ジェンダー★フリーダムアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
べるがー
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/01〜04/05
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●本文
ばっさあ、と裾に溜まると言って良いほどのドレスを捌き、アイドル楓は声を張り上げる。舞台の、いいや観客席の隅々に声が届くように。
「ああ、何という酷い話! いくらアタシがあの人に釣り合わないのだとしても、にッくき父の敵の娘などに彼を奪われるなんて‥‥!!」
愛しい恋人を奪われた哀しい恋人役。楓は役になりきって舞台用の派手なメイクのまま涙した。
「酷い、酷い、アタシも彼を愛していたのに──!」
激しく身を捩った後、高いヒールの足で地団駄を踏み‥‥
「あぎゃあッ」
転倒、した。
「楓ちゃーん、大丈夫?」
ライトを落としていた観客席の方で、幾つか自分を心配する声が上がる。今のは確実に舞台監督も含まれていた。
「へ、平気‥‥です」
無理やりドレスの中立たせた足は震えていたが、そんな事はおくびにも出さず。
「ちょ、ちょっと休憩しません‥‥か?」
そうして楓はトイレの中でも悲鳴を上げる。
「けっ、けけっ、けけけけけっ」
「本間さん、オレの怪我を前に笑わないでよ」
スタッフを談笑するマネージャーを呼び出し、楓はぶすくれたまま答えた。
「笑ってるんじゃない! け、けけっ、怪我って大丈夫なのか、楓!」
「だから、見た通り。捻挫だよ、捻挫」
マネージャー本間はドレス姿の楓に跪き、そのまま床に沈む。
「おっまえ、何て不注意な‥‥! 分かってるのか、本番は目の前だぞ!?」
生まれて初めての舞台。だからこそこんなゴテゴテのドレスを身に纏い、ケバケバしい化粧を強いられる主役でも楓は引き受けた。アイドルでなく、いずれドラマや舞台で自分の演技力で生き残りたいと思っていたから。
「あーっ、ちくしょっ! 誰かフォロー役がいてくれりゃあいいのに‥‥」
ドン、とアイドルで魅了した長く細い足で目の前の机を蹴倒す。そこへスタッフが飛び込んできた。
「楓さん、もうお弁当食べましたか!?」
「あ? オレはまだ食べてねーけど」
昼の時間を返上して二人で今後の事を相談していたんである。おかげで暑苦しいドレス姿のまま。
「よ、良かった‥‥! 主役まで倒れたらどうしようかと!」
インカムをつけたまんまのスタッフは、脚本を握りつぶして安心した。待て、今何と?
「役者の方が何人か救急車で運ばれて‥‥食中毒みたいなんです!」
──それだー!!
「臨時の新しい役者?」
楓の提案に、監督はやつれた顔を上げた。役者数名が消え、本番を目の前にし、胃を縮める事態なのだろう。‥‥反して、楓は笑顔で頷いた。
「ボクの方でちょっと声をかけてみます。まぁあくまで臨時ですけど。ですんで、ちょっと脚本を変えて頂けると助かるかな〜なんて‥‥」
「いいよいいよ、メイン役者ずっぽりいなくなっちゃったし、数日は君メインでいくしかないし」
「ありがとうございますッ!! 本間、プロダクションに電話っ!!!」
──そうして、各俳優プロダクションに依頼が回された。
〜ニューハーフサクセスストーリー『ジェンダー★フリーダム』の穴埋め役者募集っ!〜
「ジェンダー★フリーダム」は過去に辛い経験を持つニューハーフ達が、明るい未来を掴んでいく物語。
主役の楓と共に成長して下さるニューハーフさん、大募集です♪
●裏条件
足を怪我した楓くんのフォローをお願いします(内密に)
ちなみに、楓くんも男です。
●リプレイ本文
「いいの、どうせこの恋は報われないって‥‥分かってた! 所詮私はニューハーフっ」
よよっと、舞台中央で泣き崩れるカエデ。物語の最大の盛り上がりを見せる1シーンで、ニューハーフ達は一同に会していた。
「‥‥ごめん、カエデ」
苦い物を噛んだような男は、カエデの相手役の青年である。性別を越えた恋の最大の危機に、客席はしんと静まり返って行く末を見守った。
●役者登場
「演出家やプロデューサーはいないのかしらね」
女言葉に違和感のない三条院真尋(fa1081)が、客席から見えるスタッフ達を眺めている。人数が少ないせいか、例の食中毒騒ぎの為か判断し難い。
「ニューハーフさんかー‥‥難しそうな役だよね」
同じように依頼された仲間、霧島愛理(fa0269)は本物の女だ。
「シナリオはまだ貰ってないわね。大丈夫なのかしら」
こちらも板についた女言葉だが、容姿はそれを裏切っている。舞腹旨井蔵(fa0928)、ちゃんこ屋の主人も驚く大食漢の『男』である。
「スタッフ不足なら私が演出助手を手伝ってもいいわ。それなりに慣れてるの」
助かるわ、と微笑み合う『男』二人。依頼のせいで誰も女言葉をとがめない。
「天華ちゃあああんっ、このドレス着てみて下さいなっ♪」
「いや、大姐。衣装合わせの前に挨拶をだな」
「あああんっ、素敵ですわあああ」
バタバタと二つの声が背後の扉から入ってくる。レディ・クレセント(fa0072)と紅天華(fa1215)。黒のドレスを着こなすレディに無理やり着せ替えられたのか、天華が黒に蝶柄と色っぽいチャイナドレスになっている。一方は本物の男、の筈。
「ふふ‥‥ははっ、この僕が女装だなんて‥‥美し過ぎてお客さんは困ってしまうよ☆」
本物の女性を前にして断言するのは、竜之介(fa1136)。その名の通りマジもんの男である。
「他に衣装が決まってない方がいらっしゃいましたら、お見立てしますわよ?」
「えっ? うっ? ぼ、僕っすか?」
「あら、心配はご無用ですわ。わたくしが! ちゃんと! 見繕って差し上げますわ〜」
ひ、引きずられてるっす〜! とレディに連行されていく真田勇(fa1986)。本業が声優のせいか、やたら響く。
ふっ。その光景を見て笑う雪野孝(fa3196)。スーツとその強面ぶりにスタッフは遠巻きだが、内心では。
──‥‥めぇいっぱい、楽しませてもらうわよ♪
ノリノリだった。
●演技よ?
「ああっ、もう恋に疲れてしまっぅぐあ!」
本番当日。未だメインキャスト数名が病院という状態で封切した舞台でポスター通りのニューハーフは楓だけであった。その楓がずるずると足を引きずって登場した矢先、早速つんのめる。ざわっ、と闇の向こうにいる客がざわめいた。
──やばっ、セットまでまだ遠い!
客席のざわめきに一瞬頭が真っ白になったが、直後間近にスポットライトが落ちた。
カッ!
「私はジェニー!」
そこには金髪美女が佇んでいた。薔薇の飾りが上から下までびっしり付いた、玩具屋さんで売られている人形のような女の子、もとい竜之介。
「ああカエデ、また男にフラレてしまったのね? 可哀相な私のカエデ‥‥」
ぎぅ、と抱きしめられ薔薇胸に沈められる楓。固い胸板が空しかった。
「あら、仔猫ちゃん達、また飲みにいらしたの?」
ライトがもう一つ、舞台端にセッティング済みのカウンターに落ちた。
「‥‥‥‥」
きゅっ、きゅっ。黙ってグラスを磨くマスターは、雪野孝。何も言わず強面の顔で客を待つ。そのバーらしき店のカウンターに、たった今声をかけた女が白い足を晒し足を組んでいる。
「今宵はどんな恋のお話が聞けるのかしら☆」
レディ・クレセント、ウインクが必要以上にキマってる。
「こんなに可愛いカエデをフルなんて、どんな男よそれは!」
親しい間柄の竜之介、もといジェニーちゃんが瞳に星を入れて嘆くが、男だからの失恋である。ここはそんなニューハーフ客が溜まり場にしている『Bar・フリーダム』。
もちろんドレスを纏って白い足をちらつかせるレディも男。オトコ。おのこ。どうぞレディとお呼び下さいませ☆
「‥‥や、やっぱり女じゃないから恋が実らないのかしら」
腕力だけは誤魔化せない可愛いジェニーちゃんの腕の中で、カエデで懸命に台詞を言う。途端、ポイントでしか当たってなかったライトが一斉についた。
「そうっすね〜、でもカエデくん、可愛いっすから大丈夫っす!」
にこぱっと笑うチャイナ服姿の勇。小さな体に可愛らしい顔つきで虐められていたが、ニューハーフと出会い人生が変わった。ついでに友達もノーマルからニューハーフに代わった。
「分かるわ‥‥私の彼も、子供がいるから奥さんと別れられない‥‥って。私だってあの人の子供、産みたかったのよ」
海亀のように。
この前別れたばかりの愛しい彼を思い、胸元のチャイナの紐を弄ぶ真尋。
「ん。私も美しすぎるってニューハーフにも女にも恨まれちゃったし」
この胸もね、まるで本物でしょ?
愛理──いや、アイリは手鏡を弄びながら傍らの仲間に告げた。途端、ひっくり返るテーブル。
「あんった‥‥ちょおっとお顔を綺麗だからニューハーフになったなんて、いいご身分よねっ」
ぼよーん、ぼよよーん。
アイリの何倍、いや何十倍もあろうかというお肉が、目と鼻の先で揺れた。あ、お腹も太腿も揺れてる、あ、顎も。
「旨井子ちゃん、ロースハムどけて」
「誰がロースハムよぉおお!?」
どすんどすんと旨井蔵こと旨井子ちゃん(齢三十三歳)が暴れる。肥満体は気にしてないが、美人なニューハーフが嫌いなのよッ!
「これこれ、旨井子、ここでステップを踏むな。床が抜ける」
体にぴたりと沿ったチャイナドレスの天華が、ここにいる誰よりも男らしい言葉で咎める。彼女はモノホン。
「どれ、カエデが元気になるように一曲歌うか」
彼女の切なくて愛しい女心を歌い上げる姿に、カエデの泣き声が加わる。
●演技だってば
「ごめんなっ‥‥」
しんとした舞台上で、マスターがグラスを磨く音だけが響く。主役のカエデは悲痛な顔で俯き、真尋はさんざん慰めてきた後輩の恋の行く末を心配する。
「んーっと、つまり、アキラさんはカエデちゃんより例の女の子をとったって事かな?」
「んまッ、最ッ低!!」
アイリと旨井子の突っ込みに、青年はぶんぶんと首を振る。ちっ、違うんだ! と吠えた所でジェニーが金髪を逆立てて凶器を突きつける。
「私のカエデに言い寄って利用してポイするって事ね!?」
「わああっ、早まっちゃダメっす〜」
勇が間に入るもジェニーは怒り狂っている。青年に向かってそれを振り上げ、投げた。
ドスッ!
「もう男なんて信じられない!」
いや、それ以前に二人とも男じゃ、という突っ込みはここではありえない。何しろここはジェンダー★フリーダムなバーなのだから。
「違う、裏切るつもりはなかった! 彼女とも何でもない!!」
「アキラさんっ‥‥!」
誤解だと訴える青年と、ニューハーフカエデが手に手を取って立ち上がる。
音楽が流れ出し、エンディングへと向かう。誤解の解けた恋人同士の愛の語らいが始まるのか、と観客はホッとした。
んが。
「俺もニューハーフになりたかったんだ‥‥!!!!」
────────────────────────元・恋人の渾身カミングアウト。
「これから、女友達になって欲しい!」
「ほう、お仲間だったか」
そんな! と白目を剥くカエデをよそに、納得する天華。厳しい環境から集った溜まり場なだけあって、仲間には優しい。
「よろしければ貴方に‥‥あん、貴女にぴったりのドレスをお見立てしますわ」
レディが満面の笑みで『美しさは性を超えるのですわ♪』とにじり寄る。
「旨井子ちゃんよ、よろしくね、うふっ♪」
「ここにいたら本来の自分を取り戻せるんだよ、アキラちゃん」
旨井子とアイリの笑顔がBarフリーダムに新入りを呼び寄せる。背後で主役がよろめいていた。
「‥‥おかえり」
マスターはニューハーフ出身であった。暖かな空間に包まれる一同、一部を除き幸せを噛み締める。そう、一部を除いて。
「カエデ‥‥実は私、貴女の事お友達とは思えなくなってきてて‥‥」
「えぇえええジェーニーさーん!?」
「‥‥この出刃包丁‥‥柄重いっす、職人技っす」
本物っす。