魔王の下僕FINALアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 玲梛夜
芸能 3Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 05/21〜05/25

●本文

 こことは別の世界。
 そこでは魔王とその10人の下僕が人々に恐れられて‥‥いませんでした。
 なぜならば。
 魔王は『世界征服めんどい、寝る、起こすな、起こしたら怒るから』と言って冬眠(?)し始めもうすでに200年だとか500年だとか‥‥もうずっと寝てろお前。
 そして、魔王の一の下僕は『魔王様が寝るなら私も(以下略)』ということで同じく。
 二の下僕、三の下僕も同じく。
 あんたたち本当魔王大好きですね。
『そうなんです、ムニャ』
 で、四の下僕は『じゃあ、魔王様が起きた時に食べるものとか無いと困るから無農薬菜園でも作ってます』
 今じゃその野菜のできがすばらしく、人々が押し寄せるように買いに来ます。儲かってます。
 五の下僕は『起きた時に城が埃まみれじゃダメだから掃除しときます』
 ぴっかぴかの居城。
 こんな調子で、以下五人も似たり寄ったり、悪意も何も無いような腑抜けさんの集まりのようだったのです。
 だけれども『腑抜けどもの魔王なんぞたいしたこと無いはず! 俺が魔王になる!』とやってくるものたちは『なぁに言ってんだよ、ハッ!』と鼻息で吹っ飛ばす感じで叩きつぶされている。今までずっと。やはり、彼らは魔王の下僕。生まれ持った力というのは計り知れない。
 そして最近の異変は、眠っていた十将が、目覚めていること。
 この意味するところは‥‥?

●魔王の下僕 ストーリー
「あ、おっはーよー」
「おはようございます」
 てくてくてくっと城に居候中の農民、ノラに挨拶をして小走り気味に歩いて行く人物。
 ずるずると長いマントを引きずりつつきょろきょろとしながら。
 誰だろう、とノラが振り向いた時だった。
「え、ちょ‥‥まっ‥‥」
「え!?」
 その人の姿は、光に包まれて消えたのだった。
 これは、十将の皆さんに報告しなければ、と急ぐノラ。
 出来事を告げると、全員、魔王のいるはずの部屋へと走る。
 そこはもぬけの、カラ。
「ま、魔王さまああああああ!!!!!!!」
 どこにいったのか、と消えた場所をいろいろ調査すると、どうやら他の世界に呼び出された様子。
 他の世界に渉るというのは簡単なことではない。
 将の数人が力をあわせて二度、もしくは一度かもしれない。
 それでも、いくしかない。
 大好きな魔王が、いるのだから。
 そしてたどり着いた世界。
 降り立ったのは人がたくさんいる町の中の隅の方。
 賑やかな方へ出ていくと‥‥巨大な街頭テレビに。
「まままま、魔王さまあああああああああああ!!!!!!!!」
 魔王が、歌っているのです。
 感動の再会、だが生の魔王様ではない。
 魔王のもとへ、彼らは走る。

●魔王の下僕 キャスト募集
 キャストは魔王以外であれば何でも可能。
 魔王は爆睡中であるのででてくることはない。
 寝ている十将が起きて動き出すのは可能。
 三の下僕、四の下僕は上記の菜園、掃除にプラスアルファ可能。
 基本的にのほほんな部分と冷酷な部分を持ち合わせている十将。
 なお、テンプレ埋めお願いします。

1.名前
2.肩書き
3.人称
4.口調
5.性格
6.その他
7.台詞例

【埋め例】
1:梛
2:百の将(将は十までですが、自称ならば十一以下も可能
3:私
4:ですます調
5:テンション高い
6:癖はウィンクバチコン。乱暴な行動は絶対しない。
7:魔王様ラヴ!

●今回の参加者

 fa0074 大海 結(14歳・♂・兎)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3369 桜 美琴(30歳・♀・猫)
 fa3487 ラリー・タウンゼント(28歳・♂・一角獣)
 fa4002 西村 哲也(25歳・♂・ハムスター)
 fa4235 真喜志 武緒(29歳・♂・狸)
 fa4489 リーニャ・ユンファ(21歳・♀・猫)
 fa4619 桃音(15歳・♀・猫)
 fa5307 朱里 臣(18歳・♀・狼)
 fa5345 ルーカス・エリオット(22歳・♂・猫)
 fa5442 瑛椰 翼(17歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●ここはどこ? ここは異世界
 まばゆい光につつまれて、世界が一転する。
 そこは彼らがいた世界とはまったく別の、世界。
 ざわざわがやがや。
 音の種類も違う。
「皆さん、これがこの世界でのルールです。一度目を通すように」
 十の将であるレン(シヅル・ナタス(fa2459))はにっこりと笑顔で作ってきた栞をくばる。
 そこにはこの世界についての注意事項が満載。
「準備がいいわね」
 受け取りながら、一の将、ルヴィ(桜 美琴(fa3369))は笑う。
「何事も準備は大切です」
「それにしてもこの世界、薄暗いですわ。あ、お姉さま、こんなとこにまで彫り物を!」
「ここへきた記念ですの、まわりにカラフルに絵がかいてありますのよ、彫っちゃダメなんて決まりはありませんわ、きっと多分」
「たとえあってもストップです!」
 姉妹である八の将、ユン(リーニャ・ユンファ(fa4489))と六の将、リナ(桃音(fa4619))。相変わらずの姉にリナのツッコミは変わらず炸裂する。
 ユンはしぶしぶと彫り物の手を止めた。
「これからどうするっス? 魔王がこの世界にいるのは確かとして、どうやって探せば」
「! お、お前人間か!? だ、大丈夫なのか!? 生きてるか!?」
「え? いや生きてますよ、ほら」
「に、人間そんなに動いたら死んじゃう!」
 十将たちにくっついてきた桜の精、若葉(朱里 臣(fa5307))は人間、ノラ(西村 哲也(fa4002))がそこにいることに驚き、そして慌てふためく。
 彼女の中で人間はとっても弱い生き物らしい。
「若葉、ノラって農作業よくしてるから強いよ、ね」
「はい師匠!」
 ぽん、と四の将、エリム(ラリー・タウンゼント(fa3487))はノラの肩に手を置く。
「お、折れる! そんなことしたら肩にヒビがっ!」
 若葉はさっとノラを守るように背中の後ろに。
「ま、守ってやるから離れるなよ! ダメだからね!」
「や、若葉さん、人間そんなヤワじゃないッスから」
「ヤワ!」
 何をいっても、若葉の突っ走りは止まらない様子にそれぞれ笑う。
「それにしても、不思議なところであるな。このような世界があるとは」
 興味津々、と七の将、ルズ(ルーカス・エリオット(fa5345))はきょろきょろとあたりを見回す。
「おお、あのバカデカイ金属の塔は何であるか!」
 遠くに見えるものを指さしてどきどき。もちろんこの場にわかるものはいない。
「この場所にいても仕方ないですよね。というか埃っぽすぎます、なんですかここは」
 はたはたと、はたきを取り出して憤慨しつつ掃除するのは五の将、マキシ(真喜志 武緒(fa4235))。
「こんなに掃除しなければいけない場所に本当に魔王さまはおられるのでしょうか」
「いるに違いない、想いがあればどんなに離れていても!」
 そういって二の将、トロ(瑛椰 翼(fa5442))は三回まわって、耳を澄ます。
 特殊能力、遠声伝来は遠くのものを聞いたり、反対に声を届けたりできる。
 耳をすまして、探しあてるのは魔王の、声。
「魔王様の、声きこえる‥‥」
「どっち!? どこ! パパ!!」
 九の将、レイ(大海 結(fa0074))はトロをせかす。そして示された先に向かって、ダッシュ!
「あ、抜け駆け禁止!!」
 それを追いかけるのは三の将、サヤ(咲夜(fa2997))。
 そしてみんな、まてまてと細い路地裏を抜けていく。
 薄暗い場所から、明るい場所へ。
「な、なにこれなんかいっぱい!」
「お、おお!? 若者多!」
 開けた場所には人、人、人。
 それもほとんどが若者。
 じーちゃんばーちゃんばかりの村からきたノラは感激する。
「村のお年寄りーズにこの光景を見せてあげたいっス」
「ノラってば感動しすぎ」
「いやいや、だってほらこんなに若者!」
「人間! はしゃぐと危険!」
 ぱたぱたっと裸足で歩く若葉の後にはぽぽっと草花が咲いて行く。
「若葉の近くは空気がきれいそうですね‥‥」
 その後ろを埃っぽさに辟易しているマキシはついて歩く。
「あ、なんかあれおいしそう! おねーさん、それ頂戴」
「ああああ、あれはなんであるかー! 未知の物体め! 解体してくれる!」
「あ、ちょっとあんた何チャリを壊してっ!!」
 そして、それぞれ、好き勝手に行動開始。
「皆さん、おちついて」
 異界での初めての体験に、レンの注意も、届かなくなる。
「! ま、周りもしかして人間だらけ!? ちょ、お前たち動くな! 壊れる!!」
 と、周囲にいるのが人間だと気がついて、若葉はそれぞれをひっぱって一か所に集めようとするが無理なわけで。
「‥‥魔界とは全然違うんだね。建物の形とか、人の服装とか」
「! 皆さん服装浮いてますわ! 着替えてくださいませ! ここにありますから!」
 エリムの言葉をきいて、リナはそれぞれに服を差し出す。
 姉の影響か、フリルフリルフリル。
「‥‥これフリル」
「フリルですわ」
「リナちゃんセンスが磨かれてますわね」
「男の俺にはちょっとこれは」
「そう言わずに着ますの!」
「あーれー!!」
 リナの餌食にあったのはトロ。だがそれからごそごそといつの間にか逃げる。
「忘れ物を届けにきただけなのにこの仕打ち‥‥! あ、おなか減った」
 どこからともなくバナナ取り出して、もしゃもしゃ。
 と、ふとその視線に入ったのは。
「‥‥ん? トロ? お、俺の名を騙っているヤツがこの世界にいるのか! 許せーん!」
「どこ行くのトロ!」
 お寿司屋さんにダッシュ。
 がらっと勢いよく飛びこんで何やら騒ぐ声。
 だがすぐにつまみ出されてぽいっとされる。
「能力半減‥‥なんてこった!」
 トロは地面をだすだす叩きながら悔しさを表現する。
 と、その反対側では。
「まー! 素敵な服じゃないの! 私が着なくて誰が着るって言うの!」
 豹変するノラ。奥方様が降りてこられたご様子。
「いきなり豹変?! 拾い食いはダメよ!」
 その様子に吃驚しながらルヴィは、負けるものかとなぜか張り合い一緒に早着替え。
 あっという間にフリルフリル。
「ふふ、なかなか似合うじゃないの!」
「そっちこそ!」
 奥方降臨中のノラとレヴィは妙な連帯感。
「奥方様に普通のファッションは似合いませんわ! これを! 前は見えずとも心の目でみるのですわ!」
 そして盛り上がる中にユンも混ざってどこからともなく取り出した能面をかぶせてみたり。早着替えファッションショーは終わることはない。
 もしノラが今目覚めたら、卒倒するだろう。
「あー!! 何だよ、コレ! 全ッ然なってないし!!」
 と、響くエリムの手には、大根。
「僕の作る野菜とだと天と地の差だね!」
 どこからか見つけてきたそれと、自分の作る大根はイロツヤが違うと講釈。
 賑やかに、そして目立つ彼らの周りには人だかりができ始める。
「何この人だかり! 私の歌がききたいのね!」
「サヤ、お待ちなさい。あなたの歌は」
「大丈夫よ!」
 と、歌おうとしたときだった。
 ぱっと彼らから見える場所にある大画面に、魔王の姿。
 その画面向こう、歌う姿が映る。
「魔王様素敵ですわー!」
「!!!!!」
「ま、魔王様っ!!」
「お、起きて動いてるっ!!」
 それぞれ思うことは色々で、その姿を久しぶりに見てまた騒ぐ。
「う、嬉しいから踊る!!」
「私も!!」
「音は任せるである!」
 テンテケテンテン、テケテンテン。
 ルズが白衣の下からにゅっと取り出した太鼓を打ち始める。
 そして喜びの大根ダンス‥‥!
 一糸乱れぬその動きは、美しくある。
「また踊り始めてー」
 若葉はその様子を奥方様のはいったノラとともに見つめる。
 そして、画面向こうの魔王。
「何してるのかしらあの人!」
「魔王だね」
 と、踊っているとちゃりんちゃりーん、と何かが投げられる。
「‥‥? おひねり?」
「おひねりのようね。あ、タイムアウト‥‥‥‥ってなんスかこの服装ー!!」
 ぎゃーっと騒ぐノラも、いつの間にか大根ダンスの輪に。
「ひどい、もう俺‥‥ダメ‥‥って、え、これお金っスか?」
「みたいですねっ」
 テケテンテテテン、テッテケテンテン。
 音とともにフィニッシュ。
 さらにおひねりが降ってくる。
「これ、お金ですかね?」
 ノラは拾い上げてまじまじ。
「‥‥! これであの箱にのれるかも!!」
「人間! はしゃぎすぎ!」
「箱?」
 ダッシュするノラについて行く面々。
 そこには、いわゆるタクシー。
「透明な牛馬の引く車に違いないッス、これで乗れるっスか!?」
「よし、私はここ」
「吾輩はここにのるである!」
「こ、これに乗らないといけないのですね!」
 若葉は車の上によじよじ。
 そしてルズはトランクを開けてそこに入ろうとする。
「ちょっとお客さんたちー!!!」
 タクシー運転手のおっちゃんはもちろんあわてる。
「上は危ないからお嬢ちゃん! お客さんもそこ荷物入れだから! あ、そこ運転席だからあんた座っちゃだめだから!」
 ぇー、と声を漏らしながら二人は思った所に乗ることをあきらめる。マキシも注意をうけて助手席に移動。
 結局、何台かに分けて乗ることに。
「私、これでいくわ! さっき拾ったの!」
「吾輩もともにいくである」
 と、ルヴィとルズはママチャリをどこからか持ってきてドーンと構える。
「こうやって使うのであるかな?」
「違うわよ、こうよ!」
 ペダルを手で回したりしている間に、乗り方マスター。
 ママチャリをこぐのはレヴィ。その後にしっかりとルズがしがみつく。
「とりあえず行きましょう」
「そうだね、ここにいてもしょうがない」
「これであの人のいる所につれてってほしいっス!」
 画面に映る魔王を指さして、ノラは示す。
「もうちょっとで魔王様にお会いできる‥‥!」
「早くのってのって!」
「僕は、リスにでもなって乗るね、人おおいし」
 レイはちょろん、と姿を変えてタクシーに乗り込む。
 ぎゅうぎゅうにつめこまれ、マッハでママチャリこぐ気満々で、彼らは出発する。

●愛しの愛しの魔王様
 そこは、何やら大きな会場らしきところ。
 気のいいタクシーのおっちゃんにいろいろと話をききつつ、たどり着く。
「つ、ついたわっ! ちょっと疲れたかも」
「わ、吾輩はもう駄目である〜」
 ママチャリで追いかけてきた二人も、到着。乗っているだけでダメになっているルズは、あまりの早さによってしまったらしい。
「魔王様探して三千里〜♪」
 やっと会えます、と嬉しさを歌に込めるマキシ。
「人が、ここも多いのである‥‥」
 ざわざわきゃいきゃいと女性だらけ。
 だがそんなことは関係ない、近くに感じる魔王の気配を感じて、彼らはうずうずする。
「とりあえず、このあたりにいるんスか?」
「いるわね! あの建物の中!」
「よし、となれば」
「そうね、それしかないわね」
「?」
「人間、ちょっと離れておこう」
 何も言わずに視線で意思疎通する十将たち。
 若葉はノラを彼らから離す。
「実力行使、突撃!!」
 入口に向かって、ダッシュ!!
「お、お客様まだ開演前で」
「開演、何ソレおいしいの!? 私の歌をききなさい!」
「おどきなさい! 魔王様はきっとこの中に捕らわれて!」
「フリルで飾って差し上げますので道をあけてくださいませ」
 阿鼻叫喚。
「‥‥皆さんすごいッス! 師匠も輝いてるッス!!」
 警備に当たっていた人たちを、踏み倒して中へ。その後ろをてってってっとついていくノらたち。
「女の勘ですわ、魔王さまはこっちですの!」
「魔王様ー!」
「どこですかー!!」
 皆で走り回って、一分(短い)。
「あっれ、何、なんでここにいるのお前たち!」
 そ、その声はっ! と振り向く。
 振り向いた先には。
 十将たちの、大好きな。
『魔王さまーーー!!!!』
「わ、ちょ、なだれのように!!」
 久しぶりに見る顔に、互い嬉しいのだけれども、人数的に十将の方が力があるわけで。
 おしくらまんじゅうぎゅっぎゅっぎゅうう。
「会いたかったよパパー!」
「お元気そうで」
「ところで魔王様はここで何をなさっているのですか?」
「あー‥‥とりあえず、説明はいるよね。ここ邪魔だからこっちいこう、こっち」
 ということで、場所を変えてどうやら魔王の部屋、控室に。
「ちょ、渋谷さんこの人たちは何ですか! さっき警備破った人たちがいて」
「僕の下僕たち」
「!! ほ、本当にいたんですね‥‥」
「うん」
「この方は?」
 驚く女性に注がれる視線。魔王は言うのです。
「僕のスケジュールとか管理してる人、こっちで」
「魔王様の!? ‥‥ちょっとあなた、こっちにいらしてください」
 と、それを聞いたレンは有無を言わさず彼女を外へ引っ張っていく。
 そして数分後。
「あの方は体調が優れず仕事が続けられないので、私に全て任すそうです」
 笑顔で言うが、絶対なにかあったんだとだれもが無言で感じた一瞬。
「あはは、変わってない! てか僕こっちにあの人の呼ばれちゃってね、輝けるスター、げいのーじんってのに出会いたいって言われたから、僕がなってるんだけど‥‥一番」
「覚悟はしてたッスけど魔王さん超人気者ッスね。皆さん普通に受け入れてるのが凄い‥‥」
 と、魔王をがーっと囲む彼らをちょっと離れてノラはみつつ呟く。
「はっ! 俺も言いたいこといっとかないと!」
 そしてこの十将たちの勢いが伝染したのか、自分もずずいと輪に入る。
「言いたいことがあるっス! あんたの花嫁にされて俺がどれだけ苦労したと!! 生贄ッスよ!?」
「え、え!? 何それ話がわかんない!」
「そのままっス、生贄っす!」
「魔王様ー!」
「ぎゃあ! ちょっともうトロ何かみついてんの!」
「嬉しいから、俺犬だから!」
 かぷっとトロがかみつく。
 それをスイッチに、それぞれ今まで会えなかった分を、さらに重ねてぶつけ始める。
「ちょ、ギブギブ! 楽しいけどちょっと、勢いありすぎ!」
「‥‥いや、楽しいとかそういう問題‥‥ってこいつら下僕だった!」
 若葉はぽかーんとした後にセリフツッコミをばしっと。
 まだこの騒ぎ、しばらく続きます。

●さてさてどうするの
 一通りのスキンシップが終わり、落ち着いた彼ら。
 話はこれからどうするのか、という方向に。
 なぜか全員で正座をして座談会状態。
 出す結論は、それぞれがこれからどうするのか。
 残るのか、それとも帰るのか。
 帰るにしても、協力しないと帰れない状況だ。
「はい、それではレヴィから」
「魔王様の『第一の下僕』として、留守を預かるのは当然のことですわ♪ なので私は帰ろうかと思う」
「本当にそれが本音?」
「そうよ! こんなゴミゴミで、セカセカ働かなきゃならない場所なんて、ごめんだわ! 昼寝も満足に出来ないじゃない! ‥‥なんて思ってないから」
「昼寝出来ないのがそんなに嫌なのか」
「ルヴィは帰還、と。ではトロ」
「トロは元の世界へ帰る! 魔王様がいなければトロの天下!」
「私がいるのにそうはさせないわよ!」
 ルヴィとトロは視線からばちっと花火状態。
 それをスルーでレンは話を進める。
「サヤは?」
「あたしには難しい事は分からないけど魔王様がしたいようにするのが一番だし、元の世界に帰るも帰らないも魔王様次第だし。魔王様さえ傍にいてくれるならどこだってついてくわ!」
「僕は魔王様が居られるところに。ノラはどうする?」
 エリムは答えて、続けて問う。
「俺は帰りたいっス。牛たちのこともあるし」
「僕はお城の地下が気になりますから帰ります。それにしてもここ、埃が」
 マキシも自分の意志を伝え、さっきから気になっていた場所の掃除を開始。ぱっとみれば掃除夫。
「リナはどうしたいです?」
「魔王様にはもとの世界に戻ってほしいけれども。魔王様が帰りたくないなら残ります。魔王様がいる世界が私のいるべき世界ですのー!」
「僕ものこるよ、そばにいたい、いつも一緒にいたいからね!」
「わたくしはどうしましょう。うーん‥‥」
 ユンはそこで考え始め、一度保留。
「吾輩はかえるである。此方の世界に興味はあるが皆で過ごしたあの場所が愛しいのである」
「私は残ります。魔王様のすべてを管理するのは私しかいませんもの」
 それぞれが思いをのべて、これからどうするかを選ぶ中、若葉はむーんと、ちょっとしょんぼり。
「どったの、若葉」
「皆がうらやましい」
「なんで」
「そりゃ、魔王がいる所とか、魔王のためとか私も言いたいよ。言いたいけど‥‥言えないもん」
 魔王は、ああ、と言って若葉の頭を撫でる。
 本体が木で、向こうの世界にあるから若葉は帰る道しかないのだ。
「まぁ、若葉そんなしょぼんとすることないよ。実はね‥‥」
 ごにょにょにょっと若葉に耳打ち。
 それを聞いて若葉はきょとーんとする。
「魔王ー!!! 魔王早くいえー!!!!」
「!? 何、どうしたッスか若葉さん!」
 突如大声を出した若葉。その声色は何とも言えない感じの声。
「若葉! 内緒、内緒! 内緒! 言っちゃだめだからねっ!」
「魔王、魔王、この魔王めっ!!」
 ぽかぽかと叩く若葉、でもどこかそれは楽しく嬉しそう。
「あっはっは! と、とりあえず僕ライヴあるから、みんな見てるといいよ! 歌ってくる!」
「魔王様が歌われるなら、僕らもお手伝い‥‥」
「え、まじ? じゃあ最後乱入しておいで。最初はどんなもんかみてたら雰囲気わかると思うし」
「魔王様の生歌‥‥!」
「私も、歌うー!」
「これ楽器? 楽器かな?」
 十将たちは、それぞれにやることを見つけて、動きだす。
「魔王様の衣装、フリルがたりませんわ!」
「本当に! お姉さま!」
「ええ!」
 楽屋裏はごたごた。
 そして本番始って、歌う魔王。
 魔王様、と最初はおとなしく見ていたのだがそれぞれうずうずしはじめる。
 もちろん、冷静におちついているものたちが止めるのだけれども、それで収まるわけがなく、結局は予定より早い乱入。
「って、もうきちゃった! まぁいっか。僕の大事な下僕たち!」
 その日のライヴは、あちらの世界で語り継がれるライヴになったという。
 ちなみに最後は、会場にいた全員で大根ダンスを踊ったとか。

●そして月日は、あっという間に流れ
「ただいまー」
「魔王さまー!!」
「おかえりなさいー!!」
「師匠ー! いない間に牛が、牛が出産しましたー!」
 もとの世界に、残っていた将たちと魔王が一緒に帰ってくる。
 あれから、一か月しかたっていない。
 ライヴのあとにわかったことなのだが、こちらとあちらの世界は時間の流れが違うらしい。
 もう魔王はこちらにやってきてもう一年もたっていたのだった。
 ライヴ前にそれを聞いていた若葉はそれを早く言えー! とぽかぽか叩いていたのである。
 ちなみに、それを聞いたのは面々が帰る寸前で、ぽかーんとした顔で帰っていったのを魔王は面白そうにみていた。
 帰っていったものたちは、元と同じ生活を魔王が返ってくる一か月後を思いながらすごし、残ったものたちは、時の流れの違う世界で、彼らは魔王とともに芸能界荒らしをして、帰ってきた。
 いろんな伝説を作って。それはもういろんな伝説を作って。
「やっぱ、ここが一番だね。みんな留守番ありがとう」
 魔王は若葉の頭をぽんぽんと撫でる。
 別れ際にもらった若葉の苗木ももちろん連れて帰り、そこにはミニ若葉が。
「たらまー!」
「とりあえず帰ってきたし、踊っとくかー」
「あっちの世界でさらに磨きがかかった大根ダンスを」
「音楽の準備もよしなのである!!」
 こうして、元の生活に戻る彼ら。
 ひとつ違うのは、大好きな魔王が起きてそこにいること。
 今日も世界は、とっても平和です。
「ねー、ところで勇者とかこないのかなー。僕をたおーす! とかってこないのかな?」
「魔王様なんてことをっ!!」
「そんなのきたら僕らがぽいっとやっつけちゃうよ」
 レイはにこっと笑って言う。
「うん、畑の肥し‥‥にはなれないか」
 エリムもにっこりと恐ろしいことを。
「‥‥さらっと恐ろしい言葉が今‥‥」
「まーまー、まぁいいや、みんながいれば、おもしろおかしいし。なんか僕を脅かしてくれるスリリングな存在がいたらさらに楽しいかなって思ったんだけど」
「それなら俺! 下剋上! でも好きだから本当には、できないっ! いない間に下剋上もくろんだけどやっぱりできなかったし」
「トロはそれで十分おもしろいよ、うん」
「俺面白い!」
 耳をぴこっとさせてしっぽふりふり、トロはそれでご機嫌に。
「魔王様、お帰りになられたのですから、お祝にこれを‥‥」
「似合います、絶対似合います。魔王様ですもの、大好きです!」
 お帰りなさいとともに差し出されたるのはユンからのフリルなマント。そしてリナはどさくさにまぎれて愛の告白。
「リナちゃんったら大胆ね」
 と、そこへ地下からどたどたとやってくるマキシ。
「お帰りなさいませ〜。とうとう、とうとう見つけました! 伝説の魔具スペシャル、箒掃除機不要です君! 蔵の一番、一番最奥、誇りの中にうもれていました!!」
「お、僕が返ってきたとともに良いことおこった! よし、みんなに一つずつ良いこと起こる、そう決めた。むしろ起こす」
「さすが魔王様。『第一の下僕』はしっかりこれからもついていくわ、もしまたどこかへいかれても留守は私がいればばっちりよ!」
「ルヴィも言うね! うん、それでこそ第一!」
 城に響く声は軽くたのしく。
 魔王が目覚めて帰ってきたことは世界に伝わる。
 そして、それから毎日、城には大根の貢物がおくられてきたとか。
「待って、なんで大根」
「あー、よく大根ダンス踊ってたから、それ見た人が喜びは大根で表現とでも思ったんじゃないッスか?」
「なるほど。あれ、ここ納得するとこかな?」
 それにそこにいた面々は、頷いた。

 こうして世界は変わらず平和。
 魔王の城からは陽気な音楽が、流れてくる。
 テンテケテンテン、テケテンテン。
 そして、やがて春がやってきて、約束通り若葉の下で、花見が行われる。
「若葉、でっかくなったねー」
「うん、私立派」
「あっはっは、さすが僕が植えた子。子供がいるなら若葉だね、うん」
「うん、私魔王の子供!」
「そういえば、奥方様は‥‥」
「奥方? 誰の?」
「魔王様の」
 レンの言葉に、魔王は首をひねる。誰それ何ソレ、そんな感じで。
 と、そこへ何も言わずに降りてくる奥方様。
 実はこの奥方は。
「え、奥方なんていないない、この人マブダチ」
「マブダチ」
 奥方様だと、思ってたのに!
 でも、そうでなくてちょっと安心した、十将たちなのでした。
「俺、ここにきてから色々あったッス‥‥」
「まーまー、ノラも楽しめばいいよ、うん」
「はい、師匠や皆さんに会えたから、まぁ、いいっス。そこは魔王に感謝ッス!」
 さわやかな風の吹くその日。
 桜の花びら舞う中で。
 穏やかに穏やかに。

 こことは別の世界。
 そこでは魔王とその10人の下僕、そして桜の精に、人間と、多くの者たちがそれから楽しく、暮らしていきましたとさ。

●おまけ、進化する大根ダンス
 大根ダンスは、役者の皆さんにおまかせ。
 ダンスの先生も何もなく、思うがままに作っていただいたのですが。
「ちょっとずつレベルあがってないですかこれ!」
「いや、これぐらい役者魂みせないと‥‥」
「き、筋肉痛‥‥!」
「また首がつったらどうしよう‥‥」
「首も鍛えればいいと思いますわ」
「初めての私には結構これ、辛いです!」
「気合でやるのよ、気合!」
「や、みんなその気合いいよ、とってもいい!」
「渋谷さんも見てないで練習してください」
「さぼりばれた」
 撮影よりも何よりも、一番時間を割いたのはこれかもしれない。