いい男の条件とは?アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 葵桜
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/26〜11/01

●本文

「いい男の条件とは? 駄目男はアイドルになれるのか?!」


 机の上に先ほど会議で使われたと思われる、出来上がったばかりの企画書が置かれていた。
 誰かの忘れ物だろうか? 手に取った男は裏方を勤める美術さんだ。男は首を傾げて興味本位で企画書の内容を確かめる。
 ある男性が自分に自信が持てず、そんな自分を変えたいと望んでいる。そこで芸能人たちが彼をアイドルとして育てあげるというものである。
 つまりは自分に自信をつけさせる為の企画だ。
「あの、この企画書‥‥」
「ああ、それ捨てておいて。肝心の「自分に自信のない男」が見つからないんだよ‥」
 ディレクターは無駄になった企画書を渋い顔で見下ろし、タバコの火を灰皿に押し付けて会議室を後にしようとしたところを裏方の男が呼び止めた。
「あの! 俺にこの企画、駄目男をやらせてくれませんか?」
「あのね、君。俺は演じるとか、やらせとか好きじゃないんだ‥」
「俺、本気なんです!」
 男の熱意に負けたディレクターはとりあえず話だけでも聞いてみる事にした。

 放送されるまでは匿名希望という事なので自分にコンプレックスを抱く駄目男とペンネームを変えて、企画者A氏と駄目男との対談としてディレクターは紙に書き留め始めた。その詳細は以下の通りである。

 駄目男:「この前、女の人に振られたんです。自分にどうしても自信が持てなくって‥‥」
 A氏:「でも自分を変えてみたいんだよね?」
 一度も恋が成就した事がない駄目男は深々と溜息をつき、俯き加減で首を縦に軽く振った。
 A氏とほとんど目を合わせることはない。視線があってもすぐに駄目男は太陽に慣れていない様な色素の薄い目を逸らした。
 駄目男の髪はおしゃれとは言えないボサボサの無造作ヘアーで前髪が長くて顔がよく見えない。服装は家からそのまま出てきたような格好だ。会話もほとんど続かずに途絶えてしまう。
 アイドルとは間逆のオーラを持った人間を捕まえてしまったと思いつつ、A氏は困った様子で話を続けた。


A氏:「今から君は生まれ変われるんだ! どんな男になりたいかい?」
駄目男:「‥‥モテル男になりたいです! アイドルの人ってオーラがありますよね? 俺も‥光り輝けるオーラが欲しいんです。頑張りますのでよろしくお願いします!!」
 この企画はお蔵入りになるだろうと半ば諦めていたA氏だが、質問をぶつけた瞬間に駄目男の表情が変わる。
 A氏の表情にも希望の色が見えてきた。世間一般にいえば普通の人間だが、駄目男の熱意は半端ではない。
 自分を変えたいのだと駄目男なりに精一杯の主張をする声は小声に等しいが、駄目男にとっては大声をあげて発した言葉なのだろう。
 よくよく聞いてみれば裏方という仕事上、沢山のアイドル達を目にしてきた。仕事をしている内に彼らのもつオーラに憧れを抱くようになったのだという。



 このような対談が綴られていた。
 今回の企画は芸能人たちの個々の職業、特技、持ち味、性格などを活かして駄目男をアイドルとして育てあげて、少しでも自信を持たせて欲しいというものだ。
 短期間ではあるが、少しでも駄目男に変化が起きる事を望んでいるようだ。


駄目男のデータ
名前:永森・翠(ながもり・すい)
歳:23歳
性格:優しい、協調性タイプ
職業:裏方(美術さん)
特技:絵を描く事
長所:気長、マイペース(善し悪し)
短所:会話が苦手。ちょっとドジ。

●今回の参加者

 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa0336 旺天(21歳・♂・鴉)
 fa0796 フェイテル=ファウスト(21歳・♂・狐)
 fa1024 天霧 浮谷(21歳・♂・兎)
 fa1537 巴星(25歳・♀・蛇)
 fa1804 沢渡 操(27歳・♀・蝙蝠)
 fa1805 音丸吉花(13歳・♀・リス)
 fa1815 香坂 夏依 (16歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●雑談風景
 会議室では駄目男をモテル男にすべく、雑談風景の撮影が行なわれていた。

「この旺天君にかかればどんな駄目男君もナイスガイに早変わりさー!」
 カメラに向かってテンション高く第一声を発したのは旺天(fa0336)だ。
「初めまして。上司から頼まれて来ました、よろしくお願いします」
 音丸吉花(fa1805)が話す、頼まれた事とは翠を男前にしてくれという内容だ。
 撮影するカメラが気になるのか、翠は恥ずかしそうに深々とお辞儀をする。
「昨日の食事はなにを食べた?」
「ぼ、僕は‥」 おしゃべり好きな天霧 浮谷(fa1024)は話す事に慣れさせる為に何気ない質問から始める。目を見て話そうとする浮谷とは対照的に翠は俯く。

「人と話をする時には前をお向きなさい」
 今まで黙っていた藤川 静十郎(fa0201)が翠の顎を扇で持ち上げる。驚いた翠は唖然とした様子で冷静に、けれども美しく微笑する静十郎を見上げた。
「姿勢も‥背筋も伸ばしてください。ほらっ、また俯いていますよ」
 容赦なく静十郎は扇子を閉じた状態で背中を軽く叩いて指摘する。
「少し微笑するのも大切だな‥」
 翠よりも身長の高いフェイテル=ファウスト(fa0796)は切れ長の目で上から翠を見下ろす。
「と、とにかく頑張ろうな‥」
「モテたいなら俺達に任せておけって!」
 手厳しい静十郎とは対照的に香坂 夏依(fa1815)は出来る事から始めていこうと涙ぐむ翠に苦笑しながら励ました。付け加えて沢渡 操(fa1804)が自信満々に言葉を発した。


●ショッピングへGO
「絵が得意だと伺ったのですがどの様な絵を描かれるのですか?」
「えっと‥背景画を主に」
 静十郎に幾度と姿勢を正すようにと注意を受けた翠は神経を集中させて話をする。だが静十郎の努力もあってか随分と姿勢が良くなっていた。

「おまたせ‥」
 ソファーで待機していた翠に声をかけて、巴星(fa1537)は鏡の前の椅子へと座らせる。
「ここ、って‥?」
「美容院よ? 来た事がないの?」
 幼い頃以来だと話す翠を星は少し珍しく思う。落ち着きを隠せず、辺りを見渡す姿は子供のような仕草を思わせる。

「‥全体的に髪をすいて、前髪は眉ぐらいの長さくらいで‥」
 星はスタイリストという自分の職柄から翠の髪質、顔の輪郭などから似合う髪型を瞬時に頭に描き出す。テキパキと店員を交えて話を進める姿は真剣そのものだ。
 翠は気が動転しいて、気が付いたときにはカットは終わっていて、学生の様なさっぱりした髪型になっていた。
「この髪型ならば自分でスタイリングしやすいわ‥」
 イメージ通りの髪型に星は満足する。星の一声に我に帰った翠は鏡を目の前にして驚く。
 前髪が短くなり、視界がよく見える事で翠は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「永森さん、どうして俯かずに人の目をみなさい、っと指導したのか理解できますか?」
 ただ首を横に振る。静十郎の真剣な眼差しに目を合わせることができない。
「俯いていて相手の何が見えますか? 相手は貴方の表情を伺えないと、気持ちを酌めないでしょう」
 真剣な静十郎の言葉に不意に顔を上げて不安げな表情を見せる。
「貴方は第一歩を踏み出しているのです‥」
 前を向く事が第一歩であり、一歩ずつ確実に学んでいく事が大切だと静十郎は話して聞かせた。

「立ち止まっている暇はないわ! 今日は忙しいのよ」
 2人の間に割り込んで話を打ち切る。張り詰めかけた雰囲気が一瞬で解ける。
「次は洋服よね!」
 いつもならば面倒くさがりの性格が出る所だが、改善点だらけの格好にスタイリストとしての血だけではなくデザイナーとしての血も騒ぐ。
「さぁ〜、行くわよ‥」
 星が次に目指す場所は値段が手ごろな古着屋である。2人を連れて星は急ぎ足で目的地へと急ぎ足で向かった。


●外見だけじゃいけません
「スイっち! もんげーかっこいい〜」
 カメラが回っていない事もあって吉花はプライベートでの口調になる。
「そこら辺のアイドルよりもかっこいいんじゃないか?」
 容姿のよいフェイテルでさえ絶賛するほどの翠の変わりように感心する。しかし、まだまだ改善点はある。

 翠は合流した吉花、フェイテルと共に小部屋へと移動する。そこには演技を教えようと浮谷と夏依が待機していた。

「対談でオーラが欲しいって言ってたよな。なら、明るい男を演じてみるか?」
 浮谷の一言に翠は首を縦に軽く振る。相変わらず会話が苦手なようで相槌が多い。

「ほな練習しようかー」
 吉花の元気な一声でカメラが回りだし、レッスンが始まる。

「きょ、今日はいい天気だし‥出かけよう」
 台本を真剣に読む翠の姿と口調に思わず夏依は気が抜けてしまう。棒読み状態な上に小声で話が聞き取りづらい。
「まずは表情から改善する必要があるな‥」
 言葉の表現力は勿論の事、顔の表現は感情を表現する上で大変重要だ。
 フェイテルはいったん台本を閉じた。そして、冷たい印象を受ける切れ長の目が一瞬にして優しい表情に変わる。
「僕には無理です‥そんな自然に笑ったり出来ない‥」
 俳優の自然な演技を目の当たりにした翠は自信を失う。
「芝居ってのは俺達がなりきって楽しむもんじゃん! 周りは気にしなくていいから‥」
「わいも役者じゃないから客観的かもしれないけど、上手下手は気にせずにのびのびとする事が大切だと思います」
 落ち込む翠に浮谷と吉花は優しくアドバイスをおくる。自分の為に指導してくれる4人の為にも頑張ろうと決意する。

「あ、明日もいい天気だといいな〜」
 初めの内はぎこちない様子で話をしていた翠だが、だんだん楽しそうに演技をするようになっていた。

「お疲れ様、翠さん」
 ようやく練習が終わり、夏依が声をかけると翠は疲れた様子を見せた。夏依を見上げる表情は心なしか微笑しているようにも見える。

「その表情‥人間関係を築くために必要な表情だ‥」
 フェイテルの言葉の意味を理解出来ずに翠は首を軽く傾げる。意識的な笑顔ではないのならば、尚更良い事だと思いフェイテルはあえて説明をしなかった。

「だけど、最後まで上手に出来なくってすみません‥音丸さんの方が上達が速かったですね‥」
「努力する事が大切なんだ。好きな人の為に努力する奴って輝いてるだろ? それと一緒!」
「慣れん事やりょーんじゃけえ、すぐに出来ないのは当然じゃ。また、他に分からない事あったら皆に聞きゃあええんよ。恥ずかしゅねえ‥」
 練習中に吉花は質問をしていたが翠は質問する勇気が持てなかった。自分も質問が出来るようになりたいと願っていた。
 自分よりも随分と年下の夏依と吉花に励まされて苦笑を見せた。


●特技を身につけよう!
「アイドルになるなら特技を身につけた方がいい。ベースなんてどうだ?」
 職業上、絵を得意とする翠の指先は器用だろうと操は判断し、ベースを指導したいと考えていた。
「楽しそうですが僕に弾けるでしょうか?」
「んっ? 大丈夫、大丈夫‥」
 タバコを咥えたまま軽い口調で操はベースを手に持つ。

「会話するのに少しは慣れたか?」
「少しだけ‥けど、やはり苦手です‥」
「そうか。だけど、会話が苦手なら音楽という会話表現もあるからな」
 翠の為に用意したベースを手渡しながら話を続ける。
 操は音楽で伝える方法を教える事で少しでも自分を上手く表現できる自信をつけさせたいと考えている。
「沢渡さんは優しいんですね」
「お世辞を言ってもなにもでないぜ? よし、そろそろ始めるか?!」
 操は照れ笑いを見せる。先ほど教えてもらった笑顔の演技から、翠はいつの間にか自然と微笑出来るようになっていた。


 1時間後。
「おい、やる気あんのか? リズムがずれてるじゃねーか! キーが違〜う!」
 スパルタ教育が始まってから彼此1時間が経過していた。
 想像していたよりも器用な翠は見る見るうちに上達していく。だが、成長していくほどに操のスパルタ教育は更に過激化していた。
 操が気合を入れさせる為に軽めに一発入れた蹴りは柔い翠にとっては強烈に感じる。
「す、すみません‥」
「自分を変えたいんだろ? 気合入れろ!」 涙目になりながらも必死に覚える翠。
「おぉ? やればできんじゃねーか」
 ついに一小節を間違えずに完璧に弾き終えた翠に操は頭をわしわしと撫で上げる。
 頭を撫でられて、びくついた翠だがすぐに嬉しそうな表情へと変化を見せる。

 一休みをついているとドアがゆっくりと開き、旺天が顔を出す。
「永森さん、俺っちとライブハウスに行かないッスか?」
「‥楽しそうですね」
 ベースの練習をしていた事を聞きつけた旺天は翠にプロのベースを聞かせてあげたいと考えていた。
「じゃー、今から行くっス!」
「えっ?! 僕まだ、沢渡さんに‥」
「行ってらっしゃい。イイ男になったら俺がマネージャになってやるよ」
 旺天が休憩していた翠の腕を掴み、強引に外へと向かう。驚いている翠に操はサングラスをずらし、ウィンクしながら2人を見送った。
「そうじゃなくって‥」
「早くしないと始まるっス!!」
 お礼をいう暇もなく刻々と進む時間の中で旺天は急ぎ足でライブハウスへと足を運んだ。

「遅い! もう始まってるぜ!」
「遅れてごめんッス」
 たどり着いた先で浮谷が痺れを切らして待っていた。浮谷はライブハウスに行く事を聞きつけて、旺天達に同行を頼んでいた。

 旺天が翠をライブハウスの中へと招き入れようとドアを開く。初めての経験にドキドキしているのか辺りを挙動不審に見渡す。
「早く入るッス!」
 痺れを切らした旺天は翠の背中を押して室内へと押し込む。
 室内に入ると大音量の音とボーカルの声に大歓声が沸き起こっていた。すでにライブは中盤を迎えていて、客も最高潮を迎えていた。
「さん! っですね!!」
「なんか言ったッスか?」
 翠の声は音にかき消されて旺天に伝わらない。だが、小声を改善する為に旺天はあえて耳を近づけたりはしない。
 初めて会った時に殆ど話をせず、俯いていた翠に暗い印象を受けていた旺天だが今は皆の努力で少しは変わっている事を願う。
「すごいですね! 感動しました!」
 精一杯の声は微かながら旺天に届き、目を輝かせてベースを弾く男を見る翠の表情に旺天は嬉しそうな表情を見せる。

 少しずつ、目に見える形で翠は変化を遂げている。
 デビューまでは、もう日がない。
 だが、翠が将来大物アイドルになり成功を収める事は、すでにこの時点で指導をしていた誰もが想像出来ていた事なのかもしれない。