探偵たちの夜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
蒼井敬
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
7人
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サポート |
0人
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期間 |
09/17〜09/21
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●本文
その屋敷に、その日呼ばれていたのは全て世間からも認められている探偵たちばかりだった。
専門分野は違えど、彼らの推理力は皆高く評価され、事件解決にも大きく貢献している。
屋敷の主である柏木老人も自ら探偵として様々な事件に関わったことがあるという経歴の持ち主である。
今回そんな柏木に招待された探偵たちは、柏木と直接面識がある者が多く、柏木がその推理力を認めている者たちばかりだった。
普段はあまり会うことがない探偵という職業の者たちの姿を、ひとりの少女が目を輝かせながら見つめていた。
柏木の孫である橙子だ。今日は彼女の誕生日パーティも兼ねているのである。
「橙子さんも、将来は素晴らしい探偵になるのでしょうね」
招かれている探偵のひとりにそんなことを言われたとき、橙子は顔を赤くしてみせた。
だが、推理力に秀でたものが人格としても素晴らしいものたちばかりであるということはない。
今夜のパーティにもその例えのような男がいた。
如月というその探偵は、確かに推理力には優れていた。だが、性格は傲慢で自信家。
噂では、自分の推理を強引に進め、罪もないものを犯罪者に仕立て上げたこともあるなどということまで言われていたが、如月がそのようなことを行ったという証拠は何もない。
犯罪者だけではなく警察関係者、そして同業者からもあまり良い目では見られていない男だったが本人はまったくそのようなことを気にも留めていなかった。
「あの人、あんまり好きじゃないわ。どうしておじいちゃんはパーティに呼んだの?」
「確かに彼は、人としては尊敬される人間ではない。けれど、彼の推理力はパーティに呼ぶに相応しいものを持っているんだよ」
初対面にしてすでにあまり良い印象を持たなかった橙子の言葉に、柏木は困ったような顔をしながら橙子のために持ってこさせたジュースの入ったグラスを渡した。
そんなことはあったもののパーティは概ね恙無く進んでいっていた。
だが、その数時間後、事件は起きた。
「まさか、こんなことになるとは‥‥」
そう呟いたのは、今夜のパーティに呼ばれていた探偵のひとりだ。
こういう現場には慣れているはずの彼らだが、それでもこの事態には戸惑いを隠せないようだった。
屋敷のホールにはいま、如月が死体となって横たわっている。
突然苦しみだして倒れた彼の遺体の傍にはひとつのシャンパングラスが転がっていた。
「この状況から判断すると、グラスに毒が仕込まれていたということでしょうか」
シャンパングラスはひとつのテーブルにいくつも用意されており、好きなものを当人が持っていく仕組みになっていた。
「しかし、あのグラスは誰がどれを取るかは決まっていなかった。それでは無差別殺人ということになりますよ」
「だが、無差別殺人だったとするなら死んだのが如月氏だということはうま過ぎる‥‥いや、これは死者に対して失礼でしたね」
何人かの探偵たちはすでに状況などを調べだしている。どうやら自分たちで犯人を見つけるつもりらしい。
遺体を調べてみたところ、財布は残っており物取りの犯行ではないことは明らかだったが、これはこの場にいる誰もが最初から推理していた通りだった。
如月を狙って殺害したのであれば、動機は怨恨によるものに違いない。
彼が手柄と同じくらい恨みを買っているということを、同業者たちの中で知らないものはいなかった。
しかし、此処でひとつ困った自体が起こった。
パーティに参加していた者の中に、不審者を見たものが誰もいないのだ。
外部犯ではないとなると、犯人はパーティの場にいた者となってしまう。
そして、被害者が手に取ったシャンパングラスに近付き、毒を盛ることはその場にいた者なら全員可能だった。
「同じ探偵を疑わなければいけないとは」
ひとりの探偵がそう言いながら大きく息を吐いた。
「ごめんよ橙子。折角の誕生日パーティだというのにこんなことになるなんて」
探偵たちが捜査をしている様子を眺めながら、柏木は隣に立っていた橙子にそう言った。
「おじいちゃんのせいじゃないわ。悪いのは事件を起こした人だもの。それに、これだけの探偵さんがいればすぐに犯人は見つかるわ」
その言葉に、柏木は確かにそうだねと笑い返した。
■募集事項
ドラマ『探偵たちの夜』では出演者を募集しています。
・柏木(かしわぎ):壮年〜老年。館の主人。元探偵で今回のパーティの主催者。
・橙子(とうこ):10代後半。柏木の孫娘。
・探偵(複数人数):パーティに呼ばれていた探偵たち。性別、年齢不問。
その他、必要キャストを募集いたします。
それぞれの名前はキャストとなった方が命名してください。
■ドラマ内容
元探偵である柏木が孫娘の誕生日パーティに集めたのは名のある探偵たちばかり。
そのパーティの中で起こった殺人事件。
殺されたのは同業者からも嫌われているひとりの探偵だった。
探偵たちは独自の調査で犯人を突き止めようと捜査を始める。
はたして犯人、そしてその動機は?
●リプレイ本文
●配役
柏木‥‥‥‥‥バッカス和木田(fa5256)
橙子‥‥‥‥‥あずさ&お兄さん(fa2132)
西門嶺梧‥‥‥片倉 神無(fa3678)
エリス‥‥‥‥宇藤原イリス(fa5642)
総雲・醍醐‥‥小野田有馬(fa1242)
瀬方平次郎‥‥犬神 一子(fa4044)
ソ・ダルレ‥‥キム・ヘヨン(fa5245)
●
「毒殺である事は間違いなさそうですが‥‥詳しいことは解剖してみないと」
ひと通りの検死を行ってから元検死官である醍醐はそう言い、主である柏木に尋ねた。
「柏木さん、この屋敷には薬物を保管してあるような場所はありますか」
問われた柏木も頷きながらそれに答える。
「温室に研究用の薬草が有るね。また、僕自身も持病があるのでそのための薬も置いてある。そちらは書斎だよ。そして、どちらの鍵も便宜上誰でも持ち出せるね」
如月の遺体はリビングから動かされてはおらず、警察にも知らせないまま探偵たちは独自に調査を行われていた。
不肖の弟子と称している西門嶺梧もその中に加わっていたが、なかなか勘が働かないまま他の探偵たちのやり取りを聞いている。
「怖いねー」
歳が近いこともあってかパーティの間に友達になっていたらしい橙子は嶺梧の娘エリスにそう言いながらも、探偵たちの推理が見たいのか現場を離れようとしない。
パーティに花を添えるため歌手として招かれていたソ・ダルレは探偵たちの推理を聞きながら突然起こった殺人事件に椅子に座り悲しそうな顔をしながら彼らのやり取りを眺めていたが、如月に言い寄られていたことを尋ねられたときは泣きそうな小声で反論をしていた。
如月に強引に言い寄られたことは事実であったが動機となるには不十分であり証拠もないという主張は正しく、それ以上彼女に嫌疑をかけようとする者はいなかった。
なにより彼女には薬物に対する適切な知識はない。
「これは、外部の犯行の可能性もあるんじゃねぇか?」
平次郎のその言葉に醍醐も同意するような言葉を連ねる。
「私も見ましたよ、去り際の後姿なので特徴まではわかりませんが‥‥」
「でもそれだとこの中の誰かかもしれないんじゃない?」
途端、橙子がそう問いかけたのは平次郎や醍醐の言葉に不審を抱いたからではないようだが、聞かれた醍醐は少し戸惑った後に苦笑して答えた。
「見知った人かどうかくらい‥‥解りますよ」
捜査はその後も続けられ、その度に様々な推理が飛び交ったがこれだけの食い違いが生じ続け、探偵がこれほど集まった中、事件は難航の色合いを濃くしていっていた。
「パパ、どうして誰も警察を呼ばないの?」
いくら名うての探偵たちが揃っている状況とはいえ誰も警察を呼ぼうといまだ言い出さないことを不思議に感じたらしいエリスは父である嶺梧にそう尋ねる。
「みんな凄い探偵さんばかりだけど、事件が起こったら警察を呼ばないといけないんじゃないの?」
「でも、警察が来ちゃったら自分たちで解決できなくなるんじゃない?」
エリスのそんな疑問に橙子がそう答えたのを聞いたとき、嶺梧は初めてその違和感に気付いた。
警察を呼ばず自分たちだけで捜査をし、解決するということは、自分たちに都合の良い『真相』を作れるのではないか‥‥?
嶺梧の中で、外部犯説を唱えている者や食い違う推論を繰り返す者たちの姿に対する違和感が途端にいや増した。
●
嶺梧が感じた違和感、そしてエリスや橙子が気付かないまま口にした言葉は正しく、一部の者たちは真相に気付きながらそれを隠蔽するために動いていっていた。
外部犯説に賛同している醍醐もどうやらそのひとりのようだ。
その中で、嶺梧もようやく自分の中で推理を固めていく。
だが、ここで彼はひとつの大きな問題にぶつかった。
いま嶺梧が考えている通りの人物が犯人であるのなら、果たしてその真相は明らかにするべきなのだろうか。
犯行自体には加担していなくとも途中で真相に気付き、いま嶺梧が考えたことと同じ理由から真相をうやむやにしてしまおうとしている者がいるのは二転三転し続ける捜査状況を見るに間違いないだろう。
(「このまま俺も口を噤むべきじゃ無いだろうか」)
嶺梧の中で、そんな考えが頭を過ぎる。
「ねぇ、パパ。如月っていう人はみんなから嫌われていたの?」
「私もあの人好きじゃなかったわ」
そんな嶺梧の考えを見通したようにエリカと橙子がそんなことを口にし、嶺梧が答える前にエリカはでも、と口を開いた。
「真実を暴くのは、罪を犯した人を苦しめる為じゃない、救う為に真実を導くんだ。隠してしまったら、潰れてしまうくらい大きな重りを背負ってしまうから。探偵は真実を曲げてはならない‥‥パパがいつも言ってることだよ?」
その言葉に、嶺梧の気持ちは決まった。
「そうだな、エリカの言う通りだ」
そして、嶺梧はゆっくりとその人物の元へと歩み寄った。
「犯人はあんただな‥‥柏木さん」
「その通りだよ」
あっさりと、柏木はその言葉‥‥自らが殺人者であることを認めた。
●
嶺梧の言葉にざわめいたのは柏木以外の探偵たちだった。
彼が犯人のはずはないと主張する声があがったが、他ならぬ柏木による自白がそれを制し、淡々と自らの犯行を語り始めた。
「如月には蜂毒に対するアレルギーがあった。僕はその現場にいたのでそれを知っていたんだ。そして、皮肉なことに僕の持病の処方薬は彼にとっては毒となりうるものだった」
しかし、使用したものはアレルゲンである薬品には違いないが確実にそれによって如月を殺害できるという保証はなく、如月が死亡したのは未必の故意によるものだったと柏木は言った。
「彼には過去に依頼人を殺され、名誉を貶められたことがあるんだ」
動機を柏木はそう説明したが、それはもっと大きな動機、娘橙子にまつわるものを隠すため、犯人と示されたときに提示するために用意していた動機だった。
「警察は覚悟の上だよ」
(「ああ、これで橙子に秘密は守られる‥‥」)
必要なことは話し終えたという雰囲気で柏木がそう穏やかに言ったときだった。
「違う、柏木さんは殺しちゃいない」
突然、そんな声が響き渡った。
聞き入っていた全員が弾かれたようにそちらを振り返れば、そこに立っていた平次郎が再び口を開く。
「俺だ。俺が犯人だ」
もともと平次郎は如月に恨みがあった。以前、親しい友人を無実の罪で貶められたことがあったのだ。しかし、それだけなら平次郎が如月を殺害しようと思うことはなかっただろう。
だが、このパーティで平次郎は柏木の殺意に気付き、彼が手を汚させるくらいなら自分が、と考えたのだという。
如月への恨みと柏木への恩義が重なっての犯行だったと平次郎は言った。
シャンパンを飲んだ後に如月が倒れたのは、平次郎が飲ませた毒の入ったカプセル薬が偶然そのとき効果を表わしたからに過ぎないと主張した。
「このまま迷宮入りになってくれりゃと思ったんだが‥‥誰かに罪を被せたら如月と同じだ」
橙子は父の、そして平次郎のそんな告白を複雑そうな表情で見つめていた。
「柏木さん、どうしてこのパーティを開いたんだ。何故、俺たちの目の前で犯罪を」
予想外の平次郎の自白を聞いた後、嶺梧はそう柏木に尋ね、それに対しても柏木は静かに答えた。
「君たちなら告発人、見届け人になってくれるだろうと期待していたからだ。そして加担者や隠蔽者にも‥‥招待状に書いてあっただろう?」
その言葉に、探偵たちの脳裏に自分たちに届けられた招待状の文面が過ぎった。
『酒は上物を、最高級の果実を絞り‥‥自慢の温室を‥‥K探偵も招き‥‥探偵に相応しい夜を‥‥』