小鳥よ、はばたけ!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 べるがー
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/30〜04/03

●本文

 ──その少年少女達は『病院』という籠に囚われた、小鳥達だった。

「歌、ですか?」
 司会業を主とする、お笑いタレントの島久尭(しまひさ・たかし)は持ちかけられた話にびっくり驚いた。
「ええ。チャリティーコンサートってやつですよ」
 話を持ちかけたのは、スタジオ中継を主にしない、LIVEのプロデューサーだ。尭もプロレスが好きだからよく見るが、お笑いの自分は普段はTOMIでお世話になっている。
「重病を患う子供達は、ほぼ病院の中で過ごすしかないんですよね。その子供達に贈る歌をアーティストに作ってもらい、コンサートをして、そのお金を寄付しようって話なんです」
 知名度の高いあなたにぜひ司会をして欲しいんですよ、そう言った。
「ただ子供達が可哀相だからチャリティーする、じゃ嫌なんです。子供達は病室でテレビを見ています。お笑いのあなたに歌い手とのやり取りで笑いを作って頂いて、そして歌い手にも明るい笑顔で子供達に歌を贈ってもらいたい。それがこの番組の目的なんですよ」
「ふむ‥‥」
 若い頃はお笑い漫才師として一大ブームを巻き起こした。今は、歌手だろうが俳優だろうが、どんな相手も笑わせ和ませる司会者として名を馳せている。
 そんな自分が、子供達も笑わせてあげられる事が出来たら‥‥。
「分かりました、お引き受けします」

「しかし、歌はどうされるんですか?」
「ああ、今回は歌詞が重要ですから。一曲の歌を無から起こしてもらえるよう、作曲家や作詞家の方にも声をかけさせて頂いてるんです」


 ──さあ、依頼は各プロダクションに回されました。
 ──今回集まるアーティスト仲間と共に、一曲の元気溢れる歌を作って下さい。
 ──作曲家は、曲を。作詞家は、歌詞を。バックミュージシャンの方は、実際に元気で飛び跳ねるような曲を形にして。歌い手は、歌う事で子供達に元気を分け与えて下さいね。

●今回の参加者

 fa0258 夜凪・空音(16歳・♀・蝙蝠)
 fa0474 上村 望(20歳・♂・小鳥)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa1633 アキラ(18歳・♂・蝙蝠)
 fa2105 Tosiki(16歳・♂・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2925 陽守 由良(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

「素晴らしい‥‥」
 一通りの依頼内容を聞き終えると、依頼を受けたアーティストの中から声が上がった。上村望(fa0474) 、子供番組のお兄さんを目指す青年だ。
「自分達の元気を一つの歌に乗せて多くの子供達に届ける‥‥素晴らしいです!」
 気合を入れてやらせて頂きますっと既に気合十分な迫力でプロデューサーの手を握った。
「きっと素敵な作品を創るよ」
 ね、と笑う明石丹(fa2837)に、一見ぼけらーと話を聞いていた夜凪空音(fa0258)はうん、と頷いた。
「子供達喜んでくれればいいなー」
 嶺雅(fa1514)は何故かうきうきと荷からタンバリンを取り出している。


「チャリティーね、こういうのは初めてなんだけど」
 気ィ抜かずやっていこうか、と曲作りに邪魔な革ジャンをスタジオの椅子に投げるラシア・エルミナール(fa1376)。
「哀しい曲は駄目なんだっけか」
 鍵盤に早速指を滑らせている陽守由良(fa2925)、サングラスの下から仲間の様子を伺う。
「子供達が一度聴いただけで覚えられるようなメロディがいいよな」
 マーチ? いやそれより早めにした方がノリがいいか。とショルダーキーボードのLAN接続を行いながら首を傾げるTosiki(fa2105)。
「うんうん♪ 今回のコンサートは楽しく元気に歌いましょーって事で」
「‥‥タンバリンは決定なんだな、分ーった」
 最初からタンバリンを離さない嶺雅に由良は頷く。歌手のくせに歌でなくタンバリンを極めたがる理由は不明だが、とにかく彼はタンバリンだ。
「子供達向けにボディランゲージを多くしたいですから、ワイヤレスマイクにした方がいいでしょうね」
 憧れの歌うお兄さん役に、望はイキイキとしている。
「あ‥‥そっか」
 まだ曲は未定だが、子供達も身近な楽器で演奏出来る小冊子とか作ってみるのもいいかもしれない。空音は短期間だがやってみよう、と思った。
「ロック以外なんて久しぶりだねぇ‥‥って、何してんだ?」
 ラシアが声を掛けた先では、隅っこで縮こまっている着物姿のアキラ(fa1633)がいた。
「お‥‥」
 お?
「俺の事見ないでッ!」
 眼鏡を濡らす少年は、真性ビビリだった。
「コンサートですよ?」
 丹、それを言っちゃあおしめぇだ。

●本番です!
「それでは、お名前を聞かせて頂けますか?」
 子供達に捧げるチャリティーコンサート、という事で、子供連れの家族が多いギャラリーを前に司会の島久が尋ねる。丹などは『うわあ、生の島久さんだ!』と有名な芸能人に会えた事で一般人化している。‥‥自分も十分芸能人な顔立ちなのだが。
「夜凪空音です、今日はヨロシクね♪」
 臆する事なく、舞台下の子供達に手を振る空音。笑顔に釣られる子供達。
「あの‥‥あの、あの、あっ‥‥」
 反して膝がガクガク震え、青ざめ涙を溢れさせているのはアキラだ。目が泳いでいる。
「ごめんなさい、スイマセン、おおおお俺を見ないでくくくくださ」
「アキラ、子供達が見てるぞ」
「いやあああっ!!」
 絶叫するアキラに意地の悪い笑顔を向ける由良。島久がしゃがみ込むアキラを無理やり立たせようとして諸共滑って転んでいる。誰だ、こんな所にバナナの皮置いた奴!
「アキラさん、とにかく持ち場に‥‥って逃げないで! 這わないで! 隅へ行かないで!」
 腰に島久をへばりつかせたままゴキブリの如くしゃかしゃか逃げようとするアキラ。子供達は爆笑している。
「あれ、アキラさんのギターがありませんね?」
 望が首を傾げる。この後曲に移行するので背後にセットが組まれているのだ。
「おおおお俺俺俺のギター」
「あっれー? おっかしいなぁ、ギターに足が生えて逃げたかな〜?」
 Tosikiがくっすくすーと笑ってその追究を逃れている。露骨に犯人だった。
「‥‥Tosiki、鬼だな」
「鬼だねぇ‥‥」
 嶺雅とラシアに止める親切な気配はない。
 バシン!
「あ、変貌した」
「アコギ片手にハリセンねぇ」
 ハリセンと楽器両手に逆襲に乗り出したアキラを見ても、止めない。そんな、と望が慌てた。
「Tosikiさんがいないとバックミュージックが!」
 何気に酷い。

 しん、と騒がしかった前振りが嘘のように静まり返る。
『勇気の翼‥‥Show your Brave!』
 アキラの呟きのような声と共に、ゆったりとしたイントロがTosikiと由良のキーボードから流れ出す。

   ──ホラ、気持ちが沈んだ時には 力一杯 あの青い空見上げて さあ、歌おう!
 重なり合ったアーティストの声。一番言いたい事だから、皆で伝えたい。

 スタンドマイクに唇を近づけ、アキラが目の前に見えない子供達にも語りかける。
   ──俯いてばかりじゃ何も見えないよ
 この拳は、君達を応援するものだ。
   ──大丈夫、いつも僕が側に居る 勇気を出して見上げれば、広がる世界、きみを待ってる
 そう、待ってるから。
 そっとラシアの方を見ると、軽くウインクが返る。

   ──窓の外、想い放てば 想像力だけでも、遠くまで
 短い音を鍵盤に刻みながら、Tosikiが言葉を紡ぐ。
   ──直ぐ行ける、山の向こうへ 虹を潜って、何処までも
 例えどんな困難があっても、自分が乗り越えてきたように。

   ──ひとりじゃないよ、ここにいる 皆一緒に、肩組んで
 丹の優しい優しい瞳と手拍子に、親の手を振り切って一緒にジャンプする子供達。くすっと笑いが零れた。
 今回報酬分は病院で歌を聴く子供達にと決めた。いつかこの歌を、青空の下で歌ってくれるように。

   ──温度感じて、君の近く 笑い合える、その瞬間
 派手な動きをするとショルダーが肩に食い込んだが、由良の目の前で飛んだり跳ねたりする子供達が可愛らしい。
 音が聞こえない子供には、楽しい歌詞がこの手の動きで伝わるといいと思った。

   ──数え切れないたくさんの輝くものが、そこにある
 望が目に見えない大切なものを抱え込むように、手を伸ばす。
   ──君の中の輝くもの、そこでともに輝かせよう
 病院で辛くて痛いも、頑張って乗り越えて。絶対絶対、生きている事が喜びに繋がるから。

   ──何処までも響かせてみよう、その胸に‥‥風をいっぱい吸い込んで歌い出そう!
   ──ホラ、気持ちが沈んだ時には 力一杯 あの青い空 見上げて さあ、歌おう!
 アーティストの重なり合う声は、けして最初から上手くいったわけではない。曲作り中に、口論などいくらでもあった。
 ──だけど、それが生きる事。楽しみを分かち合う事が出来るのも、仲間がいるから‥‥。
 ちらりと私生活でも仲間の嶺雅を見ると、タンバリンを物凄く幸せそうに叩いてる。ラシアは思わず噴出してしまった。

   ──強く願えるなら、誰の心にも自分だけの翼はあるの
 空音の伸びの良い声がめいっぱいの感情を込めてコンサート会場の隅々を流れる。
   ──たとえ小さくても形は悪くても、望むなら強く飛び立てる
 この歌で、誰かが楽しんでくれるといい。

   ──何処までも響かせてみよう、その胸に‥‥風をいっぱい吸い込んで歌い出そう!
   ──何処までも響かせてみよう その胸に 風をいっぱい吸い込んで あの空目指して はばたこう!

 音と声総てが止んだ瞬間、割れんばかりの拍手が迎えて彼らは依頼の成功を、知った。