通販番組スタッフ急募!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 べるがー
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/23〜10/27

●本文

 可愛い。
「んんっ。このスープ、美味しい〜。えっ!? これがダイエット効果アリのラーメン!? うそぉ、こんな美味しいラーメンなら毎日食べたい!」
 その女は、紛れもなく、可愛かった。
「ええ〜まさかぁ、たったこれだけの洗剤でぇ? 絶対白くならないよぉ〜‥‥ってふわあ、ホントに真っ白になっちゃった! えっ、しかももう一本つけてくれるんだ!」
 感動する瞳はキラキラと輝いて、上気する頬に演技は感じられない。興奮に上ずる声がまた可愛らしい。
「うわあ、やっすーい!! これでたったの一万円! 舞だったら即電話だよ!」
 たとえそれがどんなに胡散臭い商品(もの)であっても。彼女が心底関心する様子を見ると、つい現物を見てみたくなるのだ。
 だから。
「イケる、イケるぞ竹内くん! 日頃旦那の財布はシメても、自分がいると判断したものにはいくらでも出す主婦に! 冷静に考えたらいらないが、でも可愛いものや心をくすぐるものにはついうっかり買ってしまうOLさんに! そして、可愛いオンナノコ大好きな男性陣に! この通販番組はウケる!!」
 番組のディレクター・家杜(いえもり)、通称ヤモリはバシバシと傍らの男を叩いた。
 初のプロデュ−ス番組に浮かれきっているヤモリとは反対に、竹内と呼ばれた男の顔は暗い。目の前で笑顔を振りまいている女の事務所社長であった。
「はぁ、まぁ‥‥」
「ん? 何だ、竹内くん。ああ、毎週やって来るゲストが大物ばかりで怯えてるのか? ははっ、ま、竹内くんの所は舞ちゃんと君の二人三脚弱小事務所だからなぁ。まァ大物芸能人の胸を借りるつもりでいたまえよ」
「‥‥‥‥」
 ──ちげーよ。
 顔にはあいまいな笑顔を浮かべつつも、竹内はハラハラと舞の動向を見守っていた。
 舞は自分が興した事務所の初めてのアイドルキャラである。学校帰りの舞を見つけた時はあまりの可愛さに絶対売れると信じてスカウトしたが、今では後悔しつつある。そんな中で声をかけられた新番組であった。
「はい、舞ちゃんOKでーす!」
 カメラ映りや衣装、背後の大道具小道具、商品の位置を確認していたスタッフが声を上げる。初めての番組出演だというのに噛むでもどもるでもない舞に笑顔が向けられる。が‥‥。
 ビシィッ!!
「いっ、痛っ‥‥ま、舞、ちゃん?」
 スタイリストが伸ばした手を思いきりはたくのは、先ほどまで笑顔全開だった舞。僅か五秒で三白眼に変わって仁王立ちしていた。
「さわんなババア」
 しんと静まり返るスタジオ、棒立ちになるスタッフ、ヤモリの向ける視線は痛かった。
「‥‥ちょっと、元気過ぎるのがたまにキズなんです」
 ──口が。

「全部で八人、か‥‥」
「‥‥すみません‥‥」
 テレビ局の喫茶店でコーヒーをすすりつつ、竹内は黙って遠い目をしたヤモリの言葉をやり過ごす。
「まァ‥‥スタッフは雇い直せばいいが」
 既にスタッフ募集の件は出されている。予定外の出費と予想外の展開にヤモリは壁でなく机に張り付いていた。
「まさかあんなキャラクターだったなんて」
「すみません‥‥」
 元気すぎるアイドルの口は予定していたスタッフ八名の進退にまで影響した。つまりばっくれたんである。
「カメラマンがいなければ撮影は出来ない‥‥コーディネーターがいなければ衣装も用意出来ない‥‥道具係がいなければ舞台セットも出来ない‥‥ADが一人もいない番組なんて聞いた事がない」
「すみません‥‥」
「何とか集まってくれないと」
「番組放送出来ませんよね、すみませ」
「一蓮托生だから」
 え、と竹内の頬が引きつる。
「新番組、潰してくれたら‥‥ふふ、ふふふふふっ」
 ヤモリが笑い、竹内は。

 ──神さま仏さまいや芸能界の神さま。どうか、どうか自分と新番組を救って下さい。

●今回の参加者

 fa0088 ハグンティ(59歳・♂・熊)
 fa0476 月舘 茨(25歳・♀・虎)
 fa0570 高森 藤吾(45歳・♂・熊)
 fa0708 重杖 狼(44歳・♂・蛇)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa1081 三条院真尋(31歳・♂・パンダ)
 fa1710 蒼風影姫(44歳・♀・アライグマ)
 fa1763 神流木 叶(15歳・♀・リス)

●リプレイ本文

●撮影準備、開始!
「このタイミングでスタッフ募集とは、色々必死なようじゃのう‥‥」
 番組公開直前で、急遽スタッフ総入れ替えを無事果たしたスタジオがばたばたと整えられていく。その様子を眺めながらのんびり呟いたのは、マイク調整に余念のない高森藤吾(fa0570)、音響担当。
「商品棚の中身は後でいい、そっち持てるか?」
「了解」
「ちょい待ち、アレ社長の竹内か? お〜い竹内!」
 重杖狼(fa0708)と蒼風影姫(fa1710)が大きな棚に手をかける中、月舘茨(fa0476)がぱっと手を離す。何でしょうかと竹内は素直にやって来た。
「なぁ、舞の好きな食べ物って何かわかるか? 好きそうな花とか飾りとかさ。ちっとはフォローになんだろ?」
 汗を拭っているのは茨だけではない。同じく狼も影姫も朝から詰めてセッティングしている。残り時間は少ないのだから。
「は? 知らん? ちっ、どこまでも使えねぇヤツ」
 ──聞こえてるわよ、茨さん。
 ハグンティ(fa0088)の指示に従い、サブカメラマンとしてこの場にいる郭蘭花(fa0917)は苦笑する。
 三十代四十代の存在感たっぷりなスタッフの中気風のいい茨の声が元気に響き渡っていたが、今のは完全にドスがきいていた。依頼人である筈の竹内がビビっている。
「スタジオ内が元気なのはいい事だな‥‥っと、疲れてるとこ悪いんだが、こっちも手伝ってくれ。なんせ手が足りんでな」
「分かった」
 くっくと笑うハグンティに呼ばれ、休んでいた狼がまたも動き出す。
「でももすもももねぇ! 今からでも遅かないから調べて来なっ」
 威勢のいい茨の声が再び響く。影姫は思わず肩を竦めた。
 ──若者は元気だな。

「ではこの商品をメインに、ですね」
 ぶっすー。とした舞を尻目に、ゲストである筈の三条院真尋(fa1081)が紙の束に印をつけていく。商品内容が押さえられた進行用カンペである。
「この通販番組を、共に協力しあい成長させ成功させていきましょうね」
 にこ、と舞に微笑みかけても、舞は。
「あかんべ‥‥」
 カメラ越しに目撃した蘭花は呆れている。もう、せっかく可愛いのに。こういう仕事は出演者とスタッフの連携が大切なのよ?
「ふふ、若気の至り、そう思えば別段不愉快でもないモンじゃよ」
 察した藤吾が笑っている。まるで悟りを開いた海千山千の老人のよう、しかし彼もまだまだ働き盛りの四十代である。
「衣装、やっぱり変えた方がいいな。もっとライトの当たりのいい、」
「さ・わ・ん・な・い・でっ! ばばあ!!」
 しーん。本日何度目の沈黙だろうか。影姫の手を振り払い、ガンを飛ばす。未だ会話の成り立たない衣装担当影姫はニコリと微笑んだ。
「お嬢ちゃん、あんまりふざけた事ばっかり言ってると絞めるよ?」
 しぃん。舞のおかげで知られざる一面を曝け出してゆくスタッフ達。

「何よ、ばばあのくせにっ! ばばあ、ばばあ、ばばあーっ!!」
「あっはっは! 確かにあたしは子持ちだー」
 スタジオ中に響き渡る罵詈雑言の数々。主に舞の口から飛び出したものだったが、時にはスタッフからも。
「ざけんじゃねえぞごるぁ!!」
 どがっ! がしゃんっ、ガラガラガラからーん‥‥『い、茨〜‥‥』。
 壁にキマった拳が罪のない周辺の荷物を転がしていく。子供じみた口の悪さに多くのスタッフが貝になる道を選ぶ中、茨は『もっと言ってみろ』と煽っていたが、たまにこうなる。そしてスタッフの中には、こんな奇特なキャラも‥‥。
「あのあの、舞さんのお身の回りのお世話を中心に色々な雑用をさせて頂きます、右の物を左に動かすのも右の物を左に動かすのも言って下さい、あっそれから私叶と言います、かなと呼んで‥‥ああうううっ」
 ぐににににとほっぺを左右に引っ張られる小さなリス、もとい神流木叶(fa1763)。絶妙な弄られキャラで絶賛身の回り世話中である。
「よく動く口ね、ひょっとしてゴムで出来てるの? ああら本当に伸びるわっ、あははははー!」
「やっ、やめてくだひゃいぃ〜」
 ここが教室なら完全にいじめられっ子といじめっ子であろうか。『いじめて』オーラを発揮している叶がいるおかげで他のスタッフは幾分気が楽である。が。
「おい‥‥アイドルで売り出すんだろ舞は。こんな絵でいいのか?」
 メインカメラを覗いていたハグンティが、その体躯をどける。レンズ越しにガラスの十代な二人を目視したスタッフは。
「生き生きしてるな」
「こんな絵を撮るのイヤ」
「番組タイトルは中学生日記か?」
 ある意味最高に輝いている舞に頷く狼、頭を押さえる蘭花、冷静に名づける影姫。

●本番でぇす!
「おー、メイクばっちしだな」
 完璧にセッティングされたスタジオに現れた舞を茨が出迎える。メイクを施した叶の両頬は真っ赤になっていた。
「ほい、チョコレート。本番前に落ち着くだろ」
 手渡された板チョコはもちろん茨が竹内を蹴飛ばして買いに生かせたものだ。若い女は甘い物が大好きな筈だが、はてさて。
「ふん。ばばあみたく太らせようっての?」
 びしり。スタジオ内に走る緊張、本番5分前!
「あたしゃ別に太ってないよ、ふがもははっ」
「どうどうどう。若いの、この業界で永い事やりたいなら裏方を敵に回さん方が良いぞ」
 舞より20センチ以上はある長身でもって威圧するハグンティと共に睨めつける狼。傍ではうんうんと蘭花が頷いている。
「えとえと、が、がんばって来て下さいねっ」
 精一杯の応援を叶が送るが、それはアッサリ無視された。がぁん。
「ううっ、舞さんにも捨てられてしまいましたっ、やはり私はどこに行っても捨てられる身っ」
「‥‥好きでいじめられてたのか」
 身を捩る叶に影姫の突っ込みが入る。

「はい、一瞬にして汚れは消え去りました」
「うわあっ」
 ──この男、笑顔が怪しいと思っていたらマジシャンだったのか。
 本番に入ったスタジオでは、もう舞の感嘆と真尋の説明しか聞こえない。ここ4日間と違い静かになったスタジオの中で笑顔を作る舞は、布をかけた水槽が一瞬の後に黒から白へと変化したのを純粋に驚いて見ている。
「真尋さん、これって本当にこの洗剤使ったの?」
 ちまっとした入れ物を手に、可愛く聞いてみる。演技続行中だが内心では『マジック使ったろ』の台詞だ。舞の本性を知っているスタッフにそれが確かに伝わる。にこ、と真尋は微笑んだ。
「もちろんよ。舞さん、貴女がやってみる?」
 にこにこ、にっこり。悪意のなさそうな顔で洗剤を持たせる。汚れきった黒い液体の中に、洗剤を投下。‥‥一秒、二秒、三秒‥‥。
 ──こっ、この洗剤全っ然きかないじゃないよおぉ!!
 流石の舞も色の全く変わらない水槽を前に顔色が変わる。スタッフ達が俄かに活気付いて動き出す。
「あらあら、舞ちゃん。これは別の洗剤よ?」
「はっ?」
 真尋がにっこりと布の下から取り出した洗剤を水槽に投下する。
 ──あっ!?
 みるみる色が薄くなり、白くなり、果ては透明と化した。あの、油すら浮いていた不気味な水槽が、である。思わず声を無くした。通販番組にあってはならない間。
『わあああっ』
 急な歓声に舞が目を見開くと、藤吾が高音質の合いの手の音を入れていた。顔の作っていなかった舞はハッとするが、蘭花が軽くウインクを寄越す。ハグンティは水槽をアップで撮っていた。
「舞さん? 随分この洗剤の威力に驚いたようね」
 真尋が舞の言葉を促す。
「あ‥‥舞、びっくりしちゃった、家へ帰ったらすぐ電話しよっと!」
「私もすっかり欲しくなってしまいましたね。こんな効果があるなら男とのカンケイもまっさらに出来るかしら?」
「ぶはっ」
 真尋の台詞に噴出す舞。思い切り、思い切り、爆笑してしまうのだった。

●裏方は出演者と共に
「ま、舞さあああんっ」
「鬱陶しい小動物!」
「あああんっ」
 ぐにぐにに〜っと番組終了と共に始まった叶と舞のやり取りを、竹内が感動して見ている。
「し、信じられません舞があんなに素直にっ!」
 言葉遣いと行動はアレだが、目が笑っている。ヤンキーもかくやという三白眼ではなかった。
「ま、あたしらにさんざん毒吐いてさっぱりしたんだろーね」
 始終ババア呼ばわりされた茨は今回の依頼で少し拳が鍛えられた気がする。
「絵も、悪くはなかった筈だ」
「そうね‥‥うん、最初よりずっとね」
 カメラマンのハグンティと蘭花。彼らは常にカメラ越しに舞を見ていた。
「ふふ、根っから悪い子というわけじゃないのね、大事にしてあげて」
 洗剤を摩り替えて見事フォローまで果たした真尋は、やっぱりにこにこと。
「口調についても‥‥そうじゃな、時間が経てば自然と落ち着いてくるモンじゃ。まぁ気長にの」
 達観した微笑みを浮かべ、竹内を元気づける藤吾。エンディングも元気の出るものに変えたつもりである。より、舞の本質に合ったアップテンポの。
「‥‥ま、片付けもしてくかな」
 後味の悪くない仕事に、影姫は使われた水槽に手をかけるのだった。