」
何を持ってきたのかなとシュナはキラリと瞳を輝かせて喜ぶ。
ネアが持ってきたのは、クッキーだった。
そして勝手にティーセットをだしてちゃちゃっとお茶の準備。
「お菓子があれば、やっぱり紅茶もだよな」
ネアは満足そうに頷き、カップの一つをシュナに渡す。
「シュナ、いつも姫となに話してるんだ?」
「魔法教えて、嫌。教えて、そのうち、という感じでずっと」
「なんとなく想像できるな‥‥食事とか、不便なことは? シュナって幽閉の身っていっても大人しくしすぎだと思うんだけどな」
「そうかな?」
「そう思うんだ」
ぱくぱくとクッキーを食べつつ、シュナの笑顔は変わらない。
ネアは常々思っていることをぽつりと口にする。
「ここから出たい、と一言言ってくれれば協力するのに」
シュナは絶対言わない。だからこそもどかしい気持ちをネアはずっと抱えている。
「生き続ける身体であるだけで十分『罰』だと思うんだけど‥‥やっぱり塔に幽閉までされているのはおかしい!」
「‥‥あ、幽閉も罰になるんだ」
一瞬キョトンとして、シュナはぽむっと手を叩き呟く。
「‥‥シュナ‥‥」
「やっちゃいけない事したから幽閉されるの当たり前だし、魔法封印するのも普通だよ。生き続けるだけで、十分な罰」
軽くシュナは答えて笑う。
「止められなくって、ごめんな」
「ううん、遊びに来てくれてありがとう」
言葉はかみ合わないけれども、それぞれの気持ちは伝わりあう。
「私はネアが、お菓子持って遊びに来てくれるだけで嬉しいよ」
「ん、ならまた今度違うものもってやってくる」
二人の茶会は、陽が昇り始めるまで終わることはない。
●姫は、考える
「リンダ、ちょっといいかな」
厳しい監視の目をつけられて、外へ出られず不機嫌なリンダの元に、ルイスはやってくる。
姫の前に立って、柔らかく笑うルイス。
「何事にも禁じるには理由がある」
やんわりと、すこし遠まわしに、リンダに塔通いに釘を指す。
「お前は統べる者の立場だ。民衆に禁じていると言うことを率先して破るのはよくない。だが‥‥そこに理由があるなら、よく考えてみると良い。それだけだ」
言いたいことを告げ、ルイスはリンダの元を去る。
その去り際に、ぽつりと呟かれる言葉。
「人は『異質』を嫌う、『不死』の者を同じ生き物だと見るのだろうか」
既に知れ渡った『罪』に人心など簡単に混乱を孕み燃え上がる事を、ルイスは知っている。
だからこそ、魔法使いは塔から出てはならないし、誰も会ってはならない。
混乱の火種となりうる魔法使い。あの魔法使いとの距離を保つためにも『幽閉』があり、それはきっと必要なもの。
ルイス自身は、魔法使いを良くは思っていないが実は悪くも思っていない。
忠告はちゃんとした、あとはリンダ自身がどううけとるか。
リンダは、魔法使いの言葉、そしてルイスの言葉をもらい考えていた。
「魔法を使って、あたしはいったい何がしたいんだろう? 多少窮屈なのを除くと、今の生活に別に不満がある訳じゃないし‥‥魔法を習ってまでしたい事っていったい何があるのかな?」
真面目に考えるとぐるぐるしてくる。
簡単そうでそうじゃない、この問い。
シュナの過去を思い出して、また疑問も増えていく。
「魔法を使うのにはそれだけの覚悟が要るって事なのかな? ‥‥あたしの望み? ‥‥あたしの‥‥」
うーん、と唸りながら考える。
本当に一つだけなんてすぐに思いつくものではないだろうけれど、それでもリンダは考える。
そして。
「そうだ! シュナから習うのは泣いている人でも笑顔になれる、そんな魔法だよ!」
リンダは結論を、出す。
「あたしの望みは‥‥やっぱり、みんなに笑顔で居て貰うこと。いろいろ口うるさい人もいるけど、それもあたしのことを思ってだと思うし‥‥それに決めた!」
明日の朝一番にシュナのところにいこう。
リンダはそう決めて、眠りについた。
●塔に住む魔法使いのもとへ
「一国の姫君ともあろうお方が罪人と会っているだなんて、何てはしたない! このままでは国民の皆様に示しがつきませんよ。もっと王族の自覚を持って頂かなくては困ります!」
次の日、リンダに待っていたのはライザによる朝からのお説教だった。
「今日と言う今日はもう許しません! 昨日というかいつものこともありますから一日姫様のお部屋で反省して頂きます!」
でも、とかそんな、という文句も受け付けず、ライザはリンダを部屋に押し込め外から鍵をがしゃりとかける。
「姫君に相応しい立派なレディになって頂く為に、王様からお任せ頂いておりますのに‥‥こんな事では先が思いやられますわ」
リンダは額に手を当てて、ため息を一つ。
「あの姫様の事だから、このまま大人しくしているとも思えませんわね‥‥」
と、リンダは控えていたヴェルノの方を見る。
「もし姫様に何かございましたら、すぐにわたくしに知らせて下さいまし。宜しくお願い致しますわね」
「はい、扉に鍵もかけているし‥‥窓から出ようにもここは三階だしな‥‥」
大丈夫だとは思うけれども何があるかはわからない。ヴェルノはライザから鍵を渡されて、それを仕舞う。
案の定姫は、だしてー! と、扉を叩いていた。
やれやれ、とライザはため息をつきながら、まだ他に仕事もありその場を離れる。
ヴェルノは部屋前で待機、時々扉を叩く音がやむのは、どうやら休憩しているかららしい。
そして昼。
「姫様に昼食を持ってきました。鍵は借りてきたので‥‥ちょっとあけてください」
リンダの昼食をもってグレイスがやってくる。
ヴェルノは鍵で扉を開けると、飛び出そうとするリンダをヴェルノは確保、また部屋へ詰めなおす。
「そんなに部屋から出たいのですか?」
「出たいの」
「‥‥他の人達‥‥特にお目付け役の方達には内緒ですよ。私、怒られんのはヤですから。その代わり条件が、野菜も残さず食べることです」
皿の端に寄せられた野菜をみて、グレイスは言う。
リンダは文句を言いながらも、それを食べた。
グレイスはよろしい、と言って姫に抜け道を教える。
「私が部屋からでてから行った方がいいでしょう、それでは」
「ありがとう」
グレイスは部屋をでる。ヴェルノは姫がいることを確認して鍵を閉める。
それから、扉を叩いたりの騒ぎがまったくない。
「‥‥おかしいな‥‥」
違和感を感じて、扉を少し開ける。
リンダの気配がない。
「‥‥姫様? ‥‥! 抜け道かっ」
やられた、と思いヴェルノはライザに知らせてリンダを追う。
行くところは一つ。
気づいた頃には、もうリンダは塔の、魔法使いの所。
「魔法使いっ! 考えてきたわっ!」
「もう? 早いね」
のんびりと、へりゃりとした笑顔。
「私の教えてほしい魔法、それはね‥‥」
リンダはシュナへと、自分の答えを告げた。
その答えにシュナはいつものへにゃりとした笑顔とは別の、笑顔を向けたのだった。