Endless×Endlessアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 05/04〜05/08

●本文

「てめぇで、てめぇの地獄作って、どォすんのよ、楽しい?」
「うん、綺麗、だから。いいよね、トキワも綺麗だよ、その赤、右目」
「てめぇがやっといていけしゃあしゃあ‥‥こっちはすんげェ痛ェってんですよ」
「痛いの、いいじゃない」
「あー、俺には理解できねーわ、ソレ」
「なんで?」
 不思議そうに変える言葉は、お前なら理解できるだろうと言っている。
 できるけどしたくない。
 理解できているけど理解できないフリ。
 騙して騙して、自分を騙しぬく。
 まき散らされたニオイは心地よくない。
 周りに倒れる仲間たちの色は、綺麗ではない。
「流れる熱さは、本物。赤は、綺麗、信じれるひとつのうちだよ」
「あ、そう。んでもな、俺としては、仲間潰す意味わかんねーワケよ」
「仲間? 仲間って、何? これはもそれも、コマだよ」
 壊れた笑いを浮かべて、言う。
「トキワは、わかってると思ってたんだけどね。違うの? 違うの、トキワ。トキワなら、わかると思ってるから生かしてるんだけど‥‥違うなら、消えてなくなれよ」
「消えてなくなれって言われてはいオーケー、なんて言わるわけねェし。今ならまだ半死になるまでボコるだけで許してやっから、戻ってこいよ、ディオ」
「いや」
 ふわりと無邪気で凄絶な、笑み。
「トキワならと思ったのに、やっぱりトキワも駄目なんだ。うん、わかった‥‥トキワは、今日から今から、敵。大好きな、敵だよ」
「上等じゃねェの、てめぇが泣いて地べた這いずって頭こすりつけてすがって謝ってももう許してやんね、ブッ潰す」
「いい度胸、いいね、いいねこういうの。お前と僕は分たれた、別たれた。混じれば潰し合い、それでいい?」
「上等、いーんじゃねーの? 容赦しねェ」
 今までの日々なんてなかったかのように、言う。
 積み重ねたものよりも、この一瞬のほうが、大事。
 その時は、大事だと思った。
 そして、今――


「トキワ?」
「‥‥ぉー」
「‥‥寝てた?」
「一瞬、寝て‥‥やーな夢みた。一瞬のくせにすんげェなげーの」
 トキワは苦笑して、自分の右腕である夏樹を見る。
「お前も、あん時にやられたんだよな‥‥」
「あの時? ‥‥ああ、うん。腹一発と、顔」
「キレーな顔してんのに三本、猫ひげみてーな頬の傷、もったいねぇよな。あいつ‥‥今頃どーしてんのかね」
「さぁ? そして顔といいつつ人の胸とか胸とか谷間とか凝視するのやめてくれるかな、このオヤジ」
「何言ってるの夏樹ちゃん! べっつにやっらしー目で見てなんかねぇってば!」
「いやいやいや、鼻の下伸びてんだよ」
「ちょ、ま、ぐはあっ!」
 真顔で鳩尾に一発、するどい拳。
 意識は、とだえる。



「飽きた」
「は?」
「飽きたよ‥‥飽きたから、そろそろ決着でもつけようかな」
 くすっと、ディオは笑う。
 それを、ディオを補佐するカナリヤはため息をついて、受け入れる。
「したいようにすればいいよ」
「するよ。決着つけるんだ」
 トキワと遊ぼう、とディオは呟く。
 きっとその瞬間だけ生きている。

 ――決着がつく。
 その一瞬だけが何にも変えられないほどに、いとおしい。

●Endless×Endless 概要
 世界は「鬼ごっこ」のさらに未来の未来。
 学園は崩壊し、過去稀有な力だったものは、誰もがもっていて当たり前。
 そしてそれぞれグループを作り縄張り争いの日々。
 とある一つのグループ「ブラックファング」、そのボスだったものは幹部の一人だった、ディオに反乱によって倒され、トキワが継ぐこととなる。
 そしてこのディオを中心に作られるグループ「ネームレス」。
 この二つのグループはいがみ合い、対立することとなる。

―ストーリー
場面は最低で四つ予定。
ほかシーンは時と場合により増える。
1、トキワサイド
2、ディオサイド
3、抗争開始
4、結末
(1と2は順番チェンジ可能。)


●登場人物設定
※それぞれ性別決定、能力設定はしていません。自由設定可能です。
※能力については最強、全破壊設定をしない限り自由です。まずい場合は能力始動範囲限定、威力縮小など修正が入ります。何かを媒介にして力をふるうも直接的に振るうも皆さんの想像力次第です。
※必須はトキワとディオのみ。夏樹、カナリヤはいない場合NPCが補います。
 トキワ―性別、男
 普段ふざけた人。でも決める時はしっかり決める、頼れる人。仲間が傷つくのは嫌だが自分は傷ついてもどうでもいい。右目は過去ディオの攻撃により失明で眼帯。
 ディオ―性別、未定
 トキワが本心大好きでしょうがない、ゆがんだ方向で。でもそれを気が付いていない困ったちゃん。暴走すれば、誰も止められない。
 夏樹―性別、女
 ディオにより、腹と顔に傷を受け今その痕は消えないまま。トキワへの信頼、トキワからの信頼はそれぞれ厚い。
 カナリヤ―性別、未定
 ディオの困ったちゃんぶりの処理的役割を担う。過去ブラックファングにいたがディオについていく。

他、グループ構成員などで自由に設定可能。

●今回の参加者

 fa1359 星野・巽(23歳・♂・竜)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)
 fa4769 (20歳・♂・猫)
 fa5345 ルーカス・エリオット(22歳・♂・猫)
 fa5592 宮坂 冴(22歳・♂・兎)

●リプレイ本文

●いつも
 ブラックファングのリーダーであるトキワ(Iris(fa4578))は、積み重なる瓦礫の上に立っていた。
 視線の先は遠い。
「トキワ、やっぱりここにいた」
「おー、夏樹」
 ざーっと瓦礫の山を身軽に降りて夏樹(桃音(fa4619))の隣にトキワは立つ。
 ふっと、手を伸ばしてこし、と夏樹の頬に触れる。
 頬の傷を、指で静かに、なぞる。
「消えねぇなぁ、これ」
「消えなかったな。消えなくて、別にいいよ」
「女の子が顔に傷作ってそんな淡々と‥‥夏樹らしいっちゃーそうなんだけどな」
 トキワは軽く笑い、夏樹の頭をぽんと軽く叩く。
 夏樹よりも、トキワの方がその顔の傷のことを深く気にしている。
 それをわかっているから、また夏樹は軽く返す。
「帰るか、皆のとこにな」
 荒廃した町並み、その間を縫って、彼らは自陣の本拠地へと帰る。
 人気の少ない、廃墟の中。
 積み重なる廃材、鉄骨。
 そこから光が落ちてきて、ふわりと明るい世界ができる。
「お帰りなさい、やっぱり夏樹がみつけてきたね」
「俺も探したのに! なっきスゲー!」
 出迎えたのは穏やかに微笑むサエ(宮坂 冴(fa5592))と元気に明るく騒ぐヴォルト(ルーカス・エリオット(fa5345))だった。
「出迎え御苦労!」
「イエスボス!」
「偉そうに‥‥」
「トキワだからね」
「俺の味方はお前だけのような気がするぞヴォルト!」
「味方ー!」
 ぎゃーと男二人はじゃれて遊ぶ。ガッとトキワはヴォルトの首に腕を回す形で捕まえて乱暴に頭をがしがしと。
「あははっ! あれ、ちょ、トッキーなんか首しまっ‥‥いぎゅ」
「気のせいだ、気ーのせーいだー」
「そっか、気のせい! 気のせ‥‥」
「ヴォルト、締まっててるよ」
 穏やかにサエは言って、トキワの腕からヴォルトを救い出す。
「げぇっほっ、サエサエありがとっ」
「どういたしまして」
「サエが人助けなんて‥‥丸くなったなぁ。その笑顔とか絶対嘘、ありえね、ありえねー。昔はあんなにツンツン荒れてたのに、すっかりデレて」
「そうかな?」
「デレ!? 昔のサエサエって、どんなのー? 知りたーい、俺知りたーい!! オーシーエーテー!! もっと詳しく!!」
 興味があれば聞かなきゃ気が済まない。
 そんな勢いでヴォルトはサエに飛びつく。
「そーかそーか、ヴォルトはそんなに俺様のカッコいい昔話が聞きたいわけね、うんうん」
 聞いているのはサエのことなのに、なぜか反応するのはトキワ。
 ガッとその辺にあった廃缶の上に右足おいてトキワは調子に乗る。
「おー、気になるー、昔! トッキーも教えて!!」
「今も昔も変わらず馬鹿よ」
「夏樹ちゃんたら酷い! 俺だって成長してるってば!」
 わぁっと両手で顔を覆ってトキワは言うのだが誰も慰めはしない。
 こんなやり取りはいつもの事。
「てか俺が今ききたいのはやっぱりサエサエの昔ー」
「だーかーら、サエは昔はツンツンツツツンだったぞ。昔のツンっぷりがおにーさんはちょっと懐かしい」
「何ソレ嘘っぽー! 嘘っぽー!!」
「あはは、あの頃の話をしないで下さいよトキワ。それともツンしてほしいの?」
「‥‥いや、それはしないでいい」
 ふっと視線をそらしつつトキワは遠慮する。
 サエはそう、とにっこり笑顔を返して言う。
「昔は昔、今は今。私が私なのは変わらないからね」
「でも、サエはちゃんと大人になったんでしょ? ‥‥トキワと違って」
「俺もちゃんと成長してるって。むしろ成長してないのはお前のまな板なむふごがっ!」
「一言多い」
「かっけー! なっきかっけー! ウィナーなっき!!」
 反射的というか、何が起こるのかわかっているというのか、夏樹はトキワの鳩尾に拳を叩きこむ。
 いつものじゃれあい。
 これが崩れることはない。
 ブラックファングの中心たる四人がそこにいるだけで、場は華やぐ。
「まーったく、夏樹ってば容赦ねーっての。的確に鳩尾だもんな‥‥」
「あはは、避けようと思えば避けられるくせに」
「まぁあれだ、スキンシップ? あれ夏樹の愛情表現だよな、絶対。絶対そうに決まってる」
「そうだといいね」
 サエはトキワの言葉をすべて軽やかに流す。
 トキワもそれは付き合いの長さから承知済みだ。
「‥‥ま、なんかあったら頼むわな、サエ」
「うん。私に何かあってもよろしくね」
「おう。いつ何が起こってどうなるかわかんねーもんなぁ」
 世界は、人々に厳しい。
 だからこそチームを作って生きている。
「トキワと会えてよかった」
「え、何? 何いきなりそれ」
「なんとなく思っただけ」
「何だそれは。じゃあ俺も何となく思ったことな」
「うん?」
 ふと声のトーンが落ち、ふざけていた様子が消える。
 真面目に、芯からのトキワの言葉。
「戦いは近い、だから本当に、何かあるかもしれない」
「‥‥私は皆を守るよ。だからトキワは気にせずいっておいで」
 トキワの言葉が何を意味するか。
 サエはそれをくみ取って答える。
 その答えが戻ってくるのを、トキワはわかっていた。
「よろしくな。突撃はヴォルトがするだろうな」
「最初に飛び出していきそうだよね、ちょっとだけ我慢もしてもらわないとこっちの陣形も崩れちゃうかもしれないよ」
「‥‥ヴォルトだもんなぁ」
「え、何? 俺のこと呼んだ?」
 自分の名前が話に出てきたのをきいてヴォルトは二人のそばへとやってきてにこにこ。
「つっぱしるお前は俺が手綱をしっかり握っておくからな」
「? 手綱? しっかりー?」
「ヴォルトの手綱をトキワが持つなら、トキワの手綱は私がもつ」
「ぶっ、俺ってそんな信用ない!?」
 こくこくと夏樹は頷く。
 言葉は淡々と、でも表情は、優しく柔らか、けれどもしっかりと何かを秘めている。
「そばにいるのが役目だから、ちゃんと頭悪いことしそうになったら止めてあげる」
「頭悪いのはむしろヴォルト」
「え、俺頭悪い?」
「ヴォルトは悪いというかまっすぐ突撃なんだよね」
「そう! 俺突撃! ドーン!」
 そのまま、三人を抱え込むようにヴォルトは飛びつく。
 いつもの当たり前。
 当たり前が一番愛しい。

●きっと君だから
 しゃっと長くのばした爪を光に透かして、ディオ(忍(fa4769))はずっとご機嫌だった。
 何かを思ってはうきうきと、笑顔を浮かべる。
 そんな様子を、カナリヤ(星野・巽(fa1359))はただ見守っていた。
 楽しいことを考えて、笑って、また別のことを少し考えて、そしてまた笑う。
 ディオが座るのは廃屋の中。
 天井は朽ちて落ち、空が口を開けて覗き込むような場所。
 その陽光は、また影を暗くおとす。
「‥‥いつにしようかなぁ」
 ふと、ディオは呟く。
 その声はくすくすと笑いを含み子供のように。
 けれども表情はすぅっと自分の長い髪をつまらなさそうに梳きながら。
 一瞬だけ、かき消える笑顔。
「いつがいいと思う?」
「君の好きな様に‥‥」
 ぱっと傍に控えていたカナリヤを思い出したかのように振り向いて、ディオは問う。
 帰ってくる言葉はいつものようにディオ優先の言葉。
「そうだね」
 ディオは今からのことを思って、嬉しそうに楽しそうに。
 壊れた笑みを浮かべる。
「久しぶり、いつぶりかな‥‥楽しみだよ。楽しみ、トキワと遊ぶの、楽しみ」
 トキワ、トキワと名前を重ねる。
 カナリヤは楽しそうなディオを見てうれしい。
 けれども、一人の名前をずっと呼ぶ彼の姿に、気持は複雑。
 トキワの存在はディオにとっても特別だが、カナリヤにとっても少し、他の人間とは違う位置にある。
 ディオを壊してくれるから好きだけれども、でもディオが好きというから嫌いでもある。
 嫉妬している。
 ディオは気が付いていないけれども、ディオの中心はトキワで、カナリヤの中心はディオ。
「行くよー」
 と、いつの間にかカナリヤの横を通り過ぎていくディオ。
 表情は嬉々としている。
「どこに行くんですか」
 自分のまわりに少しの距離をおいて集まる者たちに、ディオは答えない。
「邪魔です」
 代わりにカナリヤが言って、問うた者に手を向ける。
「ぎゃあ!」
 ディオの邪魔だと思ったものはカナリヤが退ける。
 ディオは、トキワのことしか頭にないが、でもそれで楽しそうだから邪魔を生み出したくない。
「今何してるのかなぁ、トキワ」
 彼の向う先に、カナリヤは静かについて行く。
 ディオはディオで、もうまっすぐ、ひとつのことしか見えていなかった。

●決着の始まり
「トキワ、あっちが動いた」
 あたりの情報収集に出ていた夏樹は戻ってくるなり、トキワの元に。
 どこかへ向かっているだからあとを少しつければ、自陣の方。
 となると、ひとつしか可能性はない。
「やっぱりなぁ‥‥最近最悪な夢見だったからくるとは思ってたけど‥‥全員集合かけろ」
「うん」
 リーダーの顔をしたトキワは誰よりも頼りになる。
 今はまさに、その表情。
「サエ」
「わかってる」
「ヴォルトは、突撃よしっていうまで動くな」
「ぇー」
「ぇーじゃねぇって。我慢したらその分暴れてよし」
「わかった!」
 しゅぴっと敬礼のポーズをとって明るくヴォルトは言う。
 どんな時もこんな調子だから緊張も少し緩む。
「全員集まったら総決起集会だな」
「そうけっきしゅうかいって何ー?」
「それはその‥‥サエ!」
「なんだろうね」
「お前わかってるくせに!!」
「だからけっきしゅうかいって何? それって楽しい?」
「決起集会ってのはな、もうぎゃーでわーでがーって感じで楽しい」
「楽しいのかな‥‥」
「楽しい! ならする」
「よし」
 意味不明な連帯感でトキワとヴォルトはがしっと腕を組む。
 そうしている間に、彼らのまわりにはブラックファングの面々がそろう。
「集まった、トキワ」
「おう」
 全員見渡せる、少し高い場所。
 そこにトキワは立って、一人ずつ顔を見るように視線を流していく。
 その表情に、それぞれが何かあると思って、ある種、決意を固める。
「牙をとげ、戦いの時は近い‥‥命かかってんだ、卑怯とか気にするな。囲んでいい、ぶちのめせ。それが俺たちのやり方だ」
 すぅっと一息。
「相手は、俺たちの因縁だ!! 思う存分やってよし!!」
 一際大きなその声に、彼らはまた大きな声で、空気を震わせるような声で答えを返す。
 緊張を高めて、迎え撃つためにも。
 そしてバラけて準備を始める。
「トキワ」
「夏樹」
 思いきり、ではなく、でもしっかりと力の詰まった拳を、夏樹はトキワの胸に向けて繰り出す。
「‥‥なーに? この拳なーに?」
「伝わっただろ」
「ああ、しっかりとな」
 夏樹がトキワに伝えたいのは、信頼。
 いつも信頼し合っているのは当然でわかっていることだが、それでも今は、それをちゃんとまた伝えておきたかった。
 理由は、わからないけれどもとにもかくにも伝えたかった。
「あ、トッキーとなっきがいちゃついてる!」
「本当だね、あつあつ」
「なっ! 違うっての! 俺はお付き合いするならもっとこうメリハリぐふあっ!」
「黙れエロオヤジ」
 もう一撃。
 トキワは強いけれども、夏樹のほうが、ある意味強い。

●対峙
「元気、してるみたいだな」
「トキワ! お出迎え? 嬉しいな、そんなに僕のこと大好きなんだ、僕も大好きだよ」
「あー‥‥変わってないな、そういうとこ」
 襲撃されるよりも、迎え撃て。
 短い時間で陣形を組み立てて、ブラックファングはネームレスを迎える。
 今にも飛び出しそうなヴォルトを、トキワは視線だけで抑える。
「なぁなぁ、あれって誰ー?」
 こっそりとではなく堂々と指さして、ヴォルトは夏樹とサエに問う。
 指さした先にはカナリヤ。
「彼はカナリヤ‥‥向こうの夏樹みたいなポジションの人だよ」
「へー」
「同じポジションだけどちょっと違う」
「ふーん」
 カナリヤの方向に三人の目が向く。
 その視線に気がついて、カナリヤはにこりを笑う。
「相変らず綺麗な傷ですね‥‥貴方は‥‥変わりましたね‥‥昔の方が可愛かったですよ?」
 微笑みはサエと夏樹にむけて。そしてヴォルトには誰だという視線を投げる。
「ちょーしつれーな視線なんですけどー。あれ、あいつ俺がもらってもいい?」
「滅多打ちにしてしまえ、俺が許す。でも、まだだ」
 ヴォルトの言葉に、にやっと視線だけ。
 トキワは許可をだす。
「ありがとー! わー、ボコる!!」
 ブラックファングの雰囲気は、殺伐としている中でもどこか温かい。
 それが、ディオにとっては不愉快。
「なんであんなに、楽しそうなのかな‥‥トキワが楽しいのは僕といる時だけでいいのに‥‥いいのに」
 呟いて、ディオは一歩を踏み出す。
 それが、合図。
 その瞬間に人は入り乱れて、惨状の始まり。
「ヴォルト! いってよし!」
「あっは! いってくる!」
「夏樹、サエ」
「わかってる」
「いつも通り、だね」
 そうだ、とトキワは言葉を返す。いつもなら、それでいい。
 でも今回は。
「ディオがきたら任せとけ」
 そう言って笑顔を向けるのだが、それに違和感。
 違和感がありすぎて見過ごしてしまう。
「雑魚は全員寝てろやオルァー!!」
「あ、やべ。あいつ一人にしちまう」
 響く声に、少し離れてしまったヴォルトを追いかける。
 バチバチと能力である雷撃を宿したトンファーで攻撃するヴォルト。
 その一撃ずつは、重い。
 急所に入れば確実に相手は倒れる。
「ヴォルト!」
 死角からの攻撃。
 夏樹が一声、そして相手の足もと狙っての狙撃。相手のタイミングが少しずれれば、ヴォルトが応戦するには十分な時間ができる。
「なっき超さんきゅー!」
「サエは右! 夏樹ヴォルトそのまま!」
 右サイドの仲間が不利とみとれば、トキワは声をかけてそちらへ手をかす。
 サエは風で敵方から味方を防御。その風圧ではじく。
 はじかれた味方。その衝撃で中心のメンバーがどこにいるのか、おおよその予想をディオはつける。
「トキワ‥‥あっちか」
 その進む方向、カナリヤも寄り添うように。
 邪魔するものは、なぎ払って。
 個人を優先するネームレスとチームを組むブラックファング。
 どちらが不利かと言われればネームレス側なのだが、一人ずつ能力の高さがそれを補う。
 個でも戦えるものたちは、みんなディオに惹かれ、集まってくる。
「いた!」
 トキワの姿を見つけて、はじけるように笑顔。
 ディオはそのまま、走りだす。
「トキワー、俺と遊ぼう?」
「!」
 ディオの声に、反射的に振り向いて、トキワは何故だか笑ってしまう。
 でも目は笑わない。
 笑っていい場面ではないから。
「下がってな、巻き込んで反対の頬にまた猫ひげできたらおにーさん哀しいから」
「うん‥‥信じてる」
 頷くと、それでいいと言葉だけが返る。
 視線をこちらに向ける余裕が無いのは分かっているけれどもなんとなく、夏樹はそれが悔しい。
 ある一定距離からさらに距離をとって、ブラックファングの全権はトキワから夏樹に。
 これからは、ディオ一人に手いっぱいになることはわかっている。
「トキワ!」
 笑いながら高い声。
 一撃は、まだ軽い。
「相変わらず、わがままさんなんだなっ!」
「あははっ、久しぶりだねこういうの!」
 軽くやわらかい、うきうきした声。
 一撃の後に、軽く距離を取る。
「賭けろよ」
「何を?」
「お前の全部」
「トキワもね」
 そう言うと同時に二人は互いだけを認識する。
 本能的に、自分が相対するのはこの相手しかいないと理解できる、理解していた。
 縮まる距離が、待ち遠しくてたまらない。
 久方ぶりの直接対決を楽しむように。
「っとに‥‥性格まがってんなぁ!」
「トキワ、本気だね、嬉しい、とっても嬉しい」
「言っただろうが、ブッ潰すってな!!」
 振り下ろされる爪をはじいて自分の拳を打ち込む。
 でもそれはかすりもせず、ただ避けられる。
 そうなることはわかっていたから別に悔しくはない。
 何撃もかわして繰り出して、拮抗し続ける。
「なぁーんで、目ばっかり狙うかな‥‥こっちの目はやめとけよ?」
 とん、と右目を覆う眼帯を指で叩く。
 ディオは一度瞳を瞬いて、言う。
「俺からはトキワが見えるから問題ないよ?」
「お前に問題なくても俺にはある。てめぇのツラが拝めなくなっちまう」
「僕からは見えるから」
 何となく予想していた応えにトキワは半眼で笑う。
「あ、でもトキワの目が見えなくなっちゃうのはやだなー」
 紡いだ言葉をすぐに翻し、言葉はまだ続く。
「僕が見えなくなったら、僕が一方的にトキワをかまうことになるもんね。それはずるいよ、卑怯。トキワも僕と同じくらい僕にかまわないとだめだからね」
「あーそーですか」
「うん」
 にこっと笑顔。
 それはますます輝くように。
 本当に、楽しんでいるのがいやでもわかる。
 そして自分も、楽しんでいるのがわかる。

●もう一つの対峙
「何ソレマジわかんね超ウケルー」
 ディオとトキワが戦っているころ、カナリヤの相手をしていたのはヴォルトだった。
 のちのちディオの障害になりそうな中心メンバーの一人。
「ディオの邪魔はさせません‥‥」
「ディオの相手ってトッキーだしぃ。てなワケで‥‥えーと名前何だっけ?」
「カナリヤです」
 丁寧に答え、カナリヤは能力をふるう。
 空気は振動。
 本能的に危ないと知ってヴォルトはよける。
「そのオモシロ能力何? 頭痛がちょっとするー」
「ヴォルト、手伝う?」
「うーん、もちょっとだけ待って! 能力何か知りたい!」
 とん、と交戦の合間に背中を合わせるヴォルトとサエ。最終的にはブラックファングのやり方でいい。けれども余裕のまだある今は、もう少し一対一でいたい。
「じゃあ私が一周してきたら」
「おっけー、サエサエいってらっしゃーい」
 戦況確認も含め、サエはあたりを一周してくるとつげる。ヴォルトならその合間くらいはもつと知っているからだ。
「なんか飛ばしてる? ばーんって」
「‥‥あなたと話をするのは、なんだか疲れます」
 溜息ひとつ、、カナリヤは間を詰める。
 ばちっとヴォルトは、トンファーに纏う雷撃をカナリヤの方へ。
「! 飛ばすこともできるんですか」
「めんどいからしないけどね! あとボコるほうが楽しいしー」
 そう言って、トンファーをかまえ直す。
 胸の前で右腕を横に、左腕を横に、二本の平行線。
「その能力、近づいたらきっと危ないけど、んでもこけつにはいら‥‥えーと‥‥トラアナ!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、です‥‥」
 突っ込んでくる獲物に向けて容赦なく。
 身を低く沈めてそれをかわすが、完全には交わしきれない。
 頭の痛みを抑え込んで、懐に。
 カナリヤもそれを甘んじて受けるはずがなく後退。
 でも完全によけきれないのは双方同じ。
 かする雷撃に、体がしびれる。
「っ‥‥」
「いーたーいっ! その能力ムカつくーでもおもしれー!」
 頭をぶんぶんと振って痛みを払う。
「雷撃、厄介です」
「俺はヴォルトでそのままだから」
 名前のとおりの能力は、きっとその性格にもあっている。
「サエサエが戻ってくるまでに終わるかなー」
「‥‥それまでに倒さないとこちらが不利になりますね」
 サエの能力をカナリヤは知っている。
 だからそう思う。
「力いっぱい、いかせてもらいます」
「俺もね!」
 じり、と互いの一番いい状態を作る。
 どちらがやられても文句はない。
 この世界ではいつ自分が消えてもおかしくない。
 けれどもこの相手には負けたくないと思う。
 踏み出す一歩に気持ちは、乗る。

●最後の
 騒々しさ、でもそこだけが静か。
「しょうがねぇのなぁ‥‥うっかりよそ見なんかしやがって」
 それはトキワに気が向いた一瞬のこと。
 夏樹の体を貫通する攻撃。
 ディオからではないが、昔ディオからうけた腹の傷、その場所。
「だって‥‥トキ‥‥」
「しゃべんなよ」
 トキワは夏樹を抱えて、彼女にだけ笑みを送る。
 大丈夫だと言って。
 ディオと闘っていたのもやめて、倒れる瞬間に走ってしまう。
 それが、ディオにとってはさらに不快。
 楽しく、気持よく戦っていたのに。
「‥‥つまんないよ、トキワ。僕と遊んでたのに、なんでそいつをかまうの? 違うよ、間違えないでよ、今は僕だよ。ううん、今も昔もこれから先も、僕とだけ遊んでればいいんだよ。でも、夏樹の赤もきれいだね」
「ディオ」
「何?」
「お前間違ってる」
 流れる夏樹の赤で、トキワの手は赤い。
 生きてる赤が流れ出す。
 早くしないと生きてる赤が、なくなってしまう。
「お前と闘うのも、そりゃ楽しいけどな、俺はいっぱい大事なもんもってんだよ。てめぇにとっちゃ敵でも仲間でもただの肉の塊なんだろうがな‥‥俺は、仲間をそう思わねぇ」
 お前と一緒じゃない。
 拒絶の言葉を落とされても、ディオは笑みを絶やさない。
「一緒だよ、違う言っていってもね、感じるところが一緒だから同じ。あの別れた時から考えてた。本当に僕らは違うのかって」
 うっとりと、思い返してディオは呟く。
「違うから同じなんだよ。背中合わせみたいに」
「意味わかんねーよ」
「僕がわかってるから問題ないよ」
 夏樹は死にそうで、流れる血を止めたいのに、ディオがそうはさせてくれない。
 それはわかっている。
 そうなると、先にディオを叩き潰すしかない。
「夏樹、ちょっと待ってな」
 少し離れた所に静かに夏樹を座らせる。
 離れる瞬間、きゅっと服の裾を力なく掴んで夏樹は見上げてくる。
「だーいじょうぶだって。俺よりお前のがやべーし」
 そのまま、夏樹は手を、離す。
「一撃な」
「もっと遊びたいよ」
「一撃だっつってんだろ」
 お前を倒せば終わるんだ、というように。
 平静そうに見えて、トキワの中は熱い。
「‥‥次で最後にしたいの?」
「するんだよ」
 視線は一層厳しく鋭く。
 それが自分、ディオだけに向けられるのが、嬉しい。
 自分だけに気持ちが向くのは嬉しくてたまらない。
 重なる自分の爪の音。
「わかった、僕も一撃。トキワの一撃、楽しくないわけがないし、これ逃したら、もう二度とないかもしれないしね」
「そういう物わかりのよさは、好きだぜ」
 緊張は一瞬。
 踏み込みも一瞬。
 距離も一瞬。
 すべての能力入れ込んで、攻撃だけにまわす。
 トキワの瞳に映るディオ。
 その表情は楽しそうに。
 ディオの楽しそうな表情、その瞳。
 その瞳にうつるトキワ。
 とらえた一瞬は真実。
 何故だか崩れた笑いの自分は楽しそうで、躊躇する。
 そして、痛み。
「トキワ!!!!」
「っ!! うっそだろ‥‥」
 叫んだのはディオで、呟いたのはトキワ。
 ディオの声は、なんでどうしてと責めるように。
 トキワの攻撃は、ディオには入らない。
 届かなかったのではなくて、途中で止まった。
 上から下に、ディオの頭掴んで地に振り下ろされるはずだった右腕は、ディオの頭を掴むことさえなかった。
 それを、責める声。
 ディオの手は、爪は、トキワの腹に。
 夏樹と同じ場所に。
「俺って‥‥本当、甘いなぁ‥‥」
 ぽん、とその手はディオの頭に置かれる。
「いつまでも馬鹿やってんじゃねーよ‥‥お前も」
 だくだくと流れだす血。
 ディオのすべてをかけた攻撃は重く、的確に急所に入っていた。
 それでもかまわず普通に話すトキワ。
 ずっと昔に、一緒にならんだ相手に、やっぱり本気になれなかった。
 そして否定していたけれども、自分たちは同じだった。
 それを、そうじゃないと思いたかったからこそ、自然にとまった攻撃。
「トキ‥‥トキワ!!!」
 その叫びは、混乱するこの場に響いて、誰もが意識、そちらに向ける。
 ディオは、トキワから離れていく。
 そしてトキワが膝をつくのと、ディオがへたり込むのは同時。
「トッキー!!」
 一番近くにいたヴォルトは、トキワの元に。
「悪ぃ、夏樹つれてきて、くんね?」
「わかった!」
 トキワの視線の先、夏樹をみつけてヴォルトは向かう。それと入れ替わりで、戻ってくるサエ。
「サエ‥‥」
「‥‥わかってる」
 もしもがあったら、といつも託されていた言葉。
 現実にならなければいいと思っていたのに、なってしまう予感。
 ヴォルトが連れてきた夏樹は、白い顔。
 馬鹿、とただ視線だけが告げる。
 夏樹は、もう半分以上こちらの世界から抜け出ている。
 トキワの横に寝かせられた彼女の頬の傷を、いつものように撫でる。
「そんな顔、すんなって‥‥」
 そう言って向ける笑顔は、ふざける彼のそれ。
「‥‥夏樹と一緒ならまぁ、いっかなー‥‥」
「よくないって! トッキーなっき!」
「ヴォルト」
 傷は深くて、どうこうできるものではない。
「トキワ‥‥」
 立ち上がって、ふらふらとディオはトキワのそばによる。
 瞬間、ヴォルトは近づけさせないと間に入るが、その必要ないことを、その表情で知る。
「ディオ」
 カナリヤはディオを呼ぶが、振り向きはしない。
 いつも気が向いた時しか振り向かないが、今回はそれとは、違うものがあった。
「‥‥ごめんなさい」
 そばに座りこんで、言う。
 ディオはまっすぐ、トキワに向かう。
「ごめんなさい、俺わかった、なんかわかった‥‥トキワが攻撃しないの、しなかったのも‥‥なんか、わかった‥‥」
「そか」
「俺、どしたらいい? ダメだから、いなくなったらダメだから。楽しくない、トキワがいないと楽しくない。闘わなくていいから、いなくなったらダメだから」
 子供のようにダメだから、ダメだからというディオ。
 確実に、今までの何かが壊れて、変わっている彼。
 それは、カナリヤの望むことでは、なかった。
「ディオ‥‥もうあなたじゃない」
 その異変を感じて、とっさにヴォルトが抑え込む。
「お前の相手、まだ俺! それに今は、なんかしたらダメだ!」
 サエも防御をそれを感じて防御の風を張ったのだが、それを突き抜けて飛び出したヴォルト。
「どきなさい」
「どかない!」
 思いきりの、雷撃。
 直接的に繰り出されたそれは、カナリヤでも防げない。
「ヴォルト!」
 サエはやりすぎ、と名を呼んでとめる。
「大丈夫、生きてる」
 ヴォルトは答えて、すぐトキワのそばに戻る。
「ディオは、わかったなら‥‥それでいーんじゃ、ねぇ? まー、あと仲良くやれつっても、無理‥‥かも、しんねーけ‥‥」
 言葉は途中で切れる。
 切れるけれども、言いたいことはわかる。
 声を出すのはもう億劫。
 視線しか回らない。
 まだ動く手で、眼帯をトキワは外して、ディオに押し付ける。
「これあれば、思いだして‥‥だいじょうぶだろ」
 もう前に戻るな、と言うように。
 そして手は、落ちる。

●一年後
 トキワがいなくなって、夏樹がいなくなって。
 それでも日々は動かないといけない。
「サエサエ」
「何?」
 ネームレスは、解散。
 ブラックファングは、今はサエはリーダーとなっていた。
 ヴォルトは、サエを支えるようにそばに。
「あの二人ってー、大丈夫?」
「それは二人次第かなぁ‥‥」
 ディオとカナリヤ。
 崩れた二人の関係は、まだ崩れている。
「カナリヤ」
「君はディオじゃない」
 今のディオを否定するカナリヤは、ディオを消そうとする。
 だから、二人の間には物理的に能力を遮蔽するものを置いてしか、会えない。
 話しかける日々。でもカナリヤは答えない。
 そんな二人を、サエとヴォルトは受け入れる。
「仲間に、なれるといーね」
「仲間だよ」
 トキワは、敵対しつつも仲間だと思っていた。
 だからこその結果。
 サエはそう言って、空を見上げる。
「トキワと夏樹の瞳も、こんな、青だったね‥‥」