三途の箸アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
べるがー
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/28〜11/01
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●本文
明るいライトの下。スタジオのど真ん中、箸でたった一口分の『ソレ』を食べた男は一瞬の後に気を失った。
「やまてぇっ! 山手、山手ぇえええ!! 死ぬなあああああ!!!!!」
相方の男が涙をはらはらと流し、ぶっ倒れた男を抱き締めた。
──感動のワンシーン、ではない。
「あはっ、あはははははー!!」
「やだーあ、リコってば芸人殺しぃ!」
一撃必殺の『ソレ』を作った作り手アイドル達は、きゃあきゃあと笑っている。司会者は青ざめ引きつった顔のまま、ADを呼び担架で運ばせた。
──本日五回目の輸送。ここは事件現場かっ!!
「これで‥‥若手芸人36人目‥‥どうしますか、若葉さん?」
ADの一人が、笑い続けるアイドル達と運ばれてゆく芸人、震える声で番組を続ける司会者を見つめて呟く。この番組のディレクター、若葉萌子はひくりと頬を引きつらせる。
「まったくもぉっ!! 何であの子達料理の一つもマトモに作れないワケ!?」
アタシなんか親元を離れた十五の頃から作ってるわよ! と激怒する萌子にADが縮こまりながら答える。
「あの‥‥でも、あの子達の並外れた料理下手に視聴率は支えられてますから」
「‥‥悪趣味な世の中よっ、チクショー!!」
そう言いながらも3人目まで爆笑して見ていたのは自分である。企画を持ち込んだのも自分であった。
料理が壊滅的に下手なアイドルに、行き当たりばったりで料理を作らせる。食材は天下一品の品ばかり。そのどう考えても美味しくならねばならない食材で作られたゲロ不味い料理をゲストは食べる。そりゃもう命がけで。
「で、今度の‥‥ええとB.B.Bだっけ? 彼はどうだったの? 胃潰瘍? 十二支腸潰瘍?」
「いえ、胃がんです」
「いっ‥‥!?」
アイドルのクソ不味い料理を食わされたゲストは己の芸能生活を賭けて笑えるギャグでもって答えねばならない。それがゲストの仕事である。
「あ、いやそれはさすがに料理が原因ではないと思いますが」
「そう‥‥」
しかし困った。芸能界には既にこの噂は響き渡り、この番組のゲストは必ず三途の川を見て帰ると言われている。今から急に呼びかけて集まってくれる芸人がいるかどうか‥‥。
「いっそ新人に声をかけてみる、というのはどうですか? 報酬も安く済むし、その分多くのゲストを呼んで」
「えーっ‥‥来てくれるかしら。それに新人って、芸能界に入ったばかりでしょ? そんな面白い反応返してくれるかしら」
自分の進退にかかっている萌子の歯切れは悪い。しかしADは強く言い含めた。
「このままゲストなしって事になったら、自分達が犠牲になんなきゃいけないんですよっ!」
「よし、新人呼ぼう! 思いっきり呼ぼう! 死ぬ気で食ってもらおうっ!!」
即決だった。
●リプレイ本文
●準備はオーケイ?
「いやぁ〜いやぁ〜! こんな年で逝きたくないぃ!!」
陸和磨(fa0453)がTV局を訪れた時、柱にしがみ付いて泣き叫ぶ白夜涼乃(fa1734)を目撃した。スタッフがひっぺがしにかかっている。
「ああ‥‥生きている間に一度も男の人とデートする事もなく誰かに想いを告げられたりする事もなく、あんな事やこんな事をする事もなく‥‥って嫌ー!!」
誰かこの人達を止めてぇー‥‥てぇー‥‥。遠くなっていく叫び声に、和麿は首を傾げる。一体何の収録であろうか?
彼を背後をすっと通り過ぎる黒曜・ブラッグァルド(fa0038)。サングラス越しに連れ去られる涼乃を目で追う。彼女の泣き叫ぶ声がより一層心を浮き立たせた。
「さて、苦しんでいこうかねぇ‥‥♪」
食の苦しみ。ちょっと楽しみ。
「おおー」
スタジオ内に入って五秒、彩羽秀真(fa0508)はライトを浴びアイドルに見入っている。ブラウン管越しに見るよりずっと顔が小さく、エプロンが可愛い。俺って果報者? アイドルの手料理食べられるなんて、そう滅多にないぜ!
その隣では。AAA(fa1761)が、何故か顔を真っ青にして座っているのであった‥‥。
●皆で渡れば怖くない
「に、逃げちゃ駄目です、に、逃げちゃ駄目です‥‥」
今、和麿の前には白のタキシードを着たタイガーマスクがガクガクブルブル震えている。体格とその覆面からして恐らくはレスラー。
「では、ゲストの皆様をご紹介しましょう! 青コーナー、夏姫・シュトラウス(fa0761)!」
リング上で高らかに吠えるであろう虎がアイドルに怯えていた訳を、和麿だけが未だ知らない。
「今日の高級食材は、これ! 芝エビです」
司会者が銅鑼を鳴らすと同時に生のエビを指し示す。高級エビと言ったら伊勢エビを思い浮かべる和麿にはいまいちピンと来ない。
「芝エビって高いのか?」
「あ〜‥‥リコちゃん萌え〜」
駄目だ、秀真はエプロン姿の少女達を前に幸せを噛み締めている。『なぁ』、声を掛けるもAAAは盆と正月が背後からやって来て鉈で頭かち割られたみたいな顔をしているし、涼乃は『天国のおとーさんおかーさんおねーちゃん』に向かってぶつぶつ呟いている。『ええと』、夏姫は話しかける声に気付かないのか顔面蒼白で引きつった笑いを浮かべカタカタ椅子と机を揺らしているし、ブラッグァに至っては『は〜い、ギタリストのブラッグァだよ。今日は宜しく〜♪』などと陽気にアイドルを口説いている。‥‥誰ともまともに話せないのは気のせいか。
「アイドルのエビクリームコロッケっ‥‥いい!」
くぅ、と拳を握り締める秀真の前では、アイドルが山と置かれている調味料や食材の中から自分で使うものを選んでいる。瑞々しい白い腕が、エビを取った。
主役のエビ。揚げるための油。衣用の小麦粉に、卵に、パン粉に‥‥甜麺醤?
「砂糖? 酢? ‥‥日本酒??」
ここに至り、妙な食材に和麿が背もたれから背を離す。お、おいおいおいおい、クリームコロッケ使うのに何で大根持ってやがる!?
それまで沈黙を守っていた河辺野・一(fa0892)がぽつりと呟いた。
「この試練、どうすれば生還できるのか‥‥」
え、と目を点にする横で小瓶を取り出す霧生湊(fa1746)。
──胃薬?
和麿にはその用途がよく分からない。
「いっ‥‥いやぁああああああ! アタシまだ死にたくないのよぉおおおお!!」
それは、調理開始からどのくらい時間が経った頃か。エビを殻付きのまま油の中に入れスタッフが消火活動に励んでいる。
「おっ、落ち着けAAAっ!」
涙を溜めて絶叫する三十半ばの髭坊主に和麿と秀真が取り付く。
「うっ‥‥うわあああんっ、やっぱり嫌あああ!」
じゃがいもが茹でられずにミキサーに掛けられ暴発したそれがスタジオ内に飛び散り額に直撃を受けた涼乃が泣く。
「ははっ、衣の中に入るのはワインじゃなくてポン酢かい? 変わってるね」
ブラッグァがマゾヒズムに悦ぶ隣で夏姫の乾いた笑いが止まらない。
「ぬぅ、あの食材は‥‥」
湊の目の前では生クリームの変わりに味噌と紫蘇が入れられていたが湊の前にはそれが味付けなのか自棄なのか裏技なのか判別し難い。
──わざとか? わざとなのか!?
和麿の前ではすり鉢で生きたままゴリゴリとエビと金目鯛が潰れてゆく。動かなくなってゆく鰭と尻尾が猟奇的。
「まぁ待て。落ち着け。あそこに並んでいるきらびやかな光沢、そして瑞々しさ、風味、どれをとっても上質な食材ではないか」
その光沢と瑞々しさと風味がまな板の上で失われてゆく。
「噛めば噛むほど本来の味が引き出されるのではないか!?」
「‥‥」
耳の中に反響する一の声。和麿の目には、エビの飛び出た何かが引き揚げられている。
「さてでは私から頂くかな」
一時間という調理時間を負え、口火を切ったのは穏やかに笑う湊であった。しかし『いや、俺が食べる!』『いや待て俺が!』秀真と和麿が追従する。
では譲ろう、なら俺が! ではどうぞ。ハッ、と気付いた時には秀真が二人に譲られる形となっている。
「よし、後悔するなよ!」
一人目死亡。
──さらば秀者、お前の死は無駄にしないっ‥‥!
湊の目元に光る涙。そして和麿に視線が集中する。
「う‥‥あ、い、頂きます!」
二人目死亡。尊い犠牲を前に、AAAの限界値がMAXを超える。
「い‥‥いぎゃあああ食べないわよ食べないわよ私は食べな‥‥食べないって言ってんだろがぁ!!」
逃亡を図ろうとしたAAAがスタッフに拉致られる。箸を持ったアイドルが満面の笑顔でにじり寄る。
「アンタが食べなさい! それがいいわうん決まり‥‥ってやめろもががぁっ」
三人の犠牲者は髭坊主であった。
「ふふっ、それじゃあ頂きます」
もくもくと食べるブラッグァ。一口目で唇と顔色が真紫に変色した。笑顔のまま固まるその姿は死後硬直。
「いや、俺が悪いんだ、君は気にしなくて良いんだよいや本当にマジでそれではさよーならー★」
ばたり。
「いっ、いやぁ‥‥」
セットの壁に張り付く涼乃。仕事である事も忘れ、本気で怯えていた。気分はホラー映画。
ガターン!
「どんな相手も我がジャーマンスープレックスの前にひれ伏すのみ! 例え人外の料理とて例外無し!!」
夏姫がレスリングで鍛えた腕でアイドルから謎の物体X(かつてエビと呼ばれし物)を奪い取る。口に放り込み、僅か二秒。動きが停止。タイガーマスクは塩の柱となった。
「ナツキ私の代わりに死ぬなんてっ」
ごめんなさいそしてさようならあああと料理を口にする涼乃。あ、おとーさんおかーさん久しぶり‥‥。
──全員一撃で!? アイドルの料理は化け物か!
胃薬を握り締める湊。そっと手を合わせた。
「いただきまっ‥‥」
これが犯罪ではないなんて! あ、花、ばたけ、が
「‥‥‥‥」
若葉萌子の眼前で罪のない新人達が次々に死んでゆく。いや死んでない死んでない、てゆか死なないで!
握り締められる脚本、言葉を無くす司会者、カメラマンもADも番組進行を忘れる中、アイドル達が笑いさざめく。
『おっかしいなぁ〜、今日はちゃんと出来たのに』
『だよね? 旬のもの使ったし』
『あ、私ちょっと手順間違ったかも! 最初にゴボウ入れちゃった!』
めんごめんご、と謝るアイドル前に萌子は思う。──エビクリームコロッケに何で根菜類が必要なのよ!? 入れるならせめて人参にしろ!
「ん‥‥むぐ。あのー、見た目からして違うんですけど」
一は最後に固いそれを食っている。倒れるほどのものは当たらなかったが、微妙に味がなくて‥‥あ、そうか。
「鹿せんべいの味だ‥‥」
それはクリームコロッケよおぉ、と叫ぶ萌子の突っ込みは入らない。
「うん、まぁ食べ物は粗末にするなっておふくろに言われてるし、持って帰」
「ふっかぁーつ!! いやまだ逝ける、次こそは当たりだ!!」
持って帰ろうとしていた一から奪い、秀真が再び食らう。今度は頭から机に落ちた。喋る者のいなくなったスタジオ。
「勇者八名は死んでしまいました。だから味の方がどうだったのかは誰にもわかりません」
おもむろに語りだす司会者。ゲストが意識不明になっているので仕方ない。
「でも、見て下さい、この幸せそうな死に顔‥‥あなたはこんな顔で逝けますか?」
流れるテロップ、番組終了十五秒前。
「我が人生にいっぺんの悔いなーし!!」
料理というリング上で、眠っていた虎が、吠えた。