スタイリストの腕試し!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 べるがー
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/20〜11/24

●本文

「お笑い芸人の衣装合わせ、ですか?」
 AD数名が呼び出され、ディレクターに意見を聞かれている。
「そう。今売り出し中のお笑い芸人四名をスタイリストの手で変身させるっちゅう番組だ。芸能人を影で支えるスタイリストってのはどうにもわかりにくい仕事だからな、横文字職に憧れる連中にゃ興味津々だろ」
 すぱー、と吐かれる煙。
 出来れば一刻も早く次の放送番組を決める必要があった。しかし金は限られる。
「制限時間内に、見栄えも十人並みの芸人を変身させる。しかも使用可能な経費の上限額を決めておけば、衣装もヘアメイクも小道具もスタイリストのセンス次第だ。どうよ?」
「はぁ‥‥」
 問われたADは顔を見合わせながら、このオッサンの性根が見えた気がした。
「いいと、思います──お金もあまりかかりませんしね」
「ゴホッ、ゴホッ!」
 芸人で安く、声をかけるスタイリストで安く、かつ必要経費を安く‥‥大層安い番組に仕上がるだろう。


 ==スタイリストさん、大っ募集〜!!==

 普段表に出てこない裏方さんですが、今回は番組に出て頂きます。
 あなたのセンスで冴えないお笑い芸人四人をイカス大人に変えちゃって下さい!

 出演予定の芸人は次の通り。

 ・ 超 死角 ( ちょう・しかく )
 熱血青年芸人、22歳。
 大手企業に就職が決まっていたが、それを蹴ってまでお笑い界に突進。
 親は就職したと思っていた息子がTVに突如出現して激怒したという。不仲のまま。
 ネタは無駄にいい運動能力と頭脳を用いた体当たり技。
 身長180cm、体重72kg。筋肉質。
 赤茶の長髪、ロックな格好が多い。

 ・ 蜜伴 ( みつとも )
 女芸人。26歳。
 OL3年を経てからお笑い界に単独で入る。
 身近なネタに一人ボケツッコミする等身大女性の姿に女性ファンが定着。
 身長160cm、53kg。標準体型。
 会社勤めの名残か、専らスーツ着用。

 ・ 昼 行灯 ( ひる・あんどん )
 気が付けばドラマの名脇役となっていた親父芸人。45歳。
 あまり無駄口を叩かない、というより単に暗いのかもしれない親父。
 身長170cm、68kg。最近ちょっと腹が出てきた。
 なぜか着物姿でいることが多い。

 ・ ★★★★ ( スターフォー )
 年齢不詳の男芸人。
 見た目13才程度に見えるが一応成人してるらしいと専らの噂。
 身長140cm、体重不明。
 超童顔で愛らしい微笑みで女性の母性本能に訴え悩殺スマイル。
 常に見栄えを意識した半ズボン姿でリュックを背負う。
 実は性格はブラックという噂が。

 どいつもこいつもクセあり芸人、あなたのスタイリストとしての腕を見せて下さい!

 募集人数は四名(つまり一人につき二人が担当)。
 始めの四日間は町に繰り出し芸人を連れ回し、服や小物をゲットしてきて下さい。
 ラスト一日はスタジオ撮影、品評会のような事をしますのでお楽しみに。

 それぞれの芸人に合う、服や小物、ヘアメイクを施してあげて下さいね。
 特別優秀者には、何か贈られるかも?

●今回の参加者

 fa0167 ベアトリーチェ(26歳・♀・獅子)
 fa0476 月舘 茨(25歳・♀・虎)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0856 実夏(24歳・♂・ハムスター)
 fa1511 ルーファス=アレクセイ(20歳・♂・狐)
 fa1537 巴星(25歳・♀・蛇)
 fa1691 伊奈汐人(15歳・♂・一角獣)
 fa1774 味鋺味美(26歳・♀・蛇)

●リプレイ本文

●面通し
「‥‥お待たせ致した」
 ベアトリーチェ(fa0167)と湯ノ花ゆくる(fa0640)の前に現れたのは、四十も半ばと見える昼行灯。二時間ドラマなどでよく無口な刑事役や検事役で出てくる親父だ。
 ──あら。本当に無口で渋い役通りの人なのね。
 ちらっと確認するベアトリーチェの横で、コチコチになったゆくるが
「‥‥アノッ、、ゆくる‥‥センスゼロの素人ですけど‥‥一生懸命‥‥体を張って‥‥頑張りますッ!」
 真っ赤になって頭を下げている。うむ、と頷いた。
「あ、申し訳ありませんお待たせしました」
 次に入ってきたのは若手女性コメディアンの蜜伴。窓からぼーっと空を眺めていた伊奈汐人(fa1691)が、くるりと振り返る。つい先ほどまで時間潰しにゆくるをからかっていた味鋺味美(fa1774)もすっくと立ち上がった。
「蜜伴さんを担当する事になったわ。どうぞよろしく」
 年齢が近いせいか、すぐに穏やかな空気になる。今回組む相手として最高だ。
「あれ? もうみんな集まってたんだ。ごめんね?」
 そっとドアを開けたのは、膝小僧の眩しい★★★★。彼を待っていた月舘茨(fa0476)が、内心『本当にチビっこいねぇ』と呆れる。これが二十歳を越えてるという噂が本当だとしたら化け物だ。
「スタイリストの巴星(fa1537)と申します」
 その間に巴星が穏やかに微笑みかける。何故か少年(にしか見えない)★★★★は頬を赤らめた。
 彼らの挨拶を最後まで見守っていた実夏(fa0856)は、怪訝そうにきょろきょろとドアから廊下を覗いている。どうしたの、と室内の仲間に聞かれ、首を傾げて見せた。
「おっかしいなぁ、俺と組んでくれる人来ぇへんねんけど」
「遅刻かなぁ?」
 ★★★★が可愛らしく尋ねている。その向こうで茨が妙な顔をしていた。
「ん〜‥‥ちょい探してみ」
 るわ、と言おうとしたまさにその瞬間。
「おっ待たせ俺の子猫ちゃあああん」
「うおわあっ!!」
 外に出ようとした瞬間に固くて黒い何かに抱きしめられ、実夏が悲鳴を上げる。かなり必死。
「ん? ‥‥あれ? 胸がない?」
 室内の何人かが噴出した。実夏がごつい筋肉の中で引きつる。
「ちょお待て、ほんま待ってくれ! 何か勘違いしてへんか!? 俺は男や!!」
「あ──何だ残念」
 デカデカと『残念』と書いている顔を見て再び引きつったのは、『これを俺一人で相手せなあかんのか』だった。今回の依頼、欠席一名アリ。

●町へ繰り出せヤツらを変えろ!
「あら‥‥本当に少ないのね」
 番組スタッフからスタイリスト費用としての封筒を渡された彼女達は、対象者と仲間と共に町へ繰り出している。店に入る前にと金額を確認した巴星はちょっと困った顔をする。
「そんなに少ないのかい?」
 どれ、と封筒を覗き込む茨。足元で可愛らしく『僕にも見せてー』と★★★★が背伸びをしていた。
「メイク道具はわたくしのものを使うから良しとして、全部衣装に回すべきね」
「僕、子供だからお化粧いらないよぉ」
 おまえさんね、と腰に当てて溜め息をつく茨を横に、巴星は屈みこむ。
「あら、貴方‥‥見た目はお若いのに」
 ずさーっ、と。笑顔満面だった少年が顔を怒らせて飛び退る。メイクアーティストを舐めてはいけない、何しろ肌年齢など一発なのだ。

「芸人をサポートするマネージャーとしては腕の見せ所かしらね」
 一方、昼行灯を連れたベアトリーチェは少しの気合を入れて和服小物が揃っている店へと足を運んでいる。普段から着物を着慣れているのだし、名脇役と言われるだけあり存在感がある。それなら年齢から来る渋みが滲み出た、古きよき下町のいぶし銀のような親父を演出してみたい。
「紺の着流しに、白の法被なんてどうかしら? ゆったりと着れば最近気になってらっしゃるお腹も気にならない筈よ」
「‥‥」
 ただ一言も喋らず、昼行灯は頷く。傍らでドキドキしながら歩いていたゆくるが、さっと店の扉に手をかけた。
「‥‥」
 やはり何も言わず頷くだけ。昼行灯の半分も生きてないゆくるは一生懸命に話しかける。
「こ、ここ、最近出来たばっかりの‥‥知る人ぞ知る‥‥裏スポットなんですよ〜」
「‥‥」
 親父はやはり黙ったまま。ベアトリーチェが小物を見ている間も、ゆくるは反応のない親父に必死。

「これ? ‥‥私今まで着た事ないわ」
 蜜伴が困惑した声を上げているのは、OLや綺麗に年齢を重ねた女性が通う『大人の女性向け』の服飾店。汐人に薦められたロングスカートと小花模様のブラウスを手に、ちょっと困っている。
「それと、このマフラー‥‥流行色だそうです」
「ちょっと待って、汐人さん。ここのお店は高いから無理だわ。もう少し安いところにしましょう。蜜伴さん、あの店なんてどうかしら?」
 汐人が参考にしたファッション雑誌は少し高い。味美は並ぶ店の看板を眺め、幾つか指さしていく。聞いた限りでは平均女性以上の関心は持っている。ただ、今のスーツでは少し固い印象を与えるから、今回はぜひ『自然な大人らしさ』をいってみたい。
「ファー付のカーディガンにプリーツスカート、ロングブーツなんてどうかしら」
 入った店の棚から次々に直感で選ぶ。汐人が女性客の多い店内でもナチュラルにいるのは、やはりモデルをやっているだけのスタイルとマスクがあるからか。本人はちょっと緊張気味であるが。
 ──あ。
 ふと思い出す。
「蜜伴さん、肌ちゃんとケアしてる?」
 実はすんごい荒れている。コメディアンに時間の余裕はあまりないのだ。

 その頃超死角と実夏がどこにいたか、というと。
「ここはやっぱり大人の男の魅力ちゅうか色気やな‥‥うん、死角さん俺なんか羨ましくなる程えぇ体格しとるし、一度は大手企業に就職が決まったくらいの頭脳派でもあるんや。これなんか似合うと思うで」
 といって数ある店の中から選んだのは、スーツ洋品店。女性みたいにメイクには金を使う必要はないし、ここでスーツ一式揃えてしまおう。
「死角さん、服着たらこの眼鏡かけてな。腕時計‥‥安物でもシンプルに品の良いものならいけるよな」
 と出てくるまで待つも、一行に出てくる気配はない。不審に思い試着室を覗くと。
 ──そこには、燃え尽きたボクサーがいた。
「いや、そんな事言ってる場合やなくて! ど、どうしたんや死角さん」
 姿見の前でだらしなくスーツを着た死角が膝を抱えて座り込んでいた。見ているだけで鬱陶しい。
「うう‥‥俺さあ、せっかく就職した会社辞めてさあ」
「‥‥‥‥」
「まだ親父とお袋怒っててさあ、田舎に帰るたんびに『出てけ〜!』って」
「‥‥‥‥」
「スーツは‥‥スーツは嫌な事を思い出させる魔の服なんだあああ」
 魔の服、ときたか。小物として用意した眼鏡と腕時計を両手に、休んだ人に思いを馳せる実夏であった。

「何で俺が小悪魔なんだよ」
「何言ってんだい、お前さんにぴったりだろ。ほれ、リボンタイはあたし特製シルバーアクセもあるからね」
「イメージが壊れんじゃねぇか、触んじゃねぇよクソババア!」
「本番でその服着てそれ言ってごらん、ブラックさと外面の可愛らしさでほーら子悪魔の完成だよ」
「ふっざけんじゃねぇぞゴラァ!」
「はいはい──っと、今更かもしんないけどね、栄養あるもん食べて大きくなりな」
「‥‥‥‥‥‥‥‥餌付けしてんじゃねーくそったれ」

「あっ、アノッ‥‥こここれっ‥‥使って下さい!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥うむ」
 ゆくるの手によって差し出された『それ』には、さすがにベアトリーチェが引きつる。
 ──刀まで差して紺地と白の法被で決めたいかつい親父にそれはちょっとないんじゃないかしら、ゆくる。

「うっ、うわあうわあうわあ、ちょ、ちょっとイメチェンし過ぎじゃない!? 私パーマとかウェーブって当てた事なかったんだけどっ」
 と言ってどもっているのは、ロングブーツを最終的にどれにするか悩んでいる蜜伴。腰掛けた彼女に、汐人が最後にナチュラルウェーブのチェックをしている。僅か千五百円という安さでヘアメイクしてくれた美容師に、軽く礼を言う。
「うん‥‥普段と違った姿でカメラの前に立つのは緊張するかもしれませんが、とてもお似合いですよ」
「えー‥‥」
「そうそう、このお店安かったし、これからもこういう女性らしい格好もした方がいいわ。ん、こんなものかしら? メイクの方も色これだけだったから、忘れないわよね?」

「ううっ、俺夢諦められねぇ、だからテレビにいっぱい出てそんでっ」
「うんうん、わかったで、ようわかった」
 ざくっ。
「お袋も親父も、人事部の部長も受付のちょと可愛いかった姉ちゃんも納得してくれるよな!?」
「うんうん、きっとこの番組で納得してくれるやろ思うで?」
 じゃきじゃきじゃき、ばささっ。
「‥‥こんなもんやな?」
 ふう、とハサミを机に置くと、自分が使っているファンデを取り出す。
「眉切ったしさっぱりしたなー‥‥って動くな動くな死角っ! 刺す刺す瞼っ!」
「決めたぜ、この報酬で田舎へ一度顔出すぜ!」
「わかったからその格好のまま外行くなあああ」

●番組にて
「ふわァ〜‥‥蜜伴さん、変わりましたね!」
 司会者がスタジオ中央に立ったくるりんと毛先がカールした茶髪女性を一回転させる。いつもはぴりりとまるで勤務中の如き厳しさが漂っていたが、明るい色合いのプリーツスカートが膝丈で可愛らしい。
「えへへ‥‥汐人さん、味美さんありがとう」
 同じスタジオで佇む二人に笑って手を振る。メイクのせいか、ふわりとした笑顔がよく似合った。
「えっと、次はショタの心を掴んで引き離さない★★★★くん、どうぞっ!」
 ちゃりん、ちゃりん、ちゃりーん。
 チェーンが揺れてぶつかる音と共に、微妙に不機嫌そうな男の子が現れる。番組直前までやり合っていた茨が手を振ると、べえっと勢い良く下を出し、ここがスタジオだという事も忘れ親指を立てて下に落とす。
「‥‥えーっと、★★★★クン?」
 しーん、と静まったスタジオを取り繕うように司会者が口を出そうとする前に、スタジオのスタッフ観客関係なく悲鳴が上がる。それはとっても甲高く、女性中心(中には男もいたが)の叫び声。
「かっ、可愛い〜!!」
 白い手足が黒の衣服から覗き、ふわふわのもこもこファーに包まれた細い首。不機嫌そうな顔なのに何故かショタ魂に火をつける。
「ええっと、では超死角くんっ!」
「どうも! どうも! どうもーっ!!」
 ──あっ、阿呆、何でそんなスーツ姿でインテリ眼鏡で笑顔全開身振り手振りで出てくんねーん!
 丸四日振り回された疲労でげっそりとスタジオの壁にもたれる実夏。キランと白い歯を見せて超死角が笑う。
 ──え、何や、い、嫌な予感が──ってまたかあああ。
 初日と同じように今度はメインカメラサブカメラ全てが見守る中、飛びつかれた。彼の両親は芸人になる事は許しても別の意味で彼を許さなくなるのではと妙な心配をしてしまった。
「で、でででは最後は昼行灯さんですね! どうぞーっ!!」
 カラ、ガラガラガラガラガラ。
「──え?」
 司会者は自分の見たものが信じられず、目をこする。カメラマンも思わずアップで撮影する。
 とんとんとことんとことんとん。
 軽やかな太鼓が少女の持つ手の中で響く。ゆくるはゆっくりと自分を運ぶ台車を押す昼行灯を、見上げた。
「ちゃん」
 ちゃん、と可愛らしく呟いた少女が乗るのは、銀幕で見たあの有名な台詞では。そして。
 ちゃきーん。
 紺地の着流しを着た男が、抜刀する。構えたために開いた足の間からは緋文字『漢一匹』と書かれた褌が見えた。
 カクーン、と顎を外す目撃者達の間で、刀を構えたまま止まった昼行灯のチョンマゲから、銀玉が発砲される。ベアトリーチェが遠い目をした。
「‥‥えっと、武士は食わねど爪楊枝、です」
 審査員である観客一同、総立ち。ここまで時代劇の似合う(ちょっと間違えてるが)印象の強い侍(にしてはツッコミどころもあるが)後にも先にも一人だった。
 ──いぶし銀には程遠くなっちゃたわねぇ‥‥。