持ちネタで世界を救え!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 べるがー
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 1.5万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 12/11〜12/17

●本文

「何スか、その企画は!?」

 予算管理してる筈のプロデューサーがいつまで経っても指示を出さないために、今年最後の特番が未だに何をするか決まっていない。
 役者を使うのか? タレントに喋らせるのか? 歌手を一同に集めて歌ってもらうのか? それすらまだだ。
 どのプロダクションも大物達は既に持っていかれている。ドラマだったらメイン俳優がなければ最低限の視聴率確保が難儀になる。バラエティだったら様々なプロダクションに声をかけて番組向けの役割分担が出来るキャラクターを呼ばねばならない。今年活躍した某歌手は既に年明けまでがっちり予定が詰まったと聞く。
 スタッフばかりが決まっていても、予算とプロダクションとのすり合わせで既にこの番組への不安感は高まっている。
 いい加減早く決めろ! と怒鳴りこんだ筈のスタッフは、満面の笑顔でそれを差し出したプロデューサーに、思わず指を突きつけた。

 企画書にはこう題されてあった──『ボケツッコミで世界を救う』

 番組内容はドラマである。
 感動的な、地球の危機を救っちゃうお話である。
 しかし予算はやけに低い。
 何かと思えば芸人を使えと指示してあった。

「お、お笑い芸人にドラマさせるんですか‥‥?」
 大根役者の集団になるだけでは、とスタッフの一人は危ぶんだ。プロデューサーの低迷はひょっとしたら番組の視聴率低迷まで招くつもりか?
 しかしプロデューサーには勝算があった。いわゆる誰もやらない隙間産業。
「脚本はどうするんですか? 今から先生に連絡を取って書いてもらうわけにも」
「なァに、大丈夫だよ」
 企画書出して視聴率25パーセント確保出来たかのような態度せんで下さい、スタッフは涙した。しかし彼らはプロデューサーの言葉によって、更に号泣する破目になる。
「悪役、地球を護る連中共にお笑いのボケツッコミにすんだ。会話は全部持ちネタ。あんちょこも監督もナシ! こんなの誰もやった事ないだろー」
 がっはっは、と笑うプロデューサーはひょっとして、キレたのだろうか。せめて年明けにして欲しかった。

●今回の参加者

 fa0016 エディ・マカンダル(28歳・♂・蝙蝠)
 fa0048 上月 一夜 (23歳・♂・狼)
 fa0361 白鳥沢 優雅(18歳・♂・小鳥)
 fa0376 伊集院・帝(38歳・♂・虎)
 fa0422 志羽翔流(18歳・♂・猫)
 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa2333 三条院・棟篤(18歳・♂・ハムスター)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa4120 白海龍(32歳・♂・竜)

●リプレイ本文

「くっ‥‥まさかここまで強いとはな!」
 クリスマスイルミネーションに彩られた街。その一角を派手に破壊しつくした状態で、『悪の総帥』伊集院・帝(fa0376)は思った以上のダメージを受けつつ口元で軽く笑った。
 ──さすが正義の味方、というところか。
 上月 一夜 (fa0048)も三条院・棟篤(fa2333)も既に物言わぬ骸と化している。
 日頃全く冷静さを欠かないベクサー・マカンダル(fa0824)が、相応の敬意を払うために髑髏仮面を外して見せた。格好はあくまでサンタクロースに拘っているのは、今が冬だからである。
「はぁはぁ、お、俺達は正義の味方のサンタクロース‥‥お前達には絶対負けるわけにはいかないんだっ!」
 悪の一団が今が旬の悪のサンタクロースと言うならば、正義の味方は善のサンタクロース。志羽翔流(fa0422)はトナカイ姿だったが、誰より正義感に燃え、クリスマス行事を愛している。
 まだ負傷のない怪しい衣装のサンタクロースを睨みながら、翔流は視界の中に味方を捉える。エディ・マカンダル(fa0016)も白海龍(fa4120)も起き上がる気配はなかった。
「み、みんなっ」
 泣きそうな声に、フ、と翔流は気障に笑う。
「大丈夫だ、奴らは心配ない‥‥それより逃げろ、ティタネス(fa3251)」
 そんな、と唯一の紅一点、茶色の髪の女は頭を振った。
「みんなを置いて逃げられないよっ!!」
 悲壮な声。翔流は今にも手放しそうな意識を必死に繋ぎとめた。せめて、彼女だけは──捕まらないでくれ、と。

●ブラッディ・クリスマス
「寒い、な」
 クリスマスソングも聞こえぬ半地下で、悪の総帥帝は呟いた。傍らに控えていたべクサーが、即座に突っ込む。
「冬ですから」
 その通り。
 ボスらしくふんぞり帰りたくとも寒くて出来ず、街で暴れようにも外は極寒である。
「くそっ、この寒さで何がメリークリスマスだ!」
 だぁん!
 八つ当たり気味にこたつを叩くと、何故か頭上に風呂桶が。
 ガコンッ! カラカラ‥‥カラーン。
 卓に沈んだ悪の総帥を背景に、棟篤はみかん片手に首を傾げた。
「そういえば一夜はん、どこ行かはったんやろ?」
 大丈夫か、悪の一味。

 同時刻、地上。
「うわっ、ついに降ってきたねー!」
 ティタネスが空から舞い落ちてきた雪に歓声を上げていた。
「ああ、ホワイトクリスマ」
「アハハオトメブリッコー」
 翔流の台詞をぶった切り、白海龍が言わなくて良い事を言った。すー、とティタネスの拳が上がる。
 その瞬間。一体誰が予測しえただろう? まさか凍結した路面をチャリで疾走してくる阿呆がこの世にいるなど。
 そう、いつも何気ない日常は奪われてしまうものなのである──突然の事故によって。

 ギギャギャギャギャギギィーッ!!
「きゃあああああっ!?」
 悲鳴が、上がった。

「だっ、大丈夫かティタネス!」
「こっちは大丈夫だ!」
「ああっ、ありがとう!」
 単車かと見紛うほどのスピード違反者は、よりにもよって翔流達仲間の中心に突っ込んできた。咄嗟にかわした翔流は慌てて身を起したが、ティタネスは仲間に庇われるどころか
「‥‥何か間違ってるだろ」
 何かが。
 そうか? と首を傾げるティタネスはエディを抱き上げていた。違う! それもうヒロインじゃないから!
 それにしても危ない運転を、と正義に燃える目で文句を言おうと振り返る。
「アーメン」
 牧師服を着用していたエディが転がった何かに向かって十字をきった。白海龍が棒で突いてる。待って、呼吸くらい確認してあげて!
 しかし遺体、もとい上月一夜には神の御言葉も生存確認も必要ではなかった。
「痛かった! 痛かったあああー!!」
 ばこっばこっばここここっ!
 何故か号泣しながら『メリークリスマス☆』と書かれたプラカードで翔流を殴り倒したのだから。

「素晴らしい」
 半地下から抜け出た悪の一団が地上に上がってきた時、帝は思わず感嘆した。
 目の前には厚着をした人々のサークルだった。その中心部で一夜と思われる人物が暴れている。
「素晴らしい、これぞ悪の本髄!」
「一夜はん、何や泣いてるように見え」
「加勢に行くぞ!」
「‥‥‥‥」
 ちったぁ話聞けや、帝。

「おっ、お前なぁあ!」
 砂糖に群がる蟻のように人目がある中で、翔流が叫ぶ。店頭にサンタクロース姿で立つ人形に喧嘩を売ったかと思えば手と手を取り合った睦まじい恋人達に泣き縋る。とっ捕まえようとすればボディブローを喰らってしまった。ちなみに卑怯なエディはニッコリ微笑み3メートル先の観衆と同化していた。ティタネスは交通整理をしている。ハッカイは仲間(誰にとは言わない)に殴られ昏倒していた。
「クリスマスだっつーのに暴れんな!」
「はははは馬鹿者、クリスマスなどなくなってしまえば良いのだ!!」
「何だと!?」
 この日を365日間待ち望んでいた翔流に対する暴言である。
「ふはははは、そやつは俺の配下、クリスマスを憎み破壊せんとする使者よ!」
 大法螺、と小声が聞こえたが帝はフンとスーツに包まれた腕を組む。相手を認めた翔流は息を呑んだ。
「そんなっ‥‥お前!」
「そうだ! 俺は」
「冬場にそんな格好で寒くはないのか!」
 帝の横でレスラーマスクを被った頭がふるふるふると左右に動く。
「いやぁ、やっぱ悪たるサンタは顔隠さんと。それにマント着てるんでそんな寒ないんですわ〜」
 嗚呼、ほのほのほのと笑う棟篤がその場にそぐわない格好をしていったばっかりに。
「それはともかく! 俺達はお前達をこの日面白おかしく過ごさせるつもりはない。ホワイトクリスマスをブラッディクリスマスに塗り替えてやる!」
「この場で誰より血塗られているのはお前等の仲間なような気がするがそれはともかく! そんな事をさせるわけにはいかない‥‥何故なら俺達は!」
 変ッ身!
「クリスマスの平和を守る為、赤鼻のトナカイ見参!」
「同じく! クリスマスの平和を守る為、牧師登場!」
「乙女登場!」
「白鳥登場!」
 後半は意味不明になってしまったが、牧師とはドレッドヘアに聖書という謎の宣教師姿のエディと乙女発言は紅一点のティタネスの事らしい。が、問題はソレじゃなく。
「‥‥ハッカイ」
 翔流がサンタクロースの胴体下部分ににょっきり生えた細長いものに困惑している。ティタネス姐さんが三白眼になってるから!
「フン。正義の味方気取りか? そんなもなぁ‥‥寒いだけなんだよッ!」
 死闘が、始まろうとしていた。

「ここは任せてくれ」
 一番最初に名乗りを上げたのは、牧師姿のエディだった。悪の総帥帝にタイマン勝負を挑む。
「そのような悪巧み、神がお許しになる筈がありません。必ずや貴方達に裁きの鉄槌が下される事でしょう」
 滔々と語る言葉はどこで覚えてきたものなのか。黒い肌に白い歯をキラリと輝かせながらのたまうと、
「何だ、雑魚」
「──と、彼が言っています」
 0.5秒後には翔流を押し出していた。だってほら、牧師って腕力関係ないですから。
「アラ〜ン。仲良くシマショ? サ・ア・ビ・ス・するワ〜ン」
 くいくいっ。
 白鳥を名乗り出た中途半端なサンタ姿の白海龍が、巧みな腰つきで白鳥の頭を揺らす。直後にティタネスの拳が入った。
「‥‥‥‥乙女?」
 怒りに打ち震えていたティタネスが、べクサーの呟きに振り返る。
「ど、髑髏の仮面! 怖いっ」
 翔流の肩に顔を埋める彼女はツッコミどころ満載であった。
「貴様の戦い方はふざけたものだな。お前達なぞ俺が手を下すまでもない。べクサー!」
「はいはい」
 いささか投げやりになっているのは気の抜ける戦いを見た為か。それはともかくべクサーが引っ張り出してきたものは、
「‥‥何だ?」
「えーっとね。ここのボタンを押すと」
 かち。
「ほばあっ!」
 足のついたそれはピッチングマシーンであった。説明を試みようとしたべクサーは質問をしてきた仲間の顔面に誤って撃ち込んでしまったが、
「こんな風に攻撃が出来るものです」
 冷静に説明をした。
「ふっ、何だバレーボールか」
 かち、どっこん!
 エディが顔面で受け止めた。くっきり丸く赤い痕をつけ、エディが笑う。
「大丈夫だ、当たる前に手で弾いたから!」
「当たってる! お前めっちゃ当たってるぞ!」
 仲間からブーングを食らった。
「俺は後ろで下がって見てい」
 カコーーーン!!
 さっさと背景に溶け込もうとしていた帝に天空から黄色い風呂桶が落ちた。フレームアウトは許されない。
 かち、かち、かち。
「へぶっ。おぶっ。ベクサッ」
 何故か敵と間違えられて連続攻撃を食らっている一夜。ねぇ、べクサーさん、俺普段アナタに何か恨まれる事しましたっけっ?
 たぶん運。
「おいエディ、作戦」
「あ、ど、毒蛇に噛まれた! やめろ、おい、キサマ!」
 翔流の目の前で架空の野生蛇と戦うエディ。
「おいハッカイ、作戦」
「アノオトコ? オトコナンテイッテンジャナイワヨコノ人形!!」
 翔流の目の前で気色の悪い人形と喧嘩をしている白海龍。
「‥‥‥‥」
 じーっとべクサーが自分の事を見ていた。
「お前らはこれで退治だ!」
 ハリセンでとりあえず協調性ゼロの味方を殴り、相変わらず天誅の風呂桶を脳天に受けている帝に殴りかかる。
「あ、ちなみにバレーボールを訛化した珠も詰めておりまして」
 今思い出したわ、と言いたげにべクサーがボタンを押す。
 どごんっどごんっどごんっ。べクサー待て、待っほばるああああっ。いやああああっ。
「連射もこのように可能で」
 どごごごごごっ。痛い痛い痛い止めてこれ本気で痛っあああべクサーはんべクサーはん、僕巻き込んでっああきゃあああああっ。
「ちなみに特殊攻撃というボタンがあって‥‥何か?」
 べクサーの手を止めたのはティタネスであった。
「説明だけでもう死屍累々だよ、っていうか血みどろだよ!」
「あれ。‥‥おや」
 あれでもおやでもない。ボスが鉛のボールを顔にめり込ませて倒れていた。棟篤も一夜もエディも翔流も白海龍も放射状に逃げ延びようとした感があるが、誰もが皆頭部から血を流し倒れている。
「う‥‥う。べクサー、お前はもうそのボタンを押すな」
「はぁ、すみません」
 痙攣した手で命令を下すボスに頷きつつ、参謀は首を捻る。
 ──鉛でなく鉄にした方が良かっただろうか?
「う、と、ともかくだな、ごふっ、わ、我々はクリスマスをブラッディクリスマス」
「にはもうなってますって」
 かち、ぼこんっ!
「ぬあああああ」
「あ、スミマセン」
「よ、容赦ねー‥‥」
 バームクーヘン状に取り巻いていた街の人間が、今はもう100メートルは離れた状態で見守っている。
「その危険な武器を許しておくわけにはいかない!」
 這い蹲ってる仲間を当てに出来ず、ティタネスが前に出た。危ない、と言葉をかけようと思った仲間達は溢れた血で言葉にならない。
 かち。どかかかかかっ!
「よっ、とっ、はっ!」
 びしばしびし。
「だっ」
「がっ」
「グエッ」
 ナイスレシーブで見事に鉛のバレーボールをティタネスが打ち返した。ただし全て味方の急所にブチ当てた。悪気はない。
「これならどう?」
 がちょん。
 関心したべクサーが『やめろ』という上司の言葉を無視しそのボタンを押した。
 ウンウンウンウン‥‥充填されたボールは、
「爆発物です」
 淡々とべクサー。
 逃げる観衆、骨折した箇所を抑えながら助けを求め手を伸ばす敵味方サンタクロース。しかし誰にも止められない。
「最終兵器よ‥‥これを貴女に打ち返せて?」
 べクサーが冷静な口調で何か言っている。向かい合ったティタネスは
「あたしに打ち返せないって思うのかい? なら受けてやる‥‥来いっ!」
 やはり何かが乗り移っていた。

 この日、この街では歴史的大事件のあったクリスマスとして後々まで語られる事になる。

●血の惨劇の真相は
「くっ‥‥まさかここまで強いとはな!」
 悪の総帥、帝が笑う。相対していた翔流は、お互いの仲間が口も利けない状態になったのを確認しながら笑った。
「み、みんなっ」
「大丈夫だ、奴らは心配ない‥‥それより逃げろ、ティタネス」
 ピーポー、ピーポー。ファンファンファン。
「みんなを置いて逃げられないよっ!!」
 絶叫するティタネスの声以上に、囁き声が耳に痛い。
「逃げるんだ‥‥実行犯はお前なんだから!」
 見ないよう、見ないようにしていた視界の半分くらいが既に何もない。
 既に無傷のべクサーは街を半壊させた武器をガラガラ引きずっていた。足腰が立たなくなった帝は諦めたようだ。
「まさか本当にこの辺り一帯吹っ飛ぶとも思わなかったんだー!!!」
 バレーボールを素手で打ち返したティタネスは、後悔というより『何でそんなもん打ち返せたんだヒロインなのにぃぃいい!』という気持ちでいっぱいだったという‥‥。