地獄の階段坂アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 べるがー
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/10〜02/14

●本文

 アイドルイケメンヒーローが、ヒロインの腕を取って急な階段を駆け上がっていく。
 石段のそれは、スポーツマンですら『地獄の階段坂』『心臓破りの階段坂』と言って避ける名所である。
 監督は、映画のテーマを決めた時、ここで撮影しようと決めた。
「崇さん、もうダメよっ‥‥アイツらからは逃げられないんだわ!」
 悲観したヒロインが化粧をはげ落とさんばかりの滝のような汗をかきつつ、自分の腕を引っ張る男に訴える。男はようやく足を止めた。カメラが回る。
「ダメなんて諦めないで。僕が君を守るよ! 必ず!」
「崇さん‥‥ああっ、奴らが!」
 階段を駆け上がってくる黒いスーツ姿の男達。それぞれが拳銃を持っていた。
「その女を置いて行け!!」
「イヤだね」
「貴様っ‥‥この銃が見えないのか!」
 素手のヒーローと拳銃(ハジキ)の敵。明らかに優劣は見えていた。だが、そこはヒーローの見せ所。
「とぉッ、やぁッ、はああーッ!!」
「うおおおお」
「うわあああ」
 体育会系のヒーローが、空手の型で相手を蹴散らしていく。そして傍らで見ていたヒロインが。
「す・て・きっ‥‥!」

「つまらんな」
「──は?」
 髭もじゃの監督が、メインのシーンを見直してぽつりと呟いた。スタッフと出演者総出で監督に聞き返した。
「何か、もっと‥‥ただやられるだけでなしに、この黒服の男達が崇を追い詰める、とか出来ないのか?」
 その黒服姿の端役達は困っている。足場はこの上ないほどの急な石段。その上で技をかけるなど危険極まりない演技だ。主演を追い詰めるだけでなく自分諸共命の危険にさらす。
「ちっ、もっと演技に命をかけられる奴はおらんかったんか‥‥おい、工藤! お前各プロダクション回って来い」
「は? はあ?」
 工藤と呼ばれた細いADは力いっぱい聞き返した。これからプロダクションへ行って何をしろと?
「もっと使える黒服を探せ。演技に、もしくは報酬に、あるいは受け狙いで命を賭けられる奴がいい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 どこにいるんだろう、そんな役者は。
「とっとと行って来い!」

 ──黒服、大募集。仕事場所は危険な石段です。──

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa1137 ジーン(24歳・♂・狼)
 fa1308 リュアン・ナイトエッジ(21歳・♂・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2699 ゴルゴーン桐谷(23歳・♀・蛇)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2919 ハヤト(29歳・♂・狼)

●リプレイ本文

「よろしくお願いするっす」
 別名、地獄の階段坂。その恐ろしい石段にリュアン・ナイトエッジ(fa1308)の挨拶が現れる。彼で八人目。どうやら物好きな黒服役が集まったようだ。
 良かった、と監督に一存されたスタッフは半泣きだ。その肩を陽気な男、ハヤト(fa2919)がばしばし叩く。
「あはは、ちゃんと人が集まったんだ。もっと気楽に行こうネ、クドーちゃん!」

●地獄の石段
「結構高いね〜♪」
 下段からは見渡せなかった景色がよく見える。MAKOTO(fa0295)は寛げた豊満な胸を揺らし、一番上の段から見渡す。隣に佇む尾鷲由香(fa1449)は非常に満足げだ。
「本格的なアクションシーンが出来そうだな」
「ま、頭やら首やら打たねぇ限りは死ぬもんじゃねぇし。訓練だと思えばな」
 左目だけを出し髪を一纏めにしたヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が一段一段の幅を調べる。結構狭くはないか?
 ──気を引き締めてかかるか‥‥。
 急過ぎる石段を前に、動じずサポーターを取り出すジーン(fa1137)。

「シーン30!」
 スタッフの声がしんと静まり返った周囲に響き渡る。階段前に控えていた主人公とヒロインが、手を握り合い構えた。
「スタートッ!!」

「崇さん、もうダメよっ‥‥アイツらからは逃げられないんだわ!」
「ダメなんて諦めないで。僕が君を守るよ! 必ず!」
 少し離れたカメラの前で、息を弾ませながら階段を上りだす。急なためヒンズースクワットに近い。
「崇さ‥‥ああっ、奴らが!」
 ヒロインは半分ほど上った所で下を指差した。階段下に黒服姿の敵が追い詰めてきたのだ!
「ここで会ったが百年目! あたしの全てをあんたにぶつけてやるぜ!」
 尾鷲由香(fa1449)が勢いを付けて階段を駆け上る。『ひっ』とヒロインが悲鳴を上げた。庇うように立つ主人公。
 拳を避けようとすると蹴りが飛ぶ。フェイントか、と思い当たった崇は即座に腕で防御した。
 鉄パイプを持った柊ラキア(fa2847)が飛び掛る。『ふんッ』と腹に力を込め両手で受け止めた。
「この程度か?」
 ラキアの余裕に笑みは挑発か。鉄パイプを奪おうとするが今度はハヤトがナイフを取り出した。
「くっ、はああああ!」
 鉄パイプを片手で掴んだままハヤトが突き出す腕を足で蹴り上げた。放物線を描いて銀色のナイフが落ちていく。そのまま力ずくで鉄パイプを引き寄せる。手放した勢いで数段転げ落ちた。
「ああ‥‥崇さん頑張って!」
 下段から次々に襲い掛かられる主人公は激しい戦闘を繰り返している。ヒロインには為す術もなかった。
「お嬢さん、私と一緒に来てくれないかしら? 悪いようにはしないわ」
 気付けば崇と仲間を放置して、同じように黒服で髪を一つに纏めた女性がニッコリ微笑んでいる。
「あ‥‥あなた」
 野郎には興味無ぇのよ、と呟いた女はゴルゴーン桐谷(fa2699)。プロレスラーなだけあって体格はいい。下段から腕を差し伸べた。
「レディーに手荒な真似はしたくないのよ」
 だからいらっしゃいな、とエスコートするような手で招く。黒スーツなだけあってホストと見紛う誘いだった。
「あっあうううっ」
「行っちゃダメだ!」
 何で黒服集団から逃げている女が迷うのか。崇はMAKOTOの掴みかかる手を幾度となく払い落としながら吠えた。
「ふふ、その程度で守れるのか!?」
 由佳が崇の首を狙って大きく蹴りを振り被る。と同時にMAKOTOが合わせるように正拳突きを繰り出した。
「崇さんっ!!」
 ヒロインが叫ぶまでもなかった。左右同時の動きだったため体を仰け反らして避けた崇は見方同士でぶつかり合った足と腕をを持って押しのけた。
「「わっ、わわあああっ!!」」
 二人は絶叫を上げて転がり落ちていく。左右同時攻撃がマイナスになったな、と崇は息を整える。
「敵はまだいるっすよ」
 戦闘に参加しなかった黒服、いやリュアンが崇周辺の空いたスペースに入ってくる。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
 顎、鳩尾、顎と三連突きを繰り出す。じりりと後ずさったまま構えを取り直す崇に最後の追い込みで回し蹴りを食らわす。
「ぐううっ!」
 崇は黒服集団の素性を知らないので咄嗟に攻撃を避けているだけだが、リュアンの動きは武道家として綺麗な流れでもって技を繰り出されていた。
「やるっすね〜」
 足場が悪いため拳が頬にかすったが、どうやら黒帯というのも伊達ではないらしい。
「おっと。よそ見してる暇は無いぜ?」
 二人が膠着状態に陥ったところで、下段のへヴィが大きな踏み込みで近づく。と同時に横薙ぎし、横っ腹に食らった崇は石段の端に叩きつけられる。
「痛ぅぅっ」
 石段は痛いがこのままここにいたら死ぬ。撮影だが撮影でない緊張感が漂い、すぐさま立ち上がった。ジーンの空手技を受け止める。
 二、三段駆け上り、再び構え直す崇と黒服集団。
「ふぅうっ!」
 へヴィが勢いをつけた蹴りを振り上げると、すっと交わし逆に距離を狭められる。しまった、と思うまでもなく崇の正拳突きが決まった。
「おおおおおっ」
 どぉんと突き飛ばされた体はそのまま宙に浮く。落ちる、と思った瞬間に半獣化を意識した。
「来い!」
「手加減しないよっ」
 勢いよく拳を振るうハヤトの前から消える崇。一瞬で体を沈めた直後に脇腹に足を叩き付けた。方向は、もちろん下段に向かって。
「やるねぇ‥‥」
 くっくと笑いながらゴルゴーンが上段から仕掛ける。こちらを振り返った男の顎に入れ込むよう下から拳を振り上げる!
「ハッ!」
 体を回転させ、やり過ごす。ジーンが間合いを詰めていた。
「やっ!」
 バシン! と主役以外の足が交差する。ジーンが決まったかと思われた蹴りはリュアンの足とぶつかりあっていた。
「ちっ!」
 体術で相手を攻めようにも中々の切れ者。さっと腕の中に指を滑り込ませた。
「あっ? まっ、待つっす〜」
 リュアンが慌てのも無理はない。気付けば崇はリュアンを盾にしていたため、ジーンが取り出した刀剣を振るわれれば一緒に斬られるではないか。しかしショートソードの一種であるジャマダハルを仕込むなんて、主人公を殺す気か?
「とっ、とっ、あっ!」
 髪を数本切られ舞う中、リュアンは背後の崇に足払いをかけられる。問答無用で転げ落とされた。しまった仲間が、とジーンが止まった瞬間懐に崇が飛び込み、中空に投げ捨てられる。
「お嬢さんは頂くよっ」
 より上段にヒロインを避けさせると、ゴルゴーンは周囲に大分空間が出来た崇の元へ駆け下りる。
「あっ!?」
「ふふ、そんなに簡単には落ちないものだ」
 挑発したままの笑顔で、ラキアは崇の足にしがみつく。ふっふっふ、これで逃れられまい。
 が、所詮は黒帯とソロアーティスト。腕力が違う。
「ふゥん! っりゃあ!!」
 しがみつくラキアの体を放り投げる。ものの見事に不意打ちをくらったゴルゴーン諸共ラキアは落ちていった。

「ひーっ、ふーっ、はーっ、はーっ」
「崇さんっ!!」
 危うくラマーズ法になりそうだった呼吸を整えると、カメラの回る中ヒロインを両腕で抱きとめる。
「無事で良かっ、よっ‥‥」
「ごめんね、もう大丈夫だよ悪い奴らは全部落としてやったから‥‥」
 言葉途中で言葉が切れたヒロインの様子を泣いていると取った主人公崇は、力いっぱい抱きしめた。ヒーローは、ヒロインは守りきったのだ。
 ──あ、汗くさいっ‥‥。
 ヒロインの思惑など知りもせず。